ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第14話:団結

バトレアス LP400 手札2

【モンスターゾーン】

カード無し

 

【魔法&罠ゾーン】

ペンデュラム・スイッチ

 

【ペンデュラムゾーン】

右:ドドレミコード・クーリア スケール1

左:ドドレミコード・キューティア スケール8

 

【フィールドゾーン】

ドレミコード・ハルモニア

 

 

クルヌギアス LP4000 手札1

【モンスターゾーン】

カオス・ビースト-混沌の魔獣- ATK3000

カオス・アンヘル-混沌の双翼- ATK3500

カオス・デーモン-混沌の魔神- ATK4500

 

【魔法&罠ゾーン】

カード無し

 

 

 カオス・アンヘルの攻撃を受けたバトレアスが起き上がらない。仰向けに倒れたまま、微動だにしなかった。

 

「バトレアス――」

「ならん」

 

 たまらずクーリアは駆け寄ろうとするが、クルヌギアスに釘を刺された。見れば、クルヌギアスは腕を組み、バトレアスがどうするかを見極めているような態度を取っている。

 

「デュエルの最中、何人たりとも触れる事は許されん」

「しかし――」

「見てみよ」

 

 仲間が倒れたのだ。心配する事の何が悪い。イカサマなどするとでも思っているのか。

 しかし、クルヌギアスはバトレアスが嵌めているデュエルディスクを顎で示す。まだ展開されている状態だ。

 

「あやつのデュエルディスクはまだ機能しておる。もしも続行不能なほどのダメージを受けていれば、ディスクがそれを検知して中断されるはずじゃ」

 

 バトレアスが装着しているデュエルディスクは、確かに精霊界の技術で製作されたものだ。装着するデュエリストが身体に甚大なダメージを負えば、自動的にデュエルが中断される機能も搭載されている。

 だからクルヌギアスの言い分も分かった。

 それでも、起き上がらないのはやはりそれだけのダメージを負っているという事。

 そしてもしかしたら、身体には異常がなくても、精神には異常を来しているのかもしれない。

 

「とはいえ、カオス・アンヘルほどのモンスターのダイレクトアタックを受けたら、流石に厳しいかのう?」

 

 楽観的な、呑気な物言いにクーリアは思わず歯を食いしばってクルヌギアスを睨む。だが、これっぽちも響いていないらしく、鼻で笑うだけだ。

 

「妾のデュエルは普通ではない。そういったハズじゃが」

「っ……!」

「そして、それはそこの人間も承知の上。責められるのは筋が通らんよ」

 

 しれっと告げるクルヌギアスの言葉は、悔しい事に正論だ。

 だからといって、何もしないほどクーリアは冷酷じゃないし、バトレアスを大切に思っている。

 

「バトレアス! 起きて!」

 

 クーリアは叫んで名を呼ぶが、やはりバトレアスは起きない。

 クルヌギアスに注意されない程度に近寄って、顔を窺う。目を開けたまま、瞳に光がない。ともすれば、死んでいると錯覚しそうな形相だ。

 

「……!!」

 

 手が届く場所にいるのに、触れられない。

 どうしようもないほどにもどかしさを感じる。

 拳を握りしめたその時、ひとつの考えが浮かんだ。

 

◆ ◇ ◇

 

 気がつけば、辺り一面真っ黒な空間だ。

 自分が2本の足で立っているのか、それとも宙づりになっているのか、それさえも分からない状態。自分の置かれている状況を確かめようと手足を動かしてみても、1ミリも動きやしない。動けと脳が指令を下しても、全く反応しないのだ。

 それなのに、不快感が全くない。ずっとこの状態でいたいとさえ思えてしまう、奇妙な心地よさ。

 そんな状態でいると、脚の先が何かに包み込まれるような感覚がしてきた。視線を下ろしてみるが、やはり黒一色で何が起きているのかわからない。だが、水か泥のような音からして、足が沼のようなものに沈んでいるらしい。

 普通なら、沼に沈んでしまうなど命の危機だが、不思議な事に危機感が湧かない。むしろその感覚すらも気持ちよくて、このまま沼に沈んでしまおうかとまで思うほどだ。

 

(あれ、そもそも俺って……何してたんだっけ……?)

 

 ついには、記憶までもが靄にかかったようになってくる。そもそもどうしてこういう状況になったのか、思い出せなくなってきた。

 それでもいいやと思えてしまうぐらいには、今の状況は悪くない。

 その時だった。

 

(……何の、曲だろう……?)

