予めご了承くださいませ。
その願いそのものは、別にこの精霊界ではおかしくない。
だが、何故このタイミングで、というのが俺には全く分からない。
「……急に、どうされたんですか?」
聞き返さざるを得なかった。
俺が今日の「依頼」で怪我でもしないかと不安だったから、さっきの行動に出たのは想像がつく。
だからこそ、今ここでデュエルを挑まれるのかが謎だ。
そしてクーリアは、決してふざけているわけではないらしく、俺の顔を見て真剣に告げる。
「あなたを、危険な目に遭わせたくないから」
「……?」
しかし、意図を聞いてもやはり理解ができない。それがなぜ、俺とデュエルをする事に繋がるのだろう。
クーリアは、俺の肩に手を置いてきた。
「あなたは、私たちのためを思って、自分から戦う事を選んでいるのだと、私は理解している。でも、それであなたが傷ついてしまうのは、私も耐え難い。この間だって……」
この間とは言うまでもなく、迷宮姫とのデュエルだろう。あれに関しては、ドレミコードを守るためと言うより、俺の疑いを晴らすためのものだったが。とはいえ、暴走状態にあった迷宮姫が、俺を負かした後でドレミコードに危害を加える可能性だってなきにしもあらずだったが、過ぎた話だ。
兎に角、あのデュエルで俺が実際に傷ついている様を見て、クーリアも思うところがあったらしい。
「あなたが傷つき弱る姿は、もう見たくはない。だから、デュエルをするのを辞めてほしい」
それは、あまりにも酷な願いだ。
この精霊界において、デュエルとは日常的に存在するものであり、転生した俺にとっては数少ない取り柄のひとつ。と言うより、皆の力になれる唯一のものと言っても過言ではない。
そのデュエルを、二度としないでほしいときた。
「それは、できません」
「そう答えると思ったの。だから、デュエルで決めたい」
そこでようやく、さっきの申し出と話がつながる。しかしながら、承服できる内容とは言い難かった。
ここでデュエルそのものを断るのは、簡単かもしれない。だが、今のクーリアからは余裕が感じられないように思う。
さらに俺は、クーリアの告白の返事を保留している身でもある。それが余計、クーリアの不安を煽ってしまいこうなってしまったと考えると、無下にもできない。そして、その告白の返事をする場合でもない。
「……分かりました」
だから、デュエルの後……最善は勝ってから、今の気持ちを正直に伝える。
それを胸に、クーリアの申し出に頷くと、クーリアは微笑んでくれた。
◆
【ヒロイック】を使うか悩んだが、今回は【ドレミコード】を使う事にした。
皆の前でデュエルをした回数が少なく、戦略もまだ全部は披露していない【ヒロイック】の方が、クーリアの隙を突ける可能性は高いだろう。
けれどなぜか、今回は【ドレミコード】を使うべきという直感が働き、そのデッキをデュエルディスクにセットする。
そしてよく考えたら、クーリアとデュエルをするのはこれが初めてだ。
以前、クーリアがグランドレミコードに相応しい存在となるために、デュエルの腕を磨くのであれば俺が相手になると言ったものの、その機会は今までなかった。だから、初めて戦う事に少なからず楽しみと感じているのも事実。負けたらデュエルができなくなる、と言う点は無視できないが。
「さあ、行くわよバトレアス」
「はい」
デュエルをするのは、キューティアとも戦った玄関の前。エンジェリアはこちらに気づいていないのか、来る気配がない。ただ、何を賭けてこのデュエルをするのかを考えれば、見せるのも忍びないので、わざわざ呼ぶ必要もあるまい。
クーリアと相対し、あちらがデュエルディスクを展開するのに合わせ、俺もデュエルディスクを起動させる。
そして深呼吸を挟み、クーリアを見据えた。
「「デュエル!」」
バトレアス LP4000
VS
クーリア LP4000
デュエルディスクが先攻を示す。ただし、最初の5枚はこのデッキでも少し微妙なものだった。少しばかり難しい戦いになってしまう。
そして、手札にある1枚のカードには違和感があった。
「俺の先攻。俺は《ファドレミコード・ファンシア》を召喚!」
だが、まず召喚するのは、赤をベースにした服と黄色い髪が目立つ勝気なファンシア。アコーディオンを手にする妖精体が傍らに漂う。
ファドレミコード・ファンシア
