ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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大変お待たせ致しました。
確認で見返している中でデュエル構成に不備があり、書き直していた結果遅くなってしまいました。
また少しずつ投稿いたしますので、何卒よろしくお願いいたします。

※部立てを変更しました


第2章
第54話:使者


 最低限の明かりしかない空間で、大小様々な球体状の地図が、さながらシャボン玉のようにいくつも宙に浮かんでいる。それは把握している限りの次元・世界の地図で、同じものはひとつとしてない。

 その地図の中には、小さな赤い点が光っているものもある。それは自分たちが創造した「カード」が今ある次元・世界・場所を正確に示し、光は全部で()()あった。その内の2つは重なるように光り、同じ場所・同じ人が所持しているのが窺える。残りの3つはそれぞれ別の次元・世界に点在し、交わる様子はない。

 その地図を、赤い光の状況を見て、こんな意見が出てきた。

 

 状況が停滞している。

 これでは我々が結論を出すのに時間がかかりすぎる。

 

 人類が敵か否かを判断するために、人智を超越した力を宿すカードを各地へ散らせ、手にした者たちがどうするのかを見極める。そういう趣旨で「彼ら」はカードを創り上げ、世に解き放った。そうして散らばったカードは、周囲の状況を自動的に収集し、こちらへと発信している。

 しかし、1枚はほぼ隔離状態。

 1枚はある勢力の手に渡り、こちらの想定通りの動きを見せ、使いこなしている。

 1枚は、転々と持ち主を変えているものの、誰もが予想通りの行動を見せた。

 そして2枚所持している場所だけは、正確な場所が把握できず、地図の形状が曖昧だ。そして、使用される気配がほとんどない。それまでに使用された数回では、予想通りの反応があったが、それきり動きがなかった。

 結局のところ、半数以上のカードが動かないため、正常な判断が難しい状態である。

 

 そこで「彼ら」は、ひとつの考えに至った。

 それは、そのカードの力をもっとわかりやすく示して所有者を動かす事。

 そのために、使者を送り込むのだと。

 

* * *

 

 謎の少女改めプリモアがドレミ界に現れてから1週間。俺を含め、ドレミコードはその状況をほぼ完全に受け入れていた。

 

「バトレアスさん、お風呂の掃除終わりました」

「どうも。じゃあ次は……お手洗いの掃除をお願いしてもいいですか?」

「お任せください!」

 

 プリモアは、「ドレミコード」の力の源であるとミューゼシアは仮定している。そこを今更疑いはしないが、プリモアには妖精体がいないらしく、「浄化」の使命を果たす事もできない。だから、屋敷で留守番をする事しかできなかった。さらに、プリモアが目覚めて以降は個人への依頼もなく、外へ出る機会も中々ないため、結果的に俺が普段やっている屋敷の掃除を手伝ってもらっていた。

 感覚が麻痺してきたが、ドレミ界の屋敷は非常に広く、掃除は1日で終わる事が決してない規模。だから何日かかけて全体を掃除するのだが、プリモアがいるおかげで、単純計算で掃除の速さが2倍になっている。俺も助かっていた。

 

 そしてプリモアは、自分が何者なのかに気づいた様子はないが、性格は随分と優しくて人懐っこい。外の世界へ出られない状況に愚痴りもしないので、俺に限らずドレミコードの皆も彼女を「いい子」だと切実に思っていた。

 

「キューティアさん、一緒におやつ食べませんか?」

「はいっ、いいですよ~」

 

 特にキューティアは、外見年齢が近い上、初めての後輩という事もあってかなり仲良くしている。聞けば、一緒にお風呂に入ったり、同じベッドで眠りに就いたりと、姉妹もしくは大親友みたいな間柄だとか。そう語るクーリアや、様子を見るビューティアやエンジェリア、ファンシアは微笑ましいものを見る目をしていた。

 時系列的に言えば、俺もキューティアの後輩にあたる。だが、曰く「デュエルの腕的にそう見られないし、従者だから後輩とはまた別」との事らしい。

 

 そんなプリモアだが、困ったところがあるのも事実。

 

「バトレアスさん! 今日は一緒にお風呂入りませんか?」

 

 これである。

 人懐こいプリモアだが、俺やクーリアに甘えがちなところがある。特に、俺に対してあーんや一緒に眠るのをねだるのが圧倒的に多い。

 これも、俺とクーリアが……あれやこれやをした結果、それに呼応する形でプリモアが覚醒したため。俺とクーリアの意思をほんの少しずつ宿しているからだ。ミューゼシアのその予想は聞いていたが、それでもこうしたコミュニケーションをねだられるのは精神的に気まずい。何度ドリーミアから厳しめな視線を向けられた事か。

