ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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いわゆる章ボス回

クルヌギアスの喋り方はイメージです。
こういう喋り方なのもいいよねって感じで


第13話:混沌なる神

 クーリアがその名を告げると、クルヌギアスは仏頂面から一転、腹に一物を抱えていそうな笑みを浮かべた。

 

「驚かせてすまんのぉ。少々物申したい事があったものじゃから、出向いたわけよ」

 

 聞いただけでは、威圧感が全く無い声。喋り方は年寄りのようなイントネーションと延びがある。

 そんなクルヌギアスは、ホールをゆっくりと見回す。やがて俺と目が合うと、驚いたように口を開けた。

 

「これは驚いた。ドレミコードにも(おのこ)がいたとはの」

「いえ、彼は正確には人間です」

 

 興味深そうに顎に指をやってこちらを見るクルヌギアス。クーリアの補足は、果たして耳に入っているのだろうか。

 だが、この人物が本当にあのクルヌギアスならば、一国の姫や天使など比ではないレベルの存在だ。なにせ名前にもある通り「神」なのだから。

 思わず、支えていたビューティアから離れて跪く。

 

「……ドレミコードの皆様に仕えております、人間のバトレアスと申します。お初にお目にかかります、クルヌギアス様」

「よい、頭を上げよ」

 

 慎重に自己紹介をすると、気に障っていない風にクルヌギアスが告げる。顔を上げるという、至極単純な動作にさえ緊張が走るが、視線を上げた先にいるクルヌギアスの目は、まるで俺を品定めするようだった。

 

「……なるほどの」

 

 そう言って、クルヌギアスはクーリアに視線を移す。

 

「近頃の不調は、此奴が原因か?」

「不調……?」

 

 クルヌギアスが俺を指さす。そしてその言葉に反応したのはビューティアだった。クーリアは、ビューティアとクルヌギアスに目を向けられて視線を逸らす。しかしながら、俺はその「不調」の心当たりがあった。

 ビューティアの疑問に合わせて、クルヌギアスはこちらを見ながらクーリアを親指で指すと。

 

「妾はな、いつも此奴の奏でる曲を聞きながら茶と菓子を嗜んでおるのよ」

「……へぇ」

「……はぁ」

 

 なぜか急に、クルヌギアスの優雅な生活をカミングアウトされた。俺はもちろん、ビューティアもそれは知らなかったようで気の抜けた声を返している。

 というか、「いつも」という事は、クーリアがクルヌギアスのいる世界へ行く頻度は、この間みたいなラビュリンスたちの下へ行った時よりも多いのだろうか。いや、それ以前にクーリアがそこへ行くのは「浄化」目的ではないのか。

 

「……随分前の事なの。私がクルヌギアス様のいる世界を『浄化』していたら、いつの間にか背後を取られてて」

「人聞きが悪いのう。妾はちょっと気になる輩がいたから声をかけただけにすぎん」

 

 クーリアが事の次第を説明する。だが、クルヌギアスの言い分は不審者そのものだ。不敬と捉えられかねないので絶対にツッコめないが。

 

「クルヌギアス様は、クーリア様を……ドレミコードの旋律を認識できたと」

「神たる妾にできぬ事などないわ」

 

 得意げに胸を張るクルヌギアス。見た目と話し方と仕草が全て噛み合わない。ただ、クルヌギアスは浄化中のドレミコードの存在を認知できるほどの力を持っているのは確からしい。伊達にカード名に「冥神」と含まれてはいない。

 

「でまあ、その旋律は妾も正直ただ『浄化』とやらのためだけに使うのは惜しいと思った。ならばと、妾の前で演奏するようにして貰っておるのよ」

 

 つまり、クルヌギアスはクーリアをスカウトしたわけだ。専属の演奏家、バイオリニストとして。クーリアの表情を窺うが、間違いではないらしく小さく頷いている。

 

「じゃがの、ここ最近あやつの旋律はどこか歪で、迷いが生じておる。それが気になって仕方がなく思うと同時、無性に腹が立った」

「……なぜ、でしょうか」

「分からんか? 神たる妾の前に、斯様な迷いだらけの態度で立ったうえに下手な演奏をするなど、無礼じゃろう?」

 

 クルヌギアスの意見は、クーリアには悪いが理解できる。クルヌギアスの側が一般人なら話は別だが、神相手であれば相応の姿勢とは言いにくい。

 けれど、その不調の原因は俺、というよりクーリアと俺しか知らない事情のせいである。そしてそれは、クルヌギアスの気に障るぐらいには自身の演奏にも支障が出ていたという事か。

 

「……大変申し訳ございませんでした、クルヌギアス様」

 

 そして、その非難を受けてクーリアは跪き、非礼を詫びる。ここまで下手に出るクーリアは見た事がなかったし、そんな姿は正直見たくない。

 

「どのようにお詫びしたらよろしいでしょう」

「そうさな……妾に対する無礼、首を撥ねてもしかるべきだが、貴様との仲じゃ」

 

 さらっと恐ろしい事を告げていた。もし実際にそうなってしまったら、俺は正気を保てそうもない。

 

「猶予をくれてやる。戦いという名のな」

「デュエル、でございますか」

「そうじゃ。貴様が勝てば、今回の事には目を瞑ってやろう。だがもし妾が勝てば、相応の償いをしてもらう」

 

