原作知識がほとんど役に立たないんですけど……   作:10年待ちました

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驚くほど聞いたことのない専門用語

 ディストピアというのは、管理社会故の閉塞感がメインだったはずだ。栄養の補給を果たすことだけに重点を置かれた食事や、未来を語ることを禁じて自らの役割を全うする歯車となる人員。決して、単純にクソみたいな労働時間や相次ぐ会議で自由時間が消し飛ぶという意味ではない。

 

 サイモンが煉国に追放されたせいで、あいつが抱えていた重要プロジェクトの大半が俺に回ってきた。ルキウスもできないことはないが、あいつは政治と戦闘が本分だ。最近は、地上を襲撃してウィルオーを簒奪するのに忙しい。天使の連中や亡者共を使わなくとも、単独で全てを滅ぼせる怪物だ。現行の地上勢力であればフロレントを抜くまでもなく、共通で支給されている剣を使うだけでも十分に強い。……たまに、俺もこの襲撃──天罰に駆り出されるときがある。というのも、サイモンの遺産と呼称するような兵装がちょくちょく戦場に現れるのだ。

 

 俺はディオーネを使わなくとも、転移で地上に姿を現せる。おかげで偵察の役割を任されることもあり、デスクワーク一辺倒にならずに済んでいるが。逆説、地上の天気がちょっとわかりにくかったりする。今回の場合は気温だな。脚は黒のタイツで覆っているが、肩を出したパーカー付きワンピースドレスは普通に寒い。アームカバーは、髪色と同じで黒と灰色のボーダー柄だ。天獄だと髪を切らないので、何条にも纏めた髪がタコ足みたいに風になびいている。

 そういえば、アリエスも似たような感じだったな。タイツじゃなくてハイソックスだったり、髪もブロンドになってたりと相違点はあったけど。

 

 さて、仕事の話だが。

 

「……今のところ、特に強そうではないね」

 

 荷電粒子加速型のアサルトライフルやスナイパーライフルといった、明らかにウチ(天獄)の技術を転用して作っただろう兵器を撃たれてこそいるが、この程度なら脅威にならない。自動で展開される迎撃術式で撃ち落とせる。動きからして精鋭といっても差し支えないくらいだろうが、こればかりは文明レベルの差だ。

 よって、本命は別。超高密度のウィルオー反応を発しながら構築されていく何かだ。

 まあ、俺であれば見ただけで見当がつく。そもそも、見覚えのある構築パターンだ。

 

「サイモンの槍をダウングレードしたのか。一撃のみの即時術式。疑似ミストルテインの……粒子凝集パターンからして三型だね」

 

 サイモンの扱う術式魔槍、ミストルテイン。あれの性能を凄まじく低下させることで、人間にも扱えるようにしたらしい。今回の場合は投擲用。

 ……訂正。()()、人間にも扱えるように、だ。ウィルオーの意味信号が一気に欠損し始めている。要は、腕が粒子となって消えていく状態。

 

「仲間の仇だ……っ!」

 

 そんな風に憎しみを込めて睨みつけてくる咎人を見ていると、フードの前ポケットに手を入れたまま房立ちしているのが申し訳なくなってくる。チョコミントみたいな色の前ポケット、全体的に黒のイメージの中でワンポイントになって好きなんだよな。そんなことを考えつつ、ウィルオードライブに干渉。

 

「キミたちの使うウィルオードライブは、予め登録された設計図を元に武器を生成する。付け加えるなら開発初期段階と違って、現行のものは電磁反発力と非接触通信であるウィルオー通信の応用で、ドライブの浮遊と追従が行えるわけだけど」

 

 ここまで差があると、優越感とかじゃなくてただの作業にしかならない。

 

「ウィルオードライブは、高密度接触通信が可能な疑似神経とも形容できる。ときに、神経をノコギリで削られる経験はしたことは?」

 

 相手の有する粒子場に接続。神経と通信の伝達構造を壊滅的に破綻させると、面白い具合に絶叫を上げつつ脂汗だの涙だのといった液体を垂れ流していた。

 術式の構築は停止。……人間のスケールで使えるギリギリに調整しているだけあって、中途半端に構築したものが霧散すればどうなるかはお察しだ。過ぎた力は身を滅ぼす。

 

「……それじゃ、お疲れ様」

 

 転移を使うまでもないと、荊で距離を取る。数秒後、視界が青い粒子に染まった。制御を手放された力は拡散し、この場所に残ったのはクレーターだけだ。

 

「術式関連は、人間じゃ扱えないって……いや、待って。そういうこと?」

 

