【本編完結】マチュを拾った転生者のお話   作:アスラ

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筆が乗ったので連日投稿です。


閑話 マチュがクラバに出場した後のお話

 カネバン有限公司の社長席にてハロを愛でていたアンキーの私用スマホに1件のメールが届く。差出人を確認すると、イズマ・コロニーにおいてジャンク屋を一手に統括している、いわゆる『親会社』からだった。

 アンキーの顔が分かりやすく歪む。カネバン有限公司への連絡なら社用アドレスに届くはずだが、わざわざ社長であるアンキー宛に送っている時点で面倒事の匂いがプンプンするのだ。

 

 このまま見なかったことにしてメールを削除したい欲に駆られるが、そんな真似をすればもっと面倒になることは確実。アンキーは覚悟を決め、メールを開封する。

 そこには、たった一文のみ書かれていた。

 

『PM22:00。Barブルーコスモスに来られたし』

 

(なんだいこりゃ……?)

 

 文面から推測しようにも、時刻と場所を指定されているだけ。

 これだけでは何者かが自分との面会を希望していることしか分からない。

 しかし、その何者が只者ではないことは理解できた。

 指定されたBarブルーコスモスとは、イズマ・コロニー有数の会員制高級バーだ。客はみな上流階級かそれに準ずる立場の人間で、間違っても難民街に拠点を構えるジャンク屋が行くような店ではない。

 もちろん、アンキーは利用したこともないし、一生縁がない店だと思っていた。

 ちなみに余談だが、このBarブルーコスモスは親会社が出資している店でもある。

 

 チラリと時計を確認する。貴重な一張羅に着替え、タクシーで向かえばギリギリ間に合う時間だ。

 メールの意図を推測する暇はない。タクシー代は痛いが、先日勝ったクラバの賞金があるのでギリギリ許容できる。

 アンキーは右腕であるナブに出かける旨を伝え、会社を出て大通りへと向かう。

 すぐにタクシーを捕まえられれば良いが、ここはネノクニ。よっぽど運が良くない限り、アプリで呼び出した方が何倍も早い。

 早速タクシーを呼び出そうとアプリを起動し……キキィ、とタクシーが()()()空車状態でアンキーの前に停車した。

 あからさまな事態に、思わず眉間に皺が寄る。ここで純粋に運が良かったと考えるほど、彼女は楽観的ではなかった。

 しかし、今すぐ乗らなければ指定された時間に間に合わないのは確実。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 アンキーは覚悟を決め、タクシーへと乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 エレベーターのドアが開き、Barブルーコスモスへと続く扉が目に入る。ワンフロアを丸々ぶち抜いている関係上、店へと続く廊下とエレベーターが直結していることは自然なことだった。

 ちなみに、ここまで来るのに利用したタクシー代は払っていない。『すでにお支払いいただいております』と運転手に断られたからだ。

 ネノクニからは結構な距離で、普段なら絶対に見ない金額を支払わず済んだことに少々ほっとしたが、それ以上にここまでお膳立てしてくれる相手に恐怖を覚えてしまう。

 しかし、今ここに至って会わないという選択肢はない。

 再度覚悟を決め、アンキーは扉へと歩を進める。

 扉の前には屈強なバウンサー2名が仁王立ちしていた。通常ならば、会員証か招待状を見せなければ通ることは許されず、強行突破しようものなら()()()お帰り願われることだろう。

 もちろん、アンキーは会員証も招待状も持ち合わせていない。強いて言うならばあのメールこそが招待状かもしれないが、馬鹿正直にメールを突き出すような真似は彼女のプライドが許さなかった。

 しかし、それ以外にバウンサーに資格を示す方法は思いつかない。

 諦めてスマホを取り出そうとしてーーーその前に、バウンサー達が恭しく頭を下げ左右に分かれた。続けて、扉が自動的に開く。

 ここまで店に()()させる相手は何者なのか……。

 背筋に冷たいものを感じながら、アンキーは入店を果たす。

 店内はシャンデリアと高級家具に彩られた、まさに世間一般がイメージする『高級バー』そのものだった。BGMはスピーカーなどという無粋なものからではなく、専属のジャズ奏者達が生演奏している。

 このテーブルひとつでウチの会社は1年持つな……と無粋な考えを精神安定剤としながら、アンキーはカウンターに腰掛ける。

 そして、マスターにお気に入りの酒を注文しつつ店内を見渡した。初老の男性や女連れの若い男、恰幅のいい紳士、品がある老夫婦。バリエーション豊かだが、誰もが店に合う品性と格を持ち合わせている。

