ヘレボラスとデュエルをするのは、屋敷の裏手にある雪でできた舞台だ。しかしその周囲には結界と思しき光の輪が広がっており、今なお吹き荒れる吹雪は魔法のように遮断されている。おまけに冷気も感じないし、先ほどいた屋敷の中と同じぐらいの温かさだ。
「頑張って、ヘレボラスさん」
「応援してるよー!」
「ありがとうございます」
ヘレボラスがデュエルをする事は、六花の他の皆にも話がされていたらしく、先ほどお茶を運んでくれたボタンや、他の六花の仲間たちが訪れていた。そんな皆から励ましの言葉を受け取り、ヘレボラスは微笑む。
ただ、「六花」には今この場にいる「六花精」の6人だけでなく、「六花
すると。
「バトレアスさん」
俺はスノードロップに話しかけられた。言葉を掛けるべきはヘレボラスの方だとは思うが、どうしたのだろうか。
「奇妙な質問ですが、あなたの腕は如何ほどのものでしょうか?」
「ええと……」
「そこそこ強いと思うわよ? だって、あたしたちのところに来た侵略者を追っ払ったんだもの」
「あら、それは心強いですね」
相変わらず自分の腕をどこまで強いか明言できないが、ドリーミアの言葉を聞くとスノードロップは頷く。
「であれば、私とほぼ同じぐらいの腕とみてよろしいでしょうか」
「……多分、大丈夫かと」
俺と同じく、不躾な侵略者をデュエルをもって退けたスノードロップ。単純に考えれば、強さは互角としてもいいのかもしれない。
「して、そのデッキは今も?」
言われて、この世界に来てからまだデッキを確認していない事に気づいた。何せ、こちらの世界に飛んだ直後、猛吹雪やその他のゴタゴタがあったものだから。
なので、改めてデッキを確かめてみて、少しだけ緊張感が生まれる。
やはりドレミ界の外だから、デッキは【ドレミコード】ではない。けれど、戦闘面に関しては中々に優れたデッキで、生前所持していたビートダウン系デッキの中でもそれなりのパワーがある。
だが、使うカード次第では相手の――ヘレボラスの心を挫いてしまうのではないかと思うようなカードも入っていた。
「……その、侵略者とのデュエルで戦ったものとは違います。けれど、戦うには申し分ないかと」
「なるほど。では一つお願い、というより約束があります」
改まってスノードロップに言われて、身体に力が入る。
ヘレボラスに対してではなく、俺に約束とはどういう事だろう。
「全力で、ヘレボラスと戦ってください」
単純で、だからこそ色々な意味に取れる願い事だった。リハビリだからと、こちらが手を抜かないように釘を差してきた、わけではなさそうだ。
「先ほども伝えましたが、ヘレボラスには私たちを……この世界を守るために、戦う力をつけてもらいたい」
「はい」
「あの子に自信を取り戻してほしいのは確かですが、これから先皆を守るためには、生半可な意思では難しいでしょう。ですから、実力者とのデュエルで心が強くなれるよう、貴方には全力で勝利を狙っていただきたいのです」
獅子は我が子を千尋の谷に落とす、という言葉を思い出す。本当に深い愛情を持つ相手に、わざと厳しい試練を課すという奴だ。
その試練になってほしいと、スノードロップは俺に言っている。
ただ一つ、こちらからも言っておくべきだろう事もあった。
「……違ったらそれでいいんですが、ヘレボラス様の使うデッキは【六花】でしょうか?」
「その通りです」
「……『六花』のカードについては、こちらも知っているんですが……よろしいんですか?」
吹雪の中でスノードロップの正体にすぐ気づいたのも、ボタンやヘレボラスが自分から名乗る前に名前を知っていたのも、全ては俺が【六花】を組んでいた事があるからだ。効果も【シャドール】や【聖刻】の時みたいなうろ覚えではなく、ほぼ全て把握している。
だから正直、この勝負はアンフェアではないか。そう思って聞いてみたが。
「件の侵略者との戦いで、私も【六花】を使用しました。デッキの中身は、ヘレボラスとほぼ同じです」