ATK1600 レベル4
「ファンシアの効果発動。1ターンに1度、デッキから自身以外の『ドレミコード』を1体エクストラデッキに表向きで加える。俺は《ソドレミコード・グレーシア》を加える」
デュエルディスクを操作して、グレーシアのカードを取り出してエクストラデッキに加える。だが、何ターンもそこに温存するつもりはない。
「そして、スケール1の《ドドレミコード・クーリア》と、スケール6の《ミドレミコード・エリーティア》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
ペンデュラムゾーンに置くのは、ドレミコードでも真面目で読書好きな勉強家・エリーティアと、今まさにデュエルをしている相手のクーリアだ。
(クーリア……)
そして今フィールドに出したクーリアのカードだが、イラストが違っていた。
元々、俺がこの精霊界に来てから、「ドレミコード」モンスターのイラストは前世と少し変わった。主に、皆がカードの使用者……つまり俺に対して笑ったり、安心させるような表情を浮かべていたのだ。現に、フィールドに出したファンシアのカードは、白い歯を見せて強気に笑い、エリーティアも嫋やかな笑顔を向けている。
しかし、フィールドに出した《ドドレミコード・クーリア》のカード。こちらに向けて腕を広げタクトを構えているのは同じだが、笑顔がない。よく言えばきりっと、悪く言えば静かに怒っているような顔をしている。
なぜ、と思うが、俺が告白の返事を先送りにしているからだろう。そして今、俺に対して不安な気持ちを明確に表している。ここまで変化が生じるようであれば、一刻も早くそれらについて対処しなければ。
「これで、レベル2から5のモンスターが同時に召喚可能。よってペンデュラム召喚! エクストラデッキより、《ソドレミコード・グレーシア》!」
空に開いた穴から降り立つ、紫色を基調としたドレスを着るグレーシア。傍らに漂う妖精体が、サックスを軽快に奏でる。
ソドレミコード・グレーシア
ATK2100 レベル5
「グレーシアを特殊召喚した事で効果発動。デッキから『ドレミコード』の魔法・罠カード1枚を手札に加える。俺は《ドレミコード・ムジカ》を手札に。そしてカードを2枚伏せて、ターンエンド」
精霊界でのデュエルはいつもそうだが、このデュエルも負けるわけにはいかない。だから慎重を期して伏せカードを仕掛ける。
とはいえ、クーリアの使うデッキについて思うと、俺も少し気がかりな事があった。
「私のターン、ドロー!」
その心配は、何割的中するだろうか。
不安を胸に、クーリアのターンに挑む。
「魔法カード《ナイト・ショット》発動。相手の場にセットされた魔法・罠カードを1枚破壊する。この時あなたは、そのカードを発動できない。私が破壊するのは左側のカード!」
クーリアが指さしたカードに向けて、発動した魔法カードがフラッシュを焚く。それを受けて……《ドレミコード・ムジカ》は破壊されてしまった。あれが仮に《サイクロン》などだったとしても、この状況では発動できても意味がない。そして、クーリアのこの後の展開を妨害する事もできなくなった。実に痛い。
「《ドドレミコード・キューティア》を召喚!」
さらにクーリアは別のカードを切って見せる。それは「ドレミコード」最年少ながらも次代のリーダーと期待される、頑張り屋のキューティア。妖精体が奏でるハーモニカが、場の空気を明るくした。
ドドレミコード・キューティア
ATK100 レベル1
「キューティアを召喚した事で効果発動! デッキから自身以外の『ドレミコード』を1体手札に加える事ができる――」
「キューティアを対象に、速攻魔法《禁じられた聖杯》発動! このターン、キューティアの攻撃力を400ポイントアップする代わりに、その効果を無効にする!」
クーリアにもキューティアにも悪いと思いつつ、伏せていたカードを発動する。そのカードが白く淡い輝きを放つと、キューティアはしょんぼりとした表情になってしまった。
ドドレミコード・キューティア
ATK100→500
