ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第61話:価値

 状況を把握しきれないままミューゼシアを抱え、謎のゲートをくぐった先に待っていたのは、さっきまでいたドレミ界同様にファンシーな見た目の空間。星雲のように青や紫などのグラデーションで彩られた星空、黄金色の大地、スモークのように地面近くを漂う金色の雲。夢の中にでもいるようだ。

 

「ミューゼシア様、しっかり!」

 

 だが、抱えていたミューゼシアや、そんな彼女に心配そうに声を掛けるビューティアをはじめとした女性たちを見て、これが現実なのを小夜丸は実感する。

 小夜丸はゆっくりとミューゼシアを地面に横たえるが、血色はさっきよりも多少良くなっていると思う。

 

「大丈夫、心配しないで……少し休めば、問題ないわ」

「でも、こんな事は今までありませんでしたから……」

 

 エリーティアが不安そうに声を掛ける。どうやら、皆にとってミューゼシアとは、上位存在であるのと同時に精神的な支柱でもあるらしい。そしてここまで傷つく事がない、高次の存在と見受けられる。

 

「小夜丸さんは、大丈夫かしら……?」

「ええ。でも、私よりもあなたの方が……だってさっき、翼を……」

「平気よ」

 

 言いながら、ミューゼシアは金色の翼を広げる。そこに開いてしまっていた穴は、徐々に塞がりつつあった。しかし、その穴を見て多くのドレミコードたちが息を呑んでいる。

 

「……誰が、こんな事を」

「ライトロードのミカエル様よ」

「なんでこんな、乱暴な……」

 

 キューティアが涙を滲ませながら零す。

 小夜丸は何が起きているのか、まだこの状況に戸惑っていた。今まで自分がいた、あるいは見てきた世界では計り知れない出来事が立て続けに起こり、その上人が傷ついている。しかも、自分はほとんど何もできない上、そのライトロードとやらが来たのは自分が救いの手を求めたからだと言ってきた。

 

「……」

 

 たまらず頭を抱えてしまう。

 そんな中、肩に手を添えたのはファンシアだ。

 

「大丈夫だよ、小夜丸さん。クーリア様とバトレアスさんが、あなたを守ってくれるから」

「え……?」

 

 疑問を呈すると、ミューゼシアは体を起こし、タクトを振る。

 次の瞬間に、空中にARのモニターみたいなものが現れた。S-Forceのブリッジヘッドでよく見るものに酷似している。

 そこに映っていたのは、まさしくファンシアが言った通りのクーリアとバトレアス。その2人と相対するように、ミカエルとかいう男と、さっきはいなかった新しい女性がいる。4人はどうやらタッグデュエルをしているようだ。

 

「さっきのキューティアの言葉だけれど……」

 

 ミューゼシアはビューティアに背中を支えられながら、ドレミコードの女性たち、そして小夜丸を見て告げる。

 

「恐らくミカエル様は、エグザムの影響を受けている」

 

 小夜丸は、もう一度モニターを見た。ミカエルとか言う男は至って冷静に見えるが、どうして分かるのか。

 

「あの方は本来正義感に満ちた方で、いきなりこうして人様の世界を急襲するような人ではない。ましてや、問答無用で人を殺そうとする方でもないわ」

「でも、それは……なんか、私を捕らえたからって……」

「事情を聞かずに刃を向けるような冷酷な人でもない。そして何より、今のあの方からは何か強大なエネルギーを感じる」

 

 あの時は確かに、小夜丸があの白い竜の前に姿を見せた直後、バトレアスを狙って槍を放った。それから姿を見せて事情を話してはくれたが、確かに順序が逆になっているような気もしなくはない。

 さらに、わすがながらミカエルから奇妙な雰囲気を感じ取ったのも、小夜丸は覚えている。

 けれど、ミカエルがどういう存在か知らない故、ミューゼシアの言葉と周りの皆の顔でしか状況は読めなかった。

 

「あのカードは、たとえどれだけ真っ当な人でも、性格を歪めてしまう。心が強くても、清廉潔白でも、その奥底にある感情やトラウマを刺激して狂わせる」

 

 ミューゼシアの言葉を聞いたドレミコードたちの表情が曇った。それはまさしく、誰かがそうなったのをその目で見たような所作だ。

 

「そんな危険なカードを、野放しにはできない。今のように他の世界を脅かす事だって十分考えられる」

 

 ミューゼシアはモニターを見るように小夜丸に視線を投げた。

 

「あのカードを手にして、平然と人の世界を踏みにじり、人を襲い、傷つけて、災いをもたらす輩は必ず現れる」

 

 そこに映っているのは、ドレミ界に突然やってきて、攻撃を仕掛けてきたミカエル。まさにミューゼシアが言った通りの事が起きていた。

 

――ヴァーディクトみたいな頭のおかしい奴が手にしたら、絶対に碌な事にはならない。下手すりゃ戦争になるし、それ以前にこのカードが戦争の種になる

 

