ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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ついに100話の大台に乗りました。
ここまで連載できたのも、読者の皆さまの支えがあってこそです。本当にありがとうございます。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




第100話:それぞれの主

 外から聞こえた音で、プリモアに向けていた視線を上げる。音はクーリアにも聞こえたようで、俺たちは揃って窓の方を見た。

 

「デュエル、ですか」

「ええ、ベルガモットが戦ってる」

 

 マグノリアは、机に向かって調香を続けながら答えてくれた。

 

「先に言っておくけれど、あなたたちは行かない方がいい。相手はドレミコードの存在を恐らく知らない。それに……転生者を疑っている」

 

 最後に付け加えられた言葉に、首をかしげる。作業の手を止めたマグノリアは、振り返って俺を見た。

 

「このひどい天気が、ラベンダーのせいではないかと疑っているのよ」

「そんな……」

「無論、あの子にそんな力がないのは分かっている。転生者の存在が、この世界に無意識に影響を与えている……なんて証拠もない。それでも、こじつけで相容れない存在を攻撃する輩がいるのよ」

 

 マグノリアの言葉には、俺も初めて彼女から感じる怒りが混じっていた。

 ラベンダーの事情と人物像は、俺もそれなりに知っている。同じ転生者として同情、あるいはシンパシーも感じていた。だから、例え何らかの力を持っていたとしても、アロマの庭のみんなが悲しむような真似をするはずがないだろう。転生者が齎す影響だって、例が少ない以上断定することは困難だ。

 だけど、そんな事情など関係なく、他人は容赦なく疑ってくる。存在自体がきな臭い、あるいは怪しい者は特に槍玉に挙げられやすい。

 それは俺にとっても、ひどく身に覚えのある話だった。

 

「……どこにでもあるんですね、こういうことは」

「ええ、残念なことに」

 

 俺も未だに納得できないところがあるが、自分がそういう存在だとは痛いほど分かっている。だから、まだ折り合いはつけられた。

 だけど、俺以外にも同じような悪意を向けられる人がいるのは、納得ができない。俺の言葉に、マグノリアも残念そうに頷いて机に向き直る。

 静かにクーリアが背中に手を添えてくれたことで、少しだけ気持ちが救われた気がした。

 

 

ベルガモット LP3200 手札2

【モンスターゾーン】

カード無し

 

【魔法&罠ゾーン】

アロマガーデニング

伏せカード1

 

 

メリアス LP2700 手札0

【メインモンスターゾーン】

□■□ 聖蔓の癒し手(サンヴァイン・ヒーラー)

□◆□ ATK600

□□□ リンク1

 

【EXモンスターゾーン】

□□□ 聖天樹の精霊(サンアバロン・ドリュアデス)

□◆□ ATK 0

■□■ リンク2

 

【魔法&罠ゾーン】

聖蔓の社(サンヴァイン・シュライン)

伏せカード1

 

 

 デュエルを観ることしかできないラベンダーの手の中に汗が滲む。

 ここ数日の悪天候の原因はラベンダーだと、メリアスは決めつけてきた。勿論そんなつもりは自身に無いが、まずもって転生者という存在自体が特殊なもの。自覚なく、ただここにいるだけで何かしら影響を及ぼすとしても、それを明確に否定できる根拠が自分で見つけられない。だから、メリアスの言葉に反論できなかった。

 

「気にしないで大丈夫よ、ラベンダーちゃん」

 

 傍に立つマジョラムが微笑みかけてきた。

 

「私たちは、誰もあなたのせいでこんなことになったなんて思っていないわ」

「だね」

 

 ローリエもマジョラムの脇から身体を乗り出して頷いている。

 その反対側に立つローズマリーも、こくりと頷いていた。

 

「何が原因かはやはり分かりませんけど、あなたがこんなことをする人じゃないってことは、ここで過ごしてよく分かっていますから」

「だからベルガモットさんも、あんなに怒ってるんだし」

 

 ジャスミンに指示されたベルガモットは、メリアスを見据えている。目つきは普段より鋭く、拳も無意識に握られていた。

 

「こう言うのも何ですが……ベルガモットさん、ああ見えてキレると逆に冷静になるタイプなんですよね」

 

 声を潜めてカナンガが補足した。

 そういえば、とラベンダーが思い出すのは、この世界に来た直後のこと。ヴァーディクトの遣わした黒い鎧の男の攻撃を受け、ラベンダーが傷ついた時。ベルガモットは声を荒げ激昂したりせず、むしろ声に落ち着きが増したうえで、あの鎧の男を炎で焼き払った。

 

