・前回の続きで、オリジナル話。ご都合主義、捏造過多、キャラ崩壊あり
・男主視点。最後だけ、承太郎視点
進路決定
「すみません!お待たせしました」
「いえいえ、お疲れ様です」
放課後。寄り道せずに家に帰ると、家の前には既に六車さんがいた。待たせてしまった事を謝罪し、中に入る。
「ニャー!」
「ただいま、シエル」
リビングに続くドアを開けると、足元にはシエルの姿があった。俺が帰って来たのを察知すると、こうしてお出迎えしてくれる賢い子だ。
俺の家は、財団側が用意してくれた猫用家具のおかげで、シエルが過ごしやすい場所になった。キャットタワー、キャットハウス、猫用トイレに爪磨ぎベッド等々……いろいろ設置してある。
それに加え、俺が猫用のおもちゃも買って来たから、こいつはあまりストレスを感じる事なくお留守番してくれているようだ。うん、お利口さん。
「……やはり、園原さんには相当懐いていますね」
「いやいや。俺だけに懐いている訳ではなく、結構人懐っこいんですよ。六車さんも触れると思います」
「そうなんですか?」
「はい。例の定期訓練の場所に連れて行くと、いろんな人に甘えて撫でてもらっているので」
猫にしては珍しく、シエルはかなり人懐っこい子だ。友好的な相手であれば、初対面の人でも撫でる事が出来る。
シエルを抱き上げて六車さんに近づくと、彼は恐る恐るその頭を撫でる。撫でられた方は気持ち良さそうにしていた。
「本当に触れた……」
「あはは!そんなにびくびくしなくても、大丈夫ですよー」
「ニャオ」
気を取り直して、リビングにある椅子に座るよう促し、紅茶と茶請けを出してから本題へ。
「それで、重要な話とは?」
「はい。……園原さんの、高校卒業後の進路についてです」
「え?」
「もしよろしければ――卒業後、SPW財団の職員になりませんか?」
…………これは、また。予想外の打診だ。
「……一体何がどうして俺の勧誘に繋がったのか、詳しく聞いてもいいですか?」
「もちろんです。ご説明します」
六車さんが言うには、俺は財団職員に向いているらしい。
あの空条承太郎に認められている事もそうだが、スタンド使いの動物と上手く付き合っている事、スタンド能力の汎用性が高く有能である事、俺本人が品行方正であること等々。
これらの理由から、俺を財団職員に勧誘してみようと、財団内部でそんな結論が出たとか。
「それに、あなたは英会話が出来る。その点も評価されていますので、もしも財団職員になった場合は十中八九、アメリカにある財団本部所属になると思われます」
「アメリカに!?あの、その場合シエルはどうなるんですか?」
「ご心配なく。財団がペット可の物件を用意しますので、そちらから本部へ通勤してもらう形になるかと」
そう言われてほっとした。今のところ、シエルの事は心配しなくても大丈夫そうだ。
「それに、園原さん自身の事に関しても、アメリカに渡るためのパスポートやビザの取得、その後のグリーンカードの取得や生活面など。その他諸々、財団が全面的にサポートします。
財団への就職が決まったら後は本人に丸投げ、などという不義理な真似は絶対にしませんので、どうかご安心を」
俺自身の事も、問題無さそうだ。真面目な六車さんの言葉は信用できる。
……しかし、それでも。俺には何故か、迷いがあった。財団職員になれば、後々救済もやりやすくなるだろうし、渡りに船だ。そのはずなのに……
「…………少し、考える時間をもらえませんか?」
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―――――――――
翌日。学校で康一から、露伴とチープ・トリック戦について話を聞いた。どうやら原作通り、振り返ってはいけない小道で決着が着いたらしい。
その後。仗助経由で既に写真の親父が捕まった事を知っていた康一は、鈴美にその事を報告した。
すると、未練が無くなったので明日……つまり今日、成仏すると決めたらしい。
その日の放課後。杜王町のスタンド使い達が鈴美の下に集まり、アーノルドと共に成仏していく姿を見送った。
その場で承太郎から、写真の親父が弓と矢で産み出したスタンド使いは、乙雅三で最後だったと告げられ、皆が安心していた。
……これで、4部のほとんどが終了。あとは、承太郎とジョセフがアメリカに帰るだけだな。
承太郎達は、今月一杯まで杜王町に滞在し、特に問題が無さそうだったらそのまま帰るつもりのようだ。定期訓練も、ギリギリまでやってくれるらしい。
そんな中。あの勧誘から数日経った今も、俺はなかなか決断出来ずにいた。
六車さんには、承太郎達が帰ると同時に財団も撤収するから、期限はその日までだと言われている。一応、まだ悩める時間はあるが……
「志人さん?」
「っ、」
「どうしたんスか?ぼーっとしてましたけど」
「あ、あぁ。悪い。何でもないよ」
はっと顔を上げた俺を、仗助が心配そうな目で見ていた。俺達の周りには、康一、由花子、億康、形兆がいる。
時間は昼時、場所は高校の屋上。数ヶ月前から、この面子で一緒に昼飯を食べるのが当たり前になっていた。
きっかけは、高1組の4人が一緒に昼飯を食べていた所に、俺が形兆を強引に引っ張って合流した事だったと思う。あれ以来それが続いて、今では日常になった。
「何でもない、ねえ……?」
「……仗助?」
「どう見ても、最近の志人さんはそんな風には見えないっスね」
仗助がむすっとした顔でそう言うと、周りにいる4人も頷く。……俺、そんなに分かりやすかった?