クーリアのデッキは、俺とは多少構築が違うだろうが【ドレミコード】。このキューティアの効果で別の「ドレミコード」を手札に加えさせると、必ずと言っていいほど展開されるモンスターの数が広がる。何より、使っている俺自身がよく知っているが、組み合わせ次第で【ドレミコード】の攻撃は止められなくなり、一気に勝負をつける事も可能になる。それを避けるためにも、キューティアのサーチ効果は使わせるべきではない。
精霊界では初めてとなる、同じデッキ同士のミラーマッチ。だから、俺が考えている事などクーリアもお見通しだろう。はっきり言って、このデュエルは本当に行方が分からない。
「魔法カード《ドレミコード・エレガンス》発動。その2つ目の効果で、手札の《ラドレミコード・エンジェリア》をエクストラデッキに加え、デッキのスケール2の《シドレミコード・ビューティア》と、スケール7の《レドレミコード・ドリーミア》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
案の定、クーリアが握っていたのは容易くペンデュラム召喚の準備ができるカード。そしてエクストラデッキにエンジェリアを加えたという事は、キューティアの効果でグレーシアを手札に加えるつもりだっただろう。
クーリアのフィールドに2つの光の柱が現れる。その中にいるのは、いつも笑顔を絶やさず皆を見守るビューティアと、気が強くも仲間思いなドリーミアだ。
「ペンデュラム召喚! エクストラデッキより現れなさい、《ラドレミコード・エンジェリア》!!」
クーリアも手札から召喚できるモンスターが他にいなかったのか、呼び出したのはエクストラデッキからの1体だけ。お喋りで人を揶揄うのが好きなお転婆少女・エンジェリアだ。にこにこと妖精体が隣でトランペットを吹いている。
ラドレミコード・エンジェリア
ATK2300 レベル6
「バトルよ。エンジェリアでファンシアを攻撃! エンジェリック・マーチ!!」
クーリアの指示を受けて、エンジェリアがタクトを振ると、妖精体がトランペットを力いっぱい吹く。トランペットのベルの部分から放たれたオレンジ色の光線が、ファンシアを飲み込み破壊した。
「くっ……!」
バトレアス LP4000→3300
その時、嫌な熱を感じる。エンジェリアは炎属性だから、攻撃に熱を帯びていてもおかしくない。が、服を見ると袖口が僅かに焦げていた。少しでも軌道が俺に向いていたら、火だるまになっていたのではなかろうか。
そんな不安が頭を過るほどに、今の攻撃には手心がなかった。
「メインフェイズ2でエンジェリアの効果を発動。スケール8のキューティアをリリースし、スケールの差が2つ……つまり、スケール6の《ミドレミコード・エリーティア》を、デッキから守備表示で特殊召喚!」
エンジェリアがタクトを向けると、キューティアはスカートを少し摘まんでお辞儀をし、姿を消す。それと入れ替わるように、今も俺のペンデュラムゾーンにいるのと同じエリーティアがフィールドに現れた。ただしこちらは、コントラバスを傍らに置いた妖精体もいる。
ミドレミコード・エリーティア
DEF400 レベル3
エリーティアの効果は、召喚・特殊召喚時の相手の魔法・罠カード1枚のバウンス。だがそれを使ってくる気配はなかった。俺のペンデュラムスケールがいまひとつなのを理解して、あえて残したのだろう。
「そして永続魔法《攻通規制》を発動。このカードがフィールドにある限り、あなたはモンスターを3体以上コントロールしていると攻撃宣言できなくなるわ」
「む……」
地味に刺さるカードを使われた。このデッキのミソである、グレーシアとエンジェリアを揃えて一気に攻め込む戦いが簡単にできなくなる。また、ペンデュラム召喚でモンスターを多数並べて《団結の力》で打点を上げて一撃必殺、というのも難しい。
「カードを1枚伏せてターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを見て、気が引き締まる。
それは《ファインドレミコード・バトリア》。ドレミコードの皆が窮地に陥った際、俺が自分を犠牲にしてでも皆を助けたいと願い、宿った力の証だ。そしてこのカードを手にした時、人間だった俺はその代償として死ぬ間際まで衰弱した。
――あなたが傷つき弱る姿は、もう見たくはない
デュエルの前にクーリアから言われた言葉を思い出す。
言うなら、このカードもクーリアの不安をより強くさせるカードだろう。それをこのタイミングで引いてしまうとは。