「つまり……結構キレてるってことだね」

 

 このデュエルで、確かにベルガモットの声のトーンは大分落ち着いている。それでいて言葉遣いは、どこか攻撃的。ローリエの言う通り、どうやらベルガモットは激怒しているようだ。

 しかし、デュエルの状況自体はやや分が悪い。次のメリアスのターンには、どうするのか。

 

「私のターン、ドロー」

 

 メリアスの手札は今引いた1枚のみ。だけどフィールドは揃っている。

 

「現れよ、限りなき枝葉のサーキット! 召喚条件は植物族2体以上。リンク2のドリュアデスとヒーラーをリンクマーカーにセット!」

 

 またしても地面に出現するリンクサーキットに、ヒーラーが両手を合わせて祈りながら入り込み、さらにドリュアデスから伸びた太い2本の蔓がリンクサーキットに突き刺さった。

 そしてドリュアデスが、光に包まれる。

 

「リンク召喚! 出でよ、リンク3!《聖天樹の大精霊(サンアバロン・ドリュアノーム)》!!」

 

 光が収まり、ドリュアデスだった樹はさらに巨大な樹へと変貌する。枝葉が一層広がり、垂れ下がる実が増え、細い幹は十何本と分かたれた。さらに、根元にある花からは精霊であろう女性が姿を見せている。

 

□□□ 聖天樹の大精霊

□◆□ ATK 0

■■■ リンク3

 

「《聖蔓の社》の効果発動。1ターンに1度、墓地のレベル4以下の植物族通常モンスター1体を特殊召喚する。甦れ、《聖種の地霊(サンシード・ゲニウス・ロキ)》!」

 

 ドリュアノームの根元に現れる、黄土色の台座に据えられた小さな種。ドリュアノームの根元にいる精霊は、それを見てわずかに微笑んだ。

 

聖種の地霊

DEF600 レベル1

 

「現れよ、限りなき枝葉のサーキット! 召喚条件は植物族通常モンスター1体。ゲニウス・ロキをリンクマーカーにセット!」

 

 再び地面に現れたサーキットにゲニウス・ロキが静かに埋もれる。そして、光を放ったサーキットから何かが勢いよく飛び出した。

 

「リンク召喚! 来なさい、リンク1!《聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)》!!」

 

 露わになったのは、シャープな全体像の戦士。剣は刃に波があり、鞘は木の皮でできていて、外套が幾重にも分かれている。今までとは違う攻撃的な見た目のモンスターだ。

 

□■□ 聖蔓の剣士

□◆□ ATK800

□□□ リンク1

 

「スラッシャーの効果発動。特殊召喚が成功した時、その攻撃力を私の『サンアバロン』リンクモンスターのリンクマーカー1つにつき800ポイントアップさせる。ドリュアノームはリンク3、よって2400ポイント攻撃力をアップ!」

 

聖蔓の剣士

ATK800→3200

 

「マズい、攻撃力がベルガモットさんのライフに並んだ……!」

 

 ローリエが声を上げる。

 しかしベルガモットは、微塵も動じていない。

 

「バトルです」

「永続罠《潤いの風》発動。その効果により、1000ポイントのライフを払い、デッキから『アロマ』モンスター1体を手札に加える。俺が手札に加えるのは《アロマリリス-ロザリーナ》だ」

 

ベルガモット LP3200→2200

 

 ベルガモットが手札に加えたのは、【アロマ】における重要な初動札。

 それを見たメリアスは鼻で笑った。

 

「自分からライフを減らすとは愚かな。いや、それ以前にこの攻撃で勝負がつくと言うのに」

 

 そして、メリアスは小さな手でベルガモットを指さす。

 

「スラッシャーでダイレクトアタック!」

「《アロマガーデニング》の効果発動。俺のライフが相手より低い場合、相手の攻撃宣言時、『アロマ』モンスター1体をデッキから特殊召喚する」

「ほう?」

「特殊召喚するのは俺自身、《アロマージ-ベルガモット》だ」

 

 スラッシャーが迫ろうとする目前で、ベルガモットのフィールドで炎が逆巻く。その中から姿を見せたのは、ラベンダーが慕ってやまないベルガモットその人だ。

 

アロマージ-ベルガモット

ATK2400 レベル6

 

「《アロマガーデニング》と《潤いの風》の効果発動。《潤いの風》は俺のライフが相手より低い場合、500ライフを回復する」

 

ベルガモット LP2200→2700

 

「さらに《アロマガーデニング》の効果で、俺が『アロマ』を特殊召喚したことで1000ポイントのライフを回復する」

 

