バトレアス LP1200 手札5
【モンスターゾーン】
カード無し
【魔法&罠ゾーン】
【ペンデュラムゾーン】
右:ポワソニエル・ド・ヌーベルズ スケール8
【フィールドゾーン】
侵略者 LP2400 手札0
【モンスターゾーン】
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン ATK2800 レベル8
エルシャドール・ネフィリム ATK2800 レベル8
【魔法&罠ゾーン】
リビングデッドの呼び声
伏せカード1
「……俺のターン」
同じ手は二度通用しない。
侵略者の言葉は聞くに堪えないが、その言葉に限ってはその通りだ。さっきは偶然いいカードが手札にあったから凌げたものの、今の手札では防御ができない。
手札のモンスターは、《コンフィラス・ド・ヌーベルズ》1体のみ。後は《
とはいえ、こちらにも背負うものが色々とある。そしてデュエリストである以上、簡単に勝負を投げ出したりはしない。
「ドロー!」
引いたカードを見て。
「……ん?」
残りの手札も見る。
侵略者の伏せカードは1枚だけ。フィールドにはネフィリムとスターヴ・ヴェノムがいずれも攻撃表示。
これは、行けるか……?
「ああ――――っ!!」
そんな思考を叩き切るような叫び声。
何事か、すぐさまそちらに視線を向けるが、そこにはクーベルに支えられているファンシアがいた。横たわるドレミコードや、崩れた瓦礫を見渡して、デュエルをしている俺たちを見て、驚きの表情が顔にへばりついている。
「何、どうしてこんな事に……お前の仕業か!」
侵略者の姿を認めると、ファンシアの語気が強まった。活発な彼女も、怒るとそんな感じになるのか。
「許せない……ボクはまだ、デザートを食べてなかったのに!」
「『……ん?』」
なんとなく論点がズレている気がするファンシアの言葉に小首を傾げる。俺だけでなく、侵略者まで。
「ここで食べる料理、全部美味しかった! だからきっと、デザートだって美味しいはずなのに! しかも、こんな素敵な店を全部めちゃくちゃにするなんて!」
「ファンシア様……」
「何より今日は、クーリア様とバトレアスさんのお祝いだった! それをこんな風にするなんて……!」
拳を握り、涙ぐみながら怒りを露わにするファンシア。
ファンシアも「À Table」のサービスを受けて、思うところがあったらしい。それに彼女も、料理に舌鼓をうっていたのは見ている。
さらにファンシアは、俺やクーリアの事を案じてくれている節が前にも見えた。だからこそ、今日という日を喜ばしく思い、今に憤慨している。その怒りは、十分に伝わってくる。
『……そうか。で、戦う術を持たないお前には何ができる? ただ喚き散らかすだけか?』
「ファンシア様」
だがファンシアの心の叫びは、侵略者には少しも響かなかった。見下すような言葉に反応しようとする前に俺が名前を呼ぶと、ファンシアは肩を震わせながら俺を見た。
「他の皆さんを助けてください。それで、俺も何の心配もなく戦えます」
「協力して、ファンシア」
デュエルに参加できない以上、今は一人でも多く、早く助け出す事だ。俺も崩落に巻き込まれた皆が気になっているので、そちらに専念してくれれば俺もデュエルに集中できる。
ミューゼシアもファンシアの肩に手を添える。クーベルはファンシアに視線を投げかけた。
「バトレアスさん……お願い。絶対にあいつを倒して」
「勿論です」
その懇願は、最早自分で成し遂げると誓っている。力強く頷いてみせると、ファンシアはミューゼシアたちと一緒に、他の人の救助に取り掛かった。
そして俺は、侵略者を見る。
楽しい時間を壊されて怒っているのは俺も同じ。それに、今日はクーリアの祝いの席でもあった。それを自分たちの都合で邪魔し、無関係の「ヌーベルズ」たちまで巻き込む所業は到底許せない。
だから俺は、ひとつ深呼吸をして、手札のカードに手をかける。
「永続魔法《昇華する魂》を発動。さらに、儀式魔法《肉料理のレシピ》を発動! 手札のレベル4の《センジュ・ゴッド》をリリースし、儀式召喚!」
