ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第24話:竜破壊の剣士

 遊戯王の黎明期から存在する戦士族モンスター。相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターに応じて攻撃力が上がる効果を持つ、通称「ドラゴン絶対許さないマン」。

 そんな《バスター・ブレイダー》が、何故ドレミ界にいるのか。その理由は、俺にはおおよそ見当がついてしまう。

 

「あれは……」

 

 その姿はミューゼシアとグレーシアも認識したようだが、ドレミ界という他とは違うこの世界に何故、どうやって来たのかは分からないのだろう。

 あちらも俺たちの事は見えただろうが、バスター・ブレイダーは歩調を変えず屋敷へと歩いてくる。同伴者はおらず、その身ひとつでドレミ界を闊歩していた。

 

「……失礼、そこで止まっていただきたい」

 

 俺は先んじて扉の前に立ち、声を掛ける。するとバスター・ブレイダーは、ゆっくりと足を止めた。話を聞く意思はあるようで、ひとまずは安心する。

 ミューゼシアとグレーシアが俺の両脇に立ったところで、バスター・ブレイダーは右手を胸に、お辞儀をした。

 

「突然の訪問失礼する。私の名はバスター・ブレイダー、悪竜を滅する事を目的に各地を渡っている」

 

 礼儀正しく挨拶をするあたり、黒い鎧の侵略者とは全然違う。少なくとも、あれよりはまともなコミュニケーションが取れそうだ。

 そこでミューゼシアが、さらに一歩前に出る。

 

「お初にお目にかかります、バスター・ブレイダー殿。私はこのドレミ界を統治するミューゼシアと申します」

 

 ミューゼシアは普段、このドレミ界の上の天界にいる。だが、ドレミコードの浄化の旋律を作っているのは彼女だし、こちらとの出入りも自由だ。だからあながち、統治しているというのも間違いではない。クーリアはドレミ界を治めるというより、ドレミコードの皆を率いるリーダーだ。

 さて、恭しく挨拶をするミューゼシアだが、警戒は解いていないらしい。

 

「バスター・ブレイダー殿。こちらへはどのようなご用件でいらしたのでしょうか?」

「単刀直入にお聞きする。先ほどこちらに、傷を負った鎧の女戦士が迷い込みはしなかっただろうか?」

 

 いきなり核心を突いてきた。

 そしてこちらの空気の変化を、バスター・ブレイダーは敏く感じ取ったらしい。それだけで、いると確信を得たようだ。

 

「私からの要望はただひとつ。その女戦士の身柄を引き渡していただきたい」

「……彼女とはどのような関係なのでしょうか?」

 

 もはや隠し通せないと思ったのか、ミューゼシアが女戦士を引き取った事だけは認める。だが、未だバスター・ブレイダーと鎧の女性の関係は不透明だ。雰囲気的に仲が良さそうではないから、はいそうですかと求めには応じられない、とミューゼシアも判断したようだ。

 

「それに関して詳しく説明をする義務は、こちらにはない」

「では、あなたはどのようにしてこちらの世界を発見できたのでしょうか?」

「こちらにも相応の力があるとだけ、答えさせてもらおう。とにかく、()()()になる前に彼女を引き渡していただきたい」

 

 詳しく説明をしない。それで今しがた来た怪我人の身柄を渡すなど、それこそ危険だ。

 ただ、《龍角の狩猟者》の末路を知っている俺からすれば、竜を狩るバスター・ブレイダーが彼女を狙っている理由も分かってしまう。ドレミ界の場所を特定して侵入できた理由までは分からないが、兎に角それを口にすると、話がこじれてしまいそうだから今は言わないでおく。

 

「それでしたら、お引き取り願いましょう。彼女は大けがを負っておりまして」

 

 そしてミューゼシアは、バスター・ブレイダーに彼女を引き渡せばあまりよくない事が起きると考えたようだ。それに、あの狩猟者は怪我をしており、移動させるのには危険が伴う。

 しかしながら、バスター・ブレイダーは退かなかった。

 

「回復させるのは勧めない。全快した彼女がどのような事態を招くかも分からないぞ」

「まるで彼女が悪人であるような言い方をしますね。けれどいずれにせよ、ここはドレミ界です。保護したのはこの世界に住む我々ですので、あなたの意見は参考には致しますが、詳細を語らないあなたの指示に従う義務もありません」

