ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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前回のあらすじで予告しました通り、
今回はオリジナルカードが登場いたします。予めご了承ください。


第28話:変わる心

クーリア LP4000 手札2

【モンスターゾーン】

ドドレミコード・キューティア DEF400 レベル1

ラドレミコード・エンジェリア ATK2600 レベル6

 

【魔法&罠ゾーン】

カード無し

 

【ペンデュラムゾーン】

右:シドレミコード・ビューティア スケール2

左:レドレミコード・ドリーミア スケール7

 

 

ミューゼシア LP3000 手札0

【モンスターゾーン】

守護天使(ガーディアンエンジェル)ジャンヌ ATK2800 レベル7

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード1

 

【ペンデュラムゾーン】

右:解放のアリアドネ スケール3

左:死天使ハーヴェスト スケール8

 

 

 フィールドの状況に、クーリアは少し焦っていた。ライフポイントは自分の方がまだ高いし、モンスターも数だけで言えばこちらが勝っている。

 それでも、先のターンにメインフェイズ2をスキップされたのは痛い。おかげで、このミューゼシアのターンに備えて防御を固める事ができなかった。手札にある中の1枚もそのひとつで、これがなければ勝てないというほどではないが、あれば心強かったのに。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ミューゼシアがターンを始める。

 このデュエルは、クーリア自身がグランドレミコードの力を宿すに相応しいかを確かめるためのデュエル。恐らくは、勝たなければそれも叶わない。加えて、デュエルを観ている皆にも認められなければダメだろう。

 果たして自分は今、それに足るデュエルができているだろうか。自分で考えるが、答えはまだノーだ。未だこのデュエルではペースを握れておらず、正直今も余裕がない。とてもじゃないが、グランドレミコードにあるまじき事態だ。

 

「……」

 

 ちらと、デュエルを観ている皆の中で、一番端に座るバトレアスを見る。こちらを心配するかのような目でクーリアを見ていた。しかもその膝の上には、何故か今朝から彼の傍にいて離れない自分の妖精体。

 妖精体はともかく、クーリアは今日まで特にバトレアスに心配をさせてしまっているところが多い。だから、彼を安心させるためにも、このデュエルは負けるわけにはいかなかった。

 

「セッティング済みのスケールを使い、ペンデュラム召喚! 現れよ、《天空騎士(エンジェルナイト)パーシアス》!」

 

 そこでミューゼシアが新たにモンスターを呼び出す。下半身は馬、上半身は白銀の鎧を付ける筋肉質な人間の、白い身体のケンタウロスだ。

 

天空騎士パーシアス

ATK1900 レベル5

 

 あのモンスターはバトレアスとのデュエルでも使っていカード。そして、それが今来るのはかなりまずい。かといって防ぐ手立てもなかった。

 

「バトル! パーシアスでキューティアを攻撃。このパーシアスは守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えている分貫通ダメージを与える!」

 

 やはり、バトレアスの時と同じ効果。キューティアへと駆け出したパーシアスは、その勢いを殺さずにキューティアを白い剣で袈裟切りにした。仲間を守れなかった事実が、ダメージ以上にクーリアの心を痛めつける。

 

「くっ……!」

 

クーリア LP4000→2500

 

「パーシアスが戦闘で相手にダメージを与えた事で、その効果を発動。カードを1枚ドローする。さらにキューティアがいなくなった事で、エンジェリアの攻撃力も元に戻る!」

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK2600→2300

 

「《守護天使ジャンヌ》でエンジェリアを攻撃!」

 

 ジャンヌが翼を広げてはためかせると、光の槍がいくつも出現してエンジェリアへと襲い掛かってくる。為すすべもなく、光の槍に貫かれたエンジェリアは破壊されてしまった。不意を突かれたとはいえ、本人が見ている目の前で守れないというのは非常につらい。

 

クーリア LP2500→2000

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 それでもミューゼシアは、仲間の目の前で同じ姿のモンスターを倒しても、あくまで冷静にデュエルを進めていく。デュエルに対してミューゼシアは非常に冷静かつ真剣だ。

 そんなミューゼシアは伏せカード1枚でターンを終えた。これ以上展開されると本当に取り返しがつかなくなっただろうから、ひとまずホッとする。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 そしてクーリアのターン。ドローしたカードを確認し、残っている手札も含めて、こちらから巻き返しができる事を確認する。