 やはり自分は場違いだな、と自嘲する。仮にこの店に見合う地位と金を得ても、二度と利用することはあるまい。

 若干憂鬱になりながら、店に備え付けられた時計を確認する。現在の時刻はPM21:55。指定された時間まではあと5分だ。

 予想通りなら、メールの送り主は間違いなく客の中にいる。タクシーを用意し、店に話を付けるほど手間をかけてまで嘘をつくとは到底考えられない。ならば、確実に時間に合わせて接触を図るはず。

 時間ちょうどに入店するやつがいれば分かりやすいのだがな、と少し口角を上げながら、アンキーは一切気を抜かず周囲を警戒する。

 気休めだが、いち早く送り主を発見すればそれだけ早く覚悟を決めることができる。

 誰だ、誰が私に接触を図ってくる?

 あくまで平静を装いながら、客へと注意を向ける。

 

 ---そして5分が経ち、約束の時間がやってきた。

 誰も、アンキーの元へやってくることはなかった。出入り口の扉も開くことはなかった。

 

 まさか、本当に悪戯だったのか?

 

 まさかの事態に唖然としながらも、気を取り直す為に酒を飲み干す。

 仕方がない。ここまで手の込んだ悪戯に付き合わされた不運に思うところはあるが、旨い酒を飲めただけでもヨシとしよう。

 アンキーはグラスをカウンターテーブルに置きーーー。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!!??」

 

 自身に一切気づかせずに真横に現れた長身の男性に、アンキーは驚愕した。思わず腰を浮かせそうになるが、気合と意地で尻を椅子と接着させる。

 そして、すぐさま男の顔をまともに認識できるように気を落ち着かせ……男の正体に再度驚愕した。

 同時に納得もした。確かにこの男ならば、今までの配慮に説明が付く。

 

「まさか、アンタがアタシに会いたがっているとはね」

「………………」

 

 震える手で酒を飲むアンキーを尻目に、男は無言でマスターへと指を立てる。

 それを受け、マスターは手慣れた手つきでカクテルを作り始めた。

 

「こうして面と向かい合うのは初めてだけど、話はいろいろ聞いてるし、姿形も知っている」

「………………」

 

 僅かに震える手を抑えながら、アンキーは男に向き直る。

 

「お会いできて光栄だよ。『不死男(アンデッドマン)』」

 

 『不死男(アンデッドマン)』---イザナ・ユズリハと相対した。

 

 

 

 

 

 

 『不死男(アンデッドマン)』。

 それはジャンク屋において伝説と化した男の二つ名。

 あらゆる危険宙域に赴き、無傷で帰還する恐れ知らずを称える呼び名。

 チームを結成せず、たったひとりでジャンク屋の頂点に立った男に対する尊敬と畏怖を込めた忌み名。

 イザナ・ユズリハの特性を表す、たった一つの称号だ。

 

「実質引退しているジャンク屋の伝説様が、しがないジャンク屋の女主人に何用で?」

 

 彼女の言う通り、イザナはここ十数年ろくに仕事をしていない。

 たまにジャンク屋のトップである元締めから依頼を受けて仕事をしていると聞くが、それ以外はジャンクヤードに全く顔を出していなかった。そのせいか、若手の中には彼を侮る馬鹿者までいる始末だ。

 イザナが実質引退している以上、影響力が減退していてそんな馬鹿が現れるのは仕方ないことだとアンキーも思っているが……。

 それでも今回のようにいろいろ人やモノを動かせるあたり、影響力はまだまだ健在らしい。

 

「………………」

 

 そして、彼の無口ぶりも健在だった。

 アンキーの問いかけに、イザナはブルドッグを飲むだけだった。

 

 やれやれ、こいつはしんどい相対になるぞと内心ため息を吐くアンキー。

 しかし、神は彼女を見捨てなかった。

 というより、イザナは呼び出した相手を無視して酒を飲むほど非常識ではなかった。

 

 酒を一口飲んだイザナは、懐から小型の封筒を取り出しアンキーへと差し出した。

 それをアンキーはおそるおそる受け取る。感触から推測するに、中身は薄い紙一枚だろう。

 

