ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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今回はデュエル無し回です
予めご了承ください


第35話:緊急事態

 機械の犬に背負われて身動きひとつできないまま、何かの建物に到着したのが、音とわずかに残された視界から分かった。多分、ここが「ブリッジヘッド」とか言う場所だろう。その名前自体は聞いた事がある。

 だがそれについて考える暇もなく、機械のアームから解放されたと思ったら、目隠しと耳栓をされて聴覚と視覚を完全に閉ざされる。さらに手錠を解かれるとすぐさまジャケットを脱がされ、また手錠を掛けられ両腕を誰かに掴まれて、強制的に歩かせられる。そして、どこかの部屋の椅子に座らされた。

 

(何で、こんな事になったんだ……?)

 

 頭の中で考え続ける。何も見えない、何も聞こえないから、結果として何かを考える以外やる事がない。

 

(エンジェリアは無事なのか……?)

 

 今の状況以上に気になるのは、あの時のパニックではぐれてしまったエンジェリアだ。無事だといいのだが、こうしてブリッジヘッドに連行されてしまった今、どうやってコンタクトを取ればいいのか。通信手段はないし、俺が今ここにいる事は向こうも知らないはずだ。

 

 それから、どれぐらい経っただろう。時間の経過が全く分からずにいると、また誰かに腕を掴まれ歩かされた。さらに、伝わる振動からしてエレベーターか何かに乗せられ、また少し歩いたところでついに目隠しと耳栓を取り外される。やっと、今いる場所が明らかになった。

 そこは、ドレミ界の屋敷の私室やデュエルアリーナの控室よりもずっと広い部屋だ。両側の壁にはぎっしりと本が納められた本棚に、何の情報を映しているのかはさっぱりなディスプレイ。

 そして、正面にある重厚な執務机には、広い窓を背に女性が座っていた。長い銀髪に、薄い紫のレディーススーツの上に薄紫のコートを羽織り、額には奇妙な紋様が刻まれている。

 

「で?」

 

 その女性に笑顔で問いかけられて、びくっと震える。

 だがよく見ると、その女性の目線は俺……のすぐ横に向いていた。そちらには、ひとりの少女が床に正座している。毛先が山吹色の黒髪、黒と黄色の忍装束のような服を着て、傍らには鞘に納められた短刀が置いてあった。さらにその横には、双頭の黒い機械の犬がお座りをしている。

 

「ええとですね……ビルの爆発で、目標を見失いまして……」

「それで?」

「現場付近で、目標と同じ『反応』のこの方を発見しまして……。無関係ではないと思いまして……保護しました」

「確保、よね? 手錠をかけて連行してきたんだから」

「……はいー」

 

 何とも意気消沈、という感じで正座している少女が頭を下げる。椅子に座っている女性は笑顔ながらかなり高圧的で、多分この正座をしている少女の上司に当たるのだろう。そして声で、俺をさっき捕まえたのはこの忍者っぽい少女だと気づいた。

 

()()(まる)

「……はい」

「『誤認逮捕』という言葉は知っているわね?」

「ごめんなさい!!」

 

 小夜丸、と呼ばれた少女がついに土下座した。実に潔い、綺麗な姿勢だ。

 だが、椅子に座っている女性は机の上で手を組む。

 

「謝る相手は私ではないでしょう」

「そうでした、ごめんなさい!」

 

 小夜丸はいったん顔を上げて、今度は俺の方に体を向けてまた土下座をした。不当に手錠を掛けられた事実には多少文句を言いたいところだが、こうして体を張って謝意を示されるとその気も薄まる。

 どうやら、俺が別室で待機させられている間に、俺がその爆発を起こした犯人ではないという証拠が挙がったらしい。疑いは晴れたと見ていいのだろうか。

 その傍らで、机に座る女性が受話器を取った。

 

「もしもし? ええ、私よ。ごめんなさい、私の部屋に来てもらえるかしら? ええ、そう。お願い」

 