「いつもより、元気無いですよ?最近は特に」
「そうね。志人さん、いつもはもう少し明るいはずだもの」
「何かあったんだろうなぁ、って。仗助とも話してたんだぜ」
「……つい先程のように、上の空になる事が増えているぞ」
康一達が口々にそう言った。なるほど、これが本当の四面楚歌……皆が説明しろと、目で訴えている。
味方が何処にもいない。誤魔化せそうにないので、仕方なく事情を説明する事に。
「――財団から勧誘されたァ!?」
「しかもアメリカ行き!?」
「志人のアニキ、杜王町からいなくなっちまうのかぁ!?」
主に騒いだのは仗助、康一、億康の3人だったが、由花子も驚いているし、形兆は珍しく唖然としている。
「そ、それで?志人さんはどう考えてるんスか?」
「……結構悩んでるんだ。俺のやりたい事を考えると、財団に就職するのはかなり良い手だと思ってはいるけど……」
「やりたい事って?」
「んん……内緒」
「ええー?」
原作キャラの救済という目的については、さすがにこいつらには言えないから、内緒という事にしておく。
「あ、でも。財団職員になったら、志人のアニキは兄貴の同僚って事になるのか?」
「…………俺は本部所属にはならないだろう。おそらく、日本にある支部の所属になるはずだ。場所は確か、東京の目黒だったか?」
あぁ、そうか。そういえば形兆は、卒業したら財団職員になる事が既に決まっているんだったな。
「形兆先輩と同じ職場だったら良かったなぁ」
「先輩と呼ぶな。……アメリカに行きたくないなら、その要望を伝えればいいだろ」
「あー……そう、ですね。うん、まぁ、そうなんですけど……」
「……何だ?煮え切らない態度だな」
形兆の眉間に皺が寄っている。怖いよ、先輩。
「いや、アメリカに行くこと自体が嫌な訳では無いんです。ただ、その事を考えると、こう……漠然とした不安が出て来て……」
「ああ……見知らぬ土地、それも日本を出て外国に行くのが不安って事かしら?」
「なるほど。それなら僕も、気持ちは分かります。観光とかじゃなくて、実際にそこに住んで仕事しながら生活するって考えると、不安になるのも当然ですよね……」
由花子と康一はそう言って納得しているが、俺にとっての不安の大本は、おそらくそれでは無い。
前世では仕事の一環で海外に行く事もあったし、長期間滞在する事もあったから、アメリカで生活する事に対しての不安は無いと思う。
しかし。そうなると、俺が何に対して不安を抱いているのかが分からない。その正体が分からなくて、もやもやする。……その時、仗助が口を開いた。
「――もしも、志人さんに"恐怖のサイン"があるとしたら、」
「!」
「それはきっと、その仕草っスね。……胸元を、強く握る事」
……仗助に指差された所を見ると、確かに俺は、いつの間にか胸元を握っている。全然気づかなかった……
「…………ちょっと、仗助君。あいつを思い出させるような事を言わないでよ……」
「あっ悪い、康一!志人さんを見てたら思い出したから、つい口に出ちまった」
「……確か、宮本輝之輔とかいうスタンド使いだったかしら?あたしの康一君に手を出した男……」
「待って待って、由花子さん落ち着いて……!」
"恐怖のサイン"。俺の場合は、胸元を強く握る事……いや、違う。これは!