「?」
「もしもまた、あの侵略者がここへ来たら、今度は向こうも戦法を知った上で戦うでしょう。それに限らずとも、戦いにおいて戦法が相手に知られてしまっているのはざらにあります。それを踏まえてのデュエルであれば、より一層緊張感を持って戦う事でしょう」
今はドレミ界も侵略者の襲撃が一度で済んでいるが、また来るとも限らない。そしてその時は、こちらの【ドレミコード】の戦術を知られたうえで戦う事になる。確かに、よくある話だ。
環境でも、マスターデュエルでもそうだ。強いテーマやデッキは多くのプレイヤーが真似し、ベースになる動きや戦術も知られ、対策も取られやすくなる。それをフェアじゃないと言えるかどうかは微妙だ。
その言い分を理解し、ヘレボラスには申し訳ないと思いつつも、頷く。
「……承知しました」
「よろしくお願いいたしますね」
最後ににこっと、釘を刺すような笑顔を向けると、スノードロップはヘレボラスの下へと歩いていき、言葉を交わす。
それを見ていると、ドリーミアが袖を引っ張ってきた。
「どうされました?」
「えっと、その……気を付けて」
「……ありがとうございます」
応援するわけではなく、身の安全を願う言葉。ヘレボラスの境遇もあり、どちらを応援すべきかは迷っているのだろう。それでも、身を案じる言葉を投げてくれるだけで十分だ。
「バトレアス様」
最後にヘレボラスが歩み寄ってきた。表情は、最初にここへきた時と比べたら多少明るいが、デュエルを前に緊張しているのは確かだ。
「スノードロップ様から伺っているとは思いますが……よろしくお願いいたします。私も全力で、あなたと戦いますから」
「……承知いたしました」
こちらが全力で挑む事は聞いているらしい。それでもなお、デュエルで受けた心の傷がまだ完全に治ったとも限らないのに、俺と戦う事を選んだのだから、ヘレボラスも根っこの部分は強いらしい。
そんな彼女の助けに少しでもなれるよう、俺は一礼をした。
六花の皆がフィールド外に捌け、ドリーミアも彼女たちに合流する。残った俺とヘレボラスは、距離を取ってデュエルディスクを展開した。ヘレボラスのデュエルディスクは、薄紫色なのを除けば、スノードロップと同じ形状のものだ。展開されたモンスターゾーンは、雪の結晶を並べたような形だ。
そして、お互いにデュエルディスクを構えて。
「「デュエル!」」
バトレアス LP4000
VS
ヘレボラス LP4000
デュエルディスクが後攻を示し、最初の5枚をドローする。カード自体は悪くないが、ちょっとばかり頭を悩ませる手札だ。
それはともかく、先攻はヘレボラス。【六花】の動きはおおよそ把握しているが、同時に先攻を取らせるとまずい事も分かっている。
「わ、私の先攻です。私は《六花のひとひら》ちゃんを召喚!」
フィールドに白い花が咲き、その中心に白い小さな妖精が姿を現す。【六花】の核ともいえるキーカードだ。
六花のひとひら
ATK0 レベル1
「ひとひらちゃんは1ターンに1度、デッキから他の『六花』と名のつくモンスター1体を選んで、手札に加えるか墓地へ送る事ができます。ただしこのターン、私は植物族モンスターしか特殊召喚できません。私は《六花精スノードロップ》様を手札に加えます」
こちらの手札には妨害できるカードがない。なので、このターンは展開を見届けるしかなかった。
「手札のスノードロップ様は、フィールドの植物族モンスター1体をリリースする事で、他の植物族モンスター1体と一緒に手札から特殊召喚できます。よって私はひとひらちゃんをリリースして、手札のスノードロップ様と《六花精シクラン》ちゃんを特殊召喚!」
ひとひらがこちらに向けて手を振りながら姿を消し、新たに2体のモンスターがフィールドに現れる。先ほども話をしたスノードロップと、薄紫のロングヘアにピンクの洋服を着る少女・シクランだ。
六花精スノードロップ