ベルガモット LP2700→3700

 

「そしてライフが回復したことで、俺自身の効果が発動。攻撃力を相手ターン終了時まで1000ポイントアップする」

 

アロマージ-ベルガモット

ATK2400→3400

 

「スラッシャー、攻撃を止めなさい」

 

 メリアスが言うと、スラッシャーは抜いていた刀を鞘に戻し、元の位置に立った。

 

「やりますね……次のターンに向けてサーチした上で、ライフが下回ったのを《アロマガーデニング》に繋げた上、攻撃を凌ぐだなんて」

「本当に。流石です、ベルガモット様!」

 

 一連の流れにローズマリーが舌を巻いている。

 そしてラベンダーも、今の動きには拳を握ってしまいそうなほど気持ちよさを覚えた。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 残った手札で何をするでもなく、メリアスは大人しくターンを終える。そして、ここでベルガモットの効果も切れた。

 

アロマージ-ベルガモット

ATK3400→2400

 

「俺のターン、ドロー」

 

 今のターン、メリアスは勝負を決められなかったことでこのターンは厳しくなるはず。この隙に勝利を積極的に狙うべきだろう。

 

「《アロマリリス-ロザリーナ》を召喚!」

 

 フィールドのベルガモットの傍らに、黒いドレスを着る明るい茶髪の妖精が現れた。

 

アロマリリス-ロザリーナ

ATK 0 レベル1

 

「このカードを召喚した時、デッキからチューナー以外の『アロマ』モンスターを1体特殊召喚できる。現れろ、ローズマリー!」

 

 ロザリーナが杖を振るい、その先に開いたゲートの中からローズマリーが姿を見せた。最初のターンはその効果で不意打ちを仕掛けられたが、このターンは状況が違うから同じ策を使えない。

 

アロマージ-ローズマリー

ATK1800 レベル4

 

「う、ぐ……」

 

 だが、3人の仲間が揃ったところで、ベルガモットが胸を押さえた。

 

「ベルガモット様……?」

「大丈夫ですか?」

「あぁ……問題ねぇ」

 

 ラベンダーとカナンガが声をかけるが、ベルガモットは片手を軽く挙げる。

 するとメリアスは、鼻で笑うと肩を揺らした。

 

「どうしました? 私の布陣に怖気づきでもしましたか?」

「ほざきやがれ。俺はレベル4のローズマリーに、レベル1のロザリーナをチューニング!」

 

 安い挑発を受け流し、ベルガモットが拳を上に向けると、ロザリーナが杖を振ってシンクロの環へと姿を変える。その環をローズマリーがくぐり、四つの星が輝いた。

 

「安らぎの青き香りよ、この地に潤いをもたらせ! シンクロ召喚! レベル5、《アロマセラフィ-ローズマリー》!!」

 

 光と共に降り立つ、アロマセラフィの翼を得たローズマリー。青いドレスには白が差し、杖につく花も増えていた。

 

アロマセラフィ-ローズマリー

ATK2000 レベル5

 

「この瞬間、《アロマガーデニング》の効果を発動。ライフを1000回復する」

 

ベルガモット LP3700→4700

 

「ライフが回復したことにより、ローズマリーと俺自身の効果が発動。まず、俺の攻撃力を1000ポイントアップする」

 

アロマージ-ベルガモット

ATK2400→3400

 

「そしてローズマリーの効果で、相手の表側表示カード1枚の効果を、ターン終了時まで無効にする。俺が無効にするのは当然、ドリュアノームだ」

 

 メリアスの背後の大樹をベルガモットが指さすと、ローズマリーが杖を振って青い風を巻き起こす。それを浴び、ドリュアノームの葉は色を失って、その実は熟れ過ぎた果実のように毒々しい色合いになってしまう。

 

「これは……!」

 

 振り返ったメリアスの声に、焦りが混じった。

 

「さらにローズマリーの効果で、俺のライフが相手を越えている場合、俺の植物族モンスターの攻撃力と守備力は、500ポイントずつアップする」

 

アロマージ-ベルガモット

ATK3400→3900

 

アロマセラフィ-ローズマリー

ATK2000→2500

 

 ベルガモットは得意げに笑う。ラベンダーの傍にいるジャスミンの表情は、希望を見出したかのような笑顔だ。

 これでドリュアノームを攻撃対象に選べるようになり、しかもその攻撃力は0。メリアスのライフポイントは2700しかないから、ベルガモットの攻撃で倒せる。

 