「あ"あ"ぁぁー……しまった……」
「志人さん?」
「アニキ?……どうした?」
「仗助、ありがとう。君のおかげで、大事な事を思い出したよ」
「え?」
俺の"恐怖のサイン"は、胸元を強く握る事ではない。正確には――服の下に隠された、胸元にあるロザリオを握る事だ。
母が祖母から受け継いだ物であり、母から俺に遺された、唯一の形見。それのおかげで、思い出した。
(墓参りに行ってない!!)
毎年2回、母と祖母それぞれの命日は必ず墓参りに行ってたのに!原作に介入する事や救済とかに夢中になり過ぎてすっかり忘れてた!俺の馬鹿!!
進路で悩んでいる場合じゃなかった。今日の放課後、さっそく墓参りに行かなくては。助手の仕事は……承太郎には悪いが、今日は休ませてもらうおう。
その日の授業が終わり、急いで外に出て公衆電話から承太郎に電話を掛けた。
「そうか……事情は分かった。そういう事なら、今日の助手の仕事は無しでいい」
「すみません、ありがとうございます!」
「……ただし。1つだけ、条件がある」
「はい、何でしょう?」
「その墓参りに、俺もついて行きたい」
「…………はい??」
―――
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―――――――――
承太郎が言う条件には困惑したが、相手は信頼出来る人だし、断る理由は無いので素直に受け入れた。
一度自宅に帰り、シエルには簡単に事情を話して再び外出しようとしたんだが……ニャーニャー鳴いて足元に纏わり付いて来た。どうやら、こいつも墓参りについて行きたいらしい。
何も楽しい事は無いぞ、と。何度も言ったんだが、それでも行きたいようだ。仕方ないから、こいつも連れて行く事にする。
定期訓練に連れて行く時にも使っているペット用スリングの中に入ってもらい、体の前で抱える形で家から外に出た。
車で迎えに来てくれた承太郎と共に、途中で必要な物を買いつつ、母と祖母が眠っている場所へ向かう。
「……教会?」
「はい」
「……クリスチャンだったのか?」
「いえ、俺は違います。……キリスト教徒なのは、俺の身内。母と祖母です。
……母と祖母が信仰している神の存在自体は否定しませんが、俺自身はキリスト教徒になるつもりはありません。
母があの男に……父親に暴力を振るわれていても、神は母を助けてくれなかった。あんなに熱心に神を信じていた母を、助けてくれなかった。
だから俺は、その神の存在自体は認めても、信用はしていない。
絶対に、キリスト教徒にだけはならないと、心に決めています。……かなり傲慢な考え方だという自覚はありますけどね」
「…………そうか」
不敬にもそんな話をしながら、到着した教会の敷地内に入り、母と祖母の墓の前に立つ。……久々に来たせいか、やっぱりちょっと汚れてるな。
「イージス」
「はいはい。何かな?」
「少しの間、シエルを見ていてくれ。墓とその周りの掃除がしたいんだ」
「分かった。任せて」
スリングからシエルを地面に下ろし、イージスの側から離れないようにと言い聞かせて、自由にさせる。
「すみません、承太郎さん。少し待たせてしまいますが……」
「……俺も手伝う」
「えっ!?いや、そこまでさせる訳には、」
「いいから、やるぞ」
……承太郎に押されて、結局2人で掃除する事に。しかし、そのおかげで思っていたよりも早くに終わった。
彼に改めてお礼と謝罪を伝えた後、墓前に花を供え、ロザリオを取り出して跪き、目を閉じて母と祖母に祈りを捧げる。
心の中で墓参りに来れなかった事を謝り、簡単に近況を伝えていると、足元に温もりを感じた。両肩にも、誰かの手が置かれている感覚。
いつの間にか、足元にはシエルが、肩にはイージスが寄り添ってくれていた。……シエルは飼い主の、イージスは本体の悲しみを察してくれたんだろう。
シエルとイージスに笑い掛け、それから祈りを続ける。……やがて立ち上がって振り向くと、帽子を胸に当てて目を瞑っている承太郎がいた。
「……承太郎さんも、祈ってくれたんですね。ありがとうございます」
「…………まあ、な。お前の母と祖母に、俺から個人的に伝えたい事もあったから」
「え?何ですか、それ?」
「さあ?何だろうな。……ところで、志人。最近のお前は様子がおかしいな。何を悩んでいる?」
話を逸らされた上に、後輩達だけでなく承太郎にまで様子がおかしいと指摘されてしまった。……何故だ。何故皆にバレているんだ?解せぬ。
