ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第47話:仲間

バトレアス LP4000 手札2

【モンスターゾーン】

メタファイズ・ダイダロス ATK2600 レベル7

 

【魔法&罠ゾーン】

メタファイズ・ディメンション

 

 

迷宮姫 LP4000 手札2

【モンスターゾーン】

白銀の城のラビュリンス ATK2900 レベル8

白銀の城の魔神像(ラビュリンス・デーモン) ATK2400 レベル7

斬リ番 ATK3000 レベル10

 

【魔法&罠ゾーン】

闇次元の解放

伏せカード2

 

【フィールドゾーン】

白銀の迷宮城(ラビュリンス・ラビリンス)

 

 

 【ラビュリンス】は、マスターデュエルでそこそこ戦った事がある。通常罠カードを駆使し、相手が展開するよりも早く自分の盤面を築いて、相手の動きを妨害する。一時期、環境の一角を担った事もあった。

 そんなシリーズの設定は、城に住む「姫様」が、攻めて来る「騎士」を撃退するために、仲間や城に仕掛けられた数々のトラップを駆使して「もてなす」というもの。テーマの強さとは裏腹に、遊戯王という枠組みの中でもかなりコミカルな設定のシリーズだと思う。

 だが、俺が知っているのはそこまでだ。デッキ構築の幅はともかく、設定に関しては俺も把握できていないだけで、まだ何か知らないものがあるのかもしれない。しかも精霊界だと、勝手が違う可能性だって十分ある。

 

 デュエルの最中にもかかわらず、そんな事を考えてしまう。

 それはさっきのターンに感じた異常に他ならない。

 

(アレは、いったい何だったんだ……?)

 

 俺がプレイングミスを犯したのは事実だが、そうさせるほどに感じた力強い敵意、あるいは殺気。

 それの出所は迷宮姫だと分かっているが、何が彼女をそうさせたのかが分からない。

 身に覚えがあるのは、直前にアリアンナや迷宮姫のカードを除外した事。ただ、思い入れのあるカードを守れなかったり、逆用されてしまう事はデュエルでは多々ある。俺自身も精霊界で、愛用している【ドレミコード】の《ドドレミコード・クーリア》を、二度にわたって相手の展開や攻撃に利用されてしまっている。ドレミコードの従者であり、かつ愛用しているデュエリストにとっては、非常に悔いが残るものだ。

 とはいえ、クーリアに限らずエースモンスターを奪われたりする事もざらにある。単に除去された事なら数えきれないほどあった。

 迷宮姫はその辺りに折り合いをつけられないのか、自分のモンスターが除去される事を極端に嫌っている節がある。だが、それで殺意まで抱くのは大人げない、と言ってしまっていいものなのか。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 兎に角、今はデュエルだ。この闘いに負けたら、俺は無限バージェストマ地獄に落とされてしまう。写真集は天地神明に誓って読んでいないし、冤罪で地獄に落とされるなんてひどい話だ。何としても避けたい。

 状況は俺が不利だが、今ドローしたカードのおかげで活路は拓かれる。

 

 この【メタファイズ】は、マスターデュエルにおいて除外系メタバーンデッキが流行した際、その対策として組んだものだ。「メタファイズ」の多くは除外される事で能力を発揮し、また属するモンスターのほとんどが、かつて存在したモンスターが進化した姿という設定に惹かれ、組んだ次第である。それ以外のカードは、幻竜族のサポートか、除外に関するカードで大体固めている。

 とはいえ、その除外系メタバーンに当たる機会が少ないのもあり、活躍の場は限られてしまった。それでも、除外効果が相手にも及ぶ点が活き、対人戦でもそこまで低くない勝率を誇る。

 そんなデッキで、何とか【ラビュリンス】に食らいついている。だが、気を抜けば一瞬で攻め込まれてしまうだろう。だから、謎の敵意にビビって判断ミスなど、二度と許されない。

 

「魔法カード《冥王結界波》を発動! 相手フィールドの表側表示モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この時、相手はモンスター効果を発動できない!」

「チッ……!」

 

 発動したカードから波動砲みたいな白いエネルギーの奔流が放たれると、迷宮姫のフィールドにいるモンスターたちが色を失った。

 

白銀の城の魔神像

ATK2400→2000

 

「効果が無効になった罠モンスターは、魔法&罠ゾーンに移動する」

「やってくれるわね……」

 

 腹立たしそうに、姫様は《斬リ番》のカードを中央の魔法&罠ゾーンに置く。

 罠モンスターの中には、《斬リ番》を始めモンスターカードとも罠カードとも扱うカードが多い。しかしそれらの「モンスターカードとして扱う効果」は、その効果を無効にされてしまうと、ただの効果が無効になった罠カードとなり、魔法&罠ゾーンに戻る。

