ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第3話:見極めのデュエル

 クーリアの部屋を出て、「屋敷」と呼ばれた建物の中を移動する。キューティアとグレーシアはお呼びでないらしく、別方向へと歩いて行った。

 ここを屋敷とクーリアは言ったが、石造りの内装や目が届く範囲での規模からして、西洋風の城と言った方がいい気がする。仮にも天使族が居を構えているのだから、これぐらいの広さは当然なのかもしれない。

 部屋をいくつか通り過ぎ、階段を下りて、また廊下を進んでいく。その間、誰ともすれ違う事はなかった。

 

「ここよ」

 

 やがて、先導するクーリアが足を止めたのは、やけに広い空間だ。円形のそこは床に巨大なト音記号が描かれており、目測でビル4階分の高さにある天井、または屋根まで吹き抜けになっている。真上には透明な結晶が吊り下がっているが、多分シャンデリアの類ではない。

 エントランス、あるいはホールのような場所だ。

 

「気を付けて」

 

 不意に目の前で光が迸った。

 クーリアが手で後ろに下がるように指示すると、すぐさま光は美しい弧を描き、クーリアの背丈と同じぐらい縦に長い楕円形へと変わる。遊戯王に限らず、様々なアニメでよく見るワープゲートに見えた。

 

「この先に、ミューゼシア様がいるわ」

 

 そしてクーリアは、促すように光の円を手で示す。

 デュエルディスクを左腕に装着するが、その腕が震えているのが分かった。

 緊張してしまっている。この先で、生きるも死ぬも、自分の沙汰が決まるから。それも、いくらデュエルモンスターズで見慣れているとは言え、相手は「天使」だ。

 

「大丈夫。ミューゼシア様はお優しい方だから、悪いようにはしないわ」

 

 そう言って、クーリアが背中に手を添えくれる。そして、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくり優しい手つきでさすってくれた。

 腹を決めて、息を深く吐き、クーリアに向けて「ありがとうございます」と礼を言って頭を下げる。

 そして、ゲートに足を踏み入れた。

 

「ようこそ。名もなきデュエリストさん」

 

 少しの間、視界が光で効かなくなるも、聞こえた声に導かれるように目を開ける。

 そこにあったのは、どこまでも広がる黄金色の空。薄いグラデーションで彩られる大地。金色の雲のようなものが、地面近くをふわふわと浮かんでいる。さっきまでいたドレミ界よりも、さらに輝く世界だ。

 そんな世界の大地に据えられた、黄金のグランドピアノ。それを背に佇む、さくらんぼのように赤いボブカットで、チョコレート色のドレスを着た女性がいる。今まで会ったドレミコードと似た雰囲気がするが、頭の上に金属の輪のようなものが浮かんでいること、そしてピアノの鍵盤を模した翼が腰から生えているところが明確に違う。

 

「私はミューゼシア。ドレミコードの皆を指揮する、いわば上司みたいなものよ」

 

 にこり、とミューゼシアは微笑む。間違いない、《グランドレミコード・ミューゼシア》だ。

 それに対して、深く頭を下げて「どうぞよろしくお願いいたします」と、テンプレートな社会人としての挨拶しか返せない。自らを「上司」とビジネスライクに評したのもある。

 

「まずは、ドレミ界を守ってくれた事に最大の感謝を」

「いえ、そんな……」

 

 恭しく頭を下げるミューゼシアだが、畏れ多くて仕方がない。ドレミ界を守った、という点は事実かもしれないが、天使に頭を下げられる経験がないもので困る。

 そして、頭を上げたミューゼシアは、俺の目を見ると真剣な顔つきになった。

 

「あなたの事は聞かせてもらったわ」

 

 そう言って、ミューゼシアが右手をすいと上に向けると、何も無いところから一人掛けのソファが2つ現れる。赤い生地を使ったそれに、ミューゼシアは目で座るように示した。変に遠慮するのは止めたほうがいいと思い、素直にそこに座る。ミューゼシアも向かい合うように座った。

 それにしても、クーリアたちと話したのはついさっきのはずだが、どうやってそれを知ったのだろう。もしかしたら、あの場にいたグレーシアの妖精体を通して、こちらの話を聞いていたのかもしれない。

 

「人間界であなたが亡くなってしまったのは、本当に残念だと思う」

「……いえ」

 

 そしてミューゼシアも、俺が一度死んでしまったのを悲しんでいるらしい。自分が死んだ事を悔やまれるというのは、およそ普通の人生では経験しないことだろう。

 ただ、気になった事がある。

 

