ミューゼシア LP2700 手札1
【モンスターゾーン】
豊穣のアルテミス DEF2000 レベル4
【魔法&罠ゾーン】
神の居城-ヴァルハラ
パーシアスの神域(天空の聖域)
伏せカード3
デコード・トーカー LP600 手札1
【メインモンスターゾーン】
□■□ トランスコード・トーカー
□◆■ ATK2800
□■□ リンク3
【エクストラモンスターゾーン(左)】
□■□ アクセスコード・トーカー
■◆■ ATK2800
□■□ リンク4
【魔法&罠ゾーン】
サイバネット・コーデック
フィールドに現れた《アクセスコード・トーカー》。その全貌が明らかになった途端、場の空気が変わったのをデコードは呼び出した自身で感じ取る。
これこそが、今のデコードの切り札だ。《ファイアウォール・ドラゴン》も使うべきだと思ったが、バトレアスたちには既にマスカレーナとのデュエルで能力が知られてしまった以上、手間をかけて呼んでもすぐに対処される可能性が高いと踏み、デッキから外している。それでもこのモンスターは、ファイアウォールに負けず劣らずの強力な力を持っていた。
「リンク素材となった《コード・エクスポーター》、《サイバネット・コーデック》、そして《アクセスコード・トーカー》の効果発動。このカードはリンク召喚が成功した時、その攻撃力を素材としたリンクモンスター1体のリンクマーカー×1000ポイントアップさせる!」
「く……《エクスコード・トーカー》はリンク3……!」
「つまり攻撃力は3000ポイントアップする。そして《アクセスコード・トーカー》の効果の発動に対し、相手は効果を発動できない!」
アクセスコード・トーカー
ATK2800→5800
「続いて《サイバネット・コーデック》の効果。アクセスコードは闇属性。よって闇属性の《
爆発的な攻撃力を得るアクセスコード、更にサーチとサルベージも欠かさない。アクセスコードは自身の効果でチェーン発動を許さないため、最後にその効果を発動するようチェーンを積めば、自分の発動した効果を安全に通せるようになる。
そしてその強さはまだ全て発揮していないが、その前にフィールドを整えることにした。
「手札の《SIMMタブラス》の効果発動。墓地のサイバース族・レベル4モンスター1体を手札に戻し、このカードをリンク状態の私のリンクモンスターのリンク先へ特殊召喚する! 私はこのカードを特殊召喚し、《レディ・デバッガー》を手札に戻す。そしてこのモンスターを召喚!」
SIMMタブラス
DEF1800 レベル5
レディ・デバッガー
ATK1700 レベル4
手足と鼻が水色に発光する小さなバクが、トランスコードの隣に現れる。そして、手札に戻したテントウムシに近い見た目の女性モンスターを即座に召喚した。
「《レディ・デバッガー》の効果で、私はデッキからレベル2の《キャシー・イヴL2》を手札に加える。このモンスターは、私の場のレベル3以上のモンスター1体のレベルを2つ下げることで、手札から特殊召喚できる!」
SIMMタブラス
レベル:5→3
キャシー・イヴL2
DEF600 レベル2
《SIMMタブラス》の横に、猫のような手足と尻尾、耳を生やす少女が現れた。
「再び現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はモンスター3体。《SIMMタブラス》、《キャシー・イヴL2》、手札の《マイクロ・コーダー》でリンク召喚! 来い、リンク3!《パワーコード・トーカー》!!」
空に現れたリンクサーキットから、地面に微かな皹を入れながら折り立つ赤い鎧の戦士。やがて立ち上がったそのモンスターは、「コード・トーカー」共通の黒い身体にラインを走らせ、格闘家のようにマッシブなデザインの鎧が特徴だ。
□□□ パワーコード・トーカー
■◆■ ATK2300→2800
■□□ リンク3
「く……」
しかしその直後に、デコードの胸が締め付けられるような感覚に襲われる。さっきエクスコードを呼び出した時も感じたが、こんな感覚は今日まで未知のものだ。何が起きているのか分からないが、デュエルは止められない。
「《サイバネット・コーデック》と《マイクロ・コーダー》の効果発動。《マイクロ・コーダー》で魔法カード《サイバネット・ロールバック》を手札に加える。そして《サイバネット・コーデック》により、炎属性のパワーコードを特殊召喚したことで、同じ炎属性の《デグレネード・バスター》を手札に加える」
