ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第34話:急変

バトレアス LP3000 手札2

【モンスターゾーン】

マジックアブソーバー(乙女カウンター1) ATK1800 レベル4

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード2

 

【フィールドゾーン】

魔法都市エンディミオン(魔力カウンター3)

 

 

ベルゲニア LP4500 手札1

【モンスターゾーン】

恋する乙女 ATK400 レベル2

魔導戦士ブレイカー(乙女カウンター1) ATK1600 レベル4

 

【魔法&罠ゾーン】

神の恵み

安全地帯

 

【フィールドゾーン】

心眼の祭殿

 

 

 《恋する乙女》の戦術と演出に、観客席は大いに盛り上がっていた。こちらは至って真面目に戦っているのだが、いかんせん演出があまりにも喜劇なもので、観客の大半は面白がっているのが歓声に混じる笑い声で分かる。

 とはいえ、ベルゲニアも立派にデュエリストらしい。デュエル前はどこか落ち着いた、あるいは退屈そうな態度が目立ったものの、いざデュエルとなったら威勢が良くなった。しかも、ちゃんとデュエルを観ている人たちを楽しませている。アリーナのスポンサーの娘に恥じないデュエルスタイルだ。

 ただ、感心するのもほどほどにしないと、あっという間に足元を掬われる。

 

「わたくしのターン、ドロー!」

 

 ベルゲニアの通常のドローは、《時を裂く魔瞳(モルガナイト)》の効果で2枚に増えている。手札のモンスター効果を発動できないのは、最近のデュエル環境では痛いかもしれない。だが、今は劣勢の俺にとって痛手だ。

 

ベルゲニア LP4500→5000

 

 しかも、《神の恵み》の効果でドローする度にライフを回復され、《心眼の祭殿》の効果で戦闘ダメージはどうあがいても1000ポイント。非常に厄介だ。

 

「《イピリア》を召喚!」

 

 ベルゲニアが召喚したのは、《恋する乙女》とは打って変わって不気味な雰囲気のモンスター。薄い水色の体色のトカゲのような形で、頭と鼻の横から白く長い体毛が生えている。

 

イピリア ATK500 レベル2

 

「この《イピリア》を召喚した時、わたくしはさらに1枚ドローできますの」

 

ベルゲニア LP5000→5500

 

「モルガナイトの効果で、わたくしはもう一度モンスターを召喚できます。よって、《ヨーウィー》を召喚!」

 

 続いて召喚されたのは、愛らしさの欠片もない造形のモンスター。昆虫のような六本脚に、ワニのような首と胴体のそれは、何となく台所で見かける例のアレに似ている気がして、思わず鳥肌が立った。

 

ヨーウィー ATK500 レベル3

 

「この《ヨーウィー》を召喚した事で効果発動。次の貴方のドローフェイズをスキップします」

「何!?」

「この効果はデュエル中1回しか使えず、さらにこのターン、わたくしはモンスターを1回しか特殊召喚できませんがね」

 

 デュエル中1回限定とはいえ、ドローフェイズを飛ばされるのはつらい。しかもこちらが劣勢だから、カードを引くチャンスさえ奪われるのは弱り目に祟り目だ。

 さらにライフは5500にまで回復した。勝利が一層遠のいたように錯覚する。やはりベルゲニアは、《恋する乙女》を存分に活用できる構築にしている。

 

「現れなさい、純情な想いのサーキット!」

 

 するとベルゲニアが天に手を掲げ、その先にリンクサーキットが出現した。

 

「召喚条件は効果モンスター2体。《イピリア》と《ヨーウィー》をリンクマーカーにセット!」

 

 2体の爬虫類族モンスターがリンクサーキットへと飛び込み、光が放たれる。

 

「リンク召喚! 現れなさい、リンク2!《セベクの魔導士》!!」

 

 さーっきとの中から姿を見せたのは、緑のローブを羽織り、左手に握るのは赤い玉がついた杖、右腕で鏡を抱える人型のモンスターだ。ローブの合間から見えるウェーブがかった深い青色の髪と顔立ちからして、女性だろうか。

 

□□□ セベクの魔導士

□◆□ ATK2000

■□■ リンク2

 

 攻撃力は2000。《マジックアブソーバー》の攻撃力を上回っている。《恋する乙女》は《安全地帯》のデメリットで直接攻撃できないため、このまま2体の攻撃を喰らえば、《心眼の祭殿》の効果で残りライフは1000になる。

 だが。

 

「バトル!《恋する乙女》で《マジックアブソーバー》を攻撃! 一途な想い!!」

 

 やはりと言うべきか、まずは《恋する乙女》で攻撃を仕掛けてきた。そして攻撃宣言と共に、フィールドが花畑に早変わりする。

 

『アブソーバーさまぁ~♪』

 

 そしてニッコリ笑顔で手を振りながらこちらへ駆けてくる《恋する乙女》。しかしながら、アブソーバーの下へ辿り着く前にまたしてもコケてしまった。

 

『ああんっ』

 

ベルゲニア LP5500→4500

 

