空条承太郎の友人~原作介入~   作:herz

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・4回分という、かなり長めのエピローグ

・登場するキャラが多過ぎるため、いろいろと拙い点があると思いますが、見逃してもらえると嬉しいです。すみません……

・ご都合主義、捏造過多(特に登場人物達の心情について)、キャラ崩壊、男主×徐倫の描写あり




・エピローグ③。最初はアナスイ視点、途中から男主視点




“120点”の回答

 

 

 

 

「俺さァ――不倫で生まれた子供なんだよ」

 

 

 徐倫の親戚……東方仗助が、突然そう言った。いったい何の冗談だと思ったが、相手は真顔だった。

 どうやら、嘘ではないらしい。開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 SPW財団主催の慰労会。それが開かれると知った俺は、欠席しようとした。

 徐倫に振られて、彼女に口も利いてもらえない……関係を修復するにはどうすれば良いか必死に考えている時に、慰労会になんか行けるはずがない。

 

 だが、ウェザーやエルメェス、F・Fによって会場まで強引に連れて来られた。

 ホテルの客室にずっと引きこもったままでは良い考えは浮かばない、気分転換に参加しろ……との事だった。

 

 強制的に参加させられた事には、当然だが文句は言った。……だがしかし、あいつらの言い分にも一理ある。

 俺はそう思ったからこそ、勝手にホテルに帰らずにこの場に残った。

 

 

 慰労会には、現在は財団本部の預かりになっているというエンポリオも来ていた。……そこへ俺達が合流したところで、仗助もやって来たのだ。

 

 こいつはホテルでは俺の同室で、既にウェザー達から俺が徐倫に振られた事とその後の結末を聞いている。

 しかし……仗助はここ数日の間、その件については何も言おうとしなかった。確かにウェザー達から話を聞いたはずなのに、俺の前では話題にもしない。

 

 それどころかウェザー達のように俺を腫れ物扱いする事もなく、ごく普通に話し掛けて来る。……正直に言うと、俺はこいつのそんな態度に救われていた。

 仗助のおかげで、ホテルの客室は居心地が良かった。俺が客室に引きこもっていたのはそれも原因かもしれない。

 

 それはさておき。俺達の下にやって来た仗助は、ウェザー達の会話の中にするっと入り込んで談笑を始めた。

 ……そして気がついた時には、その輪の中に俺も入れられていた。

 

 これには素直に驚いた。俺は本当に、いつの間にか、こいつらとの会話を楽しんでいたのだ。

 それをやった張本人……仗助はそんな事をおくびにも出さずに笑っている。なんて奴だ。

 

 

 その後。ウェザーが話したい奴がいるからと言って、一旦俺達と別れた。……話したい奴というのはおそらく、リゾットだな。

 どういう訳か、ウェザーと奴は相性が良いらしい。ホテルでも同室だし、それで仲良くなったのだろう。

 俺としては面白くないが、余計な口出しをしてこれ以上あの狂犬……もとい、リゾットに目を付けられたくない。だから何も言わない事にした。

 

 ……ウェザーが立ち去ってからしばらくして、今度は仗助が俺と2人で話したいと言い出した。

 俺はそれに頷いて、仗助と共にF・F達の下から離れる。……多分、こいつは後々話がしやすくなるように、俺の緊張が解れるのを待っていたのだろう。

 

 

 そして突然、冒頭の暴露を聞かされた訳だが。

 

 

「ちなみに母親は日本人で、父親は……承太郎さんの祖父で、徐倫の曾祖父だ。今もこの会場に来てる」

 

「…………つまり、かの不動産王……」

 

「その通り」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……それ、俺が聞いて良い話だったのか?」

 

「まあ、駄目だろうなァ」

 

「おいおいおいおい」

 

「はははッ!って事で他の奴らには一応、内緒で頼むぜ。……と言っても、財団職員の間では結構知られてる事だし、そのうち耳に入ってたかもしれねェけど」

 

