とうとう原作と二次創作が交わる時です。
1:月下、世界を超えた再開
…あれから数日、未だにディアボロス教団の情報はつかめていない。
教団の手はあまりにも深く、広く、そして巧妙に隠されている。
見つけること自体は簡単だと思っていたが…正直、なめていた。
「くそっ……。ここで足止めされている場合じゃないんだ、おれは…!」
俺は思わず、拳を強く握りしめた。
日にちが経てば経つほど、焦りが大きくなり、不安が襲ってくる。
最終的には…狂ってしまうんじゃないかってくらいに。
「せめて下っ端一人でもいい、ディアボロス教団に少しでも復讐を…!」
「そして、家族の仇を…!」
握りしめる力がより強くなる。
これ以上力を入れれば、手から血が出てしまいかねないほどに。
その現状に気づいた俺は頭を振って思考を飛ばし、深く深呼吸する。
「スー、ハー…危ない危ない、本当に狂ってしまうところだった。」
自分でもわかるほどに、不安定な思考と情緒。
もしかしたら、これもあの実験で得てしまった副作用なのかもしれない。
これは本当に注意しないと…手遅れになっても遅いからな。
「とりあえず、盗賊狩りで気分転換でもするか。」
最近は気分転換も理由に含まれるようになった盗賊狩り。
相変わらず盗賊は湧いてきて、そのたびに滅している。
おかげで資金こそ困ってないが、盗賊が多いというのは…なんかいやだ。
ふわっとした理由だが、実際に困っている人が続出している。
言ってしまえば、極小規模のディアボロス教団だ…腹立ってきたな。
あと盗賊狩りといえば、俺以外にも盗賊狩りをしている奴がいるらしい。
俺と同じく正体不明なのだが…いったい誰なんだ?
俺としては若干興味があるんだが…まあ、調べるまではいかないぐらいだ。
「っと、盗賊がいたな…慎重に進もう。」
森の中、微かに見えた姿と音を頼りにすすむ。
突然だが、どうやら俺の身体と力は、実験によって完全にファンタジー系統になったらしい。
狼の目は暗闇の中でも普通に見通せて、狐の耳はかすかな音もはっきりと聞き取れる。
とはいえデメリットがあるから、手放しに喜べるかと言われれば違う。
デメリットが何かって?近くで爆音を出されると耳が死ぬ。
もしかしたら鼓膜は破れずにすむかもしれないけど、だとしても確実に数分は聞こえないと思う。
他にも能力はある、たくさんある。
まず、意識すれば闇と同化して、よっぽどじゃなければばれなくなる。
あの盗賊はすごい表情してたな、お化けでも見てるみたいだった。
次に、普通の人間に化けることもできる…まぁ、元の自分にしか化けられないのだが。
それでも恩恵はすごい、何故なら普通の生活を送れるから…でも、ちょっとむなしい。
あと炎魔法が変質して、黒炎魔法と白炎魔法が使えるようになった。
黒炎で敵を弱体化させて、白炎で味方を回復させることができる攻守兼備の力、強い。
あと、その二つを混ぜ合わせた陰陽炎も使える…けど、燃費がかなり悪い。
いざという時の緊急手段としてしか使えないと思う。
あぁそうだ、俺からは言葉では言い表せないような『恐怖』を感じるそうで。
試しに止めようとしたら止められたから、恐らく能力だろう。
普段は漏らさないようにしなきゃね…
最後に、全体共有ダメカ式バリアを張れる…っぽい。
単純に強い防御性能を誇っているから、護る力の代名詞…的な?
とまぁ、色々なファンタジー系能力を持っている俺だが、その副作用もある。
まず、さっきも挙げていた思考と情緒が不安定なこと。
そしてもう一つ、魔力を使う際に勝手に生命力も使ってしまうことだ。
意識して止めようとしても無理だったから、これは受け入れるしかない。
まあ、生命力も使う分効力はかなり増すのだが、その分自分にも疲労が来る。
使えば使うだけ休息が必要になって…使いすぎたらどうなるんだ?
怖いから実際にやる気は起きないが、恐らく気絶でもするんじゃないか?
なんにせよ、これのせいで十全に力を振るえないのは辛い部分がある。
ちなみに、盗賊にはよく練習相手にさせてもらっている。
とはいっても、半ばサンドバッグみたいなものなんだが。
さて、今回も気分転換のために全力で練習するとしますか。
すぐ近くまで近寄り、闇と同化すれば準備完了。
後は好きなタイミングで突撃するだけの話。
と、考えているところに…誰かの足音が聞こえる。
しかもこれは、こっちに走ってきている。
…まさか、噂の盗賊狩りか?