「人間界という呼び方なんですね。俺がいた世界は」

「他にいい呼び方がないものでね」

「……では、こちら側の世界は? さっきいたのがドレミ界というのは聞いていますが……」

「そうね……貴方たちに馴染みのある言葉を使うなら、『精霊界』かしら」

 

 確かにしっくりくる。しかも、精霊界という言葉はアニメの遊戯王でも何度か出てきたワードだ。実際にこの世界でデュエルモンスターズが生きているというのであれば、間違っていないだろう。

 

「そもそも、俺はどうしてドレミ界に転生……? したのでしょうか」

「……これはあくまで推理だけれど」

 

 転生できるかどうかはこの際置いておく。だが、なぜこのドレミ界に転生したのかが未だ謎だ。

 疑問を呈してみると、ミューゼシアは首を傾げながら話を続けた。

 

「あなたは生前、ドレミ界の皆をモチーフにした【ドレミコード】を愛用していた、と言ったわね」

「はい……」

 

 自分たちのカードが人間界で使われる事に関しては、どんな気分なんだろうか。地味に気になるが、今掘り下げるところではない。そして改めて愛用していたと言われると、なんだかこそばゆい。

 

「大切にしたカードには魂が宿る、という話を聞いた事はあるかしら?」

 

 頷く。

 といっても、それはアニメか原作の遊戯王のセリフだったはずだ。現実世界においては、それぐらいの心持ちでカードを大切にしてデュエルに挑め、という啓発みたいなものだが。

 

「あなたがどれぐらい【ドレミコード】を愛用し、大切にしていたかの度合いは、詳しくはわからない。けれどもしかしたら、あなたが大切にしていたからこそ、魂が宿らずともつながりのようなものができて、こちらに転生できたのかもしれないわ」

「……だとしたら、一体誰がどうやって……」

「それは、神のみぞ知ると言ったところね」

 

 精霊界の天使にそう言われたらおしまいだ。

 とりあえず今は、その神の見えざる手によってドレミ界に転生を計らってくれるぐらいには、ドレミコードを愛用していたという事実をありがたく受け取っておく。

 本題はここからだ。

 

「それで俺は、これからどうなるんでしょうか。こちらで決めてくださると、聞いてはいるのですが……」

「そうね。けれど、半分はあなたにも決めてもらう形になるのかしら」

「え?」

 

 言葉の意図が読み取れずにいると、ミューゼシアは自らの左腕に手を添える。そこが輝きを放ったかと思えば、盾のような形のベリー色の機械が左手首に取り付けられていた。こちらが付けているデュエルディスクに酷似している。

 

「本当の事を言うと、あなたを見捨てたくはない。だって、得体の知れない、けれど確実に良いとは言えない存在から、ドレミ界を守ってくれたのだもの」

「……」

「けれど私たちは、天使という種族でもある。そこに人間を受け入れるとどうなるか、どんな作用を引き起こすかも分からないわ。もしかしたら、また別の因縁が内外問わずに生まれるかもしれない」

 

 何となく分かる気がする。

 前の世界でこれに近い話は、国外からの移民の受け入れだろう。弾圧や戦争を逃れた移民は、分け隔てなく受け入れるのが人道的に正しいと言われている。けれど、受け入れ先の国の経済を圧迫したり、治安を悪化させたり、新しい差別を引き起こしかねないと問題視されていた。

 その問題についてどうこうは言えない。だが、来歴が現実離れした身寄りのない人間の俺は、恩義があっても無条件に天使の世界に受け入れるのが少し難しい。国どころか世界、種族が違うのだから仕方ないだろう。

 

「あなたはどうしたい?」

 

 ミューゼシアに問われて、少し考える。

 

「……できるなら、ここに置いていただけるとありがたいです。何せ、死んだ以上人間界にはもう戻れないでしょうし、ここ以外の世界がどうなっているのかも分からなくて……」

 

 多分、もう人間界には帰れない。かといって、ここ以外の世界でこの身一つで生き延びられるかは微妙なところだ。さっきみたいな不審な奴に襲われないとも限らないから。

 ミューゼシアは頷く。

 

「その意思は尊重する。そのうえで、貴方がどんな人となりなのかを、改めて確かめさせてほしい」

 

 そう言ってミューゼシアは立ち上がり、左腕の機械が展開する。ピアノの鍵盤のようなそれは、やはりデュエルディスクのようだ。

 

「デュエルで」

 

