ですが作中のものが正答ということで、よろしくお願いします。
目の前にあるものを見て、ぽつりと呆けたように呟くと、立ち上がったキューティアが俺の傍に寄ってきた。
「詰めデュエル、って?」
「指定された状況から1ターンで勝利しなければならない、っていう脳トレの一種みたいな感じです。詰将棋とか詰碁とか、それのデュエル版ですよ」
「なるほど……」
説明を聞いたキューティアも、目の前のデュエルフィールドを見て、考え込むような仕草を取った。
「ちょっとちょっと、そのやる気は一旦置いときなさいよ」
そこでドリーミアが注意してきたので振り返る。着地の衝撃で服についたらしい埃や塵を手で払いつつ、ドリーミアはこの神殿のような空間を見回した。
「まずもって、何であたしたちがこんなとこに連れてこられたのか、全く分かんないんだけど」
「……さっき見た、オレンジ色の球体が原因ですよね」
ドレミ界の屋敷に現れた、謎のエネルギー体。それに近づいた結果、俺たち3人はこの妙な空間に引きずり込まれた。それ以上は説明のしようがない。
そして、俺は勿論、キューティアとドリーミアもあれを見たことはなかったと言う。この空間が何か、知るはずもないだろう。
「ここがどこだろうと、ゲートを開けばなんとかなるかしら」
ドリーミアが提案したところで、俺は懐からタクトを取り出す。そしてドレミ界の座標を頭の中で強く意識し、タクトに力を込めてその場で振ってみた。
しかし、ゲートは開かない。
「私もやってみます」
それを見て、キューティアも自前のタクトを取り出してすぐに振る。俺と違い、ドレミ界に帰るためのゲートを開くぐらいは造作もないらしいが、やはり光のゲートは現れなかった。更にドリーミア自身も試したが、開かずじまいだ。
「どうして……」
「何か強力な力でこの空間が隔離されているのか、それともあたしたちの『浄化』の不調と関係が……」
「……自分とクーリア様は、この間アロマの庭からゲートを開けましたので……前者かと」
ドリーミアが推測するが、俺も少しだけ意見する。とはいえ、ここ最近は何もかもがおかしくなっているので、これまでがそうだったから、という前例はあまり当てにならない。
心配そうなキューティアは、詰めデュエルの盤面を振り返る。
「……これを解かなきゃ、後にも先にも進めない、ってことでしょうか」
俺もまた、キューティアと同じ方を向いて考えてみた。
「誰がなぜ、自分たちをここに閉じ込めたのかは分かりません。ですが、それ以外にできることはなさそうですね」
ゲートを開けない以上、自力でドレミ界には戻れない。しかも、今俺たちがいるのは巨大な石柱の上で、移動することもできない。
ただし、デュエルフィールドの反対側、黒い石板の後ろには扉のようなものがある。あれが出口かもしれない。
だからキューティアの言う通り、この詰めデュエルを解くのが、この空間から脱出するための手がかりと見ていいだろう。
「……で、その詰めデュエルはどういう感じなの?」
ドリーミアも仕方ないとばかりに、俺たちと並んで前を見る。
そして改めて、デュエルの状況を確認した。
* * *
Player LP1600
【手札】
真魔獣 ガーゼット
治療の神 ディアン・ケト
巨大化
カード・フリッパー
火炎地獄
幻惑の巻物
【モンスターゾーン】
裏側守備表示モンスター4
【魔法&罠ゾーン】
カード無し
Enemy LP2000
【手札】
無し
【モンスターゾーン】
憑依装着-ダルク ATK1850 レベル4
漆黒の戦士 ワーウルフ DEF600 レベル4
ゴラ・タートル DEF1100 レベル3
お注射天使リリー ATK400 レベル3
【魔法&罠ゾーン】
伏せカード1
魔術師の右手
暗黒の扉
* * *
「相手の場にモンスターが5体、こっちには裏守備モンスターが4体……」
「伏せカードは……」
キューティアがフィールドを確認する傍ら、ドリーミアが自分たちのフィールドでセットされているモンスターを確かめようとする。こちら側の裏守備モンスターは、マスターデュエルのように半透過状態で、何が伏せてあるかは分かった。
「『霊使い』か……」
《水霊使い エリア》、《火霊使い ヒータ》、《風霊使い ウィン》、《地霊使い アウス》。
いずれも、デュエルモンスターの歴史において登場したのはかなり前の話だ。登場当は取り立てて話題にはならなかったものの、ビジュアル的な意味で一部に人気があり、次第に進化形態やサポートカード、リメイクカードが登場、結果今では遊戯王を代表するテーマの一角に数えられている。
