ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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引き続きサイドストーリーです。


第65話:増援

 車内を駆けながら、プラ=ティナは焦る。バトレアスがいるかどうかが不明瞭だったが、まさか列車が暴走状態だなんて。

 途中、目についた列車の非常停止スイッチを連打してみた、一向に止まる気配がない。運転士がそれに応えられな状況なのだ。おまけに車掌のルータスも見つからず、打つ手がない。聡い乗客も異変に気づいているだろう。

 けれど、この事態に車掌が気づかないはずもない。多分だが、ルータスが一枚噛んでいる。

 それについてじっくり話をするのは確定だが、まずは列車をどうにかしなければ。

 

「……ダメか」

 

 ついに、先頭車両の最前部に辿り着く。窓や壁がない、バルコニーのように開けた場所。わずかな期待をしていたが、そこにはバトレアスもルータスもいなかった。

 そしてこの先にあるのは機関車。目の前にある炭水車の梯子を上って乗り込むしかないのだが、そこでプラ=ティナは嫌なものを見つけた。

 機関車と客車をつなぐ連結部分。そこに連結器があるはずだが、それに覆いかぶさるように機械が取り付けられている。六角形のそれは銀色の板で覆われ、意味ありげにケーブルがいくつも伸びている。タイマーの類はついていないが、何かは分かった。

 

「爆弾……か」

 

 最終手段として、列車を止められない場合は機関車と客車を切り離すのも選択肢の一つとしていた。だが、こんなものを見せられてはそれもできるわけがない。

 機関車が止められる事を願い、プラ=ティナは炭水車の梯子を登る。そして、登り切ったところで何となく後ろを振り向いてみると。

 

「……テータ!」

 

 屋根の上で、テータが誰かと対峙している。というか、デュエルをしていた。相手の姿はよく見えないが、あいつが諸悪の根源だろう。

 兎に角、悪者の相手はテータに任せて、プラ=ティナは運転室へ急ぐ。

 けれど案の定、機関士も、機関助手もいなかった。石炭を罐にくべるためのスコップが、床に無造作に置かれているのが全てを物語っている。

 

「……マズいわね、これ」

 

 プラ=ティナは機関車を含めた列車の操縦に詳しくはない。

 けれど、操縦に必要なレバーの類が全部壊されていた。流石にこれで、もう列車は止められないと分かる。

 そしてこれは、プラ=ティナとテータだけで対処できる状況ではない。

 

「エージェント・BLVO-15より本部へ、応援を求む」

 

 だから無線でブリッジヘッドへ応援を要請した。

 けれど返ってくるのはノイズだけ。ここがブリッジヘッドから観測可能な次元である以上、圏外などあり得ない。であれば、何らかの要因で妨害されている。苛立ちが募り、ヒールで床を叩く。

 視界の端では、列車が田園地帯を抜けて森の中へと入ったところだ。

 

◆ ◇

 

テータ LP1500 手札1

【モンスターゾーン】

S-Force(セキュリティ・フォース) エッジ・レイザー ATK1500 レベル4

S-Force ラプスウェル ATK2400 レベル6

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード2

 

 

ルータス LP4000 手札2

【モンスターゾーン】

カード無し

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード1

 

【フィールドゾーン】

転回操車

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見て、ルータスはわずかに目を見開くと手札に加え、別のカードを手にする。

 

「魔法カード《臨時ダイヤ》発動! 墓地より、攻撃力3000以上の機械族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。ナイト・エクスプレス・ナイトを復活!」

 

 ルータスの背後に魔法陣が出現し、その中からまたレールが伸びる。先ほども見た騎士が乗る急行列車が現れた。

 

深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト

DEF3000 レベル10

 

「僕の場に機械族・地属性モンスターが特殊召喚された事で、手札の《重機貨列車デリックレーン》の効果発動! このカードを特殊召喚する! ただし、攻撃力と守備力は半分になる」

 

 ナイト・エクスプレス・ナイトと並行するようにレールが出現し、別の列車が現れる。クレーン車を牽引する黄色いカラーリングのディーゼル機関車が、野太い汽笛を鳴らした。

 

重機貨列車デリックレーン

ATK2800→1400 レベル10

 

「またレベル10のモンスターが2体……」

「そして魔法カード《アイアンドロー》を発動。僕のフィールドのモンスターが機械族の効果モンスター2体のみの場合、さらに2枚ドローする!」

 

