ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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最新弾で【ヌーベルズ】に新規カードが追加されましたが、
今回のデュエルはそれよりも前に執筆したものです。
新弾の内容を反映したものに変更するか悩みましたが、
再構成に時間がかかる事を考慮した結果、そのままとしました。
予めご了承ください。


第31話:借り物

 何かが壊れる大きな音が聞こえた瞬間に、咄嗟に頭を手で覆ってしゃがんだ。そして気が付いたら、地面にうつ伏せになっていた。

 

「何、が……?」

 

 顔を上げて、愕然とする。辺りは瓦礫の山と化していた。さっきまで広がっていた煌びやかな空間は、完全に崩壊している。食器類やテーブルも、最早破片と欠片でしか形を保っておらず、天井見上げれば見えるのは本物の夜空だ。

 

「大、丈夫、ですか……?」

 

 そんな悲痛な声が近くで聞こえたかと思ったら、そこにはポワソニエルが倒れていた。髪を結っていたリボンは千切れ、綺麗な金髪は乱れており、額に血が滲んでいる。体勢的に、俺を庇ったのだと気づいた。

 

「ポワソニエルさんこそ……!」

「私は……普通の人間より、少し頑丈ですから……」

「だからって、無茶しすぎ……ですよ……」

 

 力なく笑うポワソニエルの言葉に、近くの瓦礫から這い出てきたクーベルが苦言を呈する。クーベルもまた無傷とはいかなかったようで、後頭部を押さえている。

 ポワソニエルも元はモンスターだから言い分は分かるが、クーベルの言う通りそう言う問題ではない。ひとまず起き上がってポワソニエルを支え、ハンカチで額の血を優しく拭き取る。

 そして、肝心な事を確かめていなかった。

 

「クーリア様! ミューゼシア様! 皆さん!?」

 

 テーブルを囲んでいたドレミコードたちの姿が見えない。普通に考えたら瓦礫の下敷きになってしまっているはずだ。さっきまでは料理でおかしくなっていたが、気絶していようが気が触れていようが、心配になるに決まっている。だから声を上げたが。

 

『安心しろ、誰も殺してはいない』

 

 返ってきたのは女性の声ではなく、くぐもった男の声だ。しかも聞き覚えがある。

 聞こえたのは上の方。もう一度夜空を見上げると、崩れかけた屋根の上に、いつか見た黒い鎧の男が立っていた。俺が転生して間もなくドレミ界を襲った奴と同じ恰好、背丈もほぼ同じに見える。

 

『でなければ、交渉などできぬからな』

「交渉だと……?」

 

 ポワソニエルを腕で支えながら、黒い鎧の侵略者を睨みつける。そしてその言い方で、さっき屋根が崩れ落ちたのはこいつの仕業だと理解した。

 

「何、者……?」

「……所構わず襲い掛かってきて、世界の平和を乱している奴です」

 

 ポワソニエルは会った事がないらしいので、代わりに答える。すると侵略者は床に飛び降りた。

 

『それは違う。言ったはずだ、我らの目的は歪な世を正し、秩序を成す事だとな』

「狙いは何だ?」

 

 再び立ち上がる侵略者に聞く。目的は、言動が矛盾しているバカバカしい目的は、最早聞き飽きた。

 問いかけると、俺の事を指差す。

 

『我らの目的は今言った通りだが、如何せんまだ力が足りない。そこでまた、もう一度君らと手を組みたいと思ってな』

「受け入れるとでも? こんな状況に陥れて」

 

 ちょっとハプニングが起こり、和やかとは言いがたかったものの、会食自体は楽しい雰囲気だった。それにここは、ポワソニエルやクーベルたちが明確な目的と誇りを胸に構えている場所。それをこんな惨状に変えて、しかも協力を申し立てるなどどうかしている。

 これまでの事も踏まえて、手を組む気など全くなかった。

 

『言っただろう、交渉だと』

 

 だが、そう言って侵略者は次に瓦礫の山を顎で示す。具体的には、ついさっきまでドレミコードのみんなが座っていた場所だ。

 

『協力すれば、彼女たちを助けてやろう。つまり断れば、お前は自分だけの理由で彼女たちを見捨てるという事になる』

「ふざけてんのかテメェ」

 

 久しぶりに乱暴な口を利いた気がする。だけどそれぐらいには、この侵略者のやり口は下衆そのものだ。しかしそう言っても、侵略者は呆れたように首を横に振る。

 