 

「……クーリア様、何とかしてください」

「じゃあプリモア、私と一緒に入りましょう。ね?」

「うーん、分かりました……!」

 

 クーリアに丸投げ――もとい全幅の信頼を置いて任せると、プリモアは渋々ながらもそれに応じてくれた。

 ミューゼシアの予想に則るのであれば、プリモアが一緒に風呂に入る事を望んでいるのは、クーリアがそうしたいと思っているからでもある。

 俺はそれに気づいているし、顔が赤い多分クーリアも同じだろう。だけど、それは決してお互い口にしたりしない。互いを傷つける事になるし、何より恥ずかしいからだ。

 

 一応俺の名誉のために言っておくが、ドレミ界でプリモアやクーリアと一緒に風呂に入った事はない。

 いかにプリモアがドレミコードのルーツ(仮)であっても、見た目は完全に少女だからそんな事をすれば倫理的にアウトだ。せいぜいが、頭を撫でてほしいとせがまれるのに応えるぐらいである。そして、クーリアとは既に一線を越えているが、流石に共用の場でそんな事をするわけにもいかない。

 

 

 そしてまた、最近になって変わった事もある。

 

「ミューゼシア様、この箱はこちらでよろしいですか?」

「ええ、大丈夫よ」

 

 空き部屋にミューゼシアの私物が詰まっているであろう箱を置き、設えを整えていく。

 普段ミューゼシアは、このドレミ界よりも上層の世界にいる。だが、先日俺とクーリアが屋敷を空けた際にドレミ界で寝泊まりしたのをきっかけに、改めてこちらに居を移す事にしたのだ。

 これに関しては、ずっと前……ヴァーディクトがこのドレミ界に襲来した時から考えていたそうだ。上層界にいるとはいえ、ミューゼシアはドレミ界を統治してもいる。だから異変が起きればすぐさま駆けつけられたが、ほんの少しだけ初動が遅れてしまう。だからこそ、すぐに対処できるように、ドレミ界で生活する事を選んだという。

 

「とはいえ、普段は『編曲』でいない事も多いけれどね」

「それは、承知しております。ミューゼシア様が不在の時でも、対処できるような事態であればこちらで何とかいたします」

 

 生活の拠点をドレミ界にしたからといって、ミューゼシアは四六時中いるわけではない。彼女には、「浄化」の旋律を組み上げる使命がある。それはドレミ界ではできない事のようだから、彼女がいない場合のアクシデントは極力こちらで対処する必要がある。

 それでも、ミューゼシアは頼りになる人だ。そんな彼女がドレミ界にいてくれるというのは、とても頼もしい。

 

 

 兎に角、プリモアが現れたり、ミューゼシアがこちらで暮らすようになっても、ドレミコードの皆との距離感がおかしくなったなどの事態は起きていない。

 ドレミ界で過ごす日常は、普段と変わらなかった。

 

◆ ◇ ◇

 

 そんなある日、ファンシアとグレーシア、ビューティアが休養日の事だ。

 

「プリモア、今日は一緒に出掛けよっか」

「え、よろしいんですか?」

「うん。折角だし」

 

 朝食の席でファンシアが誘うと、プリモアが顔を輝かせた。どうやら、愚痴る事はなかったものの、外の世界に興味はあったらしい。となれば、今日はあの2人は出かける事になるのか、と思ったらプリモアが俺の方を向いてきた。

 

「でしたら、バトレアスさんも一緒に行きましょう!」

「え? いや、自分は……」

 

 今日は休みと言われていないので、一も二もなく頷く事はできない。

 しかし、断る素振りを見せようとしたら、プリモアがしょんぼりとした表情で俺をじっと見てくる。海外のコメディドラマで少女役がよくやるような顔。そのドラマのスタッフのリアクションよろしく、ビューティアとエンジェリア、キューティアが「あら~」と声を洩らしていた。

 そして俺自身、それを見ると断るのが非常に心苦しくなる。プリモアがクーリアの意思を一部宿しているというのだから猶更。

 

「……いかがいたしましょうか」

「まぁ……今日は『依頼』とかもないし、いいんじゃないかしら」

 

 隣に座るクーリアに確認してみるが、割とすんなり外出の許可が下りた。やはり彼女も、プリモアの可愛らしさには弱いところがあるらしく、わずかに顔が緩んでいる。

 ともあれ、今日は急遽俺も出かける事になった。ただし休日ではないので、帰ったら掃除なり何なりの役割を果たさなければならない。そして、同じく休養日のグレーシアとビューティアは屋敷で体を休めるとの事だった。