 

 聞こえてくるのは、バイオリンとハープの音色。何の曲かは分からないが、聞いていてとても安らかな気持ちになる。眠ってしまいそうなほど穏やかだ。

 

 けれどその曲を聞いていると、今のままではいられないという意識が芽生え始めた。

 なすべき事をしなければ、と気持ちが開き始めた。

 

 心地よい感触を振り切って、沼に沈みつつある右手を前に伸ばそうとしてみる。さっきとは違って、今度はちゃんと動いた。

 そして、手を伸ばしたその先に光が宿り、暗闇が切り裂かれていく――

 

◇ ◆ ◇

 

「……っ!」

 

 不意に視界が戻ったと思ったら、そこはさっきと同じドレミ界だった。

 胸に手をやると、心臓がいやに跳ねている。

 そして思い出す、心地よすぎる闇の空間。さっきまでは妙な心地よさがあったが、改めてそれを思い出すと悪寒が走った。あと一歩遅かったら取り返しのつかない事になってしまったのではないかと、今になって危機感を覚え、急速に気分が悪くなってくる。

 

「よかった……」

 

 声がして、呼吸を整えながらそちらを見る。

 涙ぐんで、安堵の声を洩らしていたのはクーリアだ。その手にはタクトが握られ、傍らにはクーリアの妖精体がバイオリンを手に笑っている。その隣にいるビューティアもまた、小型のハープを持つ妖精体を抱えて微笑んでいる。ミューゼシアも、安心したように息を吐いていた。

 

「おはよう」

 

 そして今度は、明らかに俺の事をバカにするような声。見れば、クルヌギアスがこちらを見て嗤っていた。

 

「寝起きの気分はどうじゃ?」

「……最悪ですよ」

「それは結構。とはいえ、あともう少しで落ちるところだったな?」

 

 皮肉を返してみても、クルヌギアスは動じない。どうやらさっき見た心地よい暗黒の空間は、実体化したカオス・アンヘルの力だけでなく、クルヌギアスの力の一端でもあったらしい。言い方からして、クーリアたちの旋律が聞こえなければ、きっと無事で済まなかっただろう。

 

「さて、いつまでもそのままではデュエルが続行できん。まだ勝負は決していないのでな?」

 

 言われて、デュエルをしていた事を思い出した。頭を振って、地面に散らばっていた手札を回収し、クルヌギアスと対峙する。

 

「妾はカードを1枚伏せてターンエンド。そしてこのエンドフェイズに、カオス・ビーストとカオス・デーモンの効果は切れ、攻撃力が元に戻る」

 

カオス・ビースト-混沌の魔獣-

ATK3000→2000

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK4500→2500

 

 クルヌギアスがターンを終えたタイミングで、効果を発動させようとする。ただ、さっきの心地よい闇のせいか、身体のだるさがまだ完全には抜けていない。まるで枷でも嵌めているように腕が重い。

 

「《ペンデュラム・スイッチ》の効果発動……。ペンデュラムゾーンのキューティアを、特殊召喚……」

 

 光の柱からキューティアが降り立つ。そして、ふらついている俺を振り返って心配そうな顔をするが、気丈に笑ってみせた。

 

ドドレミコード・キューティア

DEF400 レベル1

 

「キューティアの効果で、デッキのビューティアを手札に、加える……」

 

 手がどうにも重く感じるが、何とかデュエルディスクを操作して、ビューティアのカードを手札に加える。

 そこで、クルヌギアスが鼻息をついた。

 

「先のカオス・アンヘルの攻撃、てっきりその手筈で防がれると思ったが、何故に使わなかった? 聞かせてみよ」

「……キューティアはこのデッキでも重要でしてね。下手に除外されるのは困りますし……」

 

 言葉を切って、息を整えて、デュエルを観ている3人のドレミコードに目を向ける。

 

「……仲間が無残に切られる姿を見るのは、心苦しいですから」

「それで自分の命をも危険に晒すとはのう。好ましいが、果てしなく愚かな奴じゃ」

「何とでも、どうぞ……。俺のターン、ドロー……!」

 

 別にクルヌギアスに理解してほしいとは思っていないので、バカにされても文句は言わずにターンを進める。

 状況を確かめる。5体のドレミコードは1ターンで全滅、命も一度危機に陥ったが、フィールドの状況、エクストラデッキ、手札はさほど悪くない。

 そして今引いたカードは、このデッキで数少ない除外ケアのカードだった。

 