『見捨てる気か? 大切な仲間を』

「ズレたこと言うな。皆は必ず助ける。お前なんかの助けはいらないし、協力もする気はない」

『ほう、見上げた心意気だ』

 

 小馬鹿にするような態度はそのままに、侵略者は左腕を掲げる。

 

『聞き入れないのはある程度予想していた。とはいえこちらも簡単に引くつもりはないのでね。ここはやはり、力で言い聞かせた方が一番のようだ』

 

 そう言って、左腕からブレードが――デュエルディスクが展開した。精霊界に来て随分経ち、こんなふざけた奴は言っても聞かないと学習している。だから結局、決着はデュエルでつけるしかない。

 そう思いながら俺もデュエルディスクを装着しようと、腰に手を伸ばして……

 

「……しまった、デッキ!」

 

 会食の直前にポワソニエルに預けたのを思い出す。その棚の場所は、確か扉のすぐ傍だったはずだ。しかし、店が崩壊してしまったがために分からなくなっている。この世界では命の次の次ぐらいに大事なモノなのに。

 

「バトレアス、さん……こちらを……」

 

 だがそこで、ポワソニエルが何かを差し出してくる。

 魚の形をしたパイ。《ポワソニエル・ド・ヌーベルズ》がカードのイラストで持っているものだと同じだ。こんな状況で何を、と思ったが、よく見るとカードがセットされているそれはデュエルディスクだった。これを使っていい、という事だろう。

 

「私のデッキで、申し訳ないですが……」

 

 しかし問題なのは、デュエルディスクよりもデッキが自分のものではないという事。普通なら、他人のデッキをその場で借りて即座に使うなんて無茶だろう。

 けれど俺は、受け取ったディスクにセットされているポワソニエルのデッキを見て、頷く。

 

「大丈夫です」

 

 このデッキなら大丈夫だ。俺でも十分回せる。

 ポワソニエルは、俺の返事に困惑した様子だったが、詳しく説明している時間はない。ひとまず、怪我をしているポワソニエルを、かろうじて残った壁に背を預けるように座らせる。

 

「バトレアスさん。皆さんの救助は私にお任せください。まずは、あの人を……」

「……すみません。お願いします」

 

 頭を下げるとクーベルは頷いて、先ほどまでクーリアたちがいた場所に行き、少しずつ瓦礫や破片をどかして皆の救助を始めてくれた。

 俺が助けると啖呵を切ったが、時間が経てば経つほど皆の状態も悪化してしまうかもしれない。だから、侵略者と戦う間に救助をしてくれるのはありがたかった。彼女にも、また何かしらの形でお礼をしなければ。

 

『借り物のデッキで戦うとはな。せいぜい、あっさり倒されてくれるなよ?』

 

 そして、鎧の男と向かい合って、ポワソニエルから借りたデュエルディスクを展開する。広がった盤面は、菱形を横に5つ並べた形をしていた。

 

「『デュエル!』」

 

バトレアス LP4000

VS

侵略者 LP4000

 

 デュエルディスクが先攻を示す。このデッキは先攻の方が戦いやすいからありがたい。

 最初の手札5枚を見て、そこそこカードが揃っているのを確認した。

 

「俺から行く。俺は《ポワソニエル・ド・ヌーベルズ》を召喚!」

 

 フィールドに現れるのは、今も瓦礫に背を預けてデュエルを観ているポワソニエルと同じモンスター。けれど、コックコートはきれいに整えられ、髪もリボンでまとめてある。

 

ポワソニエル・ド・ヌーベルズ

ATK700 レベル1

 

「このカードを召喚した時、レベル1の儀式モンスターか、『レシピ』と名のつくカード1枚をデッキから手札に加える事ができる」

 

 デュエルディスクになっている魚の形のパイ。その目が光ると、ARでサーチするカードの一覧が表示された。サーチ候補には、初期からあるレベル1儀式モンスターの《サクリファイス》まであったが、まずはこの状況で使うべきカードを選ぶ。

 

「俺は儀式魔法《Recette de Poisson(ルセット・ド・ポワソン)~魚料理のレシピ~》を手札に加えて、発動! レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、手札・フィールドのモンスターをリリースし、『ヌーベルズ』の儀式召喚を行う。俺はレベル1のポワソニエルをリリース!」