 そうして食後、俺は食器洗いをグレーシアやプリモアと共にこなし、「浄化」に出るドレミコードたちを見送ってから準備をする。

 

「プリモアはどこか行ってみたい場所とかあるかな?」

「うーん、何があるのかがまずわからないので……気になるところには寄ってみたいです」

「オッケオッケ、じゃあ今日はそういう感じで」

 

 先に身支度を終えていたファンシアが、プリモアの希望を聞きつつ今日の方針を決める。俺も財布とタクト、後はこの間の外出で買った鞄に必要なものを入れて準備を終えた。なお、プリモアはキューティアのお下がりのガーリーファッションである。

 

「それじゃ、しゅっぱーつ」

「行ってきます!」

「すみませんが、よろしくお願いします」

『行ってらっしゃい』

 

 そうして準備を終えると、ファンシアはタクトを振り、玄関にゲートを開く。グレーシアとビューティアに見送られながらゲートを潜り、その先にあるのは都市の世界。見慣れた路地裏だ。

 プリモアは、ドレミ界とは全然違う薄暗さと狭さに困惑するように、きょろきょろ辺りを見渡す。その気持ちは、最初に俺が来た時も同じ感じだったからよく分かる。だが、ファンシアに促されて路地を出て、高層ビル群が目に入るとプリモアは感嘆の声を上げた。

 

「わあっ、すごいです!」

「さてと、まずはアーケード街にでも行こうかな」

 

 そしてファンシアが足を向ける方へ、俺とプリモアもついていく。

 やはり都市の世界は人通りが多く、今日が休日か平日かはわからないが、前世で言うセンター街とか首都圏のターミナル駅並みに人が多い。歩く人も、普通の人間からデュエルモンスターと思しき人型の存在まで多岐に渡り、人間界と精霊界の中間みたいな様相だ。

 

「プリモア大丈夫? 人酔いとかしてない?」

「大丈夫です」

「もし気分悪くなったら言ってね。バトレアスさんが肩車してくれるから」

「本人がいるのに無許可で話進めるのやめてもらえませんかねぇ」

 

 確かにプリモアは、初めて実存を自覚したのがドレミ界だから、こういう人ごみに慣れてないだろう。俺は前世の通勤ラッシュなどで慣れたが、働き始めたばかりの頃は満員電車で気をやられた記憶がある。

 それについては気を付けないと――

 

「……ッ!?」

 

 そんな悠長な事を考えていた矢先。

 猛烈な悪寒に襲われた。

 

「……バトレアスさん?」

「どうかしましたか?」

 

 思わず足を止めて周囲を見る。ファンシアとプリモアに様子を聞かれるが、今だけは2人が二の次だった。

 街を歩いているだけで、あんな鋭い寒気、嫌な予感が過った事は今までない。ドレミコードに成ったからこそ感じたのかもしれないが、それにしたってこんな人混みのど真ん中でとは。

 辺りを見渡すが、怪しそうな人はいない。周囲にいるのは、全然怪しくもなんともない(あくまで精霊界基準だが)民間人と思しき人ばかりだ。

 

「どなたかお知り合いの方でもいらしたんですか?」

「いや、これは……」

 

 プリモアに問われても、曖昧な返事しかできないまま、周りを見回す。

 すると。

 

 

 見つけた。

 

 

 そんな声が、どこかから聞こえたかと思った矢先。

 頭上で銃声が鳴り響いた。

 

「何!?」

「銃だ!!」

「逃げろォ!!」

 

 それは俺だけに聞こえた幻聴ではないらしい。周りの通行人は一斉に姿勢を低くし、声を上げて這う這うの体で逃げ出していく。

 

「何これ!? 何これぇ!?」

「怖い、です……!」

 

 側で怯えるプリモアとファンシアの頭を押さえて姿勢を低くさせる。俺だって叫びたいところだが、まずは2人の安全が先だ。

 注意深く頭上を見ると、白い小さなドローンが2〜3機ほど上空を飛んでいた。しかも、銃身みたいな筒が何本も伸びており、そこから火花が何度も散っている。周りの建物のガラスにも罅が入っているあたり、虚仮威しの空砲ではなさそうだ。

 ドローンは地上に向けて発砲はしていないが、建屋にも被害が及んでいるため、建物の中にいた人達も逃げようと外に出てきている。今や、道路は逃げ出す人々で溢れかえっていた。

 

「2人とも逃げよう! 絶対離れるなよ……!」

「う、うん……!」

「分かりました!」

 