 どこかと連絡を取った女性が受話器を置いたところで、今度は部屋のドアがノックされる。

 

「失礼するぞ」

 

 入ってきたのは、屈強な体つきの男。薄緑色の髪を生やし、髭ともみ上げが特徴的で、顔立ちは壮年に近い。黒いスーツとコートを着るその男の手にはトレーがあり、俺のデュエルディスク、財布、ジャケット、そのポケットに入れていた札束の入った封筒が置かれている。

 

「ディガンマ、どうだったかしら?」

「ざっと調べてみたが、やっぱ別人だな」

「なるほど」

「うぅ……」

 

 ディガンマと呼ばれたその男の言葉を受けて、机に座る女性がじろっと小夜丸に目を向ける。またしても、小夜丸は正座したまま縮こまった。

 

「ただ、奇妙な事が」

「奇妙?」

「このデッキだが、『ターゲット』が持っているような違法性はないものの、カードがこちらのデータベースに登録されていない」

「……偽造カードって事?」

 

 だが、ディガンマの言葉に俺も驚く。

 俺がこの世界で持っていたデッキは【魔力カウンター】だ。それでデュエルアリーナでベルゲニアと戦ったし、その際にデュエルリングは不正を検知しなかった。つまりあのカードはこの世界で、正式に認証されたもののはずだ。にもかかわらず、ここでそんな異常が出るなんて。

 もしや、ドレミ界の内と外で変わってしまう特異性が、ここの技術で明らかにされ、偽造と見なされてしまったのか。

 

「偽造、ってわけじゃなさそうだ。これまでも偽造カードは山ほど押収したが、それとはシステムの反応が違ったもんでな」

「ふうん……」

 

 俺が内心狼狽える前で、ディガンマはそのデッキを女性に差し出す。女性はそのデッキを受け取り、カードを確認すると。

 

「『ドレミコード』? 見かけによらず、随分可愛らしいモンスターを使うようだけれど……確かに私も知らないわね」

「なっ……」

 

 尚更おかしい。

 ドレミ界の外へ出る時は、俺が前世で持っていたデッキの中からランダムに1つが選ばれるはずなのに。ついさっきまで、それは確かに【魔力カウンター】だったのに。

 

 いや、前に1回だけ、ドレミ界の外でも【ドレミコード】のままだった事があった。

 それは――

 

「失礼します、プラ=ティナさん」

 

 誰かがまた部屋に入ってきて、思考は一時中断される。

 黒いシャツの上に青いコートを羽織る、赤髪の青年だ。緑の瞳のその人物は、俺と同い年か少し若いぐらいだろうか。

 

「何か御用でしょうか?」

「彼の事情聴取、お願いできるかしら。『ターゲット』とは別人だけど、色々調べた方がいいと思って」

「了解しました」

「D—15の取調室を使いなさい」

「ありがとうございます」

 

 プラ=ティナと呼ばれた女性に言われ、赤髪の青年はディガンマから俺の私物が載ったトレーを受け取り、俺に付いてくるよう指で合図をする。

 

「じゃあ私もこれで――」

「まだ話は終わっていないわよ、小夜丸」

「ひぃん……」

 

 小夜丸も同じく部屋を出ようとしたが、プラ=ティナに笑顔で呼び止められて、おとなしく正座し直す。ディガンマはそんな小夜丸を見てやれやれと首を振っていた。

 さて、「小夜丸」に「ディガンマ」、「プラ=ティナ」。さらにこの施設の名前は「ブリッジヘッド」。

 それで流石に、ここが何の場所なのかは理解できた。

 次元・時間を飛び越えて、あらゆる悪を壊滅させるために存在する組織「S-Force(セキュリティ・フォース)」の拠点だ。

 

 

