元ゲヘナ風紀委員、オーネスト・ブルートゥ   作:悲しいなぁ@silvie

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自由と混沌
数多の可能性から自身の意思にて選び戦う者達
自由とは往々にしてしがらみが多い、自由であるが故に縛られる
だからこそ、真に自由な者とは…首輪を着けた飼い犬か
それとも────全てを焼く黒い鳥か








『間抜け』のマコト

ゲヘナ学園、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の議長室では二人の生徒が対面していた。

方やゲヘナ学園の実質的生徒会長、万魔殿の議長羽沼マコト。

方や元ゲヘナ学園風紀委員会の副委員長、そして現傭兵集団ジャンカー・コヨーテスの頭目オーネスト・ブルートゥ。

マコトは議長室にある豪奢な椅子(当然風紀委員の予算を遣い購入したものである)に深く腰掛け、彼女にしては珍しく苦々しい表情でブルートゥを見る。

 

マコトから見たブルートゥという生徒は、恐ろしい程に優秀だった。

人当たりは良く、同僚や後輩からの信頼も篤く、物腰柔らかで、良い意味でゲヘナ生らしくない生徒。

空崎ヒナを苦しめてやろうと増やした仕事を平気な顔で片付け、かの美食研究会や温泉開発部に便利屋68を単独で制圧し、学園間の折衝まで担う……ここまで聞けば誰だって思うだろう、正に模範的な人物だと。

実際、マコトも彼女の事はかなり目に掛けていた。

彼女の使う超大型の火炎放射器もマコトが用意した物だ。

ブルートゥはある日、ヒナが拾って来た生徒…その出自からして気に入らないと思っていたが、彼女はその働きで信用に足る人間だと証明した。

証明した……と思わされた。

 

マコトは目の前のブルートゥを見る。

椅子に縛り付けられ、戦車用の牽引ロープで雁字搦めにされた彼女を。

アビドスの生徒達と大立ち回りをしたと聞いたが…それを感じさせない程度には傷が塞がっている。

もはや、気絶というよりはただ寝ているだけといった風体だ。

 

「………起きろ、ブルートゥ」

 

マコトが重い口を開き、声を掛ける。

報告書にあった事が全て真実だとするならば、高々半日程度で意識が戻る訳がないのだが……

 

「久しいですねマコト、再びこうして席を共に出来るとは…感激だ」

 

まるでずっと起きていたように、ぱっと目を開けてそう答える。

なんとなくそんな気がしていたマコトは、さして驚きもせずに眉をひそめるだけに留めた。

 

「マコト…是非私達の拠点まで来てください、きっと素晴らしい饗しが出来るはずです

ブレイスも、レールキャノンも泣いている…親元を離れ寂しがっているのでしょう」

 

その真に迫った表情に、果たして何人がこれを妄言であると言い切れるだろうか。

それ程に哀切を極めた彼女は目に涙まで浮かべている。

 

「ブルートゥ……なぜゲヘナを───私達を裏切った」

 

マコトは声を荒げる事なく、努めて平常な声音で問い掛ける。

 

「マコト…なぜそんな悲しい事を言うのですか?

私達は想いの通じ合った友人同士だと言うのに…心外だ」

 

そう言って一筋の涙を流す、もしこの場に他の生徒が居ればともすればマコトを糾弾していたかもしれない…それ程に彼女を尊敬し味方する生徒は多い。

ブルートゥがゲヘナを裏切った後も…だ。

 

「レールキャノンを盗み出したのはいい…所詮アレは他校への武力的な『ポーズ』に過ぎん

各校の不良やあのSRTの元生徒達を集めて傭兵集団を組織したのも…まぁいいだろう」

 

大仰に指を立て、目の前のブルートゥを断罪するように視線と口調を鋭くマコトは続ける。

 

「だが…お前が私達を裏切ったあの日、お前と遊ぶ約束をしていたイブキは日が暮れても待ち続けていた

そんなイブキを……お前は無いものとして扱った!」

 

立てた指を真っ直ぐにブルートゥへ突き付ける。

常の不敵な笑みも鳴りを潜め、射貫くように睨め付けるその眼光は三大学園が一つゲヘナ学園の長に相応しいもの。

しかし、そんなマコトの眼光に…ブルートゥはうっとりとした笑みを──まるで想い人との情事の最中に生娘が浮かべるような恍惚とした笑みを浮かべる。

 

「到底許せるものではない」

 

「ならば…どうなさるのですか?」

 

断罪を待つ罪人…というよりは、誕生日を今か今かと待ち望む幼子のような表情でブルートゥは尋ねる。

目が乾き、涙が流れても瞬き一つせずにブルートゥはマコトを見つめる。

その一挙手一投足を決して見逃すものかと、見つめ続ける。

 

「そうだな、ブルートゥ…お前には───」

 

柔和な、人当たりの良い笑みが崩れ…口が裂けたような嬌笑へと変化する。

マコトの言葉に、今か今かと…獣が舌舐めずりをするように。

 

「イブキのオヤツ作成係を命ずる!」

 

「……………………………は?」

 

鳩が豆鉄砲を喰らったような…そんな言葉のお手本のように呆けた顔のブルートゥに構わず、マコトは真剣そのものといった風に続ける。

 

「プリンやパフェは勿論!アイスクリームやババロアにクッキーやケーキだって作って貰うぞ!