 

 悪人、という言葉に俺も少し胸が痛む。

 恐らくだが、今はまだ《竜角の狩猟者》は引き返せる。だけど俺が知っている彼女のストーリーでは、彼女はいずれ悪人になってしまう。いや、「人」ですらもなくなってしまうのだから、バスター・ブレイダーが危惧している事もあながち間違いではない。

 ただし、ミューゼシアの言う通りここはドレミ界だ。詳しい説明もなく入り込んできた輩に、ドレミ界側で保護した人物を簡単に明け渡せと言うのは聞けない。

 何より、あの狩猟者をバスター・ブレイダーに引き渡せば、まず間違いなく彼女は殺されてしまう。あれだけの怪我をしているのも、恐らくはバスター・ブレイダーの手によるものだ。

 

「……では、失礼して」

 

 するとバスター・ブレイダーは、ミューゼシアの意見を聞き入れたかのように、一歩後ろへ下がる。

 しかし次の瞬間、バスター・ブレイダーが右腕をミューゼシアに向けて伸ばすと、その右手が赤く光ったのが見えた。

 

「危ない!」

 

 俺が咄嗟にミューゼシアの前に出て庇おうとすると、赤い縄のようなものが左腕に巻き付いた。

 すると、左腕につけていたデュエルディスクが勝手に展開され、スタンバイモードに入ってしまう。

 

「ふむ、反応のいい従者だ」

 

 バスター・ブレイダーはそう告げて、腰の後ろから短剣を引き抜き左腕に沿える。その短剣は、刃の部分が真っ二つに割れてデュエルディスクのような形に展開した。そして、俺の腕に巻き付いていた赤い縄は跡形もなく消え去るが、デュエルディスクは収納できない。

 恐る恐る、聞いてみた。

 

「デュエルアンカー……とかいう代物ですか?」

「その通りだ。それはデュエルが終わらぬ限り外れる事はない。無闇に外そうとすれば、左腕が弾け飛ぶぞ」

 

 つまりバスター・ブレイダーは、狩猟者を賭けてデュエルをするというわけだ。しかも不意をつく形で挑むとは、中々悪い性格をしている。

 そしてミューゼシアも、あまりに強引なやり方は承服できないらしく、再び俺の前に出る。

 

「バスター・ブレイダー殿。デュエルの相手は私が務めましょう。バトレアスのアンカーを解いてください」

「それはできない。このアンカーは、一度取り付けたらデュエルが終わるまで外す事は一切不可能。力ずくでやるならそれも結構だが、貴女は部下を隻腕にしたいと?」

「……」

 

 ミューゼシアの言葉は、バスター・ブレイダーに聞き入れなかった。何ともはた迷惑な代物を作ったものだ。ミューゼシアも、身勝手な言い分に対する怒りが表情に滲んでいる。

 そしてバスター・ブレイダーは、俺を見て続ける。

 

「私が勝てば、その女戦士の身柄を引き渡してもらう。しかし君が勝てば、彼女の事は自由にして構わない」

「……剣士に二言は?」

「ない」

「分かりました」

 

 その言葉をひと先ずは信じ、デュエルには応じる事にした。バスター・ブレイダーと距離を取り、始めようとしたところで、ミューゼシアは俺の肩に手を置いてきた。そして、つらそうな顔で耳打ちをする。

 

「……ごめんなさい、また貴方に負担を掛けてしまって」

「お気になさらず。皆さんを守るのも、自分の仕事のひとつですから」

 

 クルヌギアスの件を思い出す。あの時同様に俺がドレミコードに代わってデュエルをするが、クルヌギアスの時は俺の方から代わるように進言した。けれど今回は、意図しない形でのものである。

 それでも、ミューゼシアやクーリアを庇ってデュエルをするのは同じ。だが俺も言った通り、皆を守るのが仕事のひとつであり、この世界で自分ができる数少ない事のひとつだ。それについて文句などない。

 

「バトレアス、気を付けて」

「承知いたしました」

 

 そして、グレーシアも心配そうに俺を見て告げた。

 それに対して俺は笑い、バスター・ブレイダーと相対してデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

バトレアス LP4000

VS

バスター・ブレイダー LP4000

 