 クルヌギアスが提案したのはデュエル。流石は神であってもデュエルモンスターというところだ。

 だがそれよりも。

 

「クルヌギアス様」

 

 自然と、名を呼んでしまっていた。

 ゆっくりと、クルヌギアスが振り返る。その表情は怒ってこそいないが、何となく不機嫌そうなのが分かる。一瞬でも気を緩めたら殺されそうな雰囲気だ。

 

「何じゃ、人間」

「……多大な無礼を承知でお願いいたします」

 

 跪いたまま頭を下げる。

 正直こんな事を言うのは、身の程知らずで場違いだろう。だがそれでも、黙って引き下がるわけにはいかなかった。

 

「そのデュエル、クーリア様の代わりに自分と戦っていただきたい」

「なっ……!?」

「何の真似じゃ?」

 

 案の定、クーリアは狼狽し、クルヌギアスはより一層重苦しい声を向けてくる。デュエルアリーナの時のように、声に押しつぶされそうな錯覚。しかし怯まないし、もう引けない。

 

「クーリア様の不調は、自分が原因の一端にあります。それでクーリア様だけでなく、クルヌギアス様にまでご迷惑をかけてしまったのであれば、それは自分からも謝罪いたしましょう」

「ふむ?」

「そして、貴女様が憤りを抱いているのであれば、そもそもの原因である自分が責任を取ります。どうか、クーリア様にお慈悲を」

「ほう、殊勝な心掛けじゃの」

 

 より深く頭を下げて、続ける。神様相手に随分と大きく出たと自分でも思っていた。

 

「そうか、やはり原因は汝にもあったのか」

 

 すると、足音がこちらに近づいてくる。

 

「では、その首を撥ねられても文句はあるまいな?」

 

 すっと、喉仏に冷たい感覚が伝わってきた。薄っすら目を向けると、どこから取り出したのか顎の下に鎌の刃が当てられている。誰が持っているかなど、確認するまでもない。

 そうだ、さっき首を撥ねてもしかるべき、とクルヌギアスは言っていた。俺の行動が巡り巡ってクルヌギアスを怒らせたのなら、それは確かに俺の死を持って償うのもやむなし、と捉えてもおかしくない。

 刃を喉に当てられて、死を限りなく近くに感じて恐怖する。

 それでも、クーリアが苦しめられるのは、傷つけられるのは黙って見ていられなかった。それに比べれば、この命を投げ出してもいいと思えるぐらいに、クーリアが不安だ。

 

「……度胸と主への忠誠心は認めてやる」

 

 ゆっくりと鎌が顎から離れる。背中に汗が滲んでいるのがシャツの感触で分かった。

 顔を上げると、目の前でクルヌギアスが仁王立ちしている。クーリアも、ビューティアも、動けないようだ。

 

「立て」

 

 その言葉で、糸で引っ張られるかのように立ち上がる。

 

「よかろう、相手をしてやる」

「お心遣い、感謝いたします」

「じゃが」

 

 クルヌギアスは、黒い手袋をはめた人差し指をこちらに向けて突き出す。

 

「もしも貴様が負ければ、妾の冥府へ連れていき、死ぬまで妾の奴隷としてこき使ってやる。よいな?」

「……承知いたしました」

 

 奴隷となると、およそ人間らしい生活は送れないだろう。このドレミコードの屋敷みたいに、温かい感じではないのが雰囲気だけで分かる。

 だが、自分で言いだした以上は逃げ出せない。それにここで諦めたら、クーリアが命の危機に瀕する。クーリアは、不調は決して俺のせいではないと言っていたが、こうして危険が及んでいる以上、「俺のせいじゃない」とすっぱり割り切る事はできなかった。

 

「では――」

「お待ちください」

 

 しかし、突然声が聞こえたと思ったら、目の前にはミューゼシアがいた。しかも、クルヌギアスがこちらに突き付けていた手を握っている。まるで押さえるように。

 

「次から次へと……久しいのう、ミューゼシア」

「クルヌギアス様も息災のようで何よりです」

「して、これが旧知の者に対する貴様の礼儀か?」

 

 クルヌギアスは、ミューゼシアの介入に若干の苛立ちは覚えているらしい。だが、さっきの俺に対するような明確な敵意はない。ミューゼシアが手を離すと、クルヌギアスも手を下ろす。

 

「失礼。私のいる世界にも伝わるほどの力を感じたものでして、つい咄嗟に」

 

 ミューゼシアは普段、ドレミ界ではなくそのさらに上の世界にいる。それでも伝わってくるという事は、クルヌギアスの力はそれほど強大というものだろう。

 

「まあ良い。それで、何の用かの?」

「私の大切な部下を、危機に晒すわけにはいかず」

「待て待て、此奴は自分から妾との戦いを申し出たのじゃ。妾が手を下そうとしたわけではない」

 

 さっき鎌を顎に突き付けたのに、と思ったが黙っておく。

 

「それでも、あなたの力は私も十分理解しております。その戦いが、ただのそれではない事も……。その戦いに、彼やクーリアを巻き込むわけにはいきません」

「では、何故に妾がここまで出張ってきたか、その理由は知っておるのか?」

「……いえ」

「貴様の部下、クーリアの奏でる旋律が歪での」

 

 ミューゼシアの視線がクーリアへ移る。クーリアは、悔やむように目を伏せた。

 