DEF2600 レベル8
六花精シクラン
ATK1800 レベル4
「さらにスノードロップ様の効果を発動! 自分フィールドの全ての植物族モンスターのレベルを、対象のモンスター1体と同じにします。私が対象に選ぶのはレベル8のスノードロップ様!」
防御姿勢を取っていたスノードロップが氷の傘を軽やかに振ると、シクランを青白いオーラが覆った。
六花精シクラン
レベル4→8
「あっという間にレベル8のモンスターが2体……」
ドリーミアも驚いているが、これだけの速さで高レベルモンスターを2体も揃えるテーマはそれなりに限られる。しかも、スノードロップのように任意のレベルに変えられるのならなおさらだ。
「私はレベル8のスノードロップ様とシクランちゃんでオーバーレイ!」
ヘレボラスが手を挙げると、2体の六花精が水色の光となって天に舞い上がった。
「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」
地面に広がる銀河のような渦に2つの光が吸い込まれると、青白い光が放たれた。
「白雪に滴り落ちる涙一粒。慈悲深き青女へと、今結実せよ!《六花聖ティアドロップ》様!!」
光の中から現れたのは、寒色系のドレスに薄水色のヴェールを被る、白いロングヘアの女性。ブーケを手にしたその姿は、全体的にウェディングドレスを着た花嫁のようだ。
六花聖ティアドロップ
ATK2800 ランク8
「カードを2枚伏せてターンエンドです」
《六花聖ティアドロップ》が1ターン目に出てくる事はざらにあるため、驚きはしない。それに、「六花」の厄介なフィールド魔法を使われなかったので一安心だ。
「俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードを見る。
初手にモンスターカードはなく、今ドローしたカードも魔法カード。決して魔法・罠カードの比率がモンスターより多い訳では無い――むしろ割合的には五分五分だ――が、これはついていない。とはいえ十分展開できる手札なのだから不思議だ。
「カードを1枚伏せる。そして永続魔法《
1枚をセットしてから別のカードを発動すると、砲台や投石器、何に使うのか分からない歯車などで武装された石造りの砦が背後に出現した。フィールド魔法でないのに、大がかりな演出に六花たちは驚いている。
「このカードがフィールドにある限り、召喚・特殊召喚された『アンティーク・ギア』はそのターン中、相手の効果では破壊されず、相手はそれらを効果対象にできない。そして、『アンティーク・ギア』の効果の発動に対し、相手は効果を発動できない」
「う……」
ヘレボラスが唇を噛む。
ティアドロップの効果は確かに強力だが、モンスターを対象に取る効果。それをできなくさせれば、1ターンでもモンスターを保てる。さらにチェーンできなくする事で、より展開を円滑に進められる。
このデッキ……【アンティーク・ギア】は攻撃に滅法強い。だからこそ、召喚されたターンに即座にリリースされるのは避けたかった。
「さらにフィールド魔法《
続けて発動したフィールド魔法は、その名の通り歯車のデザインがふんだんに組み込まれた西洋風の街並みで、さらに場を彩る。
とはいえ、このフィールド魔法は単なる布石だ。
「魔法カード《
一瞬で歯車の街が崩壊し、瓦礫の中からモンスターが姿を現す。歯車と銅板で構成された、機械仕掛けの小型のドラゴンだ。
古代の機械飛竜
ATK1700 レベル4
「さらに破壊された《歯車街》の効果を発動。手札・デッキ・墓地から『アンティーク・ギア』を1体特殊召喚できる。俺はデッキから《
瓦礫が消え去り、大きな歯車を背負った小型のロボットがてくてくと歩きながら姿を見せた。
古代の歯車機械
DEF2000 レベル4
「特殊召喚した飛竜の効果発動。デッキから自身以外の『アンティーク・ギア』カードを1枚手札に加える。ただしこの効果を発動したターン、俺はカードをセットできない」