 貰ったのは後攻。そして初手の5枚を引いてみる。デッキは【ドレミコード】で、以前クーリアからカードを提供してもらったために構成は少々変わっているが、「ドレミコード」のペンデュラム召喚で攻める戦法は基本的に変わらない。最初の手札は可もなく不可もない感じだが、バスター・ブレイダーの初手に左右される。

 

「私の先攻。私は《破壊剣士の伴竜》を召喚!」

 

 ひらりと現れたのは、鳥のような翼をもつ小柄な白いドラゴン。なんというか、見かけによらないモンスターを使う。

 

破壊剣士の伴竜

ATK400 レベル1

 

「このカードを召喚した時、デッキから自身以外の『破壊剣』カードを1枚手札に加える事ができる。私は《破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー》を手札に加える。そして、この《破壊剣士の伴竜》をリリースし、効果を発動。手札または墓地から、我が分身《バスター・ブレイダー》1体を特殊召喚する!」

 

 《破壊剣士の伴竜》が可愛らしく鳴きながら姿を消すと、紺色の鎧に身を包んだ竜破壊の剣士が出現する。やはり、使うのは自分と同じ姿のモンスターか。

 

バスター・ブレイダー

ATK2600 レベル7

 

「さらに魔法カード《死者蘇生》で、墓地の《破壊剣士の伴竜》を特殊召喚!

 

 だが、リリースされた小さなドラゴンも、すぐさま発動された最強の蘇生札によってフィールドに蘇る。

 

破壊剣士の伴竜

ATK400 レベル1

 

「私はレベル7の《バスター・ブレイダー》に、レベル1の《破壊剣士の伴竜》をチューニング!」

「チューナーだったのか……」

 

 目の前で《破壊剣士の伴竜》が可愛らしい鳴き声を上げると、シンクロ召喚特有の光の環へと姿を変え、《バスター・ブレイダー》がその環へと飛び上がる。

 

「長き時の果てに、盟友たる伴竜は猛々しき巨竜へと進化する! シンクロ召喚! はばたけ、《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》!!」

 

 強烈な光とともに現れたのは、4本の腕を生やした、白が混じる紫色の体毛の巨大なドラゴン。翼の生え方は《破壊剣士の伴竜》と似ているが、それとは似ても似つかない大きさで、何よりも禍々しい。

 

破戒蛮竜-バスター・ドラゴン

DEF2800 レベル8

 

「このバスター・ドラゴンは1ターンに1度、私の場に『バスター・ブレイダー』と名の付くモンスターが存在しない場合、墓地の《バスター・ブレイダー》を1体特殊召喚する事ができる。甦れ、《バスター・ブレイダー》!」

 

 バスター・ドラゴンが吼えると、フィールドに魔法陣が出現し、先ほど墓地へ送られたばかりの《バスター・ブレイダー》が剣を構えた状態で復活した。

 

バスター・ブレイダー

ATK2600 レベル7

 

「そして魔法カード《手札抹殺》を発動。お互い手札を全て捨て、その枚数分だけドローする」

 

 このタイミングで手札交換。妙なタイミングだが、こちらに止める手段はない。

 バスター・ブレイダーは《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》と《破壊剣士の追憶》を捨てて2枚ドローする。一方の俺は、《ドドレミコード・キューティア》《ドレミコード・エレガンス》《マシュマロン》《禁じられた聖杯》《ドレミコード・フォーマル》を捨てて5枚ドロー。手札交換かデッキ破壊か、どう捉えるかは状況にもよるが、今回は前者と考えておく。初手よりも手札は少し良くなった。

 

「さらに、墓地の《破壊剣士の追憶》を除外して効果発動。私の墓地のモンスターを融合素材として除外し、《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》を融合召喚する」

「何?」

「そして墓地の《破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー》は、墓地にある時カード名を《バスター・ブレイダー》として扱う。よって、私はこの《バスター・ブレイダー》と《破壊剣士の伴竜》を除外し融合!」

 

 フィールドに出現した魔法陣から2体のモンスターが現れ、バスター・ブレイダーの頭上に現れた融合の渦へと吸い込まれる。

 

「勇猛なる剣士と頼もしき友の竜の力が合わさり、絶対無敵の力がここに覚醒する! 融合召喚! 現れよ、《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》!!」

 