それぞれが水・炎・風・地属性のリバースモンスターで、それぞれリバースした場合に自身と同じ属性の相手モンスター1体のコントロールを得られる効果を持つ。コントロール奪取効果が苦手な俺としては、微妙な気持ちになるが。
兎に角、その4体がフィールドにセット状態で待機していた。
「墓地やデッキ、除外状態のカードは確認できないですし、ここにあるカードだけで勝たなきゃいけないみたいですね」
場合によるが、詰めデュエルでは基本、デッキ・エクストラデッキ・墓地・除外状態のカードは全て判明しているものとして扱う。さらにお互いの伏せカードも何が仕掛けられているかは分かるはずだが、今相手方の伏せカードは確認できない。ここが精霊界で、これが単なるゲームでない以上、当たり前かもしれないが。
すると、俺たちの目の前に2枚のカードが大写しのソリッドビジョンで現れた。
《ゴラ・タートル》
星3 / 水属性 / 水族 / 攻1100 / 守1100
効果
(1):このカードがフィールドに存在する限り、フィールドの攻撃力1900以上のモンスターは攻撃宣言できない。
《魔術師の右手》
永続魔法
(1):1ターンに1度、自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、相手が発動した魔法カードの効果を無効にし破壊する。
「この2枚に気を付けて攻略しなさいって意味みたいね」
ドリーミアが納得したように頷くと、2枚のカードのソリッドビジョンは消失した。ドリーミアの言う通りだと言わんばかりに。
そして、柱の脇に3つの松明が現れ炎が灯った。恐らく、挑戦できる回数だろう。
「まあ、いいわ。ここはちゃっちゃと突破しましょう」
ドリーミアが前に出て、挑戦する態勢に入る。
「ドリーミアちゃん、大丈夫?」
「これでもデュエルの勉強はコツコツしてるのよ」
キューティアが不安そうに聞くが、ドリーミアは得意げにデュエルフィールドを見た。
「まずもって《ゴラ・タートル》をどかさなきゃ勝てないわけよね。なら話は簡単よ! あたしは《水霊使いエリア》を反転召喚!」
ドリーミアはまず、伏せられた「霊使い」の1体をリバースさせる。水色のロングヘアの少女が、杖を携え、使い魔を傍らに姿を見せた。
水霊使い エリア
DEF1500→ATK500 レベル3
「エリアのリバース効果発動! 水属性の《ゴラ・タートル》のコントロールを得る」
フィールドのエリアが杖を振ると、水色の光で《ゴラ・タートル》を照らし出す。光を浴びた大きな亀の甲羅は、そのまま水に流されるようにドリーミアの下にやってきた。
「そして《真魔獣 ガーゼット》は、あたしのモンスターを全てリリースすることで特殊召喚できる!」
「……あっ」
ドリーミアの狙いを理解し、同時にそれが失敗することに気付いたがもう遅い。フィールドのエリアと《ゴラ・タートル》、さらに裏守備状態の「霊使い」3人が消え、翼を生やす禍々しい見た目の悪魔がフィールドに降臨した。
真魔獣ガーゼット
ATK 0 レベル9
「このガーゼットの攻撃力は、特殊召喚のためにリリースしたモンスターの元々の攻撃力の合計になる。更に守備モンスターを攻撃した場合、貫通でダメージを与える!」
「おお~!」
「つまりこれなら――」
ドリーミアが得意げに説明し、キューティアが感心した矢先、相手の陣地に立つ黒い石板が僅かに光った。
『《碑像の天使-アズルーン》の効果発動。相手がモンスターを特殊召喚する際、魔法&罠ゾーンから特殊召喚された自分のメインモンスターゾーンの永続罠カードを墓地へ送ることで、その特殊召喚を無効にして破壊する』
「えっ」
どこからともなく響いた声に、ドリーミアが虚を突かれたような声を上げた。
そして、相手の場にいた天使の石像が弓を引き、矢を放つと同時に姿を消す。放たれた矢が胸の中心に突き刺さったガーゼットは、大きな叫び声を上げて消失してしまった。
「……で、この後は?」
キューティアが恐る恐る聞くと、ドリーミアは振り返り。
「……ごめん」
謝った。
直後。
「きゃっ!?」
突風が吹き、ドリーミアを吹き飛ばす。更に松明の明かりが1つ消えた。詰めデュエルを解けなかった、ということだろう。
「完全に作り手の思い通りになっちゃいましたね……」