 赤髪の青年に先導されてやってきたのは、先ほどのプラ=ティナの部屋よりは狭い、ごく一般的な会社の会議室ほどの広さの部屋だ。白い壁と黒く反射する床に囲まれ、入って右手側の壁には鏡が張ってある。中央にはステンレス製と思しき机と二つの椅子。

 一見殺風景な部屋だが、ここが治安維持の役を担っている施設と考えれば、多分壁に張ってある鏡はマジックミラーだ。その向こう側で、「S-Force」の局員がこちらを見張っているのだろう。映画とかで、同じような組織はそうしているのを知っている。しかも、天井の四隅には監視カメラが取り付けてあって、赤いランプが点滅していた。死角は全くない。

 そんな部屋に入れられて緊張するも、赤髪の青年は俺の後ろに回ると、手錠を外した。

 

「……いいんですか?」

「何がだ?」

 

 戸惑いながら聞いてみると、青年は全く気にしていないような顔をして椅子に座った。

 

「そんな、簡単に手錠を外したりして」

「絶対拘束しなきゃならない理由も特にないからな」

 

 そう言って、青年は椅子に座るよう目線で促してくる。俺は一言断りを入れてから、それに甘える事にした。

 

「まずは自己紹介からだ。俺はテータ、このS-Forceで分析官をやってる」

 

 テータ、と名乗った青年が頭を下げる。ここは、俺も名乗るべきだろう。

 

「……バトレアスと言います」

「そうか。今回は、本当に申し訳なかったな。我々のミスで、君を不当に拘束した」

「何が起きていたんですか……?」

 

 俺が誤認逮捕されたのもそうだが、そもそもどうしてこんな事になったのか。あのビルの爆発は何だったのか、分からない事だらけだ。

 

「実は我々S-Forceは、ここ1~2年で頭角を現し始めた連中を追っているんだ」

 

 それは、ディガンマやプラ=ティナが言っていた「ターゲット」と言う奴か。テータがタブレット端末を取り出して操作し、画面をこちらに向けてくる。

 そこには、数枚の写真が表示されていた。隠し撮りか偶然撮影されたものかは分からないが、どれも写りが若干悪い。

 けれどその風貌は、粗い画質でも見覚えがある。ドレミ界や「À Table」を襲い、六花界やアロマの皆を襲ったであろう黒い鎧の男である事は分かった。

 

「この男は、様々な世界や次元に干渉し、めぼしいデュエリストや力ある組織を襲っていてね。決して無視できない騒動や事件を何度も起こしている」

「……なるほど」

「S-Forceは元々、脅威となりうる別の集団や危険因子を追っているんだが、この連中は世界により大きな影響をもたらすと判断し、今は優先的にこちらの対処をしている」

 

 多分だが、その脅威となりうる存在とは、デュエルモンスターの設定として「S-Force」が追っている、別のモンスター群の事だろう。しかし今は、それについては後回しだ。

 ちらと、テータはタブレットに視線を一度落としてから、また画面を操作する。

 

「で、今日小夜丸さんが追っていて、さっきの爆破テロを起こしたのはこいつだ」

 

 そう言って、テータは画面をスワイプして、別の写真を見せてくる。やはりこちらも、監視カメラか何かの画像故に遠景だが、それでもその人物の姿はちゃんと見える。フード付きの黒いコートを着る、多分男だ。

 

「この男が、例の黒い鎧の男たちを率いている……つまり、一連の騒動の大本だ」

「……こいつが」

 

 自然と口から、言葉が洩れる。今まで俺を含め、多くの人を傷つけてきた黒い鎧の男たち。そいつらのトップともなれば、怒りなどを覚えるのは当たり前だ。

 しかしながら、そこでテータは俺の方を見る。

 

「その反応、君は知っていたのか? この男や、黒い鎧の連中を」

「……襲われた事があります。黒い鎧の奴に」

「そうか……」

「歪な世を正し、秩序を成す……などと言って協力を持ち掛けられました。断りましたが」

「賢明だ」

 