そして今、このカードの性能は十分に活かす事ができない。クーリアのフィールドや、もう1枚の俺の手札を考えると、及第点の展開しかできなさそうだ。
「《ファインドレミコード・バトリア》を召喚!」
「……っ」
効果は活かせなくても、このカードを使わなければ次の展開につなげられない。だからやむを得ず、そのモンスターを召喚する。黒い燕尾服を着る、黒いショートヘアのバトリアを見て、クーリアの表情が僅かに翳った。やはり思うところがあるらしい。
ファインドレミコード・バトリア
ATK 0 レベル1
「現れろ、清らかな旋律のサーキット!」
確かに今は効果が使えないが、別の形で利用はできる。だから、そのためにリンクサーキットを開いた。
「召喚条件はペンデュラムモンスター2体。グレーシアとバトリアをリンクマーカーにセット!」
開いたサーキットを指さすと、2体のモンスターがリンクサーキットに五線譜の軌跡を描きながら飛び込む。
「リンク召喚! 現れろ、リンク2! 優雅にして偉大なる音階の天使、《グランドレミコード・ミューゼシア!!》」
チョコレート色のドレスに、ベリー色のボブカット、さらにその頭上には金のフレームが浮かんでいる。腰から黄金色の翼を生やすミューゼシアは、フィールドに降り立つと静かに笑った。
□□□ グランドレミコード・ミューゼシア
□◆□ ATK1900
■□■ リンク2
「そして、セッティング済みのペンデュラムスケールを使い、ペンデュラム召喚! エクストラデッキからもう一度頼む、《ファドレミコード・ファンシア》!《ソドレミコード・グレーシア》!」
ファドレミコード・ファンシア
ATK1600 レベル4
ソドレミコード・グレーシア
ATK2100 レベル5
「ペンデュラム召喚が成功した事で、ミューゼシア、グレーシアの効果を発動! グレーシアの効果で、デッキから《ドレミコード・ハルモニア》を手札に加える。さらにミューゼシアの効果で、ペンデュラム召喚したグレーシアのスケールの数と同じ、レベル4のファンシアをもう1体デッキから手札に加える!」
手札に加えた2枚のカードを互いに確認してから、俺はそのうちの1枚を手にする。
「フィールド魔法《ドレミコード・ハルモニア》発動!」
【ドレミコード】の肝と言えるフィールド。それが展開すると、ドレミ界の空を五線譜や音楽記号が彩った。
「ハルモニアの2つ目の効果! ターンの終わりまで、ペンデュラムゾーンのエリーティアのスケールを、そのレベル3つ分だけ上げる!」
ミドレミコード・エリーティア
スケール∶6→9
「これで俺のフィールドの『ドレミコード』のスケールは奇数が3種類。よって、ハルモニアの3つ目の効果を発動! 俺はエンジェリアを破壊する!」
《攻通規制》を破壊するか悩んだが、モンスターの数は調整できるし、ダメージを多く通すために打点が高いエンジェリアを先に破壊すべきだ。
指定すると、五線譜から雷が落ち、一瞬でクーリアのフィールドのエンジェリアを消失させる。クーリアにとっては現実・デュエルでも仲間であるモンスターを破壊するのは、とても心苦しかった。
「ファンシアの効果発動! デッキのドリーミアをエクストラデッキに加える。そして再び現れろ、清らかな旋律のサーキット!」
再び開くリンクサーキット。
呼び出すモンスターは決めているが、素材はどうすべきか少しだけ悩む。けれど、今の状況を考えると。
「召喚条件はペンデュラムモンスターを含むモンスター2体以上。ファンシアとリンク2のミューゼシアをリンクマーカーにセット!」
ミューゼシアの姿が2つに増え、ファンシアと共にリンクサーキットへと飛び込む。そして、リンクサーキットが光を放った。
「リンク召喚! 出でよ、リンク3! 流麗にして偉大なる音階の大天使、《グランドレミコード・クーリア》!!」
やがて光を纏いながら現れる、もうひとりのグランドレミコード。チョコレート色のチューブドレスに金色の翼を得たクーリアは、舞を踊るかのように腕を広げてフィールドに降り立った。傍らには、同じくチョコレート色の袖の長いドレスを着る妖精体が、ふわふわと浮かんでいる。
□□□ グランドレミコード・クーリア
□◆□ ATK2700
■■■ リンク3