キキキ、そして勿論材料費はお前持ちだ…わかったなブルートゥ!!」

 

高らかにそう宣言するマコト。

その顔はまるで、我こそが悪役たるぞとでも言うように歪み…眩しい程に自信に満ちていた。

 

「………マコト、本当にそれで良いのですか?

今回アビドスの面々(ご友人達)へ支払った金銭やゲヘナ学園が被った被害すらも良いと割り切ると……?」

 

それでは罰として軽過ぎるのではないか?そう異を唱える…申し立てたのが罪人本人でなければ真っ当な異議であった。

 

「はっ!金や被害だと?それこそ下らん!!

このマコト様が議長の座に君臨する限り、我がゲヘナ学園があの程度の端金と貴様が起こした小事で()()()()なる事などありはしない!!」

 

キヴォトスでも一二を争う程の生徒数を誇るゲヘナ学園、それを治めるに値する程に…威風堂々、自信満々にマコトは断言する。

 

「精々が風紀委員会の来期の予算が消し飛ぶ程度だ」

 

キキキ、と笑いながらそう締める。

ブルートゥは瞑目し、ゆっくりと…独り言のように呟く。

 

「マコト…貴方は選んだのですね

選ぶのは良い事です、そうでなくては…敵にも味方にもなれない」

 

噛み締めるように、懐かしむように、ブルートゥは呟く。

嬉しそうに、どこか…寂しそうに。

そんなブルートゥを見て、マコトはゆっくりと席を立つ。

 

「何処へ行かれるのですか?」

 

「ふん、お前への文句と処罰は言ってやったからな…ゲヘナ学園の議長は忙しいのだ

これ以上お前一人に(かかずら)ってはおれん」

 

足早にドアまで向かい、手を掛け…振り返らずにマコトは話す。

 

「そうそう、風紀委員会の奴らはこのマコト様の『命令』でいまだに副委員長という重要なポストが空になっているんだったな」

 

あくまでも、振り返らずに…顔を見ずに、見せずに話す。

 

「キキキ!これも全ては空崎ヒナを疲弊させ、奴に地へ頭を擦り付けこの私に媚びへつらわせる為の作戦だ!!」

 

呵々大笑、高らかに笑うマコトは…しかし不意に笑みを消しドアを開けながら呟いた。

扉を開く音で、吐いた言葉を包み隠すように。

 

「………副委員長の座はしばらく空けておいてやる

お前も、私達も……いつまでも子供ではいられん、いつかは前に進まなければならない

身体が大きくなることが、歯が生え替わることが…そうではないぞ」

 

バタン、と閉められた扉の音がいやに大きく聞こえた。

ブルートゥは静かに目を閉じ…上を見ながら呟いた。

誰に聞かせるでもない、独り言を。

 

「わかっていますよ、マコト

ですが、この世界は……いえ、()()()()()マトモでいるには残酷過ぎる

だから、体だけでも遊んでみせるのです」

 

 

議長室のドアを閉め、歩き去ろうとするマコトにドアの前で控えていた生徒達が声を掛ける。

 

「議長、何処へ向かわれるのですか!?」

「もうすぐ懲戒委員会も到着することですし、今しばらくは…」

 

何も言わず去ろうとしたマコトに困惑した様子の生徒達。

マコトは彼女達が何をそんなに焦っているのかと、しばらく考え…やがて得心いったのか口を開く。

 

「無駄だ、懲戒委員会の方は私から連絡を入れておこう

それと……次からは戦車用の牽引ロープではなく、タンカー用の係留ロープにしておけ」

 

マコトの言葉の意味がわからないと、首を傾げる生徒達。

彼女達が議長室で引き千切られたロープと開け放たれた窓を見るのは、この数分後の事である。

 

「ま、マコト議長…!大変です!!」

 

息を切らせて走ってくる生徒に、マコトはまたぞろいつものトラブルかと眉をひそめながら報告をするよう促す。

 

「実は…学園中のゴミ箱に、何者かが大金を遺棄していったようで……」

 

その理由のわからない報告にマコトはキツく眉をひそめ…やがて、一つの心当たりに行き着き苦笑した。

 

「ならば、風紀委員会に……いや、空崎ヒナに回収させておけ

キキキ、ゲヘナ風紀委員長ともあろうものがゴミ箱を漁り金を得ようとは…正にお似合いと言う他あるまい!!」

 

恐らくは、その()()すらも狂いなく用意しているであろう。

どうせ風紀委員会の予算から捻出した金だ…精々頑張って回収してもらおう。

 

ゲヘナ学園万魔殿議長、羽沼マコトは今日も高笑いと共に愛するゲヘナ学園を統治する。

 

 

 

 

 

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