墓地へ送られるのは、無数の腕を生やした金色の仏像。そしてフィールドには美味しそうな肉料理が現れ、赤い身体に角を生やすずんぐりむっくりとした体の悪魔のようなモンスターが、その湯気から現れた。
「現れろ、レベル2!《コンフィラス・ド・ヌーベルズ》!」
コンフィラス・ド・ヌーベルズ
DEF1850 レベル2
「この瞬間《昇華する魂》、そして儀式召喚したコンフィラスの効果発動! コンフィラスの効果で、お前のフィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を破壊する!」
『ならば我はそれに対し、このセットされている《
伏せられていたのは、【シャドール】においては強力な罠カード。しかし、出てくるモンスターが何であれ、この隙にできる事はやっておく。
「コンフィラスを対象に《賄いのレシピ》の効果発動! そのモンスターと同じレベルの『ヌーベルズトークン』を特殊召喚する。そして効果対象になった事で、コンフィラスの効果発動! このカードと、お前のフィールドのスターヴ・ヴェノムをリリースし、デッキからレベル3の《ポワレティス・ド・ヌーベルズ》を特殊召喚する!」
コンフィラスが手に持った三叉を振りながら姿を消し、スターヴ・ヴェノムは咆哮を上げながら光の粒子と化して消失する。あのスターヴ・ヴェノムは、破壊されるとフィールドの特殊召喚されたモンスターを道連れにする効果があるが、リリースなら躱せる。
そしてフィールドには、タキシードを着た青年のような白い悪魔、その姿が湯気に浮かぶ魚料理が現れた。
ポワレティス・ド・ヌーベルズ
DEF1850 レベル3
「そして『ヌーベルズトークン』を特殊召喚!」
逆順処理で、何らかのシルエットが浮かぶ湯気を立たせるグラタン皿がフィールドに出現する。
ヌーベルズトークン
DEF50 レベル2
『我は墓地の《シャドール・ファルコン》と《エルシャドール・アノマリリス》で融合!』
続いて侵略者の処理が始まる。フィールドに出現した魔法陣から、丸いフォルムの黒いハヤブサと、氷の意匠が目立つ白い人形が現れ、天井に広がる融合の渦へと飲み込まれる。
『闇夜に飛び立つハヤブサよ、冷厳なる悪魔の骸に溶け込み、深淵より異形を呼び覚ませ。融合召喚! いでよ、《エルシャドール・アプカローネ》!!』
融合の渦が光り輝き、鏡のついた杖を持ち、明るい水色の髪をなびかせる下半身が魚の人形だ。
エルシャドール・アプカローネ
DEF2000 レベル6
そしてその表示形式は守備表示。こちらの「ヌーベルズ」の効果に対処するためか。
『さらに《影依の偽典》の効果で、特殊召喚したアプカローネと同じ、闇属性の相手モンスター1体を墓地へ送る。消え去れ、ポワレティス!』
侵略者が指さすと、アプカローネの持つ杖の鏡から青色の糸が無数に伸び、湯気に浮かぶタキシード姿の青年を刺し貫く。そうして、ポワレティスは消え去ってしまった。
しかし、コンフィラスの効果は有効であるため、《影依の偽典》も即座に破壊される。
「《昇華する魂》の効果で、儀式召喚のためにリリースされた《センジュ・ゴッド》を手札に戻す」
たった今墓地へ送られたモンスターが手札に戻り、チェーン処理は終了する。
だが、そこで侵略者がさらに動いた。
『特殊召喚したアプカローネの効果発動! 貴様のペンデュラムゾーンのポワソニエルの効果を無効にする!』
侵略者が指さすと、アプカローネの杖から水色の糸が伸びて、光の柱の中にいるポワソニエルを縛り上げてしまった。ポワソニエルは、苦しそうに頭を垂れてしまう。
侵略者が伏せていたカードが《影依の偽典》なのは、可能性のひとつとして考えてはいたものの、本当に伏せているとは思わなかった。そして、アプカローネでポワソニエルの効果を無効にしたのは、これまでに何度もポワソニエルの効果を使ってきたから、万一に備えてという事でもあるのだろう。
とはいえ、こちらの展開は封じられたわけではないため、手札を切っていく。
「《センジュ・ゴッド》を召喚!」
再び姿を現した金色の仏像。色だけでなく、歴史的価値のある見知った仏像がフィールドに現れたので、神々しさも感じられる。