「俺は速攻魔法《大欲な壺》を発動……。除外されているお互いのモンスターを合計3体対象としてデッキに戻し、カードを1枚ドローする。俺は除外されているグレーシア、ビューティア、そして《混沌殻(シェル・オブ・カオス)》の3体を戻す」

 

 この【ドレミコード】で、除外に関連するモンスターはビューティアだけだ。しかし、《次元の裂け目》などで除外された際のケア、または除外を多用する相手への妨害として、《大欲な壺》は念のために入れていたものだ。今引けたのはとても嬉しい。

 

「罠カード《仁王立ち》をカオス・ビーストに対して発動! このターン、その守備力は倍になるが、ターン終了時に守備力が0になる」

「守備力を上げる……?」

 

カオス・ビースト-混沌の魔獣-

ATK2000 / DEF1800→3600

 

 だが、不可解なタイミングで不可解なカードを発動した。カオス・ビーストは攻撃表示で、守備力を倍にしたところで意味はない。それもどうしてこのタイミングで発動したのか。これにはビューティアも疑問を呈している。

 ともあれ、《大欲な壺》の発動に支障はない。頭上に黒い渦が現れ、その中からが3枚のカードがひらひらと舞い降りる。手元に来た2枚を大切にデッキに戻してドローした。

 そして引いたカードを見た途端に、勝手に眼が見開かれる。

 これなら、行けるかもしれない。

 

「妾のカードまで戻してくれるとは、感謝する」

 

 嗤うクルヌギアス。あちらのカードをデッキに戻したのは、《大欲な壺》を発動するのに俺のカードだけでは足りなかったからだ。それに、除外したカードをデッキに戻すのは、除外を基本戦術に組み込んだデッキ的には妨害になるかと思ったのだが、まだクルヌギアスは余裕らしい。

 だが、こちらはやるべき事をやるだけだ。

 

「ハルモニアの効果発動。エクストラデッキのファンシアを手札に加えて、召喚!」

 

ファドレミコード・ファンシア

ATK1600 レベル4

 

 ファンシアはフィールドに現れると、キューティアと同じようにこちらを心配そうに見る。俺はどうにか、笑顔を取り繕って手を振り返した。

 

「ファンシアの効果を発動。デッキのグレーシアをエクストラデッキに加える」

「また其奴か」

「さらに、《ペンデュラム・スイッチ》の効果発動。キューティアをペンデュラムゾーンに移動させる」

 

 先ほどのターンと同じようにグレーシアを控えさせ、キューティアをペンデュラムゾーンに置く。クルヌギアスは前にも見たような動きに、呆れたように肩を竦めた。

 

「これで、レベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 天上に広がる五線譜の円環が光り輝き始める。

 その時、クルヌギアスが何かを期待するかのように笑った。

 

――汝にとって、その女子どもは仕える相手かもしれん。じゃが今は、共に戦う仲間。そんな同胞を呼び寄せるのに言葉のひとつもかけてやらんとはな

 

 前のターンにクルヌギアスが言っていた言葉。

 だが、その言葉も案外馬鹿にならないのでは、と思うところもある。

 それは、迷宮姫の執事・アリアスとのデュエルでの事だ。

 

――喰らえ、ディスリガード・ペナルティ!!

――オラァ!!

 

 あの時、《斬リ番》の効果を発動した際に、ノリと勢いでオリジナルの効果名を告げた。その時の《斬リ番》は、精霊界という事を差し引いても感情が籠もっているように感じたし、その後も他とは違ったリアクションを見せた。

 だからもしかしたら、クルヌギアスの言うように、アニメでは多々あった攻撃や効果の名前、召喚口上を告げる事には、一緒に戦うモンスターの士気を高める意味があるのかもしれない。

 デュエルの結果に何ら作用しないと言われたらそれまでだ。だけどクルヌギアスに言われた今、仲間と一緒に戦う、という意識をより強める意味では、そうした方がよりデュエルに集中できるのではと思う。

 実を言うと、ドレミコードの皆についての()()を考えてはいた。デュエリストの性と言うべきか、そういうのは自然と考えてしまうものだ。

 とはいえ、実際に口にするのはすごい恥ずかしい。けれど、これ以上何かとクルヌギアスに突かれるのは御免だ。

 だから、両手を天に向けて広げて。

 

