ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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今回はデュエル無し回です
予めご了承ください


第15話:礼

 ミューゼシアから謹慎を言い渡されたものの、部屋から一歩も出てはならない、とまではいかなかった。

 具体的な罰は「ドレミ界の外へ出ず仕事に専念する事」というわけで、これまでのように従者としての仕事をこなしている。普段と変わらないのでは、と思わなくもなかったが、罰を言い渡された身のため、仕事にはより真剣に取り組まねばと考えるようになっている。今まで以上に一つの仕事に集中し、丹念に、丁寧に進めなければならないと言い聞かせているため、自戒を込めての判決なら効果はバッチリだ。

 

「ねえバトレアスさん、この後時間ある?」

 

 厨房の掃除を終えたところで、ファンシアに声をかけられる。今朝配った楽譜で、彼女は今日は浄化がないお休みである事は知っていた。

 

「どうかされました?」

「暇だから一緒にゲームしたいなって。いい?」

「構いませんよ」

 

 優先的にやるべきタスクはすでに終わらせていたので、多少は問題ない。掃除道具を片付けて、ファンシアと向かうのは談話スペースだ。

 ここも既に掃除を終えており、そこにある棚には本やボードゲームがおさめられている。ここは「談話」の他にも「交流」や「娯楽」の役割も持っている場所だ。ちなみにここにあるグランドピアノに関しては、埃を払ったり下の床を掃除するぐらいで、調律なんかは技術がないためできない。

 そんな談話スペースの棚からファンシアが取り出したのは、ボードゲームだ。パッケージには「ヴァリアンツ・ウォー」の文字と共に、機械的な騎士と和風の巫女が対峙するイラストが描かれていた。

 

「ああ、それですか」

「そそ。バトレアスさんこれ中々上手いからね、張り合いがあるって言うかな」

 

 この「ヴァリアンツ・ウォー」、OCGにも同じ名前のテーマが存在する。【ラビュリンス】と同時にデッキビルドパックに収録されたテーマで、あちらがタワーディフェンスゲームを基にする一方、こちらはボードゲームをモチーフにしている。属するモンスターは全てペンデュラムモンスターだが、ペンデュラム召喚をほとんどせず、カードの位置が重要になるとても珍しいテーマだ。

 それを知っているからというわけでもないが、俺はこのゲームがそれなりに得意だ。ルール的にはチェスに近い。

 

「じゃあボクが『百識公国(ケーニッヒ・ヴィッセン)』でー、バトレアスさんが『森羅万象』ね」

「好きですねー、その陣営使うの」

「だってカッコいいもの」

 

 確かに機械の騎士はカッコいいが、ファンシアはやはり好みとかが男性寄りな気がする。とはいえ、「森羅万象」は和風のデザインなので安心感があった。

 

 こうして謹慎期間中だが、ドレミコードの皆との接触も禁止されてはいなかった。なので、食事は皆と一緒だし、ドレミ界の外に出る事以外で希望があれば、それに応えるようにしている。

 クルヌギアスの件は、他のドレミコードにも周知されている。クーリアの不調に関してはぼかされているが、その件で俺が出過ぎた真似をしてミューゼシアから謹慎を言い渡されたのは、皆知っていた。

 それでも、俺に対して冷ややかな目を向ける人はありがたい事にいない。天老の件はグレーシアだけでなく皆も知っているし、クーリアを守ったという点については評価してもらったので、ひとまずは安心だ。これで皆から冷遇されたりしたら、本当にこの先ここで生きていけない。

 

「よーし、それじゃいくよ!」

 

 ファンシアが掛け声を上げて、ゲームを始める。

 こうして一緒に遊んでくれるファンシアの優しさに感謝し、俺もゲームに集中する事にした。

 

◆ ◇

 

 そして別の日、「浄化」に出た皆を見送った後で、食堂の掃除をしていた時の事だ。

 

「バトレアスさん」

 

 声をかけてきたのは、この日休みのキューティアだ。

 ただ声をかけてきただけならまだしも、その手にはデッキが握られている。それは初めてだったので、内心違和感があった。

 

「どうしました?」

「えっと、もしお時間があれば……デュエルを教えてほしいなぁ、と思いましてっ」

「デュエルを?」

 

 勇気を振り絞って、という風に頭を下げるキューティア。急な申し出だと思いつつ、どうすればいいのか迷う。教えると言っても、どれぐらいのレベルの話なのか。

 すると、今度はクーリアが食堂に入ってくる。今日は彼女も休みだったはずだ。

 

