ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第57話∶一難去らず

バトレアス LP4000 手札3

【モンスターゾーン】

カード無し

 

【魔法&罠ゾーン】

カード無し

 

 

S-Force LP2000 手札0

【モンスターゾーン】

サイコ・エンド・パニッシャー ATK3500 レベル11

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード2

 

 

 身体に当たる風が強い。こんなのはただ車に乗っているだけでは感じられなかったものだ。転生する前も後もバイクに乗った事はなかったが、バイクに乗るのが好きな人は、こういう風を感じられるからだろうか。

 しかし今、俺はデュエル中である。バイクに乗ったままデュエルなど、5D’sやARC-Vのシンクロ次元なら普通だが、精霊界では前代未聞らしい。俺だって自分の身体でそれをやるとは思わなかった。そして今も信じられない。

 

「どうですか、バトレアスさん」

「次のドロー次第だ」

 

 バイクの操縦を担うマスカレーナは、心配そうに俺に話しかけてくる。

 返事した直後に横風が不意に吹き、手札が僅かに揺れた。それが飛ばされないように、手だけではなく身体全体に力を込める。初代遊戯王で、飛行船の上でデュエルをした際に風で手札が飛ばされかける、なんてシーンがフラッシュバックした。

 グズグズしていたらS-Forceに捕まってしまうし、本当に大事なカードが風で飛ばされかねない。そうならないために、デッキに指をかける。

 

「俺の、ターン……!」

 

 マスカレーナと2人乗り、しかも彼女の尻尾で固定されているため、ドローするにしてもマスカレーナの邪魔にならないように気をつけなければならない。ドローも普段のデュエルみたいに勢い良くはできなかったが、引いたカードを見て頷く。これなら、《サイコ・エンド・パニッシャー》に勝てる。

 

「魔法カード《錬装融合(メタルフォーゼ・フュージョン)》発動! 手札の《メタルフォーゼ・シルバード》と《パラメタルフォーゼ・メルキャスター》を融合する!」

 

 天老のデュエル以来となる【メタルフォーゼ】。手札のモンスターで融合召喚できる「メタルフォーゼ」は色々いるが、この状況で呼び出すのは1体だ。空に融合の渦が現れ、そこへ2人のメタルフォーゼの戦士が吸い込まれる。

 

「融合召喚! 現れろ、《メタルフォーゼ・ミスリエル》!!」

 

 融合の渦から勢いよく飛び出してくるモンスター。メタルフォーゼのスーツを着て、翼のユニットを背中に装備した紫の髪の女性。このデッキではありがたいバウンス効果持ちだ。

 

メタルフォーゼ・ミスリエル

ATK2600 レベル6

 

 そのミスリエルは、俺とマスカレーナのバイクに並ぶように、背中の翼で飛行している。使役する俺がバイクで移動しているから、ソリッドビジョンのミスリエルもそれに合わせているにすぎない。それでも、モンスターと一緒に走るというのは不思議な気分だ。

 

「墓地の《錬装融合》の効果を発動。このカードをデッキに戻してシャッフルし、1枚ドローする」

 

 感慨にふけるのもほどほどにし、デュエルに意識を戻す。

 《錬装融合》の効果でドローしたのは、このデッキなら発動する機会は多い魔法カード。しかし今は使えないため、残念ながら温存だ。

 さらに気にすべきは、S-Forceの伏せカード2枚。ミスリエルの効果を使えば、伏せカードのどちらかをバウンスできる。そしてあちらのライフは2000。さっき引いたカードを使って攻撃すれば、このターンの勝利は可能。であれば、少しでもトラップは減らすべきだ。

 

「ミスリエルの効果発動! 墓地の『メタルフォーゼ』カード2枚を対象としてデッキに戻し、対象のフィールドのカード1枚を持ち主の手札に戻す! 俺は右側の伏せカードを――」

「悪いが、罠カード《無限泡影》発動! ミスリエルの効果はこのターン無効化される!」

「!」

 

 しかし、対象に選んだのとは別の伏せカードの発動を許してしまった。ミスリエルの足元から青い炎が燃え上がり、灰色に染まってしまう。

 ただ、伏せカードを除去されるのを避けたという事は、あの伏せカードは何らかのキーでもあるのだろう。攻撃に反応するカードの可能性も否めないが、逃げているという状況的に二の足を踏んで時間をかけるわけにもいかない。

 

「バトル!」

「ちょ……!?」

「《サイコ・エンド・パニッシャー》の効果発動! バトル開始時、攻撃力が互いのライフの差分アップする!」

 