 以前、エグザムについて最初にブリッジヘッドで会議が開かれた際、ディガンマはそう言っていた。

 恐れていた事が、現実として既に起きている。

 小夜丸の身体が震えた。

 

「それを阻止するために、あなたも持っている情報があるのなら、教えてほしいの」

 

 そしてミューゼシアは、小夜丸に手を差し出してくる。

 ミューゼシアが……いや、バトレアスを含めたドレミ界の面々は、エグザムによって引き起こされるだろう混沌を止めるために動いている。そこには、疑う余地はもうほとんどないだろう。

 S-Forceが目指すものと同じ、彼女たちが望むのは平穏。それなら情報を渡してもいいのかもしれない。

 だけど、やはり小夜丸の判断を妨げるのは、S-Forceの職務だった。

 

 

バトレアス 手札2 / クーリア 手札2 LP4000

【モンスターゾーン】

シドレミコード・ビューティア ATK2500 レベル7

 

【エクストラモンスターゾーン(右)】

□□□ グランドレミコード・クーリア

□◇□ ATK3500

■■■ リンク3

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード2

 

【ペンデュラムゾーン】

右∶レドレミコード・ドリーミア スケール7

 

【フィールドゾーン】

ドレミコード・ハルモニア

 

 

ミカエル 手札3 / ミネルバ 手札0 LP2500

【モンスターゾーン】

カード無し

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード4

 

【フィールドゾーン】

ジャスティス・ワールド

 

 

「ワタシのターン、ドロー」

 

 ミネルバのターンが始まる。最初のターンは守りを固めただけだったが、今あちらのフィールドには4枚の伏せカードがある。1枚は割れているが、どう出てくるか――

 

「このスタンバイフェイズに、罠カード《絶対不可侵領域》発動。手札を1枚捨てる事で、次の相手ターン中、相手の通常召喚及び特殊召喚を禁止する!」

「!」

 

 しかし、動いたのはミカエル。さっき伏せたカードの内1枚は、古いながらも刺さると厄介な制圧カードだ。手札から《ライトロード・シーフ ライニャン》が捨てられると、《絶対不可侵領域》のカードが黄色く光り始める。

 

「《グランドレミコード・クーリア》の効果発動! ペンデュラムゾーンのドリーミアを特殊召喚し、その効果の発動を無効にする!」

 

 すぐさま反応したのはクーリア。俺に不利益を被らせまいとしての行動だろう。フィールドの《グランドレミコード・クーリア》がタクトを構えた。

 

「ダメです、クーリア様……!」

 

 だが、俺はそれが悪手だと気付く。

 それを証明するようにミカエルがニヤリと笑った。

 

「罠カード《迷い風》発動! 特殊召喚された相手モンスター1体の効果を無効にし、攻撃力を半分にする!」

「!?」

 

 発動した《迷い風》のカードから、黒い風が襲い掛かってくる。それを受けた《グランドレミコード・クーリア》は、金色の翼がくすんでしまい、さらに苦しそうに項垂れてしまった。

 

グランドレミコード・クーリア

ATK3500→2700→1350

 

「……ごめん、バトレアス」

「いえ、お気になさらず」

 

 クーリアが謝ってくるが、それは筋違いだ。

 だが、頼もしい《グランドレミコード・クーリア》の効果が封じられ、《絶対不可侵領域》の効果は有効となり、俺は次のターンにモンスターをフィールドに出せなくなる。

 悪い流れができてしまった。

 

「自身の効果でセットした《迷い風》はフィールドを離れた場合に除外される。そして、永続罠《閃光のイリュージョン》発動。墓地より《ライトロード・ドラゴン グラゴニス》を特殊召喚!」

 

 続けてミカエルがカードを発動する。今はミネルバのターンなのだが、それを伏せたのはさっきのターンのミカエルだからか。

 フィールドに魔法陣が広がると、白い光を帯びながら、金色の鬣と尾をなびかせる白竜が姿を現した。背に生える白い翼を広げると、勇ましい咆哮を上げる。

 

ライトロード・ドラゴン グラゴニス

ATK2000 レベル6

 

 蘇生札と《迷い風》の存在を考えると、《グランドレミコード・クーリア》の効果は遅かれ早かれ無効にされて、あちらの展開を優位に進める結果になってしまったわけだ。悔しくて仕方がない。

 

「このカードの攻撃力・守備力は、墓地の『ライトロード』1種類につき300ポイントアップする。今、こちらの墓地にある『ライトロード』は8種類。よって、攻撃力は2400ポイントアップ!」

 

ライトロード・ドラゴン グラゴニス

ATK2000→4400

 

 攻撃力が一気に4000を上回った。ただでさえ墓地肥やしに長けた【ライトロード】だからこそ、1枚あたりの上昇値が低くても攻撃力はここまで上がってしまった。

 

「バトル。グラゴニスで《グランドレミコード・クーリア》を攻撃」

 