センジュ・ゴッド
ATK1400 レベル4
「《センジュ・ゴッド》が召喚した事で効果発動! デッキから儀式モンスター1体を手札に加える」
ここで選ぶカードは、手札と墓地のカードを考えれば、最早一択。
「俺は《ハングリーバーガー》を手札に加える!」
『何?』
「そして儀式魔法《ハンバーガーのレシピ》を発動! レベルの合計が6以上になるように手札・フィールドのモンスターをリリースし、《ハングリーバーガー》を儀式召喚する!」
《ハンバーガーのレシピ》のカードから巨大なフライパンが現れ、フィールドにいる《センジュ・ゴッド》と『ヌーベルズトークン』が赤い粒子となってフライパンに注がれ、火の手が上がった。これが儀式召喚の演出らしい。
「悪魔的なその美味さ、侮る相手にとくとおみまいしてみせよ! 儀式召喚! 現れろ、レベル6!《ハングリーバーガー》!!」
そして、フライパンからより大きな炎が上がり、現れたのは巨大なハンバーガー。バンズから歯が伸びているが、その間に挟まるトマト、パティ、レタスはいずれも美味しそうで、バンズに刺さった旗は力強くはためいている。
ハングリーバーガー
ATK2000 レベル6
『くっ、はははははははははははっ!』
だが、その直後に侵略者は笑い出した。
可笑しくて、バカバカしくて仕方がない、という風な笑い方だ。
『血迷ったか! この状況でそんな
「……」
『《センジュ・ゴッド》の効果でもっとマシなモンスターを手にすればよかったものを、この局面でそんなカードを選ぶとはな!』
そう言って、侵略者はまた大声で笑った。
《ハングリーバーガー》は、今までフィールドに出してきた「ヌーベルズ」の儀式モンスターと違い、何の効果も持たない。遊戯王の初期からあるバニラ儀式モンスターで、以前ブライターが使った《仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー》や《ゼラ》と同じだ。けれど、ステータスは圧倒的にこちらが低い。ともすれば、同時期からある上級バニラモンスターにも劣るほどだ。
だから、《ハングリーバーガー》は使えないカードの烙印を長年押されてきた。事実、アニメでも「クズカード」呼ばわりされてしまっている。だからこそ、侵略者はこの状況で呼び出されたのが滑稽に見えるのだろう。
「……ふふっ」
笑い声がかすかに聞こえ、ちらっと後ろでデュエルを観ているポワソニエルを見る。
彼女もまた、傷が痛むのか腕を押さえてはいるものの、笑っていた。
しかしその笑顔は、俺や今現れた《ハングリーバーガー》をバカにしているのではない。このデッキの持ち主であるからこそ、俺の狙いに気付いているのだ。そして、侵略者が何も知らずに笑っている事こそが、可笑しいのだろう。
侵略者がひとしきり笑ったところで、俺はにやけながら告げる。
「……こんな状況だからこそ、《ハングリーバーガー》を呼んだのには理由がある。そうは考えられないか?」
『何?』
そして俺は、墓地にあるカードを操作した。
「墓地の《
『何!?』
侵略者の顔はフルフェイスの鎧で見えないが、さぞや驚いている事だろう。直にその顔が見たかったものだ。
魔法陣から《料理長自慢のレシピ》のカードが現れ、そこから無数の棘が放たれる。よく見るとそれは、《ハングリーバーガー》から生えている牙に似ていた。
ネフィリムとアプカローネは表情一つ変えず腕や杖で防ごうとしたが、どちらも抵抗虚しくリリースされてしまった。
『小癪な! 墓地へ送られたアプカローネとネフィリムの効果発動! ネフィリムの効果で墓地の《影依の偽典》を手札に戻す! そしてアプカローネの効果で、デッキから《
しかし、侵略者は毒づきながらもカードをプレイする。「シャドール」の融合体の効果で、墓地の強力な罠カードをサーチしつつ、さらにリクルーターを墓地へ送った。
『墓地へ送られたウェンディの効果発動! こいつが効果で墓地へ送られた場合、デッキから自身以外の「シャドール」1体を裏側守備表示で特殊召喚する! 現れろ、《
