元ゲヘナ風紀委員、オーネスト・ブルートゥ 作:悲しいなぁ@silvie
ジャンカー・コヨーテスの本拠地、アビドスに広がる砂漠に鎮座するその巨大構造物にある高台にて箱舟ユウは感情を殺した怜悧な目で下の戦場を俯瞰する。
「チッ、コイツら中々やりやがるぜ!」
「万魔殿の奴等…当たりを引きやがった!」
足元で戦うメンバー達は総勢12人、それも全員が
とてもじゃないがあってはならないことだ。
「私が耐えてる間に攻撃して」
「全弾発射〜!」
「ターゲット、設定完了」
「覚悟しなさい!」
ミニガンを振り回す怪力女に、ドローンで爆撃をかましてくるガキ、喚きながらアサルトで突貫してくるやかましい奴…
連携こそ及第点をやってもいいが個々の戦力で見ればドローンのガキがそこそこにやるぐらいでどう見てもウチのメンバー相手に数的優位を跳ね除ける程の実力とは思えない。
ユウはスコープを覗き、今まさに目の前の相手へ盾を構える桃髪の少女の後頭部へ狙いを定め───
「チッ、バケモンめ」
まるで後ろに目でもついているかのように正確な拳銃による狙撃がユウの頬を鋭く切り裂く。
盾を片手で構え、先程まで撃っていたショットガンを盾に彫られた溝に格納し後ろ手に撃ってきたのだろう…
言われれば理解こそできるが納得は伴わない。
「拳銃弾が届く距離じゃねぇんだぞ…」
頬の血を乱雑に拭いながら身を屈め狙撃ポイントを変更する。
そう、全てがあの桃髪のチビだ…あのバケモンが前線を強固に維持しほぼ全ての攻撃を受けるからこそ数的優位も何もかもをひっくり返している。
「気に入らねぇ…」
ジャンカー・コヨーテスにあるシステムはそのほぼ全てがユウの敬愛するボス、ブルートゥがたった一人で作り上げたものだ。
そして、上位三十人からなるランカーの存在も……そこまでは良い。
ランカーシステムはジャンカー・コヨーテスが誇る
だが…ユウには一つだけ不満に思っている事があった。
ランクS、ブルートゥが自身よりも強いと判断した6人からなる特例上位ランカー達である。
ランク:02/S
それが、下に居るチビの正体。
アビドス高等学校副生徒会長、小鳥遊ホシノ…ボスが自身よりも強いと認める相手。
「ま、雑魚じゃ話にならんわな」
ユウがため息と共に戦場を見下ろす…もはや立っているのは『客』の5人だけだった。
「そこ、降りて来なよ」
コヨーテスの本拠地に突入した瞬間に襲い掛かってきた傭兵達を撃退し、なんとか一息ついた頃合いでホシノがそう言った。
他のメンバーや先生が首を傾げていると…ホシノが向いている正にその方向から人が一人降ってきた。
紅い長髪を後ろで一つに纏めたその女は両手を挙げながら皆の前に歩いてくる。
「分かった、お前らの実力は分かったよ
降参だ…これ以上同僚を伸されちゃ仕事にならねぇ
目的はボスだろ?案内してやるよ、着いてきな」
全員から突きつけられた銃口にわざとらしく肩をすくめながら「怖い怖い」と嘯く女にホシノは鋭い視線を向ける。
「なんのつもり?」
「今言ってたろ、これ以上お前らに暴れられちゃ商売上がったりなんだよ…それとも俺らが慈善事業でもしてるように見えたか?」
女の返答にホシノの表情が一層険しくなるのを見た先生が、咄嗟に口を挟む。
「確かに私達の目的はここのボスであるブルートゥだけど…君はそれを止めなくて良いの?