 

 フランス語の部分は完全に日本語の発音になったが、デュエルができれば問題はない。

 フィールドに白い寸胴が現れ、ポワソニエルが白い粒子へと変わってその中へ注がれた。

 

「儀式召喚! 現れろ、レベル1!《ブエリヤベース・ド・ヌーベルズ》!!」

 

 そして、強い光と共に寸胴が破裂し、ことりとフィールドに置かれるグラタン皿。盛られているのはブイヤベースで、その湯気からモンスターが現れる。星の形のバッジを首につける、小さなドラゴンのような薄い赤色の悪魔だ。

 

ブエリヤベース・ド・ヌーベルズ

DEF1850 レベル1

 

「《ブエリヤベース・ド・ヌーベルズ》を儀式召喚した事で、《魚料理のレシピ》の効果により、デッキ・墓地から同名カード以外の『レシピ』と名のつく儀式魔法カードを1枚手札に加える事ができる。俺は《Rucette de Viande(ルセット・ド・ヴィアント)~肉料理のレシピ~》を手札に加える」

 

 そこで手札に加えるカードを選ぶ際、候補に挙がったカードを見て、ポワソニエルもこのデッキに()()()()()を入れているのを確信した。

 

「特殊召喚したブエリヤベース、そしてリリースされたポワソニエルの効果発動! ポワソニエルはフィールドからリリースされてエクストラデッキに表側で加わった場合、ペンデュラムゾーンに置く事ができる」

 

 右側のペンデュラムゾーンにポワソニエルのカードを置くと、光の柱と共にポワソニエルが現れ、ぺこりとお辞儀をする。そのペンデュラムスケールは8だ。

 

「そしてブエリヤベースの効果で、デッキの上から5枚のカードを確認し、その中から『ヌーベルズ』カード1枚を選んで手札に加え、残りはデッキに戻す」

 

 ブエリヤベースがデッキの周りをくるくる漂い、俺はそれを見届けて5枚のカードを確認する。

 《ライトニング・ストーム》、《聖なるバリア-ミラーフォース-》、《コンフィラス・ド・ヌーベルズ》、《ゴースト・ビーフ》、そして《Nouvellez(ヌーベルズ) Auberge(オーベルジュ)À Table(ア・ターブル)』》。来てほしいカードがあった。

 

「俺は《Nouvellez Auberge 『À Table』》を手札に加える。そして、このフィールド魔法を発動!」

 

 そのカードを発動した瞬間、周りの景色がついさっき侵略者が台無しにしたレストランの内装に早変わりする。それでも、床に落ちている瓦礫は消えてくれなかった。

 そこで、クーベルがクーリアを救出したのが見えた。さっきの衝撃で気を失っているらしいが、その姿を見て安心する。そして、この侵略者を何としても倒し、皆にこれ以上の危害を加えられないようにしなければと、決意を固める。

 

「このカードの発動時、効果処理として俺はデッキから『レシピ』カード1枚を手札に加える事ができる。俺は《Recette de Personnel(ルセット・ド・ペルソネル)~賄いのレシピ~》を手札に加える。そしてカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 手札的に展開はこれが限界だが、まずまずの布陣は敷く事ができた。

 あとは、相手がこれに引っかかるかどうかだ。

 

『我のターン、ドロー。我は《影依融合(シャドール・フュージョン)》を発動!」

 

 使おうとしたのは前回と同じカード。つまり前回戦った時と同じ【シャドール】だろうが、こちらの方が仕掛けは整っている。

 

「カウンター罠《Recette de Spécialité(ルセット・ド・スペシャリテ)料理長(シェフ)自慢のレシピ》発動! 俺の場に『ヌーベルズ』の儀式モンスターがいて、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、その発動を無効にする!」

『何?』

 

 《料理長自慢のレシピ》のカードから紫色の靄が溢れ出し、フィールドで発動しようとしていた《影依融合》のカードに纏わりつく。そして《影依融合》は溶けて消えてしまった。

 

『チッ……ならば、《シャドール・ヘッジホッグ》を召喚!』

 

 現れたのは漆黒のハリネズミ。鋭い目でこちらを睨み、さらに背中の針を逆立たせて威嚇してくる。

 

シャドール・ヘッジホッグ

ATK800 レベル3

 

