マスカレーナに協力を要請するにあたり、ドレミコードの皆には事情を話す事となった。
S-Forceが残り2枚のエグザムを所有している事がほぼ確実なため、他の世界を虱潰しに探す必要もなくなる。だが、いきなり「探索はおしまい」と言っても皆納得するわけがないし、苦労をかけた人への態度ではない。しっかり話すのが礼儀だ。
「じゃあ小夜丸さんは、知っててそれを黙ってたって事?」
「いえ……彼女がここにいる間に事態が変わったらしいわ」
ドリーミアが疑問を呈するが、クーリアがそれを否定する。俺も同意見だった。
全てを知っているような、それでいて当人が何者かは全く分からないウィズダム。彼もあの時は、S-Forceは1枚しかエグザムを所持していないと言っていた。その所業やエグザムの力を考えれば、でたらめの可能性は極めて低い。
外界から隔離されたドレミ界で、小夜丸はS-Forceと連絡が取れなかった。だから、S-Forceが2枚目を手に入れたのはその間、あるいはその後だろう。
「でも、残りの場所が分かったってだけで気楽になるね」
「その在処が非常に厄介なわけですが」
エンジェリアが背中を反らしながら安心したように言うが、グレーシアの言葉は厳しい。
どこにあるかも分からないエグザムを、「浄化」の使命と併せて、あるいはこれまでのコネを使って探すという、将来性が薄い方法で今まで探していたのだ。それの場所が明らかになったのは、終着点が見えたという意味で安心ではある。
けれどグレーシアの言う通り、所在が問題だ。何せS-Forceのブリッジヘッド、本拠地となればそう簡単に話が進まない。俺に掛けられた手配は未だ取り下げられていないから、のこのこ顔を出せば即確保。ドレミ界から直接ゲートを開く事もできないため、近いようでとても遠い場所にある。
「であれば、マスカレーナさんみたいな方がいらっしゃってよかったわ」
「その人もお尋ね者っぽいけど……今は頼れる人は頼らないとだしね」
ビューティアは嬉しそうに言うが、ファンシアの言葉も捨て置けない。
あちらの世界の情勢に詳しく、相応の技術を持つマスカレーナとの協力にこぎつけたのは、まさに渡りに船だ。けれど、彼女もまたS-Forceに追われているお尋ね者……つまり悪党の一種でもある。簡単に頼ったりするのはどちらかと言えばいけないのだろうが、今は状況が状況だけに仕方がない。
「でも、デュエルで勝たなければ、またトラブルになっちゃうって事ですよね」
キューティアが俺を見て言う。
俺がマスカレーナとデュエルをする事も共有済みだ。マスカレーナがエグザムを1枚欲しがっている話は、後出しにできるような内容ではない。俺が彼女のあられもない姿を見てしまった事が原因、という事は伏せているが。
「また、負担をかけてしまって悪いけれど……」
「いえ、他の皆さんに強いるぐらいなら」
ミューゼシアが気の毒そうに告げるも、俺は首を横に振る。
あれはこっちにも落ち度があるし、その落とし前は自分でつける他ない。そんな経緯が無くとも、俺自身が戦うべきだとも思っている。デュエルは避けられないが、俺がやらなければという使命は確かだ。
「気を付けてくださいね、バトレアスさん」
そんな中で、プリモアが俺にそう話しかけてきた。
「ミカエル様の時みたいな事になったら、怖いです……」
エグザムに操られたミカエルたちとのデュエルで、俺は精霊界に転生してから一番ともいえる物理的な傷を受けた。その時、プリモアが何らかの力を使って俺をどうにか救おうとしたのは感じ取れたが、最後はミネルバに助けてもらっている。
あの時、俺は死にかけた。
クーリアとのデュエルで皆に伝えた通り、俺は最初から死ぬつもりで戦ったわけではなかったし、あの時はクーリアを守るために咄嗟に行動にした。しかし結果として、また皆に心配をかけてしまった。何ともひどい体たらくだと、今では思う。
だけど、もう闘いは避けられない。だからできるのは、皆を少しでも安心させられるよう、言葉を掛ける事だけだ。
「必ず戻ってきます」
◆
