ご承知おきください。
バトレアス LP1600 手札1
【モンスターゾーン】
ラドレミコード・エンジェリア ATK2300 レベル6
【エクストラモンスターゾーン(左)】
□■■
□◆■ ATK3000
□■■ リンク5
【魔法&罠ゾーン】
カード無し
【ペンデュラムゾーン】
右:ミドレミコード・エリーティア スケール6
左:レドレミコード・ドリーミア スケール7
【フィールドゾーン】
ドレミコード・ハルモニア
ヴァーディクト LP3100 手札1
【モンスターゾーン】
カード無し
【魔法&罠ゾーン】
カード無し
【フィールドゾーン】
カード無し
冥府の美神・クルヌギアスが現れた瞬間、空気がずんと重くなる。前回と同じ感覚だが、それに震えている場合ではない。
そして、プレッシャーはヴァーディクトも感じ取ったようで、わずかに後ろに下がる。それでもすぐに笑った。
「驚いたよ。まさか君みたいな奴が、こんなモンスターを持っていたなんてね」
『口を慎まんか、腐れ小童』
ヴァーディクトの軽口に応えたのは、他でもないクルヌギアスだった。いきなり聞こえたそれに、ヴァーディクトはもちろん、俺も少し驚く。《恋する乙女》の時と違い、プレイヤーの言葉に言葉で返事をするのは「ドレミコード」でも過去にはなかった。
しかしながら、今フィールドに出したのはその力の一部を宿しているとはいえ、冥界の神。彼女ならやりかねないとも思ってしまう。
だが、鋭いクルヌギアスの言葉にも微笑みを絶やさず、ヴァーディクトは腰に手を当てて、一見礼儀正しく頭を下げた。
「これは失礼いたしました、クルヌギアス様」
『フン』
だが、その挨拶を鼻であしらったクルヌギアスは、俺の方を振り返る。
『バトレアス、貴様も随分と面倒な輩に絡まれたものじゃな』
「……まったくです」
ヴァーディクトに向けた冷淡な態度とは逆に、冗談交じりにフランクな態度で言われる。対応の差はともかく、クルヌギアスの意見に俺は全面的に同意した。
「クルヌギアス様、貴女様もお聞きになったでしょうか? 僕の目的を」
そのやり取りを見て、ヴァーディクトはまたクルヌギアスに話しかけた。こうしてデュエル中でも意思疎通ができる事で、クルヌギアスがただのモンスターではないと理解したらしい。
その上でそんな聞き方をするのは、同意と協力を求めている事に他ならない。何とも烏滸がましい所業だ。
『貴様の提案は一考にも値せん。諦めよ』
しかし、クルヌギアスはヴァーディクトの目的を拒絶した。予想通りの反応である。
「なぜでしょう?」
『妾にも、力を貸したい奴とそうでない奴を選ぶ権利はある。貴様は後者というだけの事よ』
「世界のためだとしてもですか?」
『貴様は思い違いをしているな?』
問いかけるヴァーディクトをクルヌギアスは指さす。
『多くの世界が問題を抱えているのは妾も理解しておる。じゃが、貴様は世界のためという大義名分を掲げて、自分が気に入らない他者を排除しているにすぎん』
「……」
『貴様も人間である以上、生きているうえで離別は経験せざるを得ん。それは誰しも経験する事じゃ』
腕を組み、息を吐くクルヌギアス。さっきの受け答えも含め、どうやら俺のデュエルディスクにいる間に、ヴァーディクトの過去の話は聞いていたようだ。
『他の誰かの手で、大切なものを傷つけられ、喪うのが悲しいのは皆同じ。現にこのバトレアスも、今貴様がドレミコードの同胞を斯様に扱っている事に強く憤っておるからの』
視線を向けられ、頷き同意する。それに、今までの凶行を見て聞いてきたからこそ、俺はヴァーディクトの事を許せないし、今ここで倒すと決めている。
『だが貴様は、その悲しみを自分の中で受け止められず、もっともらしい理想を掲げて八つ当たりをしているだけじゃよ。言うなら貴様は、世界を巻き込んで駄々をこねているガキじゃ』
ぴくんと、ヴァーディクトの肩が震えたのが見えた。あちらの癪に障ったのはクルヌギアスも気づいたろうが、彼女は鼻で笑って続ける。
『はっきり言っておく。妾
少しだけ、笑ってしまう。
俺の中に知識としてある限りでも、神話の神様の中には自分勝手な性格の持ち主もいる。たとえどれだけ強大な力を持っていても、人間臭いところが垣間見えるのが神話の面白さというものでもあるだろう。クルヌギアスもそんな一人だったというわけだ。