「魔法カード《貪欲な壺》を発動。墓地の《アロマージ-ジャスミン》と《アロマージ-ローズマリー》2体、《アロマセラフィ-ジャスミン》、《アロマリリス-ロザリーナ》をデッキとエクストラデッキに戻して2枚ドローする」

 

 ベルガモットは攻撃する前に手札を補充した。メリアスの伏せカードを警戒し、除去札か何かを引き寄せたいのだろう。

 しかし、ベルガモットは引いたカードをそのまま手札にしてしまう。どうやら、除去札を引き当てられなかったようだ。

 

「行くぞ。俺自身、《アロマージ-ベルガモット》でダイレクトアタックだ!」

 

 フィールドのベルガモットが杖を構え、その先端で火花が散ると炎が宿る。ラベンダーが初めてベルガモットに出会ったあの日、この目で見た炎の嵐を放つつもりだ。

 けれど、その炎がとぐろを巻いた瞬間。

 

「甘い! リバースカードオープン!」

 

 メリアスが、伏せていたカードを発動させる。

 それはとてつもなく強い光を放ち、戦っているベルガモットや、彼が従えるフィールドのモンスター、そしてデュエルを観ていたラベンダーたちも腕で光を遮ろうとする。

 その中で、メリアスは声高に告げた。

 

「罠カード《聖なるバリア-ミラーフォース-》! 相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

 

 光が強さを増し、辺り一帯が真っ白に染まる。雨の音さえも聞こえなくなる。その光に照らされ、ベルガモットのフィールドにいた2体のモンスターは眩しそうに、そして苦しそうに呻き、やがて消滅してしまった。

 光が収まり、メリアスは不気味に笑みを深める。

 

「勝負を焦りましたね。これで形勢逆転です」

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

「ターン終了と共に、ドリュアノームの効果は蘇りますね?」

 

 余裕綽々なメリアスの挑発に乗らず、ベルガモットはカードを伏せてターンを終える。

 今のターンで勝てなかったのはかなり厳しい。おまけに、ベルガモットはモンスターをまた失ってしまった。まだ《潤いの風》と《アロマガーデニング》が残っているのが救いだが、それらのコンボは一度見られた以上通用するか疑わしい。

 そして、《アロマセラフィ-ローズマリー》の効果も切れた。ドリュアノームは若々しい緑の葉と、鮮やかなオレンジ色の実を取り戻す。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを横目に、メリアスはニヤリと笑う。

 

「《聖種の天双芽(サンシード・ツイン)》を召喚!」

 

 ドリュアノームの根元に現れたのは、可愛らしいデザインの、赤と青の小人。蔦がまるでロープのように2人を囲んでいる。

 

聖種の天双芽

ATK 0 レベル2

 

「このモンスターは、『サンアバロン』リンクモンスターが存在する状態で召喚した場合、墓地のレベル4以下の植物族通常モンスター1体を特殊召喚できる。甦れ、ゲニウス・ロキ!」

 

 2人の小人が両手を広げると、その目の前に魔法陣が現れ、聖なる種が再び現れた。

 

聖種の地霊

DEF600 レベル1

 

「現れよ、限りなき枝葉のサーキット! 召喚条件はリンクモンスターを含む植物族2体以上。スラッシャーとゲニウス・ロキ、ツインをリンクマーカーにセット!」

 

 3体のモンスターが、フィールドに現れたリンクサーキットに吸い込まれる。直後、めきめきと音を立てながら木の枝が中から伸びてきた。

 

「リンク召喚! 現れよ、リンク3!《聖天樹の灰樹精(サンアバロン・メリアス)》!!」

 

 戦っているメリアスと同じ名を冠するそのモンスターは、今まで見たサンアバロンとは異なる人型の細い木。両手は木の枝のように細く、頭部からは髪の毛のように根が生えている。

 

□■□ 聖天樹の灰樹精

■◆■ ATK 0

□□□ リンク3

 

「このカードがリンク召喚に成功したことで、その効果を発動。墓地のゲニウス・ロキを特殊召喚!」

 

聖種の地霊

DEF600 レベル1

 

「ここで私は罠カード《墓荒らし》発動! このカードは、相手の墓地の魔法カード1枚を1ターン自分の手札にできる!」

「何!?」

「私が選ぶのは《貪欲な壺》!」

 

 メリアスがベルガモットのデュエルディスクを指さすと、緑色のとんがり帽子を被った、つるはしを持つ悪魔がベルガモットの目の前に現れ、ベルガモットのディスクの墓地に手を突っ込む。そして、手にした《貪欲な壺》のカードをメリアスに投げ渡し、メリアスの背後につく。

 