「何よ、だったら再チャレンジしてやるわ!」
キューティアの言葉にドリーミアが憤然と立ち上がると、デュエルフィールドが挑戦する前の状態に戻った。
そしてドリーミアは、ずんずんとさっきいた位置に脚を進め、
「……っ?」
突然、頭を押さえて後ろによろめく。
「ドリーミア様、大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
身体を支えると、ドリーミア自身も混乱するように額を押さえた。
「……チャンスは一人1回、ということでしょうか」
「みたいね……」
キューティアが、一つ消えた松明を見て予想する。多分だが、ドリーミアの突然の眩暈からしてそういうことだろう。
俺とドリーミアを見て、キューティアは頷きデュエルフィールドに立つ。
「私が行きます」
「大丈夫なの?」
「私だって、伊達にバトレアスさんにデュエルを教えてもらってはいませんし……」
キューティアは振り向き、俺を見て微笑んだ。
「いつまでも頼りきりではいられませんから」
そしてキューティアは、フィールドを見直した。
「私は《地霊使い アウス》を反転召喚!」
最初のキューティアの一手は、別の「霊使い」のリバース。今度は短い茶髪の少女が現れた。
地霊使い アウス
DEF1500→ATK500 レベル3
「アウスのリバース効果発動! 相手フィールドの地属性モンスター1体のコントロールを得ます。私が選ぶのは《お注射天使リリー》!」
アウスが杖を振り、オレンジ色の光でリリーを照らす。すると、巨大な注射器を携えるナース服の女天使は、ひらりと舞いながらキューティアのフィールドに移った。
「そんなモンスターのコントロールを奪ってどうするわけ?」
「見ていれば分かるよ、ドリーミアちゃん」
ドリーミアから見れば不可解な選択らしいが、キューティアの狙いは俺にも掴めた。
そして、後は仕掛けを御覧じろ、とばかりにキューティアは多くを語らずデュエルを続ける。
「私は魔法カード《巨大化》をリリーに装備し、その攻撃力を倍にします」
『《魔術師の右手》の効果発動。1ターンに1度、自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、相手が発動した魔法カードの効果を無効にして破壊する』
なじみ深い装備魔法を発動したが、すぐにまた声が響き、《巨大化》のカードが砕け散る。
しかしキューティアは、わざと《魔術師の右手》の効果を発動させたのだろう。あれは強制効果で発動するタイミングを選べないから。
「魔法カード《火炎地獄》を発動。相手に1000ポイントのダメージを与え、私は500ポイントのダメージを受けます」
次に発動するのは互いにダメージを受けるカード。フィールドに現れた魔法カードから炎が舞い上がり、火の粉がキューティア、さらに黒い石板へ散った。
Enemy LP2000→1000
キューティア LP1600→1100
「くっ……」
そこでキューティアは、少し苦しむような仕草をした。詰めデュエルでも、衝撃が少しは伝わってきているらしい。
だけど、すぐにキューティアは前を向いた。
「魔法カード《治療の神 ディアン・ケト》発動。1000ポイントのライフを回復します!」
キューティア LP1100→2100
最初期に登場した、ライフを回復する以外で効果を持たないシンプルな魔法カード。だけど、その回復値は今でも中々バカにならない。
「バトルです!」
「ちょ、待ちなさいよ! こっちには攻撃力400のリリーしかいないのよ?」
「それで十分だよ」
ドリーミアがすぐに止めようとするが、キューティアは自信ありげにドリーミアに振り向いた。
「《お注射天使リリー》は、モンスターと戦闘するダメージ計算前に、2000のライフを払えば攻撃力が3000上がるの」
「さんぜ……!?」
「《ゴラ・タートル》の効果で封じられているのは、攻撃力1900以上での『攻撃宣言』。つまりこれなら、《ゴラ・タートル》の効果をすり抜けられる」
キューティアの読みに頷く。
俺もこちらの世界で何度か体験したが、遊戯王では時として、ダメージステップでのコンバットトリックが勝敗を分かつことがある。それについて、俺ができる範囲でキューティアに教えた際、例として《お注射天使リリー》や《収縮》を使ってみせた。それをキューティアはしっかり覚えていたらしい。
最後にキューティアは俺を見て、得意げに笑う。
