「解けた!」
大量の資料を傍らに、ヴェールの仕掛けた転移術式を調べていたアウスが声を上げる。向かいで同じく分析していたエリア、壁際で手持無沙汰にしていたヒータ、そしてリビングにいたウィン、ダルク、ライナが駆け寄った。
「どうだった? どこに繋がってた?」
「ヴェールさんの魔導工芸ギルドの本館」
「何だ……ちょっと考えればすぐ分かる場所じゃん……」
ダルクに居場所を聞かれて答えると、大きなため息をつくヒータ。ヴェールの所属は霊使いも全員知っていたし、そこに繋がっているという可能性も考えなかったわけではない。けれど安直すぎたし、ヴェールが自分の仲間がいる場所に不安因子を移動させるか、という疑いもあったから考えなかったのだ。
「兎に角、すぐクーリアさんに伝えよう」
「じゃあ私が」
ライナの提案を受け、ウィンはすぐクーリアの下へ向かう。
高い木々で多少雨粒が遮られていても、完全には雨風を凌げない。そんな中でも、クーリアは演奏を続けていた。薄桃色の美しい髪、豪勢なドレスにまで雨水に濡れているのが中から見えたので、ウィンはタオルを片手に外へ出る。
「……何か、分かったのかしら?」
それに気づいたクーリアが指揮を止めると、妖精体がバイオリンを降ろしてウィンを見つめる。自分たちが従えている使い魔と同じようなものだろうが、相手が天使族だからやはり緊張してしまう。
だけどウィンは、タオルを差し出しながら頷いた。
「はい、えっと……バトレアスさんが飛ばされた場所が分かりました。時間がかかってしまってごめんなさい」
「いいえ、大丈夫よ」
ヴェールが使った転移魔術のブービートラップは、かなり複雑な術式だった。効果自体は単純だが、簡単に分析されないよう術式を何重にも上書きし、転移先の座標も厳重に暗号化されていた。この手の頭を使う作業が得意なアウスがいなかったら、多分1日あっても解析できなかっただろう。
あれからもう1時間近く経過していた。それだけ不安にさせてしまっただろうと思い謝ったが、クーリアは笑って許してくれる。何と懐の深い天使なのだろうか。
「それで、その場所は近いの?」
「いえ、ここからはかなり離れていまして……転移魔術を使えばすぐですが……」
「だったら、すぐに――」
それを聞いて、クーリアはタクトを仕舞い、妖精体もぺこりと頭を下げて姿を消す。そしてクーリアが早速移動を頼もうとしたその時。
何かが木から落ちる音が聞こえた。
「「?」」
それが聞こえたウィンとクーリアは、異様にその音が気になってしまい、そちらへと足を進める。
ほどなくして、その音の正体は分かった。
「う、ぐ……」
森の中で倒れていたのは、純白の馬。けれど背から翼が生え、額から鋭い青色の角が生えている、ペガサスともユニコーンとも言える動物。しかも、体中に痛ましい傷がついていた。
そしてその背にもたれかかっているのは、古代風の衣服を着る青い髪の青年。
「これって――」
「ジョバンニさん! どうしたんですか!?」
困惑するクーリアの傍で、すぐにウィンがペガサスとその青年に駆け寄る。ジョバンニというらしい青年は、肩を揺すられても呻くだけだった。
「すまない、どうか……マスターを、頼む……」
「サファイアさんまで、どうしてこんなことに……?」
「遺跡の、封印が……解かれた……」
ウィンの質問に途切れ途切れの答えを返すペガサス……《宝玉獣 サファイア・ペガサス》。だが、やがてすぅっとその姿を消してしまい、後にはところどころ黒ずんだ青い宝石、サファイアが残るだけだった。
「宝玉獣が、こんな……」
「……す、まない」
ウィンに身体を支えられたジョバンニが、だらりと腕を地面に落とす。その手のひらから、いくつもの黒ずんだ宝玉が零れ落ちた。
「どういうこと……?」
「ええと、どこから話せばいいのか……」
