【本編完結】マチュを拾った転生者のお話   作:アスラ

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更新が遅れて申し訳ないです。
今後の展開についていろいろ考えてたのと予想外に今話が長くなったのが原因です。
作者の脳内に展開したストーリーの要所要所を抜き出して投稿する予定です。

とりあえず今回はアニメでよくある箸休め回をイメージして書き上げました。
どうぞお楽しみください。





本編IF編
第××話:家なきニャアン


 難民区域はその性質上、ほぼ全ての建築物は不法建築である。

 一定の秩序が保たれている場所ではあるが区画整理なんて上等なモノがなされたことは一度もなく、少し目を離している間に建物が建ったり、解体され道が敷かれることもある。

 加えて、賃貸契約書というのも存在しない。暗黙の了解の下、難民たちは各々好き勝手に空き家に住み着いている。

 つまり、何が言いたいかというと……

 

「わ、わたしの家が……」

 

 1か月もの間家を空けていたニャアンには、とっくに帰る場所など存在しないということだ。

 

 

 

 

 

 

「家がなくなったぁ!?」

「そうなの……」

 

 カネバン有限公司の事務所にてニャアン…と涙をこぼしながら、ニャアンはアンキーたちに泣きついていた。

 

「一体全体なにがどうなってんなことになるんだ?」

「そ、それがわたしにも分からなくてぇ……」

 

 ケーンからティッシュを受け取り涙を拭きながら、ジェジーの質問に答える。

 

「ぽっかり穴が開いた時間が取れて、久しぶりに家に帰ったら建て替えられててぇ……知らない人たちが住んでてぇ……」

「んだよソレ!家主の許可なく勝手にやったってことかぁ!?」

「事実だとしたら相当酷いね」

「難民区域にもルールがあるはずだが……」

 

 男性陣が三者三様の反応を見せる中、沈黙を保っていたアンキーが口を開く。

 

「ニャアン、ひとつ訊くけど、家があった地区はどこなんだい?」

「ぐすっ……××地区」

「あー……あそこかぁ」

 

 得心が行った、とアンキーが天井を見上げる。ニャアンたちには見えなかったが、その顔にはご愁傷様ねと書かれていた。

 

「××地区がどうしたんですか?あそこは特筆するようなことはなかったはずですが……」

「その通り。難民区域の端っこってだけで何の変哲もない地区だよ。でもねぇ……」

 

 煙草に火を着け、アンキーは残酷な事実を告げる。

 

「半月ほど前だったかな。ちょっとしたイザコザがあってあそこら一帯を縄張りにしてる組織の頭が代替わりしたんだよ。幸い外部への影響はほとんどなかったんだけど……」

「……わたしの家は、そのほとんどじゃなかった?」

「らしいね」

 

 ガックリと項垂れるニャアンを元気づけようと、ジェジーのポメラニアンが彼女の顔を舐める。

 その行為に感激したニャアンが優しく頭を撫でながら、本題を口にした。

 

「それで、今日はお願いがあって来たんですけど……」

「もしかして……ここに泊めてほしいと?」

「……(コクリ)」

「うーん……私としては構わないんだけど……」

 

 チラリ、と男性陣を見る。

 

「ウチは男所帯だからね。相当肩身狭いと思うよ?」

 

 そう、実はカネバン有限公司はアンキーを除く男三人で共同生活している場なのだ。

 家賃節約だったり作業場への導線をなるべく短くしたいなど理由は様々だが、とにかく短期間とはいえ女性がひとり混じるには厳しい環境なのは間違いなかった。

 

 とはいえ、ニャアンに選択肢がないのは事実。交友関係が狭いニャアンが思いつく頼れる相手はあとひとりしかおらず……。

 

「おはよー。……あれニャアン、どしたの目ぇ赤くして」

 

 そのひとりーーーマチュことアマテ・ユズリハが事務所にやって来た。

 

「ふんふん……なるほどそーいうこと」

 

 そして、アンキーたちからニャアンが泣いている理由を聞いた彼女は、あっけらかんとニャアンに提案した。

 

「じゃあウチくる?」

「……いいの?」

「b(グッ)」

 

 

 

 

 

 

 勝手知ったる我が町とばかりにズンズン突き進むアマテの背を、ニャアンは困惑しながら着いていく。

 

「ね、ねえマチュ。ほんとにこの道であってるの?」

「失礼な!17年間住んでる我が家への帰り道を間違える訳ないじゃん!」

 