『さらに装備魔法《魂写しの同化(ネフェシャドール・フュージョン)》をヘッジホッグに装備。このカードは装備モンスターを我が宣言した属性に変える。我は水属性を宣言!』

 

 カードが装備されると、ヘッジホッグが青色のオーラに覆われた。

 

『そして《魂写しの同化》のもう一つの効果発動! 装備モンスターを含む我の手札・フィールドのモンスターを素材に、「シャドール」を融合召喚する!』

「水、って事は……」

『我は水属性となったヘッジホッグと、手札の《シャドール・ハウンド》を融合!』

 

 《魂写しの同化》のカードが弾け、融合の渦が出現する。そして、フィールドにいた《シャドール・ヘッジホッグ》と、侵略者の手札から現れた異形の犬がその中へ吸い込まれた。

 どのみち、融合召喚を防ぐ事はできなかった。けれど、最初の《影依融合》を無効にしたため、手数を1つ減らした事にはなっている。ただ、水属性を要求する「シャドール」の融合体は心当たりがあった。

 

『闇に潜む小さき命よ、漆黒を走破する獣と溶け合い、冷厳なる悪魔へと成り果てよ。融合召喚! いでよ、《エルシャドール・アノマリリス》!!』

 

 現れるのは、最初に会った時のデュエルでも見た、真っ白で無感情な顔と、氷のような装飾が特徴的な人形。あれの攻撃を受けた事で、俺はこの世界がデュエルモンスターの世界である事を痛感したのだ。

 

エルシャドール・アノマリリス

ATK2700 レベル9

 

『墓地へ送られたヘッジホッグとハウンドの効果を発動! ハウンドの効果で、フィールドのモンスター1体を対象とし、その表示形式を変更する。《ブエリヤベース・ド・ヌーベルズ》を攻撃表示に!』

 

 ここでならブエリヤベースの効果も使えるが、まだ使うべきではないので、おとなしくブエリヤベースを攻撃表示にさせた。

 

ブエリヤベース・ド・ヌーベルズ

DEF1850→ATK400

 

『さらにヘッジホッグの効果で、デッキから《シャドール・ビースト》を手札に加える』

 

 そして侵略者は、愉しそうに俺を指差してきた。

 

『このアノマリリスがいる限り、我らは互いに魔法・罠カードの効果でモンスターを手札・墓地から特殊召喚できない。つまり、貴様の儀式召喚は永久に封じられたというわけだ!』

 

 どうやら、儀式召喚をした事や、儀式召喚にまつわる効果を使った事で、このデッキが儀式召喚メインであると踏んだらしい。最初に戦った時と比べると洞察力が高い気がする。別個体だろうか。

 

『バトル。アノマリリスでブエリヤベースを攻撃! アノマリー・アイシクル!!』

 

 アノマリリスが腕を広げると、巨大なつららがいくつも出現した。

 だが、その攻撃は通らせない。

 

「この瞬間、ブエリヤベースの効果発動! このカードが攻撃・効果の対象になった時、このカードと、フィールドの他の攻撃表示モンスター1体をリリースして、手札・デッキからレベル2または3の『ヌーベルズ』儀式モンスターを儀式召喚する!」

『何!?』

 

 ブエリヤベースがけたけた笑うように鳴きながらその姿を消し、同じくアノマリリスも姿が粉雪のように消え去る。

 確かにこのデッキは儀式モンスターを多用するし、普通に儀式召喚をする機会もある。けれど、「ヌーベルズ」はただの儀式召喚デッキではなく、儀式召喚以外の方法でも儀式モンスターを新たに呼び出せる。ブエリヤベースのこの効果がその証だ。

 

「デッキより現れろ、レベル3!《ポワレティス・ド・ヌーベルズ》!!」

 

 新たにフィールドに静かに置かれたのは、魚料理のポワレが載ったランチプレート。その湯気から、耳の上に長い緑の角を生やす、タキシードを着た白い肌の青年が現れる。右胸には、星の形のバッジが3つついていた。

 

ポワレティス・ド・ヌーベルズ

DEF1850 レベル3

 

『ちっ……アノマリリスが墓地へ送られた事で効果発動。墓地の《魂写しの同化》を手札に戻す』

「こちらもポワレティスの効果を発動。このカートが特殊召喚した時、カードを1枚ドローする」

 