 

「魔法カード《ワン・フォー・ワン》発動! 手札からモンスター1体を墓地へ送り、手札またはデッキからレベル1のモンスター1体を特殊召喚する!」

 

 コストにするのは、今ドローした《トリアス・ヒエラルキア》。墓地に行っても効果を使える有能なカードだ。そして、《ワン・フォー・ワン》で呼び出すモンスターは一択だ。

 

「デッキの《ドドレミコード・キューティア》を特殊召喚!」

 

ドドレミコード・キューティア

DEF400 レベル1

 

「特殊召喚したキューティアの効果発動!」

「速攻魔法《相乗り》発動。このターン、あなたがドロー以外の方法でデッキまたは墓地からカードを手札に加える度に私は1枚ドローする」

「……っ、デッキから《ソドレミコード・グレーシア》を手札に加える!」

 

 このデュエルが始まってから、ようやくちゃんと回す事ができたと思う。ただ、ミューゼシアも全てこちらの思い通りにはさせてくれなかった。グレーシアのカードを手札に加えると、ミューゼシアは1枚ドローする。

 しかしペンデュラムスケールは既にセッティング済み。そのペンデュラムゾーンにいる2人のドレミコードも、クーリアを見て微笑んだ。

 

「集え、我が麗しき同胞たちよ。淀みを清める幸せの多重奏、ここに響かん! ペンデュラム召喚!」

 

 クーリアが高らかに宣言し、空に穴が開く。その中から、オレンジと青の軌跡を描きながら、エンジェリアとグレーシアが降り立った。そしてキューティアが存在するために、攻撃力は自らのスケール×100ポイント分アップする。

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK2300→2600 レベル6

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2100→2500 レベル5

 

「グレーシアを特殊召喚した事で、効果発動! デッキから《ドレミコード・ハルモニア》を手札に加える!」

「《相乗り》の効果で1枚ドロー!」

 

 ドローさせるのが惜しいからグレーシアの効果を使わない、なんて事はしない。このデュエル、日和っていたらすぐに負けてしまうだろう。

 

「そして、手札に加えたハルモニアを発動!」

 

 手札に加えたカードを即座に発動する。音楽をイメージしたフィールドに切り替わり、幻想的な雰囲気がより色濃くなった。

 

「ハルモニアの効果発動! 私の場の『ドレミコード』のスケールが、奇数3種類以上または偶数3種類以上の場合、相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。よって、《守護天使ジャンヌ》を破壊!」

 

 クーリアのフィールドの「ドレミコード」のスケールは奇数2種類に偶数3種類。ハルモニアの効果は問題なく使える。空に浮かぶ円環の五線譜が光を放ち、白い雷がジャンヌに直撃して霧散した。

 これで、ミューゼシアの場のモンスターは攻撃力1900のパーシアスのみ。クーリアのペンデュラムゾーンもスケールは揃っているため、グレーシアとエンジェリアの効果が噛み合い攻撃は妨害されず、ダメージも通す事ができる。

 

「バトル!」

「罠カード《和睦の使者》発動! このターン、私のモンスターは戦闘で破壊されず、私への戦闘ダメージも0になる!」

 

 しかしながら、バトルフェイズ開始直後にミューゼシアが発動したカードに、クーリアはまたしても焦らされた気分になる。これで、このターンはバトルをする意味もなくなってしまった。

 

「メインフェイズ2に移行し、エンジェリアの効果を発動! スケール8のキューティアをリリースし、デッキからスケール6の《ミドレミコード・エリーティア》を特殊召喚!」

 

 守備表示だったキューティアが目を閉じてリリースされ、入れ替わるようにエリーティアが姿を現す。

 

ミドレミコード・エリーティア

DEF400 レベル3

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK2600→2300

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2500→2100

 

 ミューゼシアの魔法・罠カードはペンデュラムカード2枚だけ。手札に戻したところで意味はないから、エリーティアの効果は使わなかった。

 