 ミネルバが感情の籠っていない声で攻撃宣言をしてきた。するとグラゴニスが首を引き、攻撃する構えを見せる。

 

「永続罠《銀幕の鏡壁(ミラーウォール)》発動! このカードがフィールドにある限り、相手の攻撃モンスターの攻撃力を半分にする!」

 

 クーリアが伏せカードを発動させると、俺たちの目の前に巨大なマジックミラーの壁が出現する。その向こうにいるグラゴニスの身体が屈折するが、あちらはそのままに口から青白い炎を吐き出した。

 

ライトロード・ドラゴン グラゴニス

ATK4400→2200

 

 その炎はマジックミラーの壁を貫き、それに隠れるように姿勢を低くしていた《グランドレミコード・クーリア》を焼き払う。さらに、爆炎と熱風が俺とクーリアに襲い掛かってきた。

 

「きゃっ……!」

「ぐ……ぅ!」

 

バトレアス & クーリア LP4000→3150

 

ライトロード・ドラゴン グラゴニス

ATK2200→4400

 

「ワタシはカードを1枚伏せてターンエンド。そしてこのエンドフェイズに、《閃光のイリュージョン》及びグラゴニスの効果が発動します」

「ならば、こちらは罠カード《ペンデュラム・リボーン》を発動! エクストラデッキまたは墓地のペンデュラムモンスターを特殊召喚する!」

 

 クーリアは、エンドフェイズのミネルバの動きに対して、伏せていたもう1枚のカードを発動させた。そして、俺を見る。

 

「バトレアス!」

 

 俺に効果を使わせるのは、次のターンで俺がもうモンスターをフィールドに出せないから。

 だから、次のターンに勝てるよう少しでもモンスターを増やすためだ。

 

「エクストラデッキの《ソドレミコード・グレーシア》を特殊召喚!」

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2100 レベル5

 

 これでチェーンは終了した。今度はミネルバのカードの効果が適用される。

 

「グラゴニスの効果で、私のデッキの上から3枚のカードを墓地へ送ります。さらに《閃光のイリュージョン》の効果で、2枚のカードを墓地へ送ります」

 

 合計5枚もの自己デッキ破壊。本来のデュエルならデッキ切れを早める行為だが、タッグデュエルだから影響もさほど大きくはない。そして【ライトロード】は、墓地にカードが送られれば送られるほど逆に活きる。

 まず《閃光のイリュージョン》で墓地へ送られたのは《戒めの龍(パニッシュメント・ドラグーン)》《ブレイクスルー・スキル》。続いて、グラゴニスの効果で墓地へ送られたのは《ライトロード・パラディン ジェイン》《ライトロードの裁き》《黄昏の双龍(トワイライト・ツイン・ドラグーン)》だ。

 《ジャスティス・ワールド》の効果は、前のターンにクーリアが使った効果でこのターンまで無効になっているため、シャインカウンターは置かれない。けれど「ライトロード」が墓地に増えた事で、グラゴニスの攻撃力もまたアップしてしまう。

 

ライトロード・ドラゴン グラゴニス

ATK4400→4700

 

 そして、墓地へ送られたラインナップに、ミカエルは得意げに笑った。

 

「『ライトロード』の効果で墓地へ送られた《黄昏の双龍》《ライトロードの裁き》の効果を発動!《ライトロードの裁き》の効果で、私はデッキから《裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)》を手札に加える!」

「《黄昏の双龍》の効果で、ワタシは墓地の《戒めの龍》を手札に加えた後、デッキの上から4枚のカードを除外します」

 

 今度は2人同時に効果を発動してきた。

 しかし、チェーン処理の順番的にはこちらの効果が先に適用される。

 

「俺はグレーシアの効果を発動! デッキから《ドレミコード・フォーマル》を手札に加える!」

 

 グレーシアの効果で、防御に使える有用なカウンター罠を手札に加える。ミカエルが《裁きの龍》を手札に加えるのなら、次のターンに間違いなくそれを使うだろう。ならば、少しでもそれに対処できるカードを手にしていた方がいい。

 一方、ミネルバは墓地から《戒めの龍》というカードを手札に戻した後、デッキから4枚のカードを除外していった。除外されたのは《ライトロード・メイデン ミネルバ》《トワイライトロード・ファイター ライコウ》《魂の解放》《ライトロード・アイギス》だ。《裁きの龍》は知っているが、《戒めの龍》の効果は全く覚えておらず、自分の記憶力の低さを恨む。

 最後にミカエルが《裁きの龍》を手札に加えた事で、ミネルバのターンは終わりを迎えた。これで《ドドレミコード・クーリア》の効果が終了し、《ジャスティス・ワールド》の効果も有効となる。神聖な光と雰囲気が、再びフィールドを満たし始めた。

 

「俺のターン!」

 

 ドローしたものの、デュエルディスクに「You Can't Summon」と表示され、背景に《絶対不可侵領域》のカードが映る。デュエルアリーナでベルゲニアとデュエルをした際、《ヨーウィー》の効果でドローロックをされた時と同じだ。