「それに関しては、私からもお詫びいたしましょう」

「それはよい。とはいえ、妾としては謝罪だけでは足らん。それであやつにデュエルを挑んだのだが、聞けばアレの腕が落ちた理由は、この人間が原因というではないか。それでこの男は、自らデュエルの相手を変わったのだ。何とも、いじらしい忠誠心とは思わんかね?」

 

 今度はミューゼシアが俺を振り返る。何を言おうとしているのかは、大体分かる。それでも、譲れないから頷きを返した。

 

「バトレアス、あなたは……」

「もちろん、無理は承知しておりますし、出過ぎた真似をしているとも熟知しています。けれど俺は、黙って見過ごせないのです。従者としてではなく、ドレミ界にいる一人の者として」

 

 従者として、そしてドレミコードの端くれとして。クーリアの危機を放っておけない。

 

「……俺は、ドレミ界に身を寄せていながら、何一つとして貢献できていません。最低限の仕事をこなしていますが、それも全て、自分でなくてもできる事。だからせめて、仕える主の身を守るぐらいの事はさせてください」

「ミューゼシアよ、そいつの意思は固そうだぞ?」

 

 くくく、と笑いながら告げるクルヌギアス。だがその通りで、足がすくんでしまいそうでも、言った通りの心持ちでこのデュエルに臨む。

 ミューゼシアはこちらとクルヌギアスを見つつ、悩むように目を瞑り、やがて。

 

「……」

 

 一歩下がった。

 つまり、こちらの意思を尊重するという事。ミューゼシアに、小さく頭を下げる。

 

「では、始めようか」

「少々お待ちください」

 

 右腕を掲げたクルヌギアスに対し、最後の願いを申し出る。

 

「ここは神聖な場所故、デュエルをするのであればお外で」

 

 ドレミコードの皆が、別の世界へ「浄化」のために飛ぶ場所。そこをデュエルで傷つけてしまうのは我慢ならない。

 クルヌギアスは、小さく息を吐いてそれを了承してくれた。

 

 

 クルヌギアスとデュエルをするのは、屋敷の外にある広いスペース。庭でもなんでもない場所だ。

 

「ミューゼシアも言っていたが」

 

 デュエルをするための距離を取った場所で、クルヌギアスが話しかけてくる。

 

「妾のデュエルはただのそれではないぞ? 相応の覚悟を忘れずにな」

「……ご忠告、痛み入ります」

 

 神自らが警告してくれたのだ。頭を下げると、満足げにクルヌギアスは笑い、右腕を構える。そこに出現したデュエルディスクは、紫色と金色が合わさった、装飾が煌びやかなディスクだった。

 

「バトレアス」

 

 こちらもデュエルディスクを展開すると、ミューゼシアが声をかけてきた。

 

「十分、気を付けて」

「はい」

「そして、後で話があるわ」

「……分かりました」

 

 多分だが、今回の件についての事情聴取を含めた指摘だろう。かなりの無理を言ってこの闘いの舞台を用意してもらったのだから、覚悟している。とはいえ、その話は多分このデュエルで勝たなければ聞けないだろう。

 ビューティアを見ると、糸目の笑顔で頷いている。言葉がなくとも、応援しているのは伝わった。

 そしてクーリアは、心配そうな顔でこちらを見ている。そんなクーリアを安心させるように、俺の方からできる限りの落ち着かせる笑顔を向けた。

 最後にクルヌギアスを見据える。相手は神、一瞬も気は抜けない。

 

「では、始めようか」

「はい」

「「デュエル!」」

 

バトレアス LP4000

VS

クルヌギアス LP4000

 

 デュエルディスクが示したのは先攻。

 初手で分かる。このデッキは【ドレミコード】だ。これまで使った【メタルフォーゼ】や【罠モンスター】ではない。やはり、以前推測したように、ドレミ界でデュエルをしているからだろうか。まだ分からないが、それについて考えるのはひとまず後だ。あまり神を待たせるわけにもいかない。

 

「魔法カード《ドレミコード・エレガンス》を発動。このカードは3つの効果から1つの効果を選んで適用できる」

 

 手札を見て、3つの中からこの場で最適な効果を選ぶ。

 

「俺は第2の効果を選ぶ。手札の『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1体をエクストラデッキに表側で加え、デッキのペンデュラムスケールが奇数と偶数の『ドレミコード』ペンデュラムモンスターを、各1枚ずつペンデュラムゾーンに置く」

「ほう、デッキから直接スケールを張るか」

「俺は手札の《ソドレミコード・グレーシア》をエクストラデッキに加え、デッキのスケール1の《ドドレミコード・クーリア》とスケール8の《ドドレミコード・キューティア》でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 デッキから選んだのは、いずれもこのデッキにおいては重要な役割を担っているモンスター。手札にあるカード的に、これらはペンデュラムゾーンに置いた方が後々都合がいい。

 2枚をディスクにセットすると、「PENDULUM」の文字がディスクに現れ、フィールドの両端にクーリアとキューティアが浮かぶ2本の柱が出現した。

 

「これで、レベル2から7のモンスターが同時に召喚可能」

 

 するとその時、クルヌギアスがなぜか期待するような笑みを浮かべた。それが気になるも意図は分からず、プレイを続ける事にする。

 