 ドローしたカードを見てルータスは頷き、フィールドにいる2体のモンスターに目をやる。

 

「レベル10のナイト・エクスプレス・ナイトとデリックレーンでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」

 

 宣言されると、今度は青空にエクシーズの渦が出現する。そこに向かって、2つの列車がオレンジ色の光へと変わり、吸い込まれていく。

 

「現れろ、No.81!」

 

 光を飲み込んだ渦が爆発を起こし、天空から現れたのは、手榴弾のような形状の鋼鉄の塊。その内側から光が洩れ出るとパーツが展開しはじめ、その直下には4対12本のレールが出現し、動力部と思しき部分がレールの上に乗る。そして、上部のパーツはやがて巨大な1つの主砲と、2つの副砲を形作った。

 

「混迷を極めし戦場を一掃する力の象徴、鉄路の果てより来たれ!《超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ》!!」

 

No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ

ATK3200 ランク10

 

 その名が告げられると、スペリオル・ドーラはまるで歓喜するようにモーターの駆動音を唸らせ、辺り一帯に響かせる。

 見上げるテータは、その音が腹に響くのを感じつつ、冷汗を流した。

 遊戯王における【列車】の強みは、高い攻撃力とバーンで攻め立てる事。それは理解していたが、実際に精霊界で目の当たりにすると、まずモンスターの大きさに度肝を抜かれる。今目の前に召喚されたスペリオル・ドーラも、高層ビルディングに並ぶレベルだ。

 そしてこの世界で、「ナンバーズ」は何か特殊な力を持っているらしい。見ているだけで肌に緊張感が走る。

 とはいえ、以前少しだけ感じたエグザムとは違う感覚。これはエグザムではなさそうだ。

 

「覚悟してください、バトル!」

 

 ルータスは他に何もせず、そのまま攻撃に持ち込んできた。

 伏せカードを使うなら今だろう。

 

「罠カード《S-Force スペシメン》発動! 相手フィールドにモンスターがいる時、墓地または除外されている『S-Force』を1体、その正面に特殊召喚できる。除外されているプロフェッサー・ディガンマを特殊召喚!」

 

 頭上にワープゲートが開き、降り立つのは体格の良い壮年の科学者。両手には稲妻が宿り、不敵に笑ってルータスを見据える。

 

S-Force プロフェッサー・ディガンマ

DEF1500 レベル3

 

「そして、特殊召喚したプロフェッサー・ディガンマの効果発動! 相手モンスター1体の表示形式を変更する! 俺はスペリオル・ドーラを――」

「そうはさせない! スペリオル・ドーラの効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、フィールドのモンスター1体を自身以外の効果から1ターンの間守る!」

「!」

 

 スペリオル・ドーラの砲塔付近を漂っていたオーバーレイ・ユニットのひとつが、中枢部に埋め込まれているオレンジ色のコアに吸い込まれる。そして、砲塔や砲身に刻まれているラインがオレンジ色に輝き始めた。

 

No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ

ORU:2→1

 

 これでプロフェッサー・ディガンマの効果からスペリオル・ドーラを守り、攻撃を押し通す。その算段を見越し、テータはもう1枚の伏せカードを指さした。

 

「罠カード《S-Force チェイス》発動! 俺のフィールドの『S-Force』の種類の数まで、相手フィールドの表側表示カードを手札に戻す!」

「何!?」

 

 そのカードはスペリオル・ドーラが召喚される前に使ってもよかったが、何が来るかを見極めるべきだと思い温存しておいた。そして、ルータスは完全耐性を得る前にバウンスされる事が意外だったらしく、目を見開いている。

 

「俺はスペリオル・ドーラをエクストラデッキに戻す!」

「クソ……!」

 

 指さすと《S-Force チェイス》のカードが光り輝き、その光に照らされたスペリオル・ドーラは無数の光の粒子となって消え去る。それを見て、ルータスの余裕がわずかに崩れた。

 

「だが、オーバーレイ・ユニットとして墓地へ送られたデリックレーンの効果で、相手フィールドのカード1枚を破壊できます! 対象に選ぶのはラプスウェル!」

「く……」

「さらに、相手フィールドにモンスターが3体以上存在するため、罠カード《転轍地点》を発動! 僕が選んだモンスター1体を基準に、あなたは2つの効果から1つを選んで適用しなければなりません。選ぶのはエッジ・レイザー!」

 