一度、ミューゼシアのフィールドを見直す。ただライフを削るだけなら、デコードのモンスターは十分だ。が、ここまでのデュエルで、ミューゼシアは引きのよさと全く油断ならない戦術を繰り出してくると理解していた。それならやはり、念には念を入れてさらにモンスターを呼んだ方がいいだろう。
それこそ、「目指すべき布陣」を作り上げる。
「《デグレネード・バスター》は、私の墓地のサイバース族2体を除外することで特殊召喚できる。《レスキュー・インターレーサー》と《エクスコード・トーカー》を除外して特殊召喚!」
赤い鎧と黒い身体の、一見パワーコードによく似た姿の戦士が炎を纏わせながら現れる。両手に炎を宿すそのモンスターがいるのは、デコードの一番右端のメインモンスターゾーンだ。
デグレネード・バスター
ATK2500 レベル7
「速攻魔法《サイバネット・ロールバック》発動! 除外されているサイバース族モンスター1体を特殊召喚する。戻れ、エクスコード!」
□■□ エクスコード・トーカー
■◆■ ATK2300
□□□ リンク3
パワーコード・トーカー
ATK2800→3300
デグレネード・バスター
ATK2500→3000
エクスコードを召喚したのはパワーコードの右隣、右側のエクストラモンスターゾーンの下だ。そしてエクスコードはリンク先のモンスターの攻撃力を上げ、効果破壊耐性も与える。
「まさか……」
それを見て、バトレアスが恐れるような声を上げた。どうやらデコードの狙いに気付いたらしい。
しかしデコードも、エクスコードを呼び出してから脈拍がさらに上がり、意識しなければ呼吸まで乱れそうになる。けれど、今はデュエルだ。
「三度現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族2体。《レディ・デバッガー》と、《デグレネード・バスター》でリンク召喚! リンク2、《リンク・バンパー》!」
□■□ リンク・バンパー
■◆□ ATK1400
□□□ リンク2
《デグレネード・バスター》がいたモンスターゾーンに現れたのは、ピンボールのような見た目の人型ロボット。だが、それは「中継」とアクセスコードの効果をより使いやすくするためでしかない。《リンク・バンパー》には申し訳ないが。
「リンクモンスターのリンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、手札の《シーアーカイバー》の効果発動。このモンスターを特殊召喚する! ただし、この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合除外される」
シーアーカイバー
DEF2100 レベル3
最後の手札だったモンスターは、白いタツノオトシゴのようなモンスター。それが、最後に空いていた左端のメインモンスターゾーンに現れる。
そして、デコードの胸の苦しみはさらに強さを増した。心臓にあたる部分を押さえるのを我慢することができなくなるほどに。
「デコード様、どうされたのですか……?」
「いや、大丈夫だ……問題ない」
セクレタリーが心配そうに声をかけるが、彼女を不安にさせるわけにはいかない。
自分はサイバース界の守護者だ。こんな不調程度で音を上げるわけにはいかず、デュエルを下りてもいけない。このデュエルに勝ち、ドレミコードとやらの影響力を借り受けることができれば、もっとサイバース界は平和になる。
そのために、デコードは謎の苦しみを振り切るように腕を突き出す。
「現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族2体以上。《シーアーカイバー》とリンク2の《リンク・バンパー》でリンク召喚! リンク3、《シューティングコード・トーカー》!!」
水色の光を放ちながらリンクサーキットから舞い降りたのは、水色の鎧に身を包む戦士。これまでの「コード・トーカー」と比べて鎧がシンプルだが、背中に翼を生やし、収納された状態の弓の弦を左腕に装備している。
□■□ シューティングコード・トーカー
■◆□ ATK2300→2800
□■□ リンク3