だが、フィールドに出した《グランドレミコード・クーリア》のカード。そのイラストも、構図自体は以前と変わらないが、その顔から笑顔は消えていた。
その変化に、一層の申し訳なさがこみ上げてくる。
そして、そうさせるほどにクーリアに悪い思いをさせてしまった事を、なんとしても謝らなければならない。
「《グランドレミコード・クーリア》の攻撃力は、俺のエクストラデッキで表側のペンデュラムモンスター1体につき100ポイントアップする。今エクストラデッキにいるのはバトリア、ファンシア、ドリーミアの3体。よって、300ポイント攻撃力がアップする!」
グランドレミコード・クーリア
ATK2700→3000
「バトル! グレーシアでエリーティアを攻撃! グレースフル・ノクターン!!」
俺のフィールドのモンスターは2体。《攻通規制》には引っかからない。
グレーシアがタクトを振ると、妖精体がサックスを奏で始める。しっとりとした音とともに、サックスのベルから青い波動が生み出され、エリーティアの身体を叩き破壊する。
攻撃時の魔法・罠カードの発動を禁止するエンジェリアがいない上、ペンデュラムゾーンには偶数のスケールがないから、グレーシアの効果でモンスター効果も止められない。
だから、クーリアの場に伏せられたカードや、残りの手札を警戒し、効果を無効にできる《グランドレミコード・クーリア》を呼び出した。けれどクーリアは、何かのカードを発動する気配はない。であれば、ここは攻めこむべきだ。
「続いて、《グランドレミコード・クーリア》でダイレクトアタック! グランド・アンサンブル!!」
《グランドレミコード・クーリア》が翼をはためかせ、さらにその妖精体とともにタクトを振ると、金色の粒子を纏った風が吹く。それは突風のような勢いではなく、穏やかな勢いでクーリアへと届いた。
「ぐっ……」
クーリア LP4000→1000
「……クーリア様」
デュエルだから、攻撃してライフを削らなければ勝てないのは分かっている。しかもこのデュエルで負けたらデュエルを辞める事になり、俺は木偶の坊同然。それは避けたいからこそ、攻撃してクーリアのライフを削るしかないのだ。
それでも、相手であるクーリアを攻撃するのは、とてもつらかった。
「それでいいのよ、バトレアス」
だが、クーリアは攻撃を受けてもなお微笑んでいる。
「あなたの気持ちはよく分かる。負けたくないのよね」
「……」
「それなら、全力で来なさい。その上で、私が勝ってみせる。あなたが無理して戦わなくても、私に皆を守る力があるって証明するから」
優しく言い聞かせるような言葉で、心に重石を載せられたように錯覚する。
今のクーリアを見ていると、悲しくなってきてしまう。
「……魔法カード《ペンデュラム・ホルト》発動。エクストラデッキに3種類以上のペンデュラムモンスターが存在する場合、2枚ドローする」
だけど、このデュエルに負けられないのは変わらない。だから俺も、まずはクーリアの言う通りに勝利を目指して、最初の手札にあった貴重なドローソースを使う。発動した後はデッキからカードを手札に加えられないが、もうこのターンにその予定はないため関係ない。
引いたカードは、悪くはないものの、このターンに使う機会はもうないカードだ。よって、次のターンに備える事にする。
「ハルモニアの1つ目の効果を発動。エクストラデッキのバトリアを手札に加えて、ターンエンド。エリーティアのスケールは元に戻る」
グランドレミコード・クーリア
ATK3000→2900
ミドレミコード・エリーティア
スケール∶9→6
次のターンでペンデュラムゾーンの2枚を除去される可能性も考えられる。だからその時のために、手札に加えるのはバトリアにしておいた。
「私のターン、ドロー!」
そしてクーリアは、ドローしたカードを見て、わずかに目を見開く。それだけで、何か強力なカードを引き当てたのだと、俺も気づいた。
しかしクーリアは、それをすぐには使わずに、フィールドに伏せていたカードに視線を落とすと。
「罠カード《
発動したカードから矢が姿を見せ、《グランドレミコード・クーリア》に照準を合わせる。
だが、その効果を発動させるわけにはいかない。
「《グランドレミコード・クーリア》の効果発動! 1ターンに1度、相手の効果の発動を無効にし、ペンデュラムゾーンで奇数のスケールを持つ『ドレミコード』をリンク先に特殊召喚する!」