 そして、そのデュエルの思い出から、連鎖的に都市の世界の一区画が崩壊してしまったのを思い出す。胸が締め付けられる。

 

「さあ、バトレアス。鏡壁の維持コスト2000ポイントはどうする?」

 

 そんな俺に、ミカエルが試すように聞いてくる。

 俺はクーリアをちらと見るが、彼女は少しだけ笑って頷いた。

 

「……俺はコストを支払わずに鏡壁を破壊する」

 

 宣言すると、フィールドに現れていた鏡壁のカードは破壊された。

 前世ではデュエルの初期ライフが8000だったから、2000という維持コストは高いものの、それに見合った効果であるとは俺も思う。けれど、精霊界でのデュエルは初期ライフが4000だから重いどころではない。その上、次のターンにミカエルの手で破壊されてしまえばコストも無駄になってしまうからこそ、維持するのは危険だった。クーリアも初期ライフの半分というコストが重いと理解し、使い捨てのつもりで入れていたのだ。

 

「ほう、主のカードを自ら破壊するとはな」

 

 ミカエルの言葉に、喉が詰まるような感覚に陥る。

 思えばこのデュエルは、クーリアに助けられっぱなしだ。最初のターンから俺は大して有効な打撃を与える事もできず、せいぜいがクーリアの手助けをするぐらい。まったくと言っていいほど貢献していなかった。

 首を振って、目の前の敵に集中する。

 

「墓地の罠カード《スキル・サクセサー》を除外して効果発動。このターン、グレーシアの攻撃力を800ポイントアップさせる」

 

 最初のミカエルのターンに墓地送りにされた罠カードを墓地から除外すると、グレーシアをオレンジ色のオーラが覆った。

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2100→2900

 

 ビューティアの効果があれば、攻撃力2100以上の相手モンスターをバトル前に破壊できる。グラゴニスの攻撃力が4700あってもその効果で破壊して、グレーシアでダイレクトアタックを決められる。ミカエルに《裁きの龍》を召喚される前に、倒せる。

 しかし伏せカードはまだ2枚残っているし、エンジェリアがいないから罠カードの発動は止められない。であれば、少し勿体ない気がするが、手札のカードを手にする。

 

「スケール8の《ドドレミコード・キューティア》をペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 さっきのターンに、クーリアの計らいで手札に加えたキューティア。本来なら召喚時のサーチ効果をメインに使うが、召喚は封じられ、スケール的な意味でもペンデュラムゾーンに置いたところでペンデュラム召喚はできない。

 光の柱が出現し、その中に佇むキューティアも俺を見て不安そうな顔を浮かべていた。だが、俺はそんなキューティアを見上げ、大丈夫だと頷いて伝える。

 

「ハルモニアの3つ目の効果発動! 俺たちのフィールドには、偶数のスケールが3種類と、奇数のスケールが1種類! よって相手フィールドのカード1枚を破壊する!」

「速攻魔法《手札断殺》を発動。お互い手札を2枚捨て、新たに2枚ドローする」

 

 それは今さっきミネルバが伏せたカードだ。

 そしてデュエルディスクには、俺かクーリアのどちらかが《手札断殺》の効果を受けるように選ばせてくる。

 俺の手札は3枚。さっきの《ドレミコード・フォーマル》以外の手札は、1枚が役立つもので、もう1枚は現状腐っている。どうすべきか。

 

「バトレアス、ここは私が受けるわ」

「しかし……」

「大丈夫。任せて」

 

 悩んでいると、言うが早いかクーリアがデュエルディスクを先に操作して手札を2枚捨てた。捨てられたのは《ラドレミコード・エンジェリア》と《ペンデュラム・エクシーズ》。ミカエルが捨てたのは《黄昏の交衣(トワイライト・クロス)》と《月女神の鍬(アルテミット・スレイ)》だ。両者とも、使うタイミングが微妙に合わなかったから、消去法で捨てたのだろう。そして案の定、ミカエルは《裁きの龍》を温存した。

 

「なら、ハルモニアの効果でもう1枚の伏せカードを破壊する!」

 

 ハルモニアの破壊効果は「対象に取る」のではなく「選ぶ」効果。よってチェーンされてカードが減っても、新しく破壊できるカードを選びなおせる。

 最後に伏せられたカードを指さすと、ハルモニアの五線譜の円環から雷が落ちて、破壊された。これで攻撃反応系のカードを破壊できたら、ビューティアとグレーシアの攻撃であちらのライフを削り切れる。

 

 前のターンの《ペンデュラム・リボーン》で、エンジェリアではなくグレーシアを呼んだのは、クーリアが使った《バトルフェーダー》のような攻撃時の手札誘発を防ぐためだ。フィールドにあるカードなら、ハルモニアの効果で対処できる。

 そして、残っていた伏せカードは、最初のミネルバのターンから伏せられていた。今まで発動する兆候はなかったが、もしかしたらダイレクトアタックを受ける時か、自分のライフ以上のダメージを回避するカードかもしれない。