 そして、こうなった罠モンスターは、例え効果が再び有効になってもモンスターゾーンに戻る事はない。モンスターとなる効果は「カードの発動と同時に適用される」から、既に表側になっていると「カードの発動」という手順を踏めないためだ。

 つまり、《斬リ番》はもうモンスターゾーンには戻らない。効果を発動すると全体除去をしてくる彼女を封じ込めた事で、闘いが大分楽になる。しかも罠カードを多用する【ラビュリンス】には痛手であろう、魔法&罠ゾーンを1か所潰すおまけ付きだ。

 

「魔法カード《七星の宝刀》を発動。手札またはフィールドから、レベル7のモンスター1体を除外して2枚ドローする!」

 

 コストにするのはフィールドのダイダロス。その姿が無数の白い粒子となって消え去るのを見届けてから、新たに2枚のカードを引く。1枚は来てくれて嬉しいカード、もう1枚はさらにチャンスを広げられるかもしれないカードだ。

 

「『メタファイズ』カードが除外された事により、《メタファイズ・ディメンション》の効果発動!《白銀の城のラビュリンス》を除外する!」

「させないわ!《ウェルカム・ラビュリンス》発動! その効果で、私はデッキから《白銀の城の召使い(ラビュリンス・サーバンツ) アリアンナ》を特殊召喚!」

 

 そのカードが伏せられている事は知っていたし、このタイミングで発動される事もある程度予想していた。さっきのターンに除外されたのと同じ、アリアンナがまた守備表示でフィールドに現れる。

 

白銀の城の召使い アリアンナ

DEF2100 レベル4

 

「そして《白銀の迷宮城》の効果により、フィールドのカード1枚をさらに破壊できる。《メタファイズ・ディメンション》を破壊!」

 

 さっきはシャンデリアから雷が落ちたが、今度は壁際の暖炉から炎の弾が飛んできて、《メタファイズ・ディメンション》のカードを焼き払う。永続罠カードがフィールドで効果を発動した場合、効果処理時にフィールドになければ効果は適用されない。よって、迷宮姫も除外する事はできなかった。

 迷宮姫はこれ以上除外されるのを避けた。ケアの手段が少ないのかもしれない。兎に角これで、フリーチェーンの妨害を使わせる事ができた。

 

「アリアンナが特殊召喚した事で効果発動。私はデッキから《迷宮城の白銀姫(レディ・オブ・ザ・ラビュリンス)》を手札に加える!」

 

 ただし、アリアンナの効果は有効だ。手札に加えたカードも厄介である事も知っている。

 

 だが、そのカードが迷宮姫の手札に加わった瞬間に、妙な寒気に襲われた。

 

 それは、強力なカードを手札に加えさせてしまった、という恐怖や後悔からくるものではない。

 

「……速攻魔法《サイクロン》発動! 俺が破壊するのは、左側に伏せられたカード!」

 

 その謎の感覚から逃げるように、今ドローしたカードを発動する。そしてここで破壊すべきは、さっきのターンに伏せられた《魔法の筒(マジック・シリンダー)》。あれがあるとこっちは攻撃も思うようにいかない。セットされたカードを竜巻が吹き飛ばした。

 

「よし、《メタファイズ・ラグナロク》召喚!」

 

 障害が消えたところで、さっきのターンに手札に加えた白竜を召喚する。

 

メタファイズ・ラグナロク

ATK1500 レベル4

 

「その効果で、デッキの上から3枚のカードを除外し、『メタファイズ』カード1枚につき300ポイント攻撃力をアップする!」

 

 デッキの上から3枚のカードを確認し、迷宮姫にも提示する。除外されるのは《メタファイズ・ネフティス》、《メタファイズ・デコイ・ドラゴン》、2枚目の《メタファイズ・ダイダロス》。3枚とも「メタファイズ」のため、ラグナロクの攻撃力は900ポイントアップする。

 

メタファイズ・ラグナロク

ATK1500→2400

 

「そしてライフを1000払い、魔法カード《運命のウラドラ》発動! ラグナロクの攻撃力を次の相手ターン終了時まで1000ポイントアップする!」

 

 ライフコストを要するカードのため、脚の力が僅かに抜けるが、すぐに姿勢をもとに戻す。

 

バトレアス LP4000→3000

 

メタファイズ・ラグナロク

ATK2400→3400

 

「バトル! ラグナロクで《白銀の城のラビュリンス》を攻撃!」

 