マスカレーナに言われた通り、連絡を取ってから3日後の同じ時間に、前と同じ方法で連絡を取る。挨拶もほどほどに、マスカレーナは早速座標と思しき数字を提示した。
『この座標の場所に来られますか?』
「大丈夫だけれど……」
あの日と同じく、俺の傍にはクーリアとミューゼシアがいる。
マスカレーナの頼み自体は難しくない。元々、色々な世界をつなぐゲートを開く事ができるドレミコードだから、座標さえわかればどこにでも行く事はできる。
だが、クーリアは少し疑問に思うところがあるらしい。
「ゲートの先がS-Forceの本拠地とかじゃないでしょうね……?」
『いやいや、そんな卑怯な真似はしませんよ。ちゃんと私が用意した空間です』
ニコニコ笑顔で言うマスカレーナだが、いまいち信用ならない。けれど真偽を確かめる方法は、提示された座標に向かう事だ。
俺とクーリア、ミューゼシアは玄関へ向かい、大事を取ってミューゼシアがゲートを開く。そして、ゲートの先を確認したミューゼシアが、指で丸を作ってくれた。俺とクーリアは、一緒にそのゲートを通る。
「ようこそお越しくださいました」
その先にあった空間は、フットサルのコートほどの広さがある場所だ。壁は打ちっぱなしのコンクリートみたいな材質、床は大理石のように綺麗だ。しかし天井がなく、満天の星が広がっている。それもただの星ではないらしく、目を凝らしてみると様々な色の光が灯っている。
「まずは、私たちの呼びかけに応じてくれた事に感謝を」
「いえ、私にも無関係ではない問題ですから」
まず最初に、ミューゼシアがマスカレーナと挨拶を交わす。それからミューゼシアが視線を投げかけてきたので、俺もまた前に出る。
「前払いで、よろしいかしら?」
「オールオッケーです」
2人のやり取りを聞き届けてから、俺は携えてきていた鞄をマスカレーナに手渡す。鞄そのもの以上の重量を感じる中身は、マスカレーナへの依頼料。ミューゼシアが鞄ごと用意してくれたので、中にいくら入っているのかは知らない。だが、俺は色々な意味で怖くて金額を聞けなかった。
そしてマスカレーナが中身をちらっと見て頷き、鞄を異空間に仕舞ったところで。
「マスカレーナ」
「はい?」
「その……この間は本当に済まなかった。どう詫びたらいいものか」
平謝る。
わざとじゃないとはいえ、裸を見てしまったのは紛れもない事実だ。あの日も最初に謝り、慰謝料込みのお金を払ったとしても、直接顔を合わせたのであれば謝るに限る。
「まぁ……いいですよ。今日のデュエルで全てが決まりますし」
マスカレーナは、必要以上にほじくり返したりしなかった。それでこちらも気が楽になるが、今日のデュエルで今後の流れは大きく変わる。俺が勝てばそれでよし。ただし負けたら、エグザムのカードがマスカレーナの手に1枚渡る。
その後は、確実に悪い事が起こるだろう。主にマスカレーナに。
だからこそ負けられない。やはりマスカレーナは恩人だし、協力もしてくれる。そんな人を狂わせるわけにはいかない。
「さてさて、お手並み拝見と行きましょう!」
そしてマスカレーナは、自信満々に左腕を構えて、メタリックパープルのデュエルディスクを展開させる。モンスターゾーンはデフォルメされた猫の頭みたいな形だ。
俺もまた、ディスクにデッキをセットして展開させる。
使用するデッキは、転生者を相手にする時やドレミ界では【ドレミコード】、それ以外では前世で俺が持っていたランダムなデッキになるものを使用する。
というのも、マスカレーナは運び屋であり情報通だ。【ヒロイック】はウィズダムとのデュエルで使用したし、精霊界でストラクチャーデッキまで流通している。展開が読まれる可能性が高い。であれば、ランダムなデッキが出てくるこれを使った方が、意表をつけるかもしれなかった。
そして、俺も位置につこうとしたところで、クーリアが肩に手を添える。
「幸運を」
微笑まれ、俺は素直に頷きを返す。
ミューゼシアにも背中を優しく叩かれ、俺はマスカレーナに向き直る。そして、脇で観戦する態勢に入ったミューゼシアとクーリアの視線を感じつつ、宣言した。
「「デュエル!」」