 そして、さらにタブレットを操作するテータ。次に見せられたのは、身体のデータか何かのような画面だ。

 

「俺たちが、映像や現場の痕跡を調べた結果、このフードの男と黒い鎧の男は、通常の人間とは少し異なる存在である事が分かったんだ」

 

 そう言いながら、画面に映る数値やグラフ、人体のCGを見せてくるが、俺には何が何だかさっぱり分からない。

 

「外見こそ人間と同じだが、精神……それを構成するエネルギーと言うべきか。そこが個人差とかではなく、根本から違う。言うなら……通常の人間は『人類一種』、こいつらは『人類二種』だ」

 

 何か免許の種類みたいな話になってきたが、似て非なるものという意味では、その例えも間違っていないのかもしれない。

 

「それで今回、小夜丸さんが君を間違えて確保したのは……」

 

 タブレットの画面を消し、テータが俺を見る。さっきよりも、少し目つきが険しくなっている気がした。

 

「君からも人類二種の反応があったからだ」

 

 喉が引っ付いたような感覚。

 そういえば確保される直前、小夜丸は「反応があった」的な感じの事を言っていた。それは、その精神のエネルギー部分を感知したからだろう。一緒にいた機械仕掛けの犬が検知したのか。

 

「同じ反応は、その連中以外で感知する事が今までなかった。だから、小夜丸さんも勘違いしてしまったんだろう」

「でも、さっきは誤認逮捕って言われたんですが……」

「ああ。それは、小夜丸さんがこのフードの男と最初に遭遇した時間、君がまだデュエルアリーナにいたのを確認したからだ。アリバイがある」

 

 どうやら、ベルゲニアとのデュエルは特別な記念デュエルという事もあり、ネット上でライブ配信されていたらしい(初耳だ)。それを偶然、職員の一人が休憩時間に観ていた事で、俺に気づいたのだそうだ。さらにデュエルアリーナに直接問い合わせ、裏を取ったという。

 そして、とテータは俺の持ち物の中から、札束の入った封筒を手に取る。そこには、確かにデュエルアリーナのロゴが入っていた。

 

「封筒に入れていても札束をジャケットに直で入れるのは、防犯的な意味でおススメしないぞ」

「……気を付けます」

 

 銀行口座など持っていないし、鞄の類もなかったから仕方なくそうしていた。今度は鞄も買っておくべきか。

 ともかく、疑いが晴れたのなら、一刻も早く解放してもらいたいところだ。何せエンジェリアとはぐれてしまったので、探さなくてはならない。

 

「で、だ。君にはまた、別件で聞きたい事があってね」

 

 しかし、テータの話はそこで終わりではなあったらしい。

 彼は、同じく俺の持ち物として回収されていたデッキを手に取って、中を見る。

 

「なるほど、【ドレミコード】か。こちらの世界では初めて見るな」

「?」

「ああ、すまない。聞きたい事は何かというと……」

 

 言って、テータはデッキを俺に差し出してきた。

 俺も見てみるが、やはりデッキは【ドレミコード】に戻っている。ベルゲニアとのデュエルで使っていた【魔力カウンター】は見る影もない。

 今までは、外の世界へ持ち出せば、このデッキは別のデッキに変わっていた。

 しかし、そうならなかったのは過去に一度。アロマの庭で、同じ転生者のラベンダーとデュエルをした時だ。

 

「まず一つ目、こいつらと同じ人類二種の反応があった君は何者なのか。もう一つは、君のこのデッキは何なのか、だ」

 

 問われた内容自体は、そう難しいものではない。

 だが、あくまで俺はドレミ界の人間だ。依頼を受けたわけでもない相手に、ドレミ界の存在を告げてしまうのはまずい。同じ理由で、デッキについての説明もできない。だから、答える事ができないのだ。

 答えられず、口を閉じていると、テータは少しだけ唸り、やがて俺を見る。

 

「……じゃあ、まずは俺の方から話をしよう」

「?」

 

