ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

33 / 81
第33話:略奪愛

 「ヌーベルズ」の一件で、俺は結果的にドレミコードの皆を守るために侵略者と戦った。

 それを受けてか、今日はクーリアから休みを貰っている。例の食事会は、メインがクーリアのお祝いだったものの、俺の働きについての評価と感謝も兼ねていたから、それが台無しになってしまった事へのお詫びだそうだ。なぜか、やや目を逸らしながら言われたのが気になるが。

 それより、祝われる立場にあったのはクーリアも同じだ。彼女も休めばいいのにとは思ったものの、彼女はクルヌギアスの下へ向かう用事があるとの事だ。また個人的な演奏会だろうか。

 ともあれ、貴重な休日。これを機に、先日のデュエル(と「À Table(ア・ターブル)」でのドレミコードたちのゴタゴタ)による心身の疲れを癒そうと決めたわけだが。

 

「ほらほら、バトレアスさん! 行こ行こ!」

「分かりましたから、あまり引っ張らないで……」

 

 俺は今、以前ファンシアと訪れた都会風の世界に、エンジェリアと共に来ていた。

 「À Table」の事もあったので、俺は屋敷で休もうかと考えていた。そしたら、同じく休養日のエンジェリアが外の世界へ出かけるから一緒にと誘ってくれたので、無下にできず出てきたわけである。

 そうしてエンジェリアは、白のブラウスとオレンジのアクセントカラーが入ったフレアスカートという、いかにも良家の娘的な装いで俺を都会風の世界に導いてくれた。

 ちなみに、例の如く携帯しているデュエルディスクは、ミューゼシアが3日かけて直してくれた。見た目は前と同じ、重さもほとんど変わらない。ミューゼシアにも何かお礼をしなければなるまい。

 

「ああ、そうだエンジェリア様」

「なーに?」

「一つ、寄りたい場所があるんですが……よろしいですか?」

「いいよ~」

 

 お礼を、と考えて最初に浮かんだ場所があった。

 早速街の中心地へ向かおうとするエンジェリアに断りを入れ、まずその行っておきたい場所に向かう。

 それがある場所は、記憶に少し自信がなかったが、微かな記憶を頼りに街を歩くしかない。スマートフォンの地図アプリが如何に便利かを痛感する。

 

「あ、ありました」

「ここって、ケーキ屋?」

 

 辿り着いたのは、街の一角に構えているケーキ屋。エンジェリアはここを知らないらしいが、店員は知っているはずだ。開店時間になっている事を確認し、臆さず店に入る。

 

「いらっしゃいませ……あぁ、バトレアスさん」

「どうも、先日ぶりです」

「あっ、クーベルさんか」

 

 出迎えた店員……クーベルは、俺の顔を見て営業スマイルを素のスマイルに変えた。そしてエンジェリアも、「À Table」で給仕を務めていた彼女の事は覚えていたらしく、ぽんと手を叩いている。

 

「先日はどうも」

「いえ、こちらこそ……今日はお休みでしょうか?」

「ええ、まあ。それで、先日クーベル様のデザートが食べられなかったものですから、改めてこちらで買おうかと」

「まぁ、嬉しい」

 

 食事会は侵略者の闖入で中止になり、本来ならコース料理の最後に食べるはずだったクーベルお手製のケーキも食えず終いになった。俺としても食べたかったし、ファンシアも悔しがっていたので、こうして改めて伺ったわけだ。

 

「でしたら、お時間を頂ければ特別仕立てのケーキをご用意しますが……いかがでしょう?」

「え、よろしいんですか? そう言うのって、予約とかが必要なイメージが……」

「本来はそうなんですが、皆さんもあの日はつらい思いをしてしまいましたし……」

 

 申し出はありがたいが、いきなりやってきてそれだけの事をやってもらうのは少し忍びない。かといってクーベルも、あの日客であった俺たちに残念な思いをさせてしまったのを悔いているらしい。悪いのはあの侵略者で、クーベルも気に病む必要はないのだが。

 

「せっかくだし、ここはご厚意に甘えさせてもらおうよ。そうした方が、お互いスッキリするし」

 

 エンジェリアに肩を叩かれながらそう告げられ、もう一度クーベルを見る。その通りだと、頷いていた。

 

「……では、よろしいでしょうか?」

「はい、お任せください♪」

 

 にっこり笑って頷くクーベル。

 そうして、特別仕立てのケーキをどうするか、いつ頃取りに来ればよいかを取り決めて、一旦は店を出る事になった。

 

「ああ、そうだ」

 

 その直前で、思い出したようにクーベルが声を出した。

 

「ポワソニエルさんたちも、近くで臨時の店舗をオープンしてるんです」

「あ、そうだったんですか」

「ええ。幸いにもスタッフの皆さんはご無事でしたから、店が直るまではそこでしばらく営業すると」

 

 それは嬉しい情報を聞いた。何せ、あれだけの矜持を持って飲食店を営むというのは、並大抵の意思と覚悟ではできるはずもない。そんな彼ら彼女らが、仮とは言え店をまた開く事ができたのは喜ばしい。

 