「ペンデュラム召喚! エクストラデッキより《ソドレミコード・グレーシア》、手札より《ミドレミコード・エリーティア》!」

 

 フィールドに現れる2体のドレミコード。そのどちらも、姿勢を低くした防御態勢を取った。

 

ソドレミコード・グレーシア

DEF1400 レベル5

 

ミドレミコード・エリーティア

DEF400 レベル3

 

 そこで改めてクルヌギアスの様子を窺うが、なぜか落胆するような、失望するような顔をしていた。守備表示でしか出さないのが不満なのかもしれないが、初手を見て先攻の場合はこうすべきと思ったうえでの事だ。文句は言われたくない。

 

「グレーシアが特殊召喚した事で、デッキから『ドレミコード』の魔法・罠カード1枚を手札に加える。俺は《ドレミコード・ハルモニア》を手札に。そしてカードを1枚伏せてターンエンドだ」

「随分と消極的な初手じゃの」

 

 クルヌギアスが言うが、この手札でできる事は今のところこれが精いっぱいだ。

 そして次は、気になるクルヌギアスのターン。果たして、何が出てくるか。神様はどんなデッキを使うのか。

 

「妾のターン、ドロー。手札の《混沌核(コア・オブ・カオス)》は、手札または墓地の闇属性モンスター1体を除外する事で特殊召喚できる。手札の《混沌殻(シェル・オブ・カオス)》を除外し、《混沌核》を特殊召喚!」

 

 現れたのは眩い光を放つ球体。生物的な印象は全くなく、その光は神秘的にさえ感じる。

 

混沌核

DEF1600 レベル2

 

「《混沌核》が特殊召喚した事で、その効果を発動。除外されている《混沌殻》を特殊召喚できる。戻れ、《混沌殻》!」

 

 現れたのは、黒鉄で構成された翼竜。機械的な鳴き声を上げた。

 

混沌殻

ATK1600 レベル4

 

「妾はレベル4の《混沌殻》にレベル2の《混沌核》をチューニング!」

「いきなりか……!」

 

 コストで除外したモンスターを即座に呼び戻してチューニング。無駄のない効果だ。

 《混沌核》が強烈な光と共に弾けると、2つの緑色に光る輪へと姿を変える。《混沌殻》はその2つの輪をくぐり、身体が透明になった。これもまた、見覚えのある演出だ。

 

「光と闇がまみえし時、混沌なるケダモノの咆哮が天地を貫く。シンクロ召喚! 現れろ、《カオス・ビースト-混沌の魔獣-》!!」

 

 ひと際強い光と共に現れたのは、黒と白の体毛に覆われた四足獣。体毛は黒の割合が多く、覗く口は青白い。

 

カオス・ビースト-混沌の魔獣-

ATK2000 レベル6

 

「フィールドで表側表示の《混沌殻》と《混沌核》は墓地へ送られる場合に除外される。そしてカオス・ビーストは、このターンにカードが除外されている場合に攻撃力が1000ポイントアップする!」

 

カオス・ビースト-混沌の魔獣-

ATK2000→3000

 

「さらにカオス・ビーストの効果発動。1ターンに1度、除外されている光・闇属性モンスター1体を手札に戻す。妾は《混沌殻》を手札に戻す」

 

 天に向かってカオス・ビーストが吠えると、頭上に黒い渦が出現する。その中から降りてきた《混沌殻》のカードをクルヌギアスが受け取った。

 

「バトルじゃ。カオス・ビーストでエリーティアを攻撃! カオス・ハウリング!!」

 

 エリーティアを視界に捉えたカオス・ビーストが咆哮を上げる。それは衝撃波としてこちらに響き、エリーティアは苦しそうに呻いて破壊されてしまう。エクストラモンスターゾーンのグレーシアを残したのは、次のターンにペンデュラム召喚からのサーチをさせないためだろう。

 

「妾はカードを3枚伏せてターンエンドじゃ」

「このエンドフェイズに、俺は罠カード《ペンデュラム・スイッチ》を発動! 1ターンに1度、ペンデュラムゾーンのペンデュラムモンスター1体を特殊召喚できる。来てくれ、キューティア!」

 

 こちらの声に応えるように、光の柱の中にいたキューティアがぴょんと跳び、グレーシアの後ろに降り立つ。

 

ドドレミコード・キューティア

DEF400 レベル1

 

「そしてキューティアが特殊召喚した事で効果発動。デッキから自身以外の『ドレミコード』を1体手札に加える。俺は、《ラドレミコード・エンジェリア》を手札に加える」

「妾のターンに動くとはの……。無礼な奴め、ターンはくれてやるから早く進めよ」

 

 クルヌギアスはエンド宣言をしたが、正確にはまだターンを渡していない。自分のターンに動かれた事が気に障ったらしいが、現代遊戯王ではごく当たり前にある事だ。ただ、やられると苛つくのは同じだったので、同情半分申し訳無さ半分だ。

 

「俺のターン!」

 

 そして次のドローカードを見てみるが、このターンでは使えない罠カードだ。

 ただ、エクストラデッキとフィールドのカードはかなり良く揃っている。最初のターンは慎重な動きしかできなかったが、ここは攻めるべきだ。

 

「現れろ、清らかな旋律のサーキット!」

 

 掛け声に合わせて、リンクサーキットがフィールドに出現する。

 その時、クルヌギアスの眉がわずかに上がったのに気づいたが、ひとまずは無視した。

 