バトレアス LP4000
VS
マスカレーナ LP4000
デュエルディスクが先攻を示した。最初の5枚を引き、このデッキが何かを理解する。初手はまずまずだ。
「俺の先攻だ。《
青い体毛の大柄な狼寄りの犬がフィールドに現れる。普通の首に加え、霊体のような首がもう一本生えていた。
魔導獣 ケルベロス
ATK1400 レベル4
「そして永続魔法《魔法族の結界》を発動。また、魔法カードが発動する度に、ケルベロスには魔力カウンターが1つ置かれる」
魔法カードを発動すると、俺のフィールドを取り囲むように魔法陣が出現する。そしてその中心にいるケルベロスが遠吠えを上げた。
魔導獣 ケルベロス
魔力カウンター:0→1
「ケルベロスの攻撃力は、自身の魔力カウンター1つにつき500ポイントアップする!」
魔導獣 ケルベロス
ATK1400→1900
「カードを2枚伏せてターンエンド」
「ふむ。私のターン!」
こちらのターンを見届けたマスカレーナは、頷いてからカードを引く。そして、手札を見るとにんまりと笑った。サイバース族の運び屋である彼女は、何のデッキを使ってくるのか。
「じゃんじゃん行きますよ! 私は魔法カード《シークレット・パスフレーズ》を発動。デッキから『ライブツイン』または『イビルツイン』の魔法・罠カードを1枚手札に加えます」
「……なるほどな」
「私は《
最初に使ったカードだけで、何のデッキか理解できた。そして、戦いはスムーズにいかなくなる事も想像できてしまう。
けれど魔法カードの発動により、ケルベロスに魔力カウンターが1つ置かれた。
魔導獣 ケルベロス
魔力カウンター:1→2
ATK1900→2400
「手札に加えた永続魔法《Live☆Twin トラブルサン》を発動! このカードは発動時、効果処理としてデッキから『ライブツイン』と名のつくモンスター1体を手札に加えられます。《Live☆Twin キスキル》を手札に」
魔導獣 ケルベロス
魔力カウンター:2→3
ATK2400→2900
ケルベロスの攻撃力が早くも3000に届きそうになる。
だが、攻撃力がいくらが上がろうと、あちらのデッキには関係ないはずだ。
「《Live☆Twin キスキル》を召喚!」
マスカレーナが召喚したのは、カートゥーンのアニメみたくデフォルメされた人間の少女。赤いツインテール、オーバーサイズのジャンパーとへそ出しタンクトップ、スパッツと随分露出が多いその少女は、俺を見て小ばかにするような笑いを浮かべている。都市の世界でも見た、バーチャル配信のアバターだ。
Live☆Twin キスキル
ATK500 レベル2
「このキスキルを召喚した時、私の場に他のモンスターがいないため、効果発動! デッキから『リィラ』と名のつくモンスター1体を特殊召喚します。出番ですよ、《Live☆Twin リィラ》!」
キスキルの隣に現れたのは、こちらもデフォルメされた、青いボブカットヘアの少女。キスキルとは反対に、白いワンピースの上から青いジャンパーを羽織って露出を抑え、頭には白い帽子、小脇にサメのぬいぐるみを抱えている。気怠るげな眼を向けてきた彼女も、キスキルとコンビで動画配信をするアバターだ。
Live☆Twin リィラ
ATK500 レベル2
「現れなさい、世界を出し抜くサーキット!」
物騒な口上を告げながらマスカレーナが手を掲げると、リンクサーキットが星空に出現した。
「召喚条件は『リィラ』モンスターを含むモンスター2体!『ライブツイン』のキスキルとリィラをリンクマーカーにセット!」
リンクサーキットに、キスキルは「いぇーい」と笑いながら、リィラはあくびを零しながら飛び込む。そして、青白い光をサーキットが放った。
「静寂の闇夜を駆け抜ける! 淑やかで華麗な怪盗、ここに参上!《
輝きを放つサーキットから飛び降りたのは、紺色のボブカットヘアの女性。藍色の上着と白いスーツに身を包み、悪魔のような青い翼と尻尾を生やすその姿は、アバターではないリィラの本当の姿だ。
□□□ Evil★Twin リィラ