 忘れてしまいそうだが、今のも一連の戦闘である。

 そして転んだ《恋する乙女》の下へアブソーバーが駆け出し、《恋する乙女》は涙をポロリと零した。

 

『アブソーバー様、ひどいわっ』

『本当にすまない……! どうか、許してほしい……どうすれば、いいだろうか』

 

 すると《恋する乙女》は、所在なさげに差し出されたアブソーバーの手をそっと握ると。

 

『じゃあ、私と一緒に、バトレアスを倒して?』

『いいとも! 君のためなら安いものだ!』

 

 それは遠回しに俺の命が安いと言っているのか。

 

「おほほ、何とも快い光景です事」

 

 そんな、俺からすれば茶番としか言いようがないやり取りを見て、ベルゲニアは笑う。

 

「わたくしの手で、歯向かうモンスターを跪かせ、従わせる……これ以上とない愉しみですわ」

 

 社長令嬢は征服欲までお持ちらしい。ライフゲインにコントロール奪取を組み込む戦術も含め、とんだ悪役令嬢だ。

 そんな事より、これで完全に俺のフィールドからモンスターがいなくなってしまった。対して、ベルゲニアの場には攻撃可能なモンスターが後3体。

 

『おおーっと、またしてもバトレアスの仲間がベルゲニア嬢に寝返ってしまった! しかもベルゲニア嬢の攻撃はまだ3回残っている! 勝負あったかァ!?』

 

 MCが宣言し、観客席から歓声が上がる。

 そしてベルゲニアは、俺を見て息をひとつ吐いた。

 

「ブライター殿も、あなたを買い被りすぎていたようですわね」

「……っ」

 

 このデュエルは、怪我をしたブライターの代わりに俺が相手をしている。それは偶然俺が通りかかった事に加えて、ブライターが俺を評価し、ベルゲニアが興味を抱いたから。

 その結果が、ほとんど手も足も出せずに負けてしまうなんて。ベルゲニアに終始ペースを握られ、ほとんど何もできずに終わってしまうなんて。デュエル前に言われたような「普通なもの」になってしまうなんて。

 冗談じゃない。

 本当にそうなったら俺の立つ瀬がないし、ブライターに合わす顔もなくなる。

 

「《マジックアブソーバー》で、ダイレクトアタック!」

 

 あっけなく反旗を翻した《マジックアブソーバー》が鎌を構える。

 これこそが、正真正銘のラストチャンスだ。

 

「速攻魔法《魔導加速(マジック・ブースト)》発動! 俺のデッキの上からカードを2枚墓地へ送り、対象のカード1枚に魔力カウンターを2つまで置く!」

 

 デッキに指をかけるが、指先や手に汗が滲んでいるのを自分で感じ取る。この2枚で何かしらのモンスターが墓地へ行かなければ、俺はお陀仏だ。アブソーバーや、それを従えるベルゲニア、さらに観客が注目しているのを感じながら、その2枚をゆっくりと引き、目にする。

 やっと、ちゃんと笑えたと思う。

 

「俺は《見習い魔術師》と《マジカル・アブダクター》を墓地へ送る!」

 

 すぐ墓地へ送られてしまうが、待望のモンスターカード。しかも、このデッキにいる中で、今の状況で一番来てほしいモンスターだ。

 

「永続罠《リビングデッドの呼び声》発動! 墓地より《見習い魔術師》を特殊召喚!」

 

 魔法陣がフィールドに現れ、その中から颯爽と現れるのは小柄な魔法使い。左手に杖を持ち、腰布がついた紫の服を着ながらもファイティングポーズを取る。

 

見習い魔術師

ATK400 レベル2

 

「やはり、伏せていたのは蘇生系のカードでしたか」

 

 だが、いきなりモンスターが墓地から特殊召喚された事について、ベルゲニアが驚いた様子はない。恐らく、俺が伏せているカードがこれまで発動できなかったのが、墓地にモンスターがいないからだと踏んでいたのだろう。

 

「そして、《魔法都市エンディミオン》に魔力カウンターを2つ置く! さらに魔法カードが発動した事で、置かれるカウンターは合計で3つだ!」

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:3→6

 

「わたくしの《マジックアブソーバー》も、確か魔法カードが発動する度に魔力カウンターが1つ置かれ、さらにレベルも上がるんでしたわよね?」

 

マジックアブソーバー

魔力カウンター:0→1

レベル:4→5

 

「特殊召喚した《見習い魔術師》の効果発動! フィールドの魔力カウンターを置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。俺はエンディミオンにカウンターを1つ置く!」

 

 エンディミオンの塔を指さすと、《見習い魔術師》がその塔へ向けて杖を掲げた。

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:6→7

 

「しかし攻撃力400程度では圧倒的無力! アブソーバーで《見習い魔術師》を攻撃!」

 

 アブソーバーが鎌を投げつけてくる。元々仲間であるはずのモンスターが、何の躊躇もなく攻撃してくるのが驚きなのか、《見習い魔術師》はぎょっとしていた。けれど攻撃は凌げず、投げられた鎌で身体を裂かれた《見習い魔術師》は破壊されてしまう。

