ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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とても励みになります


第42話:騎士と悪魔

バトレアス LP3000 手札1

【モンスターゾーン】

No.(ナンバーズ)32 海咬龍シャーク・ドレイク ATK3000

ランク4 ORU(オーバーレイ・ユニット)2

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード2

 

【フィールドゾーン】

伝説の都アトランティス(海)

 

 

屍迷人(しまよいびと) LP1000 手札3

【モンスターゾーン】

No.96 ブラック・ミスト ATK100 ランク2 ORU3

 

【魔法&罠ゾーン】

暗黒の扉

 

 

 クルヌギアスの身体を支えながら、クーリアは奇妙な寒気に襲われていた。

 その出所は、やはりあの屍迷人が呼び出したブラック・ミストだ。あのモンスターからは、今まで感じた事がない気配を感じる。

 

「……クーリアよ、気づいているな?」

「はい……」

 

 クルヌギアスも、柱に背を預けながら問いかけてくる。自分が感知できたのだ、この世界の主であるクルヌギアスが気づかないはずない。

 あのモンスターがフィールドに現れてから、周囲には草花が突然生え始め、さらに周囲はモンスターのオーラだけでは説明がつかないほど明るくなった。おかげで、この世界に何度来ても全く分からなかった、冥界の景色が明らかになっている。

 フィールドには、バトレアスが使った《伝説の都アトランティス》の影響で水が溢れているが、それはソリッドビジョン。草木は実体としてそこに存在している。

 そして、それを使役する屍迷人もまた、様子が変わった。今は完全に自我を持ち、肉体もまだ人間と同じではないにしろ、それに近いものを持っている。

 あのカードはただの代物ではない。

 

「しかし、【ドレミコード】を使わんとはの。相手を舐めておるのか?」

「これには事情がありまして」

 

 バトレアスの1ターン目を見届けたクルヌギアスは、彼のデッキの選択について何か言いたげだ。クルヌギアスは、バトレアスが【ドレミコード】で戦っている場面しか見ていないから、それを使わないのを気まぐれとでも思っているのかもしれない。

 ただ、クーリアはバトレアスのデッキ事情を十分理解している。今使っているデッキも、自分の意思で選んだそれではないはずだ。

 

「あの屍迷人が何にせよ、ナンバーズを扱えるにしても、油断すれば命はないであろうな」

 

 クルヌギアスの言葉に、気が引き締まる。

 その通り、ナンバーズは誰でも持てるようなカードではない。バトレアスの前世ではどうなのか知らないが、こちら側の世界では、持つに相応しい技量と精神力を持つ者の下に自然と現れる、オカルトの色が濃いカード群だ。

 なぜそれほどのカードを、あの屍迷人が持っているのかは分からない。ましてや、そのカードを使った事で、現実世界にまで影響を及ぼすのかも分からない。

 ただ、そんなナンバーズを元人間のバトレアスが使えるようになったのは、クーリア自らドレミコードの力を注ぎ込んだからだろう。

 

「……気を付けて」

 

 デュエルを観るしかない以上、今のクーリアにできるのは、そんなバトレアスを――最愛の人の無事を祈る事だけだ。

 

 

 目の前に聳え立つブラック・ミスト。

 放つ光だけでなく、纏うエネルギーは明らかに異質だと身体で分かる。多分、俺が人間のままだったとしても、その異常さは身に染みていただろう。

 

「バトルだ! ブラック・ミストでシャーク・ドレイクを攻撃!」

 

 屍迷人が攻撃宣言をしてきた。さっきまでのおぼつかない声とは打って変わって、自信に満ちている。

 ただ、攻撃力100で3000に勝負を挑むなど、普通なら自殺行為。2900の反射ダメージを受けて屍迷人の負けになってしまうところだが、その効果は知っている。

 

「永続罠《竜巻海流壁(トルネード・ウォール)》発動!《海》フィールドで俺が受ける戦闘ダメージを0にする!」

 

 そこで伏せていたカードを発動すると、足元に広がる水面が一気に盛り上がり、渦潮がいくつも出現して俺の前に壁として立ちはだかった。

 《伝説の都アトランティス》は、カード名が《海》として扱われるため、《海》の存在を必要とするカードを問題なく使用できる。このカード名の扱いこそが、初心者を困惑させるところだが、それについて今は論じている場合じゃない。

 竜巻の影響で、地面に生えた草花が巻き上げられるが、屍迷人は大して反応せずにプレイを続けた。

 