フィールドにいる《グランドレミコード・クーリア》が金色の翼をはためかせると、舞い散る金色の粒子が《巨神封じの矢》に纏わりつき、消失させる。
「流麗なる音階の天使!《ドドレミコード・クーリア》!!」
そして現状、ペンデュラムゾーンでスケールが奇数なのはクーリアのみ。よってクーリアを、《グランドレミコード・クーリア》の斜め右下のモンスターゾーンに特殊召喚した。光の柱から軽く跳んでフィールドに舞い降りたクーリアだが、こちらを振り返る事はない。
ドドレミコード・クーリア
ATK2700 レベル8
「そして俺は、《グランドレミコード・クーリア》の効果により、デッキのキューティアをエクストラデッキに加える」
グランドレミコード・クーリア
ATK2900→3000
しかし、さっきの《巨神封じの矢》。あれを使われると、《グランドレミコード・クーリア》が棒立ちになってしまうから無効にしたが、あれが何らかの布石のような気がしてならない。
さっきのターンにあの罠カードを使わなかったのは、使ったところで無効にされるた上、スケールが奇数になっていたエリーティアを呼ばれ《攻通規制》をバウンスされ負けると踏んでの事だろう。
そして今はクーリアのターン。この無効効果を使った事で、この先クーリアが何かしら強力なカードを使ってきたとしても対処できなくなる。
事実、《巨神封じの矢》を封じられてもクーリアは全く動じておらず、むしろ俺が思い通りに動いて嬉しいかのように笑っていた。やはり、さっきクーリアが通常のドローで引いたカードが、何か強力な効果を持っているのか――
「魔法カード《ドレミコード・クレッシェンド》発動!」
「!? それは……」
そのカードは、忘れるはずがない。
グランドレミコードの力を見極めるために、クーリアがミューゼシアとデュエルした時。窮地のクーリアを見て俺が彼女の勝利を強く願った結果、妖精体と力が合わさって発現したカードだ。
今俺の手札にあるバトリアと同じ、俺という転生したイレギュラーな存在がいる事で生まれた、クーリアだけの力。
「このカードは、私のペンデュラムゾーンの『ドレミコード』の数によって効果が決まる」
クーリアが一度、自分のフィールドに聳えるふたつの光の柱を見上げると。その中に佇むビューティアとドリーミアが頷いた。
「2枚の『ドレミコード』が存在するため、そのスケールでペンデュラム召喚可能なレベルを持つ『ドレミコード』を、デッキとエクストラデッキから1体ずつ手札に加える! よって、私はエクストラデッキのエンジェリアと、デッキのグレーシアを手札に!」
「!」
手札に加わったのは、「ドレミコード」に強固な力を与えてくれる、俺も何度も助けられた2体。やはり《巨神封じの矢》は、《ドレミコード・クレッシェンド》を安全に使うための囮だった。
そしてクーリアは、両手を広げて天を見上げる。
「我が麗しき同胞たちよ。守るべきもののため、清らかな旋律を三千世界に響かせよ! ペンデュラム召喚!」
高らかに口上を宣言すると、環状の五線譜の中心に穴が開き、中から3つの光の筋が降り注ぐ。その光の中から姿を見せた「ドレミコード」も、3人だ。
ミドレミコード・エリーティア
ATK1100 レベル3
ソドレミコード・グレーシア
ATK2100 レベル5
ラドレミコード・エンジェリア
ATK2300 レベル6
「そして、ペンデュラム召喚したグレーシアの効果で、デッキから《ドレミコード・ハルモニア》を手札に加える。さらに私も、このハルモニアを発動!」
サーチした同じフィールド魔法を早速使ってきた。フィールドの景色は、既に俺が同じフィールド魔法を発動しているため変わらないが、何を狙っているのかは分かる。
「ハルモニアの3つ目の効果発動! 私の場には偶数のスケールが3種類ある。よって、あなたの《ドドレミコード・クーリア》を破壊する!」
再び空の五線譜が光り輝き、雷を落とす。さっきと違い、今度は俺のフィールドのクーリアの脳天に直撃し、悲鳴と共に消滅してしまった。
状況的に仕方ないとはいえ、自分と全く同じモンスターを破壊させてしまうのは、申し訳なさを感じる。
「続いて1つ目の効果で、私はエクストラデッキのキューティアを手札に戻し、召喚!」