「そしてハルモニアの効果を発動し、エクストラデッキのキューティアを手札に加える。さらにカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 次のターンに備え、優秀なサーチ効果を持つキューティアを手札に戻す。《相乗り》の効果が発生するのはデッキか墓地からカードを加える時だけ。エクストラデッキから加えるのは引っかからない。そして最後に伏せたのは、最初のターンから手札にあったものの、伏せるタイミングが合わなかったカードだ。

 ミューゼシアの場には貫通効果を持ったパーシアスと、健在のペンデュラムスケール。戦闘ダメージを0にするエリーティアがいるとはいえ、油断はできない。気を引き締めて、次のターンに臨む。

 

「私のターン、ドロー。私は魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動し、デッキの上から10枚のカードを裏側で除外して、新たに2枚ドローする」

 

 ここでミューゼシアが引き当てたのは、ドローソース。バトレアスとのデュエルでも、あのカードをきっかけにミューゼシアの猛攻が始まった記憶がある。心して、ミューゼシアの手を見極めなければ。

 

「速攻魔法《サイクロン》発動! その伏せカードを破壊する!」

 

 同じカードを使われた。フィールドに竜巻が発生し、こちらに迫ってくる。伏せたカードはもう少し機を見て使いたかったが、ただで破壊されるより相手の手をひとつでも潰すべきだ。

 

「罠カード《ドレミコード・ムジカ》発動! 私の場に存在する『ドレミコード』のペンデュラムスケールは奇数と偶数! よって、フィールドのカード1枚を破壊する効果を発動する!」

 

 ここで破壊すべきカードは少し迷う。唯一残っているモンスターのパーシアスか、それとも展開させないためにペンデュラムゾーンにあるどちらかのカードか。

 だが、ミューゼシアはその悩む機会さえも与えなかった。

 

「手札からカウンター罠《レッド・リブート》を発動!」

「な――」

「手札からカウンター罠……!?」

 

 あまりにも予想外の動きに、クーリアは勿論デュエルを観ていたキューティアも声を上げて驚いている。他のドレミコードたちも同じようで、バトレアスに限ってはあのカードを知っているのか苦い表情を浮かべている。

 

「このカードは、ライフポイントを半分払えば手札からも発動できる。ただし《解放のアリアドネ》のペンデュラム効果で、私はカウンター罠を発動する際のライフ・手札のコストが不要になる。つまり私は、ライフを払わずにこのカードを手札から発動できるのよ」

「く……」

「この《レッド・リブート》は、罠カードの発動を無効にし、そのカードをセットし直す!」

 

 フィールドに現れた《レッド・リブート》のカードが赤い輝きを放ち、ブザー音が鳴り響く。それを受けて、発動しかけた《ドレミコード・ムジカ》のカードが再びセット状態になってしまった。

 

「そして、あなたはデッキから罠カードを1枚選んでセットできるけれど、どうする?」

「……私は《ドレミコード・フォーマル》をセット」

 

 仕方なく、防御に使えるカードを伏せておく。とはいえ、一度公開してからセットしてしまうため、奇襲性はないも同然だ。

 

「《レッド・リブート》の発動後、ターン終了時まであなたは罠カードを発動できない。そして《サイクロン》の効果によって、《ドレミコード・ムジカ》を破壊させてもらうわ」

 

 迫ってきた竜巻が、セット状態になっていた《ドレミコード・ムジカ》を巻き込み破壊してしまう。

 

「私がカウンター罠を発動した事で、手札・フィールド・墓地から他の天使族モンスター2体を除外し、手札の《天空聖騎士アークパーシアス》の効果を発動! このカードを特殊召喚する!」

 

 フィールドに黒い渦が現れ、墓地に眠っていた《豊穣のアルテミス》と《守護天使ジャンヌ》が吸い込まれる。すると、その黒い渦から光が放たれると共に、巨大な天使が現れた。青と金の装甲で武装したそれは、《天空騎士パーシアス》のように筋肉質な上半身で、下半身はその顔を模した鎧。白い翼が幾多も生やす荘厳な姿だ。

 

天空聖騎士アークパーシアス

ATK2900 レベル9

 

「ここでこんなのが来るなんて……」

 

 エンジェリアが恐れ慄くように口にする。確かに、この状況で、これ程の攻撃力を持つモンスターが現れると、全く安心できない。

 