正直出会えるとは思っていなかったんだが…凄い偶然だな。
いやでも、盗賊の見張りの可能性も…だとしても、走ってくるってことは何かがある。
はてさて、いったい何が出てくるのか…
「ヒャッハー!!!金出せ盗賊共ー!!!」
「な、誰だお前は!?」
えぇ…
初手のセリフがあれって、絶対やばい奴じゃねぇか…あれ?
「…シド=カゲノー?」
シド=カゲノー、カゲノー家に生まれた長男で、クレア=カゲノーの弟にあたる人物。
何で彼がここにいるんだ、アイツって確か弱いって言われていなかったか?
聞く限りじゃ姉のクレアと戦っては負けてを繰り返しているらしい、し…
「…は?」
それは、まさしく蹂躙と呼ぶべき光景だった。
シドが圧倒的な力を揮い、いとも簡単に盗賊たちを殲滅していた。
…いや、それだけじゃない。
一応似たことをやったことがあるからこそ分かったが…あの動き、『ほとんど演技』だ。
派手かつ無駄な動きをいくつも含んでおいて、盗賊たちを圧倒している。
「ふっ……愚か者どもよ。この闇の中で、貴様らの逃げ場はない。」
どう見ても調子に乗ってますね…まぁそうなるのも無理はないけど。
最初突撃した時のセリフとの温度差よ。
というより、さっきから妙に引っかかるような…
「…っ!?」
まさかあいつの、シドの正体…
影野 実…お前なのか?
すぐにあり得ないと一蹴されるかと思いきや、そう考えれば納得のいく部分も多い。
まずあの動き、影野 実がやっていた『スタイリッシュ暴漢スレイヤー』に似ている。
恐らくそれをベースに、この世界で学んだアレコレを加えたんだろう。
盗賊狩りをしている理由も、多分そこからそのまま来たのか?
そしてあのカッコつけたセリフに、表では隠している実力…
アイツの目標である『陰の実力者』のロールプレイの一環だろう。
特にセリフとかまさしくそれだし、めちゃくちゃアイツがいいそうなことだし。
考えれば考えるほど、シド=実という式が出来上がっていく。
突然莫大な情報量をぶつけられて、ちょっと混乱している自覚はある。
とりあえず落ち着け、落ち着いてから色々考えるべきだ。
というかアイツ、さっきからこっちのことを見て…しまった!?
莫大な情報量に脳のリソースをほとんど持ってかれてたせいで、『恐怖』抑えきれてねぇ!
一応すぐに抑え始めたし、闇との同化は解けなかったけど…確実に存在を悟られたな。
…どうする、コレ?
とりあえず一旦離れよう、そこから考え直せば何とか…
先程の場所から少し離れたところに、小さな池があった。
中央に島があり、そこと外周をつなぐように地面がつながっている。
とても幻想的な場所で、まるでゲームの中に入ったような気もしてくる。
…ゲームの中に、入ったような?
あそれだそれだ、『陰の実力者』ムーブ全開できる雰囲気にすればいいんだ!
そしたらシド=実が本当かどうかも調べられるし、やってみるしかない!
えーと、とりあえず立つ場所は島の真ん中でしょ?
で、あいつが来る向きと反対を向いて、問いかけるセリフは…
俺は池の中央の島に立ち、月明かりが俺の姿を神秘的に照らすのを確認した。
風が静かに揺れ、木々がざわめく――完璧だ。
「……これなら、アイツもノってくるはずだ。」
実は、こういうシチュエーションには全力で応じる男だった。
俺は静かに微笑みながら、満を持して『恐怖』の気配を解放した。
恐らくこの周辺にいるのはアイツだけだし、存在感も解放したんだ、きっと来てくれる。
さぁ、俺自身も少し楽しみな、ゲーム風シナリオをご覧あれ。
「さて、とりあえず盗賊どもは片づけたが……気になるな……」
僕は盗賊狩りをしている最中に感じた、恐ろしい何かを探していた。
突然うっすらと何かが漂ってきたかと思えば、それを感じた瞬間恐怖心が沸いてきた。
しかも普通の恐怖心とは違うような…『恐怖』そのもの、みたいな感じかな?
