U.C.0079/01/12
アマテが昏睡状態になって2日目。
今日から俺独自にこの子を助けるための試みを開始する。
その方法とは『感応現象を利用してアマテの精神に接触する』。
同じニュータイプであればできない道理はない。
補助器具も何もないが、やるしかない。
やるしかないんだ。
U.C.0079/01/13
ルナさんたちご近所さんで親しくしてもらってる人たちがお見舞いに来てくれた。
戦争が始まりサイド6が中立宣言をするなどここ1週間は激動だったが、それでもわざわざ足を運んでくれたのは感謝しかない。
彼女たちを安心させるためにも、一刻も早くアマテを救わなければ。
U.C.0079/01/19
アマテの精神にアプローチをかけてから1週間経過した。
しかし、精神どころか感応する糸口すら掴めていない。
これは俺のニュータイプ能力が生存能力に特化している為だと思われる。
自分自身にしか作用しない。ゆえに他者への介入を難しくしているのだろう。
しかし、過去3度アマテと繋がったことがある。
あれはあの子が主体となった感応現象だったが、あの感覚を思い出しながらやればいけるかもしれない。
U.C.0079/02/26
あれから1カ月以上経過したが、進展は全くない。
アマテの手を握って必死に集中しているが、繋がる気配は微塵も感じられない。
どうすればいいんだ……。
……接触面積増やすか?
U.C.0079/02/27
昨日思いついたトチ狂った考えを危うく実行しそうになった。
さすがに裸になって抱き着くなんて親子でも犯罪だろ……。
さすがに一線は越えないようにしないと……。
U.C.0079/03/03
今日は桃の節句。子供の幸せと健康を願う日だ。
という訳でこじんまりとした物だが病室にひな人形を飾った。
あとはアマテが目覚めてお祝いできれば完璧なんだけどな……。
U.C.0079/03/25
今日はアマテのクラスメイトが見舞いに来てくれた。
アマテの卒業証書と一緒に、だ。
すっかり忘れていたが、今日はアマテが通う小学校の卒業式だった。
クラスメイトの子たちは、みんな涙ぐんでいた。誰もが悲しんでくれていた。
いい友達を持ったな、アマテ。
U.C.0079/04/13
いい方法を思いついた。発想の転換だ。
俺のニュータイプ能力が生存能力に特化しているのならば、アマテを取り戻さないと死ぬと思い込めば働くようになるのでは?
認識を変えれば能力を拡張できる。タイトルは忘れてしまったが、なんかの本でそんなことを言っていた気がする。
やれ。やるしかないんだイザナ・ユズリハ。
娘を取り戻したいんだろう?アマテがいない世界なんて、生きるに値しないだろう?
U.C.0079/06/20
ニュータイプ能力が拡張された。
俺はアマテと繋がる感覚を覚えた。今は扉の前に立ったくらいだと思う。
入り口を見つけたんだ。あとはどんどん潜るだけだ。
U.C.0079/07/01
深く潜りすぎた。
どうやら俺は十数時間もアマテの傍で眠っていたらしい。
まぁ真実はアマテの精神に接続しようとしていただけだが……傍目からは異常が起こってるようにしか見えないか。
病院の人たちに心配をかける訳にはいかないのもあるが、万が一入院措置でも取られてアマテと離れ離れにされてはたまったもんじゃない。
U.C.0079/08/15
『向こう側』はとても奇妙な場所だ。
真っ暗な空間に浮かんでいると思えば、次の瞬間には極彩色の光に包まれていることもある。
ただ確かなことは、生者が容易に足を踏み入れてはいけない領域だということだ。
幸い、俺のニュータイプ能力は生存特化なので帰り道が直感的に分かる。今のところ『向こう側』に引きずり込まれる心配はない。
しかし……今探索している深度にアマテの気配は感じられない。
もっと深く潜りこまなければならないだろうな。
U.C.0079/10/08
精神が疲弊しているのが分かる。心がガリガリ削られている。
今日は引き際を見誤ってしまった。
もう少し、もう少しと探索を引き延ばしてしまい、死者の想念に纏わりつかれてしまった。
……そういえば、死者の想念からおかしなイメージが流れ込んできたな。
あれは……ガンダム、なのだろうか?
血のように赤いのは……俺の勘違いなのだろうか?
U.C.0079/10/16
とんでもない情報がジオンのプロパガンダ放送から流れてきた。
赤い彗星のシャアが『ガンダム』に乗って連邦軍の戦艦を3隻撃沈させたらしい。
シャアの……ガンダムだと!?
V作戦はどうなった!?アムロは!?木馬は!?
一体何がどうなっている!?!?
U.C.0079/10/17
昨日はみっともなく取り乱してしまった。
あまりにも衝撃的すぎた。
すぐにでも情報収集に勤しみたいが……優先順位がある。
今はアマテを助けることしか考えない。
U.C.0079/11/11
アマテの気配を感じた!!
僅かだが間違いない!あれは絶対にアマテだ!!
絶対に助けるからな!!待ってろ!!!!
U.C.0079/12/01
クソッ!チクショウ!!
あと少し!あと少しのはずなんだ!!
アマテの気配はどんどん強まっている。確かに近づいているはず。
だけど、いくら探しても見つからない!!