 攻撃宣言すると、ラグナロクが一気に迷宮姫に肉薄し、白い光線を口から放つ。フィールドの迷宮姫はその光に飲まれて消滅し、連動して《闇次元の解放》も破壊された。

 

「《冥王結界波》を発動したターン、相手が受ける全てのダメージは0になる。だが、《運命のウラドラ》の対象になったモンスターが、相手モンスターをバトルで破壊した事で効果が発動! 俺のデッキの一番下のカードを確認する!」

 

 直後、俺の後ろに巨大な銅鑼が出現すると、どことなく中華風に「ゴワ~ン」と銅鑼の音が鳴り響く。

 ここで確認するカードがドラゴン族・恐竜族・海竜族・幻竜族のいずれかでなければ、ただ確認するだけで何も起きない。そうなると、次のターンへの備えがほぼなくなるため、できればそれらのカードがあってほしい。

 祈りつつ、一番下のカードを抜き取って確認した。

 

「カードは、《メタファイズ・タイラント・ドラゴン》。攻撃力2900の幻竜族」

「ふむ」

「幻竜族モンスターだったため、俺はこのカードをデッキの一番下に戻す。そして、確認したモンスターの攻撃力1000ポイントにつき1枚ドローし、さらに引いた数×1000ポイントのライフを回復!」

 

 幸い、このデッキでは2番目に高い攻撃力を持つ幻竜族だった。おかげで、失ったライフと手札を補充できる。

 

バトレアス LP3000→5000

 

 引いたカードの1枚は、面白そうという理由で入れたカードだった。今の迷宮姫相手に使うのは怖いが、かといって《冥王結界波》の効果はこのターンで終わる。何もしないと、次のターンで負ける確率が上がるだけだ。

 

「装備魔法《夢迷(ゆめ)(まくら)パラソムニア》を《白銀の城の魔神像》に装備!」

 

 カードを発動すると、色を失っている魔神像の肩に、獏のような黒いぬいぐるみがちょこんと現れる。それを見て、迷宮姫は俺の方に疑問の目を向けた。

 

「何のつもり?」

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。そしてこのエンドフェイズにパラソムニアの効果が発動し、装備モンスターを破壊する!」

「ッ……!」

 

 パラソムニアの身体が白く光ったかと思うと、魔神像がまるで眠るように突然バランスを崩して床に倒れ、やがて消滅した。

 

「さらに、パラソムニアを装備していたモンスターと同じ攻撃力・属性・種族を持つ『パラソムニアトークン』を俺のフィールドに特殊召喚し、この《夢迷枕パラソムニア》を装備する」

 

 魔神像の肩に載っていた獏のぬいぐるみが、ぴょこぴょこと俺の下へやってくる。そして迷宮姫の方に向き直ると、その姿が徐々に大きくなっていき、さっき破壊された魔神像と同じぐらいの大きさになった。

 

パラソムニアトークン

ATK2000 レベル1

 

 このデッキでの除去札は、「メタファイズ」の他に《サンダー・ボルト》なども入れている。ただ、「メタファイズ」は大体何らかのトリガーを条件に発動するものが多い。だから、時間がかかるとは言え相手モンスターを破壊し、なおかつトークンを生み出せるこの装備魔法は貴重だ。

 しかし、その時。

 

「……っ」

 

 さっき感じたような、威圧感が肌に伝わってくる。ピリピリと、痛みさえ感じるほどの強さだ。

 

「これ以上……」

 

 唸るような低い声を、迷宮姫が零した。

 そして次の瞬間。

 

「私の仲間を、傷つけるなァああああああああああああああッ!!!」

「!?」

 

 怒号を発しながら俺に向けたその顔は、今まで見た事もない、鬼のような形相だった。

 

「私が『ラビュリンス』の効果を発動したターン、手札の《迷宮城の白銀姫》の効果発動! このカードを特殊召喚する!」

 

 そんな迷宮姫がフィールドに出したカードは、さっきも異変を感じた、しかし【ラビュリンス】において真のエースと言っても過言ではないモンスター。

 だがそのカードがフィールドに現れると、背筋が粟立ち、強いプレッシャーに襲われる。その感覚は、どこか覚えがあった。

 

「……え?」

 

 そして露わになった姿を見て、声が出た。

 【ラビュリンス】と戦った事がある身として、《迷宮城の白銀姫》のイラストはその効果と合わせて覚えていた。俺の記憶が正しければ、白のドレスと鎧を合わせた、二振りの剣を持つ姿だったはずだ。

 

「姫様、その格好は……」

 