 攻撃力はミスリエルの方が低い。この状況でバトルフェイズに入った事にマスカレーナが驚きの声を上げている。

 けれど《サイコ・エンド・パニッシャー》は咆哮を上げ、身体に纏う稲妻がより強く閃いた。

 

サイコ・エンド・パニッシャー

ATK3500→5500

 

「俺はミスリエルで《サイコ・エンド・パニッシャー》を攻撃!」

「バトレアスさん!?」

「血迷ったか! そいつの攻撃力は《サイコ・エンド・パニッシャー》の半分にも満たないぞ!」

 

 それでも攻撃を宣言すると、マスカレーナは動揺し、S-Forceが鼻で笑う。

 もちろん俺も、単なる自爆特攻目的ではない。

 

「速攻魔法《決闘融合-バトル・フュージョン》発動! 自分の融合モンスターが相手モンスターとバトルする時、バトルの間、その相手モンスターの攻撃力を自分の攻撃力に加える!」

「何!?」

「おおー!」

 

メタルフォーゼ・ミスリエル

ATK2600→8100

 

 今度は逆に、マスカレーナが歓声を上げ、S-Forceが驚きの表情を見せた。これで攻撃力は逆転、しかも戦闘ダメージでS-Forceのライフは一気に尽きる。

 精霊界に転生した直後、ヴァーディクトの分離した意思である黒い鎧の侵略者とデュエルをした際、あちらは【シャドール】で同じカードを使った。あの時の使い方は勿体ないと思ったが、今回みたいに完全耐性持ちを正面から殴る時なんかにこのカードは光るのだ。

 ミスリエルが翼を広げて舞い上がり、《サイコ・エンド・パニッシャー》の顔と同じ高度につくと、右の拳を構える。そこに赤々と燃え盛る炎が宿り、殴りかかった。

 

「悪くないが、罠カード《ガード・ブロック》発動! 相手モンスターの攻撃によるダメージを0にして、カードを1枚ドローする!」

「くっ……」

 

 巨大なサイキック族の悪魔は、ミスリエルの拳を受けて爆散する。けれどS-Forceの乗るバイクの周りをバリアが覆い、ダメージを通す事ができなかった。

 

メタルフォーゼ・ミスリエル

ATK8100→2600

 

「俺はこれでターンエンド」

 

 今ので勝負が決まっていればよかったのだが、仕方がない。ここは諦め、次のターンに備えるしかなかった。

 

「ふん、少しは考えたようだが……無駄な事を。私のターン、ドロー!」

 

 S-Forceは、切り札級のモンスターを失ってもなお余裕を崩さない。恐らくはさっきの《ガード・ブロック》、あるいは今引いたカードに逆転の鍵があるらしい。

 

「魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動。デッキの上から10枚のカードを裏側で除外し、さらに2枚ドロー!」

 

 重いコストを支払って引いたカードを見たS-Forceは、俺たちを見てにやりと笑った。

 

「魔法カード《ミラクルシンクロフュージョン》発動! フィールド及び墓地の融合素材モンスターを除外し、シンクロモンスターを素材とする融合モンスターを融合召喚する!」

「!」

「私は墓地の《サイコ・エンド・パニッシャー》と《メンタルシーカー》を除外し、融合!」

 

 S-Forceのバイクの背後に融合の渦が現れ、巨大な銀の鱗の悪魔と、マントをつけた紫の服の少年がその中へと吸い込まれた。

 

「正義の鉄槌よ、深淵を見通す力を取り込み、究極の肉体を得て覚醒せよ! 融合召喚! 出でよ、レベル10!《アルティメットサイキッカー》!!」

 

 融合の渦が弾け、巨大なモンスターが姿を見せる。悪魔のような顔と翼で、体は骨のような白いフレームと灰色の肉体で形作られた、ドラゴンのような尻尾を持つ異形のモンスターだった。

 

アルティメットサイキッカー

ATK2900 レベル10

 

「このモンスターは効果では破壊されない。そして守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が上回った分の貫通ダメージを相手に与える!」

「ううむ、そう簡単には勝たせてもらえないようですね…」

 

 得意げに能力を明かすS-Forceに対し、マスカレーナは悩ましそうに呟く。完全耐性持ちよりはまだ幾分戦いやすいが、効果破壊耐性だけでも十分厄介だ。おまけに貫通効果まで持っているのも危険だろう。

 

「さらに私の場にサイキック族が存在する場合、《アーマード・サイキッカー》はリリース無しで召喚できる!」

 