 まさかラブレターじゃあるまいな?とあり得ない想像に内心苦笑しながら封を開ける。

 おそらくは、仕事の依頼なのだろう。わざわざこんな手間をかけて依頼する意味はあるのか?と疑問を抱きながら、中身の紙を取り出した。

 そして、アンキーは取り繕う努力を放棄するほど顔を驚愕で歪ませた。

 封筒の中身は、依頼書ではなかった。

 莫大な金額が記入された小切手だった。

 

「アンタ、こいつは一体……」

「………………」

 

 決して個人では出さないような金額に驚愕しながら、アンキーはイザナに問いかける。

 電子決済が主流となっているイズマ・コロニーにおいて、わざわざ小切手で手渡しするような真似は今まで一度たりともなかった。ましてや非合法なクランバトル。賞金は全てダミー会社からの振り込みという形で支払われている。

 ならば……まさかスポンサー資金?先日のクラバを見た結果、資金提供したいという酔狂な真似をしたとでも?

 ありえないと否定する理性と素直に受け取るべきという欲望に頭を混乱させていると、ブルドッグを飲み干したイザナが用は済んだと言わんばかりに席を立とうとしていた。

 

「ちょ、ちょいと待っておくれ!ひとつ質問させておくれ!」

「………………」

 

 慌てて引き留めるアンキーに、イザナは再度着席することで了承の意思を伝える。

 それを見たアンキーが汗をハンカチで拭いながら、自らが抱いた疑問を解消すべく口を開いた。

 

「なんでアタシらに資金提供を?こんな額、普通じゃない……ッ!」

「………………(スッ)」

 

 アンキーの問いかけに、イザナは懐からスマホを取り出す。

 何をするつもりだ?と訝しげに見つめるアンキーを尻目にスマホを操作し……スッ、と画面に表示させたツーショット写真を見せる。

 

「ッ!?」

 

 その写真に、アンキーは今宵二度目の顔面崩壊を果たす。表示されている人物に見覚えがあったからだ。

 ひとりは今現在目の前にいる男、『不死男(アンデッドマン)』ことイザナ・ユズリハ。

 そしてもうひとりは先日直々にスカウトしポメラニアンズ勝利に一役買ったパイロットの少女、マチュだった。

 

「娘、だ……」

「ッッッ!?!?!?」

 

 イザナの爆弾発言に、アンキーは今宵最大の驚愕と共に気が遠くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 なんとか気を取り直したアンキーは、ひとりカウンターでやけ酒を煽っていた。

 ちなみにイザナはすでに退店している。あの爆弾発言の後、用は済んだと言わんばかりに立ち去ったのだ。

 

「まったく。こいつは何の因果かねぇ」

 

 誰に向ける訳もなく愚痴をこぼしながら、マスターにおかわりと肴を注文する。

 今宵の飲食代は全てイザナ持ちと聞いたゆえのちょっとした嫌がらせである。

 

(まさか、『不死男(アンデッドマン)』の娘をクラバに引き込むことになろうとは……)

 

 娘だという事実を知った時、最悪の事態まで想像した。

 大事な大事な愛娘を死の危険がある非合法バトルに引き込むなど、常人の親ならばとうてい許せるはずもない。

 しかし、あの男は諫めるどころか支援までしてきた。

 どんな思惑か知らないが、実弾兵器を用意できない弱小クランにとってはまさに天恵だ。

 使用用途は限定しないとの言質も取ったし、少なくともしばらくは金の心配をしなくてもよいだろう。なんならパーっと使って装備を一新してもいいかもしれない

 

 しかし、アンキーはこの支援金の大半を貯蓄に回すことに決めた。

 この支援が定期的に行われる保証はないし、なによりコレに頼り切って堕落しては人生真っ逆さまだ。ジェジーの言葉を借りるなら『人生詰むぞ』と言ったところか。

 

 ……でもまぁ、少しくらいは使ってもいいだろう。とりあえずは軍警にボッコボコにされたザクをフルリペアでもしようか。それに、新しい武器を購入してもいいかもしれない。

 アンキーは脳内で計算をしながら、注文した肴であるフィレステーキを頬張った。

 

 

 




作者は高級バーに行ったことないので全て想像です。
あとBarの名前は伏線でも何でもありません(強調)
黒潮建設みたいなファンサービスです。


面白いと感じていただけたら、ぜひ感想と高評価をお願いします<(_ _)>
『面白かった』の一言だけでも作者は泣いて喜びます。
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