ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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例の新イラストを見て、考えたのもあります。


第46話:絡みつく過去

 見渡す限り、誰もいない。耳を澄ませても、生き物が発する音は聞こえない。

 そこにあるのは、誰が何のために置いたのか、集めたのかも分からない無駄に豪華な絵画や骨董品ばかり。聞こえてくるのは、広い空間特有のわずかな風の音。

 私以外、人っ子一人、野良猫もネズミさえもいない。

 

「誰か……いないの……?」

 

 そんな質問を放っても、返ってくるのは反響する自分の声だけ。虚しい気持ちが増すばかりだった。

 燭台に勝手に灯っている蝋燭の灯が、却って不気味さを強くしている。まるで、本で読んだお化け屋敷みたいに。

 長い廊下の先は、暗闇だ。じっと見つめてみても、誰かが来るような感じはない。明かりが新しく灯ったりもしない。

 

「……っ」

 

 この広い建物にいるのは、私ひとりだけ。

 たくさん人がいれば賑やかなはずのこの城で、ひとりぼっち。

 その事に、自分の身体が押しつぶされそうになった。寒さがより際立った。

 たまらずに、自分の身体を抱きしめる。そうしないと、どうにかなってしまいそうだから。

 

「誰か、出てきて……!」

 

 廊下にしゃがみ込む。高級そうな赤い絨毯の模様が目と鼻の先にある。安心感なんてこれっぽちも湧きやしない。

 

「お願いだから……」

 

 顔を上げる。絵画の中の人、陶器に描かれた鳥や動物、窓の外に見える無人の城。

 どれもこれも、私がひとりぼっちという紛れもない現実事を強調し、突き付けてくる。

 たまらず、廊下を駆けだした。

 

「お願いだから……! 私をひとりにしないで!!」

 

 声を張り上げても、誰かの返事はない。

 だれも、いない――

 

* * *

 

「っ……」

 

 意識が引き上げられて、目を開ける。額を押さえると、汗の粒が手につく。

 嫌な夢を見た。ずっと昔に味わった、自分の命をも脅かさんとする孤独感。それに蝕まれ、恐れ、逃げるようにこの広い城を駆けまわり、紛らわそうと声を張り上げたあの時。

 その時自分の中を支配したモノは、忘れたわけではない。孤独ではなくなった今も、完全にそれを振り切れた事はない。ある時、ふとしたタイミングで思い出してしまう。トラウマそのものだ。

 

「……まだ3時?」

 

 汗を拭い、チェストに置かれた水差しの水を飲む。それで気持ちが落ち着き、さらに視界が暗闇に慣れてしまった事で時計の時刻も読めた。本来起きる時間にはまだ程遠い。

 あんな夢を見た直後で、すぐ眠りに就くのは少し抵抗がある。かといって、明かりをつけて本を読めば、眠気をより薄くさせてしまいそうだ。

 だから少しだけ気分を変えようと、バルコニーに出る事にする。

 けれど、窓にかかる大きなカーテンを開けたところで、バルコニーに何かが落ちているのに気づいた。

 

「……?」

 

 ガラス戸を開けて外に出る。日中でも暗雲が広がるこの世界だが、夜の闇はその時以上に深い。それでも、風は穏やかな涼しさを孕んでいる。

 その涼しさに、さっきの悪夢による熱が引くのを感じながら、落ちていたものに近づく。それはカードのようなもので、オレンジ色の淡い輝きを放っていた。

 

「……綺麗」

 

 見た第一印象を口にしつつ、そのカードを拾う。

 手にしたところで分かったが、そのカードには何も描かれていなかった。完全に真っ白で、裏面だけが普通のカードと同じ。

 だが、しばしその輝きに見惚れていると。

 

「……っ」

 

 ずぐん、と自分の心臓が跳ねた。

 同時に、白紙だった部分に文字やイラストが浮かび上がり、1枚のカードが完成する。

 そのカードの名は――

 

 

「よっ、と……」

 

 楽器の納められた、それなりに重いケースを手に立ち上がる。最初の頃は、中身が繊細な楽器なのもあって持ち上げるのには少し緊張した。けれど今は、勿論楽器を大事にする事を念頭に、すんなり持ち上げられている。それも多分、精霊界に転生して身体を動かす機会が増え、筋力が少しずつついてきているからだろう。

 

「バトレアスさん、ゲート開けて~」

「大切な楽器を落とすわけにはいきません」

 

 右手にはグレーシアのサックス、左手にはエンジェリアのトランペットが納められたケースがある。この状況でタクトなど振れるはずもないので、申し訳ないがファンシアの頼みは却下だ。

 

『そのサックスは、落とされると困るわ……』

『だめだよー? うっかり壊したりなんかしたら、エンジェリアちゃんに一週間はおもちゃにされちゃうよ~?』

「熟知しておりますとも」

 

 グレーシアとエンジェリア2人の妖精体が、姿を現すと積極的に話しかけてきた。それに対して答えると、グレーシアが俺の方を見てくる。

 

「本当に、会話ができるのですね」

「ええ、まあ……」

「すごいなぁ、もうほとんど私たちと同じだね」

 