 続けて呼び出してきたのは、緑と紫のパワードスーツに身を包んだ男だった。

 

アーマード・サイキッカー

ATK2200 レベル6

 

「そして私は、装備魔法《ニトロユニット》を貴様のミスリエルに装備する!」

「何?」

「私たちのモンスターに……?」

 

 俺とマスカレーナが疑問を抱く前で、ミスリエルの胸に、車のエンジンみたいなパーツが出現して装備される。重そうによろめくミスリエルだが、ステータスは何も変わらない。

 

「バトル!《アルティメットサイキッカー》でミスリエルを攻撃!」

 

 《アルティメットサイキッカー》が両腕を構えると、そこに黄色い稲妻を纏うエネルギー弾が出現する。やがて放たれたそれはミスリエルに直撃し、爆散させた。

 

「うわっ……!」

 

バトレアス LP4000→3700

 

 破壊された衝撃に身体を押されるが、マスカレーナの尻尾のおかげで何とかバランスを保つ。しかしその衝撃でバイクがわずかによろめいた。

 

「ミスリエルがバトルで破壊された事で、《アルティメットサイキッカー》と《ニトロユニット》の効果が発動!」

「ならこちらも、墓地へ送られたミスリエルの効果発動! エクストラデッキまたは墓地から、『メタルフォーゼ』ペンデュラムモンスター1体を特殊召喚できる。戻ってくれ、メルキャスター!」

 

 俺とマスカレーナの乗るバイクと並行するように魔法陣が現れ、その中からグライダーに乗るライトブルーの髪の女性・メルキャスターが姿を見せた。

 

パラメタルフォーゼ・メルキャスター

DEF2500 レベル7

 

 チェーン処理の都合でこちらが先に効果を使ったが、S-Forceは何をしてくるか……。

 

「《ニトロユニット》を装備したモンスターがバトルで破壊された時、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「なっ……!」

 

バトレアス LP3700→1100

 

「そして《アルティメットサイキッカー》は、攻撃で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、その攻撃力分のライフを回復する!」

 

S-Force LP2000→4600

 

 2枚のカードによって、あちらのライフが大幅に上回ってしまった。倒す道のりが遠くなったように錯覚する。

 

「ミスリエルの効果で命拾いしたな。私はこれでターンエンドだ!」

 

 自信ありげにターンを終えるS-Force。その通りで、ミスリエルの効果でメルキャスターを出さなければ、俺は《アーマード・サイキッカー》の直接攻撃を受けて負けるところだった。

 ほっとしたその時、ヘルメットのバイザーに「!」マークが表示される。

 

「何だ?」

「バトレアスさん、ちょっとヤバいです」

 

 操縦していたマスカレーナが、演技ではない明らかに焦った声を出した。

 

「S-Forceの方々がこちらに向かってきてます」

「何だって?」

「デュエルを挑まれ速度を落とされたせいですね……このままのスピードだと捕まります」

 

 マスカレーナの後ろから、バイクのメーター部分を見る。本来ならタコメーター等があるだろうそこには、それこそ5D’sのD・ホイールみたいに液晶画面がついていて、地図らしきものが映っている。地図上では、何かの発信源みたいな赤い点がいくつも光っていた。それがS-Forceだろう。

 マスカレーナは、俺に振り向く。

 

「バトレアスさん、すごい無茶を承知で言いますが、次のターンで勝ってください。でないと私たちはS-Forceのブリッジヘッド行き、留置所で私とおままごとです」

「……分かった」

 

 俺が勝たなければ、マスカレーナのバイクに仕込まれたウイルスは除去できない。負けたら論外だし、このターンで決着がつかないと、S-Forceが追いつくのを許してしまい俺たちは捕まる。

 マスカレーナの言う通り、本当に無茶だ。俺のフィールドはメルキャスターのみ、手札は今使えない1枚、相手のライフは4600。俺のライフはまだ1100あるが、勝利以外では意味がない。

 今まで以上にドローにプレッシャーを感じながら、指をかける。

 

「俺の……ターン!」

 

 逆転の芽を願いつつ、マスカレーナにぶつけないように、引いたカードを見る。

 脳細胞をフル稼働させて、勝利への道筋をはじき出す。

 

「《メタルフォーゼ・スティエレン》召喚!」

 

 メルキャスターの隣に、バイクに乗る水色の髪の男が現れた。右手には炎の剣を握っている。

 

メタルフォーゼ・スティエレン

ATK 0 レベル2

 

「攻撃力0だと? 勝てないと分かって自滅を選んだか!」

「現れろ、燃え盛る神秘のサーキット!」

 