 侵略者は、目論見が外れて攻撃も止められた事が腹立たしいらしい。だが、こちとらせっかくの会食の場を無茶苦茶にされたのだ。この程度はお相子どころかジャブ程度だ。

 さて、こちらもドローしたカードを見るが、それなりにいいカードだ。

 

『我はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ』

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードは、儀式モンスターの《バラムニエル・ド・ヌーベルズ》。今の状況では儀式召喚できないが、それでも腐る事はない。

 

「『À Table』の効果発動! 1ターンに1度、手札の儀式モンスター1体をデッキの一番下に戻し、1枚ドローする」

 

 今引いたバラムニエルをデッキの一番下に戻して、また1枚ドローする。どうせまたすぐにデッキはシャッフルされるし、一番下に戻っても大した問題にはならない。

 だが、新たに引いたのは、手札に来ても少し扱いに困るカードだ。しばらく使い道はなさそうなので、仕方なくフィールドにあるカードだけで戦うしかない。

 

「ポワレティスを対象に、ペンデュラムゾーンのポワソニエルの効果発動! このカードを特殊召喚し、ポワレティスの表示形式を変更する」

 

ポワレティス・ド・ヌーベルズ

DEF1850→ATK1200

 

 ポワレティスがどこからともなく長剣を取り出し、攻撃の意思を見せるとともに、光の柱にいたポワソニエルがフィールドに降り立った。

 

ポワソニエル・ド・ヌーベルズ

ATK700 レベル1

 

「そして、特殊召喚したポワソニエルの効果により、デッキから《料理長自慢のレシピ》を手札に加える」

 

 手札に加えるのは、このデッキでは有能なカウンター罠。ただ、このデッキにはさっき使ったのと合わせて2枚しか入っていないので、無駄遣いは避けなければ。

 

「さらに、永続罠《賄いのレシピ》発動! フィールドの儀式モンスター1体を対象に、そのモンスターと同じレベルの『ヌーベルズトークン』1体を特殊召喚する!」

 

 対象に選ばれたポワレティスが胸に手を当ててお辞儀をする。

 その直後。

 

「ポワレティスの効果発動! フィールドのモンスターが攻撃・効果の対象になった時、自分フィールドの『ヌーベルズ』とフィールドの他の攻撃表示モンスターをリリースし、デッキからレベル4または5の『ヌーベルズ』儀式モンスターを儀式召喚する!」

『またか……!』

 

 侵略者が忌々しそうに言うが、気にしない。

 ポワレティスとポワソニエルをリリースし、デッキから呼び出すのは。

 

「現れろ、レベル4!《フォアグラシャ・ド・ヌーベルズ》!!」

 

 現れたのは、さっき実際に料理として俺たちに提供されたフォアグラ。その湯気から、黒い大きな翼を広げ、赤い紳士服に身を包んだ赤髪の男が現れた。胸には星型のバッジを4つつけている。

 

フォアグラシャ・ド・ヌーベルズ

ATK1600 レベル4

 

「そして《賄いのレシピ》の効果で、レベル3の『ヌーベルズトークン』を特殊召喚!」

 

 フォアグラシャの隣に現れたのは、美味しそうな湯気の立つグラタン。その湯気の中に、ブエリヤベースのようなシルエットが浮かび上がるが、全貌は明らかにならなかった。

 

ヌーベルズトークン

ATK50 レベル3

 

「リリースされたポワソニエル、そして特殊召喚したフォアグラシャの効果発動。フォアグラシャの効果で、互いの墓地のカードを合計3枚まで選び、デッキに戻す! お前の墓地のヘッジホッグ、ハウンド、《影依融合》をデッキに戻してもらう」

『ならば、永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地の《シャドール・ハウンド》を特殊召喚!』

「む……」

 

シャドール・ハウンド

ATK1600 レベル4

 

 魔法陣が出現し、中から異形の犬が姿を現すと遠吠えを上げた。けれど、対象となった他の2枚は侵略者のデッキに戻る。

 

「そしてポワソニエルの効果で、自身をペンデュラムゾーンに置く」

 

 再び光の柱の中に現れるポワソニエル。往復させて申し訳ないと思いつつ見上げると、気にしていないようにこちらを見て首を横に振り、微笑んだ。

 さて、攻撃力の高いアノマリリスではなく、《シャドール・ハウンド》を呼び出した侵略者。その狙いはおおよそ見当がつくが、それでも臆さずに戦う事にした。

 