 そういう話だった。当然のような流れに、少しだけ笑ってしまうぐらいには余裕ができている。

 

「デュエルを通せば、貴方がどんな人かをより詳しく知る事ができる。皆が皆それができるわけではないけれど、少なくとも私にはそれができるわ」

「……なるほど」

「だけど、これだけは信じてほしい。貴方の事を信用していないわけじゃないの。だけど、確かめさせてもらいたい」

「もちろんです」

 

 クーリアたちには、俺の前世のことはできる限り正直に言ったつもりだ。だけど、それでも知らないところでどんなことをしているのか、本来どんな性格なのかは、言葉だけでは伝えきれない。

 だから行動で、デュエルで示すというわけだ。ミューゼシアには、デュエルで相手が本来どんな人物なのかを知る力があるらしい。疑うのも仕方がないし、証明する手段がそれしかないなら、それを実行する以外ない。

 こちらも立ち上がると、座っていたソファが消える。そして、デュエルがしやすい位置までミューゼシアと距離を取った。

 

「この闘いに勝敗は関係ないわ。どうあっても、貴方の人となりを知り、私たちを脅かす可能性がないと判断すれば受け入れましょう」

「……それができなければ」

「貴方に選択肢を与えるわ。ここでもう一度生を閉じるか、それとも別の世界へ行くかをね」

 

 ただ勝てばいい、という話ではない。

 自分が何者なのかを知ってもらうためには、正直にデュエルをしなければならない。そしてその結果によらず、自分がどういう人かによって結果が変わる。

 これはかなり難しいデュエルになりそうだ。それでも、引き下がるわけにはいかない。むしろ、こうして選択肢を与えてくれる以上は、それにあずからなければ。

 

「承知しました」

「では……」

 

 こちらのデュエルディスクも展開された。

 

「「デュエル!」」

 

■■ LP4000

VS

ミューゼシア LP4000

 

 液晶画面に『FIRST』と表示され、先攻を貰ったのを確認し、カードを5枚引く。

 

「俺の先攻。俺は《ファドレミコード・ファンシア》を召喚!」

 

 フィールドに出現したのは、現実で先ほど俺を助けてくれたファンシア。侵略者とのデュエルでは唯一使用する機会がなかった「ドレミコード」だ。

 

ファドレミコード・ファンシア

ATK1600 レベル4

 

「ファンシアは1ターンに1度、デッキから自身以外の『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1体をエクストラデッキに表側で加えられる。俺は《ドドレミコード・キューティア》をエクストラデッキに」

 

 画面を操作し、デッキからせり出されたキューティアのカードをエクストラデッキに置く。やはり、そこには最初からカードがなかった。

 

「さらにフィールド魔法《ドレミコード・ハルモニア》を発動!」

 

 フィールドゾーンに発動した事で、周囲の景色が変わる。空には五線譜が円を描き、音楽記号や音符が空に浮かび上がる。ミューゼシアはそれらをちらりと見ただけで、こちらに視線を戻した。

 

「ハルモニアは3つの効果を1ターンに1度ずつ使える。俺は1つ目の効果で、エクストラデッキのキューティアを手札に加える。そして、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 実のところ、最初の手札にあったモンスターはファンシアの1枚だけだ。「ドレミコード」で1ターン目にペンデュラム召喚ができないのは、正直なところかなり厳しい。最低限の伏せカードは仕掛けられたが、これがどこまで通用するか。

 

「やはり『ドレミコード』なのね」

 

 1ターン目を見届けたミューゼシアが告げる。どういう意図かは不明だが、よく考えたら、ミューゼシアにしてみればこのデュエルは自分の同胞と戦うようなものだ。これ以外のデッキを持っていないから不可抗力とは言え、申し訳なくなる。

 

「……何分、これ以外のデッキがないので、戦わせてしまうのは忍びないんですが」

「いいえ、気にしないで大丈夫よ」

 

 苦しい言い訳にしか聞こえないだろうが、ミューゼシアは首を横に振った。面目ない、と心の中で謝る。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ミューゼシアのターンに移る。

 《グランドレミコード・ミューゼシア》のカードは前世の【ドレミコード】で3枚投入していた。それぐらいに重要で、愛用していたモンスターと実際にデュエルで戦うというのは、実に不思議な感覚だ。そんな彼女は、どんなデッキなのか。

 

「永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》を発動!」

 

 ミューゼシアがそれを発動すると、地面に赤い絨毯が広がり、周りを取り囲むように石造りの建物が出現する。しかし天井は開いており、ハルモニアによって出現した空が見える。