『貴様も神に匹敵する力があるのなら、自分ひとりだけの楽園でも創って引っ込んでおればよかったものを。中途半端な正義感を持っているがゆえに、貴様は多くの世界が抱える問題を解決するなんて大それた目標を掲げて世界を足蹴にするんじゃ』
なんというか、一周回ってヴァーディクトが気の毒に思えるほどの正論だ。
クルヌギアスは、ひとつの世界を創造してその頂点に君臨する神だからこそ、神の力を持つものの行いを評価できる。俺としては、何とも評しがたかったヴァーディクトのどうしようもない面をちゃんと言葉にしてくれたのが、とても心地よかったが。
『そんな輩のちっぽけな野望に、何故妾が手を貸さねばならん? くだらぬ』
「黙れこの
ついにキレたか、ヴァーディクトが放った乱暴な言葉に、空気に皹が入ったような音が聞こえた気がする。
流石、世界を変えると豪語する男。地雷原をスキップで跳び回るような真似も厭わないとは。
『おい、バトレアス。この男、完膚なきまでに叩きのめせ。でなければ妾の気が済まん』
「……勿論、そのつもりです」
こちらを振り向かず、けれど怒っているのは確実なその声を聞き、俺は笑って答える。
ドレミコードの皆は意識を失い、カードの彼女たちのイラストも元に戻ってしまっている。そんな中、こうして俺と言葉を交わし、明確な意思を持って俺と一緒に戦ってくれるクルヌギアスの存在は、これ以上とない頼もしさと安心感があった。
そのクルヌギアスの怒りに気づいていないのか、ヴァーディクトは天を指さした。
「墓地へ送られたミュートロギアの効果発動! このカードが相手によって墓地へ送られた場合、1ターンに1度だけ、墓地のこのカードを特殊召喚できる!」
そして、その指を地面に勢いよく振り下ろすと、それに合わせて魔法陣が出現し、中から金色の巨人が姿を見せようとした。
「クルヌギアス……様の効果発動! 1ターンに1度、墓地のモンスターを特殊召喚する効果を含む、相手の効果の発動を無効にして破壊する! レザレクション・クローズ!!」
「何!?」
しかし、クルヌギアスは冥界の神。目の前で勝手に死者が蘇る事を許しはしない。
驚くヴァーディクトの目の前で、魔法陣から這い出ようとした機械仕掛けの巨人が、その魔法陣から伸びる黒い腕に掴まれて動きを止めた。そしてその中に引きずりこまれ、魔法陣は消え去る。
これで、ヴァーディクトのフィールドはガラ空き。こちらのフィールドにはクルヌギアスと、攻撃時の魔法・罠カードの発動を禁止するエンジェリア。行ける。
「バトルだ!」
「墓地から罠カード《
そのカードが発動すると、空に皹が入り巨大な穴が出現する。まるで、俺が最初にドレミ界へ来た日、侵略者が空を割って出現した時のようだ。しかしその時と違うのは、穴が掃除機のように全てを飲み込もうと風を吹かせる点。エンジェリアは最低限の抵抗を見せたが、それでも耐えきれず吸い込まれてしまった。
けれどクルヌギアスは、全く動じずに腕を組み、つまらなさそうにその穴を見上げている。
「リンク召喚したクルヌギアス様は、自らを対象としないお前が発動した効果を受けない!」
「な……!」
対象を取らない効果は、《サンダー・ボルト》や《超融合》といった強力なカードをはじめ、効果を無効にするカウンター罠やモンスター効果なども受け流せる(召喚自体を無効にされるのは無理だが)。エンジェリアを失った事で勝利できなくなったのは痛いが、それでも十分なダメージを与えられる。
「クルヌギアス様でダイレクトアタック! カオス・レイジング・フォース!!」
『悪くないのう』
クルヌギアスの攻撃に際し、彼女が使っていた【カオス】にちなんだ攻撃名を宣言すると、クルヌギアスは笑って指を鳴らす。その音を聞き、彼女の背後に控えるドラゴンが口を開けると、空気を震わす慟哭と共に黒い雷をヴァーディクトめがけて放った。それは槍、あるいは龍を象っているようにも見え、容赦なくヴァーディクトの身体に直撃する。
「ぐぎぁああああああああああああああッ!!」
ヴァーディクト LP3100→100
やはり、神の攻撃故にダメージもすさまじいのが、声と表情で分かった。それに対する同情はほどほどにしておく。
「俺はこれでターンエンドだ」