 ちなみに、あの日ドレミ界に帰る際、ポワソニエルから「店が復旧した暁にはまたいらしてください」と言われた。しかも今度は招待――つまりは無料で料理を振舞うと。

 恐らくだが、あの「À Table」での食事代は、低く見積もっても俺の前世での給料数か月分ぐらいだろう。結局あの日の会計は無しになったものの、それぐらいは掛かると思って間違いはない。そんな店の食事を無料でというのは魅力的だが、店の雰囲気と、皆を豹変させるほどの味を思うと行く勇気は中々出なかった。

 

 そして、また後でケーキを取りに来る事を約束し、一旦店を出てから今度はエンジェリアを見る。

 

「エンジェリア様、今日はどちらか行きたい場所があるようでしたら、それに付き合いますよ」

「え、いいの?」

「はい」

 

 もともと、エンジェリアが出かけるのに便乗する形で俺も外へ出てきたのだ。彼女の行きたい所は尊重するのが当然だろう。

 そう告げると、エンジェリアはにこっと笑顔を深めた。

 

「じゃあねぇ、デュエルアリーナ行きたいな。それで、もしバトレアスさんがデュエルするならそれも見てみたいかも」

「デュエルアリーナは構いませんが、デュエルだけは考えさせてください」

「えー? それじゃ、ショッピングにも付き合ってくれる?」

「承知いたしました」

 

 休日だが、雇い主と従者という関係性は変わらない。普段と接し方は同じだが、エンジェリアのそれに付き合うのも普段ドレミ界ではできない事だ。それで休日の気分転換にはなる。とはいえ、ファンシアみたくタメ口で話していいとは言われていないため、言葉遣いは慎重に選ぶが。

 さて、前回も行ったデュエルアリーナがあるのは、丁度今向かっている街の中心部にある。だからいきなり方向転換する事もないが、この手の街は中心部に近づけばそれだけ人の流れも多くなる。しかも、今日はこの世界における休日なのか、混雑の度合いは前回よりも多い気がした。

 

「よいしょっと」

 

 するとエンジェリアは、突然腕を絡めてきた。さながら恋人のようにしれっとしてきたものだから、思わずぎょっとする。

 

「エンジェリア様、何を――」

「何って、人が多いからはぐれないようにしなきゃなーって」

 

 答えるエンジェリアだが、こちらの反応を見て楽しんでいるのが顔で丸わかりだ。揶揄っているつもりらしい。

 思えばエンジェリアは、俺がドレミ界に来た当初から、こうやって人を揶揄う事が多かった。

 ただ、距離感が近いからこそ、こちらも接するのに気まずさや畏怖の念を感じた事はほとんどない。たまにいたずらを仕掛けてくる(主に俺の部屋に勝手に入る等)点に目を瞑れば、エンジェリアはお転婆だけどいい子だ。多分、共学の学校に通っていたら、多くの男子を勘違いさせた事だろう。

 

◆ ◇

 

「さて、着きましたが……やっぱり混んでますね」

 

 やがてデュエルアリーナに到着したが、人入りはかなりのものだ。入場券の売り場には列ができている。休日平日問わずデュエルが繰り広げられているとは、やはりこの精霊界でのデュエルは国民的スポーツと同じポジションにあるらしい。

 とはいえ、エンジェリアの希望もあるから、ここまで来て別の場所に行ったりはしない。列におとなしく並び、待っている間の暇な時間はエンジェリアと話をする。

 

「エンジェリア様も、デュエルはよくご覧になるので?」

「そうだね~。人のデュエルって観るのも楽しいからさ」

「ご自身でやろうとは思わなかったり……?」

 

 以前、クーリアのカード保管庫に入った際、それぞれのデッキが用意されていた。だから、もしもエンジェリアがデュエルを始めたいというのであれば、いつでも始められる事だろう。

 けれどエンジェリアは、頬を指で掻く。

 

「まぁ、それは思うけどねー……私って、こう見えてかなりズボラなところあるし。そう言う性格ってデュエルにも影響出ちゃわない?」

「……出ない事もないかもしれませんが」

「でしょ? バトレアスさんやクーリアさんとかのデュエル観ると、私には無理だなーって」

 

 性格がデュエルのスタイルに出る、という事はよくある話だ。そして、エンジェリア自身がズボラと言うのなら、致命的なミスをする可能性も考えられなくはない。だからと言って、それでデュエルを始めない理由にはならないだろうが、無理強いもできない。ここは、エンジェリアの意思を尊重すべきか。

 そう思いつつ、じりじりと進む列に並んでいると。

 

「あっ、あの人ブライターさんじゃない?」

「お、ほんとだ!」

 

 近くにいた客たちが俄に沸き立った。見れば、柵の向こう側に、見覚えのある筋骨隆々な男が歩いている。オールバックの金髪に浅黒い肌、上半身の筋肉を見せつけるようなスタイルの人物は、俺も以前このデュエルアリーナで戦ったブライターだ。やはりプロのデュエリストだから、周りの客も注目しており、声を上げて名前を呼んでいる。

 

「え、まって、ケガしてるんだけど……」

「本当、どうしたんだ……?」

 