「バトル――」

「メインフェイズ終了の前に、墓地の《トリアス・ヒエラルキア》の効果発動! 自分フィールドの天使族モンスターを3体までリリースする事で、このカードを手札または墓地から特殊召喚!」

 

 ミューゼシアがバトルフェイズに入ろうとしたタイミングで、クーリアは墓地へ送っておいたモンスターの効果を発動させる。そのコストとして3体の『ドレミコード』をリリースすると、赤い玉が光る杖を持つ、3対6枚の羽を生やす巨大な白い天使が降臨した。

 

トリアス・ヒエラルキア

DEF2900 レベル9

 

「2体以上の天使族モンスターをリリースした事で、《トリアス・ヒエラルキア》の効果により、相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。私はアークパーシアスを破壊!」

 

 《トリアス・ヒエラルキア》の杖から赤い雷が発生し、アークパーシアスを焼き尽くす。

 モンスターを2体並べただけで攻撃しようとしたから、最後に残ったミューゼシアの手札は今の状況で使えないカードだ。これ以上展開をしないようであれば、フィールドにいるモンスターの中で攻撃力が高い方を先に破壊し、攻撃の手を少しでも減らす。

 

「さらに3体の天使族をリリースしたため、カードを2枚ドローする!」

 

 エリーティアを残し、破壊効果のみを発動させるかは少しだけ迷った。しかし、クーリアの手札は枯渇しかけていたため、少しでも勝機を近づけさせるカードを引きたかった。おかげで、万一に備えてのカードは手にする事ができている。

 しかしミューゼシアは。

 

「私のメインフェイズにあなたがモンスター効果を発動しているため、魔法カード《三戦の才》発動! この効果で私は、《トリアス・ヒエラルキア》のコントロールをエンドフェイズまで得る!」

「!?」

 

 発動したカードに、クーリアは愕然とする。残った手札は、《トリアエス・ヒエラルキア》の効果を発動しなければ使われなかったのだ。みすみすそのチャンスを自分で作ってしまったのが不甲斐なさすぎる。

 《トリアエス・ヒエラルキア》の瞳が赤く光り、ミューゼシアのフィールドへと移動する。これで、クーリアを守るモンスターはいなくなった。

 

「《天空騎士パーシアス》でダイレクトアタック!」

 

 攻撃宣言と共に駆けてくるパーシアス。しかしどうする事もできないので、その剣を受けるしかなかった。

 

「ぐっ……あああああああ……!」

 

クーリア LP2000→100

 

「クーリア様……!」

 

 実際に斬られた訳では無いが、衝撃波が伝わり精神的なダメージが響く。

 バトレアスの悲痛そうな声が聞こえた。だが、それに対して安心させようと笑いかけるほどの余裕も、クーリアには残っていなかった。

 

「パーシアスの効果でカードを1枚ドロー!」

 

 そしてドローしたカードを見て、ミューゼシアはさらに頷く。

 

「メインフェイズ2に入り、魔法カード《アドバンスドロー》発動。レベル8以上のモンスター1体をリリースし、2枚ドローする」

 

 コストになるのは勿論、元はクーリアが呼んだ《トリアス・ヒエラルキア》。自分が受けるダメージ量を増やしてしまった挙句、ミューゼシアの手札増強にまで一役買ってしまった。何もかもが裏目に出てしまい、悔しくなる。

 そして、やはりミューゼシアは引きが強い。この状況で、守備力の高い《トリアス・ヒエラルキア》をかわしつつダメージを通し、さらに手札を増強できるカードまで引き当てるなんて。

 

「……自身の効果で特殊召喚した《トリアス・ヒエラルキア》は、フィールドを離れる場合除外される」

 

 リリースされた巨大な白い天使は、黒い渦へと飲み込まれる。そして連続でドローしたミューゼシアは、力強くカードをフィールドに出した。

 

「《ハーピィの羽根帚》発動! 相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

「ッ!」

 

 ミューゼシアは、混じりっけなしの本気だった。

 鳥の羽根のような帚がひらりと舞うと突風が吹き荒れ、クーリアのフィールドの魔法・罠カードが全て吹き飛ばされる。セットしていたカードは散り散りになり、光の柱は消え、空に浮かぶ音楽をイメージしたオブジェクトは砕け散った。