「ブラック・ミストの効果発動! このカードが相手モンスターとバトルする攻撃宣言時、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、その相手モンスターの攻撃力の半分を吸収する!」

 

 ブラック・ミストの周りを漂うオーバーレイ・ユニットのひとつが、その胸に開く口のような部分へと吸い込まれた。

 

No.96 ブラック・ミスト

ORU:3→2

 

 すると、シャーク・ドレイクが藍色のオーラに覆われ、苦しそうな咆哮を上げる。反対に、ブラック・ミストは歓喜するかのように怒号を上げて両腕を広げた。

 

No.32 海咬龍シャーク・ドレイク

ATK3000→1500

 

No.96 ブラック・ミスト

ATK100→1600

 

 このブラック・ミストの効果は、戦闘する相手モンスターの攻撃力を必ず上回る効果。つまり、オーバーレイ・ユニットさえ使えれば、戦闘面でほぼ無敵と言って差し支えない。

 

「オーバーレイ・ユニットとして取り除かれた《カプシェル》の効果発動! カードを1枚ドローする」

 

 おまけのようにドローし、カードを引いた右腕をそのまま前へと突き出した。

 

「いけ、ブラック・ミスト! シャーク・ドレイクを薙ぎ払え!」

 

 そして屍迷人の命令に合わせ、ブラック・ミストの腕が鞭のように伸び、シャーク・ドレイクを薙いで破壊する。

 しかし、《竜巻海流壁》の効果により戦闘ダメージは発生しない。100ポイント程度はどうにでもなるかもしれないが、それが命取りにもなりうるのだ。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

「罠カード《エクシーズ・リバイブ・スプラッシュ》発動! 墓地のランク4以下のエクシーズモンスター1体を、水属性にして特殊召喚する! 甦れ、シャーク・ドレイク!」

 

 最後に伏せたカードが気になり、できる限り危険を避けるため伏せていた罠をエンドフェイズに発動させる。

 海を割って魔法陣が出現し、中から勇ましい海龍が再び姿を見せた。もともと水属性のため、属性変化効果は意味がないが。

 

No.32 海咬龍シャーク・ドレイク

ATK2800→3000 ランク4

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そして、引いたカードは心強いモンスターだ。これを呼ぶために、まずは最初のターンから手札にいたモンスターを呼び出す。

 

「《伝説の都アトランティス》の効果で、手札とフィールドの水属性モンスターのレベルは1つ下がる。よって、シャーク・ドレイクをリリースし、レベル7から6になった《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》をアドバンス召喚!」

 

 シャーク・ドレイクと入れ替わるように現れたのは、蛇のような長い体の青い海竜。身体は硬い鱗で覆われ、背中には赤い背びれが生えており、頭の部分は硬そうな形状になっている。

 

海竜-ダイダロス

ATK2600→2800 レベル7→6

 

 この《海竜-ダイダロス》の効果も十分強いが、この状況だと安心できるのは今手札にいるモンスターの方だ。

 

「さらにこのカードは、《海竜-ダイダロス》をリリースする事で特殊召喚できる! 現れろ、《海竜神-ネオダイダロス》!!」

 

 ダイダロスが咆哮を上げて、水面へと飛び込む。そして、咆哮と共に水面を突き破ったのは、ダイダロスより巨大な海竜。カラーリングは変わらないが、赤い背びれが大きくなり、首が2本に増えている。左右それぞれの形状は少し違っていて、一方がごつごつとしたもの、もう片方はシャープな形をしている。

 

海竜神-ネオダイダロス

ATK2900→3100 レベル8→7

 

 ブラック・ミスト相手では、いくら攻撃力が上回っていても戦闘では決して勝てない。それに伏せカード1枚も気になる。

 であれば、ネオダイダロスの効果を使わない理由はなかった。

 

「ネオダイダロスの効果発動! 俺のフィールドの《海》を墓地へ送る事で、このカード以外のお互いのフィールド及び手札のカードを全て墓地へ送る!」

 

 フィールドゾーンに発動していた《伝説の都アトランティス》を墓地へ送ると、ネオダイダロスを中心に渦潮が発生し、それはフィールド全域を覆い尽くさんばかりに広がる。

 ちなみに、さっきリリースした《海竜-ダイダロス》の効果は、「《海》を墓地へ送る事でフィールドの他のカードを全て破壊する」というもの。それでも十分強いが、今の時代は破壊耐性を持っていたり、効果で破壊されると効果が発動するものが多く存在する。その点で言えば、破壊を介さず、対象にも取らず、手札ごと墓地へ送るネオダイダロスの効果は有用だ。流石に完全耐性持ちには勝てないが、ダイダロスの上位互換と言って良い。