「というわけで、バトル! リリーでダルクを攻撃、診察のお時間ですよ!」
聞き覚えのある攻撃の合図を受け、リリーが注射器を携えて突撃する。その先にいる黒い短髪の少年は、杖を構えてそれに対応しようとした。《憑依装着-ダルク》の攻撃力は1850。リリーの攻撃力が3000上がれば3400、超過ダメージは1550だから十分――
『罠カード《ディメンション・ウォール》発動。このバトルで自分が受けるダメージは代わりに相手が受ける』
「「「え!?」」」
このタイミングで明かされた相手の伏せカードに、俺たち3人は揃って声を上げた。中でもキューティアは、ライフを払えば敗北、払わなくても失敗という事実に、顔を両手で挟むように押さえる。
そしてリリーはダルクに接近したものの、ダルクは危なげなく杖を振ってリリーを弾き飛ばした。
『やーん!』
わざとらしい叫び声と共にリリーは消滅し、キューティアが逆にダメージを受けてしまう。
キューティア LP2100→650
そして、《闇黒の扉》によって攻撃できるモンスターは1体のみ。つまりもうライフは削れず、挑戦は失敗と見なされてしまう。またしても突風が吹き、キューティアをデュエルフィールドから突き飛ばした。
「っと……」
俺はキューティアの身体を支え、倒れこまないようにする。
そしてデュエルフィールドが最初の状態に戻されたのを見て、ドリーミアは黒い石板を指差す。
「今のは正解の流れでしょ!?」
「俺もそう思いました……」
「うう……」
八つ当たりに近い抗議をするドリーミアだが、気持ちは分かる。あれだけ手間暇かけた解法でも間違っているなんて。しかも、唯一の非公開情報にしてやられるとは。
そしてこれで、《ゴラ・タートル》と《魔術師の右手》、さらに《ディメンション・ウォール》という、厄介なカード3枚の妨害を潜り抜けなければ、この詰めデュエルは解けないことが分かった。
「もう、バトレアスさんしか頼れませんね……」
「そうね……また、あんたに負担をかけるのは申し訳ないけど……」
「いえ、それについてはお気になさらず」
松明の明かりは残り1つだけ。挑戦できるのは1人1回。もう俺しかいない。ドリーミアとキューティアがすまなそうにするが、元々俺はこういう時のためにいるようなもの、2人が罪悪感を抱く必要は皆無だ。
ただし、この詰めデュエルをどう解くかは別。デュエルフィールドを見て、俺は唸るしかなかった。
◆ ◇ ◇
「天門術-『一縷』」によってゲートを開き、関門の間を作り出した後、ダルクたち「霊使い」は同じ神殿内の別の場所でその様子を観察していた。
「こうして見ると、何だか私たちとあまり変わらないね」
詰めデュエルに苦心する天使の少女たちを見て、エリアが興味深そうに呟く。そんな彼女に「おいおい」とヒータは声をかけた。
「逆にどんなのが来ると思ったんだよ?」
「何というか、翼を生やしているのかとばっかり」
「まさに天使、って感じか?」
エリアの予想は、ダルクにも分からなくはない。しかし見る限り、関門の間にいる3人とも、そんな翼を背中に隠しているようではなかった。それに、最初に挑戦した2人の少女は他の「霊使い」よりも幼く、今挑戦しようとしている男はダルクより年上に見える。相手が天使である以上、見た目で年齢を測ることなど困難だろうが。
「にしても、アウスの作った詰めデュエルイイね。天使2人をてこずらせるなんて」
「いやいや……」
ライナに褒められたアウスは、満更でもなさそうにしている。
詰めデュエルは、組み上がった段階でダルクも見せてもらったが、アウスの
「とはいえ、3人目となればもう突破されるかな……」
アウスは眼鏡の位置を整えつつ、様子を見ながら呟く。最初の2人は、アウスの策に上手く引っかかった。しかし、手の内がバレた以上、突破されてもおかしくはない。
元々この詰めデュエルは、挑戦者は1〜2人程度を想定して作ったものだ。こっちに来る人数を選べないから仕方ないし、例の魔導書ではその「天使」1人だけが呼ばれたらしいが、3人は少し想定外だ。あの男が匙を投げるか、伏せカードを忘れるなんてポカをやらかさない限り、次で突破されてしまうだろう。
しかし、あの天使たちがどのような存在かは粗方知ることができた。今のところ、3人とも人間たちに害をなすようには見えず、お互いに気遣い合って険悪な雰囲気もない。謝罪は当然として、ダルクは改めて事情を話した上で協力を仰ぐつもりだ。そもそも、こちらの都合で呼んだ以上、ぞんざいな扱いをする気はない。そんなことを天使にすれば、どのような罰が当たるか怖いのもあるが。