そしてそのモンスターが呼び出されたのは、デコードから見て「右側のエクストラモンスターゾーン」。
「エクストラリンク……!」
デュエルを観ているクーリアが、慄くように呟いたのが聞こえた。
エクストラモンスターゾーンに存在するリンクモンスター同士が、メインモンスターゾーンのリンクモンスターを経由し、全て相互リンク状態で繋がること。それが「エクストラリンク」だが、デコードはそれを全て自分のモンスターで完成させた。
「すごい……」
バトレアスは素直に胸を打たれたような声を洩らしている。その言葉に、デコードも少し誇らしさを感じた。
「……なるほど。それがあなたの言っていた、『目指すべき布陣』ですか」
「その通りだ。これこそが、目指すべき布陣、私の理想だ……」
対戦するミューゼシアは冷静に、されど感心したような顔をしていた。
このエクストラリンク……というよりも「コード・トーカー」で作り上げたこの状況こそ、デコードが目指すべきもの。仲間と結束し、繋がり合い、強固な力を持って敵を倒す。そして、自分たちの世界を守る。今はまだそれが十全にできているとは言えないから、これはデコードの理想を示したものでもあった。
「ぐ、く……」
しかしながら、シューティングコードを呼んだところで、結局デコードの胸の苦しみは消えない。どころか、それはむしろ強まった。こうなったら、デュエルを早く終わらせなければ。
「水属性のシューティングコードをリンク召喚したことにより、《サイバネット・コーデック》の効果で、水属性の《スクリプトン》を手札に加える」
最後にサーチをするが、もうこのターンにリンク召喚をするつもりはない。
後は、ミューゼシアのフィールドの脅威をできる限り取り除く。
「アクセスコードの効果発動。自分のフィールドまたは墓地からリンクモンスター1体を除外することで、フィールドのカード1枚を破壊する。この効果は、除外するモンスターの属性が重複しない限り、1ターンに何度でも使用できる!」
「!」
「まずは光属性《コード・トーカー・インヴァート》を除外!」
墓地のモンスターを除外すると、アクセスコードが巨大な槍を構える。
「破壊するのは《パーシアスの神域》! アクセス・インテグレーション!」
指さしたカードへ、アクセスコードが槍を投げ放つ。そのカードが消滅すると、ミューゼシアの背後に建っていた騎士の石像も崩れ去った。これで、セットされた魔法・罠カードも破壊できるようになる。
「続いて闇属性《コード・トーカー》を除外し、右側の伏せカードを破壊!」
再生成した槍をアクセスコードが勢いよく投げ飛ばし、伏せカードの1枚が露わになる。それは《聖なるバリア-ミラーフォース-》。攻撃表示モンスターを全滅させる、リンクモンスターの大敵。やはり侮れない。
「そして地属性の《リンク・バンパー》を除外して、今度はその伏せカードを破壊する!」
この効果のためだけにリンク召喚し、素材として墓地へ送ったことに少なからず罪悪感を抱きつつ、コストとして除外する。アクセスコードが再び生み出し、放った槍に貫かれた伏せカードは、《やぶ蛇》。
「セットされた《やぶ蛇》が相手の効果で墓地へ送られたか除外された場合、私はデッキ・エクストラデッキからモンスター1体を特殊召喚する!」
「!」
「現れよ、《いろはもみじ》!!」
ミューゼシアの場に突如現れたモンスターは、青を基調とした和装の女性。柄の入った巨大な鋏を盾のように構えている。
アクセスコード自身の効果で、その効果の発動に相手は効果をチェーンできない。だが、破壊したカードの効果の発動は許してしまう。
いろはもみじ
DEF2600 レベル7
「特殊召喚した《いろはもみじ》の効果発動。このカードがフィールドに存在する限り、フィールドのモンスターは全て私が宣言した属性になる。私は光属性を宣言!」
《いろはもみじ》が鋏を振ると、フィールドのモンスターが黄色いオーラに包まれる。デコードがディスクを見てみると、全てのモンスターの属性が「光」に書き換えられていた。これで、光属性を除外して既に発動したアクセスコードの効果を使えないようにしたのか。
しかし、大した障害ではない。
「パワーコードの効果発動。《いろはもみじ》の効果をターン終了時まで無効にする。ワイヤー・リストラクション!」
パワーコードが右腕を突き出すと、ワイヤー付きのクワガタのような刃が放たれ、《いろはもみじ》をワイヤーで縛り刃で挟み込む。デコードのモンスターたちの属性は元に戻った。