フィールドにほんの少しだけ姿を見せる、炎の鎧を纏った騎士。それはすぐに裏側守備表示になってしまう。
《料理長自慢のレシピ》による不意打ちは成功したものの、これだけではまだ流石に押し切る事はできないか。
「俺は魔法カード《貪欲な壺》を発動。墓地の《センジュ・ゴッド》とコンフィラス、ポワレティス、フォアグラシャ、バラムニエルの5体をデッキに戻し、2枚ドローする!」
このターンで墓地にいるモンスターが6体になったため、1ターン目から腐っていた最後の手札をようやく使う事ができた。料理店だから墓地へ行った
そして、ドローした2枚を見て頷く。
「速攻魔法《
『?』
「デッキの《ポワソニエル・ド・ヌーベルズ》を俺のフィールドに、エクストラデッキの《聖菓使クーベル》をお前のフィールドに特殊召喚!」
発動したカードに描かれているのは、各々料理を手に火花を散らしてにらみ合っているポワソニエルとクーベル。そのイラストの通りに、フィールドにその2体を呼びだす。
「……クーベル様、しばしの辛抱を」
「構いません。存分にどうぞ」
フィールドに現れる直前で、救出したドレミコードの介抱をするクーベルに声を掛ける。効果的に仕方がないとはいえ、敵の場に召喚させてしまうのは少し心苦しい。すぐに解放する事を約束して、侵略者の場に召喚させた。
聖菓使クーベル
ATK1700 レベル5
ポワソニエル・ド・ヌーベルズ
ATK700 レベル1
『貴様、一体何の真似だ?』
どうやら、俺がわざわざ侵略者のフィールドにモンスターを召喚させた事に違和感を抱いているらしい。だが、言葉ではなく行動で答えは示す。
「特殊召喚したポワソニエルの効果発動! デッキからレベル1の《ブエリヤベース・ド・ヌーベルズ》を手札に加える。そして、《賄いのレシピ》のもう一つの効果発動! このカードを墓地へ送り、レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように手札・フィールドのモンスターをリリースして、手札の『ヌーベルズ』を儀式召喚する!」
今までトークン生成と「ヌーベルズ」の効果を能動的に発動させる事に貢献してくれた事に感謝しながら墓地へ送り、同時にフィールドのポワソニエルも姿を消す。
「儀式召喚! レベル1、《ブエリヤベース・ド・ヌーベルズ》!」
1ターン目ぶりに現れる、ブイヤベースの盛られた皿。その湯気から、トカゲのような薄い赤色の悪魔が姿を見せた。
ブエリヤベース・ド・ヌーベルズ
DEF1850 レベル1
「ブエリヤベース、そしてポワソニエルの効果! ポワソニエルをペンデュラムゾーンに置く。さらにブエリヤベースの効果で、デッキの上から5枚確認、その中の『ヌーベルズ』カード1枚を手札に加える!」
青い糸に縛られたポワソニエルの反対側に、もう一人のポワソニエルが光の柱と共に現れる。
そして俺はブエリヤベースの効果でデッキを確認する。けれど、捲られたのは《銀翼の
仕方なく次の手を打つ事にする。
「ブエリヤベースを対象に、墓地の《菓冷なる料理対決》を除外して効果発動! このターン、ブエリヤベースの攻撃力は、互いの墓地の『レシピ』カード1枚につき200ポイントアップする!」
墓地から除外される魔法カード。今俺の墓地にある「レシピ」カードは計4枚。つまり攻撃力は800ポイントアップするが、ブエリヤベースは守備表示だから意味はないし、そもそも俺はそのブエリヤベースで攻撃するつもりはない。
ブエリヤベースがまたけたけたと笑うような鳴き声を上げた。
「そして、効果対象になった事でブエリヤベースの効果発動! このカードと、お前のフィールドの攻撃表示のクーベルをリリースし、デッキからレベル3の《ポワレティス・ド・ヌーベルズ》を特殊召喚!」
フィールドから2体のモンスターが消え、三度現れる白いタキシード姿の青年、そしてその姿を映す湯気を立たせるポワレの皿。
ポワレティス・ド・ヌーベルズ
ATK1200 レベル3
「特殊召喚したポワレティスの効果で、カードを1枚ドローする!」