 ところが。

 

「カウンター罠《天罰》発動! 手札を1枚捨てて、効果モンスターの効果の発動を無効にし、破壊する!」

「何!?」

 

 コストとして、屍迷人が《ダメージ・イーター》を手札から捨てる。すると突然空に黒い雲が発生したかと思うと、雷が落ちてネオダイダロスに直撃する。咆哮を上げて、ネオダイダロスは爆散してしまった。

 そして、コストとして《海》を墓地へ送ってしまったがために、《竜巻海流壁》も存在できず破壊されてしまう。フィールドに出現していたソリッドビジョンの水面も消え去り、緑の芝が生い茂る地面が姿を見せた。

 

「……ターンエンド」

 

 かなり厄介な事になった。

 さっきのネオダイダロスの効果で勝負を決めるつもりだったのだが、こちらの手札とフィールドにはもうカードがない。

 屍迷人のフィールドには《暗黒の扉》が残っているため、2体のモンスターで攻撃を受ける可能性は低い。だが、屍迷人の手札は次のドローで3枚になる。それでもし、《暗黒の扉》を自分で破壊して、2体以上で攻撃できるようにしてきたら。そして攻撃力1400以上のモンスターを召喚して攻撃したら、俺はおしまいだ。

 このデュエルで負ければどうなるのかは分からない。しかし、あのブラック・ミストのただならぬオーラや、周りに及ぼしている影響を考えると、無事で済むとは思えなかった。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 そして、俺がピンチと分かっているのは屍迷人も同じ。口はないが、まるで笑うように目を歪めながら、カードをドローした。

 屍迷人がカードを確認するのを、固唾をのんで見守る。そして屍迷人は……カードを右手に持ち替えた。つまり、すぐに場に出せるモンスターや除去札などではないという事だ。

 しかし、代わりに別のカードを手にしている。

 

「装備魔法《デーモンの斧》をブラック・ミストに装備。攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

「!」

 

No.96 ブラック・ミスト

ATK1600→2600

 

 ブラック・ミストの右手に、悪魔の首が取り付けられた斧が握られる。古き良き装備カードの上昇値は1000と、今でもかなり高い方だ。戦闘では抜群の効果を持つブラック・ミストに装備させるとは、まさに鬼に金棒と言える。

 

「ブラック・ミストでダイレクトアタック!」

 

 そしてブラック・ミストは、さっきの黒い鞭とは違い、その斧をこちらに振り下ろしてくる。

 ただでさえ、精霊界でのデュエルはダメージが限りなく現実に近くなる。しかもここは冥界、まともに喰らえばライフが残っても命が尽きると直感で把握し、後ろに飛び下がって斧を避ける。

 

バトレアス LP3000→400

 

 だが、斧が地面に振り下ろされると、突風のような余波が襲いかかる。さらに、地面を砕いた事で飛び散る礫が襲いかかってきた。しかも衝撃波で後ろに突き飛ばされ、背中を地面に強く打ってしまう。

 

「バトレアス!」

「大丈夫です、まだ」

 

 クーリアが声を掛けてくるが、この程度はさほど痛くない。

 とはいえ、「まだ」と言ったように、俺のライフは最早風前の灯火だ。手札にもフィールドにもカードがない今の状況は圧倒的に悪い。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 最後に伏せカードを仕掛ける屍迷人。

 一方の俺は、デッキにかける指が震えていた。残りライフは400、手札もフィールドも素寒貧な俺が勝てるかどうかは、次のドロー次第だ。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 恐る恐る、引いたカードを見る。

 それは……モンスターカード。そしてそのカードを見た瞬間に、勝利へのルートが頭の中で瞬時に構築された。

 

「《ダブルフィン・シャーク》を召喚!」

 

 すぐに引いたモンスターを召喚する。尾の部分が二股に分かれた赤紫色のサメだ。

 

ダブルフィン・シャーク

ATK1200 レベル4

 

「このカードを召喚した時、墓地からレベル3または4の水属性モンスター1体を、その効果を無効にして特殊召喚する! 甦れ、《セイバー・シャーク》!」

 