部下がそんな簡単にボスを売るなんて…罠に嵌められるかもと思うのは当然だと思うよ」
「ああ、そういう事か
なら安心しな…俺達みたいな下っ端はそこまでボスに忠誠心なんてありゃしねぇよ
ジャンカー・コヨーテスの運営はボスが居なくても問題ねぇからな…美味い汁啜るのに問題ねぇなら他がどうなろうと知ったこっちゃねぇのさ」
そう軽く答えながら女は背に担いだライフルを地面に置く。
「ほら、これで信用できるよな?
丸腰だ…頼むから撃ったりしないでくれよ」
それとも全裸にでもなった方が良いか?と先生の方を見て笑う女にセリカが声を上げる。
「もう!わかったわよ!!早くそのブルートゥって奴のとこに案内しなさい!」
グイグイと背を押すセリカに女はへいへいと歩き始める。
「ウチはあんたらみたいなのの対策に入り組んでるからな…迷子センターなんてありゃしねぇからぴったり着いてきな」
道中、様々な罠を避けながら歩く女にアビドスの面々も多少の警戒を解いたようで徐々に口数が増えてきていた。
「ん、中々良い装備だった…これはかなりの額で売れる」
「幾つかは持って帰ってウチの防衛用にしましょう〜☆」
「あの罠とかも何かに使えそうね…」
「………」
『………』
そんな中、黙ったままのホシノとアヤネに先生が声を掛ける。
「どうしたの、二人とも…何かあった?」
『あっ、いえ…あの女の人、何処かで見たような気がして…
ジャンカー・コヨーテスのホームページに一般傭兵として掲載されているのは確認出来たのでそこでだとは思うんですが…』
「うーん、考え過ぎだとは思うんだけど……一応相手の本拠地に攻め込んでる訳だし、不用心よりは用心し過ぎの方が良いかなぁ〜ってね」
二人は何かが引っかかるのか考え事をしたままに進んでいく。
すると、先導していた女がふらっと大きくよろめく。
「っとと…!」
「ちょっと…あんた大丈夫!?」
膝をつく女にセリカが駆け寄る。
「はは、あの桃髪にやられて足にきてんな…肩貸してくれ」
手を伸ばす女にセリカが近付く…
ホシノとアヤネの声が響いたのは同時だった。
「…っ!セリカちゃん、離れて!!」
『逃げて下さい!!』
「……え?」
呆けて立ち止まったセリカの腕を、蹲っていた筈の女が素早く掴む。
「
大っ嫌いなタイプだ」
女は片手で振り回すようにセリカを乱雑に投げ飛ばす…その先には大量に設置されたラッパ銃がその銃口を鈍く光らせていた。
「────ッ!!
…………あれ?」
けたたましい発砲音と火薬の臭いに目を固く閉じ衝撃に身構えるも、一向に衝撃が来ない事に不思議に思いセリカが目を開けると…目の前に盾を構えたホシノが歯を食い縛り立っていた。
「あ…ほ、ホシノ先輩……ありが」
「セリカちゃん、逃げ──」
セリカの方を見もせずに叫ぶホシノ…その額には、奪い盗られたホシノ愛用のショットガンが突き付けられていた。
「護るもんが多いのは不幸だな…そんなに抱えてっから満足に飛べねぇのさ」
女は躊躇なくホシノに向けてマガジンの弾丸を撃ち尽くした。
「ホシノ先輩!!!」
『思い出しました…!彼女は万魔殿の資料で見た傭兵、箱舟ユウ…!
ジャンカー・コヨーテスの頭目補佐、実質的なNo.2です!』
アヤネの悲痛な叫びに全員が敵へと銃口を向ける。
「……合金製か?テメェの面はよ…」
ラッパ銃とショットガンの掃射により巻き上げられた砂煙と硝煙が晴れる───視線の先ではショットガンを奪い返されたユウがホシノに拳銃をその額に突き付けられていた。
苦々しく吐き捨てながら…尚もホシノを睨みつけるユウ。
額から血が流れているものの、ホシノは微塵の震えもなく両の足で立ちながら引き金に指を掛ける。
『ユウ…あまり意地悪をしないで下さい
先にご友人達と、一人で踊り始めてしまうとは……私は寂しさのあまり枕を濡らしてしまいそうです』
張り詰めた空気、それを打ち砕いたのはスピーカーから聞こえてきた真に迫る声だった。
「ボス…申しわけありません、すぐに片付けます」
ユウは銃口を突き付けられているというのに、それら全てを視界から切ってスピーカーとカメラがある方向へと向き直る。
『片付ける等と…悲しい事を言わないでください
ご友人達が遠路はるばる私を訪ねに来てくれたのですよ?