ドローしたのは《ペンデュラム・フュージョン》。さっきエクストラデッキを確認し、このカードがまだ使える事は確認済みだ。
「魔法カード《ペンデュラム・フュージョン》発動! 俺のフィールドのモンスターを素材に融合召喚を行う。ただしペンデュラムゾーンにカードが2枚あれば、ペンデュラムゾーンのカードも融合素材にできる! よって、俺はペンデュラムゾーンのポワソニエル2体で融合!」
フィールドに現れた融合の渦に、光の柱から前へと跳んだ2人のポワソニエルが吸い込まれる。
「至高の味を極めし2人の料理人よ。今一つとなって、未知なる甘味をもたらす天使へと昇華せよ。融合召喚! 降臨せよ、《聖菓使クーベル》!!」
融合の渦から現れたクーベルが、お辞儀をして微笑んだ。
聖菓使クーベル
ATK1700 レベル5
ちなみにこのクーベル、前世ではOCGで確かに存在しているが、海外で先行販売されたカードをまとめて収録した「WORLD PREMIUM PACK」と呼ばれるパック出身だ。そこに収録されるカードは中々ストレージで見つけられず、しかもクーベルはレアリティが字レアなためにショーケースにもほとんどいない。俺が前世で【ヌーベルズ】を組むにあたり、クーベルの入手には一番苦労した記憶がある。そんな理由もあって、俺は紙でクーベルのカードを1枚しか持っていなかった。だから、このポワソニエルのデッキにクーベルが3枚投入されているのがすごく羨ましい。
「さて……」
ここまでやって、一度状況を確かめる。
侵略者がセットしているのは《影依の炎核ヴォイド》である事は知っている。だが、そいつが効果で墓地へ送られた場合の効果は自己デッキ破壊と知っているが、リバースした時の効果は知らない。とはいえ、このまま攻撃しないでいれば、どのみち次のターンにリバースされてしまう。それに、俺のフィールドのモンスター的に、十分勝利は狙える。
だから、まずは《ハングリーバーガー》をその第一歩に選んだ。
「バトル!《ハングリーバーガー》で裏守備モンスターに攻撃! ハングリー・バイト!!」
《ハングリーバーガー》が、さながら獣のようにバンズを大きく開けて裏守備表示のヴォイドへと突進する。そこで裏守備表示だったカードが表側になり、炎を纏った騎士が姿を見せた。
影依の炎核ヴォイド
DEF2900 レベル9
『バカめ!』
そしてステータスが表示されると、侵略者は愉しそうに声を上げる。守備力が高いために、ダメージを受けるのはこちらだ。ヴォイドが腕を振ると、《ハングリーバーガー》は弾き飛ばされ、さらにヴォイドが振った腕から飛んだ火の粉が俺へと降り注がれる。
「熱っ…つ……!」
バトレアス LP1200→300
『熱だけではないぞ。リバースしたヴォイドの効果発動! 相手フィールドのモンスター1体を対象に、それと同じ属性のエクストラデッキの『シャドール』融合モンスターを墓地へ送り、対象のモンスターを除外する! 我は闇属性のミドラーシュを墓地へ送り、《ハングリーバーガー》を除外する! 消えろ、クズカード!』
魔法陣に消える、異形の竜に跨る緑の髪の人形。それを見届けたヴォイドの腕から炎を纏った糸が伸び、《ハングリーバーガー》へと迫る。だが、ただで除外させるわけにはいかない。
「フィールドのモンスターが効果対象になった事で、ポワレティスの効果発動! このカードと、攻撃表示の《ハングリーバーガー》をリリースして、デッキからレベル4の《フォアグラシャ・ド・ヌーベルズ》を特殊召喚!」
恭しく礼をしてポワレティスが姿を消し、《ハングリーバーガー》も炎の糸が絡みつく前に姿を消す。そして、赤いスーツに赤髪の青を映す湯気を立たせる、フォラグラのプレートが床に置かれた。
フォアグラシャ・ド・ヌーベルズ
ATK1600 レベル4
「特殊召喚したフォアグラシャの効果発動! お前の墓地のネフィリム、ビースト、《
『その前に、我は墓地へ送られたミドラーシュの効果発動! 墓地の《魂写しの同化》を手札に戻す!』
残念ながら、チェーン処理の順番の都合で《魂写しの同化》だけは回収を許してしまった。デッキに戻せば再利用の目は潰せるのだが仕方がない。