「基礎的なルールは私の方で教えてあるわ。デッキの回し方も、ある程度は身につけていると思う。経験を積ませて、デュエルに慣れさせてほしいの」

「ああ、そういう……」

 

 最低限戦う知識があるから、実戦で経験を積ませたいというわけか。ただし、普通のデュエルとは少し違って、丁寧にゆっくりと、ペースはあちらに合わせてという感じで。

 再びキューティアに視線を戻す。クーリアの言う通りだと力強く頷き、どこか期待に満ちた目でこちらを見上げる。

 

「私、強くなりたいんです。最初にバトレアスさんが来た時も、何もできず……あなたに戦ってもらって、それを応援する事しかできませんでした」

 

 そういえば、最初にドレミ界へ来た日。あの侵略者にデュエルを挑まれて、キューティアは躊躇していた。やはりあの時は、デュエルの腕に自信がなかったからだろう。

 

「あなたがいれば安心、なんて言ってしまいましたけれど、また誰かが襲ってきた時に、もうあなたに……私でない誰かに代わって戦わせたくはないんです。私だって、ドレミコードのひとりですから」

 

 あの日も思ったが、やはりキューティアは見かけによらず勇敢で、意思が強いらしい。

 そこまで力強い決意表明を聞かされては、その申し出を突っぱねたりできない。

 

「……分かりました。お力になれれば」

「ありがとうございますっ!」

 

 受け入れると、より声を弾ませて90度に届くお辞儀をする。べつにそこまで大したお願いでもないのだし、あまり腰を低くされても困る。

 

「では、どうしましょう。談話スペースに行きますか」

 

 食堂の掃除は終えたところなので、キューティアの用件に付き合える。掃除道具を片付けてから、談話スペースへと向かった。

 その際に、クーリアから励ましのように背中を軽く叩かれたので、会釈を返しておく。

 

 あくまでもキューティアへの指導という事で、デュエルは前世よろしく机の上で行った。そして、これまでのデュエルより、チェーン確認やフェイズ移行などの処理を慎重かつ丁寧に進める。

 クーリアが言った通り、キューティアも基本的なルールは覚えていた。だから、実戦において必要なカードを使う際の駆け引きや、状況に適した展開の仕方を教える事になる。フィールドに出されたカードについても一緒に効果を確認して、それができるかどうか、どんな処理になるのか詳しく説明する。

 とはいえ、やはりキューティアの腕はまだ初心者。そしてこちらのデッキは、ドレミ界にいる以上は【ドレミコード】のみ。なので、こちらが万全の状態でバトルフェイズに持ち込んだら、勝負があっという間についてしまう。

 

「うぅ、ダメでした……」

 

 デュエルが終わり、負けてしまったキューティアは項垂れる。ひどく落ち込んでいるが、手も足も出ず負けた感じではない。数回は展開を妨害されたので、伸びしろは十二分にあると言えよう。

 とはいえ、デッキ構築で思うところはある。

 

「もう一度、デッキを見せてもらってもよろしいですか?」

「あ、はい」

 

 キューティアが差し出したデッキを受け取り、確認する。

 構築そのものは、ミューゼシアが使っていた【天使族】に近いと見る。個々のカードも優秀な効果を持つものが多く、パワーバランスも整えられているので、デッキとしての完成度は高い。

 しかし一方で、複雑な効果を持つものもあり、初心者のキューティアが握るには多少ハードルが高いような気がしなくもなかった。戦略の幅が広いのだが、だからこそキューティアはそこから最適解を選ぶのに難儀している。

 

「キューティア様は、何故このデッキを持とうと?」

「えっと、それは……ミューゼシア様やクーリア様に憧れて」

 

 デッキを返して尋ねてみる。他人に持つ事を強いられていたのであれば、別のデッキの提案も辞さなかったが、そうではないらしい。

 

「お二人のデュエル、以前見た事があるんです。その時は、こう……勝利を目指しているのは勿論、その所作さえも美しいと思えて」

「ほう……」

「その際に使っていたデッキもこれと似たようなものでしたから、私もって思ったんです」

 

 憧れの人と同じように戦いたい。そういう思いで組み上げたのがこのデッキ。クーリアがどんなデッキを使うのかは知らないが、ミューゼシアとデュエルした立場からすれば、デッキにそれは反映されているのが分かった。