ヴァーディクトのフィールドにカードはもうない。手札は1枚、ライフは100。それでも、あのデッキはヴァーディクトが独自に作り上げたものだ。何が出てくるかは最後まで分からない。
そして、アロマの庭でラベンダー相手にほぼ同じ状況になった際、俺は負けた。だからこそ、気を抜かずに次のターンを身構えて待つ。
「ははは……なるほど、僕は君をかなり侮っていたみたいだ」
起き上がったヴァーディクトは、さっきの攻撃の影響か、膝がガクガクと震えている。しかし、何が可笑しいのか笑いながら俺を見た。
「まさか、ここまで追い込まれるとは思っていなくてね。まあ、そんなカードを持っていたらこうなるか……」
『当り前よ。妾が直々に手を貸してやっておるのだ、下手なデュエルなぞ許しはせん』
クルヌギアスの言葉は、使っている俺としてもプレッシャーである。一部とはいえ神の力を借り受けているのだから、それに恥じないデュエルを、というのは分かる。だが、それを当人から言われると、それは最早盟約だ。
「それならこっちも、真剣に、徹底的に戦うとするよ。僕のターン、ドロー!」
そうしてヴァーディクトがドローする。そのカードを見て浮かべたのは、狂暴な笑みだった。
「墓地にいる《聖騎天クロト》《聖騎天ラケシス》《聖騎天アトロポス》を除外し、このモンスターを特殊召喚する!」
その名を呼ぶと、フィールドに魔法陣が現れ、中から3人の女神が現れる。それらは上空に出現した黒い渦へと舞い上がり、入れ替わるように降り注がれたのは白い雷だった。
「白き理想郷の礎たる巨神。今ここに降臨し、歯向かう矮小な愚昧に裁きを下せ!《聖騎天メガロス・タルタロス》!!」
やがて地響きと共に現れたのは、これまでに見てきた「セイクリッター」のどれとも違う風貌のモンスター。獣のような茶色の毛深い体ながらも2本の足で立ち、頭は龍のような禍々しい形状。赤い目が4つに、極めつけに背中からは黒い翼が生えていた。今までが天使族や機械族のようだったのに対し、このメガロス・タルタロスは悪魔みたいだ。
聖騎天メガロス・タルタロス
ATK4500 レベル10
そして攻撃力もレベルも、今までとは段違い。恐らくは、これこそヴァーディクトの切り札だろう。
「メガロス・タルタロスの効果発動! このカードが特殊召喚した時、君のフィールドのカードを全て破壊する! この効果の発動と効果は無効にできない!」
「何!?」
メガロス・タルタロスが吼えると黒い突風が吹き荒れる。それはペンデュラムゾーンにいる2人のドレミコードを吹き飛ばし、空に浮かぶハルモニアの五線譜や音符をかき消した。
後に残ったのはクルヌギアスひとりだけ。今のも対象に取らない効果だから、破壊される事はない。けれど、攻撃力は足りなかった。
「僕はフィールド魔法《
最後に残った手札をヴァーディクトが発動すると、周囲の景色が一転して暗闇に変わる。夜になったのとはまた違う、黒一色の世界。以前クルヌギアスとのデュエルで経験した、心地よい暗闇の空間によく似ている。
それでもなお、ドレミコードの皆が磔にされた十字架は、隠れる事はない。
「このカードはメガロス・タルタロスが存在する場合に発動できる。このフィールドがある限り、メガロス・タルタロスは君のカード効果を一切受け付けない!」
「!」
俺に対しての完全耐性。つまり、こちらは攻撃力4500を単純な打点だけで突破しなければならなくなったわけだ。この不利な状況で。
「バトル! メガロス・タルタロスでクルヌギアスを攻撃! インフィニット・クリエイション!!」
メガロス・タルタロスが口を開くと、灰色のエネルギーを蓄え始めた。
『……どうやら、ここまでのようじゃの』
その間際、クルヌギアスが告げる。破壊を覚悟しているらしい。
「……ここまで力を貸してくださりありがとうございます」
それでも俺は、クルヌギアスのカードが意思を持っているからこそ、感謝の言葉を言っておきたかった。彼女のおかげで、ヴァーディクトをあと一歩のところまで追い詰められたのだから。
『一つ約束せよ』
それを聞いたクルヌギアスが、俺に振り向いて話しかけてきた。
『このデュエル、必ず勝利せい。そして、妾の下へ来い』
「……?」
『言ったじゃろう? 妾はクーリアの奏を聴きながら茶を嗜むのが趣味だと。アレが勝ったら、それもできそうにないしの』
振り返ったクルヌギアスは、今まで見せた事もないような優しい笑顔だった。