 

バトレアス LP3000→2000

 

「そしてこの瞬間、《セベクの魔導士》の効果発動!」

「こちらも《見習い魔術師》の効果発動! このカードが戦闘で破壊された時、デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚できる。《マジカル・アンダーテイカー》を裏守備表示で特殊召喚!」

 

 デッキからフィールドに現れる、黒いスーツに黒い帽子、黒いマスクで口元を隠して赤紫のマントを羽織る小さなモンスター。それはすぐさま裏守備表示状態となる。

 

「《セベクの魔導士》の効果で、このカードまたはそのリンク先のモンスターがバトルで相手にダメージを与えた場合、その数値分のライフを回復します!」

 

 確かに見てみれば、アブソーバーの位置は《セベクの魔導士》の右斜め後ろ、リンク先だ。 

 

ベルゲニア LP4500→5500

 

「そして、自分もしくは相手のライフが回復した事で、《セベクの魔導士》のもう一つの効果発動。お互いに1000ポイントのダメージを受けます!」

「!」

 

 《セベクの魔導士》が杖を掲げると、その先端につけられた玉から赤い雷が迸る。それは二股に分かれ、俺とベルゲニア双方に降り注がれた。

 

バトレアス LP2000→1000

 

ベルゲニア LP5500→4500

 

 興行デュエルだから衝撃も微々たるものだが、あの効果はマズイ。

 

「今度は《魔導戦士ブレイカー》で裏守備モンスターを攻撃!」

 

 《恋する乙女》に惑わされた2体目のモンスター。赤紫の鎧の剣士が、リバースして姿を現した《マジカル・アンダーテイカー》を容赦なく叩き斬った。

 

マジカル・アンダーテイカー

DEF400 レベル2

 

「《マジカル・アンダーテイカー》のリバース効果発動! 墓地のレベル4以下の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する! もう一度頼む、《見習い魔術師》!」

「姑息な真似を……」

 

 破壊される直前、《マジカル・アンダーテイカー》が被っていた帽子を投げると、それが手品のようにポンと弾け、格闘家のようなポーズをとる魔法使いが再びフィールドに降り立った。

 

見習い魔術師

DEF800 レベル2

 

「そしてその効果発動! エンディミオンに魔力カウンターを1つ置く!」

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:7→8

 

「……バトルは終了いたします。わたくしはカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 《セベクの魔導士》はまだ攻撃できたものの、それをしなかった。《見習い魔術師》の効果でまたモンスターを呼び出される事を危惧したのだろう。実際、俺のデッキには《見習い魔術師》の効果で呼べるモンスターがまだ何体かいる。それができれば今後の展開ももう少しやりやすかったが、それは叶わなかった。とはいえ、《見習い魔術師》をこれ以上酷使させるのは忍びない。《レアメタルフォーゼ・ビスマギア》の件でそれは痛感している。

 兎に角、何とか俺のターンに持ち込む事ができたのでホッとした。

 

「俺のターン……」

「《ヨーウィー》の効果で、そのドローフェイズはスキップされます」

 

 しかしデッキに指をかけようとしたら、ディスプレイに《ヨーウィー》のカード画像と共に「YOU CAN’T DRAW」と警告文が表示された。忘れていたわけではないが、いざ実際にそれを咎められると胸が痛む。

 

「そしてわたくしは永続罠《スピリットバリア》を発動! わたくしの場にモンスターがいる限り、わたくしへのバトルダメージは0になります」

 

 ダメ押しのように、戦闘ダメージを回避するカードまで使ってきた。これで俺が何かモンスターを召喚したところで、《恋する乙女》に攻撃が誘導され、しかもダメージを与えられない。

 いや、それだけではない。

 

「……それでこのままターンを渡せば、あなたがドローした直後に《神の恵み》の効果でライフが回復し、《セベクの魔導士》の効果で俺は1000ポイントのダメージを受けて負ける、と」

「ご明察」

 

 俺の言葉に、満足げにベルゲニアは頷く。

 そしてMCが声を張り上げた。

 

『こ、これは絶体絶命のピーンチ! ドローもできず、次のターンになれば敗北確定! 手札2枚、フィールドにはモンスターが1体とフィールド魔法だけ! バトレアス、もう後がないぞォ!!』

 

 観客席から歓声がより強く上がる。

 この状況は、確かにまずい。何もせずに次のターンを迎えたら、絶対に負けてしまうのだ。ブライターとのデュエルよりも、俺が立たされている状況は厳しいと思う。

 だけど、俺に残された2枚の手札。最初のターンからあったそれらのカードは、いずれもこのターンまで発動条件を満たせていなかったものだ。

 だから正直、今これらを使えるようになったのは、奇跡と言っていいだろう。

 

「勝負あり、ですわね」

 

 MCの実況に気を良くしたか、戦っているからこそ絶対有利と分かるこの状況に、ベルゲニアが微笑む。

 だが、それに対して俺は2枚の手札を示した。

 

