「くっ……C―MOONッ!!」
「――がっ!?あああ"あ"ぁぁっ!?」
その時、突然背後で耳を劈くような悲鳴が上がる。……咄嗟に振り向いたあたしは、自分の目を疑った。
「志人っ!!」
「ゆ、志人さんッ!?」
「いやああぁぁッ!?」
「アニキィィッ!?」
「仗助ェッ!!治せ!!早くッ!!」
「今やって、……っ、だ、駄目だ――修復が追い付かねェッ!?」
…………お兄ちゃんの全身から血が噴き出して、周りが、血の海になっている……仗助さん達も、返り血だらけだ……
「シドォォッ!!」
「お、おい!あいつヤバイんじゃねえか!?」
「あんな大量の血が一気に!?しかも仗助の治療が追い付いてない!?」
「まずいな……あのままでは……ッ!!」
「ああ――遠からず、出血多量で死んでしまうぞ!!」
死ぬ?……お兄ちゃんが。あたしの志人さんが、死ぬ。
「…………いや……いやだ、嫌ッ!!志人さ、」
「落ち着け、徐倫ッ!!」
「っ!?」
衝動のままにあの人の下へ駆け寄ろうとしたあたしを、お父さんが止めた。なんで?なんで止めるのッ!?このままじゃ志人さんが……!!
「よく見ろ――イージスのバリアが、未だに神父を閉じ込めている!」
「…………え?」
「やれやれだぜ、まったく……!あの子はまだ、諦めてねえんだよッ!!」
それを聞いて、はっと振り向く。確かに、バリアはまだ解除されていない!それにバリアの外の重力も正常だ!
つまり。あの人は今も、神父から発せられる強大な重力と戦い続けているッ!!
「ば……馬鹿なッ!!重力を逆転させる力をさらに強めたというのに!未だに、バリアが破れないだとォッ!?
くそっ、信じられん!最強の盾……!!貴様、化け物かァッ!?」
あのプッチ神父が!今までに見た事が無い程に動揺している……!!志人さんは奴にとって想定外の力を発揮しているんだ!!
「…………ま、……、る……」
「志人さん……!?」
「……ま、も……る……っ、おれが――」
「――――じょ、たろ、は……みんな、は……俺、が、護る……っ!!」
……それは、か細い声だった。でも、不思議とはっきり耳に残った。きっと、皆に届いた……!!
「――――スタアァァプラチナァァッ!!」
「オラアァァッ!!」
その時。今までずっと冷静だったお父さんが、思い切り叫んだッ!!
スタープラチナが、リゾットさんが予め作って置いた鉄製の槍を掴み、プッチ神父に向かって投げたのだ!
物凄い勢いで飛んで来た槍を、C―MOONが両手で殴って止める……が、
「ぐ、おおォォッ!?」
時は止めていない。ただ、神父が咄嗟に反応できない速さで投げただけ。
スタンドが1本目を殴って止めている時、それ以外の動きが出来ない隙を突いて2本目で本体を狙ったんだ!!さすがお父さん!
「今だ!攻めろッ!!あの人を……志人さんを死なせるなァッ!守ってもらってる借りを返すぞ!!」
「よーし!行くぞーッ!!」
「ウェザー!協力しろッ!シドの命が尽きる前に!あの神父を叩き潰すッ!!」
「ああ、分かった!!」
エルメェス達が、お父さんが作った隙を突いて攻撃していく。…………ん?
(アナスイ……?)
エルメェス達の中に、アナスイが加わっていない。いつの間にか消えていた!いったい何処へ!?
「――ダイバー・ダウンッ!!」
後ろから彼の声が聞こえて、振り返る。……アナスイの全身から血が噴き出していた!
「アナスイッ!?」
「ぐ、おおおォォッ!?こっ、これ程のダメージを、今まで、1人で……ッ!?なんて奴だ!!」
「…………あ、れ……?」
「志人さん!!」
「傷が……!傷がちゃんと治ってるわ!!」
「さっきまであんなにボロボロだったのに、なんでだ!?」
「これは……まさか!そいつがスタンド能力で、園原のダメージを肩代わりしているのか!?」
「……グレートだぜ、アナスイッ!マジで肉壁になるとはなァッ!!おい、お前ら!志人さんの事は頼んだぜ!俺はあいつを治しに行く!!」
「わ、分かった!こっちは任せて仗助君!」
……志人お兄ちゃんの怪我が綺麗に治った。でも、アナスイが身代わりになっている!!
早く神父を倒さなければ!このままだとお兄ちゃんは無事でも、アナスイが無事では済まされないかもしれない!急げ!!