『妾に感謝しているのなら、言葉だけでなく茶菓子のひとつでも持て。そしてクーリアと共に妾の宮殿へ来るがいい。さすれば、妾も茶でもてなしてやらんでもない』
「……楽しみにしています」
俺が応えると、クルヌギアスは頷き、メガロス・タルタロスが灰色の光線を放出した。
『健闘を祈る』
そう言い残し、クルヌギアスは光線に飲み込まれて消滅した。
そして超過したダメージが、衝撃となって俺自身に伝わってくる。
「ぐ、があああああああああああああああああああっ!?」
バトレアス LP1600→100
遥か後方に吹き飛ばされ、身体中を打って暗闇を転がる。
このデュエルどころか、今までの精霊界でのデュエルでも経験した事がないほどの強い衝撃、そして痛み。体中の筋肉が強張り、立ち上がろうとしても腕や脚に力が思うように入らない。
「メガロス・タルタロスの効果発動! このカードが君のモンスターをバトルで破壊した場合、君の手札全てを墓地へ送る!」
メガロス・タルタロスの目が光り、手札に残っていた《クリアクリボー》のカードが溶けて消えてしまう。これで、俺のフィールドにも手札にも、カードはなくなってしまった。
「僕はこれでターンエンド」
誇らしげに笑い、ヴァーディクトはターンを終えた。
こちらのターンになったが、起き上がる事もできず、ドローさえできない。
「散々僕をこき下ろした割に、なんて様だ。見苦しい」
這いずりながら、どうにか元居た場所に戻る。ヴァーディクトは、冷めた笑みで俺を見下していた。
「今更命乞いしても遅いよ。君は消すと既に決めてる」
「……願い下げだ」
こんな奴に助けてもらうなんて末代までの屈辱だ。手を借りたりはしない。
できる限り気丈に言い返すと、ヴァーディクトはふんと鼻息を吐いた。
「なあバトレアス、最後に聞かせてくれないか」
どうやら、もう自分が勝ったつもりでいるらしい。完全に上から目線だ。
「君は僕の目的を否定したね。全ての世界の抱える問題を解決するために世界をリセットするのは、間違っていると」
「……」
「じゃあ君は、どうやってこの世界の抱える問題を解決する? 教えてくれよ」
精霊界は、デュエルモンスターズが現実として存在し、前世では考えられなかった不思議な出来事が日常のように起こり、未来技術も普通にある。
けれど、その前世にあったような問題を抱えた世界も確かに存在するらしい。なら、それを解決するにはどうすればいいのか?
それは、あまり深く考えなくても、自然に答えられた。
「……俺には、お前みたいなすごい力はない。だから俺ができるのは、世界を変えられるような、真っ当な力を持っている人の力になる事だけだ」
「それは僕じゃないと?」
「少なくともな」
言いながら、どうにか体を起こす事はできた。
「ドレミコードの皆は、そうしていたよ。その問題を……淀みを取り除けるように、そのきっかけになる旋律を作り出していた」
「あまりにも回りくどい。それなら、自分で手を出して問題を解決した方が時間も手間も省ける」
全部を説明してもどうせ理解しないだろうが、ドレミコードの皆は世界を変えられるだけの力を持っている。それでもその力を直接行使して世界を動かさないのは、理由があるのだ。
「俺も、お前も、ドレミコードの皆も、その世界で生きてきたわけじゃない。歴史を作ったわけでもない。その世界を変える権利なんて、誰にもない」
「何?」
「ぽっと出の誰かが、その問題を根っこから解決するのも一つの手だろう。けど、その世界に生きる人たちの手で解決できれば、それは経験と教訓になって、その先に繋げられる」
困難を解決するのに手を貸すのは賛成だ。しかし、当事者に代わって問題を全て解決するよりも、共に少しずつ解決する事で本当の糧となり、成長につながるのではないだろうか。
だけど、そんな考えをヴァーディクトは呆れたように笑って。
「理想論だよ。あまりにも」
「ああ、理想だよ。俺には世界を変える力はないからな。そして、そんな力を持っていても、世界を全部消すなんて方法を取る気はない」
脚に力を込めて立ち上がる。
「そして、お前が持ってる力っていうのは、そんな理想も現実にできるようなものなんじゃないのか?」
「?」
「お前にとって大切だった人は、その力で、お前が笑った理想を実現してほしかったんじゃないか?」