 どちらにせよ、破壊しておくに越した事はないはずだ。

 

 だが、雷に打たれて露わになったカードは。

 

「《やぶ蛇》……っ!?」

「君が慎重な奴で嬉しいよ」

 

 皮肉たっぷりにミカエルが笑うと、空に手を掲げる。

 

「《やぶ蛇》はセット状態で相手によってフィールドから離れ、墓地へ送られた場合、または除外された場合に効果が発動する。これにより、私はデッキまたはエクストラデッキからモンスターを1体特殊召喚する!」

 

 ミカエルが手をかけたのは、エクストラデッキ。

 

「現れろ、《フルール・ド・バロネス》!!」

 

 光の柱が天からフィールドに落ち、その中からモンスターが飛び出してくる。紅色の甲冑に身を包み、鎧を着けた駿馬に跨る、大きな剣と盾を両手に携えた女騎士だ。

 

フルール・ド・バロネス

ATK3000 レベル10

 

「まさか……」

「こんな状況で出てくるなんて……」

 

 俺だけでなくクーリアも、目の前に現れた強力なモンスターに表情が苦しくなる。

 

 《やぶ蛇》も《フルール・ド・バロネス》も、前世ではマスターデュエルで何度も直面したカードだ。

 

 前者は主に【メタビート】で使われる。ケアのためにバック破壊をした結果、エクストラデッキから完全耐性持ちのモンスターが出てきて、突破できず負ける事が何度もあった。出てくるのは大抵、そのデッキではどうあがいても正規の方法で召喚できないカードばかりで、いわゆる脱法召喚に対するフラストレーションと一緒に覚えている。

 

 後者はシンクロ素材の縛りが非常に緩く、それでいて強力な効果を持ち併せ、多くのデッキで採用されていた。1ターンに1度のカード破壊、1度だけどんな効果の発動も無効にして破壊、さらに自身をバウンスする事で墓地からレベル9以下のモンスターを蘇生し使い回せる。レベル10がシンクロ召喚できるなら、入れない理由はないとされるほどのモンスター。これも、文字通り嫌になるほど見てきた。

 

「恨むなら、無駄な事をした自分自身を恨むのだな」

「……そうですね」

 

 ミカエルの皮肉か、あるいは忠言を適当に聞き流す。

 確かに厄介な性能を持つバロネスだが、今の俺のフィールドなら突破は可能だった。

 

「バトル! ビューティアでバロネスを攻撃! ビューティフル・アラベスク!!」

 

 攻撃宣言をすると、ビューティアの胸に抱えられた妖精体がハープを奏でると、ビューティアの足元の地面から勢いよく連符が出現し、バロネスへと迫る。

 

「ビューティアの効果発動! 俺のペンデュラムゾーンで一番低いスケールは7。よってその300倍、2100以上の攻撃力を持つ相手モンスターとバトルする時、その相手モンスターを破壊する!」

「無駄な事を。バロネスの効果発動! このカードがフィールドに表側でいる限り1度だけ、魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にし、破壊する!」

 

 ビューティアの効果は強制効果。発動するかどうかは選べないため、バロネスの効果を発動する機会を与えてしまう。バロネスが右手に持つ剣をビューティアに向けると、花びらを纏う風が吹き始めた。

 しかし俺は、無策に攻撃したつもりはない。

 

「グレーシアの効果で、俺のペンデュラムゾーンに偶数のスケールがあって、『ドレミコード』ペンデュラムモンスターが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手はモンスター効果を発動できない!」

「何だと?」

「つまり、このダメージステップでバロネスの効果は使えない! ビューティアの効果は有効だ!」

「!」

 

 バロネスが構えていた剣を鞘に戻す。

 ビューティアが生み出した黒い連符が、バロネスとその馬を球状に包み込み、内部を強い光で満たす。そして連符が解かれると、そこにバロネスの姿はもうなかった。

 

「ナイスよ、バトレアス!」

「これで、少しは貢献できたでしょうか」

 

 クーリアに褒められるのが照れ臭かったが、今までの自分のミスを少しは取り返せただろう。

 とはいえ、攻撃力4700のグラゴニスにはもう手が回らない。仕方なく、バトルフェイズは終了させた。

 

「グレーシアを守備表示に変更する」

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2900→DEF1400

 

「ハルモニアの効果を発動! クーリア様、どうぞ」

「ありがとう。私はエクストラデッキのファンシアを手札に加えるわ」

 

 さっき俺がしてもらった事を、同じようにクーリアにも返す。これで次のクーリアのターンは、少しやりやすくなっただろう。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド。《スキル・サクセサー》の効果も終了する」

 

ソドレミコード・グレーシア

ATK2900→2100

 