 アリアーヌが、どうしてという気持ちを隠せない声を洩らした。

 今目の前に召喚された《迷宮城の白銀姫》の姿は、俺の記憶とは違う。《白銀の城のラビュリンス》と同じような白いドレスに身を包んでいるが、露出がそれよりもさらに抑えられ、鎧のようなパーツがない。その手に剣はなく、髪型もわずかに違い、表情は物憂げな様子。戦う意思さえ感じられない、本当に深窓の令嬢と評するに相応しい姿だった。

 

迷宮城の白銀姫

DEF2900 レベル8

 

 そして、城にも明らかな変化が起きた。

 天井のシャンデリアはジャラジャラと音を立てながら揺れ始め、明かりはさながら真昼の太陽のように輝きを増し、壁際の暖炉で燃える炎は爆竹の如く音を立てながら何度も爆ぜ、壁にかけられた時計の針は超回転を始めた。さらに、迷宮姫の後ろにあるガラス張りの壁に亀裂が入り始めている。その上、どこか窓や扉が開いているわけでもないのに、風が吹いた。

 

「アリアスさん、これは……?」

「私にも、どういうわけか……」

 

 デュエルを観ていたビューティアがアリアスに尋ねているが、やはり何がどうなっているのか分からないらしい。ドレミコードの面々は元より、ラビュリンス陣営のアリアーヌたちも困惑しているあたり、これはきっと《迷宮城の白銀姫》が召喚されればいつも起きる事、ではないようだ。

 そして俺は、さっきの感覚に覚えがある。

 冥界で戦った屍迷人の《No.96 ブラック・ミスト》を前にした時と同じだ。

 だとすると、この城や、迷宮姫の急激な変化は……。

 

「ドロー!!」

 

 そのカードを使った迷宮姫が威勢よく……言い換えれば乱暴にドローした。

 しかし、スタンバイフェイズになれば俺のカードの効果が使える。

 

「前のターンに除外されたネフティス、ダイダロス、デコイ・ドラゴンの効果発動! デコイ・ドラゴンは除外された次のターンのスタンバイフェイズに特殊召喚できる!」

 

 淡い青色の小柄なドラゴンが、ラグナロクの隣に出現する。その身体は他の「メタファイズ」と同様わずかに透けていた。

 

メタファイズ・デコイ・ドラゴン

DEF200 レベル2

 

「ダイダロスの効果で、このカードをデッキに戻し、デッキから別の『メタファイズ』カードを除外する。俺は通常罠《メタファイズ・アセンション》を除外。そしてネフティスもデッキに戻し、《メタファイズ・エグゼキューター》を手札に加える。さらに、除外された《メタファイズ・アセンション》の効果を発動! デッキから《メタファイズ・ネフティス》を手札に加える」

「鬱陶しい……すぐ黙らせてやる!」

 

 今はまだ迷宮姫のスタンバイフェイズ。「メタファイズ」は効果の性質上、相手ターンに動く事もかなり多い。それに申し訳なさを感じない事もないが、殺意まで向けられるのは勘弁願いたい。

 いや、恐らく今の迷宮姫は、正気を失っている。

 

「《強欲で金満な壺》発動! エクストラデッキのカード6枚をランダムに除外し、2枚ドロー!」

 

 【ラビュリンス】の構築には、エクストラデッキに頼らないパターンもある。そのカードを使うのはおかしくなかった。

 そしてまた、乱暴にカードを引いた迷宮姫は。

 

「《白銀の迷宮城》発動!」

「同じフィールド魔法……?」

 

 既に発動しているフィールド魔法を墓地へ送り、まったく同じカードを発動する。デュエルを観ていたエリーティアも疑問を呈していた。

 

「さらに速攻魔法《ラビュリンス・セッティング》発動!」

「なるほど、そのために」

「墓地及び除外されている『ラビュリンス』の魔法・罠カード2枚をデッキに戻す! そして、私の場に悪魔族モンスターがいれば、戻した数だけ『ラビュリンス』以外の通常罠をデッキからセットできる! 私は墓地の迷宮城と《ウェルカム・ラビュリンス》をデッキに戻し、デッキから《トラップホリック》と《強制脱出装置》をセット!」

 

 その効果で伏せられた通常罠カードの内、《強制脱出装置》は知っている。フィールドのモンスター1体を手札に戻す厄介なカードだ。

 だが、もう1枚のカードは俺の中に情報がない。一瞬見えたイラストには、「ラビュリンス」の皆が城の模型のようなものを作っている風景が描かれていたが、すぐにシャッフルされてフィールドにセットされてしまう。

 

「そして魔法カード《サンダー・ボルト》発動! ()()のフィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