 立て続けに発動する罠カード。

 すると、テータの目の前に効果が表示された。それは、「エッジ・レイザーを墓地へ送る」か、「エッジ・レイザー以外のモンスターを全て墓地へ送る」か。デリックレーンの効果も合わせると、どちらを選んでもテータのフィールドのモンスターは2体消えてしまう。

 となれば。

 

「俺は、エッジ・レイザー以外のモンスターを全て墓地へ送る」

 

 プロフェッサー・ディガンマには悪いが、レベル4で攻撃表示かつサイバース族のエッジ・レイザーは、ステータス的に他の特殊召喚の素材にしやすい。次のターンで活かせるカードを引けるかは分からないが、勝つ可能性を少しでも残すため、そして手札のカードを使えるようにするためにそちらを選ぶ。プロフェッサー・ディガンマとラプスウェルは、データに何かを託すように頷き、姿を消してしまった。

 

「僕はカードを2枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 

 どうにか敗北は回避できたが、まだ気は抜けない。

 しかし、今引いたカードは攻撃に使えない罠カード。仕方なく、最初のターンに手札にあったカードを使う。

 

「墓地より、光属性のラプスウェルと、闇属性のプロフェッサー・ディガンマを除外し、《カオス・ダイダロス》を特殊召喚!」

 

 墓地から姿を見せる2人のエージェントが姿を消すと、空に雲の渦が現れる。そこから雷鳴と共に現れたのは、灰色の長い身体の竜だ。

 

カオス・ダイダロス

ATK2600 レベル7

 

「《カオス・ダイダロス》の効果発動! フィールド魔法が存在する時、その数までフィールドのカードを対象として除外できる!」

「何!?」

「俺は、左側に伏せられたカードを除外する!」

 

 《カオス・ダイダロス》が吼えると、一瞬で空に黒雲が広がり、雷が落ちる。そして、伏せられていた《冥府の合わせ鏡》が除外された。あれは確か、受けたダメージの種類によって効果が変わるものだったはず。除外して正解だったかもしれない。

 テータのデッキにいるモンスターは、「S-Force」を始め光・闇属性が混在している。また、除外されたモンスターを活用できるカードもあるため、「カオス」系のモンスターは無理なく採用できるのだ。さらに、あちらがフィールド魔法の《転回操車》を使ってくれたおかげで、上手く効果を使う事ができた。

 

「バトル! まずはエッジ・レイザーでダイレクトアタック!」

 

 ルータスのフィールドにモンスターはいない。伏せカード1枚が気になるが、【列車】は高い攻撃力で攻めまくるデッキだ。この状況で攻撃を躊躇ってはならないだろう。

 サイバーチックな侍がルータスに斬りかかる。前のターンは《工作列車シグナル・レッド》に防がれたが、今回はあちらも防ぐ手立てがないらしく、大人しく斬られていた。

 

ルータス LP4000→2500

 

「さらに、《カオス・ダイダロス》でダイレクトアタック!」

 

 《カオス・ダイダロス》の口が開き、雷が迸る。この攻撃が通れば勝利だが――

 

「罠カード《カウンター・ゲート》発動! 相手のダイレクトアタックを無効にし、1枚ドローする!」

 

 発動したカードが光り、《カオス・ダイダロス》は攻撃するのを止めた。ダメージの量を考えて、エッジ・レイザーの攻撃は敢えて受けたのか。

 

「そして、ドローしたカードがモンスターなら攻撃表示で召喚する」

 

 ルータスは1枚ドローしたものの、それを見て首を横に振る。どうやら、モンスターではないか、それとも召喚できないモンスターだったようだ。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 これで多少、デュエルの流れは変えられた。これを離さずに勝利できればよいのだが、そう簡単にはいかないだろう。何せあちらは「エグザム」を持っていて、それらしきカードがまだ出てきていないのだから。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 そしてルータスのターンが始まる。語気が少し荒くなったのは、直接攻撃を受けた事が気に食わないのだろうか。

 

「《爆走軌道フライング・ペガサス》召喚!」

 

 引いたのはモンスターだったようだ。即座に召喚されると、機械仕掛けのペガサスに跨る女の剣士が現れる。さらにペガサスは何両もの客車を牽いていた。

 

爆走軌道フライング・ペガサス

ATK1800 レベル4

 

「このカードを召喚した時、墓地の同名カード以外の機械族・地属性モンスター1体を、その効果を無効にして守備表示で特殊召喚する。蘇れ、デリックレーン!」

 