 そういう理由であれば、その気持ちを尊重したい。ほかのデッキを提案するのはやめるべきだ。

 

「……それでしたら、もっとカードの展開を把握できるようにしないとですね」

「う……」

「例えば、このカードを使った展開。色々とできる事があるんですが、キューティア様はあの時その選択を誤った、と言わざるを得ないですね」

「はう……」

 

 このデッキで戦いたいというのであれば、戦い方は是が非でも覚えてほしい。キューティアが凹んでしまうのを見るのはつらいが、涙を呑んで指導する。

 

「憧れの方が見ていても恥ずかしくないように戦いたいのであれば、なおさらですよ」

「……分かりました」

 

 そう告げると、キューティアはぐっと拳を握り、真剣に話を聞く姿勢を取る。

 

「デッキ自体の完成度は高いです。これはご自分で?」

「いえ、クーリア様にアドバイスをもらって」

「なるほど……。であれば、後はキューティア様の腕に依りますね。展開もそうですが、効果もちゃんと把握できていなければ、宝の持ち腐れになっちゃいますし」

「それだと、このカード……私、これの使い方にちょっと迷ってて」

 

 俺自身、某インストラクターみたいにルールから裁定まで一から十まで全て把握しているとは言えない。数多あるカードを全て覚えているわけでなく、腕に自信満々でもない。それでも、教えられる事はできるだけ教えていく。強くなりたいという思いは尊重したいし、何よりもデュエルを好きになってほしい。

 そしてキューティアは飲み込み自体は早く、一通りレクチャーした後の再戦では、指摘された反省点をちゃんと改善してきた。腕が上達するのも、そう遠くはないだろう。

 

「随分熱心ね」

「あ、クーリア様」

 

 そうしていると、クーリアが声をかけてきた。

 キューティアと共に頭を下げて、そう言えば今何時だったっけと思って時計を見上げると、既に昼を回っていた。キューティアにデュエルを教えてもう2~3時間は経っている。

 

「すみません。昼食の準備を――」

「それには及ばないわ」

 

 仕事を疎かにしてしまった。けれど、クーリアはバスケットを掲げて見せる。俺もキューティアもどういうわけか理解できなかったが、クーリアは片目を瞑ると。

 

「せっかくだし、ピクニックに行きましょう」

 

◇ ◆

 

 クーリアと共に来たのは、屋敷の外にある噴水だ。ドレミ界の外に出てはいけない、と言われてはいるが、屋敷の外に出るなとは言われていないので、多分セーフだと思う。

 クーリアは噴水の近くにある、薄い緑色の芝生に腰を下ろす。その隣にキューティアも座ったので、俺はクーリアから受け取ったバスケットを置き、中に詰まっているであろう昼食の準備に取り掛かろうとする。

 

「バトレアス、あなたも座って大丈夫よ」

「え、ですが……」

「いいから、ね?」

 

 朝食や夕食では同席しているが、外だとまた勝手が違う。なので、準備のために膝はついても座るわけにはいかないと思っていたが、妙な頼み方に仕方なくクーリアの隣に座る。ただ、そのまま何もしないわけにはいかないので、昼食の準備は手伝わせてもらった。

 バスケットの中に入っていたのはサンドイッチだ。具材はオーソドックスにキュウリ、たまご、ジャム、ベーコンなど色々ある。さらに、一緒に収められていた魔法瓶の中身を持ってきたマグカップに注ぐと、中身は野菜スープだった。

 

「さ、いただきましょう」

「「いただきます」」

 

 手を合わせて、3人それぞれ別のサンドイッチに手を伸ばす。キューティアはベーコン、クーリアはキュウリ、俺はたまごだ。

 

「あっ、美味しいです……!」

 

 一口食べたキューティアの表情がほころぶ。俺も口にしてみるが、キュウリだけでなくマーガリンのような味も伝わってきた。シンプルながら美味い。野菜スープも、温かくて野菜とスープの味が共存して、バランスが良くまろやかだ。

 

「本当、美味しいです。すみません、自分までご馳走になってしまって」

「いいのよ。あなたたちはデュエルの練習で忙しかったし」

 

 本来なら、昼食の準備の時間も念頭に置いて指導すべきだった。それを忘れてしまったのは落ち度でしかない。にもかかわらず、クーリアは笑ってくれた。気遣いが身に染みる。

 

「でも、どうしてお外で食べようと?」

「少し気分を変えてみようと思ってね。たまにはいいでしょう?」

 