兎に角、最後のひとりがどう動くか気になるところだ。
「……」
そんな中、ウィンはまじまじと、関門の間にいる3人の様子を見ていた。その異様な集中に最初に気付いたのはヒータだ。
「ウィン、どうかしたか?」
「あ、うん。ちょっと気になったんだけど~……」
言いながらウィンが指さしたのは、これから詰めデュエルに挑戦しようとしている男だ。
「この人、天使とも人間とも違うなぁ、って」
「? どういうこと?」
「うまく説明できないんだけど、さっきの2人の子とも、私たちとも、雰囲気が違うなぁって」
エリアに問われても、ウィンはほわほわした答えを返す。
残りの5人は、その雰囲気が違うという男の挑戦を、注意深く見てみることにした。
◇ ◆ ◇
「こんな難問、どう解けばいいのよ……」
腕を組んで唸るドリーミアを背後に、俺もまたデュエルフィールドを観察する。さっきのキューティアの解法は結構いい線を行ったと思ったのだが、それも違うとなるとなかなか難しい。正解に限りなく近かったからこそ、余計ここから思考を切り替えて別の解法を探すというのが難しくもなる。
「……バトレアスさん、大丈夫そうですか?」
不安そうにキューティアが尋ねてくるが、今は少し返事をするのも難しい。フィールドを見て、どうすれば勝てるのかを必死に考えているのだ。
しかし、見れば見るほど、相手のフィールドにいるモンスターたちが、まるで嘲笑うかのようにこちらを見ている。《ゴラ・タートル》は甲羅に引っ込んだ状態だが、ダルクも、リリーも、アズルーンも――
(……そう言えば)
まだ、2人の解法に絡んでいないモンスターが残っていた。そのモンスターの効果を、過去の自分の記憶を何とか手繰って思い出してみる。
それが分かれば、すぐだった。
「……行けるかもしれない」
「え!?」
「嘘! どうやって!?」
食い入るように俺を見るキューティアとドリーミア。
俺は少しずつ脚を進め、さっきまで2人が立っていた場所に立ち、挑戦の意思を示す。そして、俺自身の解法が間違っていないかを確かめるために、ちゃんと口にすることにした。
「……まず大前提として、この手札では効果ダメージだけで勝てません。さらに、《ディメンション・ウォール》で攻撃も通らない。そしてアレを破壊する手立てもこちらにはありません」
「そうですよね……」
「ですが、あれの発動を封じるカードはあります」
「え?」
俺の言葉と、指さしたモンスターに、ドリーミアがきょとんとしたのが声で分かった。
「《漆黒の戦士 ワーウルフ》は、バトルフェイズ中の相手の罠カードの発動を禁止します。なのでまずは、あのモンスターを借りましょう」
「でも、どうやって? あいつは闇属性みたいだし、『霊使い』じゃ奪えないわ」
「そのためには、まず《魔術師の右手》を封じるところからですね」
相手のフィールドで身体を伏せている黒い体毛の獣戦士・ワーウルフは、紫色のオーラに包まれている。ドリーミアの言う通りあのモンスターは闇属性で、ただ「霊使い」をリバースしてもコントロールを奪うことはできない。
それを可能にするため、さらにその先の展開を有利にするために、手札のカードをフィールドに出した。
「俺は魔法カード《治療の神 ディアン・ケト》発動。1000ポイントのライフを回復する」
『《魔術師の右手》の効果発動。1ターンに1度、自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、相手が発動した魔法カードの効果を無効にして破壊する』
ライフを回復しようとするが、すぐさま《魔術師の右手》の効果で即座に無効にされる。無論、これは狙ったものだから気にしない。そして、これで魔法カードが自由に使えるようになった。
「魔法カード《カード・フリッパー》を発動。《真魔獣 ガーゼット》をコストに、相手フィールドの全てのモンスターの表示形式を変更する」
「え?」
そこで次の魔法カードを発動したわけだが、ドリーミアは困惑した声を上げた。しかし処理自体は問題なく行われ、相手フィールドにいる全てのモンスターの手足に、空から下りてきた糸が絡みつき、操り人形のように勝手に動かす。《ゴラ・タートル》だけは、糸が甲羅の中から頭と手足を引っ張り出していた。
憑依装着-ダルク