 俺は確かにドレミコードになってから、身体の調子を崩さなくなったり、特殊な気配を感じ取る事ができるようになった。

 そして、クルヌギアスの下へクーリアと行って以来、妖精体の声が聞こえ、会話ができるようになったのも分かった。妖精とお話できる、なんて前世で言いふらせば確実に電波扱いだが、ドレミ界では何もおかしくないらしい。

 さらにはゲートも開けるようになったため、エンジェリアの言う通り、男女の差や妖精体の有無を除けば、俺はドレミコードと同じ存在になっていた。

 

「おしゃべりはそれぐらいにして、行くわよ」

『はーい』

 

 そこでクーリアが仕切ると、俺を含めた全員がホールへ向かう。

 そして、クーリアが先陣を切ってタクトを振り、光のゲートを開く。予め行き先を伝えられているし、何よりこうしてみんなで行くのは2回目だから緊張や不安はない。

 光のゲートをくぐり、広がる世界を見据える。暗い雲とは反対に、目の前に聳える青い瓦の巨大な城は白い輝きを放っていた。ひときわ高い塔の上にあるのは、ハートマークのシンボル。

 《白銀の迷宮城(ラビュリンス・ラビリンス)》だ。

 

「……?」

 

 だが、その城を見上げた直後、妙な違和感があった。

 

「ねぇ、あのハートのマーク、あんな色だった?」

「うーん……違ったような……」

 

 ドリーミアが指さしたのは、空を突くように目立つハートのシンボルマーク。キューティアは記憶に自信がないようだが、俺も同意見だ。あのハートは、前見た時は白だったはず。なのに今日は、オレンジ色に輝いていた。

 

「姫様に何かあったとか?」

「……分からないけれど、一番は本人たちに聞く事ね」

 

 この城の主の事を思えば、病気などの可能性は低い。だけど懸念すべきではあるだろう。

 クーリアも事態の全貌は分からないようだが、確かにここで俺たちがあれこれ考えたところで意味はない。だから、前と同じように正面玄関へと向かう。そして全員が扉の前に立ったところで、ノックもしていないのに自然と扉が開く。

 

「お待ちしておりました、皆さん」

 

 挨拶をしてきたのは、モノクルをかけたアリアス。執事服も整えられていて、見た感じ何か異変が起きた様子はない。

 

「本日は御足労頂きありがとうございます」

「出迎えありがとう、アリアス。姫様は息災かしら?」

「ええ、とても。本日をとても心待ちにしていたようです。さ、どうぞ中へ」

 

 挨拶に合わせ、さりげなくクーリアが迷宮姫の様子を尋ねる。アリアスは顔色一つ変えずに答えており、嘘をついてはいないらしい。

 前回は俺が初対面だった事もあり、いきなり手で動きを制されたが、今回は逆にアリアスから「お久しぶりです」と個人的な挨拶までもらってしまった。ある程度の信用は得られているようだったので、安心して俺も城の中に入る。

 

「……あれ?」

 

 だが、中に入って目にしたのは、やはり奇妙な光景だ。

 以前ここへ来た時は、確かに明かりは点いてたし中の様子も問題なく見えた。だが今日は、中が前回よりもはるかに明るくなっている。その明るさ故、飾られている絵画や甲冑、美術品は輝きを持って激しく自己主張している。なんというか、厳かというより煌びやかなイメージが強かった。

 

「アリアスさん、明かりを換えたのかしら? なんだか前より明るさが強い気がするのだけれど……」

「今日はどういうわけか、城中こんな具合なんですよ。電球を変えたりはしていませんし、何をどうしても明るさを変えられなくて」

 

 ビューティアの質問に、アリアスは少し困ったような口調で答える。アリアスでも分からないとなると、これは迷宮姫に聞いた方がいいだろう。と言っても、俺が気軽に質問できる立場でもないから、誰かが聞くのを待つ事にしよう。

 そして、前と同じように物言わぬトラップだらけの城内を歩いていると、先頭を歩くアリアスが口を開く。

 

「まずは姫様にご挨拶を。本日は前回よりもお時間は頂きませんので、ご心配なく」

 

 前は会う直前まで迷宮姫がジャージだったために、ドレミコードの皆には試奏タイムを緊急で用意してくれた。だが、流石に前回の反省を生かし、迷宮姫も今日は普通のドレスを着ているようだ。その時のやり取りを思い出したらしいファンシアが、笑いを堪えているのが見えた。

 

「それと、皆さんにご紹介したい方もいらっしゃるので」

「え?」

「特に……バトレアスさんに」

「はい?」

 

 ところが、アリアスに言われたそれは興味というか疑問が生じる。紹介したい人とは、特に俺に紹介したい人とは、いったい誰だろうか。

 

「こちらです」

 

 そんな不安混じりの中で、前回も見たハートマークのレリーフで彩られた扉の前に辿り着く。前回はこの先の光景を見る事なく帰ってしまったが、ついにそれが明らかになるのか。

 

「……では」

 

 一瞬、扉を開ける直前でアリアスが動きを止めた。多分だが、また迷宮姫が変な事を話したりしていないかを確かめるためでもあったのだろう。

 それでもアリアスは、力を込めて扉を開けた。

 

「……っ」

 