「召喚条件はペンデュラムモンスター2体。キューティアとグレーシアをリンクマーカーにセット!」

 

 2体の「ドレミコード」が飛び込むと、リンクサーキットが輝きを放つ。

 

「リンク召喚!《グランドレミコード・ミューゼシア》!!」

 

 現れたのは、今まさにデュエルをこの場で見ているミューゼシアと同じ姿形のモンスター。ピアノの鍵盤のような翼を広げると、金色の粒子が辺りに広がる。

 

□□□ グランドレミコード・ミューゼシア

□◆□ ATK1900

■□■ リンク2

 

 そして、またしてもクルヌギアスはどこか興醒めというか、つまらなさそうな顔になる。本当に何なのだろうか。

 

「フィールド魔法《ドレミコード・ハルモニア》を発動!」

 

 その疑問から目を背けるようにフィールド魔法を発動する。音楽をモチーフとする景色に変わるのを、クルヌギアスは興味深そうに眺めていた。

 

「ハルモニアの効果発動! エクストラデッキの『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1体を手札に加える。俺はキューティアを手札に加えて、そのまま召喚!」

 

ドドレミコード・キューティア

ATK100 レベル1

 

「キューティアの効果で、デッキから《シドレミコード・ビューティア》を手札に加える。そして《ペンデュラム・スイッチ》の効果発動! キューティアをペンデュラムゾーンに移動させる」

 

 キューティアが今度は後ろに飛び、さっきいた光の柱がある位置に着くと、自然と光の柱が現れた。

 

「これで再び、レベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!」

「ほう」

「ペンデュラム召喚! 現れろ!」

 

 頭上に手をかざすと、ハルモニアの環状の五線譜が輝き、その中心に空いた穴から「ドレミコード」たちが一斉に姿を現した。

 

ミドレミコード・エリーティア

DEF400 レベル3

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2100 レベル5

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK2300 レベル6

 

シドレミコード・ビューティア

ATK2500 レベル7

 

「何とも、寂しいものじゃな」

「え?」

 

 だが、現れた4体の「ドレミコード」を前にしてクルヌギアスが告げたのは、予想だにしない言葉だ。これだけペンデュラム召喚をし、俺のフィールドには実に5体ものモンスターがいる。それなのに何が寂しいのか。

 

「汝にとって、その女子どもは仕える相手かもしれん。じゃが今は、共に戦う仲間。そんな同胞を呼び寄せるのに言葉のひとつもかけてやらんとはな」

 

 言っている意味はいまいち伝わりにくいが、要は召喚口上が無い事に不満らしい。そういえば、さっきからクルヌギアスは、それっぽいタイミングで期待や落胆と言った風に表情を変えていた。

 とはいえ、こちらへ来てからそういった言葉はほとんど口にしていない。せいぜいがさっきのミューゼシアや、天老とのデュエルで使ったエレクトラムのように、リンク召喚を行う時だ。それを普通のペンデュラム召喚などで口にするのはまだ少し抵抗がある。

 

「……俺はミューゼシア、グレーシア、エリーティアの効果を発動。まずエリーティアの効果で、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を手札に戻す。俺は、一番右側のカードを選ぶ」

 

 エリーティアがタクトを振るうと、指さしたカードに向けて無数の泡が漂っていき、セットされているカードを包み込む。クルヌギアスは、こちらに確認させるようにそのカードを手札に戻した。

 

「続いてグレーシアの効果で、デッキから《ドレミコード・フォーマル》を手札に加える」

 

 もしもこのターンで勝負を決められなかった場合に備えて、次のターンで使える罠カードをサーチする。

 

「さらにミューゼシアの効果で、自分がペンデュラム召喚した『ドレミコード』1体を対象とし、そのペンデュラムスケールと同じ数のレベルを持つ『ドレミコード』を1体デッキから手札に加える。俺が対象に選ぶのはスケール2のビューティアだ」

 

 ミューゼシアがタクトを振り、デッキに金色の粒子が降り注ぐ。そしてデッキからせり出された1枚のカードもまた金色に光っていた。それはレベル2の《レドレミコード・ドリーミア》だ。

 

「ハルモニアの効果を発動。自分の場の『ドレミコード』のペンデュラムスケールが奇数3種類以上、または偶数3種類以上の場合、フィールドのカード1枚を破壊する!」

 

 環状の五線譜が雷を帯び始める。だが、まだだ。

 

「さらにビューティアの効果発動! 相手フィールドのモンスター1体を対象に、このターン、そのモンスターはフィールドを離れた場合除外される。俺が対象に選ぶのはカオス・ビースト。そして、ハルモニアの効果で破壊するのもカオス・ビーストだ!」

 

 ビューティアがタクトを突き出し、カオス・ビーストが緑色のオーラに包まれる。そして、ハルモニアの雷に打たれたカオス・ビーストは、耳を劈くほどの鳴き声と共に爆散した。

 【カオス】デッキは戦った事がないため、除外がどう働くかは正直わからない。ただ、墓地へ送るよりも除外した方が再利用される可能性が低いため、その可能性に賭けてビューティアの効果を使った。

 

「これでクルヌギアス様の場にモンスターはいなくなった……」

「しかも今のペンデュラムスケールなら、グレーシアとエンジェリアの効果でバトルフェイズ中の効果の発動も防げる」

 