 完全にクーリアのフィールドからカードがなくなり、いっそ清々しささえ覚えてしまう。それでもミューゼシアは止まろうとせず、さらに天へと手を挙げた。

 

「セッティング済みのペンデュラムスケールを使い、ペンデュラム召喚! 現れよ、《アテナ》!」

 

 空に開く穴から舞い降りたのは、銀の三叉と丸い盾を携える、神秘的な雰囲気を纏う長い銀髪の女性だ。

 

アテナ

ATK2600 レベル7

 

「《アテナ》の効果を発動。1ターンに1度、自分フィールドの《アテナ》以外の天使族モンスター1体を墓地へ送り、《アテナ》以外の天使族モンスター1体を墓地から特殊召喚する。《天空騎士パーシアス》をリリースし、墓地より《天空聖騎士アークパーシアス》を特殊召喚!」

 

 《アテナ》が三叉を掲げると、フィールドにいたパーシアスが姿を消し、雲の合間から漏れ出る光と共にアークパーシアスが再び降臨した。

 

天空聖騎士アークパーシアス

ATK2900 レベル9

 

「そして天使族モンスターが召喚・特殊召喚された事で、《アテナ》の効果発動! 相手に600ポイントのダメージを与える!」

「まずい!」

 

 さらにミューゼシアが宣言すると、バトレアスが声を上げた。クーリアのライフは残り100。この効果ダメージを受ければ負けだ。

 今度はクーリアに向けて、《アテナ》が三叉を構える。その切っ先から雷が小さく散った直後。

 

「手札の《ハネワタ》を捨てて効果発動! このターン、私が受ける効果ダメージを0にする!」

 

 さっきの《トリアス・ヒエラルキア》の効果でドローしていたモンスターを墓地に捨てると、綿あめのようにふわふわで丸いモンスターが、半透明な状態でクーリアのフィールドに現れる。そして《アテナ》の三叉から雷が迸るが、《ハネワタ》の幻影に勢いが殺され、クーリアに届く前にそれは消え去った。

 

「これで私はターンエンド」

 

 ようやくターンを終えたミューゼシア。何とか首の皮一枚で繋がったと言えるが、最早安心できる状況ではない。

 状況はターン開始時と比べて圧倒的に悪くなった。ライフは100、場のカードは0、手札はキューティアと、さっきの《トリアス・ヒエラルキア》の効果でドローした《ペンデュラム・ターン》のみ。

 ミューゼシアの場にいる《アテナ》は非常に厄介だ。天使族を召喚・特殊召喚した時に即座に発動するバーン効果のせいで、たとえサーチ効果が優秀でも天使族であるキューティアを召喚したら、すぐにクーリアは負けてしまう。

 レベル5以上の「ドレミコード」を引き当てられたら、そのペンデュラム効果でペンデュラム召喚成功時の効果発動を防げる。だが、エクストラデッキから1体しかペンデュラム召喚できないため、根本的な状況の改善にはつながらない。仮に《アテナ》を破壊できても、攻撃力2900のアークパーシアスまでは手が回らない。返しのターンで負ける確率が一層高る。

 

「……」

 

 ドレミコードの皆を従えている以上、弱音を吐くわけにはいかない。今は全員が自分のデュエルを観ていて、しかもこのデュエルはグランドレミコードのいわば適正テスト。

 それは理解していても、この圧倒的に不利な状況を前に、心が折れてしまいそうだ。

 呼吸のペースが速まる。心は挫けかけながら、脳はこの状況をどうすれば打破できるかを必死に考えていて、頭の奥が熱くなってくる。

 けれど不意に、音が聞こえた。

 

「……え?」

 

 それが聞こえたのはクーリアだけではないらしく、ミューゼシアもそちらを見ている。

 クーリアもまた、その音の鳴っている方へと目を向けると、思考が止まった。

 

(なんで……?)