 その先にある光景は、まさに玉座と呼ぶにふさわしい空間。クルヌギアスの城にも同じような場所はあったが、ここはそれよりも広い。天井にはシャンデリア――《迷宮城の竜飾灯(ラビュリンス・シャンドラ)》――が吊り下げられ、部屋を明るく照らしている。床は端から端まで大理石で埋め尽くされ、中央には赤色のカーペットが敷かれている。ハートマークの刺繍が溢れんばかりに拵えてあるその先には、飛び切り豪奢な装飾の椅子が一脚。

 その椅子に座っている人こそ、《白銀の城のラビュリンス》。迷宮姫だ。

 

「よく来てくれたわね」

 

 迷宮姫が頬杖をつき、嗤って告げる。前回とは違い、気品と威厳ある声と仕草だった。それを受けて、俺を含めドレミコードの全員は跪く。

 その前回とは違う城の様子とは裏腹に、迷宮姫は以前とあまり変わらない感じがする。

 

「お元気そうで、何よりだわ」

「お気遣いありがとう、クーリア」

 

 唯一、迷宮姫と気心知れた仲のクーリアは、皆と同じく姿勢を低くしながらも、敬語を挟まず対等な言葉遣いで話しかける。それに応える迷宮姫も、やはり調子が悪そうな感じはない。城のあれこれがおかしいのは、「そういう日もある」という事だろうか。

 そんな考え事をしつつ、迷宮姫の様子を窺っていると、うっかり目が合ってしまった。

 

「……ああ、そうだ。そこのバトレアス、だったかしら」

「はい」

 

 しかもどうやら、俺に言いたい事でもあるようで、名前を呼ばれてしまう。立ち上がると、迷宮姫は壁際に控えるアリアスと、召使いのアリアーヌに視線を飛ばす。それを受けたアリアーヌは、玉座の脇にある控室らしき部屋へ入っていった。

 

「前にあなたが【罠モンスター】デッキの情報を提供してくれたおかげで、騎士様へのおもてなしが少しグレードアップしたわ」

 

 その件に関してはアリアスから手紙で聞いていた。

 そして同時に、迷宮姫の写真集まで送られてきたまで思い出す。それについて蒸し返したりしたら、面倒な事になるのは目に見えているので口にはしない。

 

「その礼は一応言っておきましょう」

「ありがたき幸せ」

「それで」

 

 だが、用件はそれだけではないらしく、さらに迷宮姫が続ける。

 

「そのおかげで、私の城にも新しい仲間が来てくれたの。その子も、紹介すべきかと思ってね」

「?」

 

 そういえばさっき、アリアスがそんな感じの事を言っていた。

 迷宮姫たちは、デッキのカードを基にトラップを生成する力があるらしい。であれば、あのデッキの中にいるモンスターの類を実体化させ、城の仲間にするのも技術的には可能だろう。

 だとすれば、誰を仲間にしたのか。

 

「よーっす」

 

 その答えは、すぐに分かった。

 この場の雰囲気に似つかわしくない、軽いノリの挨拶と共に控え室から姿を見せたのは、背丈は迷宮姫やクーリアと変わらないぐらいの女性。セーラー服の上にジャンパーを羽織る、ぼさっとした髪のその人物は。

 

「……《斬リ番》、さん?」

「んぁ?」

 

 俺が使った【罠モンスター】デッキの切り札である《斬リ番》。前回のアリアスとのデュエルでは大いに活躍してくれたそのモンスターが、デュエルでもないのにそこにいた。

 

「斬リ番様、あちらがあなたのデータを提供してくださったバトレアスさんです」

「おー、あんたか。そういや思い出した、アタイをデュエルで使ってくれた奴だな!」

 

 アリアスに紹介され、曖昧な会釈をすると、斬リ番はにかっと笑って俺に歩み寄ってくる。そのまま握手かと思いきや、俺の肩に手を回してバシバシと叩いてきた。

 

「いやー、お前のおかげでここに置いてもらえて万々歳だ!」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。何せネットは使い放題だし、三食タダだし、ストレス発散に騎士様とやらと全力で戦えるしで、申し分ねーよ!」

 

 どうやら、この城で彼女は快適な生活を送る事ができているらしい。特にネット使い放題は、サイバース族でありネットに傾倒しているらしい彼女からすれば、まさに天国だろう。ネットが最初からこの城で使えたのかどうかは分からないが。

 

「斬リ番様には、インターネットで外の情報や新しいトラップのアイデアを集めてもらいつつ、騎士様の相手もしていただいております」

「私も彼女のおかげで退屈しないのよ。インターネットって便利なのねぇ」

 

 アリアスと迷宮姫が捕捉する。ただの居候ではなく、ちゃんと貢献してくれているから、2人も俺に紹介したかったのか。インターネットを今まで知らなかったのも意外だが、そんな迷宮姫が変な知識を得たりしないだろうかと不安もある。

 兎に角、斬リ番はどうやらこの城に住む事ができて満足しているようだ。

 

「楽しんでおられるようで、何よりです」

「ああ! お前があのデュエルで使ってくれたおかげだよ、サンキューな!」

 