 けれど気にしているのは、このヴァルハラが発動した後で出てくるモンスターだ。

 

「このカードは1ターンに1度、自分の場にモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚できる。よって、手札の《大天使クリスティア》を特殊召喚!」

「うわぁ……」

 

大天使クリスティア

ATK2800 レベル8

 

 そして、恐れていた通りのモンスターが現れた。

 白金の鎧に赤い翼の天使は、神々しさを醸し出している。そしてそのモンスターから放つ闘気のようなものが、肌に伝わってくる。さっきのデュエルと同じだ。

 

「このクリスティアが存在する限り、私たちはモンスターを特殊召喚できない」

「っ……」

「あなたがペンデュラム召喚を使うのは知っている。だからこうさせてもらったわ。悪いけれど」

 

 特殊召喚の永続的な禁止。これはペンデュラム召喚に限らず、昨今のほとんどのデッキが特殊召喚をするから大いに刺さるものだ。

 侵略者が使っていた《エルシャドール・ミドラーシュ》は、1ターンに1度だけは特殊召喚をさせてくれる。その1回があればペンデュラム召喚はできるし、そうでなくとも何かしら策は打てる。だが、クリスティアはそれさえ許さない。しかも、攻撃力が2800とかなり高く、ちょっとやそっとでは突破できないのだ。破壊耐性を持たない事が唯一の救いと言えるか。

 

「そして、永続魔法《パーシアスの神域》を発動!」

 

 ミューゼシアの背後に、天使をあしらった巨大な石像が出現した。

 

「このカードはフィールド・墓地にある限り、カード名が《天空の聖域》として扱われる。そしてフィールドの天使族モンスターは攻撃力・守備力が300アップし、またフィールドにセットされた魔法・罠カードは効果の対象にならず、効果で破壊されなくなる」

 

大天使クリスティア

ATK2800→3100

 

ファドレミコード・ファンシア

ATK1600→1900

 

 幸いにも「ドレミコード」は全て天使族。おかげで《パーシアスの神域》の恩恵はこちらにも有効だ。

 ただ、オリジナルの《天空の聖域》を使ってくれればとも思う。何せ、あちらは天使族モンスターの戦闘で発生するコントローラーへのダメージを0にする効果があるから、まだこちらも多少安心して戦えたのに。

 

「バトルよ。クリスティアで、ファンシアを攻撃!」

 

 クリスティアが翼を広げると、赤い針のようなものが無数に現れた。ファンシアはそれを見て身構えたが。

 

「罠カード《和睦の使者》発動! このターン、俺のモンスターはバトルで破壊されず、バトルで受けるダメージも0になる!」

 

 赤い針が放たれるも、フィールドを覆う黄色いバリアに弾かれる。直撃を免れたファンシアは胸を撫で下ろしていた。

 

「……あなたの使うドレミコードは、まるで魂が宿っているみたいね」

「そういうものなんでしょうか?」

 

 侵略者のデュエルでも、俺が使った「ドレミコード」たちは言葉を発しなかったものの、何らかのリアクションはしていた。それは演出か何かかと思ったが、事情が少し違うらしい。それも、大切にしてきたから魂が宿る、という話か。

 

「まあいいでしょう。私はモンスターを守備表示でセット。さらにカードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

 メインフェイズ2でモンスターをセット。攻撃向きのモンスターではなかったのだろうか。

 何にせよ、次のターンですべき事は決まっている。あの厄介なクリスティアをどかすことだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたのは《シドレミコード・ビューティア》。良いタイミングで来てくれた。

 

「《ドドレミコード・キューティア》を召喚!」

 

ドドレミコード・キューティア

ATK100→400 レベル1

 

「キューティアが召喚した事により、デッキからキューティア以外の『ドレミコード』1体、《レドレミコード・ドリーミア》を手札に加える!」

 

 これで、ペンデュラム召喚の下準備はできた。しかし、未だクリスティアがいるためそれはできない。

 

「さらに、セットしていた罠カード《ドレミコード・ムジカ》を発動! このカードは、俺のフィールドの『ドレミコード』のペンデュラムスケールの種類によって効果が選べる」

 

 フィールドにいるファンシアの頭上に「5」、キューティアの頭上に「8」と、ペンデュラムスケールを示す数字が現れる。

 

「俺のフィールドには今、奇数と偶数のペンデュラムスケールがある。よって、ムジカの効果でフィールドのカード1枚を対象とし、そのカードを破壊する! 俺はクリスティアを――」