手札に加えたカードを公開して、残り2枚のカードを手にする。
「永続魔法《
要塞の上部に、大槍を備えた城門や大砲で武装した城が出現する。本来なら城は要塞の中もしくは別の場所にあると思うが、少しばかり奇妙な光景だ。
古代の機械飛竜
ATK1700→2000
古代の歯車機械
DEF2000 / ATK500→2000 / 800
「さらにもう1枚の永続魔法《冥界の宝札》を発動。モンスターを2体以上リリースしてアドバンス召喚した場合、カードを2枚ドローする」
「では私は速攻魔法《魔力の泉》を発動! 相手の表側表示の魔法・罠カードの数だけドローし、私の場の表側表示の魔法・罠カードの数だけ手札を捨てます。この発動後、次の相手のターン終了時まで、あなたの場の魔法・罠カードは破壊されず、発動と効果が無効になりません」
「ほう」
「あなたのフィールドで表側の魔法・罠カードは3枚。そして私の場は《魔力の泉》だけ。よって私はカードを3枚ドローし、1枚を捨てます」
ヘレボラスは一気に3枚ドローし、捨てたのは《水霊術-「葵」》。実質的には3:2交換だから、中々使いどころがよかったと言える。
ただ、2ターンの間こちらの魔法と罠が妨害されないのはヘレボラスからすれば結構なデメリットだと思う。とはいえ、こちらも《古代の機械要塞》がなければ《古代の機械射出機》の効果にチェーンして発動され、《歯車街》を破壊できず展開を止められた事にもなる。紙一重とはまさにこの事だ。
いきなり手札を2枚増やされたのは驚いたが、こちらの展開は止まったわけではない。
「俺は飛竜と歯車機械をリリースし、《
2体のモンスターが消え、フィールドに機械仕掛けの巨大な竜が出現する。胸には赤く光り輝くコアが取り付けられ、脚の部分には槍が2本装備されていた。
古代の機械熱核竜
ATK3000→3300 レベル9
「《冥界の宝札》の効果で、カードを2枚ドローする」
「ティアドロップ様の効果発動! モンスターがリリースされる度に、1体につき200ポイント攻撃力がアップします!」
六花聖ティアドロップ
ATK2800→3200
【六花】は【聖刻】と同じくリリースする事が重要なテーマ。アドバンス召喚はリリースが必要なため、正直【アンティーク・ギア】との相性は悪い。
「《古代の機械城》はモンスターが召喚される度にカウンターが1つ置かれる」
要塞の上に立つ城の窓の内の1つに、明かりが灯った。あれがカウンターの意味を成しているらしい。
古代の機械城
カウンター0→1
《冥界の宝札》でドローしたカードを見る。1枚は、このターンに発動すれば勝利も狙えるカードだった。
しかし、気になるのはヘレボラスの伏せカード。未だ発動する気配がないが、熱核竜の効果があれば攻撃は妨害されない。それに、スノードロップからは全力で勝利を戦ってほしいと言われているが、勝負を急げとは言われていない。ここは温存しておくべきだ。
「熱核竜は、『アンティーク・ギア』をリリースしてアドバンス召喚した事により、守備モンスターを攻撃した時貫通でダメージを与える。そして『ガジェット』をリリースしてアドバンス召喚した事で、相手モンスターを攻撃で破壊した場合、もう1度攻撃ができる」
熱核竜の効果に、ヘレボラスは勿論観ている皆も戦々恐々とした。さらに熱核竜は攻撃時、相手のモンスター効果および魔法・罠カードの発動を禁止させ、攻撃が成功したら相手の魔法・罠カード1枚を破壊できる。攻撃に特化したモンスターなのだ。
「バトル――」
「バトルに入る前に、永続罠《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》発動! このカードがフィールドにある限り、レベル4以上のモンスターは攻撃できません!」
「っと……」