 一息ついて、テータは口を開いた。

 

「S-Forceが人類一種と二種を区別できるようになったのは、どうしてだと思う?」

「え……?」

 

 いきなりの質問に、小首を傾げる。だが、戯れで聞いているわけではないようだったので、自分なりに真剣に考えて答えた。

 

「何か、データの基……検体を確保できたから、とか?」

「まぁ、正解だ。なら、その検体とは何だ?」

「……黒い鎧の男?」

「それができればよかったんだが、奴らは神出鬼没でね。あと一歩のところまで追い詰めても、いつも姿を消して逃げちまう」

 

 そういえば、ドレミ界や「À Table」でデュエルをした時も、黒い鎧の男は負けた直後に姿を消した。例外なのは、ラベンダーの話に聞いた、負けてもなおしつこくベルガモットやカナンガたちを襲った個体ぐらいか。

 ともかく、黒い鎧の男を捕まえたわけではないのなら、どうやって検体をS-Forceが得られたが分からない。

 結局答えが出ないでいると、テータは笑いながら自らを指さした。

 

「俺だよ」

「へ?」

「要するに、俺も人類二種だって事だ」

 

 笑って告げた事実に、驚く。

 けれどさらに、テータは続けた。

 

「もっと言えば、バトレアス。俺は君と()()だと思う」

「同じ、って……」

 

 そこで、気づいた。

 「ドレミコード」のカードが、別世界でもそのままになっていたのは、アロマの庭の時。そこには、同じ転生者のラベンダーがいた。

 そして今もまた、同じ状況になっているという事は、近くに転生者がいるのかもしれない。

 さらにこのテータは、自らを俺と同じ人類二種と告げた。

 

「その通りだよ。俺も君と同じ、転生した人間だ」

 

 俺が気付いたのを見計らい、自ら明かすテータ。

 謎が解れて、身体から力が抜ける。

 

「生前の名前は思い出せないが、覚えているのはこの世界に来る直前の事。1年ぐらい前、子供を助けようとして車に轢かれたんだ」

「それは……気の毒に」

「ああ。だが、目が醒めたらこのブリッジヘッドの屋上だった。当然俺はパニクったし、偶然そこにいたプラ=ティナさんも慌てふためいてた」

 

 さっき小夜丸を糾弾していた女性を思い出す。そんなイメージはないのだが、いきなり人間がどこからともなく姿を見せたら驚くだろう。特にここは、セキュリティも厳重だろうから。

 それにしても、死ぬ直前の事は覚えていても、名前を覚えていないというのは俺やラベンダーと同じだった。

 

「いや、正直殺されると思ったね。それぐらいの剣幕で迫られたし、銃も向けられた。何しろここは、そう言う面には厳しいから」

 

 たはは、と笑うテータだが、俺が同じ立場だったらどうなっていただろう。支離滅裂な命乞いをしていた可能性が高い。

 

「……それでも、こうして分析官になれたんですよね」

「幸か不幸か、そのタイミングでこの黒い鎧の男が現れたんだよ」

 

 タブレットを忌々し気に指で叩くテータ。それに合わせて、画面に映る鎧の男の画像が拡大された。

 

「君が言われたような、同じ目的を告げられてな。それで、『協力しなければブリッジヘッドを崩壊させる』なんて言ってきたもんで。なし崩し的にデュエルをする事になったよ。その時プラ=ティナさんはデュエルディスクを持っていなくて、その場でデュエルができる状態だったのは俺だけだったから」

 

 転生直後に黒い鎧の男に出くわしたというのは、俺やラベンダーと同じだ。特に、デュエルをする事になるというのは、俺とよく似ている。

 

「ま、相手がかなりお粗末なプレイングだったもんだから、そこまで苦戦はしなかったが……デュエルに勝ってもS-Forceから尋問を受けた」

「……」

「鎧の男が現れたのも、俺が奴を連れてきたんじゃないかと疑われてね。嘘発見器なんて俺は初めて経験したよ」

 