 

 そう言って快活に笑う仗助が、そんな複雑な家庭事情を抱えていたとは……まったく想像がつかない。

 こいつも何の問題もない幸せな人生を送って来たのだろうと、そう思い込んでいた。……数日前まで、俺が園原志人に対してそう思っていたように。

 

 

「それでさァ……俺はガキの頃から、母親があのジジイの事を思い出して泣いている姿を、何度も見てるんだ」

 

「…………」

 

「今でもジジイの事を、愛しているんだよ、あの人……だから、再婚もしない。

 

 

 ずっと、1人の男を一途に想ってる。……その姿に、今のお前が重なって見えちまった」

 

「!」

 

「きっとお前も……あの人のジジイに対する想いと同じぐらい、徐倫の事を愛してるんだな、って」

 

 

 俺を見る、真っ直ぐな視線から……思わず、目を逸らす。

 こいつは確かに徐倫と血が繋がっているのだと思った。その目の輝きは、徐倫の目を彷彿とさせる。直視出来ない眩しさを感じた。

 

 

「…………志人さんに対して殺意を抱いている事は許せねェし、あの人の母親を侮辱した事も許せねェ。俺自身も母親を大事にしてる身だから、尚更な……!!」

 

「…………」

 

「……でもな。一途な母親を幼い頃からずっと見ていた俺としては、お前の気持ちも理解できる。

 ――だから、いくつかヒントをやるよ。徐倫と仲直りするための方法……正しい順番とやらに関してな」

 

 

 その言葉に、はっと顔を上げる。ヒント、だと?

 

 

「徐倫が俺に対して何を求めているのかが、お前には分かったというのか!?」

 

「……ああ。F・F達から徐倫とお前のやり取りとその結末を聞いたが、どう考えても正しい順番ってのはこれしかねェだろうなと思ってる。

 だが、これはお前が自分で気づいて、本心から行動を起こさないと意味が無い……って訳で、俺からはヒントしか言わない。後は自分でどうにかしろよ」

 

「…………分かった」

 

 

 藁にも縋る思いだった。教えてくれ、そのヒントを!

 

 

「まず、前提として……お前は人としてやって当たり前の事を、徐倫に対しては出来たのに、志人さんには出来なかった。で、最初から順番を間違えている」

 

「……徐倫に対しては出来て、園原に対しては出来なかった……そして最初から、順番を間違えている……」

 

「そうだ。それからさっきも言ったように、お前自身が本心から行動を起こさないと意味がねェんだ。その行動を嫌々やっても徐倫は許してくれない」

 

「…………」

 

「……その顔、自分が何をすればいいのか分かってきたな?それなら最後に、ヒントというかアドバイスしてやるよ。

 志人さん――園原志人という人間について。徐倫の事も、お前個人の好き嫌いも、一旦無視して客観的に考えてみろ」

 

「…………園原を、客観的に……」

 

「そうすれば、お前ならきっと……いや、これ以上は余計なお世話か?

 とにかく、しばらく1人で考えてみろよ。俺はF・F達の所に行って来るぜ。じゃあな」

 

 

 言うだけ言って、仗助は去って行った。ヒントどころの話じゃなかった。大ヒントじゃねえか。

 ……否。俺がそう思ったのは、おそらく……本当は、仗助に言われるまでもなく無意識に分かっていたからだろう。徐倫の言う、正しい順番が。

 

 ただ、俺が個人的にそれを認めたくなくて……やりたくなくて、目を逸らしていただけだったのだ。

 "その行動を嫌々やっても徐倫は許してくれない"……ああ、そうだな。その通りだろう。これは俺が本心から行動しないと……口にしないと、意味が無い。

 

 しかし。どうしてもその気になれず、頭を抱える。…………仕方ない。仗助のアドバイス通り、奴について客観的に考えてみるとしよう。

 奴の事は、F・Fから大体聞いている。あいつは一足先に刑務所から脱出した後、仗助から園原についていろいろ聞かされていたらしい。

 