そして、ミューゼシアには伏せカードがまだ1枚残っている。モンスター2体はどうとでもなるが、ミラーフォースのように攻撃に反応するものだった場合は少しマズい。
けれど、《やぶ蛇》という前例を見てしまった以上、破壊されることで効果が発動するカードとも考えられる。それに、今のデコードのフィールドは万全だ。攻撃の手数を減らして勝機を逃すわけにはいかない。
「バトルだ。ここで、シューティングコードの効果発動。このバトルフェイズ中、このカードはリンク先のモンスターの数+1回攻撃できる。まずは《いろはもみじ》を攻撃!」
左腕の収納された弦が展開し、生成した矢を番えてシューティングコードがそれをすぐに射る。鋏でガードしようとした《いろはもみじ》だったが、鋏ごと貫かれて破壊された。
「さらにアルテミスを攻撃。シューティングコードは自身の効果を使ったバトルフェイズに、相手フィールドに1体だけ存在するモンスターに攻撃する場合は攻撃力が400ポイント下がるが、それで十分!」
シューティングコード・トーカー
ATK2800→2400
「行け、シューティング・コンプリート!!」
先ほどよりも勢いよく矢を放ったシューティングコード。その矢を受けてアルテミスは消滅した。
シューティングコード・トーカー
ATK2400→2800
「さらに、トランスコードでダイレクトアタック! トランスコード・フィニッシュ!!」
砲撃ユニットを構えるトランスコード。この攻撃が通ればデコードの勝ちだ。
「永続罠《リビングデッドの呼び声》発動! 墓地より《
The splendid VENUS
ATK2800 レベル8
トランスコード・トーカー
ATK2800→2300
アクセスコード・トーカー
ATK5800→5300
パワーコード・トーカー
ATK3300→2800
エクスコード・トーカー
ATK2300→1800
シューティングコード・トーカー
ATK2800→2300
攻撃の直前、魔法陣から神々しい天使が現れた。その影響に冒されたデコードのモンスターたちの攻撃力は下がってしまう。特に、攻撃しようとしていたトランスコードの攻撃力も落ち、破壊できなくなったのは痛い。やむを得ず攻撃を中止するしかないが、突破することはまだ容易かった。
「アクセスコードでVENUSを攻撃! デスティネーション・アクセス!!」
今のデコードの最大戦力で攻撃する。アクセスコードは槍をVENUSに向けて投擲し、紫の波動を宿した槍が光の天使の胸を刺し貫き、爆散させた。
「ぐ……!」
ミューゼシア LP2700→200
アクセスコード・トーカー
ATK5300→5800
トランスコード・トーカー
ATK2300→2800
パワーコード・トーカー
ATK2800→3300
エクスコード・トーカー
ATK1800→2300
シューティングコード・トーカー
ATK2300→2800
その爆発の威力はデコードにも伝わってきたが、通常のデュエルよりも衝撃が強い気がする。だが、それには気にせず今度こそ止めを刺すことにした。
「エクスコードでダイレクトアタック! エクスコード・クローズ!!」
「墓地の《クリアクリボー》を除外し、効果発動! デッキからカードを1枚ドローし、それがモンスターなら特殊召喚して、バトルさせる!」
「!」
この土壇場で墓地のカードまで使ってきた。いつの間に仕込んでいたのか、とデコードは一瞬戸惑うが、ふと思い出したのは《天罰》。墓地へ落としたタイミングは、あの時しか考えられない。
そして、ミューゼシアは前のターンに《パーシアスの神域》でデッキトップを操作していたのも思い出す。
「私が引いたのは《コーリング・ノヴァ》! よって特殊召喚し、エクスコードとのバトルが続行される!」
コーリング・ノヴァ
DEF800 レベル4
エクスコードが手甲から刃を伸ばし、リース状の小さな天使に突撃する。《コーリング・ノヴァ》は刃で切り裂かれるが、ミューゼシアにダメージは入らない。どころか、そのモンスターはリクルーターだ。
「バトルで破壊された《コーリング・ノヴァ》の効果発動! 攻撃力1500以下の天使族・光属性モンスター1体をデッキから特殊召喚する。現れなさい、《ホーリージェラル》!」