 融合の渦がひときわ輝き、新たな剣士が降り立つ。《バスター・ブレイダー》と同じ紺の鎧をベースに、腰や肩には淡い金色の装甲が追加され、構えている剣の片側は伴竜の力が宿っているのか白く輝いている。

 

竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー

ATK2800 レベル8

 

「1ターンで融合モンスターとシンクロモンスターを……」

 

 上級モンスターを一気に並べたバスター・ブレイダーの手腕に、グレーシアは驚いている。とはいえ俺は、アロマの庭でラベンダーがやり方こそ違うものの1ターンで融合モンスターとシンクロモンスターを並べたのを既に見ているので、さして驚きはしない。

 

「そしてカードを2枚伏せてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 

 1ターン目で手札を全て使い切ったバスター・ブレイダー。

 俺も手札を見てみるが、この状況ならまだ挽回はできそうだ。とはいえ、理想的な展開は少しできそうにない。

 

「俺は《ファドレミコード・ファンシア》を召喚!」

 

 手札の状況的に、まずはファンシアを呼び出す。それからエクストラデッキに「ドレミコード」を加えてペンデュラム召喚できるモンスターを増やした方がいい。

 

ファドレミコード・ファンシア

ATK1600 レベル4

 

 だが、ファンシアが場に現れた途端、バスター・ブレイダーがファンシアを指差すと。

 

「バスター・ドラゴンがいる限り、君のフィールドのモンスターは全てドラゴン族となる」

 

 バスター・ブレイダーの声に合わせて、バスター・ドラゴンの目がギラリと光った。

 

『う、ぐ……あぁ……』

 

 ファンシアが呻いたと思ったら、背中から血のように赤い翼を生やし、手の爪が鋭く伸び、挙句の果てには竜のように巨大な口に鋭い目という悍ましい姿へ変貌してしまった。

 

「う……」

 

 その変わりように、グレーシアが口元を押さえる。普段は冷静沈着な彼女も、この姿は堪えるらしい。ミューゼシアも見ていて気持ちよくはないらしく、首を横に振っていた。俺自身も、普段は活発なファンシアがこのような姿にされてしまうのは、見ていてつらい。

 種族変更効果は、前世なら何度も直面する機会があった。さらに、ヘレボラスとのデュエルでは《古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)》を植物族にされたものの、その際は蔦が巻き付いた氷漬けの状態だったので、物悲しさは感じたものの不快感までは抱かなかった。

 けれど、この変わりようは流石にきつい。ドラゴン族になるからと言って、ドラゴンメイドのような可憐なドラゴン娘にはなってくれなかった。

 

「そして《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》がいる限り、君のフィールドのドラゴン族は全て守備表示となり、効果を発動できない!」

「!?」

 

ファドレミコード・ファンシア

ATK1600→DEF400

 

「さらに相手のフィールド及び墓地のドラゴン族1体につき、《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》は1000ポイント、《バスター・ブレイダー》は500ポイント攻撃力をアップする!」

 

竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー

ATK2800→3800

 

バスター・ブレイダー

ATK2600→3100

 

 バスター・ドラゴンとバスター・ブレイダーを組み合わせたロック戦術。非常に面倒な戦法を仕掛けられた。

 そして、この状況で守備モンスター1体のまま相手にターンを渡すのはかなり危険だ。ここは、見たくないものを見てでも展開を続けるべきだろう。

 

「俺はスケール3の《ラドレミコード・エンジェリア》と、スケール8の《ドドレミコード・キューティア》でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 フィールドの両端に光の柱が出現し、エンジェリアとキューティアがその光の中に宿る。モンスター扱いでない2人に種族変更効果は効かないため、その姿が変わる事はなかった。しかしエンジェリアとキューティアは、変わり果てたファンシアの姿を見て悲し気な顔をし、俺も胸が痛む。

 だがバスター・ブレイダーは、さらに動く。

 

「永続罠《ソウル・レヴィ》発動。このカードがフィールドにある限り、君がモンスターを特殊召喚する度に、君のデッキの上から3枚のカードを墓地へ送る」

 

 ロック戦術に加えてデッキ破壊。個人的に苦手な戦法を2つも立てられて、胃が軋むかのようだ。

 けれどこちらも、せめてものという形でカードを使う。

 