 

 園原志人。30歳独身。出身は日本の杜王町で、純日本人。

 職業は財団職員で人事部に所属しているが、主な仕事は承太郎の助手役。財団から派遣される形で働いている。

 学校を卒業した後すぐにアメリカに渡って財団職員になり、それから今まで10年間、承太郎の助手を勤めて来たようだ。

 

 学生時代から成績優秀で頭が良く、当時後輩だった仗助達に勉強を教える事もあったという。

 また、無類の読書家であり、洋書を原文で読みたいからと、学生のうちにわざわざ独学で英語を習得するぐらいの本好き。

 そして。同じ理由で学生のうちにイタリア語をマスターし……その後、働きながらもこれまた同じ理由でフランス語やドイツ語まで覚えてしまったとか。

 

 このように、園原は勤勉で真面目な人間だ。そして物腰が柔らかく、人に好かれやすいタイプ。実際ホテルでの生活中も、奴の周りには常に人が集まっていた。

 ――総じて、非の打ち所の無い人間。これが、園原志人という男を客観的に見た結果だ。

 

 

(ああ……分かってる。そんなの、とっくに分かってたんだよッ!!)

 

 

 なんせ俺は、奴が明確に恋敵だと判明した時から念入りに奴の粗探しをしていたというのに!それらしい欠点なんて全く見つからなかったからな!!

 

 

 ……だから、数日前。園原がプッチ神父を生かすつもりでいる事を知った時は、ようやくその欠点が見つかったと思った。

 徐倫の敵を生かそうとする、その甘さが気に入らなかった。奴を非難する口実が出来たと、そう思っていたんだ。

 

 その後の神父と取引したかどうかの話は、園原を挑発するために適当に口にした事だった。……園原の両親の話を出した事も、同じだ。別に、本心ではなかった。

 どうせ園原は何の問題もない幸せな人生を送って来ただろうから、両親だって善人だろう。その両親を侮辱すれば、いくら園原でも怒るだろう。

 そして売り言葉に買い言葉でスタンド勝負に持ち込んで、俺が徐倫を勝ち取ればいい……そんな事を考えていた。

 

 あの時の承太郎に匹敵する程に恐ろしい、怨嗟の声を聞くまでは。

 

 ……その直後に徐倫に殴られて、承太郎からも園原の両親の話を聞いて……何も、言えなくなった。

 だが俺にとっては、園原の両親の事よりも徐倫に殴られた事の方が重要で、まずは彼女に謝罪しようと、それしか頭に無かった。そして見事に失敗した訳だ。

 

 

 これらを踏まえて、改めて園原志人について客観的に考えてみると……

 

 奴は幼少期に悲惨な目に遭ったというのに、それでも今のような非の打ち所の無い人間へと成長した。

 母親と自分を侮辱した俺を殴る事を我慢してその場から立ち去り、頭を冷やした後も俺に対して何も言わなかった。

 

 それに……ああ、そうだ。思い出した。園原は、徐倫に無視される俺を、本気で心配そうに見つめていたのだ。

 その目に哀れみの色はなく、ただただ純粋に、俺の事を心配していた。

 

 そんな心配をしてくれた相手に、俺は何をした?

 

 ……恋敵だからと身勝手な殺意を抱いた。何度も殺気を送った。言い掛かりをつけて園原とその母親を侮辱した。

 知らなかったとはいえ、あいつの幼少期のトラウマを刺激してしまったのに……未だに謝罪していない。

 

 

 園原は……自分に殺意を抱く相手の事を本気で、純粋に心配してしまう程に優しい心を持っている。とんでもないお人好しだ。

 

 

 

 

 

 

(――認めるしかない……いや、認めよう)

 

 