ならば、私にできる全てでもって…
銃口から逸れるように動いたユウへ照準を合わせなければ…そんな思考すら
「わかりました…すぐボスのもとへお連れします」
『ええ…!頼みましたよ、ユウ』
ユウは呆然とするアビドスメンバーに背を向けるとスタスタと歩き始める。
「着いて来い、ボスがお待ちだ」
指を2本立ててクイクイとハンドサインを混じえてそう言うと振り向きもせずに歩き続ける。
「まさか…信じられるとでも思う?」
グイグイ、とユウの背中にホシノの愛銃が押し付けられる。
その姿は、流れる血も相まって実に堂に入っていた。
「………信じる信じないは好きにしな
ただ…これだけは言っておいてやる」
ユウはようやくに足を止め、ホシノへ向き直る。
その顔は、不快感を隠しもしない憤怒の表情だった。
「ボスがお前らを連れて来いとこの俺に『命令』してくださった…なら俺はお前らに殺されようが手を出す事は一切無い
わかるか?お前ら如きに殺されるぐらいじゃ俺の忠誠心は毛程も揺るがねぇって事だ
わかったらとっとと着いて来い、あの人を待たせるんじゃねぇ!!」
鬼気迫るその迫力に、今度こそ嘘は無いと判断したホシノはため息一つ、手早くショットガンと拳銃のリロードを始める。
「ホシノ先輩!私のせいで……大丈夫なの!?」
駆け寄って来たセリカに抱き締められ、うへ~と声を漏らすホシノにシロコとノノミも抱き着く。
「ホシノ先輩、あまり無茶はしないで」
「そうですよ〜、血がこんなに出ちゃってます…」
3人にもみくちゃにされながらも満更でもなさそうにホシノはうへ~と呻く。
「おじさんモテモテだぁ…セリカちゃんに怪我がなくて良かったよ」
「なにそれ…ホシノ先輩が怪我してたら一緒じゃない!」
にへらと笑うホシノにセリカは目に涙を溜めて抱き着く。
先生はそんなアビドスメンバーを見ながら、懐にあるシッテムの箱へ手を伸ばす。
いざという時は…自分が生徒の盾となれるように。
「此処だ、この扉の先にボスはいらっしゃる」
10分程歩いた後、ユウは一つの扉の前で立ち止まり顎をしゃくる。
「ん、信用出来ない…そっちが開けて」
シロコの言葉にユウはへいへいと扉に手を掛ける。
「ボス、客人をお連れしました」
開かれた扉の先…そこには巨大なレールキャノンと足の踏み場も無い程に張り巡らされた雑多な配線に剥き出しの配管達、およそ人など居なさそうな空間だった。
しかし、工具や機械類に混じって一つだけ豪奢な椅子が置かれ其処に金の髪をした誰かが座っている。
『ようこそビジター!
お待ちしていましたよ…私は貴方と上手に踊れるでしょうか
心配だ……けれど、それよりずっと楽しみです』
ユウは深々と頭を下げると踵を返し部屋を後にする。
「ちょ、ちょっと…!アンタどこ行くつもり!?
まさか私達を後ろから狙おうなんて…!」
「馬鹿か?ボスの足手纏いになんざなりたくねぇからとっとと帰るのよ
お前らも帰るってんなら場所移して第2回戦ぐらいは付き合うぜ?」
小鳥遊ホシノ以外はな…そう言いながらユウは本当に去って行ってしまう。
言外に、足手纏いと揶揄されたアビドスメンバーは不満気にユウが去って行った方向を睨む。
「もう!!最後までイヤミな奴!!!」
「まぁまぁセリカちゃん、あんまりカリカリしないで」
「なによ、私だけなわけ!?