「永続魔法《魂のペンデュラム》発動。このカードは1ターンに1度、ペンデュラムゾーンに存在するペンデュラムカード2枚を対象とし、それらのスケールを1つ上下させる事ができる。俺はエンジェリアのスケールを1つ下げ、キューティアのスケールを1つ上げる!」

 

ラドレミコード・エンジェリア

スケール:3→2

 

ドドレミコード・キューティア

スケール:8→9

 

「これで、レベル3から8のモンスターが同時に召喚可能……」

 

 ペンデュラム召喚の準備は整った。

 けれど、手札に残る最後のモンスターを見て、申し訳なさと不甲斐なさ、そして恐怖を感じる。それでも、確実に戦うためにはフィールドに出すしかない。

 

「ペンデュラム召喚……《ドドレミコード・クーリア》!!」

 

 天空に空いた穴から降り立つ、流麗なるドレミコードのリーダー。普段は呼び出せば、俺の心も自然と高ぶるエースモンスターだが……。

 

ドドレミコード・クーリア

DEF2500 レベル8

 

 その姿を現すや否や、バスター・ドラゴンの目が光る。クーリアは苦しそうな喘ぎ声をあげ、体を屈める。そして、背中から深い緑色の翼が生え、ファンシアと同じように爪が鋭く伸び、理性を失った獣のように目が血走って、口は化け物のように大きく裂けた。

 

「……っ」

 

 冗談抜きに、吐き気を催した。

 愛用するエースモンスターが、ドレミ界でずっと自分の事を案じてくれていた彼女が、こんな姿になってしまう事に。

 

竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー

ATK3800→4800

 

バスター・ブレイダー

ATK3100→3600

 

「《ソウル・レヴィ》の効果で、君はデッキから3枚のカードを墓地へ送らなければならない」

 

 しかしこの状況は、バスター・ブレイダーにとっては思い通りのもの。促されて、俺は少しの苛立ちを感じながらデッキからカードを墓地へ送る。送られたのは《ドレミコード・スケール》《ドレミコード・フォーマル》《ミドレミコード・エリーティア》。これで《ドレミコード・スケール》と《ドレミコード・フォーマル》は全て墓地へ行ってしまった。

 エンジェリアのペンデュラム効果で、「ドレミコード」のペンデュラム召喚成功時に相手は効果を発動できない。しかし、《ソウル・レヴィ》のようにチェーンブロックを組まない効果は防ぎきれなかった。

 

「俺がペンデュラム召喚に成功する度に、《魂のペンデュラム》にカウンターが1つ置かれる」

 

 すると、フィールドにある《魂のペンデュラム》のカードの上に、キューティアやエンジェリアの足元に浮かぶペンデュラムスケールと同じ書体で「1」の数字が浮かび上がった。

 

魂のペンデュラム

カウンター:0→1

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド……!」

 

 ファンシアの効果が発動できたら、グレーシアをエクストラデッキに置き、エンジェリアではなくクーリアをペンデュラムゾーンに置いて、エンジェリアとグレーシアをペンデュラム召喚していた。そうすれば、手札を補充しつつ、エンジェリアでグレーシアをリリースしてエリーティアを呼び出して防御につなげられたから。

 けれど、あちらの戦術のせいで全てが狂ってしまった。最初の《手札抹殺》で、モンスター効果を1ターン無効にできる《禁じられた聖杯》が墓地へ送られたのが悔やまれるし、俺の気分もダダ下がりだ。

 

「私のターン、ドロー」

 

 そんな俺の事などお構いなしに、バスター・ブレイダーはデュエルを続ける。

 

「メインフェイズ1開始時に、《強欲で金満な壺》を発動。私のエクストラデッキのカードを3枚、または6枚ランダムに裏向きで除外し、除外したカード3枚につき1枚ドローする。ただしこの後、私はターンが終わるまでドローできない。私は6枚のカードを除外して2枚ドローする!」

 

 壺系のドローソースには、カードを裏側で除外する事でドローする効果を持つものが最近多い。俺としても使いたいところだが、デッキにおいてのエースや切り札を誤って除外しかねないリスクが気になって、どうしても採用に踏み出せないのだ。

 バスター・ブレイダーは、恐らく既にフィールドにいる2体の融合・シンクロモンスターを軸に戦うから、リスクを気にせずに使ったのだろう。そのドローしたカードを見てから、バスター・ブレイダーは俺のフィールドに視線を移す。