「カウンター罠《神罰》を発動! 《天空の聖域》が存在する時、モンスターの効果・魔法・罠の発動を無効にして破壊する!」

「うっ……」

 

 上空から雷が落ち、直撃した《ドレミコード・ムジカ》が黒焦げになって砕け散る。

 クリスティアを今ので破壊できなかったのはかなり痛い。このデッキは基本ペンデュラム召喚ありきで戦うから、それができなければ二進も三進も行かないのだ。

 一応、まだ破壊する手段はある。だが、それをやるとこれからの展開は上手くいかない。それでも、クリスティアを残しておくわけにはいかなかった。

 

「俺はスケール2の《シドレミコード・ビューティア》と、スケール7の《レドレミコード・ドリーミア》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 侵略者のデュエルの時と同じペンデュラムスケール。2人の「ドレミコード」が、光の柱と共にフィールドに出現した。

 

「キューティアの効果で、ペンデュラムゾーンに偶数のペンデュラムスケールが存在する場合、俺の『ドレミコード』の攻撃力は、自身のペンデュラムスケール1つにつき100ポイントアップする!

 

ドドレミコード・キューティア

ATK400→1200

 

ファドレミコード・ファンシア

ATK1900→2400

 

「さらに、ハルモニアの2つ目の効果を発動。ペンデュラムゾーンの『ドレミコード』のペンデュラムスケールを、ターンの終わりまでそのレベル分上げる。俺が選ぶのは、レベル7のビューティア!」

「……?」

 

シドレミコード・ビューティア

スケール2→9

 

ドドレミコード・キューティア

ATK900→400

 

ファドレミコード・ファンシア

ATK2400→1900

 

 これでペンデュラムスケールは7と9。つまり、ペンデュラム召喚できるのはレベル8のモンスターだけだ。

 ハルモニアの効果を使わない方が、召喚できるモンスターの幅は広かった。その上、偶数のペンデュラムスケールが消えたために、キューティアの効果も消えてしまう。それ以前に、クリスティアがいるためにペンデュラム召喚ができない。一見意味がないプレイングに、ミューゼシアが怪訝な顔をするのも無理はないだろう。

 だが、勿論考えなしにこんな事をしてはいない。

 

「ハルモニアの3つ目の効果を発動! 俺の場の『ドレミコード』のペンデュラムスケールが奇数3種類以上、または偶数3種類以上の場合、フィールドのカード1枚を破壊できる。今度こそクリスティアを破壊!」

「なるほど、そのために……」

 

 ミューゼシアは、敢えてペンデュラムスケールの差を縮めた理由に気づいたらしい。

 空に浮かぶ円形の五線譜の中心から雷が迸り、クリスティアへと落ちる。存在感を主張していた大天使は、粉微塵に消滅してしまった。

 

「フィールドで表側表示のクリスティアは、墓地へ送られる場合デッキの一番上に戻る」

 

 ミューゼシアが説明しながら、クリスティアのカードをデッキに戻した。デッキトップが固定されるのは良し悪しだが、ミューゼシアのフィールドにはまだヴァルハラがある。このターンでセットされているモンスターを破壊し、ダイレクトアタックができたとしても、次のターンにはまた呼び出されてしまうだろう。

 ただ、そうさせるつもりはない。

 

「ファンシアの効果を発動。デッキから《ドドレミコード・クーリア》をエクストラデッキに加える!」

「それは……」

「クリスティアがいなくなった事で、特殊召喚ができるようになった。よって、ペンデュラム召喚! エクストラデッキより現れろ、《ドドレミコード・クーリア》!!」

 

 天空に出現した穴から、頼もしい音階の天使が、微笑とともに君臨する。

 

ドドレミコード・クーリア

ATK2700→3000 レベル8

 

「クーリアの効果を発動。1ターンに1度、相手フィールドの表側表示カード1枚の効果を、次の相手ターン終了時まで無効にする。俺はヴァルハラの効果を無効化!」

 

 クーリアがタクトを振ると、ヴァルハラのカードを取り囲むように緑色の五線譜が渦を巻く。すると、ヴァルハラのカードは石板と化してしまった。

 本来なら、ペンデュラムゾーンに奇数のペンデュラムスケールが存在する事で、クーリアの効果対象は2枚に増やせる。だから、ついでに《パーシアスの神域》の効果を無効にしても良かった。けれど、そうするとこちらの天使族の打点も落ちてしまうし、セットカードを守る効果も(今はないが)こちらの利となり得る。だから敢えて効果は無効にしないでおいた。