 キューティアの質問に対し、クーリアは空を見上げながら答える。特に深い理由はないようだが、たまに外の空気に当たりながら食事をしたくなる気持ちも分かるので、頷いておいた。キューティアもそれで満足したのか、それ以上は深掘りしない。

 それから食事を続ける中で気になったのは、クーリアが食べているサンドイッチの具材が、野菜系メインで見るからに低カロリーな点だ。やはりまだ、その部分は気にしているらしい。

 一方のキューティア、それなりに食べる方らしく、食べている数はクーリアどころか俺よりも多い。クーリアお手製サンドイッチが美味しいのは確かだが、あまりがっつきすぎないように俺もセーブしている。それでもなお、キューティアは食べる速度が速かった。

 

「ごちそうさまでした、美味しかったです!」

「ありがとう、キューティア」

「ご馳走様です。こちらこそ、用意してくださってありがとうございます」

 

 そして綺麗に食べ終えて、改めてクーリアに頭を下げる。

 それを見計らって、穏やかな風が吹き出した。何となく空を見上げてみると、やはり薄桃色の空は綺麗で、流れる雲の流れも雄大だ。時折見える島のようなものも、今となっては見慣れてしまった。

 ドレミ界には昼と夜の概念があるが、気温が1日で変化する事はほとんどない。常に快適な気温で保たれ、もしかしたら着の身着のままで野宿などしても問題なさそうなほどだ。

 

「ふあ……」

 

 そんな空の下、会話も少ないまま空を見上げていると、横合いからあくびの音が聞こえた。その主はキューティアである。

 

「……ごめんなさい。さっきまでデュエルの勉強をしていて、お腹がいっぱいになったら眠くなっちゃいました」

「それなら、少し休む?」

「そうですね……」

 

 するとクーリアは、正座していた自分の膝の上をポンポンと叩く。枕にしていいという事だろう。

 

「失礼しますね……」

「はい、ゆっくりお休み」

 

 ころんと、キューティアがクーリアの膝に頭を載せて寝転ぶ。眠気はそれなりのようで、遠慮もほどほどに膝枕に甘んじるキューティア。ほどなくして、規則的な寝息が聞こえてきた。

 

「……こんなに天気がいいと、そうなってしまうのも無理はないですよね」

「ええ、本当」

 

 少し声量を落として話しかけると、クーリアもくすくす笑う。

 そして、沈黙がほんの少しだけ訪れた後。

 

「今、ちょっと話してもいいかしら?」

「?」

 

 先ほどとは少し違う、真剣そうな雰囲気で話しかけられた。見れば、クーリアからは笑みが消えている。

 

「この間の、クルヌギアス様の件。改めてお礼を言わせてほしい」

 

 頭を下げてくるクーリア。だが、そんなお礼をされるほどの事をしたという認識は俺の中にはない。

 

「いいえ。あの時はただ、ああしなければならなかった、という気持ちが強かったですから」

「けれど結果として、私は今こうして無事でいる」

 

 クーリアは、膝の上で眠っているキューティアの髪をそっと撫でた。キューティアは起きる様子がない。

 

「……確かにあの時、クルヌギアス様の言う通り私は少し調子が悪かった。それはやっぱり、その……アレもあるけど」

「……?」

「まだちょっと、私には不安なところがあったの」

 

 穏やかな風が止んで、自分たち以外の音がなくなる。

 

「じきに私は、ミューゼシア様からグランドレミコードの力を与えられるの」

 

 グランドレミコードは、様々な世界を見続けて、揺らぎや淀み、歪みをそれとなく正せる旋律を組み上げる存在。このドレミ界にいるドレミコードとはまた違う存在だ。

 ちなみにだが、OCGにおけるクーリアは、通常の《ドドレミコード・クーリア》だけでなく、《グランドレミコード・クーリア》というリンクモンスターが存在する。それがグランドレミコードの力を宿した姿だと思われるが、未だこの世界で俺はそのカードを持っていない。紙のデッキにはあったそれが今ないのも、この状況を考えればある程度納得だ。

 しかし、ミューゼシアと同じ力を得るという事は。

 

「……クーリア様は、ドレミ界から離れると?」

「いえ、そう言う事じゃないわ。力を貰っても、通常のドレミコードとしての「浄化」は続けるし、この世界にもとどまる。けれどミューゼシア様が担っている使命の一部を、私もする事になるの」