「……実は数日前、六車さんから"高校を卒業したら財団職員にならないか"という、打診を受けまして」
「、ほう……それで?」
ほんの一瞬。承太郎が言葉に詰まっていたような気がしたが、気のせいだと判断し、昼に仗助達と話した事も含めて大体の事情を説明した。
「……で、俺が抱いていた漠然とした不安の大本ですが……こうして墓参りに来たおかげで、その正体が分かりました」
「……何が不安だったんだ?」
「――母と祖母が眠るこの町から、離れてしまう事です」
そう。俺は、大好きな母さんと婆ちゃんの墓がある土地から去る事が、不安だったのだ。
今の俺は、前世の自分としてではなく、今世の園原志人として生きている。
その分、亡くなってしまった2人への家族愛が強いし、未だに2人を失った時の悲しみを引きずっている。
出来る事なら、母さんと婆ちゃんの下から離れたくない。
「…………家族想いの、良い子だな。お前は」
「そんなんじゃ無いですよ。いつまで経っても母親離れと祖母離れが出来ない、臆病なガキです。……こんな有り様では、財団に就職したとしてもちゃんと働けるかどうか……」
「…………」
「……やっぱり、俺には無理だと六車さんに、」
「志人」
「……はい?」
「これは、あくまでも、俺個人の考え……というか、我が儘……なんだが」
財団への就職を諦めようとした時、承太郎がそんな事を言い出した。何やら凄く気まずそうな、申し訳なさそうな顔をしている。
この人の感情がこんなに分かりやすく顔に出るのは、非常に珍しい。一体何を言おうとしている?我が儘って何だ?
「……俺だったら――お前には、アメリカに……俺や、俺の家族の側に、いて欲しい」
「――――」
「他ならぬお前だからこそ、会いたいと思えばすぐに会える距離にいてくれた方が、安心するし、嬉しい」
「――――」
思わぬ言葉を聞き、目を大きく見開いて彼を凝視する。……それに気づいた承太郎は、またもや珍しく目を泳がせ、慌てて被った帽子の鍔で目元を隠した。
「…………あ、……あー、その……悪い。今の、やっぱり無しにしてくれ」
「え」
「別に俺は、お前にアメリカに来いと強制したい訳じゃねえ。今のは本当に、俺個人の我が儘に過ぎない。
志人が進む道は、自分で決めてくれ。お前の大切な人生だからな。お前の人生は、俺のような他人が、勝手に決めていい物では、無い」
だから今のは忘れろ、と。承太郎はそう言って、口を閉じた。……忘れろ、だと?そんなの、無理に決まってんだろ。
まるで迷子の子供みたいに寂しそうな雰囲気で、翡翠のように綺麗な瞳で懇願されて、普段は滅多に周りを頼らない人から"側にいて欲しい"なんて言われたら……忘れられる訳が無い。
そうだ。今のアメリカには、承太郎がいるんだ。実は意外と寂しがり屋で、誰かを頼る事に慣れていない、不器用なこの人が。
(これは……良い機会なんじゃないか?)
俺が、本当の意味で母親離れと祖母離れをする、絶好のタイミングが来たのでは?
今日。墓参りを忘れていた事を思い出し、承太郎がそれについて来た。
そして今、俺が母さん達から離れたくないと自覚して、財団への就職を諦めようとした時。承太郎がその選択を迷わせるような事を言い出した。
……あまりにも出来過ぎた話だが、これにはきっと、ちゃんとした意味があったんだろう。もしかしたら、母さんと婆ちゃんからのメッセージかもしれない、なんて考えが思い浮かぶ。
そうと決まれば、決断した事を承太郎に話そう……と、その前に。
「イージス」
「うん。分かってるよ。志人が何を考えているのか」
「……お前は、どう思う?」
「志人の意思はちゃんと固まっているようだし、それで良いと思うよ。俺はいつでも、志人の味方だ」
「んん、ありがとう。……シエル」
「ニャー?」
「お前は、これからも俺と一緒にいてくれるか?……例え、この町から離れる事になっても?」
「ニャオッ!」
「そっか……ありがとう」
イージスとシエルの意思を確認してから、承太郎に声を掛ける。
「承太郎さん……俺、決めました。――卒業したら、財団職員になります」
「――――」
「アメリカに行きます」
俺には、財団職員になったらやりたい事がある。原作への介入、そして救済だ。……しかしそれ以外にも、たった今、やりたい事が出来た。
「……それでいいのか?無理をしてるんじゃないのか?」
