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MS部隊が敵基地を襲撃する中、混乱に乗じ単身潜入しサーバーにコンピューターウイルスを感染させる。
それが、コモリ・ハーコート少尉に与えられたミッションだった。
正直に言えば、正気の沙汰ではない。士官学校を優秀な成績で卒業したエリートであっても、その道の専門家に劣るのは明白。しかも単身で乗り込めと来た。
明らかなミスマッチである。
しかし、それでもこのミッションはコモリ・ハーコートが為さねばならなかった。
つい先日から始まった連邦の大攻勢により、ジオンは苦戦を強いられている。戦力を結集したお陰で要所での防衛は成功しているものの、そこ以外ではすでに陥落している基地も少なくない。
だからこそ、作戦終了したばかりで都合よく浮いていたソドンに指令が下った。
連邦軍の通信網を一時的にでも麻痺させよと。
壁に背を預け、コモリはぼんやりと天井を見上げた。
作戦自体は上手く行った。襲撃の混乱に乗じ基地に潜入。運も回りするするとサーバールームに侵入し、手際よくコンピューターウイルスを感染させた。
しかし、そこで運が尽きてしまった。
基地内で一等臆病だった連邦兵が戦場から逃げ込んだ先が偶然にもサーバールームであり、コモリと鉢合わせしてしまったのだ。
他の連邦兵に報告される前に射殺したものの、その臆病者を追いかけてきた上官に現場を目撃され、結局は追われる身となってしまった。
激しい銃撃戦の末、なんとか逃走に成功し空き部屋に逃げ込むことができたが……。
「あぁ……失敗しちゃったなぁ」
右足の銃創から流れ出る血を見ながら、懐から止血キットを取り出す。
逃走中はアドレナリンの影響か撃たれたことに気が付かなかった。
必死に走って拳銃で反撃し、ようやく撒いたと判断し空き部屋に逃げ込んで……気が緩みアドレナリンが切れ激痛が走ったのだ。
ポーチから止血キットを取り出し、処置を開始する。消毒作用もあるジェルを傷口に塗り込みその上からきつく止血帯を巻くのだ。
軍人からは沁みすぎて痛いと不評だが、その分効き目は抜群だ。己の脚から流血する感覚があっという間に消えていく。
これでひとまず失血死の可能性を消せた。あとは隙を見て基地から脱出するだけだが……。
「さすがに、そう上手くは行かないわね……」
ドンドンドン!と扉が荒く叩かれる。間違いなく血痕を追ってきた連邦兵の仕業だ。
この部屋に逃げ込んだ際に制御盤に銃弾を撃ち込み破壊したおかげですぐに乗り込まれる恐れはないが、破られるのも時間の問題だろう。
コモリは一度大きく深呼吸し、覚悟を決めた。
ここに至っては、もはや助かる道は絶たれているだろう。
ならば、一人でも多く敵兵を道連れにする。
それが自分にできる最大限の援護だ。
テーブルや椅子で簡易的なバリケードを作っている最中、彼女の脳内に記憶が溢れ出す。
幼い頃両親に貰った誕生日プレゼントのくまのぬいぐるみを抱きしめている記憶、ジュニアスクールのテストで満点を取った記憶、ジオン士官学校の入学式に出席した記憶、ソドンへの配属辞令を受け取った記憶。
いわゆる走馬灯というやつだ。死ぬ直前に見るやつじゃなかったっけ?と思わず苦笑してしまうが、どちらにせよあと数分の命なら大差ないか、と納得した。
……しかしこの走馬灯、いろいろとおかしくないかしら?とコモリは疑問を浮かべる。
幼少期からスムーズに思い出が流れていっていたが、ソドンに配属された頃から急激に時間の流れが遅くなった。
具体的にはエグザベとの思い出がめっちゃ流れるのだ。
確かにソドンクルーの中では一番親しかったが、なんでこんなにしつこく流れるんだろう?