お父さん達に続いて、あたしも攻撃を仕掛けようとした――次の瞬間、イージスのバリアの形状が、大きく変わった。
「な、……何?あれ……変な壺、みたいな?」
見た目は、取っ手が付いてるけど変な形の壺、って感じだわ。
でも、その取っ手が壺の中を貫通して外に出て、バリアの天井に繋がっていて……?何かしら?違和感しか感じない形ね。
「あれは――っ、そうか!そういう事かッ!あれなら、志人の想像力次第で重力を上手く逃がす事ができる……!!」
「お父さん?どういう事!?」
「おそらく志人はバリアをあの形にする事で、神父を中心とした重力を逆転させる力を大地に……地球へと逃がす流れを作ったんだ!
つまり。あの力を受け止める相手が、志人から大地へと変わった!
重力とは本来、簡単に言えば地球が物体を引っ張る力だ。そこにあの力を逃がしても、悪影響を及ぼす事はほとんど無いはず……!
これで志人や、その身代わりになっていたアナスイの負傷は避けられる!!」
「っ!!」
再び後ろへ振り返ると、確かにアナスイの怪我は完治しているし、お兄ちゃんは康一さんと由花子さんに支えられているけど、無傷で立っている。
お父さんの言う通りだった!彼らが傷付く事はもう無い……!!
「小賢しい真似を……!ならば、またバリアを殴って裏返してやれば――っ、何……!?馬鹿な!なぜ何も起こらない!?」
さらに。C―MOONがバリアを殴っても、お兄ちゃんのダメージを肩代わりしているはずのアナスイは無事だ!どうして……?
「…………なるほど」
「お父さん?」
「あの壺は、"クラインの壺"と言ってな。とある数学者によって考案された、境界も裏表もない閉曲面……
詳細は省くが、その原理を徐倫にも分かりやすく言うなら――メビウスの輪、だな。大体は、あれと同じ物だと思っておけばいい。
裏表の概念が無い物は、奴の力で裏返す事はできない。だからアナスイにダメージが通らなかったのだ」
――――メビウスの、輪。
「お父さん」
「……ん?」
「そして、お兄ちゃんも……ありがとう!おかげで思い付いたわ――必勝法をッ!!これなら奴を、思い切りぶん殴れる……!!」
おそらく、この方法を使えるのはあたしだけだ!でも……
「問題は、奴に接近する方法ね……お兄ちゃんが重力を逆転させる力を大地に逃がしているとはいえ、多分あのバリアの中に入ってしまえば、また水平に落ちてしまうだろうし……」
「では、僕が足場を作りましょう」
「えっ?」
「……ジョルノ。フレッダメンテの奴らはどうした?」
「ああ、
「そうか。なら良い」
歩み寄って来たジョルノさん達は、全員無事だった。フレッダメンテの奴らは……遠くで倒れているのが見える。完全に沈黙したようね。
服装や髪の乱れや汚れから、それなりに激しい戦闘があったみたいだけど、ジョルノさん達に目立った外傷は見られなかった。
これで、残る敵はプッチ神父のみ。ジョルノさん以外の3人は、既に奴に攻撃を仕掛けている。……それで、足場を作るとは?
「僕がスタンド能力で生命力を注ぎ、地面に木を生やせば、それが足場になってくれると思います。
ちょうどこの地域の気候に合っていて、根や幹が頑丈な木に心当たりがありますし……あれなら、重力を逆転させる力にも負けないはずだ」
「……じゃあ、その木を神父の背後に生やす事は出来る?」
「もちろん、可能ですよ。心配なのはイージスのバリアに当たってしまう事ですが、そこはシドが上手くすり抜けるようにしてくれるはず」
「分かった。それなら、あたしがジョルノさんを呼んだらその木を生やして。頼んだわよ。あとは……エルメェス!リゾットさん!ちょっと来て!」
2人を呼ぶと、すぐに来てくれた。手短にやって欲しい事を伝えると、エルメェスに肩を掴まれる。
「まさか、お前!神父と接近戦をやる気か!?勝算はあるのか!?」
「あるわ。……これは、あたしじゃないと出来ない事よ」
「…………」
「エルメェス――あたしを、信じて」
「…………くそォッ!分かったよ!!死ぬんじゃねえぞ!?」
「うん、任せて!」
これで、準備は出来た。あとは実行するだけだわ。
「徐倫」
「……お父さん」
名前を呼ばれて、両手で手を包まれた。……とても大きな手だ。
「長きに渡る、ジョースター家とDIOの因縁――その決着を、お前に託す」
「――――」
「…………必ず、生きて、戻って来い」
「……分かった」
お父さんの手が離れてから……志人お兄ちゃんの方を見る。目が合って、強く頷かれた。
(……うん。いってきます)
心の中でそう返事をしてから、ジョルノさんを呼んだ。
「ジョルノさん!お願いッ!!」
「――ゴールド・エクスペリエンスッ!!」
そして、彼がプッチ神父の背後に生やした木は――
「――さ、サクラァッ!?」
「桜が生えて来た!?」
「……あれほど立派な桜の木を、まさかフロリダで見る事になるとは……!!」
淡い紅色の花を咲かせる、大きくて立派な桜の木。確かにあの大きさと太さなら、足場としては充分!