ATK1850→DEF1500
漆黒の戦士 ワーウルフ
DEF600→ATK1600
お注射天使リリー
ATK400→DEF1500
ゴラ・タートル
DEF1100→ATK1100
碑像の天使-アズルーン
DEF1800→ATK1800
「これじゃ戦闘ダメージを通せないんじゃない? 攻撃力の低いリリーを守備表示にして……それ以前に、闇属性のワーウルフをどうやって奪うわけ?」
「まぁ、見ていてください」
相手フィールドで攻撃力が一番低いのはリリーだ。そして、その攻撃力を3000アップさせる効果をあちらは使えない(厳密には使えるが、コスト2000のライフを払った瞬間に負ける)。だからリリーは格好の的になるはずだが、それを守備表示にしたのが解せないのだろう。
だが、俺はちゃんと答えを示すつもりだ。
「装備魔法《幻惑の巻物》をワーウルフに装備。装備モンスターの属性を、俺が宣言した属性にする」
ワーウルフの属性の変更先は、こちらの「霊使い」と同じなら何でもいい。なので俺は少し考えてから口にする。
「俺は風属性を宣言!」
瞬間、ワーウルフを覆う紫色のオーラが緑色に変わる。これで属性が変わったことになるだろう。
「そして《風霊使い ウィン》を反転召喚!」
伏せ状態だったモンスターを表向きにし、緑色のポニーテールの少女の姿を露わにした。
風霊使い ウィン
DEF1500→ATK500 レベル3
「ウィンのリバース効果を発動。風属性になったワーウルフのコントロールを得る!」
ウィンが杖を振って穏やかな風を巻き起こすと、その風がロープのようにワーウルフの身体を包み込み、こちらのフィールドへと連れてくる。寝取り効果を使うのは俺自身嫌なのだが仕方ない。
「これで《ディメンション・ウォール》は封じられましたね!」
「いや、だからこれじゃダメージが通しきれないでしょ」
キューティアが喜ぶ一方、ドリーミアはまだ納得がいかない様子。
俺はさらに、次の手を打つことにする。
「魔法カード《火炎地獄》を発動。相手に1000ポイントのダメージを与え、俺は500ポイントのダメージを受ける」
キューティアの時と同様、発動したカードから炎が舞い上がり、火の粉が俺たちに降り注いでくる。俺はキューティアとドリーミアを庇うようにしたが、それにより少しだけスーツに火の粉が飛んできた。
バトレアス LP1600→1100
Enemy LP2000→1000
「……あっ!」
ライフが逆転したのを見て、ドリーミアはようやく気付いようだ。
俺は振り向き、小さく頷いて最後の手札を手にする。
「装備魔法《巨大化》を《ゴラ・タートル》に装備。装備モンスターの攻撃力は、俺のライフが相手より低ければ倍に、高ければ半分になる!」
《巨大化》のカードが装備されると、《ゴラ・タートル》の姿がその効果通りに半分ほどのサイズにまで縮んでしまう。今や普通の成人男性と同じぐらいの高さだ。
ゴラ・タートル
ATK1100→550
この詰めデュエルで最初に提示された《魔術師の右手》と《ゴラ・タートル》。あの2枚を並べて示すことで、少ない手数で最初に《ゴラ・タートル》を処理しなければ、と思考を誘導したわけだ。実際ドリーミアはそれに引っかかってしまい、それを見てキューティアは戦法を変えたが、そこで伏せカードで返り討ち。しかも、《魔術師の右手》の効果を使わせる囮の魔法カードにディアン・ケト以外を使うと解けなくなる。全くもって、この詰めデュエルを作った人はいい性格をしているものだ。
「ワーウルフで《ゴラ・タートル》を攻撃!」
そんな問題を解けたことへの解放感を乗せて、ワーウルフに攻撃宣言させる。漆黒の狼は突進し、小さくなった《ゴラ・タートル》に頭突きをお見舞いする。《ゴラ・タートル》のものであろうか細い叫び声が神殿に響き渡った。
Enemy LP1000→0
「「やったー!!」」
相手のライフが尽きた瞬間、声を揃えてキューティアとドリーミアが喜びをあらわにした。
すると、デュエルフィールドのモンスターたちが消え、聳えていた黒い石板が崩れ落ち、俺たちが今いる柱と反対側をつなぐ石の通路が現れる。それを安易に渡っていいものかどうか、3人で顔を見合わせると。
「改めて……よく来て下さりました」
今さっきデュエルで見た「霊使い」が姿を見せた。
◇ ◇ ◆
詰めデュエルを行った空間は、本当にそのためだけに用意したとのことで、俺たちは部屋を変えて改めて話を聞くことにした。