その理由を探ろうと思案に耽ようとするが……そうは問屋が卸してくれないらしい。
ギリギリと嫌な音を立てて扉が徐々にだが開いていっているのだ。この様子ではもう間もなくこじ開けられ、連邦兵がなだれ込んでくるに違いない。
コモリはもう一度深呼吸し、拳銃を構える。この基地に生身のジオン兵は自分しかいない。
姿を認識した瞬間、即銃弾を撃ち込んでやる。
バリケードに背中を預けるように身を隠し、覚悟を決め……。
コロン……と、
「ッ!!」
手榴弾を認識した瞬間、コモリは反射的に腰を捻り左足を伸ばした。他の遮蔽物に隠れる暇はない。それならば爆発する前に爆発の範囲外に蹴り飛ばしてしまおうという考えだ。
その目論見は半分上手く行った。爆発する前になんとか蹴り飛ばすことには成功した。
しかしそこまでだった。
手榴弾を蹴った感触を覚え、すぐさま足を引っ込めようとして……その前に爆発してしまったのだ。
◆
爆発による衝撃と音に襲われ朦朧とする意識の中、コモリは己の状態を把握する。
顔……問題ない。軍人になった時に覚悟は決めたが、傷がないに越したことはない。
上半身……問題ない。骨折している感覚も、流血している感覚もない。
下半身……問題あり。
おそるおそる、左足へと目を向ける。
手榴弾を蹴った直後に爆発したから、なんとなく予想はついていた。
士官学校時代に、授業の一環で資料を見たことがあるからどんな状態になっているかも想像がつく。
それでも、これは……。
(あぁ……こりゃゲロマズ)
左足は爆傷によってズダズダに引き裂かれていた。
皮膚は剥がれ、肉と骨が顔を覗かせている。よく見ると手榴弾の破片が突き刺さっており、おそらくそれが原因で神経が断裂している。
「ぅ……あぁ……ッ!!」
現実を認識したからか、痛みが一気に脳髄へと叩きつけられる。必死に息を整え気を紛らわせようとするが、焼きゴテで殴られ続けるような激痛は一向に和らがない。
加えて、出血もしている。幸いにも動脈は傷ついていないようで
しかし、そんな余裕は彼女には残されていなかった。手榴弾を投げ込むために僅かにこじ開けられていたドアが完全に開き、連邦兵が侵入してきたのだ。
数にして一個分隊の連邦兵が、一斉にコモリに小銃を向ける。
何やら叫んでいるようだが、爆発によってダメージを受けているコモリの聴覚では聞き取ることができない。おそらく『動くな!』やら『抵抗するな!』なんて叫んでいるのだろう。
このままじっとしていれば、捕虜として拘束されるだろう。戦争にもルールがある。条約によって捕虜の虐殺は禁止されている。
しかし、ルールがいついかなる時でも守られるという保証はない。ソレを順守すべき対象は生きた人間であり、時として理性を振り切り感情に支配されてしまう。
軍人として厳しい教育を施された連邦兵だって例外ではない。ほとんどの連邦兵は上官の指示を待ち、コモリに向かって大人しく小銃を構えているのみだが、一際若い連邦兵のひとりが上官の制止に構わず声を荒げていた。
未だ回復していない聴覚では何を叫んでいるのか聞き取れなかったが、何故かコモリには彼の感情―――憎しみが理解できた。
彼の中には、家族を奪われた悲哀と憎悪が渦巻いていた。一年戦争時に戦渦に巻き込まれ、家族全員を失った男は戦後連邦軍に入隊した。
全ては、いずれ必ず再開されるジオンとの戦争に備え、敵を皆殺しにするために。
そして、やってきた今日だった。
正直に言えば、いい迷惑だとコモリは嘆息した。
一年戦争の災禍で家族を失ったのならば、その原因は間違いなくMSによるものだろう。
仇を討ちたいならばパイロットになり敵MSを撃墜するのが一番憎悪を晴らすことができる。
しかし、ジオン軍がMSで基地を強襲している最中、未だに歩兵として基地内にいるということは……まぁ、そういうことなのだろう。
家族の復讐という一等強い
……と、ここまで連邦兵を罵っておいて、コモリはふと我に返った。
自分はなぜ、ここまで悪し様に罵っているのかと。
軍と縁もゆかりもない外様ならともかく、正式な軍人である自分はMSパイロットに適性がない人間がごまんといることを知っているし、訓練でどうにかなるものでもないことを知っている。
おそらく、この若い連邦兵もその類いなのだろう。
だからこそ、ある意味いちゃもんのような罵倒が己の内から吐き出されたことに疑問を覚え……。
あぁ、そうか。とすぐに理由に行きついた。
きっと私は、エグザベくんに会えない鬱憤をぶつけているのだと。
連邦との戦争が再開され、連戦に次ぐ連戦で疲れ切っている彼に遠慮し、ここ最近はろくにコミュニケーションを取れていなかった。
そして、ようやく一息つけると思った矢先に今回の任務。
気づかないうちに、己の中にモヤモヤしたものが溜まっていた。
だからこそ、先ほど見た走馬灯では不自然なほど彼との思い出が流れたのだ。
……でも、それだけなのだろうか?とコモリは自問する。
確かにソドンクルーの中で一番親しかったのは彼だ。属する派閥は違えど、不思議と気が合う同僚だった。
でも、それだけで故郷に残してきた家族よりも優先されることなんてあるんだろうか?