 にっと笑い、肩を叩いてくる斬リ番。名前的にスケバンみたいな恐ろしい子かと思ったが、存外かなり気さくでいい子だ。

 以前この城へ来た際にアリアスと行ったデュエルで、【ラビュリンス】相手に《斬リ番》を発動できたのは奇跡と言っていい。それで彼女の実力を見初められ、こうして城で暮らす事ができたのであれば、俺もあのデュエルで勝った喜びが増す。

 

「……?」

 

 その時、不意に左腕を誰かに掴まれた。

 そちらを見ると、他でもないその迷宮姫が、レースの手袋を嵌めた右手で掴んでいる。その動きはまさに一瞬だったようで、ドレミコードの皆も、アリアスたちも、斬リ番も全員が言葉を失っている。

 

「姫さ――」

 

 その急な出来事に声を発しようとしたが、俺はすぐに口を噤む。

 

 敵意に満ちた目を、迷宮姫が俺に向けていたからだ。

 ともすれば、その目に宿っているのは殺意ではないかと言うぐらいに、力強い。

 

 

「……姫様?」

 

 流石に異常と思ったのか、アリアスが控えめに声を掛けると、迷宮姫の表情がすぐに和らぐ。

 

「……あぁ、ごめんなさい。ちょっと、その……」

 

 やがて迷宮姫は、謝りながら手を離した。何となく様子がおかしい気がするが、それについて聞くのはさっきの目つきもあり少し怖い。斬リ番も俺に少しだけ手を振ってから、壁際にいるアリアンナの横に戻った。

 

「って、そうだ! 思い出した!」

 

 すると迷宮姫は、突然かっと目を見開いて俺を指さす。一体何を思い出したというのか。

 

「あなた、私の写真集をアリアスから受け取ったでしょう!」

 

 勢いよく指さされ、俺は天を仰ぐ。無暗に言うまいとしていた問題を、当人が蒸し返してきた。

 すると、壁際に下がった斬リ番がぴゅうと口笛を吹くと。

 

「え、読んだの? あのエロ本を?」

 

 その言い方からして、どんな代物かは斬リ番も知っているらしい。というか、「エロ本」というあたり本当に中身はかなり際どいもののようだ。そういえば、エンジェリアは最初のページに写っていたのが迷宮姫の入浴シーンとか言っていたような。

 だが、当然そんなものを読んだ事実は俺にない。

 

「……確かに受け取りはしましたが、中身は見ておりません」

「それをどう証明するって言うの?」

「ドレミコードの皆さまの尋問を受けたうえで」

 

 迷宮姫の視線が、未だ跪いているドレミコードの皆へ向く。その中で、クーリアとグレーシアが立ち上がった。

 

「事実よ、姫様。私たちが尋問して、読んでないのは確認済みだわ」

 

 クーリアが毅然とした口調で答え、グレーシアもこくりと頷く。あの時、エンジェリアが俺の部屋で偶然あれを見つけた後、俺に詰問したうえで読んでいないと判断したのはクーリアとグレーシアだ。

 

「むしろ私には、あなたたちが口裏を合わせて嘘をついているっていう風に見えるんだけど!」

「……一理あるかも」

 

 しかし、迷宮姫が言いがかりをつけてきたうえ、壁際に待機するアリアンナまで同意してきた。

 俺はドレミコード側にいて、迷宮姫たちとは別勢力。だから、相手側の陣営で口裏を合わせ、白いものも黒いものにできるという言い分は、悔しいが理解できてしまう。疑うのも尤もと言えた。

 

「こちらとしては、嘘をついているつもりはありません。誓って、姫様のプライベートを侵害した上での代物は読んでおりません」

 

 最初に会った日にも言った、読まない理由をもう一度告げる。

 しかし迷宮姫は、納得した態度を見せない。

 

「……まだ信用されていないようでしたら、何をご所望でしょうか?」

 

 記憶を読み取る力や装置などがあればいいのだろうが、恐らくラビュリンス陣営にもそんな力はないだろう。

 だから証明する手段はない。であればどうするか。

 聞いておいてアレだが、薄々どうなるかの想像がついた。

 

「デュエルよ!」

 

 だと思った。

 

「あなたが勝てば、今回の事は水に流してあげるわ。だけどもし! 負けたら!」

「負けたら?」

「今度こそ無限バージェストマ地獄に叩き落としてやるわ!」

「あー、あの何とかジョーンズ的なあそこ?」

 

 提示された罰則に、斬リ番が納得したような声を上げた。

 やはり、イメージした通りの場所らしい。騎士様はその地獄をものともせず突破したらしいが、俺の精神耐性は残念ながら人間のままだ。そういう古代生物がうじゃうじゃ犇めく空間に行くのは御免被りたい。

 

「さぁ、どうするかしら?」

 

 何とか勝負は避けたいが、迷宮姫はやる気満々。傍に控えるアリアスは肩を竦めた。

 しかしそこで、クーリアが一歩前へ出る。

 

「姫様、もし私たちが信用できないなら、代わりに私が――」

「私はねぇ、クーリア。例の写真集をあんたに見られるぐらいならまだいいのよ。でも、このバトレアスに……男に見られた可能性があるって言うのがひっじょーにムカつくのよ!」

 