発動した《グラヴィティ・バインド》のカードから大きな網が放たれ、熱核竜に絡みつく。翼を強引に閉じられて、首も下を向かせられ、これではどうする事もできない。
【六花】はエクシーズモンスターを主軸に戦う事が多いから、《グラヴィティ・バインド》の影響はほとんど受けない。対してこの【アンティーク・ギア】は高レベルモンスターでの攻撃が十八番だから、それを封じられてしまったわけだ。
さっきの《冥界の宝札》でドローした2枚のカードを見る。どちらも優秀なカードで、これらを使えばさらにモンスターを1体呼べる。しかし、次のターンを手札0の状態で始めなければならない。
まだデュエルは始まったばかり、【六花】は搦手に定評があるが焦る必要もないはずだ。
「ターンエンド」
「このエンドフェイズに、墓地のひとひらちゃんの効果を発動! 私のフィールドのモンスターが、存在しないか植物族モンスターのみの場合、特殊召喚できます!」
ティアドロップのすぐそばに小さな魔法陣が現れ、その中心に白い花が咲き白い妖精が姿を見せる。それを横目にティアドロップは微笑んだ。
六花のひとひら
DEF0 レベル1
「そして、ティアドロップ様の効果も終了します」
六花聖ティアドロップ
ATK3200→2800
「私のターン、ドロー!」
こちらの攻撃を防いだ事でヘレボラスも調子が上がってきたらしい。声に勢いが乗っている。
「ひとひらちゃんの効果発動。デッキから《六花精ボタン》ちゃんを手札に加えます。そして、このボタンちゃんは私のフィールドの植物族モンスター1体をリリースする事で特殊召喚できます。ひとひらちゃんをリリースして、ボタンちゃんを守備表示で特殊召喚!」
手を振って姿を消すひとひら。入れ替わるように、お団子頭のボタンが、ダンサーのように一回転しながら現れた。
六花精ボタン
DEF2400 レベル6
「ボタンちゃんが特殊召喚した事で効果を発動。デッキから『六花』と名のつく魔法・罠カードを1枚手札に加えます。さらに私の植物族モンスターがリリースされた事で、ティアドロップ様、手札の《六花精プリム》ちゃんの効果発動! プリムちゃんを自身の効果で守備表示で特殊召喚、そしてティアドロップ様の攻撃力がアップ!」
六花精プリム
DEF1800 レベル4
六花聖ティアドロップ
ATK2800→3000
立て続けに発動する「六花」たちの効果。新たに現れたのは、薄いピンク色のツインテールに紫の洋服を着た少女。見た目からしてシクランよりやや幼げだ。
そしてこのターンも、有用なカードが手札にないため展開は許してしまう。
「ボタンちゃんの効果で、私はデッキから《六花来々》を手札に加えます」
手札に加えたカードを聞き、内心で舌打ちする。そのカードは、使った事がある身として非常に厄介なのを知っていた。
「プリムちゃんの効果を発動。自分フィールドの植物族モンスターを2体まで対象とし、そのレベルを2つ上げます。私はプリムちゃん自身を対象にします!」
六花精プリム
レベル4→6
「今度はレベル6のモンスターが2体……!」
「レベル6のボタンちゃんとプリムちゃんでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
レベルを上手く操って揃える技にドリーミアが驚く前で、ヘレボラスが再び天に腕を伸ばす。2体の六花精は水色の光となって、地面に現れたエクシーズの渦へと飛び込んだ。
「温順なる光輝の花弁よ、玉屑の下に咲き誇らん!《六花聖カンザシ》様!!」
舞い散る粉雪と共に現れたのは、紅色の振袖と焦茶色の袴を纏う女性。黒いボブカットヘアに、赤い花の髪飾りが付けられていた。
六花聖カンザシ
ATK2400 ランク6
「そして、ティアドロップ様の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、フィールドのモンスター1体をリリースします。私は熱核竜をリリース!」