 最初のミカエルのターンに破壊された《スキル・サクセサー》は、微量とは言え攻撃力をアップする効果。【ドレミコード】における打点不足問題を多少は解消できるだろうと、お守り感覚で投入していた。結果は無駄遣いになってしまったので、これが凶と出ない事を祈る。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 次はミカエルのターンだ。さっきのターンは強気に攻め、さらに俺たちの行動を妨害するカードを連発した彼は、どう出るか。

 一旦引いたカードに視線を落としてから、ミカエルは、ふっと笑って俺を見る。

 

「つくづく、哀れに思うよ。バトレアス」

「?」

「君のやる事なす事が裏目に出てしまっているのだから」

 

 まさに、哀れなものを見る目を向けたミカエルは、グラゴニスを指さした。

 

「教えてやろう。グラゴニスは守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が上回っていれば、その分だけ戦闘ダメージを相手に与える」

「!」

「つまり君は、さっきのターンで堅実に勝とうとした結果、却って君と君の主であるクーリアを危険に晒す今の状況を作ってしまったわけだ」

 

 グラゴニスがミカエルに加勢するように、俺に向かって咆哮をぶつけてくる。突き付けた事実は、俺の心に刺さった。

 現状、グラゴニスの攻撃力は4700。俺とクーリアのライフは3150。つまり、守備力1400のグレーシアを攻撃されれば、俺たちのライフは尽きてしまう。

 さっきのターンに、俺が余計な事をしたばかりに、こんな状況になってしまった。

 

「バトルだ。グラゴニスでグレーシアを攻撃!」

 

 そんな憐憫の視線と口調で、攻撃宣言をするミカエル。

 再びグラゴニスが青白い炎を吐き出してきた。

 

「カウンター罠《攻撃の無力化》発動! 攻撃を無効にし、バトルを終了させる!」

「ちっ……」

 

 しかし伏せカードを発動すると、グレーシアとビューティアの前に透明な壁が出現し、グラゴニスの炎からその身を守ってくれた。

 貫通効果は考えが足りなかったが、どうにか防げた。しかもミカエルは、《裁きの龍》で伏せカードを除去して安全に攻撃をしようとせず、今の攻撃で勝つつもりでいた。勝負を急いだ結果、それを防がれて機嫌が悪くなったのが見て分かる。

 

「ならばメインフェイズ2。墓地に『ライトロード』が4種類以上存在する場合、このカードは手札から特殊召喚ができる!」

「!」

「現れろ、果てしなき罪と蛮行を裁く崇高なる白龍!《裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)》!!」

 

 両手を広げ、高らかな宣言と共にフィールドに現れたのは、先ほどドレミ界に突如として現れ、屋敷を傷つけた純白の龍。真紅の爪は地面に強く食い込み、翼を広げただけで風が起き、その咆哮は空気を震わせた。

 

裁きの龍

ATK3000 レベル8

 

 【ライトロード】については、自己デッキ破壊の基本戦術と、この《裁きの龍》についてしか知らない。そして、この《裁きの龍》をメインフェイズ2で出したという事は、本当にさっきのグラゴニスの攻撃で俺たちを負かすつもりだったのだろう。

 その効果が発動する前に、動かさせてもらう。

 

「ビューティアの効果発動! このターン、グラゴニスはフィールドから離れた場合に除外される!」

 

 グラゴニスを指さすと、ビューティアの抱える妖精体がハープを奏で、出現させた黒い連符で雁字搦めに縛り上げようとする。

 しかし、ここでミネルバが動いた。

 

「墓地の《ブレイクスルー・スキル》を除外し、効果発動。相手モンスター1体の効果をターンの終わりまで無効にします」

「く……」

「君の狙いなど読めている」

 

 魔法陣から罠カードが現れ、紫の怪しい光を放つ。その光に照らされたビューティアは苦しそうに胸を押さえ、グラゴニスを縛ろうとした連符は朽ち果てた。

 グラゴニスのパンプアップは厄介だ。あちらが蘇生札をまだ持っている可能性を考えて、墓地に置いておきたくはなかった。それをミネルバやミカエルに読まれたわけだ。

 そして、ミカエルは腕を振る。

 

「《裁きの龍》の効果発動! 1000ポイントのライフを払う事で、フィールドの他のカードを全て破壊する! ジャッジメント・ストーム!!」

 

ミカエル & ミネルバ LP2500→1500

 

 《裁きの龍》が怒りを示すように咆哮を上げると、その翼を勢いよく羽ばたかせて嵐を巻き起こす。

 この豪快な全体除去効果こそ、《裁きの龍》の象徴。確か設定では、この《裁きの龍》がライトロードにおける最終兵器のような立ち位置だっただろうか。

 それはさておき、もう1枚の伏せカードはを使うのは今だ。

 

「カウンター罠《ドレミコード・フォーマル》発動! ペンデュラムゾーンに『ドレミコード』があって、相手が効果を発動した時、エクストラデッキの『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1体をデッキに戻して発動する」

 

 このタッグデュエルのルールでは、自分が使うカードのコストは自分が払わなければならない。よって俺は、エクストラデッキのエンジェリアをデッキに戻す。すると、半透明な状態のエンジェリアが俺たちのフィールドで舞い踊り、タクトを振ってオレンジ色の五線譜や音符を無数に出現させた。