とはいえ、もうそのカードを発動させるつもりはなかった。
「俺はフォアグラシャでヴォイドを攻撃! そしてこの瞬間、フォアグラシャの効果発動! このカードと、攻撃表示のクーベルをリリースし、手札・デッキからレベル5または6の『ヌーベルズ』を特殊召喚する!」
再び礼儀正しく頭を下げ、フォアグラシャとクーベルがフィールドから消える。
そして、これから呼び出すモンスターは、さっき《貪欲な壺》の効果でドローしていたものだ。
「満を持してのご登場、本日のメインディッシュ! 悪魔的で情熱的なその風味、存分に味わえ! レベル6、《バグリエル・ド・ヌーベルズ》!!」
現れたは、美味しそうなグリルの載ったプレート。その湯気から姿を見せたのは、絵本に出てくる王様のような紫の衣装を身にまとう、でっぷりとした複眼の悪魔。頭に載せたコック帽には金の装飾が施され、胸に星型のバッジが6つついている。
バグリエル・ド・ヌーベルズ
ATK2400 レベル6
その姿を前にしてもなお、侵略者は鼻で笑った。
『攻撃力2400如きで、我のヴォイドが越えられるか!』
「バグリエルの効果発動! このカードが特殊召喚した時、相手フィールドの表側表示カードの効果を、ターンの終わりまで無効にする!」
バグリエルが右手に持つ杖を振ると、ヴォイドの炎が灰色に染まり、燃え尽きたような姿に変わり果てる。
だが、バグリエルの、ヌーベルズの真骨頂は次だ。
「そして『ヌーベルズ』モンスターの効果で特殊召喚された場合、さらに相手フィールドのモンスターを可能な限りリリースする!」
『何だと!?』
バグリエルが笑みを深め、杖を振り上げると空に穴が開き、その穴へとヴォイドが吸い込まれていく。
この効果は、最初から相手の場に表側のカードがなければ発動できない。だから、最初に《ハングリーバーガー》で攻撃して表向きにさせた。《ハングリーバーガー》はこの状況を作り上げる先駆けとなった、決してクズなんかではない。
そしてこれで、侵略者の場にはもうカードがなくなった。
「バグリエルで、ダイレクトアタック!」
バグリエルが、攻撃宣言と共に杖を侵略者へと向ける。その先端に赤い光が灯ると、勢いよく炎が噴き出して侵略者を火炙りにした。
『くそおおおおおおおおおおお!!!』
侵略者 LP2400→0
侮ったモンスターにしてやられたのが悔しいのか、侵略者は叫びながら、黒い煙となって消え去った。
そしてデュエルが終わった事で、ソリッドビジョンもなくなり、景色は崩壊した「À Table」へと戻る。本来の店は、侵略者が破壊してしまったのだ。勝ったとしても覆らないその現実に、悔しくなる。
すると、さっきまで侵略者がいた場所にカードが1枚落ちているのに気づいた。侵略者が忘れたものかと思いつつ、用心しながらそのカードに近づいて、それを拾い上げてみてみると。
「……《エンゼル・イヤーズ》?」
レベル5の通常モンスター。カードテキストのフォーマットはデュエルモンスターズの初期のもので、随分と古いカードだ。自宅に1枚や2枚ほどあった記憶もある。
だが、何故こんなところに落ちているのだろう。デュエル前にはなかったと思うが、侵略者のデッキに入っていたのだろうか。いや、【シャドール】において、数多くある光属性の汎用モンスターを差し置いて、このカードを入れるメリットははっきり言ってないだろう。だとしたら、この「À Table」にあったものか。では、何の意図があって?
「ポワソニエル様、これは……」
だが、ポワソニエルに聞こうとしたところで、その手に持っていた《エンゼル・イヤーズ》のカードは突然真っ黒に染まった。そして、燃え尽きて灰になったかのように、ボロボロに崩れ去る。バグリエルの炎の攻撃の影響だろうか。
「どう、されました?」
「さっき、侵略者がいた場所に《エンゼル・イヤーズ》という通常モンスターのカードが落ちてまして。何か、心当たりはありませんか?」
「いえ……私に覚えは」
店にいるポワソニエルでさえも知らないとなると、少し疑問だ。そうなれば、あの侵略者が持っていたとしか考えられないが、何のために?