 完全にこっちを侮っているS-Forceは無視し、デュエルを続行する。宣言すると、前方にリンクサーキットが出現した。

 

「召喚条件はペンデュラムモンスター2体。メルキャスターとスティエレンをリンクマーカーにセット!」

 

 2体の「メタルフォーゼ」はスピードを上げ、俺たちを追い抜くとそのリンクサーキットに飛び込む。そして、目の前でサーキットは光を放った。

 

「リンク召喚! 現れろ、リンク2!《ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム》!!」

 

 サーキットから姿を見せたのは、バギーの動力ユニットを搭載した翼を背にする、紫の髪の戦士だ。手には炎の小さな斧が握られている。

 

□□□ ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム

□◆□ ATK1800

■□■ リンク2

 

「エレクトラムの効果発動! リンク召喚が成功した時、デッキのペンデュラムモンスター1体をエクストラデッキに表向きで加える。俺が加えるのは《メタルフォーゼ・ゴルドライバー》!」

 

 これでようやく、手札に残っていた魔法カードが発動条件を満たした。安心しながらそれを手にする。

 

「魔法カード《ペンデュラム・パラドックス》発動! エクストラデッキにある、同じスケールでカード名が異なるペンデュラムモンスター2体を手札に加える。俺はスケール1のメルキャスターとゴルドライバーを手札に加えて、ペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 手札に加えた2体を即座にペンデュラムゾーンに置く。光の柱は両端に出現したが、こちらは地面と直角だった。

 ただ、スケール1同士でペンデュラム召喚はできない。

 

「エレクトラムの効果発動! ペンデュラムゾーンのカード1枚を破壊して、エクストラデッキのペンデュラムモンスター1体を手札に加える。俺はメルキャスターを破壊し、スティエレンを手札に加える!」

 

 破壊する対象にメルキャスターを選んだ直後、明らかに不満そうな目を向けられてしまった。そういえば、天老とのデュエルでも同じような役回りをさせてしまった記憶がある。今回は余裕があれば見せ場を作ってあげよう。そう考えつつ、メルキャスターをエクストラデッキに加え、スティエレンを手札に戻す。

 

「エレクトラムの効果発動! ペンデュラムゾーンのカードがフィールドから離れた場合、1枚ドローする!」

 

 ドローしたカードはモンスターカード。とてもありがたかった。

 

「スケール8のスティエレンをペンデュラムゾーンにセッティング! これで、レベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 さっきまでメルキャスターがいた光の柱に、今度はスティエレンが現れる。こちらはバイクから降り、炎の剣を携えた姿だった。

 

「ペンデュラム召喚! エクストラデッキよりメルキャスター、手札より《メタルフォーゼ・ヴォルフレイム》!」

 

 空に開いた穴から2体のモンスターが勢いよく飛び出してくる。メルキャスターと、キャタピラが付いたオレンジの機体のバギーだ。

 

パラメタルフォーゼ・メルキャスター

ATK2000 レベル7

 

メタルフォーゼ・ヴォルフレイム

ATK2400 レベル7

 

「その程度の攻撃力では私の布陣は破れないぞ!」

「ゴルドライバーのペンデュラム効果発動! ヴォルフレイムを破壊して、デッキから《混錬装融合(パラメタルフォーゼ・フュージョン)》をセットする!」

 

 ヴォルフレイムの姿が消失し、1枚の伏せカードがフィールドに現れる。後は……心苦しいが。

 

「スティエレンのペンデュラム効果も発動! メルキャスターを破壊して、デッキから《錬装融合(メタルフォーゼ・フュージョン)》をセットする!」

 

 またしても、「私はあなたに言いたい事があります」と言いたげな目をメルキャスターが向けてきた。本当に申し訳ないと思いつつ、破壊してデッキの魔法カードをセットする。

 

「破壊されたメルキャスターの効果! エクストラデッキにある、別の『メタルフォーゼ』ペンデュラムモンスター1体を手札に加える! 俺はヴォルフレイムを手札に!」

「バトレアスさん、時間押してます! 巻いてください!」

 

 展開の長さにマスカレーナが焦りを見せた。俺は頷き、気持ち早めに動く。

 

「《混錬装融合》を発動し、フィールドのエレクトラムと、エクストラデッキのメルキャスターで融合!」

 

 融合の渦が現れ、フィールドの戦士とエクストラデッキの女性が吸い込まれた。

 

「融合召喚! もう一度頼む、《メタルフォーゼ・ミスリエル》!!」

 