「俺にはまだ、手札が残っています」

「その2枚で、この状況を破れると?」

「はい」

 

 ベルゲニアの言葉には即答する。そこで、ベルゲニアも疑うように表情が変わった。

 その答えを、早速示すとしよう。

 

「このカードは《魔法都市エンディミオン》の魔力カウンターを6個取り除く事で、手札または墓地から特殊召喚できる。現れろ、《神聖魔導王エンディミオン》!!」

「っ!」

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:8→2

 

 直後、轟音と共に俺の背後に聳える塔の扉が開き、中からひとりの魔法使いが堂々たる足取りでフィールドに歩み出る。紫の玉がいくつも取り付けられた漆黒の鎧を纏い、白い円形の光輪を背負う屈強な男だ。

 

神聖魔導王エンディミオン

ATK2700 レベル7

 

『なななんとぉ! この状況でいきなり上級モンスターを呼び出したー! これがバトレアス反撃の狼煙となるのかァ!?』

 

 テンションが上がったMCの言葉に、俺は笑う。

 確かに、このモンスターは反撃の第一歩だ。

 

『嘆かわしい事だな』

 

 不意に、重々しい声が聞こえた。それは、フィールドに現れた神聖魔導王によるもの。ベルゲニアの場にいるブレイカーとアブソーバーを見て、首を横に振っていた。

 

『色恋に惑わされて本分を放るとは』

『くっ……』

『魔導王様……』

 

 言われてブレイカーとアブソーバーは悔しそうに声を洩らす。やはり、彼らからすれば神聖魔導王は上位存在らしい。

 とにかく、デュエルを再開する事にした。

 

「神聖魔導王は自身の方法で特殊召喚した時、墓地の魔法カード1枚を手札に戻す事ができる。俺が手札に戻すのは《死者蘇生》だ!」

「そんなモンスターを握っていたとは……」

 

 神聖魔導王が杖を勢いよく振って地面に向ける。すると先端につけられた紫の玉が光り、1枚の魔法カードを出現させる。それはひとりでに俺の手に舞い戻った。

 

「さらに速攻魔法《エクシーズ・アライン》発動! フィールドのモンスター2体を対象に、そのレベルを俺が宣言した任意のレベルに変える。俺は神聖魔導王と《見習い魔術師》のレベルを8にする!」

 

神聖魔導王エンディミオン

レベル∶7→8

 

見習い魔術師

レベル∶2→8

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:2→3

 

マジックアブソーバー

魔力カウンター:1→2

レベル∶5→6

 

「レベル8の《神聖魔導王エンディミオン》と《見習い魔術師》でオーバーレイ!」

 

 思えば、俺がこの精霊界に来てエクシーズ召喚をするのは初めてだった。これまで戦った天老やヘレボラスのように宣言すると、2人の魔法使いは紫色の光となって舞い上がり、螺旋を描く。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」

 

 フィールドに宇宙のような光の渦が出現し、その中へ2つの紫の光が吸い込まれると、渦が爆発を起こし、青白い光の柱を生み出した。

 

「現れろ、《セレマテック・クラティス》!!」

 

 その柱から姿を見せたのは、近未来的な紺と白の法衣を身に纏う魔法使い。右手に持つ杖には魔力カウンターのマークが刻まれており、電気ケーブルが繋がれていて、どこか科学的なイメージが強いモンスターだ。

 

セレマテック・クラティス

ATK3000 ランク8

 

『バトレアス、ドロー不可の状況から、一気に最上級ランクのエクシーズ召喚を決めたァー!』

 

 MCがフィールドに現れたクラティスを指さして高らかに告げると、観客席から上がったのは「おお~」という驚きの声。ドローフェイズがスキップされ、残った手札だけでどうにかしなければならなかったのに、ここまでできるとは思ってもいなかったのだろう。

 だが、クラティスを呼ぶ事ができたために、こちらもベルゲニアの布陣を一気に突破する布石は揃った。

 

「クラティスの効果は、自身の魔力カウンターを3つ取り除く事で、デッキから魔法カード1枚或いは魔法使い族の効果モンスター1体を手札に加えるか、手札・デッキの魔法使い族モンスター1体を特殊召喚できる」

「ですが、クラティスに魔力カウンターは置かれていないでしょう?」

「その通りです。よって《魔法都市エンディミオン》の効果を使い、必要な魔力カウンターをこのカードから取り除いて、クラティスの効果を発動!」

「!?」

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:3→0

 

「俺が手札に加えるのは《円融魔術(マジカライズ・フュージョン)》。そして、《死者蘇生》発動! 墓地の《マジカル・アンダーテイカー》を特殊召喚!」

 

 フィールドに魔法陣が出現し、その中から跳びだす小柄な黒いスーツの魔法使い。ベルゲニアに向かって恭しくお辞儀をした。

 

マジカル・アンダーテイカー

DEF400 レベル2

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター:0→1

 

マジックアブソーバー

魔力カウンター:2→3

レベル∶6→7

 