 鎧の女騎士が剣を振るうと、その横に魔法陣が現れ、黄色い車体のディーゼル機関車が汽笛と共に現れた。

 

重機貨列車デリックレーン

DEF2000 レベル10

 

「そしてデリックレーンを対象に、フライング・ペガサスのもう一つの効果発動! このカードとそのモンスターのレベルを片方と同じにする。僕はフライング・ペガサスのレベルを、デリックレーンと同じ10にする!」

 

爆走軌道フライング・ペガサス

レベル∶4→10

 

「レベル10になったフライング・ペガサスと、デリックレーンでオーバーレイ!」

 

 またしても揃う高レベルのモンスター。ルータスが手を掲げると、空に出現したエクシーズの渦へ、2体のモンスターがオレンジの光となって舞い上がる。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れろ、《超巨大空中宮殿ガンガリディア》!!」

 

 弾けたエクシーズの渦から降下してきたのは、巨大な建造物。飛行船と客船が合わさったようなデザインだ。

 

超巨大空中宮殿ガンガリディア

ATK3400 ランク10

 

「ガンガリディアの効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、相手フィールドのカード1枚を破壊し、相手に1000ポイントのダメージを与える!」

 

 ガンガリディアの周りを漂うオーバーレイ・ユニットのひとつが中枢部分に吸い込まれると、緑色の光を蓄え始めた。

 

超巨大空中宮殿ガンガリディア

ORU:2→1

 

「《カオス・ダイダロス》の効果により、フィールド魔法カードが存在する限り、俺のフィールドの光・闇属性モンスターは効果対象にならない。よって、ガンガリディアで俺のモンスターは破壊できない!」

「だったら、その伏せカードを破壊!」

「その伏せカード《和睦の使者》発動! このターン、俺のモンスターはバトルで破壊されず、バトルで受けるダメージも0になる!」

「この……っ!」

 

 切歯扼腕、とばかりにルータスが苛立つ目の前で、ガンガリディアから放たれた緑色の光線が《和睦の使者》のカードを粉々に打ち砕く。その衝撃波がテータにも伝わってきた。

 

テータ LP1500→500

 

 このターンの戦闘ダメージは防げるとしても、最早安心できないライフになったその時。

 後ろの方から、汽笛が聞こえた。今までルータスが使っていたモンスターのとは違う、現実の機関車のもの。それも、サッカーで試合終了を告げるホイッスルのように、断続的に鳴っている。この機関車が暴走していると知った時から、汽笛は鳴らなかったのに、どういう事だろう。

 そう思い後ろを振り向くと。

 

「やべ……っ!」

 

 トンネルが迫っていた。

 認識した直後、多少の痛みよりも生きる事が優先順位に上がり、列車の天井に倒れこむ。

 そしてすぐ、巨大な音が鳴り響き、凄まじい風が吹き荒れる暗い空間へと入った。

 

「あああああああああああああああああああああああッ……!!」

 

 あまりの音と風に叫ぶが、その声も塗りつぶすほど、トンネルの中は嵐のような有様だ。デュエルディスクに置いたカードが吹き飛ばされないようにするのがせいぜいで、後の事は気にしていられない。ルータスの様子も分からなかった。

 頭上の数センチ上をトンネルの天井が通り過ぎていく感覚が、頭から背中を伝って脚の先端まで届く。ちょっとでも体を起こせば頭が削れてしまう。そんな予感までする。

 

(プラ=ティナさん……ありがとう……!)

 

 凄まじい風と音に耐えながら、心の中でプラ=ティナに感謝を告げる。

 さっきの汽笛は、警告するためだったのだろう。であれば、プラ=ティナは列車を止めるために機関車の運転室まで辿り着いた事になる。それでも速度が落ちないのは、何らかの理由があって列車を止められないのだろう。

 それについて考えている内に、列車がトンネルを抜けたのが音と風、光で分かる。連続でトンネルが来やしないかと、慎重に後ろを見てみるがその心配はなさそうだ。

 

「げほっ、ごほっ……!」

 

 注意深く起き上がり、前を見た。

 ガンガリディアは今なお空の上に留まっている。その下で立ち上がったルータスの姿は、失礼だが「滑稽」と評すに相応しかった。何せ、さっきの風で服も髪も乱れているし、しかも機関車の蒸気を正面から浴びたせいで、顔が煤で汚れている。咳き込む姿も相まって、まるで爆発オチに巻き込まれたようだ。