 だが、他の客の声が心配そうなものに変わった。

 それもそのはず、ブライターは骨折しているのか、右腕を吊っていた。一度戦った事がある俺も心配になってしまうし、エンジェリアも「どうしちゃったのかな」と不安になっている。

 そしてブライターの陰に隠れる形でその隣を歩く女性も、俺は見覚えがなかった。ブライターよりも淡い金髪で、縦ロールのツインテール、着ているのは薄い水色のドレスと、見るからにお嬢様という感じの人。背丈はビューティアやクーリアと同じぐらいだが、家族か恋人だろうか。

 一方ブライターは、列に並ぶ客たちの声が聞こえたのか、こちらに向けてひらひらと左手を振っている。

 すると。

 

「あっ。おおい、バトレアス!」

 

 完全に俺と目が合って、しかも名前を呼んできた。他の客たちの視線が集まるのを感じたものの、俺はブライターに向かって目礼をする。隣にいたエンジェリアも、ぺこりと会釈をした。

 

「知り合いだったの?」

「ファンシア様と来た際にデュエルを」

 

 小声で聞かれたので、同じく小声で返す。

 だがブライターは、軽く挨拶をした俺に向かって手をクイと引き、「こっち来い」のジェスチャーをしてきた。どうしていいものか分からなかったが、向こうに行くまでブライターは止めそうもない。仕方なく、エンジェリアに断りを入れて列から外れ、係員に事情を話し、中へ入れてもらう。

 

「久しぶりだな。そしてすまない、急に呼んだりして」

「いえ……それにしても、それは……」

 

 ブライターの下に向かい、挨拶もほどほどにしておく。それよりもまず心配なのは、ブライターの右腕だ。

 

「あぁ、昨日ちょっと、飲み屋で酔っ払いに絡まれてな……」

「そうでしたか……」

「何、そこまでひどいケガじゃ――ってて」

 

 俺に心配をかけさせまいと、気丈に笑ってブライターはその右腕をポンポン叩くが、すぐに痛がった。鍛えていても痛みは正直だ。

 

「それで、俺を呼んだのは……」

「ああ、今はちょっと人を案内しているところでね。偶然見かけたのも何かの縁だし、紹介しておこうと」

 

 そう言って、ブライターが示したのは、さっきも見た金髪縦ロールのお嬢様然とした女性だ。何となく、先に自己紹介した方がいいかと思い、頭を下げる。

 

「初めまして、バトレアスと申します」

「ご機嫌よう。わたくしはベルゲニアと申します」

 

 身体の前に手を添えて、浅くお辞儀をするベルゲニア。微笑みこそ浮かべているが、何だか冷たい印象だ。

 

「彼女は、このデュエルアリーナのスポンサーの社長令嬢でね。今日は見学に来てもらっているんだ」

「そうでしたか……」

「ベルゲニア様。彼もまた、俺が戦ったデュエリストで、このアリーナを盛り上げてくれた貴重な人物の一人です」

 

 ブライターにそう言われるとひどく照れ臭い。あの時ブライターとデュエルした時は、本当に観客を盛り上げようなど考えず、プレッシャーに耐えながら必死にデュエルをしたにすぎない。結果として盛り上がったのならそれでいいが、持ち上げられるのは慣れないものだ。

 

「ふうん」

 

 けれど、ベルゲニアの興味は薄いのか、反応もどこか投げやりだ。喜色満面、前のめりに持て囃されるのも嫌だが、これはこれで少しきつい。

 

「あー……バトレアス、今日もデュエルを?」

「ええと、今日は……まだ迷っておりまして」

「そうか」

 

 そしてベルゲニアの反応があまりよくない事に気づいたらしく、俺の方に話を振ってきた。とはいえ、こちらも何か彼女の興味を引くような事ができるわけではない。だからブライターの話に乗っからざるを得なかった。

 

「邪魔して悪かったな、それじゃ――」

「お待ちなさい」

 

 そうしと、ブライターが俺を解放しようとしたところで、ベルゲニアが声を挟んできた。

 そしてその目は、なぜか俺に向けられている。

 

「どうかされましたか?」

「実は今日、わたくしの名を冠したデュエルが開かれますの」

 

 ベルゲニアの名を冠したデュエル、というのは……ナントカ杯とか、誰それ協賛試合とか、そういう感じのアレだろうか。

 

「けれどそのデュエル、本来ならブライター殿に戦ってもらうところだったけれど……代わってもらえるかしら?」

「え?」

 

 ベルゲニアは、デュエルの相手を俺に指定してきた。唐突すぎて、まったく意図が掴めない。

 すると、事情に詳しいブライターが「あー」と声を吐きながら、俺に話しかけてくる。

 

「ベルゲニア様の言うとおりでね、本来は今日俺がデュエルの相手を務める予定だったんだ。けどまぁ、これがこの通りなもんで」

 

 言いながら、ブライターは右腕を示す。確か、前戦った時もブライターは右利きだったはずだ。デュエルがリングで行われるとは言え、無理はできないだろう。

 

「何とか代役を探してるんだが、何せ急なものだから相手が見つからなくて」

 

 ブライターが説明し終えると、ベルゲニアがこくりと頷いて続ける。

 