状況が掴めないクーリアが説明を求める。ウィンもまた急なことで混乱し、目をきょろきょろさせ、上手く説明ができない。
クーリアは、ジョバンニという青年が怪我をしているのは見て取れた。兎に角、この青年の治療が先だろうと思い、屋敷の方へ視線をやろうとする。
けれど。
「見ーっけ♪」
背後から聞こえた、愉悦に満ちた女の声。
それは、クーリアも背筋が凍り付くかのような、狂気を孕んでいて。
その背には巨大な竜を従えていた。
◆
バトレアス LP4900 手札0
【モンスターゾーン】
【魔法&罠ゾーン】
ウィッチクラフトゴーレム・アルル
伏せカード2
ハイネ LP1900 手札2
【モンスターゾーン】
カード無し
【魔法&罠ゾーン】
魔法吸収
伏せカード1
「ウィッチクラフト」の本陣でデュエルをしているバトレアスとハイネ。お互いにとってこのデュエルは負けられなかった。バトレアスは、「ドレミコード」の正当性を示すために。ハイネは、バトレアスたち天使の善悪を見極め仲間を守るために。
お互いに虚勢を張りながらのデュエルは、緊張状態が続いている。それを破ったのは――
「ただいま~」
正面玄関から入ってきた魔女の、気の抜けた挨拶。そこにいた全員がそちらを見た。
「あら、ヴェールさん。おかえりなさい」
「ヴェ、ヴェール様ぁ……」
「あー、やっとご帰還ですかー?」
ウィッチクラフトの反応はまさしく三者三葉。ジェニーはにこやかに、ハイネは半泣きで、エーデルは文句ありげにヴェールを出迎える。ヴェールは「めんごめんご」と言いながらドアを閉め、バトレアスの方を見た。
そのバトレアスは。
「……マスター・ヴェール、ですか」
「「ん?」」
その少女の姿に呟く。
それを拾わないヴェールとハイネではなかった。
「あれ、あれれ? もしかして君、この私をご存じだったりしちゃう?」
「ええ、まぁ」
会うのは初めてだが、バトレアスはデュエルモンスターとしてヴェールのことを知っている。その逆はありえないため、ヴェールは自分のことが天使に知られているのが意外過ぎた。
そしてハイネはと言えば。
「ちょ、え、あれ? じゃあ何です? あなたは私が本当の『
「あー……はい」
「ぇあっ」
ハイネが変な声を上げた。
それでバトレアスも、口が滑ったとことに気づいた。
「知ってたって、どうやって?」
「まぁ、こちらにも相応の情報があるとだけ」
「確かに、天使であれば知っていても不思議ではありませんが……」
流石に前世がどうとかそんな話は、バトレアスもできない。エーデルとジェニーはそれっぽい理由で納得しているので、そういうことにしておいた。
「何だぁ……じゃぁ今までの私の苦労は何のために……」
そして膝から崩れ落ちるハイネ。もう取り繕う必要もないと知ったからだろう、女の子がしちゃいけないような顔までしかけている。
一方のヴェールは、デュエルフィールドを見て「ふむふむ」ちと頷き、ハイネを見た。
「まあまあ。ハイネはちゃーんと私の書置きの通りに、彼の善悪を確かめてるんでしょ?」
「えぇ、それは……」
二人のやり取りで、この結界の空間に転移させたのも、デュエルで信用性を確かめることにしたのも、全てヴェールの仕込んだことだとバトレアスは気づく。
「んで、そのデュエルはまだ終わってないみたいだし……最後までやってみよっか」
「うぇえ!?」
そのヴェールがにっこり告げると、ハイネはまた泣き出しそうな顔になるが。
「大丈夫だって、ハイネならやれるよ。でなきゃ、代理マスターなんて任せないんだし」
そう告げるヴェールの笑顔だけは、いつも見たいな気の抜けた感じのものではない。貫禄と優しさを併せ持つ、不思議と安心感を抱ける笑顔だ。
「……分かりました」
その笑顔に、ハイネは少し迷うように目を閉じてから再び前を見る。目つきが変わったとバトレアスは瞬時に悟り、カリスマ性も垣間見た。
(んで、どんな感じ?)