 

「……っふ」

 

 思わず、テータが笑いを零すと、ぎろりとルータスが睨み、デュエルディスクから1枚のカードを引き抜く。

 

「エクストラデッキのこのカードは、ランク10の機械族エクシーズモンスター1体を素材にエクシーズ召喚ができる!」

「何?」

「僕はランク10のガンガリディアでオーバーレイ!」

 

 手を振り上げると、それに合わせてガンガリディアが緑色の光へと変わり、いつの間にか空に出現したエクシーズの渦へと吸い込まれていく。

 

「1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! エクシーズ・チェンジ!」

 

 光を飲み込んだ渦が弾け、地平の彼方から12本ものレールが伸びてくる。そして、空で閃いた光の中から轟音と共に出現したのは、要塞のような建造物だ。それは展開を始め、いくつもの副砲を備える巨大な列車砲へと姿を変える。そしてその下部から、車輪のついたパーツが現れてレールに着地した。

 

「現れろ、ランク11!《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》!!」

 

超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ

ATK4000 ランク11 ORU2

 

「この状況で攻撃力4000か……」

 

 その大きさも、攻撃力もこれまでとはまた段階が違う。テータも汗が垂れるが、このターンはモンスターが戦闘で破壊されず、戦闘ダメージを受ける事もない。このまま攻撃する事は――

 

「ジャガーノート・リーベでエッジ・レイザーを攻撃!」

「何?」

 

 しないだろう、と思っていた事をそのまましてきた。テータも首を傾げる。

 しかし攻撃宣言は間違いではないらしく、ジャガーノート・リーベがエッジ・レイザーに狙いを定めて、その巨大な砲身からオレンジのエネルギー砲を放った。けれどそれは、エッジ・レイザーの前面に展開した光のシールドによって阻まれ、エネルギー砲は天へと向きを逸らされる。

 エッジ・レイザーは破壊されないし、テータもダメージを受けてはいない。全くの無駄としか思えない攻撃だが、それにもかかわらずルータスは笑っていた。

 そしてすぐさま、脳が刺激され、この状況を要求するモンスターが1体いるのを思い出す。

 

「このカードは、エクシーズモンスターがバトルしたターンに、僕のエクシーズモンスター1体を素材としてエクシーズ召喚できる!」

「まさか……」

 

 高々と、自慢げにルータスがカードを掲げた。

 そのカードの詳細なイラストなどは、テータからはよく見えないが、もう召喚条件だけで何のカードかは分かる。

 けれどその直後に、風や空気の冷たさとは違う要因でテータの身体に寒気が走り、手足が勝手に強張った。さらに、手首に嵌めていた小型端末がアラートを鳴らし始める。これは、エグザムが近くにある時反応を示すもの。それが鳴ったという事は。

 

「僕はジャガーノート・リーベでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを再構築、エクシーズ・チェンジ!」

 

 ルータスの背後で存在感を際立たせていた、要塞の如き列車砲。それが光に包まれると、さながらロケットの如く空の彼方へと舞い上がっていく。

 やがて、はるか上空で光が弾けたかと思うと、一瞬で列車の屋根に光の柱が落ちた。

 

「うわっ……!?」

 

 ただのソリッドビジョンではない。カーブでもないのに列車が大きく揺れたのがそれで分かる。車輪がレールに強く押し付けられているのだろう、急カーブを曲がる時のように金属が擦れる音が鳴り響く。中にいる乗客は無事だろうか。

 

「神をも滅する最大にして最強の最終兵器、災厄の大地に光を穿て!《天霆號(ネガロギア)アーゼウス》!!」

 

 光の柱の中から勢い良く現れたのは、白と金の機体の巨大なロボット。翼の部分には巨大なブースターが取り付けられ、脚や背中からは薄緑色のエネルギーの粒子が輝きを放っている。人工物であるはずなのに、神のような雰囲気を纏ったモンスターだ。

 

天霆號アーゼウス

ATK3000 ランク12 ORU3

 

 だが、そのモンスターが現れた直後に、汽笛が鳴り響く。プラ=ティナのおかげだろうそれを聞いて後ろを見ると、石橋を潜ろうとしているところだった。テータはすぐさましゃがんでそれをやり過ごし、ルータスも同じく片膝をついて躱す。

 ところがアーゼウスは、高度を変えないまま列車の後に続き、その石橋を轟音と共に破壊して追いかけてくる。まるで、避けるまでもないというように。

 