ティアドロップの手の中にあるブーケに、周囲を漂うオーバーレイ・ユニットの一つが吸い込まれる。すると、ブーケが淡い色を放ち始めた。
六花聖ティアドロップ
ORU2→1
ティアドロップがそのブーケを天に放り投げると、群青、水色、白の花びらが雨のように熱核竜へと降り注ぐ。花びらが張り付いた熱核竜は瞬く間に凍り付き、氷が砕けるように崩れ落ちる。何とも、もの悲しくなる光景だった。
「モンスターがリリースされた事で、ティアドロップ様の攻撃力がさらにアップ!」
六花聖ティアドロップ
ATK3000→3200
「これで、バトレアスさんのフィールドはガラ空き!」
「いけるよ、ヘレボラスー!」
こちらのフィールドを見て、デュエルを観戦するシクランとボタンが表情を明るくする。こちらのライフはまだ4000だが、2体のエクシーズモンスターの攻撃を食らえばあっという間に尽きてしまう。
「バトルです! カンザシ様で、ダイレクトアタック!」
「永続罠《
カンザシが手に持つ傘を構えたところで魔法陣が出現し、その中から先ほど破壊された機械仕掛けの竜が飛び立った。
古代の機械熱核竜
ATK3000→3200→3500 レベル9
熱核竜を見上げて、カンザシは構えた傘を仕舞う。攻撃は中止のようだ。
「ティアドロップ様で熱核竜を攻撃!」
「え、攻撃力はそっちが下なのに……」
一見自滅を狙った行動にドリーミアが驚くが。
「この瞬間、手札の《六花精エリカ》ちゃんをリリースして効果発動! 私の植物族モンスターがバトルする攻撃宣言時、手札またはフィールドからリリースする事で、その植物族モンスターの攻撃力をターンの終わりまで1000ポイントアップします!」
ティアドロップの背後に、大正ロマンを感じさせる桃色の和装に身を包んだ、栗色のロングヘアの女性が半透明の状態で現れ、ティアドロップに手を差し伸べる。
六花聖ティアドロップ
ATK3200→4200
「さらにモンスターがリリースされた事で、ティアドロップ様の攻撃力がアップ!」
六花聖ティアドロップ
ATK4200→4400
「お願いします、ティアドロップ様! 神葬の不香花!!」
ティアドロップが雪の結晶を模した傘を天に放り投げると、勢いよく回転しながら巨大な雪の結晶をいくつも放つ。熱核竜は翼で防ごうとしたが、翼や胴体、尻尾を雪の結晶が容赦なく切断し、ついには爆散した。
「くっ……」
バトレアス LP4000→3100
「やった、先制ダメージ!」
プリムが声を上げて喜ぶ。他の六花たちも嬉しそうで、完全アウェーな感じがしてつらい。黄色い歓声を浴びたいわけではないけども。
「メインフェイズ2で、フィールド魔法《六花来々》を発動!」
ついに発動してしまったフィールド魔法。
その瞬間、どんよりとした雲が消え、わずかな陽の光が滲む雲が広がり、雪の勢いもしんしんと穏やかなそれになる。先ほどまで猛威を振るっていた吹雪とは大違いだ。
「このカードは1ターンに1度、私の場に『六花』モンスターが存在する場合、デッキから『六花』と名のつく魔法・罠カードを1枚セットできます。私は《六花深々》をセット。さらにカードを1枚伏せてターンエンドです。ティアドロップ様とエリカちゃんの効果が終了し、攻撃力は元に戻ります」
六花聖ティアドロップ
ATK4400→2800
発動されてしまった《六花来々》。毎ターンデッキから他の「六花」魔法・罠カードをセットできるだけでも十分強いが、1ターンに1度だけ「六花」カードの効果を発動する際に必要なリリースを相手フィールドから利用する効果もある。完全耐性持ちだろうと、コストとして容赦なくリリースするその効果はこちらの戦いをより考えさせるものだ。
「俺のターン、ドロー!」
そんなところで引いたのは、ありがたい事に《サイクロン》。すぐにでも《六花来々》を破壊したいところだが、一度思い留まる。