ドドレミコード・キューティア
ATK100 レベル1
「その効果で私はデッキから、《ドドレミコード・クーリア》を手札に加える!」
先程は俺が発動したカードの効果で、その効果をが使えなかったキューティア。その分を取り返しているつもりなのか、フィールドのキューティアは元気よくタクトを振り、その先をクーリアのデッキに向ける。先にハルモニアで《ドドレミコード・クーリア》を破壊したのは、その効果で破壊させないためだ。
そしてついに、クーリアは自分自身と同じカードを手にした事になる。
「……っ」
そのカードをクーリアが公開した瞬間、胸の中に妙な熱が浮かび上がる。そして、不意に背筋が凍えるような感覚がした。
「あなたも知っているでしょうけれど、このカードは私の場のペンデュラムモンスター2体をリリースする事で、手札から特殊召喚できる!」
「ここで来ますか……!」
「よって私は、キューティアとエリーティアをリリース!」
クーリアの声に合わせて、2人のドレミコードが恭しくお辞儀をし、白い光の粒となって消える。そして、その光の粒が集約し、緑の光が迸った。
「流麗なる我が写し身。秘めし想いを指揮に乗せ、幸あふれる奏を響かせよ!《ドドレミコード・クーリア》!!」
緑色の光の中から現れたのは、今まさにデュエルをしている相手と全く同じクーリア。
しかし、他のドレミコードと違って妖精体が傍におらず、しかもその表情は悲しそうな笑みだった。
ドドレミコード・クーリア
ATK2700 レベル8
「……!」
そのクーリアがフィールドに現れた直後。身体を押しつぶすようなプレッシャーに襲われる。
それだけではない。明らかな異常として、クーリアのデュエルディスクが奇妙な火花を散らし始めた。
さらに、ドレミ界の黄土色の土から、無数の木や草花が生え始め、屋敷の前を埋め尽くさんと伸び始める。ドレミ界にも植物はあるが、それらとは生態が全く違うものばかりだ。
この状況は、冥界で屍迷人を相手にした時と、まったく同じ。
「まさか……」
このプレッシャーと、フィールドに及ぼす影響。
それで俺も理解した。
クーリアは、あの「白紙のカード」を手にしてしまったのだ。
「う……ぅ!」
「クーリア様!」
苦しそうに、クーリアが額を押さえる。思わず声を上げるが、それに応えて顔を上げたクーリアの表情は、まるでこの状況さえも楽しんでいるかのような、極端な言い方をすれば「狂気に満ちた」笑顔だった。
三日月のように歪んだ笑みに、思わず恐怖する。
「私自身の効果を発動……! あなたのハルモニアと《グランドレミコード・クーリア》の効果を、次のあなたのターン終了時まで無効にする! レスト・オブ・スキル!!」
クーリアが心配でならないが、当人はむしろ昂るかのようにデュエルを続行してきた。
フィールドにいるクーリアがタクトを振ると、その先端から休符が放たれる。それを受けて、《グランドレミコード・クーリア》は色を失ってしまった。さらに、空に浮かんでいた五線譜と音楽記号は消え、すぐさま同じものが空に現れる。最初に消えたものが、俺が発動していたハルモニアによって出現していた物だろう。
グランドレミコード・クーリア
ATK3000→2700
「エンジェリアの効果を発動! スケール4のグレーシアをリリースし、デッキからスケール2のビューティアを特殊召喚!」
エンジェリアにタクトを向けられ、グレーシアはぺこりと静かに頭を下げて姿を消す。代わりに現れたのは、クーリアのペンデュラムゾーンにいるのと同じビューティアだ。ただしこちらは、ニコニコ微笑む妖精体を抱きかかえている。
シドレミコード・ビューティア
ATK2500 レベル7
「ビューティアの効果発動! このターン、あなたの《グランドレミコード・クーリア》は、フィールドを離れた場合に除外される!」
ビューティアが右手でタクトを振ると、草花が生い茂った地面から黒い連符が出現し、縄のように《グランドレミコード・クーリア》を縛り上げた。効果を無効にされた上、このような扱いをさせてしまって申し訳ない。
「バトル! ビューティアで《グランドレミコード・クーリア》を攻撃! ビューティフル・アラベスク!!」
ついにバトルフェイズに入る。