俺はヴァーディクトじゃないから、その「大切な人」が何者で、本当はどんな人だったのかも分からない。
だけど、理想を笑ったヴァーディクトに、これだけは言えた。
「お前の大切な人は、お前が笑った理想を実現しようとしてたんじゃないのか?」
ヴァーディクトは、歯軋りをした。
だがこれ以上、ここで掛ける言葉はない。だから倒すべき相手として見据え、デッキに指をかける。
「俺のターン……ドロー!」
引いたカードを確認した直後に、ヴァーディクトが腕を伸ばす。鬱陶しそうに。
「《聖騎天の極点》の効果発動! 僕のフィールドにメガロス・タルタロスが存在する場合、君のスタンバイフェイズに君のライフを半分にする!」
「な――」
声を発する間もなく、暗闇で雷鳴が轟いたと思うと、頭に衝撃が走り視界が真っ白に染まる。
バトレアス LP100→50
次の瞬間には、またうつ伏せになっていた。先ほどの攻撃と同じ、容赦なく俺の命を奪い取るつもりの威力だったのが食らって分かる。
意識が落ちかけるが、どうにか頭を振ってそれに耐え、取りこぼしてしまったカードを手に取る。
「ラストチャンス」とデッキに言われた気がした。
「魔法カード……《ペンデュラム・ホルト》発動……。エクストラデッキに、3種類以上のペンデュラムモンスターが、表側で存在する場合……2枚ドローする」
「悪あがきを」
現状、エクストラデッキには「ドレミコード」のペンデュラムモンスターが8種類全ているため、発動自体は問題なかった。
しかし。
「先に言っておくが、メガロス・タルタロスには貫通効果もある。守備モンスターで時間を稼ごうなんて考えない事だよ」
「……」
ヴァーディクトが俺を憐れむように告げた言葉は、わずかな勝ち筋をも潰すものだった。
既にこのデュエルで、ドレミコードのカードはほぼ全て使っている。加えて、切り札のクルヌギアスをも退けられた。おまけに、ペンデュラムデッキで高打点を出せるであろう《団結の力》や、最低限凌げる《和睦の使者》は除外されている。そしてメガロス・タルタロスは完全耐性を持っているため、除去札も効かない。
そして忘れてはならないが、《ペンデュラム・ホルト》のデメリットで、このターンは他のカードをデッキから手札に加えられなくなる。
この状況を打破できるカードを2枚も引ける自信が、ない。
それ以前に、そんなカードはもうこのデッキにないとさえ思う。
《マシュマロン》は攻撃を受けてリバースした時、1000のダメージを相手に与えるが、まず裏守備で出す必要がある。効果を発動する前に貫通ダメージを受けて負ける。
今さっき墓地へ送られた《クリアクリボー》は、ダイレクトアタックを受ける時に1枚ドローし、モンスターならそれを特殊召喚して攻撃を移し替えられる。が、魔法・罠を引けば普通に攻撃を受けるし、モンスターを引いても守備力4500以上のモンスターなどこのデッキにはない。何を引いてもやはり負ける。
(……まずい)
さっき喰らった雷の影響か、それとも完全に手詰まりと自覚したせいか、視界が霞み始めた。
デッキにかけた指が、ディスクを嵌めた腕が、震えだす。心臓がいやな動き方をし始める。
呼吸が乱れ始めた。
――これはベルガモット様から力をいただいたカード……
不意に、以前戦ったラベンダーの事を思い出す。彼女は、ベルガモットと何かしらの方法で力を取り交わし、彼女だけの新しいカードを作り出した。それを起点に、あのデュエルで俺は敗北を喫した。
――このカードは、推測だけれど……私のグランドレミコードの力で創られものではないと思う
クーリアの事を思い出す。彼女もまた、俺と妖精体の力が合わさった(と仮定する)結果、新しいカード《ドレミコード・クレッシェンド》を手に入れた。
そんな走馬灯のようにかつての事を思い出してしまうのは、俺が無意識にもう負けてしまうのを覚悟しているから。
ここで二度目の死を迎えると、脳が理解したからだ。
けれど、勝ちを確信した顔で笑っているヴァーディクトを見て、歯を食いしばる。
こんな奴には負けられない。もしそうなったら、俺はともかく、ドレミコードの皆は確実に悪い扱いを受けてしまう。それどころか、他の世界は滅ぶ。
そんな事はあってはならないのに。
今俺は、それを止められるかもしれないのに。
(どうか……頼む……!)