 あっけらかんと話しているが、どれだけの苦労や苦痛が伴ったかは、俺には想像もつかない。俺だったら、多分心が折れていただろう。

 

「まぁ結果として、無実は認められたわけだが……その時に色々身体のデータを取られてね。そこで、この世界に元々生きる人間と、俺みたいな転生者の人間は、元の部分が違うって言うデータができたわけだ」

 

 天老がかつて言っていた、魂の色という言葉を思い出す。あれは、あながち感覚的なものではなかったのだろう。

 

「さ、俺の話はした。君の話を聞こうか」

 

 そしてテータは、なんとも上手いやり口を披露して見せた。テータの口から過去の事を話したからこそ、こちらにも話さなければならないという圧力、というよりも協調性を強いている。

 

「……俺も、同じです。転生した人間です」

「なるほどね。で、君はどこに住んでいる? いや、正確には『どの世界に住んでいる?』って聞いた方がいいか」

 

 転生した事自体は、同じ転生者で事情を知るテータやS-Forceに対して別に隠す必要はない。

 けれど、どこに住んでいるか、という点は別だ。やはりドレミ界の存在、公に話すべきではないだろう。ここが取調室で、今もマジックミラーの向こう側で誰かが聞いていると思うと、簡単には口を開けない。

 

「ふむ……」

 

 しかし黙っていると、テータがマジックミラーに向けて何らかのジェスチャーを送った。

 すると、マジックミラーの上から白い壁が下りてきて、完全にそれを隠す。さらに、天井の四隅の監視カメラにテータが視線を向けると、レンズの下で点滅していた赤いランプが、緑のランプに変わった。最後に、テータはタブレットを操作して俺に視線を戻す。

 

「あの鏡がマジックミラーだと気付いていたな?」

「……はい」

「だから今、こうして閉じたわけだ。それに監視カメラの映像も止めてもらったから、唇の動きで言葉を読まれたりする事もない」

 

 どうやら、テータは俺が話をしやすいように計らってくれたようだ。感謝の念を込めて頭を下げる。

 

「と言っても、熱源センサーと動体センサー、心音と脈拍のセンサーはオンになってる。だから嘘を言ったり、何かおかしな動きを見せたら、あっという間に警備員に捕まるからお忘れなく」

「……」

「後、このタブレットでオフラインの録音もしているからな」

 

 この部屋にはセンサーも設置されているらしい。それで俺の細かい動作や体内の環境も観測されているというのだから、かなり近未来的な取調室だ。流石、デュエルモンスターズのハイテク組織と言えるだろう。

 けれど、リアルタイムで誰かに見られたり話を聞かれているわけではないのであれば、多少気が楽だ。相手が俺と同じ転生者であれば、ドレミ界についても話せる。

 

「……その、俺が持っているデッキですが」

「ああ、『ドレミコード』か?」

「はい。俺は、そのドレミ界に転生したんです」

 

 テータは頷く。おおよその予測でそう考えていた、とでも言わんばかりに。

 

「ドレミコードの役目を考えると、あまりおいそれとドレミ界の存在を他人に言うのは難しくて。なので、こうして配慮してくれてありがとうございます」

「いや、それは別にいいさ。しかしドレミ界か……」

 

 言いながら、テータは俺のデッキを手に取る。

 

「デュエルアリーナで、君はこのデッキを使ってなかったと聞くが……そのデッキは今どこに?」

「いえ、その……信じがたいかもしれませんが、そのデッキが変わっていたんです」

「何?」

「ドレミ界から出ると、そのデッキは別のデッキに変わってしまうんです。ドレミコードという存在を、他に知られないためなのか……詳しい仕組みは、俺も未だ分かっていません」

 

 包み隠さず言うと、本当に信じられないとばかりにテータはイスに深く座りなおす。そしてタブレット端末を見て、俺の心拍数などをモニターしている画面を見る。

 