 

「教えておこう。《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》は守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が上回っていればその分だけ戦闘ダメージを与えられる!」

「な、それじゃ……」

 

 グレーシアが気づいたように声を上げる。

 今、バスター・ドラゴンの効果で俺の「ドレミコード」は全てドラゴン族になっている。そして《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》の効果で、ドラゴン族になっている以上は守備表示を余儀なくされる。その上での打点上昇に貫通効果とは、非常に理想的でまとまった布陣だ。戦う相手側からすれば、たまったものではないが。

 

「あっけないな。バトル、《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》で《ファドレミコード・ファンシア》を攻撃!」

 

 剣を構える竜破壊の剣士。この攻撃が通れば俺は4400の貫通ダメージを受けてワンショットキルが成立する。

 だが、何もできないまま負けるなど冗談じゃない。

 

「罠カード《神風のバリア-エア・フォース-》! 相手モンスターの攻撃時、相手の攻撃表示モンスターを全て持ち主の手札に戻す!」

 

 発動したカードからすさまじい威力の風が吹き荒れ、バスター・ドラゴンは翼で風を凌ぐが、2人の剣士は突風に吹き飛ばされる。そうして《バスター・ブレイダー》は手札に、《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》はエクストラデッキに戻った。

 

「まあ、流石にこれだけで終わっては面白味もない。私はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 だが、バスター・ブレイダーは大して悔しがったりもせず、冷静にターンを終えた。恐らく、すぐに挽回してくる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたのは3枚目のキューティア。融合体のバスター・ブレイダーがいなくなり、ドラゴン族であっても攻撃と効果の発動が可能になった今、来てくれるのは非常にありがたい――

 

「罠カード《覇者の一括》発動。このターン、君はバトルフェイズを行えない」

「っ!」

 

 このターンのみとは言え、バトルまで封じられた。何が何でもこちらを優位に立たせないという意思を感じ、フラストレーションが一段階上がる。

 だが、バトルできないのなら防御を進めるしかない。

 

「クーリアの効果発動! 相手フィールドの表側表示カード1枚の効果を、相手のターン終了時まで無効にする。この効果は俺のペンデュラムゾーンに奇数のスケールが存在する場合、対象を2枚に増やせる。俺はバスター・ドラゴンと《ソウル・レヴィ》の効果を無効にする! レスト・オブ・スキル!!」

 

 効果名を宣言すると、ドラゴンとなってしまったクーリアはタクトを取り出したりなどせず、本当のドラゴンのように吼えた。その鳴き声には様々な感情が籠っているかのようだし、普段なら力強くタクトを振るのにそれをしないので、妙に悲しくなる。しかし、その咆哮を受けてバスター・ドラゴンは色を失い、《ソウル・レヴィ》も石板と化した。

 そして、バスター・ドラゴンの効果が無効になった事で、俺のフィールドの「ドレミコード」も天使族に戻り、元の姿へと戻る。それを見て俺は安心し、息を吐く。

 

「よし、《ドドレミコード・キューティア》を召喚!」

 

ドドレミコード・キューティア

ATK100 レベル1

 

「キューティアの召喚時、デッキから自身以外の『ドレミコード』1体……エンジェリアを手札に加える。そしてキューティアの効果で、ペンデュラムゾーンに偶数のスケールが存在する場合、俺のフィールドの『ドレミコード』の攻撃力は自身のスケール1つにつき100ポイントアップする!」

 

ドドレミコード・キューティア

ATK100→900

 

「さらに、ファンシアの効果発動! 1ターンに1度、デッキから自身以外の『ドレミコード』ペンデュラムモンスターをエクストラデッキに加える。俺がエクストラデッキに加えるのは、《ソドレミコード・グレーシア》だ」

「ふん」

「また、《魂のペンデュラム》の効果を発動! エンジェリアのスケールを1つ下げ、キューティアのスケールを1つ上げる!」

 

ラドレミコード・エンジェリア

スケール:2→1

 

ドドレミコード・キューティア

スケール9→10

 

「これでレベル2から9のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 このデッキでレベル9以上のモンスターはいないので、キューティアのスケールをここまで上げてもあまり意味はない。しかし、クーリアの効果で破壊できるモンスターの幅が多少広がる利点があるため、最大のスケールは積極的に上げていきたかった。