ここは、前世でも考えられないような非科学的で神秘的な出来事が起こる精霊界だ。ドレミコードみたいな天使、天老のようなドラゴン、クルヌギアスを初めとした神様だっている。
だから、神様というものが存在するのなら、今だけでいい。俺にも力を与えてほしい。
ラベンダーにできて、クーリアにもできて、ヴァーディクトなんかにもそんな新しい力が目覚めるのなら、今目覚めてほしい。苦しい時の神頼みとよく言うが、それをこの精霊界で実践するとは。
――もしかしたら、生命活動を維持できないほどの力を失っていた可能性だって考えられる
クーリアのデュエルで、俺は妖精体と通じ合った結果、一時的に手を動かせなくなった。そしてクーリアに独自のカードが宿り、俺のその状態も一過性に終わったが、それをクーリアは心配してくれた。
だけど今は、クーリアの意に背くだろうけれど、それでいい。
世界がどうこうなってしまうなら、ドレミコードの皆が傷ついてしまうぐらいなら。
「……」
自然と震えが収まり、恐怖や不安を感じなくなり、心が凪のように落ち着いた。
そして、十字架に磔にされた皆を助ける事
「ドロー」
引いたカードを確かめる。
1枚は、《
そしてもう1枚は――
「……?」
ヴァーディクトは違和感を覚えた。
敗北が揺るがない状況に挫けかけたバトレアスが、何かをきっかけに持ち直した。それが何かは知らないが、同時にバトレアスの纏う気配まで変わったように感じる。
さっきまでは、ヴァーディクトに対してこれ以上とない敵意と憎悪を向けていた。なのに、今はそれを全く感じない。ヴァーディクトを見るバトレアスの目には、怒りも、悲しみも、哀れみも、何もなかった。
いや、それどころか、今のバトレアスの眼中にヴァーディクトはいない。
「《ファインドレミコード・バトリア》召喚」
そのバトレアスは、冷静にモンスターを召喚した。
それは、黒い燕尾服を着る黒いショートヘアの女性。使用人にも見えるそのモンスターは、これまでバトレアスが使っていたカードからは感なかった、言葉にし難い奇妙な感覚がする。神たるクルヌギアスからも感じなかったものだ。
ファインドレミコード・バトリア
ATK0 レベル1
「まさか……?」
後ろに立ち並ぶ白い十字架、そこに磔にされたドレミコードたちを見上げる。やはりヴァーディクトがそうした時と同じ、手足と身体を鎖で縛られ身動きできずに俯き、意識を奪ったままだ。
だが、わずかながら、全員の身体からオーラのような光が放たれている。豆電球にも劣る輝きだが、今までになかった兆候に、流石にヴァーディクトも異変を察知した。
「このバトリアを召喚した時、俺のペンデュラムゾーンにカードがないため、その効果を発動。エクストラデッキ・墓地・除外されているカードの中から、スケールが奇数と偶数の『ドレミコード』を1枚ずつ選び、1枚を手札に加え、もう1枚とこのバトリアをペンデュラムゾーンに置く」
「何?」
それに気づいているのかどうかは知らないが、効果を説明するバトレアスの口調は恐怖を覚えるほどに冷静だ。けれどあちらは至って普通のつもりらしい。
バトレアスが手札に加えたのは、スケール6の《ミドレミコード・エリーティア》、ペンデュラムゾーンに置いたのはスケール7の《レドレミコード・ドリーミア》。そして、後ろに下がってペンデュラムゾーンの光の柱に収まったバトリアの足元に現れた数字――ペンデュラムスケールは「0」。
「これで、レベル1から6の『ドレミコード』が同時に召喚可能。ペンデュラム召喚」
《聖騎天の極点》によって漆黒に染まった空に穴が開き、中から光が降り注がれる。暗闇だからか、突然の光は眩しかった。
ドドレミコード・キューティア
DEF400 レベル1
ミドレミコード・エリーティア
DEF400 レベル3
「ペンデュラム召喚したエリーティアの効果発動。《聖騎天の極点》を手札に戻す」
「無駄だ!《聖騎天の極点》は僕の場にメガロス・タルタロスがいる限り効果対象にならない!」
手札に戻されたところで大したダメージはないが、バトレアスのいいようにさせたくない。
しかし効果が防がれても、バトレアスは悔しがったりせず、落ち着いて手を頭上へ掲げる。
「現れろ、清らかな旋律のサーキット」
暗闇の空にリンクサーキットが出現した。周りが暗闇である以上、そのサーキットの放つ光さえもより強く感じる。
「召喚条件はペンデュラムモンスター2体。キューティアとエリーティアをリンクマーカーにセット」
使役するバトレアスの言葉のままに、2体のドレミコードがリンクサーキットに飛び込み、輝きを放った。
「リンク召喚。優雅にして偉大なる音階の天使、《グランドレミコード・ミューゼシア》」
□□□ グランドレミコード・ミューゼシア
□◆□ ATK1900
■□■ リンク2
この状況で呼び出したのは、ドレミコードを統治する天使。バトレアスがこの世界に戻る直前にヴァーディクトとデュエルをしたが、【セイクリッター】の手にかかれば大して苦戦もしなかった。