 さっきのターンに攻撃で破壊されたのと同じミスリエル。このデッキは全ての「メタルフォーゼ」融合モンスターを2体ずつ投入しているため、それがラッキーだった。

 

メタルフォーゼ・ミスリエル

ATK2600 レベル6

 

「ミスリエルの効果発動! 墓地のエレクトラムと《混錬装融合》をデッキに戻し、《アルティメットサイキッカー》をエクストラデッキに戻す!」

「チッ……!」

 

 今度は防げないらしい。こちらが墓地のカードをデッキに戻すと、《アルティメットサイキッカー》は雄叫びを上げて姿を消し、S-Forceが舌打ちをする。効果破壊耐性は厄介だが、バウンスには弱かったようだ。

 それを見てから、すぐ次の手を打つ。

 

「《錬装融合》を発動! 手札のヴォルフレイムとミスリエルを融合!」

 

 再び現れる融合の渦に、ミスリエルとヴォルフレイムが飲み込まれ、新たな光を生み出す。

 

「融合召喚!《メタルフォーゼ・オリハルク》!!」

 

 現れたのは、バギーの機構を取り入れたユニットを背中に装着し、炎の斧を両手に持つ紺色の髪の男だ。フィールドに降り立つと、闘志がみなぎっているのか斧を振り回す。

 

メタルフォーゼ・オリハルク

ATK2800 レベル8

 

「ミスリエルの効果発動! 墓地のメルキャスターを特殊召喚!」

 

パラメタルフォーゼ・メルキャスター

ATK2000 レベル7

 

「墓地の《錬装融合》の効果発動! このカードをデッキに戻し、1枚ドローする!」

 

 これが、正真正銘最後のドロー。これで状況を打破できるカードが来なければ、このターンでS-Forceのライフを削りきれず、マスカレーナの言う通り捕まっておしまいだ。

 しかし臆病風に吹かれて行動に出られなければ、やはり時間切れで負ける。

 だから俺は、どうにでもなれと言ういっそ開き直りの精神でカードを引いた。

 

「ドロー!」

 

 引いたカードを見る。

 心から、このデッキに礼を言いたかった。

 

「装備魔法《巨大化》をオリハルクに装備! 装備モンスターの攻撃力は、俺のライフが相手より高ければ半分に、低ければ倍になる!」

「な……ぁ!?」

 

メタルフォーゼ・オリハルク

ATK2800→5600

 

 さっきの《アルティメットサイキッカー》の効果であちらのライフが回復したおかげで、逆にこちらの攻撃力を上げる事ができた。

 このカードも、戦闘面で非常に頼もしいオリハルクの補助を狙って入れたもの。それが難しくても、「メタルフォーゼ」の共通効果で破壊し、コストにできると思って入れたものだ。それが、最良の形で生きた。

 

「バトルだ! オリハルクで《アーマード・サイキッカー》を攻撃!」

 

 オリハルクが、巨大化した斧を構えてパワードスーツの男に飛び掛かる。そして十文字に斧を振り下ろすと、《アーマード・サイキッカー》は苦しそうに叫んで爆発を起こした。

 

「ぐわっ……!」

 

S-Force LP4600→1200

 

  S-Forceのバイクがよろめく。やはりあちらにも衝撃は伝わっているようだ。それについて深く考える時間はないので、同情心だけは抱く。

 

「頼む、メルキャスター! ダイレクトアタック!」

 

 そして最後に残ったのは、今まで散々な扱いばかりをさせてしまったメルキャスター。これが罪滅ぼしになるとは思えないが、フィニッシャーを任せる。

 するとメルキャスターは、俺の方を向いてサムズアップをしてから、グライダーの先端から水色のエネルギー砲を放つ。それはS-Forceのバイクに直撃し、青みがかった赤い爆炎を巻き起こした。

 

「ぐああああああああああああああっ!!」

 

S-Force LP1200→0

 

 ライフポイントが尽きると、ソリッドビジョンで出現していたオリハルクとメルキャスター、ペンデュラムゾーンのスティエレンとゴルドライバーが姿を消す。

 そしてS-Forceのバイクは前面部から白煙を上げ、故障したかのようにスピードが落ちていく。終いには、完全に路肩に停止してしまった。

 

「やりましたねバトレアスさん! アクセル全開でかっ飛ばしますよ!」

 

 一方のマスカレーナはテンションが上がっている様子。

 そして目に見えてバイクの速度も速くなった。デュエルに勝って、ウイルスを除去できたからだろう。

 

「大丈夫そうか!?」

「ええ、これなら何とか!」

 

 その言葉を信じ、改めて後ろを見る。

 S-Forceの追っ手はもう来ない。さっきのデュエルで負けたS-Forceのバイクも、今や見えなくなった。

 だが、デュエルが終わって緊張感から一次解放された事で、頭が冷静さを取り戻した。

 

(これでよかったのか……?)