「現れろ、神秘の力を宿すサーキット!」

 

 俺が指さすと、魔法都市の上空にリンクサーキットが出現した。

 

「召喚条件は魔法使い族モンスター2体。《セレマテック・クラティス》と《マジカル・アンダーテイカー》をリンクマーカーにセット!」

 

 2人の魔法使いが頷き合い、出現したリンクサーキットに飛び込む。そこから強い光が発せられた。

 

「リンク召喚! 現れろ、リンク2!《魔導耀士デイブレイカー》!!」

 

 現れたのは、ベルゲニアが奪ったブレイカーのように騎士然とした魔法使い。しかし鎧は白と金の装飾で彩られており、より神聖さと重厚さが増している。

 

□□□ 魔導耀士デイブレイカー

□◆□ ATK1900

■□■ リンク2

 

「デイブレイカーの効果発動! このカードがリンク召喚した時、魔力カウンターを1つ置く!」

 

魔導耀士デイブレイカー

魔力カウンター:0→1

 

 デイブレイカーの効果は、魔力カウンターを2つ取り除いてフィールドのカードを破壊する効果。まさに《魔導戦士ブレイカー》の強化版と言った効果だ。しかし魔力カウンターが足りていないため、今は使えない。

 だから俺は、最後の手札に手をかける。

 

「魔法カード《円融魔術》発動! フィールド・墓地のモンスターを融合素材として除外し、魔法使い族の融合モンスターを融合召喚する!」

「く……」

「俺は墓地の《セレマテック・クラティス》、《見習い魔術師》、《マジカル・アンダーテイカー》、《マジカル・アブダクター》、そしてフィールドの《魔導耀士デイブレイカー》を除外して融合!」

 

 その効果は、さながら天老が使った《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》の魔法使い版。空に出現した巨大な融合の渦に、5人の魔法使いたちが一斉に飛び込んだ。

 

「魔術の粋を極めし者たちよ、その力を集わせ至高の魔術師を呼び起こせ。融合召喚! 出でよ、レベル12!《クインテット・マジシャン》!!」

 

 そして融合の渦から1体のモンスターが降り立つ。黄色い髪に青白い肌、身体にフィットする黒いスーツの上に紺色の魔法使いの服を着た青年だ。周囲には5つの小さな魔法陣が浮かび、その姿は伝説の黒魔術師を彷彿とさせる。

 

クインテット・マジシャン

ATK4500 レベル12

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター∶1→2

 

マジックアブソーバー

魔力カウンター∶3→4

レベル∶7→8

 

『遂に来たァ! 攻撃力4500、レベル12! バトレアス、絶体絶命の状況をものともせず、怒涛の大型モンスターの連続召喚を決めて見せたぁー!!』

 

 MCが叫び、観客の声もわっと上がる。

 一方のベルゲニアは、少しだけひきつった笑顔を見せながらも、まだ余裕を崩した様子はない。

 

「あの状況から、それほどのモンスターを呼び出した事は褒めて差し上げましょう。けれど、依然として私のフィールドは変わっていません……どうなさるおつもりで?」

「それは――」

 

 ベルゲニアの質問について何かを言おうとしたところ、突然周囲の景色が花畑に変わる。《恋する乙女》の演出と同じだ。

 

『これはこれは。魔法都市の精鋭ともあろう男が、恋愛ごっこに現を抜かして主君に刃を向けるとは。呆れたものだ』

 

 《クインテット・マジシャン》まで喋った。しかも神聖魔導王より強い口調で、明らかに失望しているような、怒っているような話し方。他でもないブレイカーとアブソーバーはひどく狼狽している。

 

『これは、()()を下さねばならんな?』

 

 言いながら、《クインテット・マジシャン》が虚空から杖を取り出す。先端にクリスタルが取り付けられただけの、いたってシンプルなものだ。

 どうやら、俺がその効果を発動する前に話しておきたかったらしい。

 

「何をなさるおつもり?」

「《クインテット・マジシャン》の効果発動! このカードが、魔法使い族モンスター5種類を素材に融合召喚した場合、相手フィールドのカードを全て破壊する!」

「な、何ですって!?」

 

 ついに、ベルゲニアの顔が驚き一色に染まった。

 《クインテット・マジシャン》の周囲に浮かぶ5つの魔法陣が、五角形の頂点の位置につくと、それぞれが線で結ばれ五芒星を作りだす。

 その時だった。

 

『クインテットさまぁ……』

 

 またしても周りが花畑になり、ウルウルした目で《恋する乙女》が《クインテット・マジシャン》を見つめた。

 が。

 

『私にそんな泣き落としが通用すると思ったか!』

 

 ピシャリと言い放つ《クインテット・マジシャン》。

 直後、五芒星の中心から青い光線が勢いよく放たれ、ベルゲニアのフィールドのカードを一掃する。《恋する乙女》は悲鳴とともに光に飲み込まれ、無論ブレイカーとアブソーバーも消え去る。

 

『うわあああああああっ!』

『不覚……ッ!』

 