一方ヴェールはジェニーの横に立ち、エーデルたちと共にデュエル観戦に入る。更に、2人が使用していた脳内会話魔術に相乗りしてデュエルの状況を尋ねた。
(……五分五分ってトコかな)
(あらら、あの人それなりにやるんだ?)
(そのようです)
エーデルの見立てはジェニーも思っていたところだ。ヴェールがデュエルフィールドを見て、ふむと顎を撫でる。
(あの天使が善いかどうかもまだ分からないってとこ?)
(そうねー、今はまだ)
このデュエルの主目的もまだ果たせてないとなれば、ヴェールはいいタイミングで帰ってこられたわけだ。これならヴェールも自分の目で判断できる。
エーデルの評価に頷いたところで、ヴェールは通信魔術の範囲をジェニーだけにした。
(ハイネはどう? ちゃんとやってる?)
(いやぁ、さっきあの人と初めて会った時は頭の中で半べそかいてました……)
(うーん、そっかぁ……)
苦笑気味なジェニーの言葉に、ヴェールもまた困ったように笑う。
(素質は十分あるんだけどねぇ)
(でも、やるときはちゃんとやる子です。最後にデュエルをすると決めたのは彼女ですよ)
デュエル前、ジェニーが頑なにハイネをバトレアスと戦わせようとしたのは、ハイネがウィッチクラフトマスターとしての素質があるかを確かめるためでもあった。
ハイネにはマスターたる素質が十分あるのをジェニーとヴェールはよく理解している。ただし唯一足りなかったのは、本人の自信だ。それを確かなものにするために、未知の存在、天使であるバトレアスとデュエルをする機会を設けた。
この話を持ち掛けたのはヴェール。霊使いと話をし、天使たちの気性がそこまで荒くないのは確認済みだ。でなければ、ヴェールもこんなことはさせられない。
そして、その真意はジェニーにだけ伝えてある。
――いつまでも、私がみんなと一緒にいられるってわけじゃないからね
その言葉がどういう理由でのものなのか、流石にジェニーも深くは聞けなかった。しかし、何がどう転ぶかわからなくなった今の世界で、ヴェールもこの先どうなるか分からなかいから、次のマスターを育てる意図があるのだろうと考えている。
「私のターン!」
ともあれ、ヴェールが戻ったことで、自信を取り戻せたハイネのターンが始まった。
「フィールド魔法《
ドローしたカードをすぐにフィールドに出したハイネ。すると辺りの景色が宵闇に変わり、天井には穏やかな明かりを放つ満月が浮かび上がった。
「《魔法吸収》の効果で、魔法カードが発動する度に私は500のライフを回復します」
ハイネ LP1900→2400
「そして魔法カード《ウィッチクラフト・サボタージュ》を発動。墓地の『ウィッチクラフト』1体を特殊召喚します。ピューピルズを復活!」
魔法陣から現れる小さな魔法使い3人組とゴーレム。特に魔法使いたちは、ヴェールが見ているのもあって気合が入っているようだ。
ウィッチクラフト・ピューピルズ
ATK1800 レベル8
ハイネ LP2400→2900
「そして《ウィッチクラフト・シュミッタ》を召喚!」
続くハイネは、ピューピルズの中にいる赤髪の少女と同じモンスターを呼び寄せる。ゴーレムの傍にいる赤髪のシュミッタが前に出て、独立したモンスターとして現れた。
ウィッチクラフト・シュミッタ
ATK1800 レベル4
「シュミッタの効果を発動。互いのメインフェイズにこのカードをリリースし、手札から魔法カード1枚を墓地へ送ることで、デッキから他の『ウィッチクラフト』モンスター1体を特殊召喚します」
するとその時、天井に浮かぶ月から魔女のシルエットが浮かび上がった。
「《魔女の聖夜行》の効果により、自分のターンに1度だけ、『ウィッチクラフト』モンスターの効果を発動する際に墓地へ送る魔法カードを、デッキから送ることができます!」
「!」
「よってシュミッタをリリースし、デッキから《ウィッチクラフト・ドレーピング》を墓地へ送って効果発動! 私が特殊召喚するのは、《ウィッチクラフト・マルカ》!」
特殊な形状のハンマーを振り回しながらシュミッタが姿を消す。そして現れたのは、黒い服を着る長い黒髪の女性だ。