「そして、この《貪欲な壺》を発動。墓地のドリュアス、ドリュアデス、スラッシャー、ヒーラー、ツインをエクストラデッキとデッキに戻し、2枚ドロー!」

「てめぇ……」

 

 奪い取ったカードを見せつけるように使い、メリアスもリソースを回復する。自分のカードを利用されたことが腹立たしいのだろう、ベルガモットは歯ぎしりをしていた。

 

「とはいえ、《墓荒らし》の効果で手札に加えたカードを発動した場合、私は2000のダメージを受けてしまいますがね」

 

 白々しく両手を挙げて首を振るメリアスの背中に、後ろに控えるとんがり帽子の悪魔がツルハシを振り下ろした。

 

メリアス LP2700→700

 

「ですが、ドリュアノームの効果発動! 1ターンに3度まで、ダメージを受けた際にその分のライフを回復し、『サンヴァイン』リンクモンスター1体を特殊召喚する! 再びヒーラーを特殊召喚!」

 

メリアス LP700→2700

 

 ツルハシを持った悪魔が消えるとともに、メリアスの身体が再び輝きを放つ。そして、ドリュアノームから垂れ下がる実のひとつが弾け、先ほども見た女性が紫色の果汁を浴びながら現れた。

 

□■□ 聖蔓の癒し手

□◆□ ATK600

□□□ リンク1

 

「そしてヒーラーの効果発動!『サンアバロン』リンクモンスターのリンクマーカーの数×300のライフを回復!」

 

メリアス LP2700→3600

 

「せこい真似しやがる……他人のカードを奪って使った上、デメリットまで踏み倒すとはな」

「言い掛かりはよしていただきたい。これも立派な戦術ですよ?」

 

 ライフをさらに回復するメリアスを見て、ベルガモットが苛立ちを言葉にしてぶつける。それをメリアスは全く意にも介さず、手札のカードをフィールドに出した。

 

「永続魔法《種子弾丸》発動。このカードは植物族を召喚・反転召喚・特殊召喚する度にプラントカウンターを1つ置きます」

 

 メリアスの脇にカードが現れる。そこからハエトリグサのような植物が出現した。

 そして、メリアスは底意地の悪そうな笑顔を浮かべて、両腕を広げる。

 

「現れよ、限りなき枝葉のサーキット! 召喚条件はリンクモンスター2体以上。ヒーラーと、リンク3のドリュアノームをリンクマーカーにセット!」

 

 地面にリンクサーキットが現れ、ヒーラーが両手を合わせながらその中に入りこみ、ドリュアノームが蔓を伸ばしてそのリンクサーキットに突き刺す。やがて光に包まれたドリュアノームの葉が、薄い桃色へと変わっていった。

 

「リンク召喚! 現れ出でよ、広き豊かな大地に根付く、我らが母なる神樹! リンク4、《聖天樹の大母神(サンアバロン・ドリュアトランティエ)》!!」

 

 露わになったその姿は、今までのサンアバロンよりもさらに巨大な樹。葉の部分には桜のような花が咲き誇り、細い幹の数はドリュアノームを上回っている。根元の部分の赤い花からは女性が姿を見せ、しかも太い蔓が触手みたくうねっている。まるで、そのモンスターそのものが小さな森のようだ。

 

□■□ 聖天樹の大母神

□◆□ ATK 0

■■■ リンク4

 

種子弾丸

プラントカウンター:0→1

 

「出やがったな、『主サマ』……!」

 

 そのモンスターを見て、ベルガモットが唸るように告げた。

 どうやら、メリアスの崇める「主」とはこのドリュアトランティエのことらしい。ラベンダーは、アニメのVRAINSでこのモンスターを見たことがあったが、この精霊界ではまだない。しかし改めて見ると、確かに神々しさみたいなものを感じる。咲き誇る花々にも、神聖な雰囲気がした。

 

「ドリュアトランティエの効果発動! リンク召喚が成功した時、デッキから『サンアバロン』の魔法・罠カード1枚を手札に加える。私は《聖天樹の開花(サンアバロン・ブルーミング)》を手札に!」

 

 サーチしたカードを手にし、メリアスはフィールドで静かに待機している種を見る。

 

「現れよ、限りなき枝葉のサーキット! 召喚条件は植物族通常モンスター1体。ゲニウス・ロキをリンクマーカーにセットし、リンク召喚! 来なさい、《聖蔓の剣士》!」

 

 一時フィールドを離れていた植物の剣士がフィールドに現れると、剣を得意げに振り回した。

 

□■□ 聖蔓の剣士

□◆□ ATK800

□□□ リンク1

 

種子弾丸

プラントカウンター:1→2

 