そして、そんなミューゼシアを呼び出したところで、攻撃力はたった1900。メガロス・タルタロスには遠く及ばない。自殺行為だ。
「魔法カード《EXP》発動。このターン、俺もう一度エクストラデッキからのペンデュラム召喚ができる。よって、再びペンデュラム召喚」
またしても空に穴が開き、2体のドレミコードが降り立つ。けれどさっきとは呼び出されるモンスターが違った。
ソドレミコード・グレーシア
ATK2100 レベル5
ラドレミコード・エンジェリア
ATK2300 レベル6
「どんなモンスターを呼んだところで、メガロス・タルタロスは倒せないよ! いい加減諦め――」
「再び現れろ、清らかな旋律のサーキット!」
だが、続けざまにリンクサーキットを開いたその動作は、今までと違う。声に、腕に、力が籠っていた。思わずヴァーディクトも声をひっこめる。
「召喚条件は『ドレミコード』3体以上。リンク2のミューゼシアと、グレーシア、エンジェリアをリンクマーカーにセット!」
高らかに宣言するバトレアス。
それを聞いて、ミューゼシアとグレーシア、エンジェリアは、バトレアスに振り向いて頷き、リンクサーキットへと飛び込んだ。さっきまで、そんな応えるような素振りは見せなかったはずなのに。
そして、その3人がリンクサーキットに飛び込むと、洪水の如く光が溢れ出し、暗闇の空間を白く染めていく。
「なんだ……これは……?」
誰に聞くわけでもないが、今の状況はどうしてこうなってしまっているのか全く分からない。自然にそんな問いが漏れる。
「とめどなき淀みの世界に響け、幸せの多重奏! リンク召喚!」
だけど、バトレアスは変わらず、声を張り上げ、両腕を広げた。
「現れろ、リンク4!《グランドレミコード・ファンタジア》!!」
ひときわ強い光に、ヴァーディクトは目を瞑る。
そして目を開いた先にあった光景に、ヴァーディクトは疑問を抱かずにはいられなかった。
「……どういう事だ?」
バトレアスが呼び出したのは、《グランドレミコード・ファンタジア》とかいうモンスター1体のはず。
なのにどういうわけか、バトレアスのフィールドには8人のドレミコードがいた。それも全員、ピアノの鍵盤のような翼を腰から生やし、傍に控える8人の妖精たちの着るドレスも装飾は豪華だ。
そして、その誰もが、それこそ感情と血の通った人間みたいに、貼り付けたものではない自信満々な表情を浮かべている。
□■□ グランドレミコード・ファンタジア
□◆□ ATK 0
■■■ リンク4
呼び出したカードのイラストが明らかになる。
そこには、《ドレミコード・ハルモニア》のように
(……そうだ)
俺は、ドレミコードの皆を大切に思っている。主従とか、引き取ってもらえたからとか、愛用しているテーマとか、そんな事情を差し引いて、今の俺はドレミコードの皆を守りたい。
だからこそ、このカードのイラストは、俺が望んでいるもの、守りたい皆を表したものだった。
「このモンスターの攻撃力は、エクストラデッキにいる『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1種類につき、1000ポイントの数値になる」
グランドレミコード・ファンタジア
ATK0→8000
「攻撃力8000だと……!?」
ヴァーディクトが、驚きを通り越して困惑するように額を押さえている。
不思議な気分だ。
何としても勝ちたい、こんな奴の好き勝手にはさせられない、ぶん殴ってやりたいとさえさっきまでは思っていた。
そんな怒りを抱えてデュエルをしていたのだが、今となっては不思議な事に、もうヴァーディクトに対して何の感情も湧いてこない。
だからこそ、とどめを刺せる。
「バトルだ」
「くだらない、何が幸せの多重奏だ!《聖騎天の極点》のさらなる効果発動! バトル中に1度、相手フィールドの攻撃力が一番高いモンスターを1体破壊して、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」
消えかけた暗闇が再びフィールドを覆い始め、手の形をした闇が8人のドレミコードへと迫ってくる。
「4000のダメージを受けて仲良く全員消し飛べ!」
血走った眼で、獰猛な笑みを浮かべてヴァーディクトが宣言し、闇の手にドレミコードたちが握りつぶされようとしたその時。
「『グランドレミコード』をリンク素材としている事で、《グランドレミコード・ファンタジア》は相手の効果では破壊されない。つまり、ダメージも発生しない」
「な……っ!?」
音符が混じる黄金の風を吹かせ、闇の手を引き裂いたのはミューゼシア。リンク素材として墓地にいるためか、姿は半透明だが頼もしさは変わらない。
そのミューゼシアと、8人のドレミコードたちが、俺を見て頷き、微笑む。
俺もまた、みんなに向けて笑い。
「《グランドレミコード・ファンタジア》で《聖騎天メガロス・タルタロス》を攻撃!」
「ふざけるな、こんな事……あってたまるか!!」