ウィッチクラフト・マルカ
ATK2500 レベル6
「マルカの効果発動! 手札・フィールドのこのカードをリリースし、デッキから『ウィッチクラフト』のフィールド・永続魔法を手札に加えます。私は永続魔法《ウィッチクラフト・バイストリート》を手札に加え、発動!」
折角呼び寄せたのにすぐにリリースされたのが不満なのか、じろっとマルカがもの言いたげに視線をやりつつ姿を消す。ハイネは苦笑しながらカードを発動すると、古風な街並みが夜空の元に出現する。その景色に、バトレアスはクーリアと共に訪れた「ウィッチクラフト」の工芸品店近くの小道を思い出した。
ハイネ LP2900→3400
「墓地のシュミッタの効果発動。このカードを除外し、デッキから他の『ウィッチクラフト』カードを墓地へ送ります。私は《ウィッチクラフトマスター・ヴェール》を墓地へ!」
「む……」
「ヴェールさんが戻ってくれた以上、もう隠す必要もありませんからね」
墓地へ送られたカードにバトレアスの食指が動くが、ハイネは逆に得意そうに笑う。今までは自分がマスターであるように振舞わなければならなかったため、使わないようにしていた。けれどその縛りもなくなったことで、ハイネもちゃんと戦える。
「ピューピルズの効果を発動。デッキから速攻魔法《ウィッチクラフト・セレブレーション》を手札に加え、このカードを発動! このカードは2つの効果から1つの効果を選んで発動します。私は墓地・除外状態の魔法使い族をデッキに戻して融合し、『ウィッチクラフト』を融合召喚する効果を適用!」
ハイネが両腕を広げると、その頭上に融合の渦が現れる。そして除外されていたジェニーとシュミッタ、さっき墓地へ送ったヴェールが融合の渦に吸い込まれた。
「かけがえなき仲間の力が合わさりし時、大いなる伝説の魔女が復活する! 融合召喚! 現れ出でよ、《
融合の渦が輝き現れたのは、まさしくおとぎ話の魔女のような紺色のとんがり帽子を被り、ゴスロリ風の白い服の上から紺色の上着を着る女性。赤が混じる水色の長い髪はヴェールに似ているし、面影もかすかに感じられるが、背丈も顔つきも違う。
大魔女サンドリヨン
ATK3800 レベル8
ハイネ LP3400→3900
「攻撃力3800……!」
現れた強大なモンスターにバトレアスは驚く。
しかし同時に、「ウィッチクラフト」にこんなモンスターはいただろうか、と首を傾げた。
「融合召喚に成功したサンドリヨンの効果発動! デッキから、レベル7以下で属性が異なる『ウィッチクラフト』モンスターを3体まで特殊召喚します!」
「何!?」
「現れよ、炎属性のシュミッタ、地属性のポトリー、そして闇属性の私自身、ハイネ!」
ウィッチクラフト・シュミッタ
ATK1800 レベル4
ウィッチクラフト・ポトリー
DEF2000 レベル2
ウィッチクラフト・ハイネ
ATK2400 レベル7
一瞬で現れる3人の魔女たち。シュミッタとポトリーはピューピルズの一員だったため、やはりそちらにいたモンスターたちが独立し、ゴーレムの元に残ったのはピットレだけだ。
そして。
「んぐっ……!?」
ハイネは突然胸が苦しくなり、床に膝をつき、胸を押さえる。
「え、ハイネ大丈夫!?」
「どう、にか……!」
エーデルが声をかけるが、ハイネは痩せ我慢でしかない答えを返す。
ジェニーがキッとバトレアスに厳しい目を向けるが、それを受けたバトレアス自身は首を横に振る。デュエルに負けそうだから天使の力で何かしたと思っているのかもしれないが、バトレアスは本当に何もしていないし、そんな力はない。デュエルは最後までやり遂げる心積もりだ。
(これって……)
しかしバトレアスも、ここ最近同じような状況になったのを思い出す。
サイバース界でミューゼシアとデュエルをしていたデコード・トーカー。彼もまた、デュエル中に今のハイネの様に苦しむ素振りを見せた。
その時との共通点と言えば――
「バトルです……。サンドリヨンでヤールングレイプを攻撃……、トランセンデンス・イリュージョン!!」