 

 すべての決定権が、バイクを運転するマスカレーナにあったとはいえ、俺はS-Forceと……公的機関と真っ向から戦い負かしてしまった。

 それはつまり、僅かに残っていたかもしれない、事態をできるだけ穏便に収めるチャンスを自分で捨てた事になる。どころか、さらに悪化させた。

 マスカレーナには助けてもらった恩義があるし、だからこそ不利益を被らせたくもない。けれど、それだけでは割り切れないつかえが、俺の中に生じる。

 

「お疲れ様でした、バトレアスさん」

 

 するとマスカレーナは、この状況にも関わらず、俺の方を振り向くと右手の拳を向けてくる。

 意図を察したが、その行為には応える気が起きなかった。

 

「……運転に集中してくれ。もしかしたら、どこかからS-Forceが不意打ちをしてくるかもしれないし」

「むぅ、つれないですねぇ」

 

 マスカレーナは俺の言い逃れにも一理あると思ったようで、ぶーたれながらも前を向いた。

 

◆ ◇

 

 高速道路をしばらく走り、やがてマスカレーナは海沿いのインターチェンジで下道に戻った。そこは観光地的な場所ではなく、貨物船が出入りするような港で、規則正しくいくつも倉庫が並んでいる。

 S-Forceの追跡はどうにか振り切る事ができたらしく、あれからそれらしき勢力は見ていない。ちょっとだけ、心が軽くなる。

 

「さて、と」

 

 やがてマスカレーナがバイクを止めたのは、数ある倉庫の中のひとつだ。そこは今でも使われているようで、大小さまざまな木箱やドラム缶などが置かれている。作業員もいるのか話し声までしたので、俺とマスカレーナはバイクを降り、2人でバイクを押しながら静かに奥へと進む。

 その倉庫の隅には、人の背丈ほどの高さがある木箱があった。「さわるな、危険!」と焼印が押されているそれに、マスカレーナはバイクを押し入れて蓋を横から閉める。さらに箱が隠れるように布を被せた。一見ただの古いシートだが、金属探知機などのセンサーに引っかからない優れモノらしい。

 未来技術に舌を巻きながら、マスカレーナの後に続いて裏口から倉庫を出る。最終目的地はここではないらしい。

 

「あと少しですので、もうちょっとご辛抱を」

 

 小走りにマスカレーナが言うと、どこからかサングラスを取り出した。

 

「念のため、こちらをどうぞ」

「これは?」

「まぁ、それはその時のお楽しみです」

 

 いまいち答えになっていないが、ひとまず受け取っておく。

 一見、アスリートが使うようなフォルムのサングラスだ。しかし耳にかける部分とは別に、枝のように分かれたフレームがある。マスカレーナがそのサングラスを装着したので、俺も同じようにかけてみるが、視界の明度が下がるだけの普通のサングラスだ。けれど、枝分かれしたフレームは丁度俺の耳の穴を塞ぐような位置につく。それでいて完全に音を遮断する感じではない。イヤホンか何かだろうか。

 そして、マスカレーナの「念のため」と言う言葉で、懐にしまっていたタクトを取り出す。見た感じ、やはり折れたりはしていない。

 

「おや、それは?」

「まぁ、帰るための鍵みたいなやつだ」

 

 世界をつなぐゲートを開く、とまでは言えないため、それっぽい事を言っておく。マスカレーナは興味を抱いたものの、深入りはしてこなかった。

 

「なんだぁ、魔法の杖かと思いましたよ。てっきり、エクスペクト――」

 

 急にマスカレーナが言葉を切り、突然足を止める。さらに横を走っていた俺の腕を掴んできた。

 その理由は、すぐに分かった。

 

「そこまでです」

 

 路地の先に誰かがいる。逆光で姿が判然としなかったが、向こうからこちらへゆっくりと歩いてきた。

 その姿が徐々に明らかになっていく。山吹色の忍び装束、袖がだぼついた黒い羽織、黒に山吹色の混じったポニーテール。巨大な手裏剣を握る、身体のシルエットからして女性のその人物は、俺にとっても見ず知らずの人ではなかった。

 

「……小夜丸」

 

 マスカレーナが名前を呟くと、《S-Force 乱破小夜丸》は、目礼をしながらも歩みを止めず、近づいてくる。

 