薄い緑の光を放つずんぐりとした天使が現れる。頭の上と身体の下に、土星の環のような光輪が付随していた。
ホーリー・ジェラル
DEF2000 / ATK1000 レベル4
「パワーコードで《ホーリー・ジェラル》を攻撃! パワーターミネーション・スマッシュ!!」
パワーコードに攻撃を命じると、手甲からクワガタのように刃を伸ばして突進し、その拳と刃で《ホーリー・ジェラル》を打ち抜き爆発させた。
だが、もう攻撃できるモンスターがいない。
「見事だよ、ミューゼシア殿」
デコードは嘘偽りのない純粋な賞賛の言葉をミューゼシアに投げかけた。
「これだけの攻撃を凌ぎきるとは、想定していなかった」
「いいえ……私も、あなたがこれだけの布陣を敷いてくるとは正直思ってもいなくて」
「だが事実として、あなたは全てを躱した。とはいえ、次のターンに同じ真似をさせるつもりはないが……」
デコードは小さく拍手をしてから、メインフェイズ2に移行する。
「シューティングコードの効果発動。バトルが終わる時、そのバトルフェイズにこのカードが破壊したモンスターの数だけドローする」
2枚のカードを引き、どちらもミューゼシア相手に不足はないことを確認した。
「装備魔法《グリッド・ロッド》をエクスコードに装備。これを装備したモンスターは攻撃力が300ポイントアップし、相手のカード効果を受けず、1ターンに1度だけバトルで破壊されない!」
エクスコード・トーカー
ATK2300→2600
エクスコードが杖を握ると、その身体が薄水色のオーラに包まれる。このエクストラリンクで唯一の穴とも言えたエクスコードに完全耐性を与え、打点も微弱ながら上昇した。これで多少耐えられるだろう。
「私のライフが2000以下の場合、墓地の《サイバネット・ロールバック》を除外して効果発動。除外されているサイバース族2体、《レスキュー・インターレーサー》と《シーアーカイバー》を手札に戻す」
さらにミューゼシアの攻撃に備えて手札誘発、さらにはそれをトリガーに呼び出せるモンスターをサーチし、次のターンの戦略の幅を広げた。
「さらにカードを1枚伏せてターンエンド」
最後に伏せたのは《ドロー・ディスチャージ》。相手が自身の効果でドローした時、そのカードを全て確認し、モンスターが含まれていたらその攻撃力の合計分のダメージを与えた上、ドローカードを全て除外する。
ここまでで、ミューゼシアはドローに重きを置いているのは理解していた。だからもし、この絶体絶命の状況で同じような真似をすれば、残りライフ200のミューゼシアを仕留められるだろう。
エクストラリンクは、リンクモンスターが登場した「新マスタールール」施行当初は恐れられていた。何せ、エクストラデッキから呼び出すモンスターは全て、エクストラモンスターゾーンか、既にフィールドにいるリンクモンスターのリンク先にしか出せなかったのだ。そんな重要なゾーンを2つとも占有すれば、どれだけ相手に大きな制限を掛けるかは言うまでもない。
その後のルール改正で、融合・シンクロ・エクシーズモンスターはその限りでなくなった。しかし、リンクモンスターとペンデュラムモンスターは、現在も同じルールを強いられている。
また、リンクモンスターにはエクストラモンスターゾーンにいてこそ効果を最大限発揮できるモンスターも多い。俺の愛用する《グランドレミコード・クーリア》も、リンク先に空きがなければ無効効果を使用できない。エクストラモンスターゾーンを使えなくするエクストラリンクは、やはり今でも強かった。
それ以前に、エクストラリンクは簡単には完成しない。だから、それを成し遂げることは純粋に凄いのだ。
(感心している場合じゃないが……)
首を振って、デュエルに集中する。
ミューゼシアが、「コード・トーカー」5体の攻撃をいなしたのは奇跡と言っていいだろう。だけど、次のターンには確実にライフを削り切るはずだ。それどころか、ミューゼシアのライフはもう200しか残っていない。しかも《レスキュー・インターレーサー》の存在から、攻撃によるダメージは確実に1回躱される。後がなかった。
「ミューゼシア様、大丈夫でしょうか……」
「心配には及ばないわよ」
勝負は次のドローで決まる。この状況を打破できる1枚が、果たして引けるだろうか。それが不安だが、隣で観戦するクーリアは慌てていない。
「ミューゼシア様の引きの強さは、あなたもよく知っているでしょう?」