「……で、今こうしてドレミコードのデッキを持っているのは?」

「……それは、まだ同じ例が1回しかないんですけど……。俺と同じように、別の世界から転生した人が近くにいると、デッキが元に戻ってしまうみたいです」

「……待て。他にも転生している奴がいるって事か?」

 

 言って、マズいと思った。

 その「例」とは勿論ラベンダーの事。彼女の存在が秘匿されているかどうかは分からない。それは俺も理解しているからこそ「一例」としたわけだが、テータはすぐに気づいた。

 

「しかし、そうか……」

 

 けれどテータは、深掘りするよりも自分で何かを考え始めていた。

 

「……さっき言ったな。君と同じ反応が、このフードの男や鎧の男から感知したと」

 

 そう言って、再びテータはタブレットを操作してさっきのフードの男の画像を映し出す。その言葉は覚えていた。

 

「そのデータは、転生者である俺が基になったもの。そしてフードの男たちが同じ反応を示し、君という転生者も同じ反応を見せたという事は……?」

「……そいつも転生者」

「そういう事だ」

 

 天老やブライターの話を聞き、転生者は俺一人ではないと前々から薄々思っていた。それから、ラベンダーや目の前のテータといった転生者に会ったものの、どちらも天老が言っていたような傲岸不遜な態度は見られない。

 そしてブライターは、かつて戦った転生者と思しき男の名前は「ヴァーディクト」だと言っていた。

 であれば、テータの言うフードの男こそ、その「ヴァーディクト」ではないだろうか。

 

「ただ、気になるところもある」

「?」

「フードの男と、鎧の男からは確かに人類二種の反応があった。しかし、反応の強さはフードの男の方が強い」

 

 タブレットを再び見せてくるテータ。そこにはそれぞれの数値やグラフが表示され、相変わらず何が何やら分からない。けれど、フードの男の方が、鎧の男より色々な数値が少し高いのは分かった。

 

「この男は何者なのか、真の目的は何なのか。これを見定めなきゃならん」

「……そうですね」

「本当なら、同じ転生者同士ゆっくり話がしたい。だがまずは、この男が先だ」

 

 タブレットを指さすテータに対し、俺は頷く。何をするにしたって、この男の存在は極めて危険だ。野放しになどできない。

 

「だから君も、知っている情報が他にあれば、教えてくれるとありがたい。できれば協力してほしい」

 

 あらゆる敵対勢力を討ち滅ぼすS-Forceだから、それ以前にテータも真っ当な心の持ち主だから、この男たちを何としても止める。でなければ、世界にはもっと悪い事が起こると理解しているようだ。

 その姿勢を前にして、俺も協力しない理由はない。黒い鎧の男の凶行に二度も巻き込まれ、しかもドレミコードの皆を始め、多くの人が傷つけられた。その悪事を耳にしているからこそ、放っておけるわけがない。

 だから、俺は差し出されたデータの右手を握り返そうとしたが。

 部屋の中で、けたたましいエラー音が鳴り響いた。

 

「!?」

「な、なんだ……!?」

 

 あまりに大きな音に、俺もテータも耳を塞ぐ。パソコンでウイルスを検知した時みたいな、頭が痒くなる音だ。

 その出所は、テータの持っているタブレット端末、ではない。俺のデュエルディスクだ。見れば、天板の画面上に大きく「!」マークが映されている。こんな動作を見せたのは初めてだ。

 たまらずテータを見る。触れていいものか分からなかったが、テータは耳を塞ぎながら頷いた。こんな音が流れたままでは話もままならないからだろう。

 だから俺は、目でお礼だけ告げて、とりあえずディスプレイをタップする。他にどこをどうすればこの音を止められるかもわからなかった。

 だが、ディスプレイをタップすると、音が止まった。もう大丈夫だろうか、と思いつつ手を耳から離すと。

 