 クーリアが助け舟を出そうとしてくれたが、無下にもそれは断られてしまった。

 同性同士ならまだいいが、俺は男で迷宮姫は女。だからこそ、俺が見たかもしれないのが気に食わないのだろう。本当に俺は何も見ていないのだが、代役は立てられなさそうだ。つくづく、アリアスは面倒な代物を送りつけてくれたと思う。

 

「……承りましょう」

 

 デュエルを避けられない。そもそも相手は姫君、部外者で一介の従者が抵抗などできるはずもなかった。

 

「アリアス、ディスクを用意して頂戴!」

「こちらに」

 

 指示されたアリアスが素早くデュエルディスクを用意してきた。メタリックなピンク色の、ハート型のデュエルディスク。城の随所にハートマークがちりばめられているので、もしかしたらそう言うデザインが好きなのかもしれない。あるいは、自らの頭に生えている角をイメージしているのか。

 俺は、いつも通りのデュエルディスクを腕に嵌め、姫様と距離を取る。デッキに関しては【ヒロイック】ではない。あれはまだ改良の余地があり、ドレミコードの皆との手合わせならともかく、本格的なデュエルにはまだ向かない構築だ。だから、俺が転生した時から持っていたデッキをセットしている。

 そしてドレミコードの皆も立ち上がり、アリアーヌたちと同様に壁際に向かう。

 

「気を付けて。今日の姫様、何だが様子がちょっと変だわ」

「……わかりました」

 

 その間際にクーリアが肩を叩き、耳打ちをしてくる。背筋がゾクッとするが、忠告自体はきちんと受け止めた。前回とは違い、戦うのは迷宮姫本人。油断はできない。

 迷宮姫は玉座の前に立ち、俺は玉座の間の中央部分に立って、デュエルディスクを展開する。迷宮姫が展開したディスク盤面は、斧の刃のような形状だ。

 

「「デュエル!」」

 

バトレアス LP4000

VS

迷宮姫 LP4000

 

 デュエルディスク後攻を示した。

 迷宮姫のデッキは十中八九【ラビュリンス】。先攻を取らせるとこちらの巻き返しが非常に困難になる。

 俺の方は、初手の5枚を確認し、厳しい戦いになるであろう事を痛感する。

 まず、手札誘発がない。そして、前に使った【罠モンスター】ではなく、デッキによっては機能不全になるだろう戦術を使う。【ラビュリンス】にどこまで通じるかは分からない。

 

「私から行くわよ! 私は《白銀の城の召使い(ラビュリンス・サーバンツ) アリアーヌ》を召喚!」

 

 まず迷宮姫が呼び出したのは、袖を切り落としたメイド服の随所にピンクをちりばめた少女。蝋燭が3本付いた三叉のような得物を振り回し、小悪魔のように(実際悪魔族だが)笑う。

 

白銀の城の召使い アリアーヌ

ATK1800 レベル4

 

「アリアーヌの効果発動! 手札またはセットされたカードの中から通常罠1枚を墓地へ送り、デッキから自身以外のレベル4以下の悪魔族を1体特殊召喚できる。《白銀の城の召使い アリアンナ》を特殊召喚!」

 

 迷宮姫がコストとして捨てたのは《魔女の一撃》。それを見届けたフィールドのアリアーヌが三叉を振ると、すぐそばに新たなモンスターが現れる。アリアーヌとは反対に露出を抑え、鍵のようなものを携える、緑をイメージカラーにする少女。ふんすという感じで腕を構えた。

 

白銀の城の召使い アリアンナ

DEF2100 レベル4

 

「このアリアンナを特殊召喚した事で効果発動。デッキから自身以外の『ラビュリンス』カードを1枚手札に加えるわ。私が手札に加えるのは、《ウェルカム・ラビュリンス》。そして、手札からフィールド魔法《白銀の迷宮城(ラビュリンス・ラビリンス)》発動!」

 

 アリアンナの効果で手札に加えたカードは【ラビュリンス】の代名詞たる罠カード。

 そして発動するフィールド魔法は、今いるこの城そのもの。けれど、景色は特に変わる事がなかった。《アロマガーデン》の時と同じ、ここがそのフィールド魔法と同じ場所だからだろう。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 1ターン目が終わり、冷汗が垂れる。

 マスターデュエルでの経験上、ただでさえ【ラビュリンス】に先攻を与えるのはまずいと分かっていた。なのに、先攻の動きを止められず、前回のアリアスとのデュエルでは使わせなかったフィールド魔法も発動されている。おまけに、2枚の伏せカードの内どちらかは確実に《ウェルカム・ラビュリンス》のはず。つまりこちらは、仕掛けてある罠を承知の上で攻め込まなくてはならない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 最初のドローカードは……悪くなかった。

 

「永続魔法《アシンメタファイズ》発動! このカードは1ターンに1度、手札から『メタファイズ』カード1枚を除外する事で、1枚ドローできる」

「あら、【罠モンスター】じゃないのかしら?」

 

 使ったカード的に、前回俺が披露したデッキとは違うと迷宮姫は理解したらしい。実際その通りなので大した反応はせず、手札の《メタファイズ・アームド・ドラゴン》を除外してドローする。これも悪くない引きだが、このターンに使うのもリスクが高いからやめておく。

 

「俺のターンに『メタファイズ』カードが除外されたため、《アシンメタファイズ》の効果発動。フィールドの『メタファイズ』モンスター以外の攻撃力と守備力を、500ポイントずつ下げる!」