「おいおい……!」

「『エグザム』の力はこんなものじゃない!」

 

 テータは思わず声を洩らすが、ルータスは逆に誇らしげに両手を広げた。

 それに応じるように、アーゼウスは腕を構えると、黄緑色のエネルギーを全身から放出し始める。それを浴びて、線路沿いの木々や畑はまるで台風に巻き込まれるように横倒しにされ、あるいは中空に巻き上げられ、ついさっきまで列車が走っていたレールまでも地面から引き剥がして歪める。

 「エグザム」の影響力は知っている。ありとあらゆるエネルギーを増大させ、それ1枚で莫大な金になり、使う人を狂わせる。さらにラプスウェルの話では、デュエルで使うだけでも周りに甚大な被害をもたらす。

 それがまさに今の状況だ。ウィズダムとやらはその被害をなかった事にしたようだが、ルータスがそんな事をする奴には見えない。

 

「やめろ!!」

「人のことを心配している場合ですか?」

 

 呼びかけにもまともに応じず、ルータスはテータを指さす。

 

「アーゼウスの効果発動! オーバーレイ・ユニットを2つ使う事で、フィールドの他のカードを全て墓地へ送る!」

 

 アーゼウスの周りを漂う2つのオーバーレイ・ユニットが、両翼の大きなブースターに1つずつ吸い込まれると、アーゼウスの機体が光り力を蓄え始めた。

 

天霆號アーゼウス

ORU:3→1

 

 そしてアーゼウスが両腕を広げると、翼がそれに合わせて展張し、数百メートルを超える幅にまで広がって、ついにエネルギーを四方八方に拡散させた。それはテータにも向かってきて、トンネルや橋を通過する時と同様に天井に伏せてやり過ごす。けれど全体除去自体は凌げず《カオス・ダイダロス》とエッジ・レイザーは墓地へ送られてしまった。さらに、ルータスのフィールドにある《転回操車》も巻き添えで墓地送りになる。

 それだけではない。アーゼウスが放ったエネルギーは線路沿いにも現実として被害を及ぼしている。

 テータが見える範囲の家々や農地、山林を容赦なく破壊していた。最終兵器の名に恥じない攻撃範囲と威力だが、エグザムの力で実際に発生しているとなれば冗談では済まされない。

 何より、ルータスがそれを楽しんでいるように笑っているのが許せなかった。いくらエグザムの影響で狂気に染まっているとしても。

 

「テメェ!」

「僕はカードを1枚伏せてターンエンド! さあこの状況、どうしますか?」

 

 ルータスへの怒りが止まらないが、デュエルの状況はテータが圧倒的に不利だ。手札もフィールドもカードがないし、ライフはたった500。勝敗は次のドローカードに係っているとみていいだろう。

 

「ふー……」

 

 デッキに指をかけ、怒りを一度抑えようと深呼吸する。高速で景色が流れていき、背中には冷たい風を感じた。

 目の前にいるアーゼウスは、放置してはならない力そのもの。ここでルータスを逃したら、今以上の悲惨な出来事が必ずどこかで起きる。

 そんな事は、あってはならない。

 自分もS-Forceの端くれだ。自分が止められる立場にあるのなら、危機は自分で食い止める。それができずして、何が治安維持組織だ。

 

「ドロー!」

 

 その意思を指に乗せて、カードを引く。

 引いたカードは、今自分が欲しているものだった。

 

「魔法カード《増援》発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える!」

 

 デュエルディスクのディスプレイが光り、サーチするカードを選ばせてくる。

 ここで選ぶのは……

 

「俺は《S-Force 乱破小夜丸》を手札に加える!」

 

◇ ◆

 

 石橋を通過する直前、屋根の上でデュエルをしているテータに知らせるために、プラ=ティナは汽笛を鳴らす。運転に使うレバー類は全て壊されていたが、汽笛を鳴らすための紐は残っていた。テータの無事を確認する暇はないが、これが無駄にならない事を祈る。

 しかし、石橋を通過した直後。炭水車から石炭が崩れるような音と、衣擦れの音が聞こえた。

 

「え……?」

 

 振り向いて、プラ=ティナは目を丸くした。

 炭水車の上に、人が乗っている。逆光でよく見えなかったが、シルエットで誰かすぐに分かった。

 

「小夜丸!? 何故ここに……!?」

 