 

「これにより、『ドレミコード』ペンデュラムモンスターはその効果を受けず、ペンデュラムゾーンの『ドレミコード』は破壊・除外されない!」

「!」

 

 《裁きの龍》が発生させた嵐がフィールドで逆巻く。けれど、ビューティアとグレーシア、光の柱の中にいるキューティアとドリーミアは耐えるように姿勢を低くするだけで、破壊はされない。しかし《ドレミコード・ハルモニア》と、今発動した《ドレミコード・フォーマル》は破壊されてしまう。そして、ミカエルたちのフィールドにいるグラゴニスは破壊された。

 

「では、2度目はどうする?」

 

 ミカエルが試すように言う。

 俺は、拳を握った。

 

ミカエル & ミネルバ LP1500→500

 

「再び喰らえ、ジャッジメント・ストーム!!」

 

 《裁きの龍》がまた咆哮を上げ、翼をはためかせて嵐を巻き起こす。今度は防ぎきれず、俺たちのフィールドに残っていた4人の「ドレミコード」は破壊されてしまった。

 《裁きの龍》の強さは、全体除去効果に1ターンに1度の制約がない点もあるだろう。1回は《ドレミコード・フォーマル》で防ぎ、1000ポイントのライフを浪費させたとはいえ、クーリアに何も引き継げないのは痛い。

 そうして俺たちのフィールドが完全にがら空きになったのを見て、満足そうにミカエルは頷く。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド。そしてこのエンドフェイズに、《裁きの龍》の効果で私のデッキの上から4枚のカードを墓地へ送る」

 

 最後に発動する自己デッキ破壊効果。これでさらに「ライトロード」の展開を広げる事も可能になるわけだ。そうして墓地へ送られたのは、《ライトロード・デーモン ヴァイス》《ライトロード・プリースト ジェニス》《ライト・バニッシュ》《ライトロードの神域》だった。

 

「墓地へ送られたヴァイスの効果発動。このカードがデッキから墓地へ送られた場合、墓地から自身以外の『ライトロード』を1体特殊召喚する。甦れ、グラゴニス!」

 

 ミカエルが手をかざすと、フィールドに現れた魔法陣から、再び白竜が姿を見せた。それも、攻撃力をさっきよりもさらにアップさせて。

 

ライトロード・ドラゴン グラゴニス

ATK2000→5300 レベル6

 

「特殊召喚されたグラゴニス自身も、効果に依りエンドフェイズにデッキから3枚のカードを墓地へ送る」

 

 そうしてまた墓地へ送られたのは《トワイライトロード・ジェネラル ジェイン》と《神の宣告》《サイクロン》だった。

 

ライトロード・ドラゴン グラゴニス

ATK5300→5600

 

 グラゴニスが低く唸る。鋭い眼差しに、膝が笑いかけた。

 

「バトレアスよ、君は主のクーリアにつなぐため、彼女を守るために戦っているのは見て取れた。だが、お世辞にもそれができているとは思えんな」

 

 強力なモンスターを2体揃えたで気分が高揚しているのか、ミカエルはそんな言葉を俺に投げかけてきた。

 ライトロードは正義の集団だと聞いているが、ミカエルは皮肉屋なのだろうか。あるいは、善悪の区別ができてもそれは独善的でしかないのだろうか。エグザムのカードを持っていると仮定しても、精霊界で彼らと接した機会がないから分からない。

 

「私たちの戦法が君たちに効いたのは確かだが、君はそれに対して有効な手立てをさほど打てず、クーリアに頼るきらいがあった。違うか?」

 

 悔しいが、言っている事は確かだ。最初のターンの《センサー万別》から始まり、次のターンは《絶対不可侵領域》で思うような展開もできなかった。さらに、俺が慎重を期した結果《やぶ蛇》を破壊してしまい、勝ち筋を自分で潰して窮地を作ってもいる。できた事は、クーリアが戦えるようなサポートと、ちょっとばかりの露払いぐらいだ。

 

「この際だからはっきり言う。君はむしろ、クーリアの足を引っ張っているのだよ」

「……」

「いや、それ以前に……あの少女がここに来たのは君のせいだと言っていたな。であれば、今こうして我々がここにいて、ドレミコードたちと敵対しているのも君のせいだな?」

 

 心のどこかで、何かが折れる音が聞こえた。

 

「君は従者でありながら、仕える者たちを危険に晒している。そんな君には、誰かを守る資格はなければ、ここにいる意味も、価値もない」

 

 言い返せない。

 心臓がどくどくと恐怖するように脈打っている。

 あの時、俺が小夜丸を大人しくミカエルたちに引き渡せば、こうはならなかった。

 あの時、俺がS-Forceから逃げなければ、小夜丸はここに迷い込まなかった。

 あの時、俺が都市の世界へ行かなければ、街は破壊されなかった。

 俺が、何もしなければ。

 俺が、ドレミ界にいなければ――

 