「よく追いつけたね」

「伊達にあなたを追いかけてはいませんから」

 

 余裕そうなマスカレーナに対し、冷静な小夜丸。

 一方の俺は気が気でない。ここまできてS-Forceの待ち伏せを食らうなんて。相手は一度俺を誤認逮捕しているが、それで俺を見逃すような雰囲気はない。

 たまりかねて反対方向へ逃げ出そうとする。けれどその先には、ドッグ・タッグが1機、こちらを見据えて待機している。後ろも塞がれていた。しかも左右は倉庫の壁。前門の虎後門の狼とはまさに今だ。

 

「大人しく投降してください。手荒な真似はしたくありません」

「それは私に? それともバトレアスさんに?」

 

 おちょくるように笑って問いかけるマスカレーナだが、俺の脇腹を肘で突いてくる。見れば、マスカレーナは少しだけサングラスをずらし、俺だけに見えるようにウインクをしている。何かの策があるらしい。

 俺はそれに期待しつつ、右手に持つタクトに意識を向ける。未だゲートを開くには時間がかかるが。

 

「困るんだよねぇ、今ここで捕まると。私もバトレアスさんも」

「関係ありません。言いたい事があるならブリッジヘッドで聞きましょう」

「いやいや、そこへ行ったら好きに話もさせてくれないじゃん」

 

 マスカレーナにそのつもりがあるのかは分からない。しかし時間を稼ぐように、小夜丸に雑談とも無駄話とも取れる言葉を掛けている。小夜丸は取り合う気がないが、今のうちに集中しておく。

 

「私にもバトレアスさんにも、帰りたい場所ってのがあるんだよ」

 

 隣のマスカレーナの言葉に、俺は頷く。

 俺には、帰りたい……と言うより帰るべき場所がある。大切な仲間と、一番愛している人がいる場所へ、帰らなければならない。そう誓ったのだから。

 手の中にあるタクトを強く握り、帰るべきドレミ界を思い浮かべる。空間の座標は、既に頭に刻み込まれていた。

 

「それを尊重したいのはやまやまですが、まずは我々の下へ」

 

 しかし小夜丸も引く気はさらさらないらしい。一歩、また一歩と近づいてくる。

 後ろからは、機械音が少しずつ聞こえてくる。ドッグ・タッグも距離を詰めているようだ。

 マスカレーナはこの状況、どうすつもりだろうか。

 

「……やれやれ、万事休すかぁ」

 

 マスカレーナは諦めたように両手を挙げる。

 ただのはったりだったのか、と思ったが、その手にはよく見るとボールのようなものが握られていた。それはさっき、街の中でラプスウェルに詰められていた時に見たものと同じやつ。

 

「おーっとてがすべったー」

 

 いっそ清々しさすら覚えるほどの棒読みで、マスカレーナがその手の中にあるボールを……グレニャードを地面に落とした。

 

 直後、鋭い閃光が迸る。

 

「うわっ!?」

 

 まさにさっき街中で浴びせられたものと同じ。反射的に眼を閉じて耳を塞ぐ。これを食らったら俺たちも巻き添えだ。

 ところが、さっきみたいな耳鳴りは起きず、恐る恐る目を開けても何の問題もない。影響を受けないのは、マスカレーナのくれたサングラス、そしてその枝みたいなフレームのおかげか。やはり、ただのサングラスではなかった。

 

「うびゃあああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 そして聞こえてくる、小夜丸の叫び声。グレニャードの影響をもろに受けたらしく、目を押さえて叫んでいるその姿に可哀想という感情が止まらない。

 

「バトレアスさん、今です!」

 

 そして、俺のすぐそばでマスカレーナがそう告げる。

 そこで俺はタクトを振り、目の前にゲートを開いた。閃光が場を支配する中でも、そのゲートの輝きは負けていない。

 

「ありがとう、マスカレーナ! 恩に着る!」

「バトレアスさんも、お達者で!」

 

 別れの挨拶もほどほどに、すぐそのゲートへ入ろうとする。

 だが。

 

「にがひまへぇっ!!」

「うべぁっ!?」

 

 謎の掛け声とともに腰に衝撃が伝わってきた。

 それでもどうにかゲートをくぐり、体勢を崩して地面に倒れこむ。けれど、背中の何かがクッションになり、痛みなどはほとんど伝わってこなかった。

 そして、頭を振りつつサングラスを外して周りを見る。

 そこは、安心感溢れるドレミ界の屋敷の玄関だった。

 