それを漂わせている方を見れば、こっちは本当にうっすらとだけど、視線を感じたし。
「我の影を見た者は、恐れおののき、闇に飲まれるのが道理……」
「だが、奴は――違った。たしかに感じたぞ……この俺に匹敵する何かを……!」
僕の陰の実力者ムーブの糧になるかと思っていたけど、盗賊狩りを終えたころにはいなかった。
一応ちょっとは探したんだけど、時間が時間なせいで、お先真っ暗で見えやしない。
「見つからない、か…はぁ、せっかくノってきたところなのに。」
「まあいいか。金貨と資源も回収できたし、今日はこれくらいで…!?」
突然、先程感じた『恐怖』が再び襲ってきた。
しかも、先程よりもより強くなっている。
それと同時に、強い存在感も感じた…『来い』っていう意味なのかな?
「…フフフ、面白い!」
…そうこなくっちゃね。
僕は迷うことなく、その存在感めがけて突き進んだ。
しばらく進むと森を抜けて、池にたどり着いた。
といってもそこまで大きくなくて、中央の島とそれと外周をつなぐ地面があるくらい。
でも、重要なのはそこじゃない。
その圧倒的な『恐怖』と存在感を放つ人物が、そこにいた。
見た目は真っ白な九尾で、右手の爪が漆黒のクローと化している。
メインストーリーとかで登場する、重要ポジのキャラに違いない!
「…運命は何にも予測されず、何にも干渉されず、何にも情をかけず。」
そんなのんきなことを考えていたら、いきなり意味深なことをしゃべり始めた。
というか、男だったんだ…後ろを向いてるからわからなかった。
「救済には幾千ものフィルターがかけられ、あらゆる解釈が一つ一つ存在する。」
あぁ…例えば、『死は救済』とかそんな感じ?
人によって救済の意味は違うってことか…面白いこと言うじゃん。
「理不尽は突如訪れ、すべてを蹂躙し、観測する間もなく消え去る。」
確かに、理不尽な出来事って急に来ては急に消えるよね。
にしてもさっきから何の話をしているんだろ?
話していることはそれっぽいけど、着地点が見えないというか…
「そんな、運命と救済と理不尽が混ざり合い、混沌とした現世の下で…」
「そなたが名乗り上げんとする、『美学』の名はなんだ?」
…えーと?
つまり…『この世界であなたが名乗る二つ名的なやつの名前は?』ってことか?
なかなかに回りくどい聞き方をするなぁ…そういうの好きだけど。
…でもまぁ、それなら答えは決まってるね。
「我が美学の名は『陰の実力者』…陰に潜み、影を狩るもの。」
「故に力を求め、魔力を求め、すべてを求めた。」
「…すべては、我が理想の未来を作り上げるために。」
決まった…!
後半の二文はとっさに出てきたものだけど、別に間違ったこと言ってないしね。
さあ、どう反応する?
「『陰の実力者』、か…嗚呼、やはりそなたであったのか。」
やはり…?
どういうことだろう、特に会った記憶とかないし。
「我を、知っているというのか?」
「もちろんだとも、シド=カゲノー…前の名を、影野 実。」
「っ!?」
えっちょまってどゆこと!?
何でこいつは俺の前世を知ってるんだ!?
もしかして占い師とか未来視とかその辺か?
「…なぜ、その名を…」
「何故?ならば教えよう…」
そう言うと、とうとうこっちのほうに振り返った。
その目は白黒で、人間ではなく動物の…猫とか狼とか、その辺の目をしている。
となると、やっぱり未来視か?
「私の名はルミナス=ノクターン……前の名を、陽落 護。」
「!?」
それって…その、名前って……
俺の言葉に、シド――いや、影野 実は驚愕の表情を浮かべた。
その反応を見た瞬間、俺は確信した。
お前、本当に……実なんだな……
俺の胸に、込み上げてくるものがあった。
世界が違っても、お前は変わらず、お前のままだった。
こんなことが、本当にあるんだな……。
俺は、静かに笑った。
「共に切磋琢磨した大切な親友を、忘れるわけがないだろう?」
そしてここに、世界を超えた奇跡の再開は果たされた。
ルミナスの前世の名前出してなかったけどこれはもうこういうのですってゴリ押します。
強いて理由をつけるなら、話の流れ的にあの独白で出せる部分がありませんでした。
運命力ってすごいですよね…