 ビューティアとクーリアの言うように、今ならリンクモンスターのミューゼシア以外が攻撃する時、グレーシアとエンジェリアの効果で、攻撃する場合のダメージステップ終了時までクルヌギアスは魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。つまり、勝てる。

 だが観戦しているミューゼシアだけは、未だに表情が晴れなかった。

 

「バトルだ!」

「罠カード《威嚇する咆哮》発動! このターン、汝は攻撃宣言できん」

「く……」

 

 バトルに入る前に攻撃宣言そのものを封じられた。このタイミングは、流石にグレーシアとエンジェリアの効果も適用されない。

 そして次のターンは、恐らく前のターン以上の攻めが来るはずだ。それに備えなくては。

 

「メインフェイズ2でエンジェリアの効果を発動。自分フィールドの『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1体を対象に、そのモンスターをリリースしてスケールの差が2つの『ドレミコード』1体をデッキから特殊召喚する。俺はスケール3のエンジェリア自身をリリースし、デッキからスケール5の《ファドレミコード・ファンシア》を特殊召喚!」

 

 エンジェリアが姿を消し、代わりにファンシアがフィールドに現れる。

 

ファドレミコード・ファンシア

DEF400 レベル4

 

「ファンシアの効果を発動。デッキから、2体目のエンジェリアをエクストラデッキに加える」

「ほう?」

「そしてカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 伏せたカードの1枚は《ドレミコード・フォーマル》。さっきの効果でエクストラデッキに加わったエンジェリアをコストに、「ドレミコード」のペンデュラムカードを相手の効果から一度だけ守る事ができる。2枚目をエクストラデッキに加えたのは、攻撃時の魔法・罠を封じる効果が頼もしいから、ペンデュラム召喚できるようにエクストラデッキに待機させておきたかった。

 さらにエリーティアがいるため、「ドレミコード」ペンデュラムモンスターのバトルで受けるダメージも凌げる。

 ただし、ミューゼシアはリンクモンスターのため、《ドレミコード・フォーマル》やエリーティアの恩恵を得られない。これが前の世界で使っていたデッキそのままなら、さらにリンク召喚をしていたのだがそれはできなかった。

 

「妾のターン、ドロー!」

 

 そしてクルヌギアスのターンが始まる。ドローしたカードを一瞥し、こちらを見てわずかに笑う。

 

「チューナーモンスター《カオス・ミラージュ・ドラゴン》を召喚!」

 

 白と金の外皮のドラゴンを新たに呼び出した。そのドラゴンはフィールドに現れると、クルヌギアスに懐くかのように周囲を円を描いて飛ぶ。

 

カオス・ミラージュ・ドラゴン

ATK1600 レベル4

 

「このモンスターは1ターンに1度、除外されている光・闇属性モンスター1体を、その効果を無効にして特殊召喚できる。戻れ、カオス・ビースト!」

 

 《カオス・ミラージュ・ドラゴン》が天に向かって吼えると、その先に黒い渦が出現する。その中から、カオス・ビーストが飛び降りてきた。再利用させてしまった事が悔しい。

 

カオス・ビースト-混沌の魔獣-

ATK2000 レベル6

 

「レベル6のカオス・ビーストに、レベル4の《カオス・ミラージュ・ドラゴン》をチューニング!」

「!」

 

 クルヌギアスが手を広げると、カオス・ビーストが天へと跳びあがり、《カオス・ミラージュ・ドラゴン》がその長い体躯で円を描くと、光の輪へと変化した。

 現れるのはレベル10のシンクロモンスター。嫌な予感がする。

 

「希望と絶望渦巻く俗世に、今こそ混沌なる裁きを下さん! シンクロ召喚! 来たれ、《カオス・アンヘル-混沌の双翼-》!!」

 

 太陽のような光と共に、突風を巻き起こしながら巨大なモンスターが現れる。白と灰色の翼を生やし、金の装飾が施された衣を纏い、背には血のような赤黒い後光を背負っていた。

 

カオス・アンヘル-混沌の双翼-

ATK3500 レベル10

 

「特殊召喚したカオス・アンヘル、さらにシンクロ素材となった《カオス・ミラージュ・ドラゴン》の効果を発動! 《カオス・ミラージュ・ドラゴン》がシンクロ素材として墓地へ送られた場合、そのシンクロ素材とした他のモンスターの数まで相手のカードを除外できる。妾は、右側の伏せカードを除外!」

「罠カード《デストラクト・ポーション》発動! 自分のモンスター1体を破壊して、その攻撃力分のライフを回復する!」

 

 除外にチェーンして、そのカードを発動する。その効果で対象に選ぶモンスターは決まっているが、当人が見ている前では非常に申し訳ない気分になる。

 

「……申し訳ございませんが、《グランドレミコード・ミューゼシア》を破壊」

「ほほう? 主を自ら犠牲にするとは、面従腹背というやつか?」

 

 痛いところを突いてくるが、決して俺はミューゼシアを含めたドレミコードの皆に反発心など抱いていない。だから無視した。

 「破壊」というものだから、雷を浴びせられたり爆発してしまうのかと不安になったが、フィールドにいるミューゼシアはどこかへ転送されるかのように足元から消滅する。それでも、デュエルを観ているミューゼシアは思うところがあるらしく目を伏せていた。