 プンプン!と腕を振るアマテの背を見ながら、ニャアンは周囲を見渡した。

 ゴミひとつ落ちていない道路に、綺麗に整備された街路樹と花壇。

 周囲に建っている住宅は全て一軒家であり、どの家も中を覗けないように高い塀に囲まれている。

 そしてなにより、()()がパトロールしているのだ。すれ違ったのは1度や2度ではなく、その度に胡乱な目を向けられている。

 ニャアンは密輸品の配達を生業としており、仕事柄ある程度の地理を頭に叩き込んでいる。

 その情報によれば、ここはいわゆる『高級住宅街』と呼ばれるエリアだ。間違っても難民である自分が単独で来てはいけない場所であり、アマテがいなければあっという間に職質され、最悪逮捕されていたかもしれない。

 

 そしてしばらく歩くこと10分弱。ニャアンはアマテに連れられ、とある店の前に立っていた。

 

「ユズリハ工房……?」

「そ、わたしのお父さんがやってる店。ウチは店舗兼住宅だから1階まるまる店にしてんの」

 

 ただいまー、とアマテが躊躇いなくドアを潜り、遅れて後を追うようにニャアンも入る。

 店内に入ると、意外にも掃除が行き届いた空間が目に入る。工房という字から勝手にゴチャゴチャしたいかにもなTHE・町工場!的なものをイメージしていたが、高級住宅街に構えているだけあって清潔感が保たれていた。

 普段は絶対入らないような店をキョロキョロと見渡していると、見覚えのある赤い髪が受付の向こう側に見えた。おそらく、彼女の『お父さん』とやらを呼びに行ったのだろう、とあたりをつける。

 事実、『お父さん、ちょっといい?』と断りを入れる声がかすかに聞こえてくる。

 

 彼女の父親について、ニャアンが知っていることはあまりにも少ない。

 頻繁にアマテの口から語られることはあるも写真などを見せてもらったことはなく、アマテが大好きな人でありオムライスが得意料理であることしか知らない。

 一体どんな人なんだろう?

 若干ワクワクしながらアマテが連れてくるのを待っていると、アマテが受付の向こう側からピョンと飛び出し、遅れて大柄な黒髪男性が現れる。

 その男性の顔を見て、ニャアンは思わず引き攣ってしまった。

 何故ならばーーー。

 

「おまたせー。この人がわたしのお父さん!」

「……イザナ・ユズリハだ」

 

 伝説のジャンク屋、いかなる死地からも生還する男、孤高の一匹狼。

 上司から要注意人物として挙げられていた不死男(アンデッドマン)だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 密輸品の配達業を生業とする際、上司から要注意人物を何人か挙げられたことがある。

 ギャングのボスや難民区域の流通を担っている組織など、そうそうたるメンツがならんでいたが、その中でも決して敵対するなと口酸っぱく忠告された人物が複数いた。

 そのうちのひとりが、不死男(アンデッドマン)ことイザナ・ユズリハだ。

 ほぼ引退済みで会う可能性はほぼ0だが、万が一敵に回そうものならジャンク屋の『元締め』まで敵になるから絶対に関わるな。会ったとしてもすぐに回れ右しろと言い含められている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかもエプロン姿で、だ。なんなら鼻歌も歌っている。

 

 上司から聞いた話から想像したイメージからはまるで異なる姿に、困惑を隠しきれない。

 不死男(アンデッドマン)のイメージでよく例えられるのは、『無感情が人の形をしている』というものだ。

 とにかく無表情で冷淡で、まるでロボットのように淡々と仕事をこなしている人間と言われていた。

 しかし、今目の前で料理している男とどうしても繋がらない。

 確かに無表情ではあるが決して無感情ではなく、娘の友達として紹介された自分に冷淡に接することなくむしろ興味を持っている。

 しかも、しかもだ。

 隣に座り、スプーンを持ってうきうきとオムライスを心待ちにしている友人が彼の娘だということが未だに信じられない。

 そもそも、ニャアンは今の今までマチュの本名がアマテ・ユズリハだと知らなかった。

 いや、仮に本名を知っていても不死男(アンデッドマン)との繋がりを察することなんて不可能だろう。偶然名字が被ったとしか思わなかったはずだ。

 

「どしたのニャアン?心ここにあらずって感じだよ?」

「……いや、なんでもないよ」

「そう?……あ、そういやお泊りの件はOKしてもらったよ!新居が決まるまではいてもいいって!」

 