「いいえ。……確かに、母と祖母が眠る杜王町から離れるのは寂しいし、未だに不安です。でも、これは良い機会なんだと思います。
ここで財団に就職するという意思を固めないと、いつまで経っても母と祖母の死を引きずったままになってしまうと、そう、考えています。
今ここで……母と祖母の目の前で、新たな一歩を踏み出すと決意する。そうすれば、2人も安心してくれるはずです」
「…………本当に、いいんだな?」
「はい。……たった今、財団職員になったらやりたい事も出来たので」
「やりたい事?」
首を傾げる承太郎さんに向けて、ここぞとばかりに満面の笑みを見せる。
「最強でも無敵でもないのに何でもかんでも1人で抱え込んで、人を頼るのが下手で、俺に迷子の子供みたいに"側にいて欲しい"なんて言った、どっかの海洋学者さんを――俺の手で、護る事!」
そう言い放った時に、どっかの海洋学者さんが見せた間の抜けた顔は、本当に見物だった。
―――
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―――――――――
当初予定していたのとは別の形になったが――これで、仕込みは大体終わったと見ていいだろう。
(……予想外だな。まさか、俺という"餌"に食い付いてくるとは)
俺の愛すべき助手は、お人好しである。それに、誰かに頼られる事を喜ぶタイプだ。
だからあのタイミングでわざと俺の本音を……我が儘を言い出し、そして志人のためにそれを我慢して引いたと
そうやって弱みを見せれば、あいつは踏み留まるだろうという確信があった。
とはいえ。この場では踏み留まるだけで、アメリカに行く事を決断するまでにはいかないだろう……と、予想していたのだが。
その予想は外れ、志人は俺の言葉をきっかけにして進路を決めた。しかも、財団職員になってやりたい事は、俺を護る事だという。
俺の存在が、志人を食い付かせるのに都合がいい"餌"になったのだ。嬉しい誤算だな。
結果的に俺の思惑通りになった訳だが、俺の予想から外れた行動に出た志人が面白い。……この俺を、護るだって?嗚呼、全く、これだから手放せないんだ!
……だが。正直に言ってしまえば、罪悪感はある。俺は志人の思考を誘導して、自分の意思で俺の側に行くのだと思い込ませようとしているのだから。
その事は、あいつの母親と祖母にも祈りの最中に謝罪した。
(……謝ったところで、止めるつもりなんてさらさらねえ癖に)
我ながら自分勝手だな、と。自嘲する。
賢い志人の事だ。卒業後に財団職員になって俺に会えば、早ければその時点で俺に嵌められたのだと気づくはず。
もしかしたら、それに怒って俺から離れようとするかもしれない。
そうなる前に、もっと距離を縮めなくては。例え嵌められたのだと分かっていても、それでも俺の側にいると、自分の意思でそう思わせるために。
ようやく……ようやく見つけた、俺の理解者だ。手放せない。側に置いておきたい。逃がさない。
(釣った魚に餌はやらない――なんて、間抜けな事はしねーよ。むしろ、魚の周りに網を張り巡らした上でさらに餌をあげて釘付けにしてやる)
志人のために買っておいた
・卒業後の進路を決めた助手君
いろいろと迷った末に、財団職員になってアメリカに行く事を決意。目的は原作介入と救済、そして承太郎を自分の手で護る事。
"恐怖のサイン"は、服の下に隠されたロザリオを握る事。仗助に指摘されたおかげで、墓参りの事を思い出した。俺の馬鹿!!
墓参りへの同行を許す程に、承太郎の事を強く信頼している。故に、彼の言葉は園原に大きな影響を及ぼす。
承太郎が(わざと)口にした本音がきっかけで、財団職員になる事を決断。自ら逃げ道を潰してしまったという自覚は無い。
なお。日本から離れても、年に二度の墓参りは止めない。母と祖母の命日には、休暇を上手く利用して一時的に帰国するつもりでいる。
・墓参りに同行した海洋学者
本気で欲しいものを手に入れるためなら、手段を選ばない。少年(外見年齢)を罠に掛ける悪い大人で、ずるい大人。
園原が財団への就職を諦めようとした時、あえて弱みを見せる事でお人好し精神を煽り、踏み留まらせた。
ちなみに。普段は隠している感情を顔や態度に出して分かりやすくした事も、わざとである。
囲い込み計画の仕込みは大体終わった。あとは、自分自身という"餌"から獲物が離れていかないように、釘付けにするだけ。
そのための手段として、