 さらに発動する、古き良き強力な全体除去札。そのカードから稲妻が迸り、俺のフィールドにいる3体のモンスターを根こそぎ焼き焦がしてしまう。伏せカードをこのタイミングで使えば被害を抑えられるが、《迷宮城の白銀姫》の効果を考えてやめておく。唯一ペンデュラムモンスターのデコイ・ドラゴンは破壊されてエクストラデッキに行くが、このデッキではペンデュラム召喚や再利用の手段がない。完全な死に札と化した。

 

「アリアンナと《迷宮城の白銀姫》を攻撃表示に変更!」

 

白銀の城の召使い アリアンナ

DEF2100→ATK1600

 

迷宮城の白銀姫

DEF2900→ATK3000

 

「バトル! まずはアリアンナでダイレクトアタック!」

 

 俺に残った伏せカードは、特に攻撃を無効にできるわけでもない。発動する意味がないから攻撃は受けるしかなかった。

 アリアンナが、緑に輝く鍵のようなアイテムを俺に向かって放つ。反射的に腕で顔を守るが、二の腕や脇腹に熱い感覚が走った。

 目を開けて、それを感じた個所を見ると、スーツが破けている。しかも、その下にあるシャツには赤い液体が滲んでいた。攻撃が実体化し、俺自身が傷を負ったと認識するのと同時に、熱と痛みを感じる。

 

バトレアス LP5000→3400

 

「《迷宮城の白銀姫》でダイレクトアタック! ラビュリンス・インビテーション!!」

 

 様子がおかしい《迷宮城の白銀姫》が、表情を変えずすいっと腕を前に構える。

 すると、その目の前に女性を象った石像が3体出現した。それぞれが両手を奇妙な形で構えると、ピンク、緑、青の光線を掌から放ち、ひとつのエネルギー砲として俺に迫ってくる。

 喰らうとまずいと分かっていても、止めようがなかった。

 

「――――――ッ!!」

 

バトレアス LP3400→400

 

 声を出せないほどの威力。そのエネルギーに押され、手札を手離してしまい、壁に激突する。その壁をもぶち破って外へ……とはならなかったが、厚い壁に背中と後頭部を強く打ち、目の前で星が瞬く。

 

「ぐっ……」

 

 そして床に倒れこむ。受け身なんて取る余裕もない。

 しかも、身体の中から何かが込み上がってきた。

 

「……うっ、げぼっ……! ごふっ……」

 

 それを抑えきれず、口の中に鉄の味が一気に広がって、変な咳と一緒に口から洩れ出る。

 大理石の床と絨毯を赤く汚してしまったそれは、他でもない俺がたった今吐き出した血だ。

 

「いやっ! いやぁ……!」

 

 ドリーミアの声が、悲しそうな声が聞こえた気がする。

 だが、その声につられてそちらを見てしまったのは、完全にミスだ。おかげで、俺が口から血を流している姿をドレミコードたち全員に見られてしまう。キューティアとエリーティアは口元を押さえ、ドリーミアは傍にいるビューティアに抱き着く。そのビューティアも困惑しているし、グレーシアとエンジェリアは目を伏せている。ファンシアの表情は恐怖そのものだった。

 

「バトレアス――」

「動くな!」

 

 唯一、クーリアだけは俺の下へ駆け寄ろうとしたが、それを咎めたのは迷宮姫だった。

 

「ディスクは動いてる。つまりそいつはまだ戦えるって事、デュエルは終わっていないわ」

「あなた、何を――」

「さあ、立て!」

 

 俺を見る迷宮姫は、言葉に怒りや憎しみを原動力とした熱が籠り、表情は冷酷そのものだ。以前の角が取れたひょうきんな印象は、まったくない。

 そしてデュエルが終わっていないのも確かだ。デュエルディスクはまだ稼働しているため、クルヌギアスの時と同様、俺はまだ戦える事を示している。

 

「私の仲間を傷つけた罰は、こんなもんじゃ済まさないわ。立って、戦って、抗いなさい! そして完膚なきまでに、叩き潰してやる……!」

「姫様もうやめて!」

 

 敵愾心を露わにする迷宮姫に向けて、ついにアリアーヌが叫んだ。

 迷宮姫が視線だけそちらに向けると、アリアーヌが一歩前に出る。

 

「姫様、おかしいよ……どうしちゃったの……? こんな、デュエルで人を傷つけるなんていつもの姫様じゃないよ!」

「姫様、なんというか……怖い。何があったの……?」

 

 アリアーヌが涙目になって訴えかけ、アリアンナも眉を八の字にして尋ねている。迷宮姫と過ごした時間は、彼女の方が長いだろう。それ故、今の迷宮姫の様子が違うとすぐにわかるし、何よりも受け入れられない。それはアリアスも同じらしく、真剣なまなざしで迷宮姫を見ている。まだ日が浅い斬リ番は、何かを思案しているかのように腕を組んでいた。