「それは……素晴らしい事ではないですか? ミューゼシア様から認められるという事でしょう?」

「ええ、だけど……」

 

 クーリアが少しだけ、もの悲しそうな顔になる。

 

「……クルヌギアス様とのあれこれで、自信がなくなっちゃって。自己管理もできないし、それであの方を怒りを買ってしまって、しかもあなたに守られるなんてね」

「……」

「こんなので、グランドレミコードの使命なんて果たせるのかしら、って」

 

 芝生に、クーリアの手が置かれる。放っておかれた人形のように、寂しさを感じさせる手だ。

 そんなクーリアを見て、何か言葉を掛けたいという気持ちと、自分如きの言葉が響くのかという気持ちが、天秤にかけられる。

 放っておけない気持ちは当然ある。かと言って俺は一介の人間で天使族ではない。

 心の中でそれらの思いは均衡を保てず、やがて傾いた。

 

「……でもクーリア様は、それに相応しいと自分は思いますよ」

「え?」

「振る舞いも姿勢も、ドレミコードの皆さんを率いる身としては十分だと思います。それに、クルヌギアス様のいる世界の浄化の任も解かれてはいませんし、ミューゼシア様からはその実力があると認められているのでは?」

「それは、そうかもしれないけど……」

 

 今まで俺が見てきたクーリアの姿は、把握している限りでも気品に満ちていると思う。ドレミコードの皆をとりまとめる能力だってあるし、人望も厚い。何より、ここにきたばかりの俺を温かく迎え入れてくれた。それだけ優しいのだ。

 ダイエット関連では、色々と赤裸々な部分を見た気がしなくもない。だが、おかげでより親しみやすさを感じているのも事実だ。あまりにも完璧だったら、もっと近寄りがたい存在になっていただろう。

 そして、クルヌギアスの件でクーリアは確かに咎められた。それでも、クルヌギアスのいる世界――恐らくは「冥界」――の浄化を任されているのは、クーリアにはそれだけの力があるという事でもある。他にそれができるドレミコードがいないからかもしれないが、それも実力があると認められているからだ。そして、一度はその神に見初められた演奏の腕を持っている。

 それだけの要素があれば、十分ではないだろうか。

 

「それに、クルヌギアス様とのデュエルで、貴女とビューティア様の演奏には助けられました。あれがなければ、俺は今頃どうなっていたか見当もつきません」

 

 あのデュエルの最中で、俺が気を失っていた時間はそう長くはなかった、と後にビューティアは言っていた。だが、今は鮮明にその時自分がどんな感覚だったかを思い出せる。あの、嫌に居心地がよかった暗闇。あの場でクーリアたちの浄化の旋律が聞こえなかったら、堕落してしまっていただろう。

 

「まあそれは、身勝手な俺の行動がそもそもの原因ではありますが、あの時俺は貴女に救われました。貴女は間違いなく、浄化という形ではなく、人を救ったんです」

「……」

「あの時、俺を助けてくれてありがとうございます」

 

 思えば、あの時の礼をずっと言えていなかった。だから今、この場を借りて言わせてもらう。

 顔を上げるとクーリアは、思いがけない言葉を掛けてもらった、という具合の表情をしていた。

 

「助けてもらった身として、自信を持って言えます。クーリア様は、グランドレミコードに相応しい方だと」

「……」

「そして俺も、これからも従者として、貴女に名付けてもらい引き取られた身として、貴女の事を全力でサポートいたします。もしグランドレミコードの力を得る事について思うところがあれば、遠慮なく話してください」

 

 そこまで言って、クーリアが黙りこくっているのを見て、つい熱が籠り言葉をつらつらとぶつけてしまった事に気づく。

 姿勢を正して、頭を下げた。

 

「……すみません、出過ぎた事を言ってしまいました」

「……いいえ」

 

 すると、膝の上で握りしめていた俺の右手を、クーリアが握ってきた。急だったもので、思わずクーリアの方を見るが、穏やかな風が吹く中で彼女は微笑んでいる。

 

「あなたの言葉なら、信じられる。自信を持てる」

 

 その笑顔に、不覚にも胸がどきりとときめいてしまった。

 

「……ありがとう、ございます」

 

 その感情に背くように、目を閉じてまた頭を下げる。クーリアの笑顔を直視していると、本当に気が変わってしまいそうだ。

 

「……あなたに話してよかった。今、随分と気持ちが楽になっているの」

「……それは何よりです」

 