 

 フィールドにある《アシンメタファイズ》のカードが輝きを放つと、アリアーヌとアリアンナは眩しそうに腕で目を守る。2人は闇属性だから強い光が堪えるのだろう。

 だが、その仕草をみた迷宮姫の表情が、その光とは別の要因で眉をひそめたような気がした。

 

白銀の城の召使い アリアーヌ

ATK1800→1300

 

白銀の城の召使い アリアンナ

DEF2100→1600

 

 しかし、下級モンスターとしては高めのステータスを持つ2体を、どうにか標準レベルにまで下げる事はできた。

 

「《メタファイズ・ラグナロク》を召喚!」

 

 次にモンスターを召喚する。以前天老とのデュエルで使われた《神竜 ラグナロク》とよく似た長い身体のドラゴンだ。しかし色合いは全体的に薄い青と金色で、神秘的な印象が強い。

 

メタファイズ・ラグナロク

ATK1500 レベル4

 

「召喚時、ラグナロクの効果を発動。デッキの上から3枚のカードを除外し、その中にある『メタファイズ』カード1枚につき、攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

 このデッキにおいては、除外されるカードも重要になる。それについての期待を抱きつつ、3枚のカードをめくり、それを迷宮姫にも提示した。

 

「除外されるのは《メタファイズ・ネフティス》《次元の裂け目》《メタファイズ・タイラント・ドラゴン》。2枚の『メタファイズ』カードが除外されたため、ラグナロクの攻撃力は600ポイントアップ!」

 

メタファイズ・ラグナロク

ATK1500→2100

 

 墓地へ送られるモンスターを全て除外させる《次元の裂け目》が除外されたのは少し残念だ。あのカードさえあれば、【ラビュリンス】に対しそれなりの妨害になったのに。

 そして、肝心の迷宮姫の伏せカードを除去する手段はない。

 ただ、待っていてもやられてしまうだけだから、こちらから動くしかなかった。

 

「バトル! ラグナロクでアリアーヌを攻撃!」

 

 攻撃宣言をすると、ラグナロクがアリアーヌへと迫る。

 しかしそこで、迷宮姫はにんまりと笑った。

 

「おバカさんねぇ。罠カード《ウェルカム・ラビュリンス》発動!」

「やっぱりか……」

「その効果で私は、デッキから『ラビュリンス』1体を特殊召喚するわ!」

 

 迷宮姫の伏せカードは案の定だ。考え無しに勝負を仕掛けてきたと思っての事だろうが、こちらは見えている地雷を踏む以外に道がなかったのだ。

 悔やむ俺の前で、《ウェルカム・ラビュリンス》が紫がかった白い光を放ち、その中から1体のモンスターが姿を見せる。

 

「何人たりとも及ばぬ深窓の美貌の前に、ひれ伏しなさい! 我が写し身、《白銀の城のラビュリンス》!!」

 

 光が収まり、全貌が露わになるモンスター。今デュエルをしている相手と同じ、グラマラスな体を強調する白いドレスに身を包んだ迷宮姫。自信満々な笑顔でその手に巨大な斧を振り回す。

 

白銀の城のラビュリンス

ATK2900 レベル8

 

「さらに《白銀の迷宮城》の効果で、『ウェルカム・ラビュリンス』罠カードに『フィールドのカード1枚を破壊する』効果を追加できる! よって《メタファイズ・ラグナロク》を破壊!」

 

 瞬間、部屋の明かりがひと際強まったかと思うと、シャンデリアから雷が迸り、攻撃を仕掛けていた《メタファイズ・ラグナロク》に直撃して破壊する。なるほど、今俺たちのいる場所そのものが《白銀の迷宮城》だから、こうして家具が攻撃してくるわけか。いい演出だ、とこの状況でも考えてしまう。

 

「私の通常罠カードの効果でモンスターがフィールドを離れた事により、アリアーヌとアリアンナ、そして私自身の効果が発動! 私の効果は、あなたのフィールドかランダムな手札1枚を破壊する。《アシンメタファイズ》を破壊!」

 

 フィールドの迷宮姫が斧を放ると、《アシンメタファイズ》のカードが両断される。容易な条件でのドローと攻撃力ダウンを危惧しての判断か。

 

「さらにアリアーヌとアリアンナの効果で、私は1枚ずつドローできる! そして、手札から悪魔族モンスター1体を特殊召喚するか、魔法・罠カード1枚をセットする事もできるわ」

 

 2体の召使いがいるために、迷宮姫は一気に2枚もドローできる。しかも、引いたモンスターは即座に呼び出せるし、罠カードでも発動にかかる時間を短くできる、非常に優秀な効果だ。

 

「私は《闇次元の解放》をセットさせてもらう」

 

 ドローしたカードの内、1枚は手札にそのまま加えて、もう1枚は公開した上でセット。そのカードは俺も聞いた事があるし、だからこそ迷宮姫の引きが強いと思う。

 そして、迷宮姫が動いた事で忘れそうになるが、まだ俺のバトルフェイズだ。しかし、こちらはモンスターがいなくなったため何もできない。メインフェイズに移行せざるを得なかった。

 