ヘレボラスの場には《グラヴィティ・バインド》もあるのだ。あれがある限り、レベル4以上のモンスターで攻撃できない。このデッキでレベル3以下のモンスターはいずれも攻撃が不向きだし、レベルを持たないモンスターはリンクモンスターが数体だけ。攻撃を重視するのなら、《サイクロン》は《グラヴィティ・バインド》に使う方がいい。だが、それでは《六花来々》の効果でこちらのモンスターをリリースされてしまう。
ちらと、手札を見る。前のターンの《冥界の宝札》でドローしたカードの内1枚は、強力なモンスターを呼び出せるカード。《六花来々》を破壊してそのモンスターを呼び出せれば、《グラヴィティ・バインド》に引っかかる事なく攻撃ができる。
ただし、使うと相手にトラウマを植え付けかねないモンスターだ。
「バトレアス?」
展開を悩み、動きが止まったのを疑問に思ったのか、ドリーミアが声をかけてくる。そちらを見たところで、ドリーミアの隣りにいるスノードロップと目が合った。そしてこちらを見て、黙って微笑む。
――全力で、ヘレボラスと戦ってください
その言葉を思い出して、腹を決めた。
「速攻魔法《サイクロン》発動!《六花来々》を破壊!」
フィールドに竜巻が現れ、《六花来々》のカードを破壊すると、天気は先ほどと同じ猛吹雪に戻った
「《グラヴィティ・バインド》を破壊すれば、自由に攻撃できるようになるのに……」
ドリーミアが不可解そうに告げるし、この選択には六花たちも首を傾げていた。しかしその答えはこのターンに示す。
「《古代の機械蘇生》の効果を発動。墓地の飛竜を特殊召喚!」
古代の機械飛竜
ATK1700→1900→2200
「特殊召喚した飛竜の効果でデッキから《
《古代の機械要塞》の壁からスピーカーが出てきて、サイレンが鳴り響く。すると魔法陣がフィールドに現れ、《古代の歯車機械》がひょっこりと姿を現した。
古代の歯車機械
DEF2000 レベル4
「そして俺はこの飛竜と歯車機械をリリースして、《古代の機械巨人》をアドバンス召喚!」
2体のモンスターが消え、新たに現れるのは文字通り機械仕掛けの巨人。その姿は、ティアドロップたちを圧倒するほどだ。
古代の機械巨人
ATK3000 レベル8
「《冥界の宝札》の効果でカードを2枚ドロー!」
「ティアドロップ様も効果発動! リリースされたモンスター2体分、400ポイント攻撃力がアップします!」
六花聖ティアドロップ
ATK2800→3200
「そしてカンザシ様の効果発動! モンスターがリリースされた時、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、自分か相手の墓地からモンスター1体を特殊召喚します。この効果で特殊召喚したモンスターは効果が無効になり、植物族になります」
六花聖カンザシ
ORU2→1
カンザシが傘を振り、自分の周りを漂うオーバーレイ・ユニットのひとつに当てる。すると傘が輝き始め、フィールドに魔法陣が現れる。そこから現れたのは、パーツの至る所が凍り付き、胴体や翼に蔦が巻き付いた熱核竜だ。
古代の機械熱核竜
ATK3000→3300 レベル9
「モンスターを召喚した事で、《古代の機械城》にカウンターが1つ置かれる」
古代の機械城
カウンター1→2
この《古代の機械城》のパンプアップはフィールド全域に及ぶ。だから、ヘレボラスの場に特殊召喚された熱核竜もその効果を受けてしまうのだ。
だが、次のターンまで残しておくつもりはない。ドローしたカードとは別の、残りの手札に手をかける。
「魔法カード《
「デッキのモンスターで……融合……っ!」
その発動した効果に、ヘレボラスが苦虫を噛み潰したような顔をした。デッキのモンスターを融合素材にするカードは、今日日珍しくもない。だが、ヘレボラスの表情は他にも思うところがあるかのようだ。
ともかく、こちらも融合素材にするモンスターをデッキから選ぶ。これから呼び出すモンスターを思うと、自分でも分かるほど心臓が高鳴った。