クーリアが宣言すると、ビューティアがタクトを振り、胸に抱えられた妖精体がハープを奏でる。そして、ビューティアの足元から長大な連符が出現し、鞭のようにしなりながら《グランドレミコード・クーリア》へと向かう。
「ビューティアの効果発動! このカードが、自分のペンデュラムゾーンで一番低いスケール×300以上の攻撃力を持つ相手モンスターとバトルする時、その相手モンスターを破壊する!」
クーリアのペンデュラムゾーンで最小のスケールは2。よって、攻撃力600以上なら破壊できる。《グランドレミコード・クーリア》は、効果が無効になっていても攻撃力は2700。避ける事はできない。鞭のようにしなる連符を脇腹に食らい、《グランドレミコード・クーリア》は破壊されてしまい、そのビューティアの効果で除外されてしまう。
「エンジェリアでグレーシアを攻撃! エンジェリック・マーチ!!」
先ほどと同じように、エンジェリアがタクトを振るうと妖精体がトランペットを吹く。ベルから放たれたオレンジ色の光線がグレーシアを焼き尽くしてしまった。
そして、またしても奇妙な熱を帯びた炎の余波を腕に受けてしまう。
バトレアス LP3300→3100
これで、俺のフィールドにモンスターはいない。
しかも、クーリアの場にはまだ攻撃をしていないモンスターがいる。
「私自身で、ダイレクトアタック! クーリー・レクイエム!!」
そう、それはクーリアと同じモンスター。それがタクトを振ると、妖精体がいないためか、緑色の光球を生み出すと、それをエネルギー砲として放ってくる。穏やかな緑色のそれを止める術はなく、攻撃は受けるほかなかった。
そして。
「うあああああああああああああああああああああああああっ!!?」
バトレアス LP3100→400
その強さは、衝撃は、痛みは、何にも例えられないほどに強かった。
攻撃に押されて、地面を転げまわる。二転三転と視界が変わり、頭の中で脳が悲鳴を上げている。
うつぶせになり、立ち上がる事にさえ全霊を籠めなければできないほどのダメージに身体が犯される。それでどうにか立ち上がっても、全身に電流が走っているように痺れて、真っ直ぐ立つ事ができない。迷宮姫の時みたく血反吐を散らしたりはしないが、視界が霞んで、全身の筋肉が変に痙攣している。
「ごめんなさい、痛かったでしょう」
そんな俺を見かねてなのか、クーリアはそんな事を言ってきた。
それは果たして、本当に俺の事を心配しているんだろうか。
「でもこれから先、あなたが私たちを守るために戦い続ければ、それ以上の痛みを伴う事にもなるでしょう」
「……」
「それは決して、恐れる事じゃない。だけど、恐れているのであれば、どうかもう戦わないでほしい。私は、あなたが恐れを抱き、傷ついてまで、守ってほしくはない」
そう言ってクーリアは、右手を差し出してくる。
「このデュエルをサレンダーして、私の下へ……。そうすれば、私があなたを守ってあげる」
まるで、聖母のような笑顔をクーリアは浮かべていた。
それこそ、俺が知る《ドドレミコード・クーリア》のカードの最初のイラストのような笑顔だ。そして脳裏に、俺がさっきフィールドに出した方のクーリアのカード、その無感情な顔を思い出す。
「……俺は」
だけど、それでもクーリアには伝えたい事がある。
それを口にしようとしたところで。
「やめて!」
声が、響いた。
そちらを見れば、さっきの声の主であるエンジェリアがいて。
他のドレミコードの全員も、そこにいた。
《ドレミコード・クレッシェンド》
通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、
このカードを発動するターン、自分は「ドレミコード」モンスターしか特殊召喚できない。
(1):自分のPゾーンのカードが、存在しない場合または「ドレミコード」カードのみの場合に発動できる。
自分のPゾーンのカードの枚数によって以下の効果を適用する。
●0枚:デッキからレベル4以下の「ドレミコード」Pモンスター1体を手札に加える。
●1枚:デッキから「ドレミコード」Pモンスター1体をEXデッキに表側で加える。
その後、自分は1枚ドローする。
●2枚:その2枚のPスケールでP召喚可能なレベルを持つ「ドレミコード」Pモンスターを、
自分のデッキ及びEXデッキ(表側)から1体ずつ手札に加える(同名カードは1枚まで)。