「天に宿る麗しき天使たちよ。混沌を払う浄化の旋律を、今高らかに奏でよ! ペンデュラム召喚!」

 

 意を決して、半ば自棄に口上を告げた。

 だがそれを聞いた直後に、クルヌギアスが満足したように頷いて笑い、デュエルを観ていた3人のドレミコードも目をわずかに見開く。そしてハルモニアの五線譜が、ひときわ強く輝きを放った。

 

「来てくれ、《ソドレミコード・グレーシア》、《レドレミコード・ドリーミア》、《シドレミコード・ビューティア》!」

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2100 レベル5

 

レドレミコード・ドリーミア

DEF400 レベル2

 

シドレミコード・ビューティア

ATK2500 レベル7

 

 そうしてフィールドに現れた3体のドレミコードは、こちらを振り返ると、安心させるようにやる気に満ちた笑みを返してきた。そんな仕草は、今までペンデュラム召喚してきた時あっただろうか。

 

「グレーシアの効果で、デッキから《ドレミコード・スケール》を手札に加える!」

 

 サーチするのは魔法カード。さっきの《大欲の壺》の効果で引いたカードを最大限に活かせるのはこれだ。次のターンに備えて罠カードを、なんてチキン戦法はとらない。

 

「現れろ、清らかな旋律のサーキット!」

 

 手を前に突き出し、リンクサーキットを開く。楽譜の如く音符や記号がいくつも残像として現れた。

 

「召喚条件はペンデュラムモンスター2体。グレーシアとファンシアをリンクマーカーにセット!」

 

 2体のドレミコードが、五線譜の軌跡を描きながらリンクサーキットに飛び込む。

 

「リンク召喚! 今一度お力添えを、優雅にして偉大なる音階の天使!《グランドレミコード・ミューゼシア》!!」

 

 再び現れるミューゼシアは、さっきよりも表情が生き生きしている気がした。

 

□□□ グランドレミコード・ミューゼシア

□◇□ ATK1900

■□■ リンク2

 

「ほほう、ミューゼシアよ。優雅で偉大と評されるのは中々に気分がいいものよな?」

 

 先程から機嫌を良くしたクルヌギアスが、デュエルを観ているミューゼシアに話しかける。ミューゼシアは何も言わなかったが、嬉しいのか微笑んで頷く。

 自分で決めた口上にそこまで反応されるのは余計恥ずかしい。それから目を逸らすように、手札を1枚手に取る。

 

「魔法カード《EXP(エクストラ・ペンデュラム)》発動! このターン、俺はもう一度エクストラデッキからのペンデュラム召喚を行う事ができる!」

「何?」

「混沌を濯ぐために今一度響け、浄化の旋律! ペンデュラム召喚!」

 

 2回目となれば恥ずかしさは薄れた。だからもう一度、口上と共にペンデュラム召喚をすると、今度はハルモニアのフィールドに浮かぶ音符や記号までもが、鼓舞するように輝きを放った。

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2100 レベル5

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK2300 レベル6

 

 再び現れる2体のドレミコード。グレーシアは凛とした表情でクルヌギアスを見据え、エンジェリアは爛々とした笑顔で俺に笑いかけ、ピースサインを向けてくれた。

 何だか、こちらまで嬉しくなってくる。さっきのダイレクトアタックで身体の中に染み込んだ怠さが消え、力が湧いてくるような感覚だ。

 

「ミューゼシアの効果! ペンデュラム召喚したグレーシアのスケール4と同じ、レベル4のファンシアをデッキから手札に加える!」

 

 とはいえ、ファンシアはこのターンに召喚するつもりはないし、それもできない。だから、まずは厄介なモンスターをどかす事にする。

 

「ハルモニアの効果発動! 俺のフィールドの『ドレミコード』のペンデュラムスケールは、奇数と偶数が3種類ずつ! よってフィールドのカード1枚を破壊できる!」

「ならば妾は、カオス・アンヘルを対象に墓地の《仁王立ち》を除外して効果発動! このターン、汝は対象のカオス・アンヘル以外には攻撃できぬ。勿論、ダイレクトアタックも例外ではない」

「!」

「そしてカードが除外された事で、カオス・ビーストとカオス・デーモンの攻撃力がそれぞれアップする!」

 