シロコ先輩やノノミ先輩だっておんなじじゃないの!!?
あんな事言われて…!!」
「ん、実力で思い知らせるから良い」
「そうです!腕の見せどころですよ〜☆」
シロコ達の宥めているのか焚き付けているのかよくわからない返答に、セリカも笑みと青筋を浮かべて愛銃を握り締める。
「ええ…そうよね!
見せてやるわよ…さぁ!掛かって来なさい!!」
セリカ、シロコ、ノノミが前方の椅子に座った誰かに銃を向けたのと…ホシノが自身の真上を撃ったのは同時だった。
「……へ?ホシノ先輩、何処撃って……」
「ご友人!サプライズをさせてくれないのですか?」
ダン、とけたたましい音と共にそれは降ってきた。
長い金髪に仕立ての良い燕尾服を身に纏い、真っ赤なハイヒールを履いた同性であるセリカ達から見ても思わずドキリとしてしまう程に整った顔立ちの女。
元ゲヘナ副風紀委員長にして現ジャンカー・コヨーテス頭目…オーネスト・ブルートゥはまるで愛しき人との別れのようにその美しい顔を悲痛に歪めホシノへ迫る。
「不意打ちしようとしておいて…よく言うよ」
「ヒナ…彼女はいつも、私に新しい出会いをくれる
素敵だ…」
まるで皆が見えていないように自分の世界へ浸るブルートゥ。
恍惚とした表情で、口元へ手を当てて心底に嬉しげに笑う彼女にアビドスの面々が若干引き気味に銃口を向ける。
「ね、ねぇ…これ……撃っていい……の、よね……?」
「ん、椅子に座ってるのは人形…最初から奇襲狙いだったみたい」
「随分個性的な人みたいですね…」
どうしていいか迷う3人を尻目に、ホシノがよっと…と言いながら銃を構える。
「悪いけど疲れちゃってさ…早く終わらせよっか」
ホシノは躊躇なく引き金を引き、ワンマガジン分の弾薬を惜しみなくブルートゥの顔面へと叩き込む。
カチン、カチン、と弾切れを知らせる軽い引き金を弾き…ようやくホシノは銃を下ろす。
「じゃ…帰ろっか、皆!」
そう言って振り返った先では、アビドスの面々が顔を引き攣らせて後ろを見ていた。
「せ、先輩…後ろ……」
「後ろ…?後ろがどうしたの……??」
全弾が確実に顔面にフルヒットした、その確固たる確信があったホシノは思いもしなかった。
ショットガンのゼロ距離射撃をワンボックス分受けて膝もつかずに立っている人間がいる等とは。
「新しいご友人…贈り物をくれるのですね…」
ブルートゥは散弾により裂けた頬や唇の血を長い舌で舐め取り、円を描くように唇全体へと塗り付ける。
紅い、口紅のように怪しく輝くその血化粧は見る者全てに生理的な忌避感を覚えさせた。
「素敵だ……」
オーネスト・ブルートゥ
所属:ゲヘナ学園3年
ランク:07/A
傭兵集団、ジャンカーコヨーテスの頭目。
元々ブルートゥはゲヘナに拾われた孤児であり、そのゲヘナ生らしからぬ柔和な人当たりと話しぶりを評価したヒナに目をかけられていた。
彼女が重度の虚言癖を備えた人格破綻者であることが発覚したとき、ゲヘナの資金と技術は無視できないレベルで持ち逃げされていたという。
今日の☆ワンポイント☆Blute
ブルートゥの愛機ミルクトゥースは機体データを見るとわかる通り滅茶苦茶に重い
というかQBの保証重量をガッツリ超えてるので明らかに積載過多…という事で本作のブルートゥは滅茶苦茶デカいお姉さんという事にします
素敵だ……♡