「……俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 

 結局できるのは、カードを伏せる事だけだ。

 そんな俺を見て迷宮姫は、誇らしげに笑いながらカードを引き、得意げに鼻息を吐く。このターンでの勝利を見越しているらしい。

 だが、こちらも前のターンに仕込みは済んでいた。

 

「さっきのターンに除外された《メタファイズ・ネフティス》と《メタファイズ・タイラント・ドラゴン》の効果! この2枚をデッキに戻して発動する!」

「えっ!?」

 

 さっきは俺のバトルフェイズにも関わらず、モンスターを呼ぶわカードを破壊するわドローするわカードを伏せるわと好きに動いたのだ。いかに相手が姫であっても、こちらが同じような事をしても文句は言えまい。

 

「《メタファイズ・タイラント・ドラゴン》の効果で、手札から『メタファイズ』モンスターを1体特殊召喚できる。現れろ、《メタファイズ・ダイダロス》!!」

 

 まずは大型モンスターを呼び出す。冥界の屍迷人とのデュエルで使った《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》のような姿だが、色合いは全体的に薄く、頭部や腕に金色の装甲が取り付けられている。また、身体の部分は半透明だ。

 

メタファイズ・ダイダロス

ATK2600 レベル7

 

「さらに《メタファイズ・ネフティス》の効果で、デッキから『メタファイズ』カード1枚を手札に加える事ができる。俺は2体目の《メタファイズ・ラグナロク》を手札に」

「く……」

「そして、『メタファイズ』モンスターの効果で特殊召喚したダイダロスの効果発動! フィールドの特殊召喚された他のモンスターを、全て除外する!」

「なっ!?」

 

 続けて発動した効果に驚く迷宮姫を前に、ダイダロスが咆哮を上げる。すると、フィールドの迷宮姫とアリアンナの身体が白く輝き始め、その身体は無数の粒子となって消失した。唯一通常召喚されていたアリアーヌだけはフィールドに残るが、消えてしまった2体のラビュリンスを見て悲しげな顔をする。

 そして。

 

「……よくも」

「?」

 

 迷宮姫が、声を低くし、震わせた。

 さっきまでとは違う口調に驚き、視線を合わせると。

 

「よくも、私の仲間を……消したわね」

 

 歯ぎしりをする迷宮姫から感じるのは、途方もない敵意。ともすれば殺意。ぶるりと、身体が恐怖で震える。

 そして姫様は、腕を突き出す。

 

「永続罠《闇次元の解放》発動! 除外されている私自身を特殊召喚!」

 

 天井に開いた虚無の渦から、斧を携えた迷宮姫が軽やかに降り立った。その効果は知っていたので、そう来る事は予想できていた。

 

白銀の城のラビュリンス

ATK2900 レベル8

 

 しかし、モンスターが特殊召喚された事で、こちらも伏せていたカードの1枚が使える。

 

「永続罠《メタファイズ・ディメンション》発動! 1ターンに1度、相手がモンスターを特殊召喚した場合、除外されている『メタファイズ』モンスター1体を特殊召喚する! 戻ってくれ、《メタファイズ・アームド・ドラゴン》!」

 

 こちらのフィールドにも虚無の渦が現れ、白に近い銀の身体を持つドラゴンがその中から現れる。このデッキでは唯一の通常モンスターだ。

 

メタファイズ・アームド・ドラゴン

ATK2800 レベル7

 

 だが、こちらが即座に上級モンスターを呼び出したのを見ても、迷宮姫は鼻で笑うだけだ。

 

「罠カードが発動した事で、手札の《白銀の城の魔神像(ラビュリンス・デーモン)》の効果発動! このカードを特殊召喚する!」

 

 翼を生やして剣を構える銀色の甲冑が現れる。モノアイは強く輝き、俺を睨みつけてきた。

 

白銀の城の魔神像

ATK2000 レベル7

 

「そして特殊召喚したデーモンの効果発動。攻撃宣言時に発動可能な通常罠カードをセットする。私が伏せるのは《魔法の筒(マジック・シリンダー)》!」

 

 古き良き、それでいて強力な罠カードを仕掛けられた。攻撃するのも考えものになってしまう。

 

「デーモンの攻撃力は、私の墓地の通常罠カード1枚につき400ポイントアップする。墓地の罠カードは、《魔女の一撃》と《ウェルカム・ラビュリンス》の2枚!」

 

白銀の城の魔神像

ATK2000→2800

 

 これで迷宮姫の場には高攻撃力のモンスターが2体。このまま攻撃を喰らえば、俺のモンスターは2体とも破壊されてしまう。

 

「さらに私は、アリアーヌをリリースして《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚!」

「何!?」

 

 しかし、続けて呼び出されたモンスターは完全に予想外だった。アリアーヌがお辞儀をして姿を消すと、灰色や紫色と言った暗いカラーリングの巨人が現れる。

 

邪帝ガイウス

ATK2400 レベル6

 

「アドバンス召喚したガイウスの効果発動!《メタファイズ・アームド・ドラゴン》を除外する!」

 

 このターンで勝負を決めるつもりか、除外してきたのは攻撃力の高いドラゴン。ガイウスが両腕を構えると、禍々しい色合いの球体をその手に出現させ放つ。その身に攻撃を受けた《メタファイズ・アームド・ドラゴン》は、またしても次元の裂け目に飲み込まれて消えてしまった。

 だが、それはこちらにとっても好都合だ。

 

「《メタファイズ・ディメンション》のもう一つの効果発動! 自分の『メタファイズ』カードが除外された場合、フィールドのカード1枚を除外できる!」

「!」

 

 ここで除外すべきは、やはり高い攻撃力と罠カードの回収を両立する迷宮姫だろう。なので俺は、フィールドにいる迷宮姫を指さす。

 

「俺は――」

 

 その時。

 自分の身体が、四方八方から槍で突き刺されたような感覚に襲われた。

 

「……っ」

 

 この感覚は何だ?