確かに感じるのに。はっきりと知覚できるのに。
あと扉一枚開けるくらいの距離にいると理解できているのに。
その扉が……開かないんだ……。
◆
年末が近づく12月某日。
ジオンと連邦の戦争が終着に近づいている中、中立を宣言し辛うじて戦火から逃れているサイド6イズマ・コロニーのとある総合病院、その一室にて。
俺はアマテの手を握り、意識を集中させていた。
この作業も300回以上こなしているため、すぐに『向こう側』へと接続することができる。
まずはアマテの『中』にぽっかりと開いている穴の存在を認識することからだ。
感覚的なものだが普段はそこに精神と呼ばれるものがあるのだろう。そこに『向こう側』へと通ずる穴が存在しているのは、今もなおアマテが生きている証明だと思われる。
そこに飛び込めば『向こう側』だ。未だに詳細が分かっていない世界でいわゆる『死後の世界』だの『四次元空間』だと仮説はいろいろ立てられるが、そこは重要ではないので割愛する。
一番重要なのは、アマテがいる世界だということだ。
あの子の気配を目印に、どんどん『底』へと潜っていく。
イメージしやすいように『底』と表現しているが、この世界に現実世界のような底があるかは定かではない。
しかし、アマテを目指すほど周囲に満ちる空気感が重く変化していくのは理解できた。生者は存在するべきではないと言わんばかりに、死者の想念も増えていく。
ある時は掻き分け、ある時は隠れ、ある時は勢いのまま逃走する。
そうやってどんどん『底』へと潜っていき……とある地点で強制的にストップする。
ここだ。ここから先に、どうやっても進めない。
アマテの気配を一番強く感じ、あと扉一枚を潜れば手が届く感覚があるのに。
その扉が開かない。
直感的に他の出入り口は存在しないと理解できるので、なんとかこの扉を開錠するしか道はない。今までさんざん試行錯誤を重ねてきたが……いつも感覚を掴む前にタイムアップが来てしまう。
だが、諦める訳にはいかない。
アマテを取り戻す為ならこれしきの苦労……ん?
なんだ?何かがおかしいぞ?
扉の鍵が緩む気配……いや、これは……。
僅かな違和感を覚えたその瞬間。
ピンク色の光の奔流が、扉の先から溢れ出てきた。
◆
「ん……んん……」
とある病院の個室にて、ひとりの少女が目を覚ます。
まず真っ先に目に入るのは、知らない天井。
続いて感じるのは己の顔に装着されている栄養チューブと人工呼吸器に対する違和感だ。
「ここ……どこ……?」
周囲の状況を確認しようと体を起こそうとする。
しかし、できない。
あまりにも酷い倦怠感に体を包まれ身動きできない。まるで重力が何倍にもなったかのようだ。
「お……とう……さん」
不安感と絶望感から、自身が一番心を寄せている男の名を呼ぶ。
あの人はいつも自分の傍にいてくれた。いつも守ってくれていた。
だから、この恐怖から救ってくれると心の底から信じていて……。
「アマテ」
ほら。期待通りに、あの人は自分の傍にいてくれる。
心細くなっている娘を安心させるように、優しく手を握りながら、父は瞳に涙を浮かべながら笑顔を向ける。
今まで一度も見たことない父の姿に驚きながらも、娘は口を開く。
正直まだなにも把握していない。何故自分がこんなところで寝ているか。何故父がこのような表情を浮かべているか。何一つ理解できていない。
しかし、何を言えばいいかははっきりと分かっていた。
「……ただいま、お父さん」
「……おかえり、アマテ」
◆
U.C.0080/01/07
ようやく日記を書くことができる。
昨年末、戦争が終結するとともにアマテが目覚めいろいろとバタバタしていてろくに日記を開けなかったが、ようやく書く時間を取れた。
いろいろと書きたいことはある。
アマテが目覚めた直後のことや、終戦で大変な時期なのにわざわざお見舞いに来てくれた人たちのこと。
しかし……今回はアマテの変化と『向こう側』の『底』であったことについて書こうと思う。
まずはアマテの変化からだ。
『向こう側』から帰ってきてから、顕著な変化が見られた。
それは『ニュータイプ能力の消失』だ。
いや、正確には『封印』と言ったところか。
とにかく、昏睡前の超人的な勘の良さと感応能力が失われている。
おそらく膨大な死者の想念に影響されないように無意識的に自らの感応能力を閉ざしたと思われる。
あの女性の協力もあったのだろうが……真実は定かではないしどうでもいい。
重要なのは、これでフラナガン機関の目から逃れられる確率が高まったことだ。
用心する必要はあるが、ひとまず安心といったところか。
次は『向こう側』の『底』であったことだ。
と言っても多くは書けない。現実で実際に体感した出来事なのに、まるで夢だったかのように時間と共に記憶が失われているからだ。
まるで、今知るには早すぎるとでも警告されているかのように。
しかし、断片的だが覚えていることもある。
光の奔流の先にいた、眠っているアマテを保護するかのように寄り添っていた女性。
その女性の口から語られた、『シャロンの薔薇』なる存在。
女性の背後からやってくる金髪の男。
そして、必ずやってくると予言された『その時』。
今でもチンプンカンプンで、話していたことの半分も理解できていない。
しかし、彼女の言葉に嘘はないと断言できる。
おそらく『向こう側』という特殊な空間で直接心で対話したからだろう。
……正直、『その時』はやってきてほしくない。回避するために、あらゆる可能性を模索したい。
しかし、『その時』は確実にやってくる。あの女性の言葉に嘘がないのと同様に、あの予言は真実なのだろう。
だから、これは決意表明だ。
俺は『その時』を受け入れる。
だから……アマテには強く、幸せに生きてほしい。
それだけが、昔から抱く俺のたったひとつの願いだ。
ちなみに『その時』とはアマテがジークアクスに乗ることではありません。
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