「スラッシャーの効果発動! ドリュアトランティエのリンクマーカー4つ分、攻撃力を3200ポイントアップさせる!」

 

聖蔓の剣士

ATK800→4000

 

 リンク1とは思えないほどの攻撃力になるスラッシャー。しかしながら、メリアスは後ろにある社を指さした。

 

「《聖蔓の社》の効果発動! 墓地のゲニウス・ロキをもう一度復活!」

 

 社の中がわずかに輝き、何度目かの登場となる聖なる種は、ドリュアトランティエの傍に据えられた。

 

聖種の地霊

DEF600 レベル1

 

種子弾丸

プラントカウンター:2→3

 

「現れよ、限りなき枝葉のサーキット! 召喚条件は植物族通常モンスター1体。ゲニウス・ロキでリンク召喚!《聖蔓の剣士》!!」

 

 1ターンで同じ素材で同じモンスターを2度も召喚するとは。【サンアバロン】の特徴ではあるが、モンスターを使い回すとは中々ハードな真似をする、とラベンダーは思ってしまった。

 

□■□ 聖蔓の剣士

□◆□ ATK800

□□□ リンク1

 

種子弾丸

プラントカウンター:3→4

 

「新たに召喚したスラッシャーもまた、ドリュアトランティエのリンクマーカー4つ分、3200ポイント攻撃力が上がる!」

 

聖蔓の剣士

ATK800→4000

 

「そしてドリュアトランティエの効果発動! リンク先のリンクモンスター1体をリリースし、そのリンクマーカーの数までフィールドのカードを破壊する!」

「!」

「私はリンク3の灰樹精をリリースし、あなたの伏せカード2枚と《アロマガーデニング》を破壊!」

 

 今までゲニウス・ロキを蘇生する以外で動きを見せなかった灰樹精は、ドリュアトランティエの効果で破壊するカードを増やすために呼んでいたのか。

 灰樹精が両腕を広げると、光の粒子となってドリュアトランティエの幹に吸い込まれる。そして、ドリュアトランティエは、2本の太い蔓でベルガモットのフィールドにあるカードを薙ぎ払った。破壊されてしまった2枚の伏せカードは、《光の護封霊剣》と《ドレイン・シールド》だ。

 そしてベルガモットは、唇の端に力を込めている。

 

「……私は、墓地の《薔薇恋人(バラ・ラヴァー)》を除外して効果発動。手札より植物族モンスター1体を特殊召喚する。出でよ、《椿姫(つばき)ティタニアル》!!」

 

 一瞬メリアスは行動を止めたが、すぐに動き出す。《聖蔓の社》の発動コストとして捨てていたらしい、赤いドレスを着る金髪の女性の幻影がフィールドに現れ、光を放つ。そして後から現れたのは、ツバキのような赤い花のドレスを着て、同じくツバキを模した冠を戴く、緑の髪の女性だ。

 

椿姫ティタニアル

ATK2800 レベル8

 

種子弾丸

プラントカウンター:4→5

 

「く……」

 

 しかし、そのモンスターを呼んだ直後、メリアスが僅かに苦しそうな表情を浮かべる。さっきのベルガモットに様子が似ている気もしたが、メリアスは汗を一雫流すと、すぐに悪意の混じる笑顔を取り戻した。

 

「《種子弾丸》の効果発動! このカードを墓地へ送ることで、乗っていたプラントカウンターひとつにつき500ポイントのダメージを相手に与える!」

 

 フィールドのハエトリグサの花弁が開くと、野球ボールのような大きさの種を5個ベルガモットに放つ。直撃したベルガモットは、呻き声と共に仰け反った。

 

ベルガモット LP4700→2200

 

「ベルガモット様!」

「どうってことねぇ!」

 

 ラベンダーが声を上げるが、ベルガモットは気丈に返してくれた。

 ただ、まだメリアスの攻撃が残っている。

 

「これで終わりです! バトルだ!」

「墓地の《光の護封霊剣》を除外して効果発動! このターン、お前のモンスターはダイレクトアタックできない!」

 

 ベルガモットが腕を払うと、メリアスのフィールドに巨大な光の剣が何本も出現し、スラッシャーたちの行く手を阻む。これなら、どれだけ攻撃力が高くても意味がない。

 しかし、メリアスは首を横に振り、憐れむ目でベルガモットを見た。

 

「伏せカードを破壊されても動じない時点で、そんなことだと思いましたよ。生憎ですが、《薔薇恋人》の効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、罠の効果を受けない。よって、ティタニアルはダイレクトアタックがこのまま可能です!」