 俺は今、園原に対して"心から申し訳ない"と思っているのだと、素直に認めた。……認めたからには、言わなければならない。今度こそ、正しい順番で。

 そう決意して、顔を上げると……いつの間にかF・F達と仗助の下に、徐倫と園原が来ていたようだ。

 

 園原はエンポリオの前で膝を突き、目線を合わせて会話していた。エンポリオに向けるその眼差しは、余りにも優しい。

 その隣に、徐倫がしゃがみ込んだ。彼女もエンポリオに話し掛けて、3人で仲良く笑っている。

 

 

 それを目にした瞬間、あの2人の"未来"が見えた気がした。

 

 

(嗚呼……クソが!お似合いだな、クソッタレ!!泣きたくなる程に……ッ!!)

 

 

 

 

―――

―――――

――――――――

 

 

 今、俺の目の前にはエンポリオがいる。彼はエルメェスとF・F、それから仗助と一緒にいた。

 形兆の話では、仗助はアナスイを心配してその側に行った、との事だったが……そのアナスイは彼らから離れた場所にいて、何やら難しい顔をしている。

 

 …………後々、俺がやろうとしている事について考えると、彼とは先に何らかの形で決着を付ける必要がある。……本来なら、な。

 

 だが、俺が何を言っても彼は怒るだろうし、きっと決着を付けるどころではなくなるだろう。

 今のところは、俺がやろうとしている事を終わらせた後に、責任を持って対峙しようと思っている。

 

 

 おっと、それはさておき。エンポリオに挨拶しないとな。

 

 

「では、改めて……初めまして、エンポリオくん。園原志人だ」

 

「は、はい!はじめまして、エンポリオ、です」

 

「あはは、緊張してる?大丈夫、大丈夫。お兄さん、怖い人じゃないから。

 ……って、先月30になったばかりのおっさんだから、お兄さんって年齢じゃないんだけどな」

 

「え、30!?若い……!!」

 

「おっ、若く見える?それは嬉しいなぁ、ありがとう」

 

 

 子供に威圧感を与えないように、膝を突いて目線を合わせて、柔らかい声音を意識して会話する。

 ……この少年が、原作では承太郎達の意志を受け継いでプッチ神父を倒したのか……そう思うと、感慨深い。

 

 

「……なぁ、エンポリオくん」

 

「はい」

 

「頭、撫でても良い?」

 

「うえッ!?」

 

「あ、ごめん。なんでもない、今のは忘れてくれ」

 

 

 10年前。初対面だったようじょりーんの頭を撫でた時に、一度逃げられてしまった経験がある。

 それ以降、初対面の子供の頭を撫でる時は、最初に許可を取るようにしようと考えていたのだが……

 

 やっぱり突然過ぎたよな。止めておこう……と思っていたら、エンポリオが帽子を外した。おや?

 

 

「あの……どうぞ」

 

「えっ、いいの?無理してないか?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「……それじゃ、失礼」

 

 

 さっそく、その頭を撫でてみた。やり過ぎるとそれこそ逃げられてしまいそうだし、出来る限り短い時間で終わらせてあげよう。

 

 

「こんなに小さいのに、あの刑務所で逞しく生活してたんだよなぁ――今までよく頑張って来たな。よしよし、偉いぞ。いい子だ」

 

「――――」

 

「……はい、終わり!ありがとな、撫でさせてくれて」

 

 

 頭から手を退けて、最後に笑ってお礼を言うと……エンポリオがじいっと見つめてくる。なんだ、どうした?