 ハルモニアの五線譜が輝き始めたが、《仁王立ち》のカードが虚無の渦へ消え去ると、カオス・アンヘルが黄色いオーラに覆われる。そして、クルヌギアスの2体のモンスターが、歓喜するかのように咆哮と怒号を上げた。

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK2500→4500

 

カオス・ビースト-混沌の魔獣-

ATK2000→3000

 

 守備力を上げるのはあくまでおまけ。真の狙いは攻撃対象を制限する事だった。カオス・アンヘルは光と闇の属性を素材にシンクロ召喚されているため、発動したモンスター効果を受けず戦闘でも破壊されない。だからハルモニアで破壊しようとしたのだが、カオス・アンヘルがいなくなると俺はこのターンの攻撃を封じられる。こうなると話は変わった。

 

「……俺は、カオス・デーモンを破壊する!」

 

 やむを得ず、攻撃力が無視できない数値であり、全体攻撃が厄介なカオス・デーモンを選ぶ。ハルモニアの五線譜から雷が落ち、カオス・デーモンは怒号とは違う叫び声をあげて消滅した。

 しかしそこで、クルヌギアスがまた嗤う。

 

「カオス・デーモンが汝の手でフィールドを離れた場合、エクストラデッキから自身以外の『カオス』と名のつくシンクロモンスターを特殊召喚できる!」

 

 すると、その身を焼かれ骨だけになったカオス・デーモンが空へと腕を突き上げる。そして、その骨を飲み込むように強烈な光が放たれた。

 

「出でよ、混沌を変幻自在に操る女神!《カオス・ゴッデス-混沌の女神-》!!」

 

 光の中から現れたのは、黒いドレスを纏い、骸骨が付けられた白い杖を持つ白い髪の女性。クルヌギアスと同様に、悪い笑顔を浮かべている。

 

カオス・ゴッデス-混沌の女神-

ATK2500 レベル8

 

 カオス・デーモンを破壊しても、モンスターの総数は変わらない上に、新しいシンクロモンスターまで呼ばれてしまった。

 だが、それを見てもこちらのやる事は変わらない。

 

「魔法カード《ドレミコード・スケール》発動! このカードは、自分フィールドの『ドレミコード』のの種類によって効果が追加される」

 

 モンスターゾーン上のドリーミア、グレーシア、エンジェリア、ビューティアが青いオーラに覆われる。ペンデュラムゾーンも合わせると、フィールドのドレミコードは6種類だ。

 

「まず3種類以上の『ドレミコード』が存在する事により、俺のペンデュラムゾーンの『ドレミコード』1枚を手札に戻し、エクストラデッキの『ドレミコード』1体をペンデュラムゾーンに置く。クーリアを手札に戻し、エクストラデッキのファンシアをペンデュラムゾーンに!」

 

 光の柱に佇んでいたクーリアが姿を消し、入れ替わるようにファンシアがそこに収まる。足元に浮かぶペンデュラムスケールも1から5に変わるが、それでもフィールドの「ドレミコード」は6種類のままだ。

 

「そして、5種類以上の『ドレミコード』が存在する事で、手札からドレミコード1体を特殊召喚する。来てくれ、クーリア!」

 

 今までペンデュラムゾーンで静観していたクーリア。それはフィールドに現れると、嫋やかな笑みを浮かべて涼風を巻き起こした。

 

ドドレミコード・クーリア

ATK2700 レベル8

 

 これで俺のフィールドの『ドレミコード』は7種類。《ドレミコード・スケール》には7種類の『ドレミコード』が存在する事で発動できる効果もあるが、《仁王立ち》の効果も考えるとその効果を発動するのはまずい。せっかく発動できる貴重な機会が訪れたのだが、やむなく見送りだ。

 しかしながら、俺のフィールドのモンスターは6体。非常に心強い仲間が揃ってくれた。それでもまだ、クルヌギアスは余裕を崩してはいない。

 

「いくらモンスターを並べようが、攻撃できるのはカオス・アンヘルだけ、という事は忘れておらんな?」

 

 その通り、こちらで攻撃力が一番高いのは攻撃力2700のクーリア。グレーシアとエンジェリアの効果で攻撃は妨害されないとしても、カオス・アンヘルの攻撃力3500には届かない。このターンでの攻撃を諦めて、エンジェリアの効果でエリーティアを呼んでも、さっきのターンで効果はバレてしまっている。だから今度は間違いなく、残りライフ400の俺を確実に仕留めるだろう。

 