 言葉だけ捉えれば朗報だ。しかし、どうしてもイザナ・ユズリハの存在が気にかかる。

 あえて気にしないような図太さがあれば別だが、臆病を自覚している身としてはどうしてもストレスを感じてしまう。

 しかし、この場で『やっぱりお断りします』なんて言えるはずもなく……。

 結局ニャアンは、ユズリハ家に身を寄せることになってしまったのだった。

 

 ……ちなみに、オムライスは大変に絶品だった。

 人目を気にせずがっつくように口に運ぶニャアンの姿を、アマテとイザナは微笑ましく眺めていた。

 

 

 

 そして時間は流れ夜の8時頃。

 夕食を終え思い思いの食後を過ごしたニャアンとアマテは、2人一緒にお風呂に入っていた。

 

「ニャアンが普段なに使ってるかは知らないけど、今日は私が使ってるやつ使ってね」

「う、うん……」

 

 慣れた手つきで髪を洗う準備を始めるアマテに対し、ニャアンは椅子に座るだけで、戸惑うようにシャンプーに手を伸ばしたり引っ込めたりしている。

 

「? どしたのニャアン?」

「いや……その……」

 

 ニャアンは若干口ごもりながらも、己の風呂事情について話した。

 実は彼女の家には風呂釜が付いていおらず、簡易的なシャワー室しか存在しなかった。

 そして、貧乏であるがゆえに安物のリンスインシャンプーしか使ったことがなく、今まで見たこともないブランドのシャンプーとリンスを目の当たりにしどう使えばいいか分からないということだ。

 

「ふーん。ならさ、今日は私がニャアンの髪を洗ってあげるよ」

「えっ、いや悪いよ」

「いいからいいから!私に任せといて!」

 

 アマテはシャワーからお湯を出すと、躊躇いなくニャアンの頭からぶっかける。

 ニャアァン……とプルプル震えるニャアンを尻目に、これまた慣れた手つきでシャンプーの蓋を外す。

 

「実はこうやって友達の髪を洗うのが夢だったんだよねー」

「そうなの?」

「うん。実は友達とお風呂に入るのも初めてなんだよね」

 

 あ、自宅のお風呂でって意味でね?と付け加える。

 

「友達は何人かいて家に招待したことも何回かあるんだけど、泊めたことは一回もなくてね」

「仲が良い方だとは思ってるけど、夜を一緒に過ごしたいとは一度も思わなかったんだ」

 

 アマテの告白に、ニャアンは顔を熱くした。

 彼女は己が初めての相手だと言った。言い換えれば、アマテにとって一番の友達ということだ。

 ニャアンにも過去には友人がいた。しかし、引っ越しによる自然消滅や利害関係による別れなどもあり、いずれも浅い関係しか構築できなかった。

 だからこそ、アマテの言葉が胸に突き刺さる。己も彼女を大切な友人だと感じていることも相まって、思わず涙が零れそうになる。

 しかし、その涙がアマテにバレることはなかった。ちょうどいいことにシャンプーを洗い流すお湯に紛れたからだ。

 

 そして数分後。シャンプーに続きリンスも使用されたニャアンの髪は、入浴前とは比べ物にならないほどの艶と輝きを放っていた。

 さすがブランド物といったところか。ニャアン自身も、己の髪のかつてないサラサラ感に違和感を覚えてしまっている。

 

「さて。次は私の番だね!」

 

 アマテはいそいそと椅子をニャアンの前に移動させると、背を向ける形で腰を下ろした。

 彼女の言葉から察せられる通り、ニャアンに髪を洗ってほしいのだろう。

 しかし、ニャアンは躊躇ってしまう。

 出会った当初は気が付かなかったが、アマテの髪は絹のようにツヤツヤで、手櫛でも絡まることは一切ない。

 生まれ持った髪質もあるのだろうが、ブランド物のシャンプーとリンスで丁寧に育ててきたのも一因だろう。

 そんな芸術品のような髪を、今までテキトーに洗ってきた己が手を加えてもよいのだろうか。

 そんな葛藤が、ニャアンの手を止めさせていた。

 

「大丈夫、私がニャアンにやったようにやればいいんだよ」

「でも……」

「いいんだよへたくそでも。腕なんて関係ない。ニャアンだから、安心して任せられるんだ」

 

 そう言うと、瞳を閉じ膝に手を置いた。

 その様子を見て、ニャアンも覚悟を決めた。

 ここまで言われても髪を洗わないなんて、一番の友達と認めてくれたアマテに申し訳が立たない。

 シャンプーを手に出すと、壊れ物を磨くように、慎重に髪を洗い始めたのだった。

 

 

 