 とにかく、この場から離れる事が先決だ。2人に強く伝えると、ファンシアは俺の服を掴み、プリモアは俺の左手を握ってくる。

 以前エンジェリアと街を訪れた際、ヴァーディクトが起こした爆破テロではぐれた結果、俺はS-Forceに捕まり、エンジェリアはヴァーディクトに脅されドレミ界へのゲートを開いてしまった。だからこういう時は、とにかくお互い離れない事が重要だと学習している。

 だが、目の前に誰かが突然立ち止まり、思わずぶつかってしまった。

 

「あっ、ごめんなさい……っ」

 

 俺たちと同じように逃げようとした人かと思い、咄嗟に謝る。

 だが、その人物の顔を見た瞬間に、またしても身体が恐怖するように震え、鳥肌が立った。一緒にいるファンシアとプリモアも異変に気付いたらしく、その相手を見上げる。

 その人物は、白いコートを着た男で、短く刈り上げた銀の髪と緑の瞳が特徴的だ。年齢は30代ぐらいに見えるが、見た目が人間でも俺の直感がただの人ではないと叫んでいる。

 そしてこの男は、俺に視線を固定していて、まるで俺に用があるかのような態度をとっていた。

 

「バトレアスとは君だな?」

 

 そして、俺の事を知っている。普段俺はドレミ界で暮らしていて、最低限の用事以外で外へは出ない。なのに、俺の事を認知していた。

 しかもこの騒ぎの中、男はまったく動じていない。他の通行人がぶつかってこようが何だろうが、俺だけを見ている。あのドローンで騒ぎを起こしたのはこの男だと、すぐに気づいた。

 

「……あんたは?」

「私はウィズダム。君に用があって、ここへ来た」

 

 ウィズダムと名乗った男が告げる。プリモアが俺の手を強く握った。

 この状況で、こんな俺に用があると言うだけで、やはり只者ではない。しかも街中で攻撃ドローンを持ち出すぐらいだから、まともな思考回路も持ち合わせている可能性は著しく低い。

 

「……ファンシア。プリモアを連れて先に帰るんだ」

「ダメだよ、そんなの! 一緒に帰ろうよ!」

「で、です! あなたが残るって言うなら私も……!」

 

 危険だからこそ、目的が俺なら、ファンシアとプリモアだけでも逃がすべきだ。しかし案の定、2人は拒む。このウィズダムが危険だと2人も理解しているのだろう。

 一方のウィズダムは、ファンシアとプリモアをそれぞれ少しずつ見やると、さらに口を開いた。

 

「お嬢ちゃんたちに用はない。大人しく去るならいいが、抵抗するなら多少痛い目に遭うのを覚悟してもらう」

 

 興味外のファンシアとプリモアを見逃すあたり、ヴァーディクトよりはまともかもしれない。だが、攻撃ドローンを持ち出すほど過激なのは、バスター・ブレイダーを思い出させる。

 いや、今はそれよりも。

 

「……ファンシア。俺は『必ず皆の下へ帰る』って誓った。それは決して、口先だけじゃない」

「でも!」

「何があっても、俺は必ず帰るって約束する。コレもあるし」

 

 言いながら、胸ポケットに仕舞ってあるタクトを、ファンシアにだけ見えるように示す。

 それを見て、ファンシアはぎゅっと目を閉じ、葛藤する素振りを見せてから俺の肩をばしっと叩く。

 

「約束だよ!」

「えっ……」

 

 プリモアはなおも残ろうとしたが、左手を握るその手を俺はできるだけ優しく解く。

 そしてファンシアは、プリモアの手を取り駆け出した。

 

「バトレアスさん!!」

 

 見捨てたくないのだろうプリモアが、俺を見てポロリと涙を溢したのが見えた。

 それもやはり、クーリアの意思によるものだろうか。

 兎に角それが、恐怖する俺の心を奮い立たせた。

 

「これでいいだろ。俺だけに用があるんなら、ドローンをすぐ止めろ」

「よかろう」

 

 睨みつけると、ウィズダムはすんなりと要求を聞き入れて空を指さす。先ほどから銃を連射していたドローンは、発砲を止めるとそのまま垂直に下降し、地面に着地する。

 そして同時に、目に入る限りの脇道や大通りを塞ぐように、鋼鉄の壁が地面からせり上がってきた。災害などの被害を食い止めるために設置されているらしい、隔壁のようなそれは高さがビル2階分に相当し、ちょっとやそっとでは破れなさそうだ。

 

「一応言っておくが、さっきのは少し威力が高いだけのエアガンだ。人は殺してない」

「……何の気休めにもならない、この状況だと」

「そうか」

 