 後悔するような声と共に破壊される、2人の魔法使い。さらに、セットされていた伏せカード――《串刺しの落とし穴》だった――、フィールド魔法まで破壊された事で、ベルゲニアの陣地も魔法都市の風景へと変わる。

 そしてただ1人、残されたベルゲニアは呆然としていた。

 

「《クインテット・マジシャン》でダイレクトアタック! エーテル・ストリーム!!」

 

 《クインテット・マジシャン》がベルゲニアに杖を向けると、クリスタルが白い輝きを放ち、一筋の竜巻を生み出してベルゲニアに襲い掛かった。

 

「きゃあああああああ……っ!!」

 

ベルゲニア LP4500→0

 

『決まったァァァァァァ! 愛憎渦巻くデュエルを制したのは、土俵際で最強クラスの魔法使いを呼び寄せた、バトレアスだァァァァ!!』

 

 MCが高らかに宣言した事でデュエルの結果が確定し、観客席からまた一層強い歓声と拍手が上がる。ブライターのようにこの場に慣れていないから、それを一身に受けるのは未だ負担が大きい。それでも、お辞儀をしてその歓声に応える。

 そしてベルゲニアは、悔しそうな表情ながらも俺に拍手を贈ってくれていた。

 

 

 デュエルを終え、出迎えたブライターと共にベルゲニアの控室へと向かう。その途中、個室での観戦を終えたエンジェリアと合流したが、一度ベルゲニアの控室の外で待ってもらった。この後の事は部屋を出てからでいいだろう。

 

「先ほどは急な申し出にもかかわらず、デュエルをしていただき感謝いたします」

 

 そして、控室で椅子に腰掛けるベルゲニアの前に立つと、そう言ってくれた。ベルゲニアの背後には護衛の黒スーツの男がいるが、職務に忠実そうな険しい顔つきだ。

 

「ブライター殿も、こちらの希望に応えて下さりありがとうございます」

「いえ。おかげで観客の皆さんも盛り上がったようですし、何よりです」

 

 直前になって無理を言ってきたベルゲニアに対し、ブライターも気を悪くした様子はない。見た目こそワイルドな感じだが、本来は至って常識人だ。

 

「あなたが彼を信頼する理由も、デュエルをして分かった気がいたします」

「それは何より」

 

 ベルゲニアに視線を向けられ、委縮する。

 今回もブライターとのデュエル同様、絶体絶命の状況をどうにか覆して勝利できた。紙一重の戦いとなり、俺としてもかなり冷や冷やしながら戦っていた。それでベルゲニアが楽しんだので、あればそれでいいだろう。

 

「デュエルを通してこそ、分かるものもあります。あなたのデュエルに対する姿勢も、自分のモンスターをどう思っているのかも」

 

 確かにデュエル前は俺も、ベルゲニアに対してちょっとばかりマイナスなイメージを持っていた。けれどデュエルで、彼女は彼女なりに楽しんでいたのは分かった。それに、ちゃんと真剣にデュエルに挑み、観客を盛り上げていた。ベルゲニアも立派にデュエリストだと思う。

 そしてベルゲニアは、立ち上がると右手を差し出す。

 

「楽しいデュエルをありがとう、バトレアス。また戦えることを願っていますわ」

「……こちらこそ」

 

 礼儀正しく言われ、俺も握手をして頭を下げる。今回は観客の前という状況だったし、急な話だったからいまいち気乗りしなかった。だから、次はもっとちゃんとした場を設けて戦いたいとも思う。

 

「急な話ですまなかったな」

「いえ、貴重な経験でした。と言っても、プロの代理はもう勘弁願いたいです……」

 

 そして、ブライターからも肩を叩かれて労われる。突発的だが、楽しいデュエルができたのは本当だから、不満はあまりない。とはいえ、やはり代役、しかもプロのというのは二度と御免だ。

 

「なら、次来た時はいちデュエリストとして戦おう」

「……まずは、ケガを直さないとですね」

「違いない」

 

 ブライターの言葉に笑い、最後に今回の「お礼」を係の人受け取って一礼をしてから部屋を出る。

 

「……あれ、エンジェリア様?」

 

 だが、そこにエンジェリアの姿がなかった。部屋の外で待っていると言っていたはずだが、どうしたのだろう。関係者専用エリアを見てみるが、そちらにいる気配はない。ひとまず、観客席側に戻ってみる。

 と。

 

「ねー、いいでしょ? ちょっとそこでお茶でもさ」

「いやー、えっと……」

「大丈夫だって、悪い事なんてしないから、ね?」

 

 エンジェリアはお手洗いのすぐ近くにいた。しかも、見知らぬ明るい茶髪と金髪の男に迫られて、少し困っている様子だ。

 大方、お花を摘みに行ったタイミングで運悪くナンパに引っかかってしまったのだろう。こちらの世界でもそういう事は起きうるのか。

 

「ええと、私連れがいて……」

「いいじゃん、別に? 君みたいなかわいい子ほっておく人なんてさぁ」

「そーだよ。そんな奴より俺たちの方が大事にするから」

 