「惜しかったなあ、バトレアス。これで汝は勝てん」

「……いいえ、まだ手札は残っています」

 

 既に勝ち誇ったかのようなクルヌギアス。

 だが、こちらにはまだ手札が残っている。これだけ「ドレミコード」がいてくれれば、もう十二分だ。

 

「装備魔法《団結の力》をクーリアに装備!」

「!?」

 

 前のターンに見せた不愉快そうな態度ではなく、確実な動揺。この装備魔法の効果は、クルヌギアスもよく知っているらしい。今初めて、クルヌギアスの余裕は崩れた。

 装備されたクーリアを、白いオーラが覆う。

 

「装備モンスターの攻撃力は、俺のフィールドのモンスター1体につき800ポイントアップする。俺のフィールドのモンスターは6体、よってクーリアの攻撃力は4800ポイントアップ!」

「4800……!」

 

 すると、フィールドにいる6人のドレミコードが顔を見合わせて、クーリア以外の5人がクーリアへと右手を差し伸べる。クーリアは頷いて、全員の手に順番に触れていき、そうする毎にクーリアを覆う白いオーラが強まっていく。

 

ドドレミコード・クーリア

ATK2700→7500

 

「……ははは」

 

 クルヌギアスは、爆発的に攻撃力が上がったクーリアを見て、笑った。それは今までの嘲笑ではなく、また正気を失ったようでもない。ただただ、目の前で急成長を遂げたモンスターを見て、興奮しているかのようだ。

 

「バトルだ。クーリアでカオス・デーモンを攻撃!」

 

 クーリアが曲を奏でるようにタクトを振るうと、緑色の光がクーリアの胸の前に宿り始める。

 その時、モンスターのクーリアがこちらを振り向いて頷いた。何かを促すかのように。

 それに応えて、高らかに宣言する。

 

「クーリー・レクイエム!!」

 

 クーリアがタクトを大きく振ると、緑色の光球が奔流へと姿を変え、カオス・アンヘルへと放たれる。バトルで破壊できなくても衝撃は伝わるようで、カオス・アンヘルは叫び声を上げ、さらに受け止めきれないダメージはクルヌギアスにまで届く。

 

「ははは……あっはははははははは……っ!!」

 

 そして自らに迫る穏やかな緑色の光線を、クルヌギアスは歓喜するかのような笑い声を上げながら、その身に受けた。

 

クルヌギアス LP4000→0

 

 クーリアの攻撃を受けたクルヌギアスの姿が、緑の光の中に消える。けれど、そのライフが尽きてデュエル終了のブザーが鳴った途端、俺は膝から崩れ落ちた。

 

「バトレアス!」

 

 今度はうつ伏せに倒れそうになってしまうが、膝をついたところでクーリアが身体を支えてくれた。

 

「ありがとう、ございます……」

「お疲れ様。よく戦ったわ」

 

 労いの言葉を掛けながら、クーリアは抱きしめてくれた。それほどまでに、自分の無事を願っていたのだろうか。そう思うと、少し嬉しい。

 甘い香りが漂ったり、男性的ではない柔らかい感触が伝わってくるが、それよりも疲労感が勝っている。そして、クーリアが自分を労わり安堵していると思うと、涙腺が緩んでしまいそうなぐらいには、クルヌギアスとのデュエルに神経を使いまくっていた。だから、ろくな言葉も返せないで、クーリアに身を委ねる事しかできない。

 

「随分と見せつけてくれるではないか」

 

 だがそこへ、クルヌギアスが笑いながら歩み寄ってきた。さっきのワンショットキルを受けてもなお、ピンピンしている。神だからフィジカルも強いのだろうか。

 

「……」

 

 しかし、その目の前にビューティアとミューゼシアが立ちはだかる。俺とクーリアを庇うような行動で、神であるクルヌギアスの前に立つというのは、あちらからしてみれば相当な無礼に当たるだろう。しかしながら、クルヌギアスが気を悪くした感じはない。

 

「まあ待て。心配せずとも、其奴の命は取らん。戦いの前の約束もあるしの」

 

 クルヌギアスが俺に対して微笑む。デュエルの前や最中に何度も見せた、何か裏がありそうな笑みではなかった。それを見て、そして相手が神であるのも踏まえて、ミューゼシアとビューティアは一歩引く。ただ、クーリアは俺を抱き留める腕を離したものの、傍を離れようとしなかった。そんなクーリアを見てにやりと笑った後で、クルヌギアスが俺に視線を向ける。