それでもハイネは、震えながら攻撃を仕掛けてきた。このフィールドの状況なら勝つことができると思っているから。
攻撃しようとするサンドリヨンが杖を構え、その先端が虹色の輝きを蓄え始めると。
「ヤールングレイプの効果発動! 相手モンスターが戦闘する攻撃宣言時、その攻撃力の半分だけライフを回復する。さらに、罠カード《ヒロイック・リベンジ・ソード》発動! ヤールングレイプにこのカードを装備する!」
ハイネが心配だが、バトレアスも負けるわけにはいかずカードを発動させる。罠カードから出現した黒い剣をヤールングレイプは右手に掴んだ。
「《ヒロイック・リベンジ・ソード》を装備したモンスターとバトルを行った相手モンスターは、ダメージ計算後に破壊される。そして、そのバトルで俺が受けるダメージは相手も受ける!」
「ならば……私自身の効果、発動! 互いのターンに手札から魔法カード1枚を墓地へ送って、相手フィールドの表側表示カード1枚を破壊します……! そしてバイストリートは1ターンに1度、『ウィッチクラフト』が効果を発動するために手札を捨てる際……代わりにフィールドから墓地へ送れます!」
謎の不調に悩まされながらも、ハイネはさらに勝つための効果を発動させた。古い町並みが消え、フィールドのハイネが巨大な鋏を構えると鮮やかな緑色の輝きを放ち始める。
「私はヤールングレイプを破壊!」
だが、指さした直後にバトレアスは不敵に笑った。
「カウンター罠《エクシーズ・リフレクト》発動! エクシーズモンスターを対象とするモンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊、相手に800ポイントのダメージを与える!」
「ッ!?」
フィールドのハイネの鋏から緑色の斬撃が放たれる。しかしそれは、ヤールングレイプを囲うバリアに弾かれ、フィールドのハイネを破壊、さらにデュエルをしていたハイネ自身にも衝撃が襲い掛かってきた。
「きゃっ……!?」
ハイネ LP3900→3100
衝撃を浴びつつ、ハイネは後悔で喉の奥が熱くなる。
《ウィッチクラフト・バイストリート》は、「ウィッチクラフト」モンスターを1ターンに1度ずつ戦闘・効果による破壊から守る効果があった。それを墓地へ送った直後に《エクシーズ・リフレクト》で破壊されてしまうなんて、まさに一瞬の隙を突かれたことになる。
「これで《ヒロイック・リベンジ・ソード》と、ヤールングレイプの効果は有効。俺はサンドリヨンの攻撃力の半分、1900のライフを回復する」
バトレアス LP4900→6800
「そして、サンドリヨンとヤールングレイプのバトルは継続!」
サンドリヨンが杖を振り、虹色の光線をヤールングレイプへ放つ。けれどヤールングレイプは、剣を構えてそれを防ぐ姿勢をとった。
「また、《クロス・オーバー》の効果で装備していたモンスターを墓地へ送ることで、装備モンスターの破壊を免れる!」
「そんな……!」
アルルをイメージした鎧を脱ぎ去り、杖を捨てたヤールングレイプは虹色の光線を両手に持つ剣で受け止める。そして《ヒロイック・リベンジ・ソード》の効果により、その戦闘ダメージはお互いに及んだ。
バトレアス LP6800→5200
ハイネ LP3100→1500
ヤールングレイプには、戦士族を1ターンに1度だけ戦闘・効果による破壊から守る効果がある。それでもバトレアスがアルルを身代わりにしたのは、相手から奪ったカードをそのままにしておくのが心情的に割り切れなかったのもある。マスター・ヴェールも見ているし、申し訳なさの方が勝ったのだ。
「《ヒロイック・リベンジ・ソード》の効果で、バトルを行ったサンドリヨンを破壊する!」
そしてヤールングレイプが力強く剣を振り、虹色の光線を跳ね返す。それはサンドリヨンに向かい、大魔女は光線に飲み込まれて姿を消してしまった。
「やるね」
「感心してる場合じゃないでしょ!」
ヴェールが素直に口にし、それをすぐにエーデルが宥めた。
(この人、手強い……!)