 だが、迷宮姫は2人の言葉を受けて。

 

「大丈夫、心配しないで」

 

 子供のような、純真無垢な笑顔をそちらに向けた。俺に対するものとは全く違う、背景に花畑があってもおかしくはないその表情に、恐怖を感じたのは俺だけではないだろう。

 

「私が、皆を守ってあげるから」

 

 その上、答えはいまいち噛み合っていない。多分、その答えを聞いて安心する人など、今この場には誰一人としていないはずだ。

 そして迷宮姫は、俺を再び見ると、笑顔をひっこめて憎しみ100パーセントの目に変わる。

 

「私はこれでターンエンド。さあ、お前のターンだ」

 

 促され、俺はどうにか膝に力を無理やり入れて立ち上がる。そして、さっき落としてしまった手札を回収し、口元についた血を袖で拭う。半乾きのそれは袖口に赤い汚れをつけてしまったが、気にしていられない。

 

「俺の……ターン……!」

 

 さっきの攻撃で体力はごっそり削られたし、気力も大分持っていかれた。これはデュエルに負けたら、無限バージェストマ地獄に落ちるどころか、本当に死んでしまうんじゃないだろうか。

 いかに俺が人間からドレミコードに変わり、身体の調子がいい時間が多くなったとは言え、強度は人間と全く変わらないらしい。また一つ、この身体の事を知れた。

 そんな事より、今はデュエルだ。

 

「罠カード《幽麗なる幻瀧》発動……。手札またはフィールドから、幻竜族を任意の数だけ墓地へ送り……その数より1枚多くドローする……」

「《迷宮城の白銀姫》の効果発動! 通常罠カードが発動した時、それとは別の通常罠1枚をデッキからセットできる。私が選ぶのは《ウェルカム・ラビュリンス》!」

 

 見た目の変化はともかく、《迷宮城の白銀姫》の効果は非常に厄介だ。今のように通常罠カードが発動したら即座に別の通常罠をデッキから直接セットできるし、裏側表示カードがある限り効果では破壊できず、俺はあのモンスターを効果対象にできない。その上守備力2900、攻撃力3000と、まさに罠カードを駆使する【ラビュリンス】の切り札と言って差し支えない。

 

「俺は手札の《メタファイズ・ネフティス》と、《メタファイズ・タイラント・ドラゴン》を墓地へ送って、3枚ドロー……」

 

 この効果があれば、さっきの迷宮姫の《サンダー・ボルト》にチェーンして発動し、ラグナロクも一緒に墓地へ送って3枚ドローできた。しかしそれをしたら、《迷宮城の白銀姫》の効果で罠カードを伏せられ、このターンに何かしら動かれていただろう。だから敢えて、それをしなかった。

 そして、新たに引いた3枚を見て、血の混じった唾を飲み込む。勝ち筋は不安定だが、全ては迷宮姫次第だ。

 

「魔法カード《撲滅の使徒》発動……! 相手の魔法&罠ゾーンにセットされたカード1枚を破壊し、ゲームから除外する。俺が選ぶのは、一番左に伏せられたカードだ……!」

 

 狙うは《強制脱出装置》。あのカードへの耐性は、こちらの「切り札」に無い。だから、これで破壊できるかどうかが鍵となる。

 指さしたカードが表向きになり、玉座の強い光に照らされたそれは……まさに《強制脱出装置》。ビンゴを当てた事で、身体に蓄積しているダメージを意識の外に追いやれた。

 

「罠カードを破壊した事で、さらに互いのデッキを確認し、同名カードを全て除外する!」

「小賢しいわね……」

 

 忌々しそうに歯ぎしりをする迷宮姫。例の社長に限らず、デッキを見られるのは屈辱らしい。

 デュエルディスクのディスプレイに、迷宮姫のデッキ内容が表示された。案の定、デッキの大半が罠カードで構築されている。しかし《強制脱出装置》はあの除外された1枚だけのようだ。

 そして、モンスターはほぼすべて「ラビュリンス」。何かのテーマと混ぜている感じではない。さっきのターンに見たガイウスは、種族・属性のシナジー、あるいは効果の有用性を鑑みて入れたのかもしれない。適度に思考を切り上げて、「OK」をタップする。

 《撲滅の使徒》でデッキを確認したのは迷宮姫も同じ。こちらの動きに加え、デッキの中身が知られた以上、もう長くは持たない。このターンで勝負を決めなければ。

 