「……つまり、その天門術とやらで、あたしたちの世界とコンタクトを取ったってわけね」
「そういうことです」
事情を聞いたドリーミアが頷き、エリアが頷く。
場所を移したものの、そこは石造りの神殿みたいな建物の中に変わりはない。そして、そんな場所に似つかわしくない応接セットに俺たちは通されたが、これは霊使いたちの魔術で拵えたものらしい。
「でも、どうして詰めデュエルなんて?」
「それについては謝罪したい。なんでも以前、この天門術で呼び寄せた天使が問題を起こしたもので、詰めデュエルで呼んだ天使を試すよう術のプロセスが追加されていたんだ。それがなければ、こんなことはしなかったよ」
「問題、ね……」
キューティアが聞くとダルクが正直に頭を下げ、ドリーミアは何か思うところがあるみたく顎を指で撫でる。
後ろに控える俺も、その「問題」という言葉で心臓が揺さぶられるような気になる。その天使が何者かは知らないが、同じく問題を起こしてしまった俺としては、抱いちゃいけない親近感のようなものがあった。
「いてて……!」
「あ、ごめんね」
そんなことを考えていたら、頬に鈍い痛みが走る。
さっき、その「天門術」でこちら側に呼ばれた際、俺は盛大に顔を石の床に擦りつけてしまった。それで擦りむいたわけで、その部分をウィンが手当てしてくれている。放っておけば治るレベルのものだが、ダルクの言うように詰めデュエルでこちらを試してしまったことへのお詫びもあるらしい。
「でも、すごいねぇ」
「え?」
そのウィンは、俺をまじまじと見ながら呟く。
「だって、こうして見ていると、自然に擦り傷が治っていくよ? 私はちょっと消毒しただけなのに」
そう言われても、俺には傷口がどうなっているのかさっぱり分からない。だけど、身体に蓄積したダメージの治りが常人より早いのは、俺も前々から自覚していた。エグザムを交えた迷宮姫やテータとの戦いでそれは顕著だったが、やはり普通の人から見れば常識外れらしい。
「やっぱり、天使なんだな」
ダルクの後ろにいるヒータが、頭の後ろで手を組みながら感心している。
俺が人間をやめてから久しいが、改めて自分が天使であることを他人から指摘されるのは、まだ慣れなかった。
「……では、なぜ私たちを?」
肝心なことをキューティアが問う。
どうして詰めデュエルをやらされたのかは分かったが、そもそも何故「天門術」を使ったのかはまだ聞いていない。
その時、外で雷の音が鳴り響いた。アウスがびくっと肩を震わせる。
「まぁこの通り、私たちの世界はもう一週間ぐらい天気がひどくてね」
「……」
「自然現象で片付けられないんだよ。まるで、誰かが操ってるような感じでさ」
ライナが説明するが、俺としては「またか」という気持ちだ。
植物界でも同じような天気が続いている。その際には、ドリュアトランティエ曰く「大地の気が乱れている」らしいが、霊使いの住むこの世界もそれと同じということだろうか?
「だから、少しでも助けが欲しくて……そんな願いもあって、天門術を使ったのさ」
「……なるほど」
ダルクが続けると、ドリーミアは頷き、やがて両手を挙げる。
お手上げの体だ。
「畑違いかもしれないわね」
「え?」
「天気どうこうの話になると、『天気界』っていう世界に属する天使の管轄になるの。あたしたちではどうしようもないわ」
「ちょ、待てよ」
ドリーミアの言葉に、ヒータが真っ先に反論した。
「言ったろ? 天門術は、その時一番親和性のある天使を呼び寄せるって。だから――」
「とはいえ、私たちも天候は操作できませんし……」
キューティアの言う通り、ドレミコードには天気を左右できる力はない。できるのは、人の心に作用する旋律を奏でることだけ。こちらの世界でも続く悪天候が自然現象ではない、という話は無視できないが、だからと言ってドレミコードで解決できるような問題ではない気がした。
「なんだそれ……骨折り損かよ……」
「だったら、どうしてあなたたちが……」
落胆の声を隠そうともしないヒータに、横にいたアウスが肘で脇腹を突く。ウィンはうーんとこめかみに指を当てた。
「天門術」を発動するのはそれなりに苦労したのだろう。それで呼び寄せた天使、つまり俺たちが「管轄外」などと言ってしまえば、それは落ち込むのも分かる。そして、何故にドレミ界と繋がったのかのもまた不明だ。
キューティアとドリーミアが、どうしたものかと俺に振り向く。俺に聞かれても困るのだが、何か報いてあげたいと思うのも確かだ。