「俺はフィールドの《古代の機械巨人》と、デッキの《
フィールドに巨大な融合の渦が現れ、機械仕掛けの4体のモンスターが吸い込まれる。
「古の魂受け継ぎし機械仕掛けのつわものたちよ。歴戦の歯車を集わせ、混沌を御する比類なき力へと進化せよ!」
アニメでもこのモンスターが呼び出される際には、召喚口上があった。それとは融合素材が異なるし、またデュエルの目的も全く違うからこそ変えておく。
「融合召喚!《
分厚い雲を引き裂き、吹雪の中から巨大なモンスターが姿を現す。肩や足、両腕に犬の頭を模したパーツが取り付けられ、顔の部分には真っ赤に輝く目玉のような光が宿る機械仕掛けの巨人だ。その大きさは山と見間違うほどで、一歩踏み出す度に地響きを起こし、近くの木に積もった雪を落とす。
古代の機械混沌巨人
ATK4500 レベル10
「おっきい……」
「攻撃力4500……!」
現れたモンスターを見上げて、プリムやヘレボラスが震えている。
この《古代の機械混沌巨人》は、アニメではARC-Vに登場し、デュエルでも使用されたのだが、「エクシーズ次元」というひとつの世界を壊滅させた破壊兵器としても使われている。そんなカードを、同じくエクシーズ主体の【六花】に対して使うのは、些か心苦しい。
だが、俺は人やモノを傷つけるつもりでこのカードを使ったわけではない。
「《古代の機械混沌巨人》は、魔法・罠カードの効果を受けない。そして守備表示モンスターを攻撃した場合、貫通で戦闘ダメージを与える。つまり、《グラヴィティ・バインド》の効果は通用しない」
「!」
「よって、バトルだ! 混沌巨人で熱核竜を攻撃!」
混沌巨人がまた一歩踏み出し、地響きで体がわずかに浮く。あまりに巨大なもので、腕や脚を動かす度に鳴るパーツの駆動音が、化け物の鳴き声のように聞こえた。
そして混沌巨人の巨大な右腕が放ったパンチは、熱核竜を一撃で粉砕する。元はこちらのモンスターだが、ひどい扱いをさせてしまって申し訳ない。
「ぐっ……!」
ヘレボラス LP4000→2800
「さらに混沌巨人は、相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。よって、今度はカンザシを攻撃!」
「なっ……それなら、ティアドロップ様の効果でカンザシ様を――」
「混沌巨人がいる限り、相手はバトルフェイズ中にモンスター効果を発動できない!」
「そんな……!?」
ヘレボラスは、ティアドロップの効果でカンザシをリリースし、ダメージを軽減しつつティアドロップの攻撃力を上げるつもりだった。しかしそれすらも許さずに、混沌巨人が右手でカンザシを軽く小突く。見かけによらない攻撃だが、ダメージ量はすさまじい。
「きゃっ……!」
ヘレボラス LP2800→700
「ヘレボラスさん!」
破壊された衝撃で後ろに下がるヘレボラス。ライフはあっという間に1000を切った。試合を観戦していたエリカが叫ぶ。
「混沌巨人で、ティアドロップを攻撃!」
混沌巨人の右手にあたる、犬の頭を模した腕が開くと、青白いエネルギーが蓄えられ始める。アニメでも披露されたビーム砲だ。
「ティアドロップ様だけは守る……!《ハーフ・アンブレイク》発動! ティアドロップ様はこのターンバトルで破壊されず、そのバトルで受ける戦闘ダメージも半分になる!」
懐かしさを覚える罠カードが発動すると、ティアドロップがそのカードから生み出された泡に包まれる。
それと同時に、混沌巨人がビーム砲を撃った。ティアドロップは泡によって守られるが、攻撃の勢いは今まで以上にすさまじく、その後ろにいたヘレボラスを吹き飛ばしてしまった。
「く、あああああああああああっ!!」
ヘレボラス LP700→50
地面に背をつけるヘレボラス。
それでも何とかゆっくり体を起こすが、その目は恐怖や怯えに染まってしまっていた。