 

 

「…………あ、あの……」

 

「んん?」

 

「――志人お兄ちゃんって呼んでもいい?」

 

「あぁ、もちろん。いいよ」

 

 

 不安そうにしていたので微笑みながら頷くと、輝く笑顔が返って来た。うん、可愛い。

 

 

 

 

 

 

「出たァ……!さすが、年下キラー志人さん!初対面であっさり子供が懐いたぜ」

 

「年下キラー…………ああ、なるほど」

 

「ちょっと、エルメェス?なんでそこであたしを見るのよ?」

 

「くくッ、さてな?自分の胸に聞いてみろ」

 

「……今の志人さんとエンポリオ、見た目全然違うけど年の離れた兄弟みたいに見えるなあ」

 

「あァ、確かに……いや、でも。それより……親子?父親と息子?」

 

「あ、そっか。年齢差的には、どちらかというと兄弟よりも親子か」

 

「おっと、そうだ!仗助さんとF・F、ありがとう!危うく大事な話を忘れるところだったわ」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、エンポリオ」

 

「徐倫お姉ちゃん?なに?」

 

 

 その時。徐倫が隣にやって来て、俺と同じくしゃがみ込んでエンポリオに声を掛けた。

 

 

「志人さん、良い人でしょう?」

 

「うん、良い人!すごく優しい人だ」

 

「そうそう。この人、本当に優しい良い人なの。年下が相手だと特に甘々。あたしの事も、小さい時からずっと甘やかしてくれてるのよ」

 

「…………本人の前でそんな話されると照れるし、困るんだけどなぁ」

 

「そんなに照れなくてもいいじゃない、本当の事を言ってるだけなんだから。照れてる志人さんも可愛いくて素敵だけど」

 

「やめてマジで自重して、徐倫ちゃん」

 

「やだ」

 

「えぇー……?」

 

「……あははッ!」

 

「エンポリオくん?」

 

「お姉ちゃんとお兄ちゃん、仲良しだね!」

 

 

 彼からそう言われて、思わず徐倫と顔を見合わせる。……徐倫が嬉しそうに笑って、俺もそれにつられて思わず笑った。

 仲良し、か。まぁ、否定はしないが子供ってやっぱり純粋。癒されるわ。

 

 

「……ところで、エンポリオ。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

 

「?」

 

「――養子縁組とか、興味ない?」

 

「へ?」

 

「な、ちょっ、徐倫ちゃん!?まさか……」

 

「ふふふ」

 

 

 ジョルノ達と別れた後の会話を思い出した。もしかして、あの時には既にそんな事を考えてたのか!?

 意味深に笑うだけで、その先は何も言おうとしない徐倫を追及しようとした……瞬間、彼女がある方向を見て無表情になった。

 

 

「……お、お姉ちゃん?」

 

「徐倫ちゃん……?」

 

 

 徐倫はそのまま無言で立ち上がり、俺とエンポリオに背を向ける形で立つ。……よく見ると、エルメェス達も顔を強張らせて彼女と同じ方向を見ている。

 

 

 その方向からアナスイがやって来るのを見て、俺も立ち上がった。……目が合った。

 どうやら彼は俺に用があるらしいが、今までとは違って殺気が全く感じられない。不思議な程に落ち着いている。

 

 

 

 

 

 

「園原……――すまなかった」

 

「――――」

 

「……数日前。俺はあんたに、言ってはならない事を言った。

 両親の話を知らなかったとはいえ、あんたとその母親の事を侮辱してしまった……本当に、すまなかった」

 

 

 真剣な表情と、声。そして真っ直ぐ俺を見つめるその目を見るだけで、分かる。彼は間違いなく、心から謝罪の言葉を口にしているのだと。

 

 

 今のアナスイになら、俺が言いたい事を言っても大丈夫かもしれない。

 

 

「……俺からも、謝罪させて欲しい」

 

「は?……何故あんたまで謝るんだ?」

 

「…………俺はその時、君に対して大人げない態度を取ってしまった。それから――以前、徐倫ちゃんとの結婚の許可を求められた時、」

 

「!」

 

「俺は君に、彼女の気持ちをしっかり尊重して、承太郎さんの許可をもらう事が出来たら、文句は言わない……と言っただろう?