「こちらに所属しているプロデュエリストのデュエルは研究済み。既にデータを持っている相手と戦うより、もっと新鮮なデュエルをしてみたいのよ」

 

 やはりプロであるからこそ、デュエルのデータは世間に知られてしまっている。そしてベルゲニアも、デュエルに対する熱意はあるようだ。でなければ、対戦相手のデュエルを研究などしないだろう。

 要はベルゲニアは、既にデータを持っている相手と戦うをのがつまらないから、俺にデュエルを要求したわけだ。誰かに似てると思ったが、わがままな理由で俺とアリアスにデュエルをさせた迷宮姫だった。

 

「……バトレアス。こんな事をいきなり言うのも何だが、頼めるか?」

「……承知いたしました」

 

 ベルゲニアも引きそうにない。それをブライターも理解して、申し訳なさそうに話しかけてくる。スポンサーの娘だから強気に出られないのは汲み取れたし、ブライターも好きでケガをしたわけではないだろうから、仕方なく了承する。この間は剛毅なイメージがあったブライターも、今となっては中間管理職みたいな寂しささえ感じた。

 世知辛い世の中はどこも同じか、と思った。

 

「では、一緒に来ている人がいるので、話をする時間をもらえたら」

「あぁ、彼女か。問題ない」

 

 ブライターもエンジェリアの事は見えていたようだ。「浄化」の際は姿が見えないドレミコードも、オフの日には一般人に視認できるようになっている。

 すると、ブライターは少しだけ俺と距離を詰めて。

 

「急な話になって悪いし、彼女も招待しよう」

 

 どうやら入場料を免除してくれるようだ。そこまでしてもらうほどでもないとは思うが、ここは頷いておく。そして、エンジェリアの下へ向かい、彼女を連れて通用門へと向かう。

 

「何、どうしたの?」

「急にデュエルをする事になりまして。それでブライター殿が、付き添いのエンジェリア様を招待すると」

「ホント? やったー」

 

 そんな純粋に喜ぶエンジェリアを連れて、守衛の人を挟みつつブライターと話を通す。それで、俺とエンジェリアはゲスト用のバッジを付けて中へ入る。

 

「いや〜、バトレアスさんのデュエルが見られて、しかもタダだなんて嬉しいなー」

 

 人の気も知らないで、と心の中で嘆息した。

 

◇ ◆

 

 デュエルの時間になり、エンジェリアは個室へ、俺はデュエリスト専用の通路へ向かう。そして前回と同じようにスタッフへディスクを預け、リミットレギュレーションを確認し、デッキを携えてデュエルリングに上がった。

 

『さぁ本日のメインデュエル! ベルゲニア記念が間もなく始まるぞォー!!』

 

 やはり前ここへ来た時と同じ、赤いスーツを着たMCの男の熱が籠もった実況が聞こえてきた。そして本当に、ベルゲニアの名前を冠しているデュエルだ。

 観客席を見渡すと、四方八方から歓声が押し寄せてくる。祭日によるものか、ひとりひとりの顔が認識できないほどの人の量。やはりこのプレッシャーは、たった2回で慣れるものではない。

 そしてディスプレイを見れば、ベルゲニアのオッズは2.8、俺は3.5。ブライターとのデュエルの時よりも若干差が縮まっている。つまり、観客も勝敗の予想がつきづらくなっているという事だろう。

 

『ベルゲニア嬢の相手は当初、デュエルアリーナの誇るプロデュエリスト・ブライターだったが、不慮のケガとお嬢の要望により、かのブライターを一度は破った若きデュエリスト・バトレアスに変わった! ブライターのように観客を魅了するデュエルができるのか、バトレアス!!』

 

 MCの説明に、胃が縮み上がる。やむにやまれぬ事情があるとは言え、プロの代役でこの場に立つなど冗談じゃない。ブーイングが飛んでこないだけまだマシだが、勘弁してほしいものだ。

 ただ、このデュエルを観ているだろうエンジェリアは、デュエルを観るのも楽しいと言ってた。だからせめて、彼女が楽しめるようなデュエルをしたい。

 

「ブライター殿が称賛したデュエル、期待しておきますわ」

「……はい」

「わたくしの名を冠したデュエル、普通では終わらせませんように」

 

 お互いにデッキをシャッフルしながらベルゲニアに言われて、頷きを返す。期待に背くデュエルをするなと釘を差されたのは理解できる。相手がお嬢様である以上、妙な粗相を犯したら何をされるか分かったものではない。

 そして先攻後攻を決めるコイントスはベルゲニアが勝ち、先攻を取られてしまう。

 とはいえ、この世界に来た時に確認したこのデッキは、ブライターとのデュエルで使った【機巧】ではないものの、後攻で十分戦えるデッキだ。パワー的には【アンティーク・ギア】に近い。

 

「さあ、参りますわよ!」

 

 そして自分の陣地に立ったベルゲニアはデッキをセットすると、声を張り上げた。何か、さっきよりテンションが上がっているような気もするが……ひとまず目の前のデュエルに専念する。

 デュエル前、一瞬の沈黙を挟んだ後、俺たちは頷いて口を開いた。

 