「ええ、それは……」
ミューゼシアのドロー力がずば抜けているのは、俺も戦ったことがあるからよく分かる。だけど、嫌な可能性とは頭から簡単に消し去れるものでもない。
「強さを理解して信じているのなら、最後まで信じ抜きなさい。それは天使だけでなく、誰にでも必要なことよ」
背中に手を添えられ、諭され、ミューゼシアに視線を移す。
ミューゼシアは、これっぽちも怯えてなどいなかった。目に宿る力は衰えず、デコードと彼のフィールドを見据えて、デッキに指をかけている。
その姿に、デュエルを観ているだけの俺が不安になっても意味はない、と思い知らされた。
「私のターン、ドロー!」
そして最後のカードを、ミューゼシアが引く。
それを見た彼女は、頷き、デコードを見る。
「エクストラリンク……それが目指すべき布陣、理想というのであれば、それを砕いてしまうのは少々胸が痛みますね」
「……ならば、どうする? よもやサレンダーなどするつもりではあるまいな?」
「とんでもない。別の方法で勝利するまでです」
含みのある言い方にデコードが訝しむ。
だが、ミューゼシアはフィールドに手を伸ばした。
「永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》の効果を発動。私の場にモンスターが存在しないことで、手札から天使族の《アテナ》を特殊召喚!」
空から光が降り注ぎ、降り立ったのは白い衣をまとう銀髪の女性の天使。槍と盾はともかく、その天使は俺もアポロウーサに呼びつけられた際に直で見たことがあった。
アテナ
ATK2600 レベル7
そしてそのモンスターの効果は、クーリアとのデュエルで見たことがあった。
だからこそ、何を狙っているのか気づく。
「さらに、《勇気の天使ヴィクトリカ》を召喚!」
勇気の天使ヴィクトリカ
ATK1400 レベル4
最後に残していたモンスターは、翼を生やす淡い金髪の少女の姿をした天使。その名に恥じない、勇気の籠もったような笑顔を浮かべている。
その直後に、そばにいる《アテナ》が槍を構えた。
「何をするつもりだ?」
デコードが尋ねるが、フィールドの《アテナ》は不敵に笑うだけだ。
「ほかの天使族が召喚されたことで、《アテナ》の効果が発動。相手プレイヤーに、600ポイントのダメージを与える!」
「な、に……!?」
ミューゼシアが指差し、アテナが槍をデコードへ向ける。その切っ先から放たれた稲妻は、フィールドの「コード・トーカー」たちをすり抜けてデコードに直撃した。
デコード・トーカー LP600→0
勝負が決し、片膝をつくデコード。そんな彼に、セクレタリーはすぐに駆け寄った。
「言ったでしょう?」
そしてクーリアは、この結末を予見していたかのように俺に微笑みかけ、ミューゼシアの下へ向かう。俺も一足遅れでそれに続くと、ミューゼシアはデコードのそばに歩み寄っているところだった。
「お怪我はありませんか? デコード様」
「ああ、問題ない」
ミューゼシアが問うと、デコードは顔を上げて立ち上がる。
「見事だった。最後はヴァルハラを残してしまった私の落ち度だな……仲間と描く理想に固執しすぎた」
「いいえ、仲間を思う気持ちは私にもよくわかりますよ」
自嘲するデコードに声をかけ、ミューゼシアは俺たちを振り向く。ミューゼシアもまた、俺たち仲間を大切に思っているのは分かっていた。
「こちらもあと一歩で負けるところでしたよ」
「謙遜だな……このデュエル、あなたは終始ペースを乱さなかった。流石は天使と言ったところか」
確かにミューゼシアは、デュエル中でも焦ったりしなかった。その肝の太さも見習いたいところである。
「では、デュエル前の取り決め通り……」
ドレミコードは、今の一連の出来事を解決するにあたりサイバース界と一時的な協力関係に入る。だけど、それ以降の関係は解消だ。更に、マスカレーナが共有したであろうドレミコードの情報はすべて消去する。
その約束を履行してもらおうとしたところで、電話の着信みたいな電子音が空間に鳴り響いた。
「すまない、私だ。どうした?」
デコードがディスク型の剣を鞘に納めると、左手首を軽く右の人差し指で叩き、何らかのAR画面を表示させる。何が映っているのかはデコード本人にしか見えないらしい。
「ああ……ああ。分かった、すぐ行く」