 改めて辺りを見るが、人がいなくなっていた。さっきのドローンによる攻撃とバリケードのおかげだろうが、誰かが倒れたりはしていない。

 この一角だけが、まるで世界から切り離されたみたいに静かだ。

 

「こんな仰々しい真似までして、俺に何の用が?」

「そうだな……質問に質問を返すようで悪いが、君は『とあるカード』を2枚持っているだろう?」

 

 妙に要領を得ない質問だった。しかし、ここ最近俺の身の回りで「気になるカード」と言えば、心当たりがある。

 

「……白紙のカードか」

「我々とは認識が若干異なるらしいが、おそらくはそれで合っている」

 

 また引っかかる言い方をする。だが、ウィズダムが言っているのは、あのおかしなカードで間違いなさそうだ。そして俺が……正確にはドレミ界でそれを2枚所持しているのをなぜ知っているのか、という別の疑問が生じる。

 

「私は、そのカードを創造した者に使わされた使者だ」

「何?」

 

 身構える。デュエルで使われただけで、あれほどの影響を周囲と使用者に及ぼすカードを作ったとなれば、やはりただの人ではないはず。そしてそんな連中から使わされたとなれば、さっきの事も含めて碌な目的でやってきたとは思えなかった。

 けれど、ウィズダムは小さく笑う。

 

「そう怯えるな。別に君をどうこうするつもりはない」

「なら、何が目的だ」

「君たちは、あのカードの真の力をまだ理解していないと思ってね。それを示そうという事だ」

 

 言いながら、ウィズダムが右腕の袖を捲ると、銀色に輝く楕円形の機械が姿を見せる。デュエルディスク、と気づいた直後に、剣のような形の盤面が展開された。

 デュエルをする気だ。

 

「俺をどうこうするつもりはないって言ったのに」

「あのカードの力を見せるにはこれが一番いいと思ってね。尤も、既にその力は発揮しているが……」

「?」

 

 辺りを見回しながらのウィスダムの言葉は、まるでデュエル以外でもあのカードの力が使えるみたいな言い方だ。

 とはいえ、ウィズダムの異常性を考えると、このデュエルは避けられないだろう。それに、あのカードが何なのか俺も知りたいところではある。

 だから、腰に提げていたデッキケースからデッキを取り出したところで、目を見張る。

 

(ドレミコード……)

 

 取り出したそのデッキは、ドレミ界では【ドレミコード】で、外の世界へ行くと別のデッキになってしまうはずだった。

 しかし今、手の中にあるそれは【ドレミコード】のまま。このような事になるのは、転生者を前にする時ぐらいなものだった。

 であれば、このウィズダムも転生者なのか。

 けれど、感覚はラベンダーやテータを前にした時とは全く違う。ヴァーディクトが作った黒い鎧の男とも違うから、転生者と言う可能性は低い。

 

(……流石にここで使うのは、リスクがあるな)

 

 ここは周りに人がいないとはいえ街のど真ん中。この状況で【ドレミコード】を使うのは、ドレミコードの天使の存在を周りに知られるのは少しマズい気がする。

 そう思い俺は、そのデッキをケースに戻し、鞄から別のデッキ【ヒロイック】を手にする。今日は街に出るという事で、デッキ調整の機会でもあればと、携帯していたのだ。これで【ヒロイック】のカードまで変わっていたら頭を抱えていたが、流石にそれはなかった。

 そして、こちらもデュエルディスクを展開したのを見ると、ウィズダムは頷いて右腕を構える。

 

「「デュエル!」」

 

◇ ◆ ◇

 

 ブリッジヘッドの司令部ではアラートが鳴り響いていた。オペレーターが目の前にあるモニターに注視しつつコンソールを操作し、状況を把握しようと努めている。

 

「何があった?」

 

 駆けつけたラプスウェルが声を掛けると、責任者でもあるオペレーターの青年が、パソコンのディスプレイを壁際の大画面と共有させて映し出す。

 

「B-16ブロックで異常検知! 隔壁が誤作動を起こしてブロックを封鎖、命令を受け付けません」

「近くの監視カメラを映せるか? 何が起きてる」

 

 指示されたオペレーターが、手元のパソコンを操作し、現場付近の監視カメラを遠隔操作する。

 そして映し出された映像を見て、ラプスウェルは拳を握った。

 

「見つけたぞ、奴だ」

 

 画質は若干荒いが、先日多次元手配がかかったバトレアスが映っている。何やらデュエルをしているようだが、対戦相手は誰だろうか。

 そして隔壁が作動しているためか、周囲に人の姿がない。それは好都合だ。

 