 洗髪の後もなんやかんや洗いっこに発展し無駄に疲れたニャアンとアマテは、これまた無駄に広い浴槽で向かい合うように足を延ばし湯に浸っていた。

 ちなみになぜ思春期の少女2人が足を延ばせるほど広いかというと、身長が186センチと大柄なイザナを基準にしているからだ。

 前世が日本人であり、今世も日系の血を引いている彼に浴槽に足を畳んで入るという選択肢は存在しなかった。

 

「そういや、さ。聞きたいことあるんだけど」

 

 またも初体験である『浴槽で体を伸ばす』行為に浸っているニャアンに、アマテが質問を投げかけた。

 

「なに?」

「お父さんに会ったときにめっちゃ緊張してたけど、前になんかあったの?」

「それは……」

 

 言ってもいいのだろうか?とニャアンは逡巡する。

 アマテの父、イザナ・ユズリハがジャンク屋界隈のみならず裏社会でも恐れられている不死男(アンデッドマン)であることを教えるのは簡単だ。

 しかし、そのことを娘に教えていない可能性がある。

 もしそうだと仮定して、勝手に裏の顔をばらしたとなればどんな恐ろしい報復が待っているか……考えただけでもゾクゾクする。

 

「もしかして、お父さんが不死男(アンデッドマン)って呼ばれてるのと関係ある?」

「ッ!? 知ってたの……?」

「まぁねー。ジャンク屋やってるって打ち明けられたときに教えてもらった」

 

 ピューッ、と手慰みに水鉄砲を飛ばす。

 

「若い頃はいろいろ()()()()してた関係で、今でも一部のジャンク屋からは怖がられてるんだって」

「…………」

 

 アマテの言葉に、ニャアンは思わず口から出そうになる言葉をグッとこらえた。

 回収したジャンク品を横取りしようと徒党を組んで襲い掛かってきた同業者を宇宙海賊が潜むアステロイドベルトにわざと迷い込ませて潰し合うように仕向けたことを『やんちゃ』で済ませてよいのだろうか?

 

「大丈夫。お父さんはニャアンのこと気に入ってるから」

「そうなの?」

「うん。どうでもいい相手にはとことん塩対応だからね。私の友達ってこともあるんだろうけど、わざわざ自分のご褒美に買っておいたアイスをデザートとして出してるし」

 

 だから安心していいよー、とアマテはぐて~と浴槽の縁に体を預ける。

 ……確かに、食後のデザートとして出してくれたバニラアイスはとても美味しかった。たまにご褒美で食べる安物のアイスとは風味から何まで雲泥の差だった。

 正直、まだ恐怖感はある。気が付かないうちになにか地雷を踏んで怒らせてしまわないかと不安になる。

 でもまぁ……マチュがそう言うなら、少しは気を抜いてもいいかもしれない。

 ニャアンはマチュに習って、己も浴槽の縁に体を預けリラックスしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 己の部屋として割り振られた客室のベッドで横になっているニャアンは、激動の1日を振り返っていた。

 

(今日はいろいろあったなぁ……)

 

 久しぶりに帰宅したら家がなくなっていたときには絶望感があったが、同時に『またか』という諦念もあった。

 実は家を追われることは今回が初めてではなかった。

 一年戦争が勃発し、その余波で難民となり母と離れ離れになってしまった時期に、理由は様々だが何度か発生してしまった不幸だった。

 幸いにも今回は紛失して困る物は持ち歩いていたのでダメージは最小限だった。

 しかし、それでも堪えるものがあった。

 

 だが『禍福は糾える縄の如し』という言葉通り、不幸ばかりではなかった。

 友達の家にお泊りすること、友達の家で夕食を食べたこと、友達と一緒にお風呂に入ったこと。

 それらすべてがニャアンにとっては初体験で、衝撃的で、幸福なことだった。

(衝撃的と言えば……)

 あれはお風呂から上がり体を拭き終わった直後のことだった。

 予め用意しておいたルームウェアに手を伸ばすと、自分一人分しか服がないことに気が付いた。

 マチュの分は脱衣所の棚にでも置いてあるのかな?と疑問に思うが、わざわざ質問するほどのことでもない。

 改めてルームウェアを手に取り着替えようとしたところでーーーなんと、アマテは全裸のままリビングへと歩いて行ったのだ。

 そのあまりにも堂々とした奇行に、ニャアンはフリーズしてしまった。

 