 《ダブルフィン・シャーク》のすぐそばに魔法陣が出現し、その中から1匹のサメが姿を現す。頭に刃がついた個体だ。

 

セイバー・シャーク

ATK1600 レベル4

 

「レベル4の《ダブルフィン・シャーク》と《セイバー・シャーク》でオーバーレイ!」

 

 空に手を掲げると、2匹のサメが水色の光となり、複雑に絡み合いながら空へと舞い上がる。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れろ、No.101!」

 

 空に出現するエクシーズの渦。水色の2つの光をそれが飲み込むと、大爆発を起こした。

 

「満たされぬ魂を乗せた方舟よ、光届かぬ深淵より浮上せよ!《S・H・Ark Knight(サイレント・オナーズ・アーク・ナイト)》!!」

 

 爆発を起こした渦から姿を見せたのは、宇宙船のような見た目の白い機体のモンスター。機械族・光属性みたいな見た目だが、れっきとした水族・水属性だ。

 それにしても、覚えていたアニメの口上を告げて何だが、転生した俺が、冥界でのデュエルで、死にきれない魂をもつ屍迷人相手にこのモンスターを使うのは皮肉かもしれない。

 

No.101 S・H・Ark Knight

ATK2100 ランク4

 

 だが、その威容を前にしても、屍迷人は余裕を崩さなかった。

 

「ナンバーズを複数枚扱えるほどの力は褒めてやろう。だが、ブラック・ミスト相手にバトルは無意味! いや、それ以前に攻撃力2100ではこちらに及ばない!」

 

 言い方からして、多分「ナンバーズ」はこの精霊界では一般流通しているものではなく、選ばれたものしか扱えないのだろうか。

 であれば、今まで俺が使ってきたデッキで「ナンバーズ」がなかったのも、俺が人間だったからだろう。そして今使えるようになったのは、俺が人間でなくなったから。

 いや、それについて深掘りするよりも、今はデュエルだ。屍迷人の言う通り、ブラック・ミストの効果がある以上は真っ向から戦っても勝ち目はない。

 しかし、アーク・ナイトには素晴らしい効果がある。

 

「アーク・ナイトの効果発動! オーバーレイ・ユニットを2つ使って、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を自分のオーバーレイ・ユニットにする!」

「何!?」

 

 アーク・ナイトの周囲を漂う2つのオーバーレイ・ユニットが、船の中心部分にある赤い光を放つ箇所へと吸い込まれた。

 

No.101 S・H・Ark Knight

ORU:2→0

 

 この効果は、破壊や除外ではないオーバーレイ・ユニット化。それらの耐性を持つモンスターを、再利用しにくい形で奪い取る効果は非常に強力で、ランク4が呼べるデッキなら何にでも入れられるとまで言われるほどだ。

 ただ、この効果は相手モンスターのコントロールを得る効果でもあるらしい(装備化する際も同じ扱いのようだ)。コントロール奪取戦術が苦手な俺だが、この際贅沢は言っていられない。

 

「悪いが、罠カード《蠱惑の落とし穴》発動! このターンに特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、その効果を無効にして破壊する!」

「!」

 

 しかし屍迷人は一歩先を行った。アーク・ナイトの直下に巨大な黒い穴が開き、その中から蠱惑的な笑みを浮かべる半裸の少女の幻影がいくつも現れた。それはアーク・ナイトの機体にしがみつき、穴に引きずり込もうとする。

 これで破壊されてしまえば、もう俺にはできる事がなくなる。そして次のターンにダイレクトアタックを受けて負けだ。

 だが、そんなつもりはない。

 

「墓地の罠カード《エクシーズ・リバイブ・スプラッシュ》の効果発動! このカードを除外し、自分フィールドの水属性エクシーズモンスター1体を、ランクが1つ上の水属性エクシーズモンスターへとランクアップさせる!」

「な……!?」

「俺はアーク・ナイトでオーバーレイ!」

 

 手をのばすと、アーク・ナイトの姿が赤紫色の光に変わり、少女の幻影を振りほどいて天へと舞い上がる。それはアニメで観た演出のままで、こんな状況でも昂りを覚えてしまった。

 

「1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。カオス・エクシーズ・チェンジ!」

 

 そのアニメ通りに宣言すると、赤紫の光となったアーク・ナイトが空に出現した黒い渦へと吸い込まれていく。それを飲み込んだ渦は、先ほどのエクシーズ召喚とは違う、黒い爆発を起こした。