「バトル。俺はフォアグラシャで《シャドール・ハウンド》を攻撃。そして、フィールドのモンスターが攻撃対象になった事で、フォアグラシャの効果発動!『ヌーベルズトークン』と、お前の《シャドール・ハウンド》をリリースし、デッキからレベル5または6の『ヌーベルズ』儀式モンスターを特殊召喚する!」

 

 フォアグラシャが指を鳴らすと、選ばれた2体のモンスターがフィールドの中央に吸い寄せられ、やがて光に変わる。

 

「現れろ、レベル5!《バラムニエル・ド・ヌーベルズ》!!」

 

 フィールドに現れるムニエルが載ったプレート。その湯気から、右腕に青い鷹、左腕に赤い熊の幻影を宿す、薄い水色の髪とクリーム色の紳士服が特徴的な男が現れた。その胸には5つの星型のバッジが取り付けてある。

 

バラムニエル・ド・ヌーベルズ

ATK2000 レベル5

 

「バラムニエルの特殊召喚が成功した時、効果発動! デッキから『ヌーベルズ』または『レシピ』カード1枚を手札に加える事ができる」

『こちらは墓地へ送られた《シャドール・ハウンド》の効果発動! バラムニエルを守備表示にする!』

 

 呼び出されて早々守備を余儀なくされ、バラムニエルは不服そうな表情になる。

 《シャドール・ハウンド》を蘇生させたのは、フォアグラシャと攻撃力が同じが故に俺の攻撃を躊躇させ、除去されても攻撃の手数を減らし、ダメージの減少が見込めるからだ。やはり、この侵略者は少し腕が立つと見える。

 

バラムニエル・ド・ヌーベルズ

ATK2000→DEF1850

 

「だがバラムニエルの効果で、俺はデッキから《コンフィラス・ド・ヌーベルズ》を手札に加える」

 

 状況的に仕方ないとはいえ、レベル1のブエリヤベースから、いきなりレベル3のポワレティスを呼び出した。正規の儀式召喚で呼び出していない以上、レベル3以上の『ヌーベルズ』儀式モンスターは蘇生札を引けても蘇生できない。であれば、対となる儀式魔法が既に手札にあるコンフィラスを手札に加えた方が良い。

 

「俺はフォアグラシャでダイレクトアタック!」

 

 そして忘れてはいけないが、今はまだバトルフェイズ。唯一攻撃できるフォアグラシャに攻撃するよう言うと、両手を胸の前で構えて赤い光の弾を生み出し、それを侵略者へと放った。

 

「ぐっ……!」

 

侵略者 LP4000→2400

 

 そこそこのダメージが与えられただけで今は十分だ。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。そしてこのエンドフェイズに、『À Table』の効果発動! 墓地の『レシピ』カードを含むカード2枚を好きな順番でデッキの一番下に戻し、カードを1枚ドローできる。俺は《魚料理のレシピ》とポワレティスを戻す」

 

 蘇生制限を満たしていないモンスターは優先的にデッキに戻して再度利用できるようにする。そして今引いたカードは、相手の攻撃に反応する罠カード。できれば、さっき引きたかった。

 

「これは、どういう事……?」

 

 その時、ミューゼシアの声が聞こえた。見れば、未だに気を失っているクーリアの隣で横になっていたミューゼシアが体を起こし、額を押さえながら俺を見ている。クーベルが助け出してくれたのだ。

 

「あいつが店を壊したんです。前に俺たちを襲ったのと同じ奴」

「なるほど……」

 

 ミューゼシアも事情を把握したようだ。痛みのせいだけではなく、不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、侵略者を睨みつける。そう言えば、ミューゼシアは侵略者を見るのは初めてだったか。

 

『我のターン、ドロー』

 

 だが、侵略者は気にも留めずドローする。引いカードに目を落としてから、こちらを見て鼻息を吐いた。

 

『借り物のデッキだが、少しはできるようだな』

「……確かに、プレイングに、迷いが……ありませんね」

 

 侵略者の言葉に同意したのは、後ろで観ていたポワソニエル。彼女も意識ははっきりしているようで安心だ。

 そして、このデッキも元はポワソニエルのもの。それでもこうしてスムーズに回せているのは、俺が前世で【ヌーベルズ】を組んでいたからだ。デッキの構成はやや違うものの、基本的な動きは頭に入っている。そうでなければ、さぞ拙いデュエルになっていた事だろう。