「フィールド魔法《メタファイズ・ファクター》発動!」

 

 そのカードを発動した瞬間、玉座の間が一転して闇夜に変わる。ヴァーディクトの使ったカードとは違い、星のような小さな輝きが至るところで斑に瞬き、宇宙のど真ん中にでもいるような景色。迷宮姫の王座である椅子や、天井のシャンデリアの形を認識できる程度の明るさだ。

 

「罠カード《トラップホリック》発動! 私の場の他の魔法・罠カード1枚を破壊して、このカード以外の通常罠カード1枚をデッキからセットする。私は《ウェルカム・ラビュリンス》を破壊し、《ビッグウェルカム・ラビュリンス》をデッキからセット!」

 

 そこで迷宮姫が伏せていた1枚を発動する。

 俺が知らないカードの正体は、罠カードの補充。そのカードに写っているのは、城の模型を作っている迷宮姫。今の本人とは違って、楽しそうな顔だ。

 ただ、さっきセットしたばかりの《ウェルカム・ラビュリンス》をもう破壊した。これが無意味なセットカードの交換とは思えない。

 

「教えてやるわ。《トラップホリック》でセットした《ビッグウェルカム・ラビュリンス》は、私の墓地に罠カードが3枚以上あれば、このターンに発動できるのよ!」

「!」

 

 確か、今迷宮姫の墓地に罠カードは5枚ほどあった筈だ。であれば、《ビッグウェルカム・ラビュリンス》は問題なく発動できる。

 しかも、《ウェルカム・ラビュリンス》は通常罠カードの効果でモンスターがフィールドを離れた場合、墓地から再セットできる効果がある。《ビッグウェルカム・ラビュリンス》でアリアンナ辺りをバウンスしつつ「ラビュリンス」を呼び寄せ、《白銀の迷宮城》の効果で除去も狙える。非常に上手いカード裁きだ。

 

「そして《白銀の迷宮城》の効果発動! 私が『ラビュリンス』以外の通常罠カードを発動した時、手札または墓地から悪魔族モンスター1体を特殊召喚できる! もう一度力を貸して、魔神像!」

 

 闇夜を裂くように魔法陣が空に現れ、その中からモノアイの甲冑が降り立つ。その眼力はさっきよりも強く見える。

 

白銀の城の魔神像

ATK2000→3600 レベル7

 

「その効果発動! デッキの《フェアーウェルカム・ラビュリンス》をセット!」

 

 これで、迷宮姫のフィールドは万全となった。何せ、魔神像はモンスターの攻撃を自身に誘導する効果がある。元の攻撃力が3600を超えるモンスターがこのデッキにはいないため、中々に厄介だ。

 しかし俺は、手札にあるモンスターを手にする。

 

「俺の墓地から、『メタファイズ』カード5種類を除外し……《メタファイズ・エグゼキューター》を特殊召喚……!」

 

 墓地から取り出されるのは《メタファイズ・ラグナロク》、《メタファイズ・タイラント・ドラゴン》、《メタファイズ・ネフティス》、《アシンメタファイズ》、《メタファイズ・ディメンション》。それらのカードが光の粒子へと変わり、フィールドの一点に集中する。

 それが光り輝き、やがて出現するのは6枚の金色の翼を生やす巨人。それも、右腕が白いドラゴン、下半身が大樹の根という、神々しくも禍々しい風貌のモンスターだった。

 

メタファイズ・エグゼキューター

ATK3000 レベル10

 

 闇夜に降り立つそのモンスターは、白い輝きを淡く放っている。それを見てドレミコードの皆は息を呑んでいるが、迷宮姫は興味なさげに見上げるだけだ。

 そして、伏せている《ビッグウェルカム・ラビュリンス》を発動する気配はない。まだエグゼキューターの効果は発動しておらず、攻撃力は魔神像に劣り、俺の手札は1枚残っている。動くには早いと思っているのだろう。

 

――立って、戦って、抗いなさい! そして完膚なきまでに、叩き潰してやる……!