どこかと連絡を取ったデコードは、頷いて画面を消すと俺たちを見た。
「データ分析班から、興味深い情報が入った。あなた方にも共有しよう」
そう告げてデコードは、右腕をふっと横に振る。
そこにワープゲートが出現すると、俺たちに入るよう右手で促した。
「これは私なりの、あなた方への信頼の証だ」
「?」
「サイバース界の重要な拠点に、ご案内しよう」
◆ ◇
デコードに案内されたのは、オフィスビルみたいな場所だ。ここではサイバース界の天候、インフラ、住人、交通……兎に角様々なデータを階層ごとに分析しているという。
案内されたそのフロアが担うのは、後ろに続くセクレタリー曰く「エネルギーの分析」。ガラスで仕切られた部屋では、分析担当らしいサイバース族のモンスターたちが、せわしなく動き回ったり、パソコンで何かのデータを調べている。人型のモンスターが基本だが、中にはふわふわ浮遊するマスコットみたいな姿のモンスターまでいた。
「パックビット」
そのフロアの一角で、マルチモニターを前に座っている人物にデコードが声をかけた。体を紺色のスーツで覆い、頭に白いヘッドギアを着け、髪が逆立っている男だ。
「興味深いデータを見つけたって?」
「ああ……それより、この人たちは?」
「我々の新しい協力者だ」
「ふぅん……?」
パックビットと呼ばれた男が訝しむような目を向けてきた。俺たちは一礼するが、セクレタリーが前に出てその男を手で示す。
「彼は《エニグマスター・パックビット》。エネルギー分析の主任ですよ」
「初めまして、私はミューゼシアと申します」
「クーリアよ」
「バトレアスです」
「どーも。紹介に預かったパックビットだ」
軽く自己紹介を交わしたところで、デコードがパックビットの肩を叩く。
「それで、どういうデータだ?」
「ああ、こいつだよ」
キーボードを叩いてパックビットが見せたのは、ドローンか監視カメラの映像のようだ。広々とした公園を俯瞰的に捉え、その下ではデュエルが行われている。
というか、そのデュエルをしているのは、よく見たらデコードとミューゼシアだった。
「これは、私たちのさっきのデュエルじゃないか。これに何か?」
「実はな……」
パックビットはカメラの映像を早送りし、ある部分で一時停止させた。それは、デコードがあのエクストラリンクを完成させた場面。
「これ、このあたり。自然エネルギーの濃度がずば抜けてヤバいことになってる」
さらにキーボードを軽く叩き、パックビットが画面を指さす。新しく現れたウィンドウでは、サーモグラフィのように、デコードのデュエルフィールドが赤・緑・青・黄色で鮮やかにくっきりと色分けされていた。
「これは……おかしいな」
「だろ? ヤバすぎる」
「ええと……素人質問で恐縮なのだけれど、何がおかしいのかしら?」
納得している様子のデコードとパックビットに、ミューゼシアが軽く手を挙げて質問した。ドレミコードの大天使も、こう言った科学には疎い。パックビットは椅子に座り直し、ミューゼシアを見返しながらモニターを指さしていく。
「そもそもこのサイバース界に限らず、いろんな世界には『自然のエネルギー』って言うのが充満してるんだ。地・水・炎・風の4種類が基本、それが入り混じって色々なものを形成して、どんなものもこの4つの属性から成り立ってる」
マウスを操作し、別のウィンドウを引っ張り出すパックビット。そこに映っているのは過去の映像らしきデータストームだが、それもまたサーモグラフィみたいな画像に切り替わる。青や紫、白と言った寒色が合わさってできたデータストームは、緑一色になった。
「例えばこのデータストーム。主要物質はデータマテリアルだが、これ自体は『風』の自然エネルギーを宿してる。火山なら『炎』と『地』、海なら『水』と『風』、地面なら『地』と少しばかりの『水』……って感じで、兎に角この自然のエネルギーが重要ってことを頭に入れてほしい」
パックビットが一度理解を求めると、俺たちドレミコードは頷く。パックビットの言う4種のエネルギーは、デュエルモンスターの属性にも当てはまるから、俺でもすぐ理解できた。
「で、問題なのはさっきのデュエル。この通りデコードは見事にエクストラリンクを完成させたわけだが……普通のデュエルでこんなに強く自然エネルギーを感知することなんてないんだよ」