 おそらくはクルヌギアスも総攻撃を仕掛けてくるだろう。今回に限らず、エリーティアで戦闘ダメージを回避できない状況や、破壊から守れなくてもアドバンテージを少しでも稼げるように、《デストラクト・ポーション》は入れておいたのだ。万一に備えて入れていた昔の自分を褒めてやりたい。

 

バトレアス LP4000→5900

 

 回復した直後、クルヌギアスの背後に現れた、半透明の《カオス・ミラージュ・ドラゴン》が灰色の光線を放つ。撃ち抜かれた《デストラクト・ポーション》は虚無の渦に飲み込まれた。

 

「さらにカオス・アンヘルが特殊召喚した事により、フィールドのカード1枚を除外できる。妾が除外するのは左側の伏せカード!」

 

 カオス・アンヘルの巨大な翼が灰色の風を巻き起こす。「ドレミコード」たちは何とか吹き飛ばされないようにするが、残りの伏せカード――《ドレミコード・フォーマル》は無数の粒子となって消え去る。これで、クルヌギアスが何か除去効果を使っても守る事ができなくなった。

 

「そして罠カード《戦線復帰》を発動し、墓地のカオス・ビーストを守備表示で特殊召喚!」

 

 魔法陣から這い出るカオス・ビースト。さっきカードが除外されているため、自身の効果で既に攻撃力はアップした状態だ。

 

カオス・ビースト-混沌の魔獣-

DEF1800 / ATK2000→3000 レベル6

 

「カオス・ビーストの効果を使い、除外されている《混沌核》を手札に加える。そして手札の《混沌殻》は、手札または墓地の光属性モンスター1体を除外する事で特殊召喚できる。《混沌核》を手札から除外して特殊召喚!」

 

 手札に加えたばかりの《混沌核》が、《混沌殻》のコストに除外される。フィールドに現れた《混沌殻》は、また機械的な鳴き声を上げた。

 

混沌殻

ATK1600 レベル4

 

「《混沌殻》が特殊召喚した事で効果発動。除外されている《混沌核》を特殊召喚する!」

「同じような効果を持ってるのか……」

 

混沌核

DEF1600 レベル2

 

 あの2体のモンスターは、それぞれが互いを補い合う効果を持っている。それらが初手で揃っていたのは、まさに幸運と言えよう。

 

「妾はレベル6のカオス・ビーストに、レベル2の《混沌核》をチューニング!」

 

 再び光の環へと生まれ変わる《混沌核》。それらはカオス・ビーストを包み込み、強烈な光を生み出した。

 

「閃光と漆黒が混ざりし時、混沌なる魔神の怒号が現世を震わす。シンクロ召喚! 来い、《カオス・デーモン-混沌の魔神-》!!」

 

 現れたのは、白を基調とした鎧に黒い剣を携える騎士然とした悪魔。現れるとともに雄叫びを上げ、空気がびりびりと震える。

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK2500 レベル8

 

「シンクロ素材となった《混沌核》は除外される。そしてカードが除外されたターン、カオス・デーモンの攻撃力は2000ポイントアップする!」

「!」

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK2500→4500

 

「攻撃力4500……!」

 

 クーリアが驚きを示す。俺としても、比較的軽い条件で一気に2000ポイントも攻撃力が上がるのは驚きだ。

 

「さらに、墓地の闇属性のカオス・ビーストを除外して、手札の《混沌核》を特殊召喚!」

「2体目か……!」

 

混沌核

DEF1600 レベル2

 

「レベル4の《混沌殻》にレベル2の《混沌核》をチューニング。シンクロ召喚! 来るがいい、2体目のカオス・ビースト!!」

 

カオス・ビースト-混沌の魔獣-

ATK2000→3000 レベル6

 

「これはマズいんじゃないかしら……?」

 

 クルヌギアスのフィールドを見て、ビューティアが不安を露わにする。

 その通りで、あちらの場にはシンクロモンスターが3体、そのいずれも攻撃力は3000以上。こちらには攻撃表示モンスターが3体いるため、何事もなくその攻撃が2回通れば負けてしまう。

 それに何より、あのシンクロモンスターたちはまだ何か効果を持っている気がしてならない。

 

「さあバトレアス、覚悟せよ。カオス・デーモンでグレーシアを攻撃。カオス・オーバー・スラッシュ!!」

 

 カオス・デーモンが剣を構え、一瞬でグレーシアと距離を詰める。その勢いのままに黒い剣を振るい、グレーシアを腰から両断した。痛ましい光景に表情が歪んでしまうのが自分で分かる。

 

バトレアス LP5900

 

「む? ライフが減らんな」

「エリーティアの効果で、ペンデュラムゾーンに偶数のペンデュラムスケールが存在する場合、俺の『ドレミコード』ペンデュラムモンスターのバトルで受けるダメージは0になる!」

「なるほどのう。じゃが、カオス・デーモンがバトルで破壊したモンスターは、墓地へは行かず除外される」

「何……!?」

 

 斃されたグレーシアが虚無の渦に飲み込まれる。ただ破壊されるのとは違う、手の届かない場所へ連れ去られたように錯覚して胸が苦しい。

 ペンデュラムモンスターは、フィールドから墓地へ送られる場合はエクストラデッキへ行くのが基本のルール。それで何度も特殊召喚する事が長所だが、そのルールを上書きする形で除外されるのは厳しかった。