「ファンタジー・アンサンブル!!」
宣言すると、8人のドレミコードたちがタクトを振り、その先から音符や音楽記号を纏う光を放ち始める。それらはひとつに合わさると虹色の球体となり、勢いよくメガロス・タルタロスに放たれた。
悪魔のような姿の天使を飲み込むと、白い空間をさらに虹色で埋め尽くすような爆発を巻き起こす。
その音さえも、まるでオーケストラの演奏のような美しさがあった。
ヴァーディクト LP100→0
《聖騎天メガロス・タルタロス》
レベル10/光属性/天使族/攻4500/守4000
特殊召喚/効果
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の「聖騎天クロト」「聖騎天ラケシス」「聖騎天アトロポス」を1体ずつ除外した場合のみ特殊召喚できる。
(1):このカードが特殊召喚した場合に発動できる(この効果の発動と効果は無効化されない)。
相手フィールドのカードを全て破壊する。
(2):自分のフィールドゾーンに「聖騎天の極点」が存在する限り、
このカードは相手の効果を受けない。
(3):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動できる。
相手の手札を全て墓地へ送る。
(4):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。
《
フィールド魔法
自分フィールドに「聖騎天メガロス・タルタロス」が存在する場合にこのカードを発動できる。
(1):自分は「セイクリッター」モンスターしか召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):自分フィールドに「聖騎天メガロス・タルタロス」が存在する限り、
このカードは相手の効果の対象にならず、効果では破壊されない。
(3):1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる(自分フィールドに「聖騎天メガロス・タルタロス」が存在する場合は両方を発動できる)。
●自分・相手スタンバイフェイズに発動できる。
相手のLPを半分にする。
●自分・相手バトルフェイズ開始時に発動できる。
相手フィールドの攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊し、
その攻撃力の半分のダメージを相手に与える。
《ファインドレミコード・バトリア》
レベル1/闇属性/天使族/攻0/守0
【Pスケール:青0/赤0】
(1):自分は「ドレミコード」モンスターしか特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):自分の「ドレミコード」モンスターの特殊召喚は無効化されず、
その特殊召喚成功時に相手は効果を発動できない。
ペンデュラム/効果
このカードは特殊召喚できず、
そのモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚した場合、
自分のPゾーンにカードが存在しなければ発動できる。
自分の墓地・EXデッキ(表側)・除外状態のカードの中から、
Pスケールが奇数と偶数の「ドレミコード」Pモンスターを1体ずつ選ぶ。
その内の1体を手札に加え、もう1体とこのカードを自分のPゾーンに置く。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「ドレミコード」モンスターしか特殊召喚できない。
□■□ 《グランドレミコード・ファンタジア》
□◆□ リンク4/光属性/天使族
■■■ 攻0
リンク/効果
「ドレミコード」モンスター3体以上
このカードはL召喚でしか特殊召喚できず、L素材にできない。
(1):このカードの攻撃力は、自分のEXデッキの表側の「ドレミコード」Pモンスターの種類×1000になる。
(2):「グランドレミコード」モンスターをL素材としたこのカードは、
相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。
(3):自分のPゾーンに奇数と偶数のPスケールを持つ「ドレミコード」カードがそれぞれ存在し、
相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動した時に発動できる
(この効果は、1ターン中にこのカードのL素材としたモンスターの数だけ発動でき、
同一チェーン上では1度しか発動できない)。
自分フィールド(表側表示)の「ドレミコード」カードはその相手の効果を受けない。
【リンクマーカー:上/左下/下/右下】
デュエルはここまでです。
オリジナルカードのまとめを翌日12:00に、次話を同日に投稿いたします。
よろしければどうぞご覧くださいませ。