そしてヴェールと似た感想をハイネも抱いている。
これでハイネは、強力な融合モンスターを失い、有効なアタッカーも残せなかった。しかも、バトレアスのフィールドはほとんど変わっておらず、せっかく回復したライフもまた大きく差が開いてしまったのだから。
「私は、ターンエンド……。そしてエンドフェイズ、墓地の《ウィッチクラフト・クリエイション》、コラボレーション、ドレーピングの効果を発動。私の場に『ウィッチクラフト』が存在する場合、墓地のこのカードを手札に戻します」
「おっと……」
ハイネはエンドフェイズに一気に3枚もの魔法カードを回収する。しかも、フィールドにはシュミッタとポトリーがいた。恐らくまた次のターンで、何らかの策をその2体が弄してくることだろう。
「俺のターン、ドロー!」
バトレアスも、残されたターンはかなり少ないと見てドローする。手札は今引いた1枚のみ。フィールドの状況もあまりよくはない。
けれど、そのドローカードで賭けに出ることにした。
「《
その名の通り、鎖付きの鉄球を振り回す戦士が現れる。
H・C モーニング・スター
ATK1500 レベル4
「召喚したモーニング・スターの効果で、デッキから《ヒロイック・コール》を手札に加える。そしてこの魔法カード《ヒロイック・コール》を発動し、墓地のサウザンド・ブレードを特殊召喚!」
魔法陣が現れ、無数の刃で武装する白い鎧の武士が現れる。それはモーニング・スターと視線を合わせて頷き合った。
H・C サウザンド・ブレード
ATK1300 レベル4
ハイネ LP1500→2000
「レベル4のモーニング・スターとサウザンド・ブレードでオーバーレイ! 2体の戦士族でオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
フィールド魔法によって夜に変わった空に広がるエクシーズの渦に、2人の戦士がオレンジの光となって吸い込まれる。そして、まるで太陽のような光が降り注がれた。
「今一度現れよ、《H-C クレイヴソリッシュ》!!」
前のターンにエクストラデッキに戻された、【ヒロイック】のエースモンスター。金色の鎧が光に照らされ、力強く剣を構えた。
H-C クレイヴソリッシュ
ATK2500 ランク4
それを見て、ハイネも動くことにする。
「シュミッタの効果発動! このカードをリリースし、手札のコラボレーションを墓地へ捨て、デッキから《ウィッチクラフトマスター・ヴェール》を特殊召喚!」
ハンマーを振り回しながら姿を消すシュミッタ。そして現れたのは、今デュエルで見ているのと同じヴェール。寝そべるその姿には威厳も何もあったものではないが、さっき見たサンドリヨンとどこか似た感じがバトレアスには拭えない。
ウィッチクラフトマスター・ヴェール
DEF2800 レベル8
そして、それが出てきたのはバトレアスにとってあまりよくなかった。あのモンスターの力は十分理解している。
「クレイヴソリッシュの効果を発動。ライフを500になるまで払うことで、このターンのバトル開始時、俺のモンスター1体の攻撃力を2倍にする!」
もうこのターンで勝負を決める。その心づもりでバトレアスは効果を使った。
しかし。
「うぐああああああああ……っ!!」
バトレアス LP5200→500
命を根こそぎ持っていかれるような感覚。5000近いライフを払ったことがないから、この感覚は初めてだ。脚に力が入らなくなってしまい、バトレアスは片膝をつく。
「わ、私はマスター・ヴェールの効果発動! 1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を墓地へ送ることで、相手フィールドの表側表示モンスターの効果をターン終了時まで無効にします!」
そんなバトレアスを気の毒に思いながらも、ハイネは負けないために、ヴェールの効果をコストにクリエイションを使って発動する。
フィールドのヴェールは寝そべりながら杖を振り、紫の風を吹き付けてくる。それを浴びたヤールングレイプとクレイヴソリッシュは項垂れた。