 

「そして聞いて驚け。カオス・デーモンは、汝のモンスター全てに1回ずつ攻撃が可能じゃ!」

「な……!?」

「よって、今度はそのエリーティアを攻撃する!」

 

 破壊したモンスターを除外する上に全体攻撃となれば、ペンデュラムとの相性は非常に悪い。

 グレーシアを破壊したカオス・デーモンが、エリーティアの方を向き剣を振り上げた。そして、重量と重力に任せてそれを振り下ろす。

 

「ファンシアの効果! 俺のペンデュラムゾーンに奇数のペンデュラムスケールがある場合、自分の『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1体のバトルによる破壊を、ファンシアを代わりに破壊して無効にする!」

「何?」

 

 カオス・デーモンが振り下ろした剣は、エリーティアの周りを覆う赤いオーラに阻まれた。そしてファンシアは、こちらに向けて片目を瞑りながらサムズアップをし、消失する。心からこの身代わり効果に感謝した。

 全体攻撃できるモンスターも、一度攻撃したモンスターにはもう攻撃できない。さらにファンシアは自身の効果で破壊されたため、そのままエクストラデッキに加わる。除外される数は少しでも減らしたかった。

 

「カオス・ビーストでエリーティアを攻撃。カオス・ハウリング!!」

 

 再びカオス・ビーストが吠え、その鳴き声が衝撃波となってエリーティアの身体を叩き破壊する。2回も同じ攻撃を受けさせてしまい申し訳ない。

 

「カオス・デーモンでビューティアを攻撃!」

 

 剣を構えるカオス・デーモン。しかし、その攻撃も通すつもりはなかった。

 

「ビューティアの効果発動! ビューティアが、自分のペンデュラムゾーンの一番低いペンデュラムスケール×300以上の攻撃力を持つ相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、その相手モンスターを破壊する!」

「なるほど、そうやって防ぐつもりだったのか。見事な布陣じゃな」

 

 今のペンデュラムゾーンで一番低いペンデュラムスケールは、クーリアのスケール1。つまり、攻撃力300以上のモンスターならバトルをせず破壊できる。戦闘ダメージが通りにくい点がネックだが、今はとてもありがたい。

 ビューティアがタクトを振ると、地面から現れた連符が鎖のようにカオス・デーモンに巻き付く。

 だが、称賛したクルヌギアスの表情は、愉悦の如き笑顔だった。

 

「光及び闇属性モンスターをシンクロ素材としたカオス・アンヘルの効果により、妾のシンクロモンスターは汝の発動したモンスター効果を受けず、また戦闘でも破壊されない!」

「!?」

「よって、ビューティアとのバトルは続行。そのまま破壊させてもらう!」

 

 巻き付いた連符をカオス・デーモンは振りほどき、ビューティアに剣を振り下ろし、縦に両断する。

 観戦していたビューティアは、それを目の当たりにして口元を押さえていた。見たくないであろう場面を見せてしまった事を、心から詫びた。

 

「ぐ、あ……!?」

 

バトレアス LP5900→3900

 

 そしてダメージの衝撃は、今まで味わったことのないレベルの苦痛を伴った。内臓や血管が軋むかのような痛み。胃の中身が押し上げられるのを必死に堪える。痛みを感じるのは侵略者や天老のデュエルと同じだが、これは自分の命が文字通り削られているような感覚だ。寿命が縮んだと錯覚するほどに苦しい。

 

「カオス・アンヘルでダイレクトアタック。カオス・フューリー・ジャッジメント!!」

 

 カオス・アンヘルが両腕を広げると、灰色の光を宿す巨大な球体が現れた。さっき受けたダメージが脳裏に蘇る。超過ダメージであれほどなら、ダイレクトアタックはどんなものなのか。

 

 ここで《ペンデュラム・スイッチ》の効果を使い、キューティアを守備表示で召喚するという選択肢が浮かぶ。そうすればサーチしつつダメージを防げる。

 だが、そうなるとクルヌギアスはカオス・デーモンに攻撃させるだろう。そしたらキューティアは除外される。次のターンにつながるとは言え、除外のケアがほとんどできないこのデッキで、貴重なサーチャーのキューティアを1枚とは言え失うのは痛い。

 何より、ドレミコードが攻撃されて無残に破壊されるのを見て、別の心苦しさを抱いてしまっているのも事実。さらには、さっきのビューティアのショックを受けた表情が頭から離れない。

 これが紙でのデュエルなら、多少のリスクと罪悪感を飲み下してでもキューティアを壁に召喚していた。

 だが、ソリッドビジョンで実体化し、さらに実際にキューティアたちと暮らしてきたが故に、咄嗟に壁にするという手段を取れない。

 だから、ライフがギリギリまで減るのを覚悟して、ダイレクトアタックを敢えて受けるのを選ぶ。そして、バトルフェイズが終わった後でキューティアを特殊召喚すれば、損失は俺のライフだけで済む。

 

 そして巨大な灰色の光球はあっけなく放たれ、直撃し、体が後ろへ吹き飛ばされる。

 

「―――――」

 

バトレアス LP3900→400

 

 その攻撃を受けた瞬間に、何かが触れたような感触はなかった。けれど、視界も、音も、意識さえも、全てが黒く塗りつぶされた。

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