『!?』

 

 ラベンダーだけでない、デュエルを観ていたアロマのみんなに緊張が走った。

 

「ティタニアルでダイレクトアタック!」

「俺は《潤いの風》の効果発動! 1000ポイントをライフから払い、デッキから《アロマセラフィ-アンゼリカ》を手札に加える!」

 

ベルガモット LP2200→1200

 

 土壇場でサーチしてもなお、メリアスは余裕の笑みを残している。

 

「そんなザコに何ができるというのです? バトル続行です!」

「俺は手札のアンゼリカを捨てて効果発動! 俺の墓地の『アロマ』モンスター1体の攻撃力分のライフを回復する。俺が対象に選ぶのは、墓地の俺自身!」

 

ベルガモット LP1200→3600

 

「ですが、ティタニアルの攻撃は受けてもらいましょう!」

 

 フィールドのティタニアルが腕をゆっくり前へ伸ばすと、赤い花びらの吹雪がベルガモットに襲い掛かった。

 

ベルガモット LP3600→800

 

「あんなにあったライフが……」

 

 ジャスミンが嘆く。ターン開始時は4700もあったライフが一気に減った。【アロマ】はライフアドバンテージを得て有利に立つ戦術が基本だから、大きく減らされたのはかなり痛い。

 しかも、メリアスの場には高い攻撃力を持つモンスターが3体も残っていた。次のターンに何らかの有効な手立てがないと、勝ち目は薄くなるだろう。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンドです」

「このエンドフェイズに、俺は《潤いの風》の効果で500ライフを回復する……!」

 

ベルガモット LP800→1300

 

 なけなしの回復効果で、最低限動くためのライフを稼ぐ。

 だけど、もう猶予は次のターンだけと見た方がよさそうだ。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 そして、運命のベルガモットのターン。引いたカードを見て、ベルガモットは小さく笑った。

 

「魔法カード《アロマブレンド》発動! 手札を1枚捨てて、デッキの《恵みの風》を魔法&罠ゾーンに置く!」

 

 フィールドに置かれたのは、【アロマ】でも重要なカードだ。それを直接置けるカードを引き寄せられたのは、強運と言っていいはずだ。

 

「そして、《潤いの風》の効果発動! 1000ポイントのライフを払い、《アロマリリス-ロザリーナ》をデッキから手札に加える!」

 

ベルガモット LP1300→300

 

「手札に加えたロザリーナを召喚!」

 

 再び現れる、黒いドレスを着るアロマの妖精。杖を振り、メリアスが崇めるドリュアトランティエを見上げていた。

 

アロマリリス-ロザリーナ

ATK 0 レベル1

 

「ロザリーナの効果発動! デッキからチューナー以外の『アロマ』モンスターを――」

「させませんよ! 永続罠《聖天樹の開花》発動! このカードは発動時、私の場にリンク4以上の植物族リンクモンスターが存在する場合、相手の表側表示モンスターの効果を全て無効にする!」

 

 さっきのターンに伏せていたカードが発動すると、ドリュアトランティエの太い蔓が一気に伸び、ロザリーナを地面に叩き落とす。痛ましいやり口に、ラベンダーは唇を噛んだ。

 

「さらにこのカードの効果により、私の植物族リンクモンスターが戦闘する際、その攻撃力はリンク先の全てのモンスターの攻撃力分アップする!」

「!? それじゃ……」

 

 続く効果に、ジャスミンが口を手で覆った。

 今現在、ドリュアトランティエのリンク先には2体のスラッシャーとティタニアルがいる。その攻撃力の合計は10800。どれだけライフを回復しても、4体の攻撃は確実にライフを削り切るだろう。

 メリアスがベルガモットを指さした。

 

「最早、あなたに勝つ手段などありません! 我が主を侮辱したその罪、この圧倒的な力で持って裁いてあげましょう! そして!」

 

 高らかに宣言し、さらにその視線をラベンダーに移した。

 

「この世界を汚す彼女を始末し、清浄な自然を取り戻す。それこそが、私の我が主への忠誠の証だ!」

 

 力強い言葉に、ラベンダーは唇を噛み、俯く。マジョラムが肩に手を添えて、気持ちを落ち着かせようとしてくれた。

 そして、ベルガモットは。

 

「……何を勘違いしてやがる」

「何?」

「まだ俺のターンは終わっていねぇぞ」

 

 それは、今まで聞いたことがないほどに重くて、暗くて、凄みのある声。ベルガモットを愛しているラベンダーでさえ、ぞくりと恐怖するほどだ。肩に添えられたマジョラムの手が小さく握られる。やはり、彼女も怯えているようだ。