H-C ヤールングレイプ
ATK2200→700
これでバトレアスは、ライフを無駄に払ってしまったことになるが、悲観しない。
むしろ、その効果を使わせるのを狙っていた。
「墓地の、もう1体のモーニング・スターの効果発動……ライフが500以下の場合、このカードを効果を無効にして特殊召喚……!」
大きくライフを失ったことで胸の苦しさを感じつつも、バトレアスはディスクを操作して墓地のモンスターを復活させる。さっきエクシーズ素材になったのと同じモンスターだ。
H・C モーニング・スター
DEF1300 レベル4
「ライフが500以下のため、墓地の《ヒロイック・コール》を除外して効果発動……。『ヒロイック』モンスター1体はこのターン、俺のフィールド及びオーバーレイ・ユニット状態の『ヒロイック』カード1枚につき、攻撃力を500アップする……!」
「っ! 私はピューピルズの効果を発動し、手札の速攻魔法《ウィッチクラフト・ドレーピング》の効果を適用! 私の『ウィッチクラフト』モンスターの数まで、相手フィールドの魔法・罠カードを手札に戻します!」
ピューピルズの効果でフィールドに現れた魔法カードから、ハイネが持っていたようなハサミが出現し、回転しながらバトレアスのフィールドの《ヒロイック・リベンジ・ソード》を切り裂いた。
これでバトレアスのフィールド、そしてオーバーレイ・ユニットの「ヒロイック」カードは合計5枚となる。
H-C ヤールングレイプ
ATK700→3200
「さらに、墓地の《ヒロイック・エンヴォイ》の効果……。ライフが500以下の場合、墓地のこのカードを除外し、墓地の『ヒロイック』カード1枚を手札に戻す……」
「まさか……!」
「俺が手札に戻すのは……《ヒロイック・チャンス》!」
手札に戻したそのカードを、すぐにバトレアスは発動させた。
「このカードは、俺の『ヒロイック』モンスターの攻撃力を、ターンの終わりまで2倍にする!」
H-C ヤールングレイプ
ATK3200→6400
ハイネ LP2000→2500
「そんな……」
「バトル……! ヤールングレイプで、ピューピルズを攻撃!」
勝敗を悟ったハイネに悪いと思いつつ、バトレアスは攻撃宣言をする。
ヤールングレイプは一歩前に力強く踏み出して右腕を引き、まさに全身全霊を込めた拳をピューピルズへと突き出す。その拳が生み出した空気の壁は、いともあっさりと可憐な魔法使いたちを吹き飛ばした。
ハイネ LP2500→0
「いやー、2人ともお疲れ様~」
デュエルが終わり、ソリッドビジョンが消えたところでヴェールがぱちぱち手を叩きながら歩み寄ってくる。真っ先にその視線が向いたのはハイネだ。
「ハイネ、大丈夫?」
「は、はい……何とか……」
立ち上がったハイネは、息を整えている。さっきのデュエル中に突然調子を崩したようだったが、今はそこまで深刻な事態でもないらしい。
無事を確認したヴェールは、続いてバトレアスに目を向ける。
「改めて確認するけど、霊使いと接触した天使とやらは君だね?」
「バトレアスです」
身長差の都合で見上げてくるヴェールを、バトレアスは見下ろす形になってしまうが挨拶を交わす。
「ここへ転移させたのはあなたの魔術か何かでしょうか?」
「せいかーい。私の手紙を読んだってことになるね?」
「読んだというか、開いた瞬間にですが」
ヴェールは腕を組み、杖を魔術で傍に浮かせたままバトレアスに向き合う。
「改めて聞かせてもらいたいんだけど……君は何者?」
ウィッチクラフト、ヴェールの聞きたいことはやはり変わらない。
だが、バトレアスはその詳細を自分の判断で語ることはやはりできなかった。
「さっきも言ったんですが……霊使いの屋敷に、俺の上司がいます。俺たちが何者かを話せるような権限は、今の俺にはなく……」
「あー、そういうことかぁ」
事情を話したところで、ジェニーが前に出た。
「私たちもその話は聞いたんですが……彼らの力を我々も測りかねていたもので、迂闊に合流させて反抗したりしないかと不安だったのです」