先ほどとは別種のモヤモヤが膨らんでいく……が、どうやらそれを解消する時間は残されていないようだ。
若い連邦兵に感化されたのか、上官の死角にいる連邦兵の憎悪がむくむくと膨らんでいるのが感じ取れる。小銃を構える腕に力が入り、銃身がブレ始めてしまう。
このままでは感情に身を任せ発砲してしまうのは明白だったが、不幸なことにその様子に気付く者は皆無だった。
ついに引き金に指がかけられるのを見て、コモリは覚悟を決め瞳を閉じた。
戦死するのは怖くない。士官学校を卒業し、正式に任官した時から覚悟を決めていた。
後悔だってない。状況が許す限り、やりたいことは全てやってきた。
……あぁ、いや、嘘だ。
ひとつだけ、後悔はある。
(最期にもう一度だけ、エグザベくんの良い顔を見たかったなぁ)
◆
運命の
己の許容量を超えた感情に支配され、ついに連邦兵が引き金にかけた指に力を込める。コンマ数秒後には銃身から弾丸が発射され、無慈悲にコモリ少尉の命を刈り取るだろう。
そして、ついに引き金が引かれ―――同時に、大きな破壊音と地響きがその場にいる全員を襲った。
「なんだ!?いったい何が起こった!?!?」
「わ、わかりません!!」
あたふたする連邦兵たちを尻目に、地響きによって照準がズレ運よく銃弾が外れたコモリはひとり笑みを浮かべていた。
連邦兵たち同様、彼女もこの現象について理解していることはほとんどない。
しかし、たったひとつだけ。
誰がこの現象を引き起こしたのかだけは、認識していた。
そして、彼女の確信に答え合わせをするかのように、部屋の天井が轟音と共に破壊され、元凶が姿を現した。
―――それは、
「馬鹿な、防衛隊はなにをしている!!」
上官の連邦兵が声を荒げる。
襲撃の報を受けた際、敵MSは僅か2機と聞き及んでいた。対してこちらの戦力は防衛用に配備された軽キャノン16機。
常識的に考えれば、勝負にもならない戦力差である。
―――そのMS2機が、ただのMSであればの話ではあるが。
『コモリ少尉から離れろ!!』
「ぐあああぁぁぁぁああああああッ!!」
若い男の声と共に、大型ランスが横薙ぎにはらわれる。
生身の人間が耐えられるはずもなく、連邦兵たちはなすすべもなく吹き飛ばされていく。
後に残るのは、無残に破壊され血肉で汚れた部屋と白いMSを見上げるコモリ少尉だけ。
敵を排除したことを確認した白いMSは、ゆっくりと慎重に着地し、まるで騎士かのように膝をつきコックピットを開放する。
「コモリ少尉!大丈夫ですか!?」
中から現れたのは―――コモリの予想通り、
(あぁ、やっぱり良い顔だなぁ)
そして、コックピットから降り介抱してくれる同僚の顔に満足しながら、コモリは安心感から意識を手放すのであった。
エグザベくんがギャンに乗って流星のように駆けつけるシーン、思わず叫んでしまうほどカッコよかったですね。
できれば最後まで生き残ってほしいものです。
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