 普段から思っていてもセクハラ等とみなされるから絶対に言っていないが、ドレミコードの皆は美形揃いだ。故に、事情を何も知らない一般人からすれば、例え世界の浄化という尊い使命を胸に抱いて各地に渡る天使でも、外見だけで品定めをされる格好の的になってしまう。

 そして俺は、そんな彼女たちの仲間だ。だから放っておくなど論外だが、従者の調子で出たところで男たちは素直に引きそうでもない。

 となれば。

 

「エンジェリア」

 

 よそよそしい関係であると悟られないように、呼び捨てにした。以前、ファンシアとこの世界に来た時みたいな感じで。

 それでエンジェリアは気づいたが、同時に男2人も俺を振り返る。何とも柄が悪そうでちょっと胃がキリキリ痛む。けれど臆さず、エンジェリアの下へ足を進めてから。

 

「すみません。俺の()()に何か用ですか?」

 

 エンジェリアの横に立ち、できる限りの毅然とした態度でそう告げる。無論、エンジェリアとは彼氏彼女の関係ではないが、この場を一番手っ取り早く済ませられると思ったから。

 

「……おい、こいつさっきの……」

「あ、あぁ……いやー、スンマセン。なんでもないでスー……」

 

 すると男2人は、そそくさとその場を去ってしまった。「彼女」発言に対してではなく、さっきベルゲニアと俺がデュエルをした結果を見て、手を出したらマズいと判断したらしい。何にせよ、エンジェリアに対する脅威を払えたのならまずはそれでいい。

 

「……ここを出ましょう。それまでは、少しお付き合いください」

「う、うん……」

 

 周りに聞こえないように、声量を可能な限り落として話しかける。さっきの連中がまた何かしてこないとも限らないし、ここはできる限り速やかに去るべきだろう。もしかしたらエンジェリアはまだデュエルを見たいのかもしれないが、安全が第一だ。埋め合わせは必ずする。

 エンジェリアの手を引き、足早にアリーナから立ち去る事にした。さらに大事を取って100メートルほど離れ、人通りもそこそこな、互いの姿をちゃんと視認できる場所でようやく手を離す。

 そしてまず、やるべき事は。

 

「エンジェリア様」

「な、なにかな?」

 

 声を掛けると、焦ったようにエンジェリアの声が上ずる。

 それに対して俺は、頭を下げた。

 

「大変失礼いたしました。待たせてしまったうえ、状況的に仕方がないとはいえ『彼女』と呼んでしまうなど」

「う、ううん。いいよ、別に……むしろ、助けてくれてありがとうって言うかだし……」

「面目ない……」

 

 手っ取り早く場を収めるためとはいえ。あくまで従者の俺がエンジェリアの彼氏を気取ったのは、当人の意思を無視したものである。状況的に仕方がない、というのは言い訳に過ぎないだろう。エンジェリアはそこまで気に障った風ではないが、俺の落ち度に変わりはない。

 ならば、せめて昼食ぐらいは奢るのが筋だろう。幸い、さっきのデュエルでの賞金があるので資金に困りはしない。とりあえず手近なお店を探す事にする。

 

「……エンジェリア様、大丈夫ですか?」

 

 その道すがら、エンジェリアの様子はおかしかった。今朝と比べて口数は少ないし、顔もうつむきがち。もじもじと指を動かしているが、もしやさっきのナンパがかなり心理的な負担になってしまったのだろうか。

 

「御気分が優れないようなら――」

「ぜ、ぜーんぜん大丈夫だよ! いきなり彼女扱いされたのが初めてでちょっとドキドキしたとか、それでなんか気持ちがふわふわしたとか、全然そんな事ないよ~!」

「あ、はい」

 

 ひとまず、傷ついていたわけではなさそうだ。普段から俺やドレミ界の皆を揶揄っていたエンジェリアが、いざそちら側の立場になるとまごついてしまうのは、一種のギャップというやつだろうか。

 

「何処かで食事にしましょう。奢ります」

「え、そんな悪いよ」

「いえ、さっきのお詫びもありますから」

 

 時間は昼時だし、エンジェリアの事も考えて、昼食はどこか落ち着ける喫茶店がいいだろう。そう考えつつ、どこかいい場所がないかを見回す。チェーン店らしき店の看板がそこかしこにあるが、良さげな店は見当たらない。

 少し視線を上に向ければ、ビルのデジタルサイネージに「人気アイドルグループ・トリックスター、NEWアルバム発売!」とか「ゴールドプライドグランプリ、開催間近! 夢を叶えるのは誰だ?」とか、とかく煌びやかな広告が流れている。

 別のビルは窓全体がディスプレイになっていて、人気ストリーマー「Live☆Twin」のゲーム実況と思しき動画が映されている。本当にデュエルモンスターの世界なんだな、と思いながらその隣のビルを何の気なしに見ると。

 ビルの上層階が爆発を起こした。

 

「えっ……?」

「何事!?」

 