 石炭の山から危なげなく降りてきたのは、1週間も行方不明だった小夜丸だ。連絡も取れなかったのに、どうしてここにいるのだろう。

 

「話せば長くなるんですが……」

 

 プラ=ティナの前に立った小夜丸は、びっと敬礼をして報告する姿勢を取る。安心感を覚える、何度も見た姿だ。

 

「列車の上でテータさんがデュエルしているのと、機関車にプラ=ティナさんがいるのが見えて、ただ事ではないと思い飛び乗りました!」

「……よく、見えたわね」

「忍ですので!」

 

 普段はドジをする事が多い小夜丸だが、彼女はれっきとしたエージェントであり忍者だ。離れた場所からでも人の顔を判別したり、高速移動する乗り物に飛び乗るのはお手の物だろう。

 だが、それに感心した直後、後ろから轟音が鳴り響く。小夜丸と一緒に後ろを見ると、《天霆號アーゼウス》が石橋を粉々に破壊し、さらに周囲に被害をもたらしているのが見えた。そして、プラ=ティナと小夜丸が腕に巻いている端末がアラートを鳴り響かせる。

 

「エグザムですか!?」

「そのようね……って、小夜丸はどこでその名を?」

「あー、えっと……」

 

 「エグザム」という名をプラ=ティナが知ったのは、小夜丸と連絡が取れなくなった日、ラプスウェルが報告をした時に初めて聞いた。そこに小夜丸はいなかったのに、なぜ「エグザム」の名前を知っているのか。

 小夜丸は気まずそうに説明しようとしたが、それを遮るように頭上を光線が通り抜けていった。

 

「……ちょっとちょっとちょっと、マズいマズいマズい!」

 

 その光線の行く先を見届けたプラ=ティナは、携帯型の双眼鏡で事態を把握し、愕然とした。

 まだ距離は離れているが、この先に鉄橋がある。谷だか川だかは知らないが、それをアーゼウスが放ったであろう今の光線が破壊したのだ。音を立てて崩れ落ちている鉄橋を見れば、この列車がそこに突っ込むとどうなるかなど子供でも分かる。

 

「小夜丸、詳しい話は後で聞くから協力なさい!」

「は、はい!」

 

 一刻を争うこの状況で、小夜丸に何があったか具体的に聞く暇はない。指さすと、小夜丸は綺麗な気を付けの姿勢を取る。

 

「この列車は止められないわ! それであの橋に突っ込んだら私たちは全員死ぬ!」

「はい!」

「だから、私の言う事をよく聞きなさい!」

 

 本部への連絡は、ノイズのせいでできなかった。恐らく、エグザムにより無線妨害がされたせい。そのエグザムがデュエルで使わられている今、無線など使っても意味はないだろう。

 だから、もう手段は選んでいられない。

 

 

「手札に加えた乱破小夜丸を召喚!」

 

 フィールドに現れるのは、S-Forceにおいては数少ない和風の様相の少女。エッジ・レイザーも和風といえば和風だが、こちらは古きよき感じだ。

 

S-Force 乱破小夜丸

ATK800 レベル2

 

「そんなザコで何をする気か知りませんが、永続罠《エクシーズ・ヴェール》発動! このカードがフィールドにある限り、オーバーレイ・ユニットを持つエクシーズモンスターは効果対象にならない!」

 

 自分が高攻撃力で攻め立てるデッキだからか、低い攻撃力のモンスターを侮りながらも、ルータスは伏せカードを発動させた。そのカードこそテータの懸念材料だったが、それはこちらの展開を阻害するものではなかったので安心だ。

 そして、これからやるのはアーゼウスを対象にするわけではない。

 

「小夜丸の効果発動! 手札の『S-Force』カード1枚を除外する事で、このカードを手札に戻し、デッキから他の『S-Force』モンスター1体を守備表示で特殊召喚する!」

「はっ、手札もないのにどうするつもりですか?」

 

 鼻で笑い指さすルータス。

 だが、笑いたいのはテータの方だった。

 

「墓地の《S-Force チェイス》は、『S-Force』モンスターの効果を発動するために手札を除外する場合、代わりとして除外できる!」

「なっ!?」

「よって、《S-Force チェイス》を除外して小夜丸の効果を発動! 小夜丸を手札に戻し、デッキから《S-Force プラ=ティナ》を特殊召喚!」

 