だが、そこまで考えたところで、疲労によるものか身体が重くなり、思わず膝をついてしまう。
「……お疲れ。バトレアス」
そこへ、ミューゼシアが歩み寄り、手を差し出してくれた。ここはありがたく力を借りる事にし、手を掴んでなんとか立ち上がる。
「ありがとうございます、ミューゼシア様。お怪我の方は……」
「少し痛むけど……大丈夫」
ミューゼシアのドレスは、裾の部分が破れたり、埃と煤が付いていて綺麗とは言い難い。それでもミューゼシアは気丈に笑った。
続いて、ポワソニエルにデュエルディスクを返しながら、彼女の怪我も改めて診る。けれど、自分で言っていたように多少は頑丈なようで、大丈夫そうだ。
「クーベル様、ファンシア様、他の方は……」
「大丈夫です。皆さんご無事ですよ」
そう答えるクーベルの近くには、瓦礫の中から救出されたドレミコードの皆、さらに調理場にいたらしいシェフたちが楽な姿勢を取っていた。とはいえ、皆の服や肌もやはり傷や汚れが目立ち、意識が戻っているのは今もミューゼシアとファンシアだけだ。
「無事でよかった~……」
ファンシアは、心底ホッとしたように息を吐く。
さらにクーベルは、近くの瓦礫の山の捜索を始めた。他に探すものがあるのだろうかと思ったが、やがてクーベルが掲げたものは見覚えがある。俺の本来のデュエルディスクだ。
「最後になってしまいましたが……」
「いいえ、ありがとうございます」
クーベルは、デュエルの疲労で動けない俺に代わって探してくれたのだ。とても嬉しい。
しかしながら、やはり崩落に巻き込まれてしまったせいで、ディスクは壊れてしまっている。天板のディスプレイにはヒビが入り、パーツのあちこちがひしゃげたり欠けたりしている。カードが無事な事が、唯一の救いだ。
「これは、戻ったら私の方で直しましょう」
「……申し訳ございません。お願いします」
修理を申し出たのはミューゼシア。直す方法も分からない俺からすればありがたいが、今日の事があった上でさらに手間を掛けさせてしまうのは申し訳なく思う。
「またあなたに助けられてしまったもの、これくらいは安いものよ」
ニコッと笑って、ミューゼシアはそう言ってくれた。
また、というのがいつの事を言っているのかはもう分かるので、俺はもう一度頭を下げる。
「ポワソニエルさんたちはどうするの?」
「我々は、警察組織に連絡します。今回の襲撃の件は、共有しなければなりませんし……」
ファンシアの質問にポワソニエルが答える。どうやらこの世界にも警察は存在するらしい。このまま泣き寝入りなどできるはずもないだろう。
しかしそうなると、俺たちドレミ界側も事情聴取などされやしないだろうか。こちらは具体的な身分を隠してここに来たのだし、妙な詮索をされると後々厄介な事になりそうな気がしてならない。
どうすべきかをミューゼシアに仰ごうとしたが、そこでポワソニエルが「ああ」と声を挟んだ。
「皆さんは、どうされますか?」
そうポワソニエルに問われて、ミューゼシアはひとつ答えを返す。それを受けて俺とファンシア、ポワソニエルとクーベルは頷いた。
◆
黒い鎧の侵略者とバトレアスのデュエルからおよそ1時間後。
「À Table」に警察と消防の車両がやってきて、現場検証や関係者への事情聴取が行われていた。
「では、突如としてその黒い鎧の男が店を攻撃したと」
「ええ。幸い、
警察の聞き込みに答えるのは料理長。その様子を、消防隊から治療を受けながらポワソニエルは眺めつつ、ミューゼシアたちの事を思い出す。
――私たちがここにいた事は伏せてもらいたいのだけれど、よろしいかしら……?
それは、自分たちが警察などに存在が露見しては困るような存在だと自白しているも同然だった。けれどポワソニエルは頷き、クーベルを含め他のスタッフとも口裏を合わせる事を約束してその頼みを聞き入れた。その後、ミューゼシアたちは自分たちがいた痕跡を極力消し、彼女たちは元いた世界へと帰っていった。
実を言うと、ポワソニエルは今日尋ねてきたミューゼシアを含めた10人が、何か人に知られたくないような存在である事は薄々気づいていた。
けれど、一流の接客で養った勘というものか、彼女たちが悪い存在とは思えなかった。なので今日は、誠心誠意おもてなしをしたのだ。
そして、彼女たちと共にいたバトレアス。彼が侵略者を退けてくれたおかげで、自分たちも命拾いした。彼が勝たなかったら、確実により悪い事が起きていただろう。
だから、ミューゼシアたちの頼みは快く聞き入れるぐらいはお安い御用だ。
侵略者がここを襲ったのは、言い方からして彼女たちの力を狙ったからだと思う。かと言って、彼女たちのせいで店が台無しになったとは全く思わない。それどころか、自分たちの料理が中途半端な形で堪能させられなかったのが非常に心苦しい。彼女たちには、また別の機会に食事をご馳走したいところだ。
「失礼、少しよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
消防隊による治療が終わり、もの思いに耽っていたところで声を掛けられた。