再び表示されたデュエルのワンシーン。そこではやはり、さっきパックビットが説明したような「地」「水」「炎」「風」のエネルギーが混ざり合い、色濃くなり、混沌としている。
「それは、エクストラリンクの影響とか?」
「いや。過去にデコードがエクストラリンクをした時の映像も失敬したけど、その痕跡はなかった」
控えめに俺が質問してみるが、既存のデータと照らし合わせるぐらいのことは試していたようだ。というか、エクストラリンクを過去にしたというのも十分驚きだが。
「それで、もっと気になるデータがあってだな……」
言いながらパックビットは、サイドモニターのウィンドウを拡大させる。さっきの画像同様に自然エネルギーが色分けされて可視化されているが、今ちらは空撮映像ではなく3Dマップと見える。
「そのデコードとのデュエル中、同じような強力な自然エネルギーの反応が近くであったんだ。それが……」
パックビットが別のウィンドウで、今度は監視カメラの映像を出す。それが映していたのと、3Dマップで示された地点は同じらしいが。
「……空中?」
「ああ。監視カメラやドローンの映像を見ても、そこには何もない」
クーリアの言葉に頷き、パックビットは色々なカメラの映像を表示させる。それらはデュエルをしていた公園のすぐ近く、ビル街の空中のある一点を色々な角度から映しているが、そのどれにも何も映っていない。
にもかかわらず、デコードがエクストラリンクを完成させた時と同じような、四つの自然エネルギーが混じった塊みたいなものが、3Dマップの同じ場所に映し出されている。
「単なるセンサーの誤作動とは考えにくい。多分、ここに『何か』が――」
あるかもしれない、と続くはずだったのだろう。パックビットのその言葉は聞けなかった。
モニター画面とフロアの明かりが、全て消えてしまったから。
「停電?」
「くそ、こんな時にか……」
セクレタリーがタブレットを取り出して状況を確認する傍ら、パックビットはドリンクホルダーのエナジードリンクらしきものを飲む。他の職員たちもざわつき、辟易するような声がそこかしこから聞こえた。
俺とクーリア、ミューゼシアは顔を見合わせるが、そこでまたデコードの端末が呼び出し音を鳴り響かせる。
「エクスか。どうした?」
『悪い知らせだ』
デコードは、通話をスピーカーモードにする。何が起きているのかを、俺たちにも聞かせるためらしい。
その電話の「エクス」という男は。
『第2データバンクが呑まれた』
「……データストームにか?」
『ああ……』
「これは……」
不穏な会話のすぐそばで、セクレタリーがタブレットを見て首を横に振る。「シュポ」「シュポ」という音は、チャットアプリか何かの通知らしく、それが立て続けに鳴っている。バイザーで表情は分からないが、いいニュースが聞けたようではない。
「データストームの予兆は確認できなかったのか?」
『それがおかしなことに、何の前触れもなかったんだ。しかもデータバンクを中心に、ピンポイントに発生した』
「そもそもデータバンクは地下にあっただろう。なぜデータストームに呑まれる」
『桁外れのデータストームだよ。地面を抉るほどの』
その会話の直後、明かりが復旧する。更にパックビットのモニター画面も点くが、それを見たパックビットは大きくため息を吐いた。
「なんてこった、初期化されてやがる……」
「え、それじゃさっき見たデータは……」
「お陀仏だ」
パックビットが苛立っているのは俺でも分かったから、もうそれ以上迂闊なことは聞けない。
「……まるで、狙いすましたかのようね」
ぼそりと呟いたクーリアの言葉に、俺とミューゼシア、セクレタリーはその顔を見る。思案するようなクーリアだが、今の言葉には重みというか、信憑性があった。
パックビットが、「何か」の存在を掴みかけた直後、観測したことがないレベルのデータストームが何の前触れもなく発生し、地下のデータバンクを吸収してコンピュータ系を初期化。
全て偶然だろうか。
いや、それこそ「狙ったかのよう」だ。
◇ ◆
少々雑になったが、これで当分は僕の存在を察知できまい。
しかしやはり、高度に発達した科学は魔術と区別がつかない、とは本当らしい。実に興味深いものも見られたし楽しかった。けれど、留まりすぎたのが仇になってしまったか。
そうだな……。
存在を少しでも見られてしまったとなれば、これ以上ゆっくりするのもよくないだろう。
であれば、そろそろ行動を起こすか。