「「デュエル!」」

 

バトレアス LP4000

VS

ベルゲニア LP4000

 

「わたくしの先攻! わたくしは魔法カード《時を裂く魔瞳(モルガナイト)》を発動いたします。このデュエル中、わたくしは手札のモンスター効果を発動できませんが、通常のドローが2枚になり、さらに1ターンに2回通常召喚ができますの」

「ほう」

 

 いきなり発動した魔法カードは中々いい効果だ。手札のモンスター効果が使えないという事は、《灰流うらら》や《増殖するG》と言った有用な手札誘発も使えなくなるわけで、こちらも展開が多少はやりやすくなる。だが、毎ターン追加で1枚ドローできるのはかなり強力だし、通常召喚が2回できるのも悪くない。

 

「さらに、《恋する乙女》を召喚!」

 

 続くベルゲニアが召喚したのは、淡いオレンジ色のドレスに、ウェーブがかった腰まで届く茶髪、そして灰色の大きな瞳の少女だ。なんというか、ドレミコードに雰囲気が似ている気もする。

 

恋する乙女

ATK400 レベル2

 

 その攻撃力はたった400。何かしらの効果を持っているのは明らかな数値だ。

 そしてそのモンスターがフィールドに現れた途端、観客席から上がる歓声の様相が少し変わったように聞こえた。大方、可愛らしいモンスターを見て男性陣が喜んでいるのだろう。

 

「カードを2枚伏せ、フィールド魔法《心眼の祭殿》を発動!」

 

 手札を全て使い、最後に発動したフィールド魔法によって景色が変わる。《神の居城-ヴァルハラ》のような石造りの神殿だが、屋根は閉じており、明かりは篝火だけ。さらにベルゲニアの背後に、鉾のような何かが祀られている祭壇が出現した。何とも、重苦しい雰囲気だ。

 

「これでわたくしのターンは終了です」

「俺のターン、ドロー!」

 

 手札を見る。可もなく不可もないが、ベルゲニアのフィールドは注意する点ばかりだ。攻撃力400の《恋する乙女》に、伏せカード2枚、フィールド魔法。手札のカードでそれらを一気に除去する事ができないため、ここは地道に削っていくしかない。ベルゲニアの期待に添えられるかどうかは分からないが、取れる手を取るとしよう。

 

「フィールド魔法《魔法都市エンディミオン》を発動!」

 

 こちらもフィールド魔法を発動すると、フィールドの半分、俺の陣地だけ景色が変わる。背後には高い塔が聳え立ち、その周囲を取り囲むのはヨーロッパ風の石造りの建物。そして石畳が地面を覆いつくした。

 

『ベルゲニア嬢とバトレアス、お互いに1ターン目から自分のフィールドを展開! さぁ、どんなデュエルを見せてくれるのかァ!』

 

 MCの発言に、観客がさらに沸き立つ。景色の変わるフィールド魔法を使い、分かりやすく状況が変わった事で一応は楽しませられているらしい。

 ただベルゲニアは、フィールドが変わったぐらいで高ぶったりしないようで、こちらの次の手を静かに待っている。

 

「《魔導戦士ブレイカー》を召喚!」

 

 そして召喚する、赤紫の鎧で武装した戦士。右手には剣、左手には盾を備え、毅然とした姿勢でフィールドに立つ。

 

魔導戦士ブレイカー

ATK1600 レベル4

 

「ブレイカーの召喚に成功した時、効果発動! このカードに魔力カウンターを1つ置き、さらにその攻撃力は自身の魔力カウンター1つにつき300ポイントアップする!」

 

 ブレイカーが左手に持つ盾に、三角形の模様の青白く光る玉が浮かび上がった。あれが魔力カウンターだ。

 

魔導戦士ブレイカー

魔力カウンター:0→1

ATK1600→1900

 

「そして、ブレイカーのもう一つの効果発動! このカードの魔力カウンターを1つ取り除く事で、フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊する。俺は右側の伏せカードを破壊!」

 

魔導戦士ブレイカー

魔力カウンター:1→0

ATK1900→1600

 

 盾の魔力カウンターの光が消え、ブレイカーの剣が青い光を帯び始める。そして、その剣を指定した伏せカードに向けて力強く振ると、青い斬撃が伏せカードを叩き斬った。

 破壊されたのは《ディメンション・ウォール》。相手モンスターの攻撃で受けるダメージを跳ね返す罠カードだ。迂闊に攻撃たら、手痛い反撃を喰らうところだった。

 ちなみに、ブレイカーの破壊効果は1ターンに1度の制限がない。さらに《魔法都市エンディミオン》には、魔法カードが発動する度に魔力カウンターを1つ置く効果、俺が魔力カウンターを取り除いて効果を発動する際に必要な魔力カウンターを肩代わりする効果がある。

 つまり、エンディミオンに魔力カウンターをできるだけ多く貯め、ブレイカーの効果を連続で使うのが理想だ。しかし、手札にある残りの魔法カードはそのためだけに使うのは非常に勿体ないので止めておく。