 

「バトレアスよ。大儀であったぞ、褒めて遣わす」

「……ここは、ありがたき幸せ、と言うべきでしょうか」

「ああ」

 

 そしてクルヌギアスは、また品定めをするように改めて俺の事をじろじろと眺める。女性にこうもあけすけな視線を向けられるのは、何とも背筋が震えるようだ。

 

「妾は奉仕されておらんから、そちらがどうかは知らん。が、デュエルに限っては一目置けるな」

「え?」

「汝は、妾を大いに楽しませてくれた」

 

 クーリアに《団結の力》を装備させて勝利した事か。あの装備魔法は、モンスターを一度に複数体並べられるペンデュラム召喚と相性がいいから入れていたものだ。実際、その狙い通りに今回勝利できた。

 最後のクルヌギアスの笑いは、「楽しい」という感情から来るものだったのか。相手は神だが、そんな存在を楽しませる事ができたというのは、滅多にない事かもしれない。

 

「あまりに長生なもので、アレは随分と久しく感じなかったものだ。錆びついた感覚を思い出させてくれた分の礼はせんとな」

「……?」

「この先の生に、多少の期待と楽しみを増やしてくれた褒美じゃ。ありがたく受け取れ」

 

 そう告げると、クルヌギアスはカードをドローする時のように指を立てる。するとそこに1枚のカードがどこからともなく現れ、しかもこちらに向けて放ってきた。脊髄反射で受け取り、そのカードを確かめると。

 

「これは……」

 

 それは、目の前にいるクルヌギアスの姿が描かれたカード、《閉ザサレシ世界ノ冥神(サロス=エレス・クルヌギアス)》だった。

 

「妾の力を分けてやる」

「いや、これは――」

「粗末に使ったら、今度は承知せんぞ?」

 

 有無を言わせぬ形で渡されたカードは、非常に強力なカードだ。紙では多少値が張るために買う勇気が出ず、マスターデュエルで組んだ【ドレミコード】には投入している。だから貰ったところで構築に困る事はないが、神様から直々に渡されるのは畏れ多い。

 けれど、一度渡した以上は引っ込めるつもりもないらしく、クルヌギアスの視線はクーリアへと移る。

 

「クーリアよ。忠実な従者が身体を張って貴様の命を救ったのだ、せいぜい感謝するんじゃの」

「……ええ、そうですね」

「そうさな、礼は身体で返してやるといい。其奴も喜ぶだろう」

「んな……っ!」

「冗談じゃ」

 

 神様も冗談を言うのか、と場違いな感想を抱く。その冗談の内容と、それでクーリアが顔を真っ赤に染めているのについては触れない。

 

「ま、これを機に次からは気を付けよ」

「……肝に銘じます」

「今日はもうよい。後はミューゼシアが沙汰を決めるじゃろ。ではの」

 

 そう告げると、クルヌギアスの背後に黒い渦が出現し、それに吸い込まれるようにクルヌギアスは姿を消した。言いたいことだけ言って、やりたい事だけやって帰る、何とも神様らしい自分本意な存在だ。

 

「……ふう」

 

 クルヌギアスが消えた事で、場の空気が弛緩する。場所はさっきと同じドレミ界のはずなのに、随分と長い事この世界にいなかったような、妙に新鮮な気分がした。なので思わずため息をついてしまうが。

 

「……さて、バトレアス。クーリアも」

 

 こちらを振り向いたミューゼシアが話しかけてきた。声のトーンからして、笑みのない表情からして、真面目な話をするつもりらしい。

 

「そもそも何がどうしてこうなったのか、詳しく聞きましょう」

 

◇ ◇ ◆

 

 場所を移し、俺とクーリア、そしてミューゼシアは食堂に移動した。ビューティアは自室に戻るとの事だったので、俺たち3人以外は誰もいない。

 そしてそこで、今回の経緯を改めてミューゼシアに話す事になった。

 こうなってしまった以上、ドレミコードの上位存在である彼女には、嘘偽り誤魔化しなく全てを話すしかない。なので、クーリアの不調……つまり太った事、それによるストレスからのクルヌギアスに聞かせた旋律の乱れ、そしてそもそもその原因が俺が差し入れたケーキである事、全部話した。