 

「ペンデュラム召喚! エクストラデッキより《ソドレミコード・グレーシア》、手札より《ラドレミコード・エンジェリア》!」

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2100→2500 レベル5

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK2300→2600 レベル6

 

「ペンデュラム召喚したグレーシアの効果発動! デッキから《ドレミコード・ハルモニア》を手札に加える。そしてペンデュラム召喚が成功した事により、《魂のペンデュラム》にカウンターを1つ置く!」

 

魂のペンデュラム

カウンター:1→2

 

「フィールドのペンデュラムモンスターの攻撃力は、この《魂のペンデュラム》のカウンター1つにつき300ポイントアップ!」

 

ドドレミコード・キューティア

ATK900→1500

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2500→3100

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK2600→3200

 

「さらに、クーリアを攻撃表示に変更!」

 

ドドレミコード・クーリア

DEF2500→ATK2700→2800→3400

 

 《魂のペンデュラム》は、以前クーリアの部屋で行ったデッキ調整よりも前からデッキに入れていたものだ。しかしドローする機会がなかなかなく、今回初めて精霊界で使う。打点不足を少しでも補えるため、微量と言えどこのパンプアップはありがたかった。

 しかしながら、それでもなおバスター・ブレイダーは腕を組んで余裕を崩さない。

 

「威勢よくモンスターを並べるのはいいが、バトルができないという事は忘れてはいないな?」

「フィールド魔法《ドレミコード・ハルモニア》を発動!」

 

 挑発めいた問いかけを無視して、「ドレミコード」が戦うに相応しい舞台を整える。フィールドが音楽をイメージした空間へと様変わりするが、バスター・ブレイダーは何の感慨もないようで一瞥するだけだった。

 

「そしてこのハルモニアの効果発動! 俺のフィールドの『ドレミコード』のスケールが奇数3種類以上、または偶数3種類以上の場合、フィールドのカードを1枚破壊する! 俺はバスター・ドラゴンを破壊!」

 

 空に浮かぶ環状の五線譜から雷が落ち、バスター・ドラゴンが叫び声を上げながら爆散する。俺の仲間を散々な姿に変えてしまった事への仕返しができたような気がして、少しスカッとした。

 

「エンジェリアの効果発動! スケール8のキューティアをリリースし、デッキからスケール6の《ミドレミコード・エリーティア》を特殊召喚!」

 

 キューティアが俺に向かって手を振りながら姿を消し、現れるのはエリーティア。現実では、彼女は今《竜角の狩猟者》を診ているはずだが、大丈夫だろうか。少しばかり不安がよぎる。

 

ミドレミコード・エリーティア

DEF400 レベル3

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK3100→2700

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK3200→2900

 

ドドレミコード・クーリア

ATK3400→3300

 

「そして、エリーティアの効果発動! このカードが特殊召喚した時、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を手札に戻す。俺は右側の伏せカードを手札に戻す!」

 

 エリーティアのタクトの先端に泡が浮かび始める。

 だが、その瞬間。

 

「残念だったな。罠カード《裁きの天秤》発動! 君のフィールドのカードの枚数が、私の手札・フィールドのカードの合計を上回っている場合、その差分だけドローする!」

「!?」

 

 発動したカードは見た事がある。デュエルアリーナでブライターに使われたカードだ。

 

「私の手札とフィールドのカードは合計4枚。そして君のフィールドのカードは9枚。よって私は5枚のカードをドローする!」

 

 ペンデュラムデッキ特有の問題として、フィールドにカードが残りやすい点がある。その欠点を見事に突かれ、圧倒的なドローを許してしまった。

 

「……ハルモニアの効果で、エクストラデッキのキューティアを手札に加える。俺はこれでターンエンドだ」

 

 バトルフェイズが行えないにせよ、こちらはモンスターを並べてどうにか防御しようとしたのだが、あそこまで手札を増やされるのは想定外だ。

 そして、ラベンダーとのデュエルで見つかった課題である「防御の脆さ」についても、結局はまたエリーティアに頼る事になってしまった。しかも前のターンにエリーティアのカードが墓地へ行ってしまい、デッキにエリーティアのカードはもうない。

 そして、5枚も手札を補充されたらこの盤面も絶対ではなくなると予感はしていた。

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