ただ……今からやる事を考えるとちょっとだけ気が引けるけど、やるしかない!
「リゾットさん!!」
「了解した!」
リゾットさんが、予め生み出しておいたナイフを桜の木に向かって投げる。ナイフは木の幹にしっかりと刺さった。傷付けてごめんなさい!
そして、最後に――エルメェスのスタンド能力で複製しておいたナイフに貼ったシールを、剥がす。
複製したナイフが元に戻る力を利用して、木の上……神父の真上に着地した!
「空条、徐倫……ッ!!」
「プッチ神父……決着を付けに来たッ!!」
桜の木を足場に、ストーン・フリーの糸も使って体勢を維持しながら神父に接近し、殴り掛かる。C―MOONの拳とぶつかった。
「まずい、裏返……って、ない!?」
「裏返らない!徐倫の手は無事だ!!」
「あれって、もしかして――メビウスの輪ッ!?」
そう。あたしが考えた必勝法とは、肉体を解いた糸をメビウスの輪の形にする事!
これならクラインの壺と同じく、裏表の概念が無いから裏返らない!!奴に殴られても無傷で済む!
「――徐倫っ!!心臓と脳だ!心臓と脳を守れぇっ!!」
「っ!!」
その時、お兄ちゃんの叫び声が聞こえた。咄嗟に心臓と脳をメビウスの輪の形にした途端、C―MOONの拳が心臓に当たった!
危ない……ッ!!もしも直撃して心臓が裏返っていたら即死だった!お兄ちゃんは神父の狙いを読んでいたのね!?助かったわ……!
「――天使を、その身に宿す者……ッ!!そうか、お前もか!お前も私が克服すべき運命だったのかァッ!?」
そう叫ぶプッチ神父は隙だらけ――勝機は、今ッ!!
「――オラオラオラオラオラァッ!!」
……地面に向かって勢い良く殴り倒したせいか、衝突した時に土煙が上がった。下がよく見えない……奴は?倒したのか!?
「……っ、おっと!?」
すると突然、体に掛かる重力が正常に戻ったため、慌てて木にしがみついて体勢を整えた。……重力が正常に戻った、という事は!
スタンド能力を利用して、木の上から地面に降り立つ。……土煙が晴れていく。その先には……大の字に倒れて気絶している、プッチ神父の姿が。
スタンドは消えている。重力も戻った。神父は気絶している。…………つまり、
「勝っ、た……?」
あたしが呆然としていると、誰かが駆け寄って来て抱き着かれた!
「徐倫ッ!!よくやったァッ!!」
「え、エルメェスッ!?」
「勝ったぞ、徐倫!!神父に勝ったんだァッ!!」
「うわ、ちょっ、F・F!?」
抱き着いて来たのは、エルメェスとF・Fだった。それからウェザーとアナスイも、杜王町の人達もやって来てもみくちゃにされる。
そうされてるうちに、実感が湧いて来て……気がつけば、皆と一緒に笑っていた。勝った。終わったんだ……!!