■◆□ ATK1100
□■□ リンク2
『……じー』
そのリィラだが、フィールドに出現すると疑わしいものを見る目で俺を見てくる。その仕草が普通のモンスターとはまた違う感じがするし、何故そんな目を向けられるのかもわからない。
「ふふん。《Evil★Twin リィラ》の効果発動! 私の場に『キスキル』がいない場合、墓地の『キスキル』を特殊召喚できます。《Live☆Twin キスキル》を特殊召喚!」
そんな俺の反応を満足そうに見るマスカレーナだが、動きは止めない。魔法陣が現れ、ぽんと飛び出すアバターのキスキルが、やはり俺を見てけらけらと笑った。
Live☆Twin キスキル
ATK500 レベル2
「再び現れなさい、世界を出し抜くサーキット! 召喚条件は『キスキル』モンスターを含むモンスター2体!」
先ほどと同じようにリンクサーキットが開き、マスカレーナの2体のモンスターが飛び込む。さっきと違うのは、リィラが本人の姿である点と、リンクサーキットが放った光が赤い点だ。
「輝く摩天楼を舞い踊る! 煌びやかで華麗な怪盗、ここに推参!《Evil★Twin キスキル》!!」
光の中から現れたのは、赤いロングヘアの女性。リィラと対照的に黒いスーツの上から白い上着を羽織り、赤い翼と尻尾を生やしている。
□□□ Evil★Twin キスキル
□◆■ ATK1100
□■□ リンク2
『キミがバトレアスくんだね?』
「!?」
そのキスキルが、明確に話しかけてきた。俺だけでなく、デュエルを観ていたクーリアとミューゼシアも息を呑んだのが、空気の変化で分かる。
以前、ヴァーディクトとのデュエルでも、俺が呼んだ《
「ああ、驚かせちゃいましたね。何を隠そう私、彼女たちと知り合いなんですよ。その伝手で、特別仕立てのカードをお借りしてるんです」
マスカレーナが誇らしげに説明すると、フィールドのキスキルがまさしくそうだとばかりに頷いている。意思疎通ができるのは、その「特別仕立て」だからだろう。
『どんな人かと思ったけど……マスカレーナから聞いたよ? シャワーを覗いたんだって? キミも中々男だねぇ』
揶揄うキスキルの言葉を受け、マスカレーナを睨みつける。そっぽを向いているのがなおの事腹立たしい。俺が悪いのは百も承知だが、自分の手が届かない場所で情報を拡散するのは止めてもらいたい。
そして、キスキルが例の嫌な事件を知っているとなれば、片割れのリィラも知っているはず。さっきの視線はそれによるものか。
『ま、私は当事者じゃないからとやかくは言えない。とにかく今は、デュエルを楽しくやろ? そっちは私も興味あるし』
「……はぁ」
こちとら背負うものを背負ってデュエルに挑んでいるのだが、キスキルやマスカレーナに緊張感がないせいでペースが狂わされる。溜息が堪えられなかった。
「デュエル再開しますよ? キスキルの効果発動! 私の場に『リィラ』がいない事で、墓地の『リィラ』を特殊召喚できます。もいちどカモンです、《Evil★Twin リィラ》!」
キスキルが指をパチンと鳴らし、その脇に現れたのは人間の姿のリィラ。これで、怪盗イビルツインが揃った事になる。
Evil★Twin リィラ
ATK1100 リンク2
「特殊召喚したリィラの効果発動! 私の場に『キスキル』がいて、このカードが特殊召喚した時、相手フィールドのカード1枚を破壊します。ケルベロスを破壊!」
マスカレーナが指さすと、リィラが針のような暗器をケルベロスへと投げつける。頭にそれを受けたケルベロスは、苦しそうな鳴き声を上げて破壊された。
「《魔法族の結界》の効果で、フィールドの表側表示の魔法使い族モンスターが破壊される度に、このカードに魔力カウンターが1つ置かれる!」
魔法族の結界
魔力カウンター:0→1
結界の輝きがわずかに強まったのを見ても、マスカレーナは気にせず手を挙げた。
「三度現れなさい、世界を出し抜くサーキット! 召喚条件は『イビルツイン』を含むモンスター2体以上!」
空にリンクサーキットを開き、さらに召喚条件を告げたところで、キスキルとリィラがマスカレーナを振り向く。