 残りの伏せカード1枚と《恋する乙女》の効果が気になるところだが、何もしないでいるのは消極的だ。ここは、多少のリスクを覚悟のうえで攻めるべきだろう。

 

「バトル! ブレイカーで《恋する乙女》を攻撃!」

 

 攻撃宣言すると、ブレイカーが剣を振ってまた斬撃を飛ばす。それを受けて《恋する乙女》は小さな悲鳴をあげてのけぞり、尻餅をついた。けれど破壊される気配がない。

 

「お生憎様、《恋する乙女》は戦闘では破壊されませんの」

 

ベルゲニア LP4000→3000

 

「何?」

 

 破壊されないのはともかく、ベルゲニアが受けた戦闘ダメージはおかしい。攻撃力1600で攻撃したのだから、超過ダメージは1200になるはずだ。なのに1000ポイントしか入っていない。

 

「《心眼の祭殿》の効果により、わたくしたちが受ける戦闘ダメージは一律で1000ポイントになりますのよ」

「なるほど……」

 

 どれだけ微量な戦闘ダメージでも、4回通せば勝負がつく。例え無限大の攻撃力があっても、4回は攻撃を通さなくてはならない。一長一短で厄介なフィールド魔法だ。

 

「そして……」

 

 ベルゲニアが何かを口にした直後、《心眼の祭殿》や《魔法都市エンディミオン》によって生み出された景色が一転し、辺り一帯花畑に変わってしまう。

 

「何だ……?」

 

 周囲の状況が分からずにいると、ブレイカーが尻餅をつく《恋する乙女》に駆け寄った。そして傍に膝をつき、《恋する乙女》を立ち上がらせる。

 その一連の行動さえ、これまでのどのデュエルとも違うが――

 

『お、お嬢さん……大丈夫ですか?』

 

 シャベッタアアアアアアアアアアアアアアア!?

 

『ブレイカー様、ひどいわっ』

『す、すまない……!』

 

 ぎゅっと目を瞑る《恋する乙女》と、必死に慰めようとするブレイカー。そして《恋する乙女》はゆっくりと目を開き、ブレイカーを見ると。

 

『ちゅっ』

 

 投げキッスを飛ばした。

 

『くっ……! なんという、可愛らしさだ……っ!』

 

 苦しそうに胸を押さえるブレイカー。しかも、その胸にはなぜかハートマークが浮かび上がった。

 

「……何これ」

「おーっほっほっほっほ!」

 

 状況に戸惑っていると、ベルゲニアが突然高笑いをした。お嬢様らしいそれだが、デュエル前とテンションがまるで違う。

 

「この《恋する乙女》がバトルしたダメージステップ終了時、貴方のモンスター1体に乙女カウンターを置くんですのよ!」

「乙女カウンター!?」

 

魔導戦士ブレイカー

乙女カウンター:0→1

 

 どうやら、ブレイカーの胸に浮かぶハートマークが乙女カウンターを意味しているらしい。何とも気の抜ける名前と見た目だ。

 

「さあバトレアスとやら、ターンは終わりかしら? でなければ、わたくしのターンとさせてもらいますわよ!」

「……俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 乙女カウンターとやらで何をするつもりか知らないが、ひとまず伏せられるカードは伏せておく。

 セットしたのは《リビングデッドの呼び声》。次のターンにブレイカーが破壊されたとしても、このカードで復活させて次のターンにつなげられる。

 

「貴方のターン終了と共に、永続罠《神の恵み》を発動。そしてわたくしのターン、ドロー!」

 

 ターン終了間際に発動したカードは、見覚えのある古き良き罠カード。モルガナイトの恩恵で通常のドローが2枚になったが、ドローすると《神の恵み》のカードがキラキラと優しい輝きを放ち始める。

 

「《神の恵み》は、わたくしがドローする度に500ポイントライフを回復いたしますの」

 

ベルゲニア LP3000→3500

 

「さらにわたくしは《強欲で金満な壺》を発動。わたくしのエクストラデッキのカード6枚をランダムに除外、新たに2枚ドローいたします」

 

 さらにドローを加速させるベルゲニア。発動したカード的に、エクストラデッキにそこまで執着するデッキではないのだろうか。

 しかし、魔法カードが発動した事でこちらもカードの効果が使える。

 

「《魔法都市エンディミオン》の効果で、魔法カードが発動する度にこのカードに魔力カウンターを1つ置く!」

 

 すると、俺の背後で何か鈍い音が鳴った。振り向けば、塔の入り口上部に魔法陣が現れ、その縁に魔力カウンターのマークが1つ浮かび上がっている。

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:0→1

 

「構いません。わたくしは《神の恵み》の効果でライフをさらに回復!」

 

ベルゲニア LP3500→4000

 

 これで、俺が最初に与えたダメージは帳消しにされてしまった。戦闘ダメージがどうあがいても1000ポイントしか与えられないのに、毎ターン500ポイント必ず回復してしまうとは戦いづらい。

 そして新たに手札が増えて3枚。何をして来るか。

 

「バトルですわ。《恋する乙女》でブレイカーを攻撃! 一途な想い!!」

「!?」

 