 それは俺だけに見えたものではないようで、隣を歩くエンジェリアや、近くの通行人たちも一斉にそちらを見る。暢気にスマートフォンで撮影している人もいたが、さらにその隣のビルも連続して爆発を起こした。

 そうして割れた窓ガラスや瓦礫、さらには棚か何かの残骸までもが落ちてきて。

 

「逃げろー!!」

 

 誰かがそう叫んだ矢先、通行人たちが蜂の子を散らすように駆け出す。デュエルアリーナで聞いたものとは全く違う、悲鳴や怒声が周囲を埋め尽くし、爆発が起きたビルを中心に、波紋が広がるように人が逃げる。さらに響く爆発音が、より状況を混沌とさせた。

 街中で突然起きた爆発。テロか事故かは知らないが、俺も経験した事がないために、頭の中は半分パニック状態だ。それでも一緒にいるエンジェリアと距離を離されないように、人の流れに従ってその場を離れようとした。が、運が悪い事に他の通行人に突き飛ばされ、あえなく躓いてしまう。

 

「バトレアスさ――ッ!」

 

 エンジェリアが俺の名前を叫んだのは聞こえたが、人の波に押されてエンジェリアとの距離がどんどん離されていく。怒号混じりの声に埋もれ、ついにエンジェリアの声が聞こえなくなってしまった。俺もどうにか起き上がろうとしたが、如何せん人が多すぎて立ち上がるのもままならない。背中や頭を踏まれないのがまだ救いだ。

 しかしその直後。

 

「確保ォ――――――――!!」

 

 謎の掛け声とともに、背中に衝撃が走り、アスファルトにうつ伏せにさせられる。

 

「何、誰……!?」

「無駄な抵抗は止めてください!」

 

 はっきりと聞こえるのは、どこか幼げのある女性の声。だが、背中に馬乗りのまま後頭部を手で押さえられ、顎と地面が垂直になっているせいで、目玉を限界まで横に向けても顔が見えない。

 そして俺の目の前に、機械音と共に何かが姿を現した。黒い装甲で覆われた、二つの首を持つ犬だ。

 

『外見一致率7パーセント。別人と思われます』

 

 その黒い犬は、俺の顔を見て流暢な人語を話した。スピーカーから聞こえてくるような若干のノイズはあるものの、些末な問題だ。警察犬、という単語が頭をよぎる。

 

「しかしながら、この人からは『反応』がありました。無関係とは思えません」

『では、どうしますか』

「ブリッジヘッドへ連行しましょう」

 

 その機械の犬と、背中に馬乗りになる女性が言葉を交わすのを聞いている間に、俺の腕は背中の後ろに回され、しかも手首に何か冷たい感触が伝わってくる。確保、連行という言葉で、手錠か何かを嵌められたのだと気付いた。

 

「ちょっと、何を――」

「話は我々の本拠地で伺います」

 

 そして背中に乗っていた女性は、素早く背中から降りると俺の脇腹に腕を回し、機械の犬の背中にうつ伏せの状態で俺を乗せる。さらに駆動音が聞こえたと思ったら、頭、肩甲骨、腰、脚を固定される感覚。ろくに身動きもできなくなった。

 

「さあ、行きましょう」

 

 女性の声と共に、機械の犬が駆け出し、衝撃がダイレクトに伝わってくる。

 なんでこうなったのか、全く分からなかった。

 

 

 人の波に押され、エンジェリアはさっきいた場所からかなり離れた場所にいた。

 

「バトレアスさん……」

 

 彼が躓いたのは見えたが、逃げ出す人々に押されて戻る事もできなかった。今もなお、ビルが崩れた場所から避難した人たちで道は混雑しており、引き返すのは難しい状態。

 であれば、どこかで合流すべきだと思ったものの、コンタクトを取る手段がない。ここは無理をしてでも、バトレアスがいたであろう場所に戻るべきか。

 そう考えていた矢先、誰かに手首を強く掴まれた。

 

「ちょ――!?」

 

 その何者かは、あっという間にエンジェリアを路地裏に連れ込み、乱暴な手つきでエンジェリアの口を押える。咄嗟に手を上げようとしたが、もう片方の手で両手首を掴まれ抵抗できなくさせられる。

 

「ドレミコードの天使だね?」

 

 問われて、硬直する。

 改めて、目の前の人物の姿を見た。フード付きの黒いコートを着て、青白い髪、赤黒い瞳、バトレアスよりも白い肌。声と手つきからして多分男だ。

 それより重要なのは、この男が、エンジェリアがドレミコードである事を知っている点だ。

 

「抵抗しないのなら、悪いようにはしない」

「……」

 

 さっき、ナンパされた時もそこそこ怖い気分を味わったが、今はそれ以上だ。自分を助けてくれたバトレアスが恋しくなるが、彼は今どこにいるかも分からない。

 

「こちらの要求はひとつ」

 

 その男は、唇を三日月のように歪めて、口にした。

 

「ドレミ界へのゲートを開いてもらう」




全体除去とジャストキルが多いなこの主人公…
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