『えー……マスカレーナ、あいつら呼ぶの?』
『……それはちょっと、いただけないかも』
「いやいやいや、こうした方がいいんですって!」
抗議の声を上げる2人に対し、マスカレーナは真っ向から反論した。意思を持つモンスターを使うというのは、中々考えどころらしい。
そして、マスカレーナの割と必死な懇願を受け、キスキルとリィラは渋々とそのリンクサーキットに飛び込んだ。
「無垢な光と冷徹な影が、輝く世界を惑わせ騒がす! リンク4、《
光の中から現れたのは、背の低い金髪ツインテールの少女と、長身で褐色肌の銀髪の女性。少女の方は、にんまりと意地の悪そうな笑顔を浮かべていた。
□■□ Evil★Twin’s トラブル・サニー
■◆■ ATK3300
□■□ リンク4
『にゃっははー。やっぱり私がいなくっちゃ話が始まらないってねー!』
金髪の少女の方が、両手を合わせて自信満々そうに告げる。こちらも意思を持っている、特別仕立てのカードらしい。運び屋の信頼と実績の賜物か、マスカレーナの顔が広いのを実感する。
「まさか、手札1枚でこれだけの展開ができるなんて……」
そして、デュエルを観ていたミューゼシアが感心したように言葉を洩らした。
マスカレーナの手札はまだ5枚。事実上、手札1枚でリンク4までこぎつけた事になる。最小限のリソースだけでリンク4まで上り詰める事こそ、【イビルツイン】の強みだ。リンクモンスター主体のデッキは連続展開に定評があるが、これはその代表と言ってもいい。
「さあバトルです! トラブル・サニーでダイレクトアタック!」
『サニー様って言いなさい!』
「考えときます!」
マスカレーナの攻撃宣言に、金髪の少女――サニーと言うらしい――が文句を垂れながらも、ナイフを取り出しこちらに向けてくる。可愛い顔をして攻撃手段が中々物騒だ。
そして、攻撃力3300の直接攻撃は受け入れがたい。
「罠カード《
『ちょえっ!?』
決まれば強力な罠カードを発動し、赤紫の筒が2つ出現する。サニーがぎょっとするが、御付きの銀髪の女性はピクリとも表情を変えない。
そして、それを発動した俺自身、これが通用しないのはもう理解している。
「残念でしたねぇ。トラブル・サニーの効果発動! このカードをリリースする事で、墓地の『キスキル』及び『リィラ』をそれぞれ1体まで特殊召喚できます!」
『えっ、まさかもう出番終わり!?』
『サニー様、行きましょう』
『ちょ、ルーナ!』
最後に名前を呼ばれた、ルーナと言うらしい銀髪の女性に手を引かれ、サニーはいやいやと首を振りながら魔法陣に姿を消す。そして入れ替わるように、中から『イビルツイン』体のキスキルとリィラが背中合わせで現れた。
Evil★Twin キスキル
ATK1100 リンク2
Evil★Twin リィラ
ATK1100 リンク2
「《魔法の筒》は、攻撃モンスターの攻撃が無効にならないとダメージが発生しません。よって、私が受けるダメージも0です」
「ちっ……」
「さらに、私の場にリィラがいる状態で特殊召喚したキスキルの効果を発動し、1枚ドローします。そして、そのキスキルでダイレクトアタック!」
キスキルは、マントを広げるように自分の翼を掴んで広げると、閃光弾のような強烈な光を翼から放った。熱まで感じるその光は、以前のマスカレーナが使ったグレニャードを彷彿とさせるが、前後不覚にまではならない。
「ぐ……っ!」
バトレアス LP4000→2900
「お次はリィラで――」
「その前に、罠カード《ダーク・ホライズン》発動! 俺がダメージを受けた時、そのダメージ以下の攻撃力を持つ魔法使い族・闇属性モンスター1体を、デッキから特殊召喚する!《黒き森のウィッチ》を守備表示で特殊召喚!」
マスカレーナが畳み掛けようとする前に、罠カードを発動する。カードから黒い瘴気があふれ出てきて、その中から姿を見せたのは、祈りを捧げるように目を閉じて両手を合わせる紫の髪の魔女だ。
黒き森のウィッチ
DEF1200 / ATK1100 レベル4