「近隣のエージェントに緊急連絡。多次元手配中のターゲット発見、B-16ブロックへ急行して直ちに確保しろ」

「了解、エージェント各位――」

 

 ラプスウェルの指示で、オペレーターたちが一斉に通信機を手にし、エージェントに指示を出し始める。他の次元に散ったメンバーを呼び戻すまでには至らないが、この次元にいるエージェントが集まれば、転生者であっても逃げきる事はできない。

 

 

 ある「S-Force」のエージェントは、コンビニで買った菓子パンとコーヒーで休憩を取っているところだった。今日の任務は市井に紛れての監視……いわゆる覆面捜査で、特段重要な任務というわけではない。

 なので、それなりにゆったりとした気分で菓子パンを食べていると、突然携帯端末が震えだした。バイブレーションのパターン的に、緊急連絡。すぐに菓子パンを飲み込んで端末を取る。

 

「こちらエージェント」

『司令部より緊急連絡。識別コードを』

「EXVP-25」

 

 聞こえてきたのはコンピューターの音声。

 しかし狼狽えず、事前に決められた手順通りに自分のIDを伝える。万が一、どこかの誰かがこの端末を拾った際に、不用意にS-Force内の連絡を聞けないようにする措置だ。

 1秒足らずで、音声がクリアになる。

 

『D-27ブロックに広域手配中のターゲット出現。重要度A、直ちに現場へ急行せよ』

「了解、D-27ブロックへ向かう」

 

 聞こえたのは男のオペレーターの指示。それを受け、端末をポケットに仕舞い、飲みかけのコーヒーを一気に飲み干してゴミ箱に放り込む。

 そして指令を受けた通り、D-27ブロックへと向かった。よりにもよって遠い場所だが、重要度Aとなれば気は抜けない。愚痴ってもいられない。

 

 

 B-16ブロック近くにいた別のエージェントは、目の前の道路に聳える隔壁を見て嘆息する。

 もともとこの隔壁は、凶悪犯罪者が出現した際、あるいは災害・事件などが起きた際に被害を食い止めるために、その区域を封鎖するためのものだ。それが作動したという事は、何らかの事件か災害が起きたと考えられる。

 しかしながら、エージェントの端末には()()()()()()()()()()。勝手に該当区域に入るわけにもいかないので指示を待っているのだが、音沙汰がないためじれったい気分だった。

 

「……エージェントより本部へ。こちらCSOC-22」

『コード認証』

「こちらエージェント。B-16ブロックの隔壁が作動中、状況について把握していれば説明を求む。どうぞ」

 

 端末を取り出し、周りにいる一般人に聞こえない距離で本部と連絡を取る。わずかなノイズが入ったのち、女の声が聞こえた。

 

『本部よりエージェント。該当区域に多次元手配中のターゲットが出現している。直ちに本部へ戻るように、どうぞ』

 

 オペレーターの指示に、エージェントは首を傾げる。

 今、自分はそのB-16ブロックの前にいて、そこにターゲットがいるのに、何故本部へ戻れと言うのか。

 

「エージェントより本部。こちらはB-16ブロックの前にいる。ターゲットの確保ないし監視は可能だが本部へ戻るべきか、どうぞ」

『本部よりエージェント。ターゲットの重要度・危険度は高く、単独での行動は危険とされる。本部にて作戦を検討する、どうぞ』

「……了解、本部へ帰投する」

 

 何となく腑に落ちないが、本部がそう言うのであれば仕方ない。

 ここは大人しく、本部へ戻った方がいいだろう。

 割り切れない思いで隔壁を見上げつつも、エージェントはその場を離れてブリッジヘッドへと向かった。

 

◇ ◇ ◆

 

バトレアス LP4000

VS

ウィズダム LP4000

 

 デュエルディスクが先攻を示した。

 最初の手札5枚はかなり恵まれていて、得体の知れない存在を相手取るには申し分ない。

 

「俺の先攻。《H・C(ヒロイック・チャレンジャー)ダブル・ランス》召喚!」

 

 フィールドに降り立つのは、白い鎧に身を包み、その名の通り槍を両手に持った戦士だ。

 

H・C ダブル・ランス

ATK1700 レベル4

 

「このダブル・ランスを召喚した時、手札または墓地から、もう1体のダブル・ランスを守備表示で特殊召喚できる!」

 

 手札にあったもう1体のダブル・ランスを呼び寄せる。今度はフィールドに膝をついた状態で現れ、槍を胸の前で交差させる。

 

H・C ダブル・ランス

DEF900 レベル4

 