「だから無理にでも足止めして、信用できるかをデュエルで確かめたってわけ」
「あー、そーゆーことだったのね」
エーデルからも事情を聞いてヴェールは頷き、バトレアスを見る。
「よし、じゃぁ霊使いの屋敷に連れて行ってあげよう」
「え、よろしいんですか?」
「私も行く、って条件付きでね」
サムズアップをするヴェールの答えに、バトレアスは拍子抜けする。さっきはジェニーたちに断られたのに、あっさりと許可をしてくれたのだから。
であれば、バトレアスも気になるところがある。
「ちなみにですが、さっきのデュエルで俺が信用に足るかどうかを確かめる、と伺っていましたが……結果は如何でしたか?」
ヴェール、そしてデュエルをしたハイネ、さらにデュエルを観ていたエーデルとジェニーにも尋ねる。
「ええと、それは――」
ハイネが何か言おうとしたが、それを遮るようにバトレアスの服が突然輝き始めた。
「うわっ、何!?」
エーデルが驚く。
そして、その服が輝くバトレアス自身それに気づかないわけもない。光を強く放っているのは、腰に提げたデッキホルスター。そこに収めていたデッキを取り出すと、輝いていたのは一番下にあったカードだ。
「これは……」
それは《ドドレミコード・クーリア》のカード。バトレアスにとってはとても大切なそのカードだが、そのカードが放つ強いそ緑の光は、とてつもない嫌な予感をバトレアスに抱かせる。
というか、おかしな点はまだあった。ドレミ界の外なのに、デッキが【ドレミコード】のままだ。
「おや、そのカードは……?」
「あら」
そこへ覗き込んでくるヴェールとジェニー。
デッキが変わらないのはおかしいが、それよりまずは。
「……ヴェールさん。このカードに映る方こそ俺の上司で、今も霊使いの皆さんと一緒にいるはずです。だから、直ちにあちらへ行くべきかと」
「うん、それは私も思う」
意見が一致すると、ヴェールはすぐに杖を振って異空間に繋がるゲートを開いた。
「じゃ、そういうわけで私はちょいとこの人と出かけてくるね~。夕飯前には帰れると思うから」
「そんなこと言ってる場合じゃないですって、早く行ってあげないと!」
緊張感のないヴェールの背中をハイネが押し、ゲートに押し込む。バトレアスもそれに続いて中に入る。
その先にあったのは、霊使いの屋敷近くの森だった。
「……っ!」
「ひどいね……」
しかし、さっきまでとは比べ物にならない雨と風。霊使いの屋敷は森の中にあるから、雨もそれなりに凌げたはずだが、最早開けた場所と変わらないぐらいの勢いだ。ヴェールも苦言を呈している。
それだけではない。
6人の霊使いたちが、木に背中を預け、あるいは地面に倒れ伏し、ぐったりとしている。さらに、バトレアスは会ったことがない青い髪の青年も、同様の状態だ。
何より。
「クーリア様……ッ!」
バトレアスにとって唯一無二の、仲間であり、恋人でもあるクーリア。彼女もまた、木に背中を預けて、弱っていた。
血が湧き立ち、弾かれたようにバトレアスは駆け寄る。
「クーリア様、しっかり! 大丈夫ですか……?」
「なん、とか……」
クーリアの顔色は悪く、ドレスにも泥や雨の染みとは違う汚れがついていて、何かに傷つけられたかのようだ。顔に手を当ててみると、明らかに平熱以上の熱があり、息にも熱が混じっている。目線を合わせて、受け答えができる点が少ない救いだ。
「大事には至っていないみたい、だけど……」
霊使いや青い髪の青年の様子を同じように確かめたヴェールは、みんなの状態を把握し、息を洩らしている。声にはさっきまでのようなお気楽な感じがしない。
ともかく、猶予のない命に障る状態は確かだ。バトレアスはすぐに、みんなを助けようとヴェールに協力を求めようとする。
「まだ生き残りがいたのねぇ」
が、そんな声に振り向くと、長い赤髪と黒い身体に、黄色い水着のような服を着る女がいた。
その女は、にやりと悪意に満ちた笑顔を浮かべていて。
一瞬でバトレアスの体内に怒りが走った。