 

「現れろ、CNo.(カオスナンバーズ)101!」

 

 その爆発を起こした黒い渦から赤い光が迸り、黒い鎧を纏う騎士のようなモンスターが勢いよく飛び出してくる。

 さらに同じように空から降ってきた赤い槍を掴み、威勢よく振り回すと、それを屍迷人へと向けた。そしてその足元には、赤いエネルギーが輝く金色の物体――カオス・オーバーレイ・ユニットが1つ出現する。

 

「満たされぬ魂の守護者よ、暗黒の騎士となって光を砕け!《S・H・Dark Knight(サイレント・オナーズ・ダーク・ナイト)》!!」

 

CNo.101 S・H・Dark Knight

ATK2800 ランク5

 

 その黒い騎士の力は、カオスの力を宿す前のアーク・ナイトの強化版と言っていい、まさに今は頼もしいものだ。

 

「ダーク・ナイトの効果発動! 1ターンに1度、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体をオーバーレイ・ユニットに変える!」

「今度はコスト無しでか……!」

 

 指さすと、ダーク・ナイトがブラック・ミストめがけて槍を放つ。それを胸に食らったブラック・ミストは赤い粒子と化すと、ひとりでにダーク・ナイトの足元へと流され、横にあるカオス・オーバーレイ・ユニットと同じ形に変わった。

 

CNo.101 S・H・Dark Knight

ORU:1→2

 

「バトルだ! ダーク・ナイトでダイレクトアタック!」

 

 戦闘には強い、力を求め続ける漆黒の闇からの使者はもういない。屍迷人を指さして攻撃宣言をする。

 ダーク・ナイトの目が輝きを放ち、手元に戻ってきた槍を再び屍迷人へ向けると、その先端から稲妻を纏う赤いエネルギーの奔流を放つ。それは屍迷人を貫通こそしなかったものの、冥界でのデュエルだからか、それともカオス・ナンバーズの強さだからか、凄まじい威力だった。

 

「おのれ……! 後少し、で……復か、ツ…デきたノ……ニ……!」

 

屍迷人 LP1000→0

 

 エネルギーを受けた屍迷人は、何か恨み言を残そうとしたが、その姿は次第にさっき見た泥のような見た目へと戻っていき、ついには跡形もなく溶けて消えてしまう。

 そしてデュエルが終わった事により、漆黒の騎士は姿を消し、辺りを照らす光も収まる。

 けれど、周囲に生えた草木はまだそのままだ。やはりデュエル中にも感じた通り、ソリッドビジョンの類ではなさそうだった。

 

「ふぅ……」

 

 だが、危険なデュエルが終わった事に対する安心も強く感じる。息を吐くと、肩に手がそっと添えられた。

 

「お疲れ様」

「どうも……」

 

 クーリアが優しい微笑みを向けてくれている。真に俺の事を心配して、労ってくれているようだったので、俺は謙遜せずにその言葉を受け入れた。

 その時、手元に1枚のカードが舞い降りてくる。目に入ったそれに、ゆっくりと手を伸ばすと。

 

「……これは?」

 

 そのカードには、何も書かれていなかった。裏面はデュエルモンスターのカードと同じだが、表はカードの名前もイラストも、効果テキストも何も書かれていない、全くの白紙。そして、新雪のような白い輝きを淡く放っていた。

 こんなタイミングでこんなものが現れるのは想定外だったので、思わずクーリアを見る。しかし、クーリアもこのカードが何なのかは分からないようで、首を傾げていた。

 

「クルヌギアス様、こちらを」

「うむ……」

 

 そこで、立ち上がったクルヌギアスがやってきたので、ひとまずそのカードを手渡す。この冥界で見つかったものなのだから、その主に渡すのが筋だろう。とはいえ、クルヌギアスもこのカードを見て怪訝な顔をしているあたり、やはり彼女も知らないものらしい。

 

「……詳しい事は分からぬが、何か大きな力をこのカードからは感じるの」

 

 まじまじとカードを見るクルヌギアス。神にさえも分からない力とは、どういうものだろうか。

 

「何にせよ、汝は妾に代わってデュエルをしてくれた。感謝する」

「いえ、お気になさらず……」

「しかし意外じゃよ、【ドレミコード】以外を使うとはの」

 