 

 視線の先にいるのは、バトレアス。彼は赤い一人掛けのソファに座ったままだ。

 けれど、その膝の上にいるクーリアの妖精体が、バイオリンを弾いているのだ。普通なら、クーリアに限らずドレミコードの妖精体は、行動を共にするドレミコードの天使の指揮で演奏するはずなのに。

 だが、他のドレミコードは指揮をしていない。むしろ今のクーリアのように、困惑しながら妖精体を見ている。

 そしてバトレアスは、膝の上に手を置き、祈るように、願うように目を閉じている。やはり、指揮などはしていない。

 なぜかクーリアの妖精体は、ひとりでバイオリンを弾いていた。

 

 

 クーリアの状況は圧倒的に悪い。それは俺だけでなく、デュエルを観ている皆も理解しているはずだ。メインフェイズ2でのミューゼシアの猛攻など、直に戦っていたら半泣きになるぐらい容赦がなかった。

 そしてデュエルを観ている側には、次のドローでいいカードを引いてほしいと祈るほかない。どうか勝ってほしいと願うしかない。声を上げて応援するのは簡単だが、場の雰囲気的にそれが許される感じではない。

 それでもやはり俺は、同じデッキを使う者として、クーリアに仕えながらも親しい関係として、歯がゆさを抱いている。ただ観ているだけの今の状況に、心が縄で縛られているようだ。

 するとその時、袖を引っ張られる感覚がした。

 

「?」

 

 それは、膝の上に座っているクーリアの妖精体によるもの。長い袖から小さな手を出し、俺のスーツの袖を握っている。そして、何かを訴えかけるように、俺を見上げていた。

 クーリアを含め、ドレミコードの皆は妖精体の言っている事を理解できているらしいが、俺にはそれができない。

 だから俺は、妖精体を見て頷く程度の反応しかできなかった。妖精体が今、不安になっているのか、それとも俺に構ってほしいのかも分からないから。

 

『……?』

 

 けれど、妖精体は首を傾げた。

 その仕草は、まるで俺に何かを問いかけているかのようだ。何を望んでいるのか、俺に聞いているように見えた。

 こちらがそれに勘づいた事を汲み取ったのか、妖精体が小さな手を差し出してくる。

 未だ俺には妖精体の言葉も考えも分からないが、その手に引かれるように、俺はその妖精体の手を、包み込むように両手でそっと握る。妖精体の手は、普通の人間と同じように柔らかくて、人肌を感じて、だけどとても小さい。うっかり強く握ってしまったら、壊れてしまいそうなほどだ。

 そして妖精体は、また俺の目を見つめてくる。

 どういうつもりかは分からないが、何かを聞こうとしているつもりならと、俺は手にほんの少しだけ力を込めて、今の自分の中にある願いを思い浮かべた。

 

 クーリアを応援したい。

 クーリアに勝ってほしい。

 クーリアの力になりたい。

 

 そう願った直後、妖精体の手を握る俺の手の感覚がなくなって、俺の意思とは関係なく、膝の上に落ちる。膝の上の両手は、動かせなかった。

 そして妖精体はこくりと頷くと、バイオリンをどこからともなく取り出して、弾き始める。奏でる曲は、天老やヘレボラスの治療・ケアのために弾いていた、ミューゼシアが作ったような未聞のメロディではない。俺がドレミ界に初めて来た日、クーリアが弾いていたピアノの曲と同じ、メヌエットだった。

 その曲はクーリアにも聞こえたようで、こちらに視線を向けてくる。驚きと困惑の両方が感じ取れた。

 だけど俺は、静かに目を閉じて、今妖精体に対して思い浮かべた願いを、もう一度頭の中で反芻し、祈る。

 妖精体の奏でるメヌエットに乗せて、クーリアに届くように。

 

 自分が指揮していないのに、自分の妖精体が演奏をしている。

 そしてその演奏には、「ドレミコード」特有の作用があるらしく、聞いていてクーリアの心が落ち着き、さらに不安や恐れが薄まっていく。まさか、自分の妖精体の奏でる曲で、自分の心が奮い立たせられるとは思いもしなかったが。

 

「……ありがとう」

 

 クーリアがそう告げると、バイオリンを奏でる妖精体がにこっと笑う。けれど、演奏は続いていた。

 そしてその妖精体とともにいるバトレアスは、顔を上げて目を開けて、クーリアを見て頷く。クーリアの勝利を信じている顔だ。

 その表情を見て……バトレアスを見て、クーリアの中で渦巻いていた不安や恐れは完全に霧散し、「必ず勝つ」という意志が固まる。

 