「……バトレアスさん!」

「よかった……! 無事だったんだね!」

 

 真っ先に駆け寄ってきたのは、プリモアとファンシアだ。特にファンシアは、涙ながらに喜んでいる。

 視線を巡らすと、今日は休養日だったグレーシアとビューティア、さらにミューゼシアもいた。

 

「……えっ」

 

 だが、ビューティアが俺に顔を向けたまま、目を開けた。何かに驚いているらしいが、他のドレミコードたちもそれに気づいたらしく、俺を見下ろしている。

 何かおかしなところでもあるのかと、俺は仰向けのまま自分の体を見てみる。

 腰に、誰かの腕が回されていた。黒い袖も見える。

 

「……あ」

 

 未だ、俺の背中には何かが敷かれていた。腰に回されていた手を慎重に離し、注意深く起き上がると。

 

「きゅぅ……」

 

 目を回して気絶している小夜丸がいた。

 

◇ ◆

 

 クーリアが帰ってきたら、屋敷の空気がどことなく慌ただしかった。何かあったのかをバトレアスに聞こうとした所、改めて説明するとの事だったので、まずはそれを信じて食堂に向かう。そして全員が食堂に集ったところで、バトレアスが話をしてくれた。

 しかし、話を聞き終える頃には、クーリアは額を押さえるしかなかった。あまりにも危うい事態が起きたのもそうだが、もしかしたらバトレアスは二度と帰れなかったのではという事実が恐ろしくて。

 

「――それで、あの小夜丸さんがついて来てしまったんです」

「なるほど……」

 

 話を聞き終えたミューゼシアが一息つく。

 S-Forceの名前はクーリアも聞いた事がある。実際会った事はないが、多次元に渡って治安維持を担う組織だったはず。そのエージェントの1人が、アクシデントとは言えこのドレミ界に来たというのは少し看過できない。

 安全を考えれば、小夜丸というらしいそのエージェントが目覚める前に、こっそり元の世界に戻すのが一番だ。しかしケガをしているため、そのまま放置するのも忍びない。それに、S-Forceがバトレアスを追う理由も聞いておきたかった。

 

「ウィズダム、だったかしら? その男に、バトレアスは見覚えは?」

「それは全く……」

 

 クーリアは、次に気になる事を尋ねてみる。

 街中で遭遇し、白昼堂々ニセの攻撃ドローンを持ち出してまでデュエルを挑んできたウィズダム。バトレアスも知らないとなると、これも厄介な存在だ。彼の前ではバトレアスのデッキも【ドレミコード】から変わらなかったと言うし、転生者の類でもないとすれば、決して無視できない。居合わせていたファンシアとプリモアも、やはり知らないようだ。

 

「それで、そのウィズダムが言うには、私たちが持つカードは『エグザム』と呼ばれていると?」

「……ええ」

 

 今まで、クーリアを含め何人も傷つけ翻弄した白紙のカード。ウィズダムはそのカードの創造主に使わされた。情報を整理すればするほど、事態は混迷を極めていると痛感する。

 

「『エグザム』をS-Forceも持っているのではないか、とウィズダムは言っていました。本当のところは分かりませんが」

「それについては、あの小夜丸さんに聞けたら聞いてみましょう」

 

 グレーシアの言う通りだ。ここには当人がいるのだから、エグザムについての情報は直接聞いた方が早い。今はまだ眠っているが、起きたら事情を聞くとしよう。

 

「でも、バトレアスさんが無事でほんとによかった……」

 

 ファンシアが胸を撫で下ろす。その通りで、バトレアスが無事なのが何よりだ。他のドレミコードたちもそれが一番気がかりだったようで、ファンシアに同意するようにこくこくと頷いている。

 

「でもバトレアスも、トラブルに巻き込まれがちよね」

 

 ドリーミアが溜息をつきながら言った。

 確かに、精霊界に来てから彼はどうも厄介事に巻き込まれがちな印象がある。今回のウィズダムとやらの襲撃や、S-Forceに追われてしまった事も、実際にその身で経験していない身としては言葉もかけづらい。だが、本当に気の毒だ。

 と。

 

「……」

 

 バトレアスは、苦笑ではない、悲しい笑顔を浮かべていた。

 なんだか、見ているクーリアの胸がひどく痛くなる笑顔。

 

「……?」

 

 そこで、クーリアの右手が誰かに握られる。

 座っている位置的に、それは隣に座るプリモアだ。どうしたのだろうと思い、そちらを見てみると。

 

「……」

 

 プリモアは、クーリアを見上げて一粒の涙を流していた。

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