 【ヌーベルズ】を組んだ理由は、儀式モンスターメインのデッキを持っていなかったのが大きい。それに、レベルが徐々に上がっていく儀式モンスターと、コース料理を掛け合わせたそのコンセプトが面白そうだったので、組むに至った。

 

『だが、それもここまでだ。我は速攻魔法《超融合》発動!』

「ここで来るか……!」

 

 この状況で侵略者が使ってきたカードは、非常に厄介なもの。最初のデュエルでも、あのカードによって形勢は崩された。

 

『このカードは、手札を1枚捨てる事で、互いのフィールドのモンスターを素材に融合召喚を行う!』

「……ま、さか」

『勿論、お前のフィールドのモンスターのみを素材に融合召喚する事も可能!』

 

 効果を聞いてポワソニエルが戦慄し、侵略者は得意げに両腕を広げる。コストとして手札から捨てたのは、《シャドール・ビースト》だった。

 ちらと、伏せてあるカードに視線を移すが。

 

『《超融合》に対して効果は使えない。貴様の《料理長自慢のレシピ》も発動できんぞ!』

 

 侵略者が釘を刺してきた。分かってはいたが。

 

『我は、貴様のフィールドのバラムニエルとフォアグラシャで融合!』

 

 バラムニエルとフォアグラシャを生み出していた料理の皿が、フィールドに出現した融合の渦に吸い込まれる。2人の青年は、抵抗しながらも引きずり込まれてしまった。

 融合素材になったモンスターは、2体とも「闇属性」。となれば、出てくるモンスターは……。

 

『欲の権化たる愚民ども。飢えた牙持つ毒竜の糧となり、その命存分に捧げよ。融合召喚! 来い、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!!』

 

 現れるのは、毒々しい紫色の身体のドラゴン。脚や翼の各所に赤と黄色のコアが埋め込まれ、濁った咆哮を上げる口からは牙が覗き、涎を滴らせている。

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK2800 レベル8

 

 効果やステータスだけでなく、出自を考えるとこのモンスターはかなり危険な部類に当たる。しかしながら、その融合素材は「トークン以外のフィールドの闇属性モンスター2体」と、緩いと言えば緩い。「ヌーベルズ」が闇属性で統一されているのが仇となってしまった。

 

『貴様の下僕が料理をあしらったのであれば、この飢えた毒竜の糧になれるのも本望だろう! スターヴ・ヴェノムでダイレクトアタック! 猛毒のリーサルブラスト!!』

 

 スターヴ・ヴェノムが咆哮を上げると、至る所に埋め込まれたコアが光を放ち始め、雷を発生させる。それらが束になって電撃となり、俺に向かって放たれた。

 

「ぐああああああああ……っ!!」

 

バトレアス LP4000→1200

 

 全身に痺れが走り、身体が変に強張る。さらに、ヌーベルズの料理を食べた時とはまた違う、頭の中に靄がかかるような妙な浮遊感。流石、四天の竜が放つ攻撃は段違いだった。

 

「バトレアス……!」

「大丈夫、ですか……?」

「……どうにか」

 

 ミューゼシアとポワソニエルが不安そうにするが、俺は気丈に笑って見せる。痩せ我慢なのは百も承知だ。そして横目に、クーベルがドリーミアとエリーティアを助け出したのが見えた。

 

『我はモンスターを守備表示でセットし、ターンエンドだ』

「俺のターン……ドロー!」

 

 頭を振って痺れをどうにか逃がしつつ、ドローする。

 手札はこれで7枚。にもかかわらず、手札のモンスターはコンフィラスだけ。呼び出せる儀式魔法があっても、リリースできるモンスターがいなければ意味はない。《賄いのレシピ》もフィールドに儀式モンスターがいなければトークンが生成できないため、これも今は使えなかった。

 仕方がない。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド……」

『さっきまでの勢いはどうした?』

 

 バカにするように首を振りながら、侵略者はドローする。この手札で何をすべきかを悩んだ結果がこれだ。借り物のデッキで、回し方が分かっているとはいえ、引きがよくなければこういう策を取らざるを得ない。

 

『我のターン、ドロー!』

 

 ドローしたカードを、侵略者は即座にフィールドに出した。

 