 

「バトルだ。ファンシアで裏守備モンスターを攻撃!」

 

 ファンシアがタクトを振るうと、炎を纏った八分音符が回転しながら裏守備モンスターへと向かう。

 ファンシアの今の攻撃力は、下級アタッカーとして申し分ない1900。得体の知れない守備モンスターを、攻撃力400のキューティアで攻撃するのは怖いし、逆に攻撃力3000のクーリアで攻撃するのは勿体ない気がした。

 それも全て、裏守備モンスター次第だ。

 

ジェルエンデュオ

DEF0→300 レベル4

 

 リバースしたのは、フラフープのように光の輪を体に纏う、ピンクと緑の小さなモンスター。守備力は素のファンシアの攻撃力で破壊できるものだったが。

 

「生憎だけれど、《ジェルエンデュオ》は戦闘では破壊されない」

 

 ジェルエンデュオはひらりとその八分音符を避けた。

 戦闘で破壊できないのなら、これ以上攻撃しても意味はない。サンドバッグにする趣味もなかったので、バトルフェイズは終了させた。

 

「俺はこれでターンエンド。エンドフェイズにハルモニアの効果が終了し、ビューティアのスケールは元に戻る。そしてキューティアの効果が有効になり、俺の『ドレミコード』の攻撃力もアップする」

 

シドレミコード・ビューティア

スケール9→2

 

ドドレミコード・キューティア

ATK400→1200

 

ファドレミコード・ファンシア

ATK1900→2400

 

ドドレミコード・クーリア(スケール1)

ATK3000→3100

 

「私のターン、ドロー」

 

 ドローしたのはクリスティアと分かっている。だが、ヴァルハラの効果は無効。最後の未判明の手札1枚で出てきたとしても、次のターンにハルモニアの効果で対処は可能だ。

 さて、どう出るか。

 

「魔法カード《トレード・イン》発動。手札からレベル8のモンスター1体を捨てて、カードを2枚ドローする」

 

 クリスティアを捨てた。最後の1枚は、有能な手札交換カードだったわけだ。

 引いたカードを見て、ミューゼシアは小さく頷く。

 

「《ジェルエンデュオ》は天使族・光属性モンスターをアドバンス召喚する場合、2体分のリリースにできる!」

「!」

「よって私は、《ジェルエンデュオ》をリリースしてアドバンス召喚!」

 

 ピンクと緑の2体のモンスターが、螺旋を描きながら天空の彼方へと消えていく。

 

「現れよ、遥かなる天の彼方より、森羅万象を見通す大いなる力! 《マスター・ヒュペリオン》!!」

 

 そのカードを場に出した瞬間、ミューゼシアの背後から巨大な影が出現した。それは、山かと見紛うほどに大きく、上体を上に向けなければ全貌は望めないほどだ。フィールドにいる『ドレミコード』たちも、その姿を見て驚愕している。

 黄金の装飾が付いた衣に、炎の翼、光の円環を背負っているその姿は、「神」と評しても差し支えないほどに神々しい。

 

マスター・ヒュペリオン

ATK2700→3000 レベル8

 

 

 ミューゼシアと、突然このドレミ界に現れた、人間界から転生したという男。

 その2人のデュエルは、ドレミ界の天使たちも観ていた。

 皆がデュエルを観ているのは、屋敷の食堂。普段は和やかな雰囲気で食事をしたり話し合いをする場であるが、今はデュエルの趨勢を見極めようと、誰もが緊張の面持ちでそれを注視していた。

 ただし、テレビなど現代的なものではなく、ミューゼシアの力で壁に映されたものを観ている。これは、今戦っている男がどんな人物かを、デュエルを通してミューゼシアだけでなく皆にも知ってもらうためだというのが、妖精体を通したミューゼシアの言葉だ。

 

「ミューゼシア様、やる気ですね……」

 

 キューティアが呟くと、ファンシアは黙って頷く。

 男の方は、今のデュエルでもキューティアとファンシアを場に出している。だからと言って、デュエルの衝撃や見たものまでは伝わって来ていない。それでも、戦っている状況だけで緊張感が醸し出されているのはよく分かった。

 

「さて、どうしますかね。彼は」

 

 グレーシアが戦況を見つつ冷静に考えている。ミューゼシアのデッキは知っているが、《マスター・ヒュペリオン》を出したという事は手加減しないという事。推測するに、ここからはミューゼシアの優勢となるだろう。

 そしてクーリアは、何も言わずにそのデュエルを見届けていた。

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