 いきなりバトルを始めたのは予想できない。しかも、戦闘では破壊されずダメージも1000で済むとは言え、攻撃を仕掛けるとはどういう事か。恐らく乙女カウンターに何かしらの効果が、あるいは手札に何かある。とはいえ、こちらには防ぐ手立てがなかった。

 すると、またフィールドの景色が花畑に変わり。

 

『ブレイカーさまぁ~♪』

 

 晴れやかな笑顔で手を振りながら、《恋する乙女》がブレイカーへと駆け寄ってくる。しかし、まさに身体が触れ合うその直前でブレイカーがひょいと避けると。

 

『きゃうんっ』

 

 《恋する乙女》がコケた。

 

ベルゲニア LP4000→3000

 

 そしてこのタイミングで変動するベルゲニアのライフ。まさか今のが攻撃だったのか。

 と思いきや。

 

『ブレイカー様……くすん』

『すまない、お嬢ちゃん……! どうしたら、許してくれるかな……?』

 

 紳士的な話し方で膝をつき、《恋する乙女》に話しかけるブレイカー。すると《恋する乙女》が、ウルウルした目でブレイカーを見ると。

 

『ブレイカー様……私の事、好き?』

『もちろん!』

 

 もちろんじゃないが。

 

『じゃあ、バトレアスを攻撃して?』

『もちろん! 君のためなら!』

「もちろんじゃないが!?」

 

 俺の言葉も届かず、ブレイカーは容赦なく俺をその剣で斬りつけてきた。しかも、《恋する乙女》には斬撃を飛ばすだけだったのに、普通に剣で直接斬り掛かっている。殺意が段違いだ。

 

バトレアス LP4000→3000

 

『何という事だぁ!《恋する乙女》に心を動かされたブレイカー、まさかの謀反! 主従関係に勝ったのは、愛の力だァー!!』

 

 MCが訳の分からん事を言っているが、この状況はまさしく謀反。この一連の流れと実況に、観客席からは笑い混じりの歓声が上がった。確かに、こんな演出混じりのデュエルは普通ではない。

 いや、そもそもどうしてこんな状況になったのか。

 

「のーっほっほっほっほ! これこそ《恋する乙女》のもう一つの効果! バトルの後、乙女カウンターが置かれた貴方のモンスター1体のコントロールを私に移すのですわ!」

「そういう事ですか……」

 

 嬉しそうに告げるベルゲニア。よほどこの戦術が決まったのが嬉しいらしい。

 乙女カウンターの載ったモンスターを《恋する乙女》が魅了し、コントロールを奪う。つまりベルゲニアのデッキは【コントロール奪取】だったわけか。

 コントロールを奪う戦術は、俗称として「寝取り」と呼ばれている。その言い方が身も蓋もなさすぎるし、何より胸糞悪いからこそ俺はこの戦術が嫌いだった。ともすれば、バスター・ブレイダーにやられたロックよりも嫌いだ。正直、《恋する乙女》と言っておきながらやっている事は略奪愛も同然だと思う。

 

「さらに速攻魔法《セベクの祝福》発動! ダイレクトアタックでダメージを与えた時、その数値分のライフを回復いたしますわ!」

 

ベルゲニア LP3000→4000

 

 《恋する乙女》のコンボを決めるために受けたダメージをも相殺される。思った以上に一筋縄で行かない相手だ。

 けれど、また魔法カードが発動したため、エンディミオンに魔力カウンターが貯まる。

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター∶1→2

 

「わたくしはカードを2枚伏せてターンエンド! さあ、どこからでもかかっていらっしゃいな!」

 

 そしてカードを伏せ、またしても得意げに笑うベルゲニア。

 確かに、この布陣は中々厄介だ。どうにか突破できないものかと考えつつ、ドローする。

 

「俺のターン、ドロー!」

「《恋する乙女》を対象に、永続罠《安全地帯》発動! これにより、《恋する乙女》はダイレクトアタックできない代わりに、戦闘及び効果で破壊されず、効果対象にもなりません!」

 

 ベルゲニアは《恋する乙女》の防御を固めてきた。どうやら、本当にあのモンスターがデッキの核らしい。

 こちらも、手札のモンスター1体を手にする。

 

「《マジックアブソーバー》を召喚!」

 

 現れたのは、青い模様の入った黒い法衣を着る、灰色の髪の中性的な魔法使い。その手に持つ鎌には、魔力カウンターの玉が取り付けられていた。

 

マジックアブソーバー

ATK1800 レベル4

 

 そして、さっき引いた魔法カードを発動しようとしたら、また景色が花畑に変わってしまう。

 

『ブレイカー……魔法都市の戦士ともあろう者が、そのような小娘如きに惑わされるとは見損なったよ』

『くっ……!』

 

 お前も喋るんかい。

 というかブレイカー、言っている事はアブソーバーの方が正論だ。効果の都合で仕方ないとはいえ。

 そんなやり取りに苦笑いを浮かべながら、魔法カードを使う事にする。

 

「……俺は、速攻魔法《魔導加速(マジック・ブースト)》発動! デッキの上からカードを2枚墓地へ送り、フィールドの魔力カウンターを置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを2つまで置く!」

 