『速攻魔法《サイクロン》発動。一番左に伏せられたカードを破壊する!』

 

 吹き荒れた竜巻によって、セットしていた《料理長自慢のレシピ》が破壊されてしまう。使いやすいカウンター罠がなくなってしまったのは少し痛い。

 

『さらに、セットしていた《シャドール・ファルコン》を反転召喚!』

 

 裏側守備表示になっていたモンスターが表になり、丸いフォルムの黒いハヤブサが鳴き声を上げた。

 

シャドール・ファルコン

ATK700 レベル2

 

『そして、この《シャドール・ファルコン》がリバースした事で効果発動。墓地の《シャドール・ビースト》を裏側守備表示で特殊召喚!』

 

 魔法陣が現れ、墓地にいる暗い色合いの四足獣がフィールドに現れ、すぐに裏守備表示状態になる。

 

『装備魔法《魂写しの同化》を《シャドール・ファルコン》に装備し、我は光属性を宣言!』

 

 最初のターンにも発動した装備魔法。今度は《シャドール・ファルコン》が黄色いオーラに覆われた。そして、光属性モンスターという事は。

 

『《魂写しの同化》の効果を発動し、《シャドール・ファルコン》と裏側表示の《シャドール・ビースト》で融合!』

 

 《シャドール・ビースト》が再び姿を現し、空に現れた融合の渦に《シャドール・ファルコン》と共に跳びあがった。

 

『闇夜に飛び立つハヤブサよ、常闇に吠える獣とひとつとなり、荘厳なる特異点の光となれ。融合召喚! 現れよ、レベル8!《エルシャドール・ネフィリム》!!』

 

 融合の渦が光を放ち、出てきたのは深い青色の身体と白い顔の人形。背中からは紫の糸が天使の羽のように伸びた、不気味なモンスターだ。

 

エルシャドール・ネフィリム

ATK2800 レベル8

 

 《エルシャドール・ネフィリム》は、【シャドール】を組んでいなくても名前だけは聞いた事があるほどに有名なモンスターだ。ペンデュラム召喚が新たに実装されたのと同時期に登場し、「シャドール」の効果を存分に活用できるような効果を持っている。

 ただ、強すぎたがゆえに環境で暴れまくり、一時は禁止カードに指定されてしまった。その後、通称「ネフィリム返しておじさん」を量産する事になった記憶がある。

 つまり、そんなモンスターが出てきてしまったのは、かなりまずい。

 

『素材として墓地へ送られた《シャドール・ビースト》、さらに特殊召喚したネフィリムの効果発動。ネフィリムの効果で、我はデッキから《シャドール・ドラゴン》を墓地へ送る。そしてビーストの効果で1枚ドローする』

 

 呼び出したネフィリムの効果でまず「シャドール」を墓地へ送る侵略者。墓地肥やしと、「シャドール」の効果を状況に応じて活かせるこの効果は、まさに「シャドール」の必須と言っていいだろう。さらにドローしたカードに一度視線を落としてから、侵略者は腕を突き出す。

 

『効果で墓地へ送られた《シャドール・ドラゴン》の効果を発動! 今度は右側のカードを破壊する!』

 

 フィールドに現れた魔法陣から黒い糸が伸び、右側に伏せられたカードを刺し貫く。それは《ドレインシールド》。攻撃を無効にしてその攻撃力分のライフを回復するカードで、さっきのターンのエンドフェイズに「À Table」の効果でドローしていたものだ。

 

『それで回復するつもりだったのか。残念だったな』

「ちっ……」

『バトルだ。ネフィリムでダイレクトアタック! シルク・オブ・セイバー!!』

 

 ネフィリムが両腕を広げると、背中から生える紫の糸が無数に伸びてくる。

 

「バトレアス、さん……!」

 

 絞り出すようなポワソニエルの声が聞こえた。この攻撃を喰らえば俺は負けてしまうからだろう。

 勿論、そんなつもりはない。

 

「カウンター罠《攻撃の無力化》! モンスターの攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了する!」

『チッ……』

 

 バリアが俺のフィールドを覆い、ネフィリムの背から伸びる糸は弾かれ、どうにか攻撃を凌ぐ事ができた。さっきのターン最初にドローしたカードだったが、これで防御用のカードもなくなってしまった事になる。

 

『だが、同じ手が二度通用すると思うなよ。我はカードを1枚伏せてターンエンド』

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