 そして再び、クーリアは空を見上げながら、膝の上で眠るキューティアの髪をなでる。

 その表情を見てみるが、キューティアは安らかな寝顔だった。今の会話は聞こえていないらしい。少し安心した。第三者に聞かれていたら、と思うと脳が爆発しそうになる。

 

「……あなたに、ひとつ認識を改めてほしい事がある」

「?」

「あなたは私たちに何も貢献できていないと思っているみたいだけど、そんな事はないわ」

 

 握っていた手を離して、クーリアは再び語りかけてきた。

 俺が悩んでいた、ドレミコードの世話になっていながら、何も力になれていないという点だ。

 

「まずあなたは、私たちのこの世界を一度救った」

「それは、そうかもしれませんけど……もう時間が経ってしまいましたし」

「けれどあの時あなたがいなければ、今ここは存在していないかもしれない」

 

 膝の上で眠るキューティアの髪に手を添える。あの時の決断と行動がなければ、こんな穏やかな時間も過ごせなかった。

 

「そして今、あなたは私たちの手伝いをしてくれている。人の手が1人分増えるだけでも、ドレミコードのみんなの負担はだいぶ軽くなるのよ」

 

 ここでやっている事と言えば、大半は掃除と食事の準備だ。しかし、俺がそれらを全部または一部担う事で、ドレミコードの1人あたりの負担が減り、体を休めるのに充てられるという事か。

 

「そして、私の……運動を手助けしてくれるし、この子にもデュエルを教えてくれる。何の力にもなれてないなんて事はないのよ」

 

 言われて、胸の中が熱くなり、目を閉じる。気を緩めたら涙が出てしまいそうだ。

 

「だから、バトレアス」

「はい」

「あなた自身の今に、自信を持って。そして、クルヌギアス様の時のように、自分を犠牲にしようとしないで」

 

 優しい笑みで、クーリアはこちらを見つめる。

 

「私にとっても、あなたは大切なんだから」

 

 

 キューティアは、微睡んでいた。

 食後、風に当たって少し空を見上げていたら眠くなってしまった。それから少しだけ仮眠のつもりでクーリアの膝を借りたのだが、話し声が聞こえたので寝たふりを貫き通し、おかげでクーリアの不安も聞く事ができた。

 

 普段のクーリアは、とても理知的で、頼りになるリーダーだ。以前見たデュエルも含め、キューティアにとってもあこがれの存在である。

 そんな彼女が、グランドレミコードの力を受け継ぐにあたり、不安になっていたなんて。そんな事、まったく予想もしていなかった。普段のクーリアなら、それについてプレッシャーを感じたり、自信喪失に陥ったりなどしないと思っていたのに。

 だけどクーリアは、バトレアスの言葉で少しだけ自信を取り戻せたらしい。冥界の神・クルヌギアスが来襲した際に何があったのか、どんな言葉を交わしていたのか、詳しくはキューティアも知らない。ほかにも2人だけが知っている何かがあったらしいが、だからこそバトレアスの言葉は伝わったのだろう。

 クーリアの安心した、そして嬉しそうな言葉を聞いて、キューティアも自然と口が笑ってしまう。起きているのに気づかれていないか不安だったが、それはなさそうだ。

 

 それにしても、とキューティアは思う。

 誰にも話せなかった不安を、バトレアスには話すだなんて。

 キューティアに話してもらったとしても、荷が重すぎてどんな言葉を伝えればいいかは分からなかった。けれど、やはりバトレアスと同じように、クーリアはそれだけの力を宿すに足る実力を持っている、とは言えた。

 だけど、やはりキューティアは自分に実力がないから、まだ話せる相手ではないと思われたのではないだろうか。

 だとすれば、やるべき事は決まっている。デュエルを学んで、浄化の力も向上させて、クーリアに認めてもらえるようになるのだ。

 


 

キューティア「クーリア様の太もも、ふかふかしてとても寝心地よかったですよ〜」

クーリア「……ア、アリガト」

バトレアス(クーリア様、あれは褒め言葉、悪意のない紛うことなき褒め言葉です!)

キューティア「バトレアスさんもどうですか?」

バトレアス「絵面的にアウトです」




これにて、一章が終了した形です。
二章からは書き上がり次第投稿してまいりますので、お待ちいただければ幸いでございます。
オリジナルカードに関しては、次章から登場します。

何卒よろしくお願いいたします。
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