 後から聞いた話では、あの奇行は決してトチ狂った訳ではなく、むしろ普段通りだったらしい。

 いくら家族とはいえ異性である父親の前で全裸でうろつくのは感心しないが……風呂上がりの牛乳は全裸の開放感の中一気飲みするのが至高らしい。

 他所ではやらないよ!とはアマテ談だが、当たり前だよ!としか返せなかった。

 

 さて、いい加減眠ろうかな、とニャアンは瞳を閉じる。

 先ほどまで『パジャマパーティーだよ!』とわざわざ布団を持ち込んでまで部屋に居座ったアマテとの会話で盛り上がってしまい気が付かなかったが、時計の針は0時を過ぎようとしていた。

 いつもは遅くとも11時頃には就寝しているニャアンにとって、本業に支障をきたすような寝不足はできれば回避したいところでもあった。

 しかし……。

 

(ね、眠れない……)

 

 普段使いしているベッドとまくらとは月とスッポンの柔らかさに、ニャアンはなかなか寝付けずにいた。

 仕方がない、とニャアンは眠っているアマテを起こさないようにそっと客室から出るとリビングに向かった。

 目的は電気ポットで保温している白湯である。

 温かい飲み物を飲めばリラックスできて眠れるだろうという算段だ。

 

 そして白湯を求めてリビングへと入ると……そこには、パソコンを立ち上げなにやら作業をしているイザナの姿があり、リビングに入ったニャアンの存在に気付いたのか、顔を上げモニターから目を離した。

 

「ど、どうも……白湯を飲みに来ただけです……」

「…………」

 

 お風呂で安心してもいいとは言われたが、それだけですぐに苦手意識がなくなる訳ではない。

 未だに声を聞けていない男の視線を感じながら、ニャアンは電気ポットからマグカップにお湯を注ぎ……。

 

「少し、いいかな」

 

 突然の発声に、びくりと肩を震わせた。

 ゆっくり振り返ると、イザナが真剣な目でこちらを見ていた。

 

「な、なんでしょうか……?」

 

 この家に来てから始めてみるイザナの真剣な表情と雰囲気に、ニャアンはわずかに気圧される。

 

「質問が、ひとつある」

 

 質問、ときた。

 おそらく己についてだろう、と予想する。

 いくら娘が招待したとしても、難民に警戒心を持つことはなんら不思議ではない。

 

 イザナの問いに、コクリと首を縦に振り返答する。

 アマテと長い付き合いをするつもりであるニャアンからすれば、避けては通れない難題であるからだ。

 

 そして、覚悟を決めたニャアンを前に、イザナは口をゆっくりと開いた。

 

「明日の朝食は……パンと白米、どちらがいい?」

「…………はぇ?」

 

 あまりにも予想外な質問に、ニャアンは思わず気の抜けた声を出してしまう。

 

「大事な、ことなんだ」

「じゃ、じゃあパンで……」

「分かった」

 

 そう言うと、イザナはパソコンのモニターに目を落とし作業を再開した。

 

(え、なに?朝食!?わたしのことじゃなくて、朝食の好み!?)

 

 わざわざ作業を中断してまでした質問の内容が、朝食の相談?*1

 白湯を飲み干したニャアンは、頭をハテナマークで埋め尽くしながら客室へと戻ったのだった。

 

 ちなみに翌日の朝食はとても絶品で、ニャアンはおかわりまでしたという。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 登校し、己の席に座ったアマテはとある違和感に気が付いた。

 机の棚に、なにやら小さな袋が入っていたのだ。

 なんだろうコレ?と取り出して中身を確認すると、そこにはUSBメモリがひとつ入っていた。

 通常なら、出所不明の怪しい品として捨てるか先生に届け出るかしただろう。

 しかし、アマテは機械弄りという趣味が影響してか、恐怖や不安感よりも興味が勝ってしまった。

 幸いにもSHR(ショートホームルーム)にはまだ時間がある。

 アマテは鞄から私物のタブレットを取り出すと、本体に影響が出ないように仮想マシンを構築し中身のデータを取り出す。

 

 

 ---取り出して、しまった。

 

 

「なに、コレ……」

 

 中に入っていたデータファイルはわずかひとつ。

 しかし、アマテの精神を大きく揺さぶるには絶大な効果を発揮した。

 そのデータファイルとは……己と父であるイザナとの血縁関係が存在しないことを証明する、DNA鑑定の結果書類だった。

 

 

*1
イザナからすれば大真面目。ニャアンに関してはアマテの人を見る目を信用している為心配してない。




箸休め回(不穏)。
最後の部分はアニメCパートで流れている想定です。


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