「俺のフィールドに戦士族が2体以上存在する場合、手札の《H・C モーニング・スター》の効果を発動。このカードを特殊召喚!」

 

 守備表示のダブル・ランスの隣に、鎖付きの鉄球を振り回す戦士が現れた。

 

H・C モーニング・スター

ATK1500 レベル4

 

「モーニング・スターを特殊召喚した事で効果発動。デッキから『ヒロイック』の魔法・罠カード1枚を手札に加える。俺が手札に加えるのは《ヒロイック・エンヴォイ》! このカードは、デッキから『ヒロイック』モンスター1体を手札に加える事ができる。よってこれを発動し、デッキから《H・C ナックル・ナイフ》を手札に加える!」

 

 すでに俺のフィールドにはレベル4の「ヒロイック」が3体。これで十分エクシーズ召喚はできるが、念には念を入れておく。

 

「手札のナックル・ナイフは、俺のフィールドにレベル1以外の『ヒロイック』が存在する場合、特殊召喚できる!」

 

 短剣を握る小柄な戦士がフィールドに現れると、他の戦士たちを見て頷いた。

 

H・C ナックル・ナイフ

ATK600 レベル1

 

「そして、特殊召喚したナックル・ナイフの効果発動! 俺のフィールドの戦士族モンスター1体を対象とし、そのモンスターとこのカードのレベルを片方と同じにする。俺が対象に選ぶのはレベル4のモーニング・スター。そして、ナックル・ナイフのレベルを4にする!」

 

H・C ナックル・ナイフ

レベル:1→4

 

「レベル4のダブル・ランス2体でオーバーレイ!」

 

 2本の槍を持つ2人の戦士がオレンジの光となって、空へ舞い上がる。そして、地上に現れたエクシーズの渦へ絡み合いながら吸い込まれた。

 

「2体の戦士族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れろ、《H-C(ヒロイック・チャンピオン)ガーンデーヴァ》!!」

 

 エクシーズの渦から現れる、馬に乗った戦士。クロスボウを左腕に装着し、跨る馬は勇ましく嘶いた。

 

H-C ガーンデーヴァ

ATK2100 ランク4

 

「さらに、レベル4のモーニング・スターと、ナックル・ナイフでオーバーレイ!」

 

 続いて、鎖付きの鉄球を操る戦士と、小柄な戦士がオレンジの光となって舞い上がる。今度は空に出現したエクシーズの渦へと吸い込まれていった。

 

「オーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 来てくれ、《H-C クレイヴソリッシュ》!!」

 

 そして爆発したエクシーズの渦から飛び出す、金色の鎧と翼を持つ戦士。白い剣を構え、2本の足で力強く地面に立った。

 

H-C クレイヴソリッシュ

ATK2500 ランク4

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

「お見事」

 

 手札を全て使い切りターンを終えると、ウィズダムはぱちぱちと手を叩いている。侮ったり、皮肉めいた感じはない。

 

「1ターンでエクシーズモンスターを2体も並べるとは、中々気合が入っていると見える」

 

 ウィズダムのデッキが何かは分からない。だが、さっきの感覚からして只者ではないだろうし、戦力を下手に温存すると逆に痛い目を見る予感がする。だからこうして、レベル4以下の特殊召喚に1回は対応できるガーンデーヴァと、戦闘では頼れるクレイヴソリッシュを召喚したのだ。

 

「まぁ、それだけこちらも戦い甲斐があるというものだ」

 

 言いながら、ウィズダムは右腕のデュエルディスクに指をかけた。

 

「私のターン!」

 

 引いたカードを見て、ウィズダムは頷く。

 

「相手フィールドにだけモンスターが存在する場合、《サイバー・ドラゴン》は手札から特殊召喚できる」

 

 銀色の装甲に身を包んだドラゴンが、機械的な咆哮を上げた。

 

サイバー・ドラゴン

ATK2100 レベル5

 

「手札の《サイバー・ドラゴン・フィーア》は、私が《サイバー・ドラゴン》を召喚・特殊召喚した時効果を発動でき、自らを特殊召喚する!」

「【サイバー・ドラゴン】か……!」

 

 さらにウィズダムは、白い装甲で覆われた、《サイバー・ドラゴン》よりもやや小柄な竜を呼び出す。こちらは全体的に滑らかなデザインだ。

 そして、その一手でウィズダムのデッキを理解する。アニメでの演出や、使用者の生き様が人気のそのテーマは、何度か強化がなされるのもあって俺もよく知っていた。

 

サイバー・ドラゴン・フィーア

DEF1600 レベル4

 