「……他の世界でも異常な悪天候が続いているってこと、話しても大丈夫でしょうか?」
「まあ、それぐらいならいいんじゃないかしら?」
念のためドリーミアに聞くと、彼女は前向きな答えを返してくれた。今の俺の立場で、他の世界のことをホイホイ話してしまうのはリスクがある。念のため、正式なドレミコードの天使であるドリーミアやキューティアの意見を聞いておきたかった。
「……ええと、実はですね――」
許可を得て、改めてそのことを話そうとした。
だが、それを遮るように強烈なエラー音が突然空間に鳴り響く。
「きゃっ!?」
「何だ!?」
キューティアやダルク、他のみんなも耳を押さえ、狼狽える。
そして俺は、頭が痒くなりながらも、その聞き覚えのある音の出所に手をやる。
「失礼。自分のデュエルディスクでした」
「お前のかよ!」
どこかの新喜劇みたいな感じでヒータにツッコまれた。それに苦笑しつつデュエルディスクを見ると、天板に「!」マークが表示されている。以前、ヴァーディクトがドレミ界に攻め込んできた時、ミューゼシアに強制的にドレミ界に戻された時と同じだ。
すぐに俺は天板をタップして、エラー音を止める。
『バトレアス、今どこ?』
「ミューゼシア様、ここは、ええと……うまく説明できませんが無事です。キューティア様とドリーミア様もいます」
「は、はい!」
「あたしたちは大丈夫です、ミューゼシア様!」
ミューゼシアの声は、そこまで進退窮まったような緊迫したものではない。それでもまず無事であることを伝え、キューティアとドリーミアも声を上げると、ミューゼシアの安心したような小さな息が聞こえた。
『分かったわ。兎に角、一度こちらに戻ってもらえるかしら。緊急よ』
「分かりました。ゲートを――」
『こっちから戻すわ。キューティアとドリーミアの傍にいなさい』
やはり前回と同じように、デュエルディスクが輝きを放ち始める。俺はすぐに、傍でびっくりしていたウィンに手短にお礼を告げ、キューティアとドリーミアの後ろについて一緒に帰れるようにする。
「すみませんが、緊急で呼び戻されました。なので一旦、この話は持ち帰らせてください」
「え、でも――」
頭を下げると、光に照らされたダルクの困った顔が見えた。
このまま話をなあなあにさせたままだと、俺たちとしてもヒータの言う通り骨折り損で終わってしまう。
「我々のリーダーに話します。この異常事態をどうにかしなければならないと思っているのは、俺たちも同じですから」
「天門術関連のことも話しておかないとですし」
俺に続いてキューティアも続く。
そこで、ダルクは頷いた。
「……なら、これを渡しておく」
言いながら、ダルクは懐に手を突っ込んでカードを1枚取り出し、こちらに投げ渡してきた。俺はそれを受け取るが、デュエルディスクの放つ光が強まったことでよく見えない。
「必ず、また来てくれ!」
強い光に負けないほどのダルクの声に俺は頷いたつもりだが、それが見えたかは分からない。
光で完全に視界が真っ白に染まり、やがて数秒経つと、俺たちはドレミ界の玄関に戻っていた。
「3人とも、無事?」
「は、はい。どうにか……」
待っていたのはクーリアとミューゼシア、さらにビューティアだ。クーリアが心配そうに聞くと、キューティアが両腕で元気いっぱいのポーズをとる。ドリーミアと俺も頷くと、クーリアは安心したように息を吐く。
そしてミューゼシアは。
「……何があったか、キューティアとドリーミアで説明できる?」
「え、はい。それは……」
「分かったわ。なら、2人は食堂でみんなに話を。バトレアスは私と一緒に来て」
切羽詰まったような言葉遣い。キューティアとドリーミアは、何かを聞き返すこともできず、クーリアはつらそうな顔をしている。
「何があったんですか?」
俺が聞いてみると、ミューゼシアは息を少し吐く。
そして、俺の肩に手を置いた。
「……アポロウーサ様のお呼び出しよ」
《真相は如何》
キューティア「あの詰めデュエル、ワーウルフの属性を『霊使い』と同じにできれば何でもよかったんだよね」
ドリーミア「確かにね」
キューティア「それでバトレアスさんは風属性を選んだわけだけど……もしかして、クーリア様が風属性だから、それつながりで選んだのかなぁ?」
ドリーミア「多分バトレアスそこまで考えてないと思うわよ」
キューティア「真顔で何てこと言うのドリーミアちゃん」