 サイモンの言っていた闘争だか変革の試練だかは、いわば最適化だろう。改めて咎人の体を解析してみたが、ウィルオーの使用を繰り返すたびに受容器官や残留濃度が強化されるように設計されている。闘争を繰り返し、生き延びた人間ほど生物的に強くなるわけだ。そうして戦い続ければ、理論上いつかは術式の使用にすら耐えうる咎人が出現する。さっきのような疑似ミストルテインをノーリスクで撃てるだけでも、ワルキューレたちのような高位の天使でない限りは倒せるだろうし。とはいえ高位ワルキューレの"エルダー"連中だとか俺やルキウスを相手にするには不足にもほどがあるが。トップ層は、事象改変ができて最低ラインってところだ。最終目標はそこだな。天獄へ侵攻し、至高存在の復活を防ぐ。あるいは完成した神を殺す。

 

 ついでに古くからあったPTを見て回ったら、人工アブダクターが完成間近だった。サイモンが持って行った最新技術詰め合わせセットをちゃんと活かしているようで、最初の機体ということもあって部品も高精度のものが使用されている飛び切りのハイエンドだ。ホウライPTが作っていた赤色──レッドレイジしか見れていないが、荷電粒子砲とかの技術実証機として青色もあるらしい。確か、原初の三機って呼ばれるやつの一つだ。……原作でレッドレイジ以外は出てこなかったけど。

 

 地上の人間はテロメアの限界やウィルオー過負荷によって、西暦から遥かに経っても肉体の限界を克服できていないらしい。こっちは上層部の一握り──要はルキウスと俺、その他数名に対して実用化できている。じゃあ、権力を握って永遠に美味しい思いが出来ているかと問われれば否だ。むしろ、死なないからと長期プロジェクトをいくつも背負って労働している。

 

 こうしてとてつもなく長生きして分かったが、気楽でいなきゃどうしようもなかったりする。なにせ時間は事実上無限に存在するから、適度に息抜きしないと無駄な努力を延々と継続する可能性を否定しきれない。そういうリスクを回避するためにも、心の余裕が重要になってくる。

 そもそも、娯楽もなにもあったものじゃない環境だ。下界は誘惑や欲望に満ちた場所であり、堕落を許してはならない。至高存在に対するスタンスとは違って、この思想は天獄の者に共通している。俺の服装だけは特例で認めさせたが、その対価にルキウスから追加で仕事を押し付けられたりした。それに堕天の境界線上にいるだのなんだのと噂されている状態だ。

 

 そんなわけで、無味の食料を食べつつブラック労働してきたわけだが。前述の選民思想が圧倒的多数を占める中、無謀にも博愛主義を公言して迫害される馬鹿が定期的に現れる。最近だと、地上のPT歴で10万と2000年に達するちょっと前だな。なんでこう……ひっそりと活動できないのか。公権力と正面切って対立されると、フォローのしようがなくて困る。

 チェーザレって部下もその類だ。妻ともども地上への弾圧をよしとせずにいて、当然の如く迫害されていた。そのうち堕天しそう。

 弾圧も、こっちの目的である至高存在──神の再現のために人的含む資源が必要だからしているのであって。そういう思惑を知らなければ、なんか天空に住んでいるから態度も高慢になったくらいの認識かもしれない。この地球に転移してきたのも昔の話になるし。

 そんなこんなで時は流れ、地上では10万と2002年。

 

「……それで、ワルキューレ部隊を連れて地上に?」

 

「おそらくは、サイモンの遺産だ。それも、あれとの直接的接触を可能とする。故に、確実な破壊が必要だ」

 

 そんなことをルキウスから要請され、ニライカナイPTというところに行くことになったのだが……到着した時には建造物がほとんど消滅していた。

 思い出した。"大消失"ってやつだ。今まで、原作に全く存在しない出来事が多すぎて忘却の彼方にあったが。ようやくゲームの知識を活かせることが……なんか羽飾りいっぱいのやつ(アーベル)が唯一の生き残りってことしかしらないな。

 それと、扉から出てきた煉国製アブダクター、ペルタトゥルム。とはいえ、こっちは空を飛べる。ゲームみたいに吸い込みから鎖が突進してくるコンボは無効化できるわけで。

 

「天罰実行。ワルキューレ部隊、行動を開始」

 

 号令と共に、白のローブにフードを被った少女たちがディオーネから降りていった。




■術式
設定資料集で『即時術式「疑似ミストルテイン三型」』という単語で登場。本作では、天獄勢力のみが使える高度なウィルオー技術として扱っている。魔法や妖術みたいなもの。

■変革
原作でちょくちょく出てきているけど詳細は全く分からない。
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