 そのベルガモットは、腕を前に伸ばす。

 

「墓地の《グローアップ・バルブ》の効果発動。俺のデッキの一番上のカードを墓地へ送って、このカードを特殊召喚する」

 

 それは、恐らく《アロマブレンド》の手札コストにしていたもの。地面に倒れるロザリーナのすぐ傍に、目玉のついた球根が現れて、白い花を咲かせた。まるで、ロザリーナを勇気づけるように。

 

グローアップ・バルブ

DEF100 レベル1

 

「そんなザコをいく――」

「墓地の《アロマブレンド》を除外して効果発動。俺の手札・フィールドのモンスターを融合素材として除外し、植物族の融合召喚を行う」

 

 メリアスには聞く耳を持たず、ベルガモットのフィールドに融合の渦が現れる。その中に、小さなアロマの妖精と、白い花を咲かせる球根が吸い込まれた。

 

「淑やかな香りの妖精よ。奈落より返り咲く花を傍らに、新たな香りの境地を拓け。融合召喚! 現れ出でよ、我らが主、《アロマリリス-マグノリア》!!」

 

 融合の渦が弾け、現れたのはアロマの庭の主であるマグノリア。ラベンダーをはじめとしたみんなが慕う女性だ。

 

アロマリリス-マグノリア

ATK2600 レベル8

 

「その程度の攻撃力――」

「魔法カード《至高の木の実(スプレマシー・ベリー)》発動。俺のライフが相手より低い場合、2000ポイントのライフを回復する」

 

ベルガモット LP300→2300

 

「そしてマグノリアの効果発動。ターン終了時まで、自分の植物族の攻撃力を、回復したライフポイント分だけアップする」

「……!」

 

アロマリリス-マグノリア

ATK2600→4600

 

「そしてマグノリアの効果発動。2000ポイントのライフを払い、俺の場の《恵みの風》《潤いの風》《渇きの風》の数だけフィールドのカードを除外する」

 

ベルガモット LP2300→300

 

 多大なライフを払ってよろめくベルガモットだが、反対にメリアスは鼻で笑っていた。

 

「無駄です! ティタニアルの効果発動! フィールドのカードを対象とする効果の発動を、私の植物族モンスター1体をリリースして無効にし、破壊する! これであなたの命運は尽きた!」

「そう思うか?」

「何?」

 

 得意げに躱そうとするメリアスに対し、ベルガモットは短く告げる。

 メリアスが眉を顰める目の前で、マグノリアが杖を振るうと、その先端に取り付けられたアロマキャンドルから紫の煙が発生する。それはメリアスの場のティタニアルとドリュアトランティエに流れていき、その2体は音も声も出さず静かに姿を消した。

 

「バカな、なぜ……!?」

「マグノリアの除外効果は対象を取らない。だから、ティタニアルの効果が使えるはずもない」

「!!」

「そして『サンアバロン』が消えたことで、お前のスラッシャーは2体とも破壊される」

 

 聖なる天樹に従う2人の剣士は、主を失ったことで存在意義を見失い、2体とも跪き破壊された。

 これでメリアスのフィールドに残るのは、もはや意味を成さない《聖天樹の開花》のみ。

 

「そんな、この私が……我が主が……こんな奴に!」

「随分な物言いだな」

 

 紫水晶の瞳が赤く染まるメリアスに、ベルガモットは猶も静かに告げる。カナンガの言う通り、相当怒っているのが目に見えた。

 

「確かに、俺たちが何の理由もなくお前の主を侮辱したのなら、お前の怒りも分からなくはねえ。だがその前に、お前は自分で何を言ったか忘れたのか?」

「何だと……?」

「証拠もねえのにウチのラベンダーを悪の根源だって決めつけただろうが」

 

 ラベンダーを振り向くベルガモットは、ラベンダーにだけ分かるように唇で笑顔を作り、そしてメリアスに向き直る。

 

「俺の大切な仲間で、()()()()()()()()。自分にとって大切なものを侮辱されて怒れるのはお前だけって、それも主サマが決めたのか?」

「ッ……!」

 

 メリアスが黄色い歯を軋ませるが、それを無視してベルガモットは右腕を掲げた。

 

「マグノリアでダイレクトアタック。サブライム・ストーム!!」

 

 その合図で、フィールドのマグノリアは杖を振り、紫色の粒子が混じる突風を巻き起こす。守るものがないメリアスは、その風を受けて吹き飛ばされた。

 

「ぐぁあああああああああああッ!!」

 

メリアス LP3600→0

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