 これでモンスターが墓地へ送られれば、セットしていた《リビングデッドの呼び声》と併せて展開の幅が広がる。期待を込めつつデッキの上から2枚のカードを墓地へ送った。

 ところが、墓地へ送られたのは《死者蘇生》と《魔法の筒(マジック・シリンダー)》。モンスターどころか、よりにもよって強力な魔法・罠カードを2枚も失った。実についていない。

 

「その様子では、望みのカードはなかったようね」

「……俺は、アブソーバーに魔力カウンターを2つ置く」

 

 表情でバレてしまったらしく、ベルゲニアが呆れたように笑う。俺は仕方なく、アブソーバーに魔力カウンターを補充させる事しかできなかった。

 

マジックアブソーバー

魔力カウンター:0→2

 

「そして魔法カードが発動した事で、《魔法都市エンディミオン》とアブソーバー自身の効果で、魔力カウンターを1つずつ置く」

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:2→3

 

マジックアブソーバー

魔力カウンター:2→3

 

「アブソーバーのレベルは、自らに置かれている魔力カウンターの数だけ上がる」

 

マジックアブソーバー

レベル∶4→7

 

 このレベル変動効果は、専らシンクロ召喚などを行う際の調整で使えるものだ。しかし、今は手札にチューナーがなく、それを呼ぶ手段もないためどうにもできない。

 ただ、アブソーバーの攻撃力は1800。《恋する乙女》を攻撃すれば碌な事にならないが、ブレイカーをそのまま攻撃で破壊できる数値だ。それに、本来ならダメージは200ポイントのところ、《心眼の祭殿》の効果で1000に増える。そう考えれば少しお得だ。

 とにかく今は、ベルゲニアのライフとモンスターを削らなければ。自分のモンスターを攻撃するのは少々心苦しいが、仕方ない。

 

「バトル! アブソーバーでブレイカーを攻撃!」

 

 攻撃宣言と共に、アブソーバーが持っていた鎌をブレイカーへ向けて投げつける。

 ところが。

 

「残念でしたわね。《恋する乙女》の効果で、攻撃可能な貴方のモンスターはこの子を攻撃しなければなりませんのよ!」

「何ィ!?」

 

 告げられた効果に愕然とする。そしてブレイカーに向かっていた鎌は突如軌道を変える、《恋する乙女》へと迫った。

 

「さらに、罠カード《ガード・ブロック》発動! 相手モンスターの攻撃によるバトルダメージを0にして、カードを1枚ドローします!」

 

 しかも、戦闘ダメージをドローに変換するカードまで使われた。つくづく、こちらの上手いようにはさせてくれない。

 《恋する乙女》に向かっていた鎌は、その頭上を掠め、《恋する乙女》に尻餅をつかせる。

 

『きゃあっ!』

 

 さらにベルゲニアへと向かった鎌は、彼女の周囲にバリアに弾かれ消えてしまう。それを見届けて、ベルゲニアはドローした。

 

ベルゲニア LP4000→4500

 

 その上、ドローした事で《神の恵み》の効果によりまたライフが回復する。悔しい事に、上手いコンボだ。

 歯ぎしりをすると、またしても景色が花畑に変わる。ブレイカーが《恋する乙女》に駆け寄り、アブソーバーを指差した。

 

『アブソーバー! 貴様、こんな可憐な少女に鎌を投げつけるなんて! 力ある魔法使いともあろう者が、見損なったぞ!』

『ち、違う! 私はそんなつもりでは……!』

 

 ブレイカーに非難されて戸惑うアブソーバー。そしてアブソーバーは、ブレイカーに支えられている《恋する乙女》にゆっくりと歩み寄ると。

 

『す、すまないお嬢さん……怪我はないかな?』

『アブソーバー様……ちゅっ』

 

 そして《恋する乙女》は、アブソーバーを見上げて投げキッスをひとつかますと。

 

『くっ……なんだこの小動物の如き愛らしさは……! 私が、守護らねば……っ!』

 

 いや、君が守るのは本来の持ち主の俺のはずなんだが……。

 そしてまた観客席から、笑いが巻き起こる。ベルゲニアの戦い方は、エンターテインメント的に言えば抜群だろう。

 

マジックアブソーバー

乙女カウンター:0→1

 

 さて、このふざけた光景はともかく、これは非常にまずい。次のターンが来たら確実にアブソーバーもコントロールを奪われる。そうなれば、ダイレクトアタックは必至だ。

 

「メインフェイズ2に、アブソーバーの効果発動! このカードの魔力カウンターを3つ取り除く事で、墓地の速攻魔法1枚をセットする。俺は《魔導加速》を再びセット!」

 

マジックアブソーバー

魔力カウンター:3→0

レベル∶7→4

 

「ターンエンド」

 

 これで少しでも、運が残っていなければ本当に俺に勝ち目はなくなる。

 次のターンが、正念場だ。




今回のデュエルはあくまで日常回のつもりで、《恋する乙女》もアニメオリカとして登場させるつもりでしたが、まさかのOCG化によりデュエル構成を変更いたしました(ヌーベルズ戦よりも再構成が容易な範囲だったため)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。