『バトレアス、今すぐ戻ってきて!』

 

 声が響いた。

 その声は、ミューゼシアのものだ。「知り合いか?」というテータの問いには頷きだけ返す。

 

「ミューゼシア様? いったい何が――」

『説明している時間がない! 早く戻って、というか今から戻す!』

「え!?」

 

 こんなまくしたてるようなミューゼシアの声は聞いた事がない。事情を聞いても、答えは帰って来ない。

 困惑していると、有無を言わさず突然デュエルディスクが光を放ち始める。お芝居などではないらしい。

 

「……テータさん、今は一度、俺を帰してもらえませんか」

「……緊急事態みたいだな」

 

 テータも事情を察したらしく、頷いてデッキとジャケット、所持品を返してくれた。手早くそれらを回収して、デュエルディスクにデッキをセットして腕に嵌める。

 しかしそこで、部屋のドアが勢いよく開いた。

 

「動くな!」

 

 入ってきたのは、警備員らしきモスグリーンのスーツを着た男が数人。普通のものとは違うような銃を構えている。多分、センサーで俺たちが妙な動きをしたのを見て駆けつけたのだ。データの言葉に誤りはなかった。

 しかし、銃を向けられた俺は、抵抗の意思がない事を最低限伝えるために両手を挙げるが、不思議と怖いとは思わなかった。それは、さっき聞こえたミューゼシアの剣幕の方が気になったから。

 

「ディスクを外して床に置け!」

「待て、みんな銃を下ろせ」

 

 警備員の一人が銃を向けながら命令する。デュエルディスクが未だ強い光を放っているからだろうが、テータはそれを制した。そして俺の前に立ち、庇う姿勢を取る。

 

「彼は違う。我々の敵じゃない」

「しかし――」

「大丈夫だ」

 

 少しだけ強くテータが告げると、警備員は銃を下げはしなかったが、俺に対する攻撃的な態度をある程度緩めた。なるほど、彼は仲間の信頼も得ているらしい。

 そしてテータは俺に振り向いて笑う。

 

「事が済んだら、もう一度ここに来い。改めて話をしよう」

「ありがとうございます」

 

 勿論、こんななあなあな状態で帰るのは消化不良感が強い。だから、何が起きたのかは分からないが、無事にすべてが終わったらもう一度このブリッジヘッドに来る。

 それを約束すると、強い光に視界が塗りつぶされ、瞑った目を腕で守った。

 そして少しして、ゆっくりと目を開けて、

 

「……」

 

 言葉を失った。

 そこは、さっきまでいたブリッジヘッドの取調室ではない。随分と見慣れた、ドレミ界の屋敷の前。

 だが、軒先に9つの巨大な白い十字架が立っていた。しかもそのうちの8つには、両手と両脚、お腹を鎖で縛られたドレミコードの皆が磔にされていて、誰も俺に気づいた様子がない。いや、気を失っているのか、全員の顔は下を向いていて顔も窺えない。

 そしてその下には、2人の人がいる。

 まず1人は、横たわっているものの、ピアノの鍵盤のような翼にベリー色の髪、チョコレート色のドレスという点でミューゼシアだと分かる。けれど、彼女も気を失っているのか、地面に顔を伏せたままだ。

 そしてそのすぐ傍に立っているのは、黒いフード付きのコートを着た誰か。さっき、テータのタブレットで見たやつとよく似た見た目だ。その人物は、俺に気づいたようにこちらを振り返ると。

 

「やぁ、おかえり」

 

 そう告げて、フードを取る。青白い髪と白い肌、赤黒い瞳の男だ。

 にやり、と気色悪い笑みを浮かべるその男は、一目見ただけで敵だと分かった。




テータについてはまた別の機会に掘り下げるつもりです

次回からデュエルが始まりますが、
敵のイレギュラーさや強さなどを表現するために、使用するカードはほぼオリジナルカードとなります。
予めご了承ください。
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