 ステータスを見て、動く事にする。

 

「ガーンデーヴァの効果発動! 1ターンに1度、レベル4以下のモンスターが特殊召喚された時、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、そのモンスターを破壊する!」

 

 ガーンデーヴァの周りを漂うオーバーレイ・ユニットのひとつが、背中の矢筒に吸い込まれ、1本の矢が黄色い光を放ち始めた。

 

H-C ガーンデーヴァ

ORU:2→1

 

 その光り輝く矢を矢筒から取り出して、ガーンデーヴァはクロスボウに番えるとフィーアに狙いを定める。

 ウィズダムのデッキが【サイバー・ドラゴン】だとすれば、レベル4以下のモンスターを特殊召喚する頻度はあまり高くないはず。なら、この効果は温存せず積極的に使うべきだ。

 

「速攻魔法《フォトン・ジェネレーター・ユニット》発動! このカードはフィールドの《サイバー・ドラゴン》2体をリリースして発動する!」

「何!?」

「フィーアはフィールドまたは墓地にある時、《サイバー・ドラゴン》としても扱うのだよ」

 

 得意げにウィズダムが説明すると、2体の機械竜が姿を消し、ガーンデーヴァのクロスボウが放った矢は虚空へと飛んでいって消滅した。

 

「《フォトン・ジェネレーター・ユニット》の効果で、私は手札・デッキ・墓地から《サイバー・レーザー・ドラゴン》1体を特殊召喚する!」

 

 デッキから取り出したモンスターをウィズダムが召喚する。それは《サイバー・ドラゴン》よりも少し体が大きくて、尻尾の部分が蕾のような形状の銀色のドラゴンだ。

 

サイバー・レーザー・ドラゴン

ATK2400 レベル6

 

 これで、ガーンデーヴァの効果は無駄に使わされた事になる。奥歯を噛み締めると、ウィズダムはさらに笑った。

 

「このモンスターの効果発動! 1ターンに1度、このカードの攻撃力より高い攻撃力か守備力を持つ、相手モンスター1体を破壊する!」

 

 《サイバー・レーザー・ドラゴン》の尻尾が花のように展開し、雄蕊に当たる部分がエネルギーを蓄え始める。そして、その尻尾が向けられたのはクレイヴソリッシュだ。

 

「私はクレイヴソリッシュを破壊!」

「させるか! 罠カード《刺し違GUY(ガイ)》発動! 俺のフィールドの戦士族モンスター1体をリリースして、フィールドのカード1枚を破壊する!」

 

 レーザー砲が放たれる前にクレイヴソリッシュが姿を消し、後にはその手に持っていた剣だけが残る。

 

「俺は《サイバー・レーザー・ドラゴン》を破壊!」

 

 その残った剣が、ひとりでに《サイバー・レーザー・ドラゴン》に剣先を向けると、一直線に胴体へと向かう。胴体を刺し貫かれか機械竜は、苦しそうな鳴き声とともに破壊された。

 

「そして俺は1枚ドローする」

「文字通り刺し違えるとはな」

 

 本当に、心からそう思っていそうな感想を述べたウィズダムは、手札をもう1枚手にする。

 

「私はもう1体の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 再び現れる機械竜。人工的な鳴き声を上げて天を仰いだ。

 

サイバー・ドラゴン

ATK2100

 

 《サイバー・ドラゴン》を2体握っていたとなれば、ウィズダムはフィーアをリリースし、オリジナルをアドバンス召喚するつもりだったのかもしれない。その後に出てくるのは恐らく、【サイバー・ドラゴン】でもとりわけ警戒すべきエクシーズモンスターだろう。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 いきなり成す術もなく攻め込まれたりはしなかったので一息つくが、安心できない。

 こんなのは、まだ序の口に過ぎないのだろう。

 


 

《逆もまた然り》

 

 日課の筋トレ中の会話。

 

クーリア「この間、プリモアとお風呂に入ったんだけどね」

バトレアス「はい」

クーリア「あの子、何かと私に擦り寄ってきたの。猫みたいにね。一緒のベッドで寝た時も抱き着いてきたのよ。私の邪魔をするわけでもないし、それが嫌って事もないんだけど……」

バトレアス「……はい」

クーリア「でね。ミューゼシア様はあの子が私とバトレアスの意思をちょっとずつ宿しているって話だったじゃない?」

バトレアス「…………はい」

クーリア「てことはつまり……バトレアスも私とそういう事がしたいって認識でOKかしら?」

バトレアス「…………ちょっと死にたいんで今日はもう上がります」

クーリア「死なないでよ?」

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