 

 さっきの迷宮姫の俺に放ったセリフ。そこから察するに、多分迷宮姫は俺が打てる手を全て打ったところで、それを発動するつもりだ。そしてそれは、きっとバトルフェイズ直前かその最中。俺が巻き返せなくなるから。

 兎に角、このタイミングでエグゼキューターに対して罠を使わないなら、それでいい。

 

「エグゼキューターの効果発動! 俺のフィールドのカードの数が相手より少ない場合、除外されている『メタファイズ』1体を特殊召喚する!」

「! ならば、罠を――」

 

 エグゼキューターの効果を聞き、すぐさま伏せていたカードを発動しようとする迷宮姫。除外されているカードの中には、デッキに戻さなかったダイダロスがいる。その効果はさっきのターンに見ているから、自分のモンスターを全て除去される前に使おうとしたのだろう。

 だがもう遅い。

 

「《メタファイズ・ファクター》の効果で、『メタファイズ』モンスターの効果発動に対し、相手は効果を発動できない……!」

「な!?」

「よって、除外されているネフティスを特殊召喚!」

 

メタファイズ・ネフティス

ATK2400 レベル8

 

 伝説の鳳凰神が、限界を超えて高次の存在と成った姿。不死鳥とも評せる姿の白い幻竜の身体は、やはりどこか透き通って見える。

 そしてそれを呼び出したら、後はもう大丈夫だ。

 

「ネフティスが『メタファイズ』モンスターの効果で特殊召喚した事で、効果発動! フィールドにセットされた魔法・罠カードを、全て除外する!」

「っ!!」

 

 何度もサーチ効果を発動するだけでしかなかったネフティスが、翼を広げて高らかに鳴く。その瞬間、白い旋風がフィールドを覆いつくし、迷宮姫のフィールドにセットされた2枚の罠カードが闇夜の果てに消え去る。

 それを見届ける事しかできなかった迷宮姫は、こちらを睨んできた。

 

「魔法カード《かなり()(わく)受注水産(オーダーメイド)》発動! 姫様の墓地の《サンダー・ボルト》を除外!」

 

 最後に残った手札は、一風変わった通常魔法。そのカードが発動すると、メイド服を着たブロンドヘアーの少女が現れて、迷宮姫にウインクをひとつかます。すると、そのデュエルディスクの墓地から《サンダー・ボルト》のカードが吐き出され、虚無の渦に消えた。

 

「そして俺は、除外したカードと同じカード1枚を自分のデッキから手札に加えられる!」

「何ですって!?」

 

 ブロンドヘアーの少女が、今度は俺の方を向いて指をパチンと鳴らす。そこで、《サンダー・ボルト》のカードが俺のデッキから自動的にピックアップされた。

 単体で使っても、強力な墓地のカードを除外して相手の思惑を崩せる。あわよくば、広く使われる手札誘発や除去札などもサーチできるカードだ。このデッキにはそういったカードも一部入れている。

 

「この《サンダー・ボルト》を発動!」

 

 そして、手札に加えたカードをすぐに使う。カードから電光が迸り、迷宮姫のフィールドにいる3体のモンスターを貫いて、それらは姿を消した。迷宮姫のフィールドにはもうセットされたカードがないため、《迷宮城の白銀姫》も問題なく破壊できる。

 そして。

 

「貴ッ様ァアアアアアアアアアア!!!」

 

 案の定、自分のモンスターが破壊された事で激昂する迷宮姫。その身体を覆うようにオーラが漂い始めているが、もう勝つために躊躇はできない。

 

「バトルだ……! ネフティスでダイレクトアタック!」

 

 ネフティスが羽ばたくと、白い風が生み出されて迷宮姫に襲い掛かる。この状況でも、俺は攻撃をさりげなく避けさせてほしいと願った。その願い通りに、迷宮姫を襲ったのは烈風ではなく、扇風機のような柔らかい風だ。

 

迷宮姫 LP4000→1600

 

「このっ……!」

 

 風を浴びた迷宮姫の表情から、ほんの少しだけ怒りの色が薄まった。

 そんな迷宮姫に対して、罪悪感を抱きつつもさらにエグゼキューターを見上げる。

 

「エグゼキューターで、ダイレクトアタック! アセンショナリー・レイン!!」

 

 エグゼキューターの右腕の竜が天を仰ぐと、その口が開き、水のように透き通る光線を放つ。それは闇夜の中で弾けると、月のように穏やかで優しい輝きを放った。

 

「……あぁ」

 

 それを見上げた迷宮姫は、先ほどとは打って変わって静かな声を洩らす。

 やがて、月のように輝く光が、千本のような光の雨を降らせると。

 

「うああああああああ……」

 

 それを浴びた迷宮姫は、声を上げて泣きだした。

 

迷宮姫 LP1600→0

 

 勝敗がつき、俺のフィールドの2体の幻竜が姿を消す。

 闇夜の景色も消え、先ほどまでいた玉座の間に戻る。けれど、明かりは先ほどよりも暗くなり、暴走状態にあった家具たちも大人しくなっていた。

 そして迷宮姫は。

 

「姫様、しっかり!」

 

 玉座の傍で、膝から崩れ落ちたところだ。

 その姿を認識して、俺も意識がすっと薄まるのを感じ、床に倒れこんだ。

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