「私のターン」

 

 デッキに指をかける。

 不思議な事に、バトレアスが自分の事を見てくれていて、応援してくれているのだと思うと、自然と自分の心が温まる。身体に力が籠って、どんな事でも成し遂げられそうな感覚になるのだ。

 故に、このデュエルには負けたくない。グランドレミコードの力が欲しいとか、皆が見ている手前とか、そう言う理由ではなくこのデュエルに勝ちたい。

 それは皆が見てくれているから。

 そして何より、バトレアスが自分の勝利を願ってくれているのだから。

 

「あれは……?」

 

 グレーシアが何かに気づいたような声を上げるが、気にしてはいられない。今はただ、このデュエルに勝つと決意して、次のドローに意識を集中する。身体が温かくて、心臓が高鳴って、武者震いなのか指先が震えているが、それでも。

 

「ドロー!!」

 

 カードを引く。

 その引いたカードは淡い光を放っており、しかもクーリアがデッキに入れた覚えのない、初めて見るカード。

 イラストに写っているのはクーリア自身、さらにエリーティアとグレーシアが、こちらを見て自信ありげに微笑んでタクトを手にしている。特にイラストの中のクーリアは、力強く右手に握るタクトを天に向けていた。

 そのカードに困惑するが、カードの効果は自然と目に入る。それを見て、希望が繋がるのを感じた。

 

「私は、スケール8のキューティアをペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 先のターンに手札に加えたキューティアをペンデュラムゾーンに置く。《アテナ》の効果をどうにもできない以上は、その高いペンデュラムスケールを活かすのみだ。光の柱と共にフィールドに現れたキューティアは、クーリアを見て笑う。

 そして、クーリアはさっきドローした、初めて手にするカードを切った。

 

「魔法カード《ドレミコード・クレッシェンド》発動! このカードは、私のペンデュラムゾーンの『ドレミコード』カードの枚数によって効果が決まる!」

「え……?」

 

 そのカードを使った直後に、バトレアスが疑問の声を洩らした。

 彼もまた、クーリアと同じ【ドレミコード】を使うデュエリスト。であれば、それに属しているカードは把握しているはずだ。それでもクーリアの使ったこのカードは、たった今発現したものだから驚くに決まっている。

 そしてミューゼシアも、眉を顰めていた。恐らくはこのカードから、何らかの力を感じているのだろう。

 

「私のペンデュラムゾーンの『ドレミコード』はキューティア1枚のみ。よって、デッキから『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1体をエクストラデッキに加え、さらにカードを1枚ドローする!」

 

 エクストラデッキに加えるのは《ファドレミコード・ファンシア》。またドローしたカードを確認し、残った手札も無駄にならないで済むと思った。

 

「速攻魔法《ペンデュラム・ターン》! フィールドのペンデュラムカード1枚のスケールを、ターンの終わりまで1から10の任意の数値にできる。私はキューティアのスケールを9に変更!」

 

ドドレミコード・キューティア

スケール∶8→9

 

「さらに速攻魔法《ドレミコード・シンフォニア》発動! 私のエクストラデッキにある表側の『ドレミコード』の種類によって効果が追加される!」

 

 そのカードを発動すると、自分の背後に7人の「ドレミコード」が半透明の状態で現れ、誰もがクーリアを見て力強く頷く。

 

「3種類以上の『ドレミコード』が存在するため、このターン、私の『ドレミコード』の攻撃力は自身のスケール1つにつき300ポイントアップする。さらに、5種類以上存在するため、相手フィールドのカード1枚を破壊する。私は《アテナ》を破壊! また、奇数のペンデュラムスケールが存在するため1枚ドローする!」

 

 発動した《ドレミコード・シンフォニア》のカードから五線譜を帯びた風が巻き起こり、《アテナ》を破壊する。これで、もうこちらが天使族を特殊召喚しても問題はない。

 さらに付随効果でドローしたカードは、まさに花丸級だ。

 

「そして、7種類以上の『ドレミコード』が存在する事で、エクストラデッキの『グランドレミコード』モンスター1体を特殊召喚する!」

「!」

 