 それについて話す間、クーリアは合わす顔がないというかのように視線を伏せ、ミューゼシアは何度も額に手を当てている。まさか、こんな事態に発展するとは思わなかったのだろう。果たして、どんな事を言われるか。

 

「……事情は概ね分かったわ。まずはクーリア」

「……はい」

 

 こちらから話せる事を全て話し終えると、最初にミューゼシアが話しかけたのはクーリアだ。

 

「貴女の不調も、それでストレスが溜まるのも分かるわ。同じ女だもの」

「……ありがとうございます」

「けれど、それで他人に迷惑をかけるようになってしまうのは見過ごせない。今回のクルヌギアス様の件もそうだし、バトレアスが言うには倒れかけたって?」

「……はい」

 

 明確に責めているわけでないのは分かるが、クーリアは落ち込んでいるようで、萎れた答えしか返せていない。 

 

「貴女は、ドレミコードの皆をまとめるリーダーとしての責任感を持っているのは理解しているつもりだし、その負担をひとりで抱えさせてしまうのも申し訳ないとも思う。けれど、自分ひとりで抱えきれない事があるのなら、私や皆をどうか頼って」

「……」

「私はもちろん、他の皆も、今回の不調で貴女の事を笑ったりはしない。困っている事があるのなら相談に乗る」

 

 そう言ってミューゼシアは、少しだけ身を乗り出して、クーリアに言い聞かせるように笑う。

 

「私たちは大切な仲間で、家族のようなものなのだから」

 

 クーリアの視線が上がる。気づかされたように、目を見開き、やがてこくりと頷く。

 

「……申し訳ありませんでした。以後、このような事がないように気を付けます」

 

 その言葉に満足したのか、ミューゼシアは頷く。

 そして。

 

「さて、後はバトレアスね」

 

 忠告の矛先がこちらに向いた。覚悟は既に終えている。

 

「クーリアの不調にいち早く気付き、向き合って、解決のために協力しようとしたのは悪い事ではない。そして、クーリアを守るため、そして私たちに貢献したいという思いからデュエルを引き受けて、結果として守った。それについては、ある程度評価する」

「ありがとうございます」

「けれど、あなたは私たちと違って人間。今回はかろうじて大丈夫だったけれど、神と天使族のいざこざに踏み込んだら無事で済まない事の方が多いの。それは覚えておいて」

「……はい。申し訳ございませんでした」

 

 ここで過ごしていると忘れがちだが、ドレミコードの皆は人の形をしていても天使、自分はただの人間だ。さっきのデュエルみたく、神や天使の力を受けて無事な可能性は著しく低い。だから、軽はずみに介入するのが危険というミューゼシアの忠告は身を持って理解した。

 平身低頭、返す言葉もない。

 

「それにね」

 

 ミューゼシアがさらに続け、下げていた頭を上げる。

 

「あなたは引き取られた身ではある。だけど、さっきクーリアにも言ったように()()()は仲間であり、家族のようなものと私は思っている。だからこそ、軽率に自分の命を天秤にかけないで」

 

 今まで俺は、ここにおいては居候だと思い込んでいたし、皆もそう思っていると考えていた。

 だが、ミューゼシアにそう言われて、咄嗟にクーリアの顔を見る。相違ない、とばかりにこちらを見て笑っていた。

 どうやら俺も、人間の身でありながら、ドレミコードの仲間になれていたらしい。家族、というのはまだ少し違うだろう。

 それを言われて、こみ上げてくるものがある。

 だけど今は、感慨にふけっている場合じゃない。

 

「承知いたしました。今後は気をつけます」

 

 そう言って、頭を下げる。

 だが、もう一度視線を上げるとミューゼシアはクーリアを一瞥し。 

 

「けれどバトレアス、前にも同じ事をしたと聞いているわ」

 

 それは覚えている。転生してまもなく、グレーシアと共に天老の下へ赴いた時だ。誤解は解けたものの、疑いをかけられて、その際も負ければ命を奪われるデュエルを受け入れた。そして帰った後でクーリアにたしなめられている。結局今回も、似たような状況になってしまったわけだ。

 

「状況的に仕方がないとは言えど、一度注意されたにもかかわらず同じ事をするとなれば、多少反省してもらう必要があるわ」

「……」

 

 仏の顔も三度というが、ドレミコードは2回だけらしい。

 ミューゼシアは、こちらを真っ直ぐに見ると。

 

「というわけで、バトレアス」

「はい」

「あなた、謹慎」

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