 そう言えば、クルヌギアスのカードを使ったのは、いつも【ドレミコード】で戦う時だけだ。しかし、俺のデッキはドレミ界の外に持ち出すと、前世で俺が使ったランダムなデッキになってしまうし、その際にクルヌギアスのカードは勝手に外される。

 

 ちなみに、今のデュエルで使った【水属性】だが、元は遊戯王を卒業する友人から譲り受けたものだ。当人は売るつもりだったらしいが、戦った事がある身として妙な寂しさを抱き、格安で譲ってもらった。それからカードを多少入れ替えはしたが、ダイダロスのカードが入っているのはその友人が愛用していた名残である。その力を活用できなかったのは、悔やむところだ。

 

 やがてクルヌギアスは、輝きを放つ白いカードを俺に差し出してくる。

 

「このカードも、あの屍迷人も、何なのかは妾にも分からん。が、アレに勝った汝の下に舞い降りたのであれば、汝が受け取るべきだとカードが訴えているのかもしれん」

「……?」

「要するに、これを受け取るべきは妾ではないという事じゃよ」

 

 有無を言わさないような笑顔で告げてくるクルヌギアスだが、相手はまさしく神だ。その言葉を否定し、受け取らないのは侮辱に当たってしまうかもしれない。

 だから、俺はそのカードを受け取った。

 やはり、白い輝きは今も衰えていない。それでも、手に持っていると何だか妙に心がムズムズする。なので、胸ポケットに仕舞っておき、しかるべき場所に保存する事にした。

 

 

 デュエルの後、残ったお茶菓子とお茶を頂いた後で、俺とクーリアはクルヌギアスの宮殿を後にした。さっきのデュエルの直前、クルヌギアスもあの屍迷人に竜を退けられた事で、多少のダメージを負っていたらしい。触らぬ神に祟りなしとも言うし、俺たちも無理に引き下がらずにドレミ界へと帰る。

 そして、住み慣れたドレミ界の屋敷に戻ると、出迎えたのは休養日のグレーシアだった。

 

「おかえりなさい。ご用事は滞りありませんでしたか?」

「それは……ちょっと」

 

 グレーシアの出迎えの言葉には、俺も苦笑する。滞りというか、アクシデントが起きたから。

 それについて説明する前に、まずはクーリアに用意してほしいものがあったためそれを頼み、俺は手を洗ってから食堂へ向かう。今日の休養日のメンツからして、皆は多分食堂にいると思ったし、帰ってきた事を報告するのは基本だ。

 

「ただいま戻りました」

「おっ、お疲れ様~」

「おかえりなさい、バトレアスさん」

 

 やはりそこには、休養日のキューティアと、先に「浄化」から戻っていたエンジェリアがいた。

 しかし、2人がいる事自体は予想していても、向かい合って机の上でデュエルをしていたのは驚きだ。

 

「デュエルですか?」

「そそ。と言っても、かなーりスローテンポだけどね。私に合わせて」

「いえ、私だってまだ不慣れですから……」

 

 さらっと盤面を見てみるが、お互い拮抗しているような状態だ。加えて、それぞれの妖精体が興味深そうにフィールドを眺めている。

 そして傍らには、ライフポイントやらカウンターやらを書き留めたメモが置いてあり、非常に懐かしさを感じた。デュエルディスクは自動でそれらを計算・カウントしてくれるから。

 

「バトレアスさんは? クーリアさんとのデート、楽しかった?」

「色々と言いたい事はありますが、まずデートではありません。そもそも、クルヌギアス様の宮殿でデートなど命知らずにもほどがあります」

「冗談だってー」

 

 エンジェリアが揶揄ってくるが、断固として否定する。

 俺がクルヌギアスの下へクーリアと向かった事は、皆に予め話している。だが、以前訪れた都市の世界ならともかく、クルヌギアスの宮殿で神そっちのけのデートなど、それこそ神をも恐れぬ所業だ。

 

「バトレアス、これでいいかしら?」

「ありがとうございます

 

 そんなところへ、クーリアがやってきた。

 その手に持っているのは、今もキューティアやエンジェリアの傍らに置いてあるのと同じ、桐の箱。しかし、キューティアたちのがデッキケースほどの厚さがあるのに対し、今持ってきたのはそれより薄い。それを見て、俺も胸ポケットからカードを取り出す。

 

「それ何?」

「なんだか、綺麗なカードですね……」

「ああ、これは――」

 