 言い訳にしかならないが、当時の俺は徐倫ちゃんの事を本気で妹のようにしか思っていなかった……彼女の気持ちに、気づいていなかった。情けない事に」

 

 

 全くもって、情けない……10年も彼女の好意に気づけなかったなんて。

 そして結果的に、俺は徐倫を愛するアナスイの気持ちも踏みにじってしまったのだ。その件についてはちゃんと謝らなければならない。

 

 

「……数日前に大人げない態度を取ってしまった事も、あの時の無責任な発言も……心から、申し訳ないと思っている……すまなかった」

 

「…………はあー……」

 

「……アナスイくん?」

 

 

 と、アナスイが深くため息をついた。やはり、怒らせてしまったか?……ならば、彼の怒りはしっかりと受け止めよう。

 元々、俺がこれからやろうとしている事が終わったら、責任を持って対峙するつもりでいたし……既に覚悟は出来ている。いつでも来い!

 

 

「…………あんたの母親について、改めて前言を撤回したい」

 

「え、」

 

「あんたの母親は、おそらく――あんたが立派な善人になる"土台"を作り上げてみせた、素晴らしい女性なのだろう。

 そうでなければ、あんたは……自分に殺意を抱く相手の事を本気で心配したり、その相手の気持ちを気遣って謝罪する程に優しい心を持った、とんでもないお人好しには育たなかったはずだ」

 

「…………ありがとう……?」

 

 

 怒りを向けられるどころか、何故か母親の事を褒められたので、混乱しながらもお礼を伝える。

 母さんの事を褒めてくれたのは嬉しいが、いきなりどうした?俺に対する怒りは何処にいった?

 

 

 そんな俺を見て、再びため息をついたアナスイは……次に、徐倫を見つめる。

 

 

「……徐倫」

 

「…………」

 

「俺は、……お前と、お前の大切な人の心を傷つけてしまったんだな。

 心優しい徐倫にとっては、きっと。園原の心の痛みは、自分の心の痛みでもあったのだろう……お前にも、謝る。すまなかった」

 

「…………アナスイ、」

 

「それから!……もう1つ、言いたい事がある」

 

 

 アナスイはそう言って、一度目を瞑り……再び、目を開ける。彼の目は強く輝いていた。……何かを、覚悟した人間の目だった。

 

 

「答えは既に聞いている。だから、今から俺が言う事に対する答えも、……っ、分かっている!だが、それでも言わせて欲しい……!!

 

 

 徐倫、俺は――君の事が好きだッ!!結婚してくれッ!!」

 

 

 息を呑んだ。……体が勝手に緊張で固まる。嫌な汗が出た。徐倫は?徐倫は、なんと答えるんだ?

 

 

「遠慮するな。正直に言ってくれ!俺は何を言われても受け入れる!その覚悟を持って告白したんだッ!!」

 

「…………分かった。それなら、もう一度言う――ごめんなさいね、アナスイ。あんたの気持ちには応えられない……あたしがあんたと結婚する事は、一生無いわ」

 

「…………っ、」

 

「あたしが生涯を共にする相手は、園原志人ただ1人よ」

 

 

 …………徐倫のその言葉を聞いて、緊張が解ける。……アナスイに対して申し訳なく思ったが、こっそりと、安堵のため息をついた。

 

 

「でもね、アナスイ――あんた、凄いわ」

 

「……え?」

 

「100点どころか、120点よッ!!」

 

「!?」

 

「あたしの考える正しい順番……最初に志人さんに心から謝罪して、その上であたしにも謝るという行動を取っただけでなく……

 告白しても振られると分かっていたのに、それでも改めてちゃんと想いを伝えた……見直したわ、本当に」

 

「…………徐倫……」

 

「今のあんたは最高にカッコいいわよ、アナスイ!……"二度と口利かない"なんて言って、ごめんなさい。もうそんな事は言わないから、安心して」

 

「……そうか……そう、か……」

 

 

 徐倫から許されて、心底ほっとしたのだろう。アナスイは体の力を抜いてその場に座り込んだ。

 そんな彼を、エルメェス達と仗助が囲んで労っている。徐倫はそれを見てニコニコ笑い、ご機嫌な様子。

 