 小夜丸が両手で印を結ぶと姿が消え、新たに現れたのは科学者然とした銀髪の美女。現実ではこの列車を止めるために奮闘してくれている。

 

S-Force プラ=ティナ

DEF2000 レベル6

 

「特殊召喚したプラ=ティナの効果発動! 除外されている『S-Force』1体を特殊召喚する!《S-Force ラプスウェル》を特殊召喚!」

「!」

 

 プラ=ティナが右手を横に向けると、次元の裂け目が出現し、その中から異形の悪魔が姿を現した。

 

S-Force ラプスウェル

ATK2400 レベル6

 

「特殊召喚したラプスウェルの効果発動! 特殊召喚が成功した時、墓地の『S-Force』を1体特殊召喚する! 甦れ、エッジ・レイザー!」

「これは……っ!?」

 

 ラプスウェルが両腕を広げると、眼前に魔法陣が出現する。その中から、エッジ・レイザーが日本刀を振り回しながら姿を見せた。

 

S-Force エッジ・レイザー

ATK1500 レベル4

 

「プラ=ティナの効果で、自分の『S-Force』の正面にいる相手モンスターの攻撃力は600ポイントダウンする!」

 

 アーゼウスの正面にいるのはラプスウェル。その目が光を放つと、アーゼウスの高度がわずかに下がった。

 

天霆號アーゼウス

ATK3000→2400

 

 けれど、アーゼウスを戦闘で破壊するつもりはない。こちらがそのつもりなのを、ルータスも理解しているのか表情が苦しかった。それもそのはず、既に一度その「効果」は見ているのだから。

 

「ラプスウェルの効果発動! 手札から『S-Force』カード1枚を除外する事で、『S-Force』の正面にいる相手モンスターを全て破壊する!」

 

 さっき手札に戻った小夜丸を除外すると、アーゼウスの正面にいるラプスウェルが両腕を広げる。そして紫色のエネルギー弾を生み出し、それをアーゼウスに向けて放った。アーゼウスは腕でそれを防御しようとしたが、そのエネルギー弾の威力は強かったようで、アーゼウスの腕をそのまま貫通し、胴体を砕いて爆散させた。

 

「そんな、僕のアーゼウスが……ッ!」

 

 頭上の大爆発に巻き込まれ、さらには切り札を失ったショックか、ルータスは片膝をつく。そしてテータも無傷ではいられず、爆発の衝撃で列車が揺れ、身体が列車の天井に押さえつけられそうになった。この爆発も、エグザムのカードによるものか。

 けれど、最早勝負は止められない。

 

「バトルだ! エッジ・レイザー、ラプスウェルでダイレクトアタック!」

 

 2体のモンスターで攻撃宣言をする。エッジ・レイザーは日本刀を振り抜いて斬撃を飛ばし、ラプスウェルは手のひらから紫の雷を放つ。その2つの攻撃は合わさり、雷を纏った斬撃がルータスに襲い掛かった。

 

「うああああああああ……ッ!!」

 

ルータス LP2500→1000→0

 

 攻撃を受けて、ルータスがバランスを崩す。

 テータはすぐさま駆け出して、ルータスの腕を掴み列車から落ちないようにする。それだけでなく、天井に組み伏せて両腕を背中に回し、手錠をかける。最低限の訓練を受け、万が一のために手錠は持っていたのが幸いした。

 そこで、テータの目の前に1枚のカードが舞い降りてくる。手にしたそれは、さっきのデュエルで倒した《天霆號アーゼウス》のカードだ。しかし、それはやがてイラストやカード名、テキストなどが全て真っ白に染まり、不安を抱かせるほどの白紙に変わる。そして、淡い赤色の光を放った。

 

「これが、エグザム……」

 

 組み敷いているルータスを見下ろす。さっきの衝撃の影響か、気を失っていた。こいつが何者なのか、どういうルートでこれを手に入れたのか、どんな情報を持っているのか。それは目が覚めたらじっくり聞くとしよう。

 後は、列車をどうにかするのみだ。

 そう思い、前を見てみると。

 

「げ……!?」

 

 前方の橋が崩れ落ちているのが見えた。さっきのアーゼウスの効果の影響だろう。

 このスピードでは確実に橋に突っ込み、下へ落っこちてしまう。そうなれば、テータやルータスは勿論、列車の乗客も、プラ=ティナも生きている保証はない。

 どうするべきか、と考えたところで、前方の空で何かが光を放った。




次回、ドレミ界サイドも描きます。
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