その人物は、今も料理長に話を聞く警察とも、怪我をした《サイクロプス》たちの手当てをする消防隊とも違う格好だ。白い金属質の鎧で体を覆い、その隙間から見えるスーツは紫色。頭には白銀のヘルメットを被り、肩には白いマントを着けている。体格と、声の感じからして男だ。
「私は多次元治安維持組織『
「『S-Force』……」
ポワソニエルも、その名前は聞いた事がある。次元どころか時間さえも超えて治安を維持、不穏因子を排除する組織だ。これまで世話になる機会などなかったが、そんな彼らが来たという事は……。
「先ほど、料理長の話で『黒い鎧の男』という言葉を聞きまして。その男について詳しくお話を伺いたいのですが」
「……私に話せる事で良ければ」
あの黒い鎧の侵略者を実際に見たのは、ポワソニエルとクーベルだけだ。クーベルは今も消防隊の手当てを受けているため、話せるのは自分だけだろう。
「その鎧の男、『歪な世を正し、秩序を成す』……そういう事を言っていませんでしたか?」
最初の質問は、的を得ていた。確かにあの侵略者は、そんな事を言っていた記憶がある。
頷くと、グラビティーノも頷き返して、話を続けた。
「実は我々も、これまで多くの次元で同じような男の目撃証言を受けているのです」
《記憶が残るタイプ》
ドレミ界に戻り、クーリアは事の次第を改めてバトレアスやミューゼシアから聞いた。例の侵略者の襲撃をまた受けて、結果的にドレミコードもヌーベルズも全員助かったものの、「À Table」での祝賀会はひどいものとなってしまったわけだ。
自室に戻り、クーリアはベッドに横になる。
自分のために用意された場が台無しになってしまったのは、純粋に悔しい。同時に、そんな状況にした侵略者に不快な感情が募る。
そして、そんな自分たちの事をまた守ってくれたバトレアスを思うと、胸が温かくなった。顔の中心が熱くなった。
だが、それ以上に。
――ね~え~、バトレアス~
頭を押さえる。
いつも丁寧に手入れをしている髪を乱暴に掴む。
――ちゅー、して?
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
思わず、叫んだ。
ヌーベルズの料理を食べて、妙に気分がほわほわしたと思ったら、バトレアスに対してあんな事を言ってしまった。
――落ち着いていますぅー。私はいつも落ち着いているんですぅー
「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
――いいから~、ね? しよ~?
「うにゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
――お願いだからぁ、私だけを見て~?
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
死にたくなる。猛烈に死にたくなる。
あの店で自分がバトレアスに言った事、やった事、全部覚えていた。あの時はまるで酒に酔ったかのように気分が軽くなり、思いのままに、本能のままに迫ってしまった。
さっき彼の報告を聞いたときはそんな事を思い出す余裕はなかったが、部屋に戻ってひとりの時間ができた事で冷静になり、改めてあの時の自分の醜態を否が応でも克明に思い出してしまう。顔を押さえて、それでも顔が熱くなっているのを実感せざるを得ないし、ベッドの上をゴロゴロのたうち回る。
誰も、バトレアスさえ指摘してこないのはなぜだ。誰もが料理にやられて記憶がないのか、それとも忖度か。前者である事を強く願う。
『クーリア様!? 大丈夫ですか、クーリア様!?』
外から聞こえてきたキューティアの声。いつになく扉がやや強めに叩かれる。
ドレミコードの私室は、全員が楽器を扱う事もあって防音性が高い。だからこうして声を大にして恥ずかしさを排出しようとしたのだが、それでも隣の部屋の彼女に気づかれるぐらいには五月蠅くしてしまったらしい。
すぐに口を閉じ、髪を整え、自分の頬を二回ほど叩き、扉を開ける。
「キューティア、どうかしたのかしら?」
「い、いえ……むしろクーリア様が、大丈夫ですか……? 何か、すごい叫んでましたけど……」
「いいの、大丈夫。ちょっと、叫びたくなっただけ」
「どういう状況ですか!?」
キューティアに事情を説明するにしても、あの時の事を事細かに伝えるなど論外だ。だから優しく諭して、「大丈夫だから、ね?」と半ばゴリ押し気味にキューティアを安心させて、その場をやり過ごす。
そしてまた、ベッドに横になり、今度は自分の枕に顔を押し当てて。
(ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!)
叫んだ。
頭の中は、もうパンクしそうになっている。
いくらヌーベルズの料理に当てられたからと言って、バトレアスに無理やりキスを迫るだなんて。行くところまでいってしまった記憶はないが、それも正しいかどうか定かではない。確かにクーリアはバトレアスの事を悪くは思っていないしむしろ好意的に見ているがだからと言って流石にそこまでしたいなんてクーリア自身
というわけで、この日初めて、クーリアに「黒歴史」というものが生まれた。