 その時、服の裾を引かれた。下を見ると、エンポリオが困惑の表情で俺を見上げている。

 

 

「志人お兄ちゃん。徐倫お姉ちゃんとアナスイに、何があったの?僕、お姉ちゃんがお兄ちゃんに告白した話しか聞いてないんだけど……」

 

「あー……それなんだが、俺にもよく分からないんだ。どうも徐倫は俺には知られたくないようでな。

 ウェザーさん達も徐倫から口止めされていて、俺には何も言えないらしい」

 

 

 ……まぁ、今の徐倫とアナスイの会話で大体察しがついてしまったんだけどな……おそらく徐倫は、あの日俺が部屋から出た後に、アナスイを振ったんだろう。

 だが、これは子供に聞かせるような話ではない。念のために黙っておこう。

 

 

「そうなんだ……」

 

「……って事で、向こうが落ち着くまで一緒に待たないか?お兄さんとお話してようぜ」

 

「あ、うん!」

 

 

 それからしばらく、エンポリオと楽しく会話しながら待っていたのだが……

 

 

「よーし、今日は飲むぞッ!自棄酒だ!仗助、付き合え!!」

 

「ええーッ!?俺かよォ!?俺、一応お巡りさんなんだけど?つーか、ウェザーは?」

 

「ウェザーはどうせリゾットの所にいる!あの狂犬は嫌いだ!奴の所には行きたくない」

 

「おっ!?なんだ、お前もあの鉄仮面野郎が嫌いか!前言撤回!美味い酒が飲めそうだから付き合うぜ!!」

 

 

 そんな声が聞こえて来たので振り向くと、アナスイが仗助と肩を組んでいる!あの2人、いつの間にあんなに仲良くなったんだ?

 そして、2人揃って去って行く……と思ったら、アナスイが立ち止まって俺を見た。

 

 

「おい、園原!」

 

「んん?」

 

「――徐倫を泣かせるんじゃねえぞ」

 

「!」

 

「……あんたを殺したら徐倫が悲しむと気づいたからな。もう殺しはしない。あとは勝手にしろ」

 

 

 そう言って、今度こそ仗助を連れて去って行った。……えっと?これは、彼との決着がついたと見ていい、のか?

 

 

「アナスイのやつ……素直に志人さんを認めるって言えよ……」

 

「さっきはボソッと、"徐倫と園原はお似合いだ"って言ってたくせに……」

 

「えっ!?」

 

「アナスイが!?」

 

「そうそう。拗ねた顔してたけど、確かにそう言ってたぜ」

 

 

 エルメェスとF・Fの話を聞いて、徐倫と共に驚いた。まさか、あのアナスイがそんな事を……?

 いったい彼に何があった?何がどうなってそんな心変わりをしたんだ?あれほど俺に殺意を抱いていたのに……

 

 いや、今はそれよりも今後の事だ。

 

 ひとまず、アナスイとは決着がついた。後々俺がやろうとしている事をやる前に、俺にとって最も大きな問題が解決したのは幸運だった。

 あとは……徐倫への紹介を終わらせて、一度承太郎達の所に戻って、そこでタイミングを見計らって……うん、良し。大丈夫。予定通りに進めよう。

 

 

「徐倫ちゃん。そろそろ、次に紹介したい人達の所に行きたいんだが……いいか?」

 

「ええ、いいわよ。……じゃあ、あたし達はそろそろ行くから、皆また後でね。それからエンポリオは、さっきの話についてちょっと考えてみて」

 

「え、あ、お姉ちゃん!それなんだけど、養子縁組ってどういう事!?」

 

「どうって……まあ、そうね――つまり!あたしと志人さんを、"お母さん、お父さん"と呼べるかどうかって事よ!」

 

「は?」

 

「えっ」

 

「??」

 

 

 エルメェスとF・F、エンポリオが目を点にしている。……よーし、逃げようそうしよう。

 そう考えていたら徐倫も似たような事を考えていたのか、俺の手を引いて足早に離れて行った。

 

 

「…………えええェッ!?」

 

「ちょっ、待てこらァッ!?」

 

「説明しろ、説明ッ!!」

 

 

 かなり遅れて、背後からエルメェス達からそんな叫びが聞こえてきたが、俺達は足を止めなかった。逃げるんだよォ!