 デュエルを観ているラビュリンスたちによるものか。いや、そちらからは何も感じない。斬リ番も、ドレミコードの皆からも、やはりそれらしい気配を放つ人はいない。

 であれば。

 

「……」

 

 俺の事をじっと睨めつける、デュエルをしている迷宮姫。

 その目からは強い憤りを感じた。もしも殺意というものが実体を持っていたら、俺はとうに死んでいる。そんなぐらいに強く、暗い意思が伝わってくる。それは果たして、俺がドレミコードになったから感じ取れるものだろうか。

 兎に角、このまま《メタファイズ・ディメンション》の効果で迷宮姫を除外する事を、本能が拒否はじめた。《白銀の迷宮城》も《白銀の城の魔神像》も除外してはならないと、尋常じゃない敵意を感じた脳が押し留める。

 でなければ、迷宮姫は間違いなく俺の命を奪ってきそうでならないから。

 

「……俺は、ガイウスを除外する」

 

 だからこそ、それを選ぶほかなかった。【ラビュリンス】は悪魔族の再利用にも長けている。いくらこちらが除外に強いとはいえ、そう何度もやられるのはたまったものではない。

 《メタファイズ・ディメンション》のカードが光り輝き、ガイウスの背後に白い穴が現れると、その穴へガイウスは吸い込まれていった。

 

「ちょっと、バトレアス! 何してるの!?」

「なんだ、プレイングミスか?」

 

 デュエルを観ていたクーリア、さらには斬リ番までもが疑問の声を上げている。

 分かっている。今のは完全に判断ミスだ。ここで除外すべきは、厄介な効果を持ち、高い攻撃力を持つ迷宮姫だった。そうでなくても、破壊効果を追加、もしくは展開効果を持つフィールド魔法を率先して除去すべきだったろう。

 だけど俺は、得体の知れない殺意に怯え、判断を誤った。こればかりは弁明の余地もない。

 そして今、その気配は――迷宮姫から放たれる敵意と殺意は薄まっていた。

 

「バトルよ! まずはデーモンで《メタファイズ・ダイダロス》を攻撃!」

 

 モノアイの甲冑が剣を構え迫ってくる。

 けれど、その攻撃を通すわけにはいかない。

 

「カウンター罠《攻撃の無力化》! モンスターの攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了させる!」

 

 デーモンが振り被った剣は、ダイダロスの正面に出現した透明な壁に弾かれる。デーモンは渋々迷宮姫のフィールドに戻った。

 

「ならば、メインフェイズ2で私自身の効果を発動。墓地の通常罠カード《ウェルカム・ラビュリンス》をセットする」

 

 迷宮姫が長大な斧を床に向けると、ハートの演出と共に墓地から《ウェルカム・ラビュリンス》のカードが現れ、迷宮姫のフィールドにセットされる。

 

白銀の城の魔神像

ATK2800→2400

 

 これで、《白銀の迷宮城》の効果と合わせて、フリーチェーンのリクルートと除去を一気にできるようにされた。非常に戦いづらい。

 

「そしてもうひとつ、貴方にとっては思い入れのあるカードを使ってあげるわ」

 

 迷宮姫の言葉に眉を顰めるが、彼女は最初のターンから伏せてあった1枚の伏せカードを指さして嗤うと。

 

「永続罠《斬リ番》発動!」

「げっ!?」

「このカードの効果は、あなたもよぅく理解しているでしょう?」

 

 強い光を放ち発動したカードは、忘れるはずもない。以前アリアスとのデュエルで使った、【罠モンスター】デッキを作るきっかけとなった、ド派手な効果を持つ罠モンスター。そして、俺のおかげで現実ではこの迷宮城で楽しく暮らしているモンスター。

 このターンに発動した効果の回数ははっきり覚えていないが、俺も迷宮姫もかなり発動した記憶がある。10回は優に超えているだろう。

 

斬リ番

ATK3000 レベル10

 

 スケバンのような女性のモンスターがフィールドに現れる。ただしこちらに対しては敵意剥き出し、メンチを切るかのような獰猛な表情だ。

 

「これで私はターンエンド。さぁ、やれるものならやってみなさい!」

 

 高らかに宣言し、迷宮姫は俺を指さす。

 

「私の仲間を傷つけた罪は、それなりと覚悟してもらうわよ?」

 


 

《時既に遅し》

 

アリアス「姫様が珍妙なネットミームを真似して城の仲間が困惑しているので、そういったものは見せないでいただきたいのですが」

斬リ番「それアタイが悪いの……?」

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