 そして最後に発動する効果で、ミューゼシアが目を見開き、《ドレミコード・シンフォニア》のカードが輝きを放つ。その中から姿を見せたモンスターも、今まで自分のデッキには入っていなかった新たなモンスターだ。

 

「現れよ、リンク3! 新たな境地に降り立つ音階の大天使、《グランドレミコード・クーリア》!!」

 

 光の中から姿を見せたのは、自分と同じ「クーリア」の名を持つ音階の天使。けれど、「ドドレミコード」と違うのは、チョコレート色のチューブドレスを着て、手には白いドレスグローブを嵌め、ミューゼシアと同じような鍵盤を模した翼を腰から生やしている点。

 すると、バトレアスの膝の上にいたクーリアの妖精体が姿を消し、《グランドレミコード・クーリア》の傍に再び姿を現す。その直後、妖精体のドレスもチョコレート色からパステルカラーのそれへと代わり、持っているものもバイオリンではなくタクトになった。

 

□□□ グランドレミコード・クーリア

□◆□ ATK2700

■■■ リンク3

 

「あなた……」

 

 現れた新しい姿のクーリアを見て、ミューゼシアは身震いしていた。

 その言葉と仕草にどういう意味が含まれているのかは分からないが、デュエルはまだ終わっていない。

 

「この《グランドレミコード・クーリア》の攻撃力は、エクストラデッキの表側のペンデュラムモンスター1体につき100ポイントアップする。私のエクストラデッキのペンデュラムモンスターは8体、よって800ポイント攻撃力がアップ!」

 

グランドレミコード・クーリア

ATK2700→3500

 

「そして私は、スケール1の《ドドレミコード・クーリア》をペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 最後に残った手札は、自分の写し身である本来のカード。それをペンデュラムゾーンにセットすると、盤面に「PENDULUM」の文字が現れた。

 

「これで、レベル2から8のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 両手を天に向かって広げ、クーリアは笑って見せる。

 

「今一度集え、我が頼もしき同胞たちよ。重なる奏が、三千世界の淀みを清める! ペンデュラム召喚!」

 

 力強い宣言と共に空に穴が開き、青、赤の光と共に2体のドレミコードが舞い降りた。しかも、呼び出されたモンスターはいずれも《ドレミコード・シンフォニア》の効果で攻撃力がアップする。

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2100→3300 レベル5

 

ラドレミコード・エンジェリア

ATK2300→3200 レベル6

 

グランドレミコード・クーリア

ATK3500→3300

 

「なるほどね……」

 

 ミューゼシアは、頷き、そして微笑んだ。

 クーリアもそれに対して笑う。

 

「バトル! エンジェリアでアークパーシアスを攻撃! エンジェリック・マーチ!!」

 

 エンジェリアが振ったタクトがオレンジの光球を生み出し、荘厳な白い天使へ向けて放たれる。光球が直撃したアークパーシアスは、雄叫びを上げて消滅した。

 

ミューゼシア LP3000→2700

 

「《グランドレミコード・クーリア》でダイレクトアタック! グランド・アンサンブル!!」

 

 攻撃名を宣言した瞬間、《グランドレミコード・クーリア》の翼の鍵盤が、それこそピアノを弾く時のように動き始める。そしてその翼を翻すと、カラフルな音符や音楽記号が入り混じった突風がミューゼシアへ向けてと吹き荒れた。

 ミューゼシアはそれを、目を閉じてその身に受けた。

 

ミューゼシア LP2700→0

 


 

《ドレミコード・クレッシェンド》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、

このカードを発動するターン、自分は「ドレミコード」モンスターしか特殊召喚できない。

(1):自分のPゾーンのカードが、存在しない場合または「ドレミコード」カードのみの場合に発動できる。

自分のPゾーンのカードの枚数によって以下の効果を適用する。

●0枚:デッキからレベル4以下の「ドレミコード」Pモンスター1体を手札に加える。

●1枚:デッキから「ドレミコード」Pモンスター1体をEXデッキに表側で加える。

その後、自分は1枚ドローする。

●2枚:その2枚のPスケールでP召喚可能なレベルを持つ「ドレミコード」Pモンスターを、

自分のデッキ及びEXデッキ(表側)から1体ずつ手札に加える(同名カードは1枚まで)。

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