 

 

「……徐倫ちゃん、今の話……本気か?」

 

「うん、本気。志人さんもエンポリオもお互いに相性良さそうだったし、それに――あの子、志人さんと同じで母親を失ってるから」

 

「――――」

 

「相性が良くて共感できる事がある上に、血も繋がっていないあの子なら……あなたも、自分の子供として育てやすいでしょう?」

 

「…………否定は、しない」

 

「ふふふ」

 

 

 穏やかに笑う徐倫は、どこまでも、俺の事を気遣ってくれている……彼女には一生、敵わないだろうな。

 

 

 

 

 

 

 






・ナルシソ・アナスイ

 ついに園原の事を認めて、徐倫と結婚する事を諦めた。恋心が消える事は今後一生ないが、それでも彼女の幸せのために身を引く事を決意した良い男。

 "正しい順番"について、実は無意識に理解していた。園原を認める事が出来ず、謝罪もしたくないからと目を逸らしていただけだった。
 しかし、仗助から助言を受けて園原を客観的に見る事で、彼に対して申し訳なく思っている事を認め、謝罪。その結果、徐倫に許された。

 本人達には素直に言えないが、園原と徐倫がエンポリオと一緒に笑っている姿を見て、彼らの"未来"が見えた気がしたという。お似合いだな、クソッタレ!!

 告白後、F・F達や仗助から失恋を慰められてひとまず立ち直り、仗助を道連れに自棄酒しに行った。
 酒飲みでは仗助と嫌いな奴(リゾット)の悪口で盛り上がり、より一層仲良くなる予定。


・東方仗助

 アナスイが徐倫を一途に愛する姿が自分の母親と重なり、放っておけなくなったお巡りさん。
 ちなみに。アナスイを気遣う時に意識していたのは、尊敬する先輩である園原の事。"園原ならこういう時はこうするだろう"、と考えながら行動していた。

 園原に対してやった事は許せないが、母親の件でその気持ちだけは理解できるため、"正しい順番"について助言。
 その後。アナスイが120点の行動に出た事に、満足そうに頷いていた。グレートだぜ、アナスイ!

 自棄酒の道連れにされて、最初は不満そうにしていたが嫌いな奴(リゾット)の悪口で盛り上がった事で機嫌が上昇した。これ以降、アナスイとの仲が深まる。
 後にアナスイが酔い潰れると、やはり母親と重なって見えてしまったので献身的に介抱した。世話焼き。

 でも俺一応お巡りさんなんだけど元殺人鬼の世話なんかしてて良いのかなァ?……まあ、いいか!


・エンポリオ+エルメェス+F・F

 初対面で園原に懐いたエンポリオ。それから失恋したアナスイを優しく慰めた、仲間想いのエルメェス&F・F。

 エンポリオは年下キラー園原のお兄ちゃんスキル(Lv.Max)によって、あっさり陥落。見事に懐いた。志人お兄ちゃん!
 エルメェスとF・Fは謝罪した上で改めて告白し、潔く振られて身を引いたアナスイに驚愕。失恋した彼を優しく慰めて労った。見直したぜ、アナスイ!

 最後に。徐倫が爆弾だけ落として園原と共に去って行ったので、残された彼らは大パニック。ちょっ、待てこらァッ!?説明しろ、説明ッ!!
 エンポリオもパニックになっていたが、落ち着いて考えてみると――お姉ちゃん、お兄ちゃんじゃなくて、お母さん、お父さん……なんか、いいかもしれない。






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