皆と勝利を喜び合う中――視界の端で、お父さんとお兄ちゃんが、あたし達を優しく見守っているのが見えた気がした。
―――
――――――
―――――――――
……長い戦いが終わり、後に駆け付けてくれた財団職員達も加わって、つい先ほど大体の後処理が終わったところだ。
一時的にここから避難していた人達も、財団職員達と共に既に俺達と合流済みである。
駆け付けて来た人達の中に、ホルマジオとイルーゾォだけでなく残りの暗チのメンバー6人や、六車さんや風花さん、それにトリッシュまでいて俺がちょっと大変な事になったのだが……それはさておき。
今は、プッチ神父が拘束されて連行されて行くのを、皆で見送っている。奴のスタンド能力は露伴が封じてくれたから、既に危険性は無いと見ていいだろう。
(…………終わった……長かった……)
皆の視線が神父に集まっている隙に、その場からこっそりと離れて……ジョルノが生み出した桜の木の下で、深く、安堵のため息をつく。
すると、ある2人の人物が近づいて来た。彼らもこっそり抜け出して来たのだろう。
「……イージス」
「了解」
その2人が目の前にやって来たところで、俺達の周りに防音バリアを張った。
「――――これで、"物語"は終わったのか?」
「あぁ。ラスボスはあの通り、スタンド能力を封じてもらった上で退場させたし――
――ジョジョの奇妙な冒険。第6部、完!だ」
「そうか……長かったな、まったく……」
「本当にな……」
「…………やれやれだぜ」
「――――承太郎さん、露伴先生……本当に、ありがとう。あんた達が協力してくれたおかげだ」
「ふっ……その言葉は、どっかの黒柴とワイマラナーにも言ってやれ」
「もちろん、あの2人には戦いが終わった直後に言ったよ。……承太郎さんと露伴先生の事は、仗助達には今後一生隠さないといけないけどな」
「ククク……ッ!あのクソッタレ仗助よりも、僕の方が全ての真相を知っているというのは、非常に気分が良いなあ!」
「……露伴先生、優越感に浸るのはいいけど仗助には絶対にバレないようにしろよ?バレたら後が大変だぜ?多分」
「分かってる。犬に喚かれるのはごめんだ」
「……本当にバレたら怖いのはもう1匹の方だと思うが、な……背後から噛まれる、いや、刺されるかもしれねーぞ」
「…………そんなに怖いんですか?あのワイマラナー」
「ああ、怖い」
「えー?リゾットさんは別にバレてもそんな事するような人じゃないぞ?」
「そりゃあ、志人にはそうだろうな。リゾットも仗助も」
「危ないのは僕と承太郎さんなんだよ!」
「んん??」
……"6部介入作戦"の主犯である俺が首を傾げると、真の共犯者達は揃ってため息をついた。
・"物語"の終わりを飾った6部主人公
長きに渡るジョースター家とDIOの因縁に決着を付けた、空条承太郎の娘にして、ジョナサン・ジョースターの子孫。
目まぐるしく変化する状況、大切な人の命の危機など。様々な事に振り回されながらも戦い続け、最後にはラスボスを倒してみせた。原作主人公として大活躍。
最後に鍵となったのは、園原が作り出した重力を大地に逃がすクラインの壺を模したバリアと、それを補足説明した承太郎の言葉。――――メビウスの、輪。
戦いが終わり、その喜びも落ち着いて、黒幕も退場した後。彼女が思った事は――
――やっぱり、もう少し大人になったら、とか言ってる場合じゃないわね。
・ラスボス戦に参加した6部勢+リゾット
承太郎や徐倫に、リゾット。それから4部勢や5部勢と比べて、6部勢には園原に思い入れは無いが……
自身を犠牲にしてまで自分達を守り切った事、死にかけていても"皆を護る"と言ったか細い声は届いており、それが彼らの心に火を付けたのは確か。
リゾットは園原の命の危機に対し、普段以上に感情的になっているため、珍しく冷静ではない。
承太郎が止めなかったら刺し違えてでも神父を殺しに行っていた可能性大。しかし、その後は主にウェザーと協力し合って攻撃に参加していた。
・助手君の護衛についた4部勢
園原が全身から血を噴き出した時は、全員返り血も気にせず思わず絶叫。大事な先輩&後輩が大出血で血の海になったらそりゃ叫ぶ。無理もない。
仗助は園原の治療で大忙しだったため、神父に対してぶち切れる暇はなかった。
後に、アナスイが園原の身代わりになった事に驚愕。マジで(承太郎に使われる前に)肉壁になるとはなァッ!!
・残党狩りに出た5部勢
DIOの血と決別した事で、内心最高にハイッ!になっていたのもつかの間。組織の裏切り者によって一気に不快な気分にさせられたドン・パッショーネ。
プッツンしたジョルノに対し、ミスタ達は戦慄。ボスの命令に大人しく従い、残党狩りへ。
後に園原の大量出血事件を目撃し、そのか細い声も聞こえたので速攻で残党狩りを終わらせて戻って来た。裏切り者達は涙目。
・土壇場で覚醒(?)した神父
どういう訳か、ケープ・カナベラルにも到着していないのにC―MOONを発現させたラスボス。……実は、園原がやってしまったとあるミスが原因。
園原達が裏でいろいろと動いた結果。敵側が戦力過多となり、オリジナルの組織もいたがほとんど1人で大勢のスタンド使いを相手取る事になってしまった。
原作とは違って生存しているが、徐倫に倒されるまでに散々な目に遭っている。プッチ神父ごめんなさいby作者
・全ての真相を知る主犯と、共犯者(真)2名
プッチ神父のスタンド能力から全員を護ってみせた園原、6部勢と共にラスボス戦に参加した承太郎、最終決戦には不参加だったが実は重要な役目を担っていた露伴。
彼ら3人の計画、"6部介入作戦"が始まったのは、原作5部終了から数年後のある日の事だった――