「ミカエル様」

 

 声が、響いた。

 俺にとっては聞き慣れた、クーリアのものであるのはすぐ分かった。

 けれど、重苦しさを孕んでいるような感じがして、

 

「ごめんなさい。何を言っているのかよく分からなかったのですが……もう一度仰ってもらえますか?」

 

 空気が恐怖する感覚が、そこかしこから伝わってくる。

 恐る恐る目をやると、クーリアは俯いていた。注意深く見てみると、両腕が震えている。

 

「クーリア。君は――」

「もう一度、仰ってもらえますか?」

 

 そして顔を上げたクーリアは。

 

 

「バトレアスが、何ですって?」

 

 

 初めて見るような、怒りの表情だった。

 

「ここにいる意味がない? 価値がない? 私たちの事をほとんど知らないあなたが、そんな評価を下す権利はありません」

「何?」

「あなたは知る由もないでしょうが、彼がいなければ、このドレミ界に限らず全ての精霊界は破滅していましたよ」

 

 俺と同じ転生者だったヴァーディクト。あいつは、全ての精霊界をリセットして新しい世界を創るという目標を掲げていた。奴は神に匹敵する力を持っていたので、クーリアの言った通り、精霊界はいずれ破滅していたかもしれない。

 

「その過程で、彼は確かに私たちを守り、救ってくれた。その命を犠牲にしてでも……」

「命だと――」

「そして、明らかに正気でないあなたに小夜丸さんを引き渡さず、こちらで守る事を選んだ」

 

 ミカエルの疑問を無視し、さらにずっとミカエルから感じていた違和感を「正気でない」と真っ向から言い切った。

 これだけで、普段の柔和なクーリアからは考えられないほどの苛烈な言動と思わされる。

 それだけ、クーリアは俺のために怒っているのだ。

 

「宣言もなくこちらの世界に強引に踏み込み、私たちの屋敷を傷つけたあなたに……これまでの私たちを何一つ知らないあなたに……()()大切なバトレアスを悪く言われる筋合いはありません」

 

 クーリアは、声を高らかに張り上げては無い。

 けれどその言葉に、クーリアの確かな力と気持ちが濃縮されている。

 言葉が強く響いたように聞こえたのは、そのせいだ。

 

『言い方が少し、違うんじゃないかしら?』

 

 乗じるように、別の声が後ろから聞こえた。肉声ではなく、まるで電話で聞こえるような感じで。

 振り返れば、そこにはARビジョンのような画面が浮かんでおり、ミューゼシアが映っている。その背後にはドレミコードの皆もいて、その誰もが、力の籠った目をこちらに向けていた。

 

『クーリア、あなたとバトレアスの関係を茶化すつもりはないけれど……「私の」は些か独占欲が強過ぎね?』

 

 ミューゼシアが困ったように笑うと、クーリアも少しだけ笑う。

 

『けれど、バトレアス』

 

 だが、名前を呼ばれた事で気が引き締まる。

 何を言われるのか、怖かった。

 

『あなたがこのドレミ界にやってきた事を恨んだ事は、一度たりともない。あなたがいなければ、あなたのせいで……なんて考えた事もない』

「……」

『これは私だけでなく、ドレミコード全員の総意でもあるのよ』

 

 証明するように、ミューゼシアが少しだけ皆の方を振り向く。キューティア、ドリーミア、エリーティア、ファンシア、グレーシア、エンジェリア、ビューティア、そしてプリモアが頷いてくれた。

 

『あなたは今、自分がこれまでしてきた事に、疑問と後悔を抱いているでしょう。そんなあなたに今、私たちが確実に言えるのは、あなたがいてくれたからこそ、今私たちは存在できているという事』

「……」

『あなたは十分、私たちの力になってくれている、大切な仲間。決して無価値だなんて事はない』

 

 目元が熱くなってきて、目を開けられない。

 ミューゼシアの優しい声が、響いた。

 

『あなた自身が今の自分に自信が持てなくても、あなたの強さと真っ当さは、私たちが理解している。それをどうか信じて、これからも私たちと一緒にいてほしい』

 

 拳を握る。

 自分が今までやってきた事、取ってしまった選択が正解かどうかなんて、全部は分からない。

 だけど、ここまでしてもらって蹲っているままでは、皆の気持ちに答えられない。

 クーリアと顔を見合わせる。

 

「バトレアス。私もまた、あなたには何度も助けられた。そして何より、あなたを愛してる」

 

 ミカエルやミネルバがいる前で、それを言われるのは非常に照れ臭い。

 だけどその言葉は、とても強い安心感を与えてくれた。

 

「そんなあなたに価値が無いだなんて、誰にも言わせない。私がそれを証明して見せる」

 

 そうしてクーリアは、自身のデッキに指をかけた。

 

「私のターン!」




意図せずフォルテシモ戦みたいな事になってしまった
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