 カードを桐の箱に収めながら、事情を知らないキューティアとエンジェリア、そして戻ってきたグレーシアに話した。あの冥界で起きた、奇妙なデュエルを。

 

「いったい、なぜそんなカードが現れたんでしょうか……」

「それは、クルヌギアス様も分からないようです」

 

 話を聞いたキューティアも、このカードの特異性は十分理解したらしい。

 そしてその疑問は尤もだ。この白い輝きを放つカードは、どうやって生まれたのか、どこから来たのか皆目分からない。冥界の主であるクルヌギアスでさえ知らないという事は、冥界特有の超常現象というわけでもなさそうだ。精霊界自体、前世では考えられなかった異常が日常的に起きるものだが。

 

「で、そのカードはどうなさるおつもりで?」

「……ひとまず、クーリア様に預かってもらおうかと。俺が持つには荷が重いように思えて」

「ええ、分かったわ」

 

 グレーシアに聞かれながら、俺はカードを収めた箱をクーリアに渡す。このカードがどのような存在なのかは全く分からないし、仮にもし超常的な力を持っているのだとしたら、ドレミコードになっても末端の俺如きでは荷が重すぎる。だからここは、ドレミ界のリーダーであり、グランドレミコードの力を有しているクーリアに渡すのが一番だ。それを伝えたうえで、クーリアは了承してくれた。

 

「何となく、ですが……」

「?」

 

 その白いカードが収まった箱を見て、キューティアが不安そうに呟く。

 

「また……嫌な事が起きてしまいそうな予感がします」

 

 侵略者がドレミ界を襲い、精霊界全土の脅威となったヴァーディクト。あれはもう存在を消されたが、今日出現した例のカードは、その時と同様に大きな騒動を巻き起こすトラブルの種になるかもしれない。

 キューティアの不安は分かるし、俺としても同意見だ。これを非日常の一コマで処理するには、少々引っ掛かりが大きすぎる。

 

「……まぁ、今はひとまず何も起きていないし、努めて普段通りに過ごしましょう」

 

 手を優しくポンと叩き、クーリアが朗らかに笑う。それを見て、俺とキューティアは少しだけ笑った。起こりもしていない災いを心配して、今心をやつれさせてしまっては元も子もない。

 

「ここは甘いものでも食べて落ち着きましょう。リンゴのシャーベットを作ってありますから、お2人もよろしければどうぞ」

「あら、グレーシアが作ったの?」

「ええ。以前『À Table』で頂いたソルベが美味しかったので、私なりに作ってみました」

「あ、そうですそうです。とても美味しいんですよ」

 

 グレーシアの申し出は非常にありがたい。クルヌギアスの下でお茶と茶菓子はいただいているが、少し口が寂しくなっていたところだ。それに、グレーシアの料理の腕は信用しているし、キューティアも太鼓判を押しているから楽しみだ。

 

「じゃあ私にもちょーだい」

「エンジェリアさんはついさっき食べたでしょう。我慢してください」

「ちぇー、ケチー、いけずー」

 

 そしてちゃっかり便乗しようとしたエンジェリアだが、グレーシアに釘を刺されて不貞腐れる。その姿に、俺とクーリアは思わず笑ってしまった。

 今日起きた出来事が、今後どう転がるかは分からない。けれど今は、こうした日常を噛みしめる事が大切だと強く思う。何より、もしまた騒動に発展するようであれば、俺も戦うのを拒みはしない。

 それがこの世界における、俺の役目でもあるから。

 


 

《悪魔の質問》

 

クルヌギアス「件の戦い、ヴァーディクトとかいう小僧が妾の事を婆呼ばわりしての」

クーリア「それはなんとも……無礼千万ですね……」

クルヌギアス「で、じゃ。バトレアス、汝には妾がいくつに見える?」

クーリア(神様がする質問……?)

バトレアス「20歳ぐらいですかね」

クーリア(即答!?)

クルヌギアス「……ふふん、そうか。そう見えるか」

クーリア(すごい満更でもなさそう……)

バトレアス「ええ、とても若々しく自分の目には映っております」

クルヌギアス「そうかそうか! いやぁ、嬉しい事を言ってくれるではないか! どれ、妾が手ずから茶を注いでやろう!」

バトレアス「ありがたき幸せ」

クーリア(冥府の神が孫に甘いおばあちゃんみたいに……)

 

クーリア「……あなたって、意外と肝が据わってるのね」

バトレアス「いやー、転生すると嫌でも鍛えられるというか」

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