ステータスを見て、リィラが暗器を懐にしまい、攻撃を取り止める。
直接攻撃で受けたダメージと同じ攻撃力を持ち、守備力がリィラを上回って、おまけに墓地へ行くとサーチ効果もあるこのカードを呼び寄せられたのは、不幸中の幸いだ。
「トラブルサンの効果により、私の場に『イビルツイン』がいる限り、あなたがモンスターを召喚・特殊召喚する度に、私は200ポイントのライフを回復し、あなたは200ポイントのダメージを受けます!」
「く……」
しかしトラブルサンの効果は地味に厄介で、マスカレーナのライフを回復しつつ俺にダメージを与えてくる。「ライブツイン」がバーチャル配信者をモチーフとしているから、投げ銭のようなものだ。
マスカレーナ LP4000→4200
バトレアス LP2900→2700
「カードを2枚伏せてターンエンドです」
キスキルとリィラを並べて伏せカード。まずは様子見と言うところだろう。
ただ、トラブルサンの効果で、モンスターを呼ぶ毎にライフ差が開くのは捨て置けない。特に初期ライフが4000しかないため、考えなしに展開するといつの間にか負けるなんて可能性もあり得る。念頭に置きつつ戦わなければ。
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードは魔法カードだが、今はまだ使えない。だが、恐らくこのターン中に使えるようになるだろう。それとは別の手札を切る。
「チューナーモンスター《ナイトエンド・ソーサラー》召喚!」
《黒き森のウィッチ》の隣に現れるのは、灰色の服を着る白い肌の少年。その白い髪からは、動物の耳のようなものが生えていて、背中には大鎌を備えている。
ナイトエンド・ソーサラー
ATK1300 レベル2
だが、そこでトラブルサンのカードが輝き、ライフを貢ぐよう迫ってきた。
マスカレーナ LP4200→4400
バトレアス LP2700→2500
「レベル4の《黒き森のウィッチ》にレベル2の《ナイトエンド・ソーサラー》をチューニング!」
しかし、まだ展開を躊躇するほどではない。精霊界で初めてシンクロ召喚する事に緊張しつつも宣言すると、《ナイトエンド・ソーサラー》が大鎌を振るう。小柄な魔法使いの身体は透けていき、2つの光が生まれると緑の環を描く。その環を《黒き森のウィッチ》がくぐると、強い光が放たれた。
「シンクロ召喚! レベル6、《ナイトエンド・アドミニストレーター》!!」
光の中から現れるのは、さっきの《ナイトエンド・ソーサラー》とよく似た風貌の青年。しかし着ている服は白味が増し、纏っているマフラーやコートの端が淡い水色に発光していて、神秘的な印象が強まっている。
ナイトエンド・アドミニストレーター
ATK2300 レベル6
そしてまた輝きを放つトラブルサン。微弱ながらも確実に俺のライフを削ってきた。
マスカレーナ LP4400→4600
バトレアス LP2500→2300
「《黒き森のウィッチ》が墓地へ送られた事で、俺はデッキから守備力1500以下のモンスター1体を手札に加える。ただしこのターン、その同名カードの効果は発動できない。俺は守備力1500の《サーヴァント・オブ・エンディミオン》を手札に加える」
この手札に加えたモンスターは、効果が優秀だがペンデュラムモンスター。ペンデュラムゾーンに発動するのも「効果の発動」にあたるため、制約効果に引っ掛かる。だから次のターンに持ち越しだ。
「《ナイトエンド・アドミニストレーター》の効果発動! このカードが特殊召喚した時、相手の墓地のカード1枚を除外する。トラブル・サニーを除外!」
マスカレーナのディスクを指さすと、《ナイトエンド・アドミニストレーター》の首に巻かれたマフラーがそこに迫り、墓地のカードを1枚巻き取って光の粒子に変えてしまう。「ぴえん」な顔をしたサニーの姿を幻視した。
「ありゃ、温存は判断ミスでしたか……」
「あの効果を使われると、俺もちょっと困るからな」
トラブル・サニーは、墓地の自身を除外し、エクストラデッキ以外から「イビルツイン」1体を墓地へ送る事で、フィールドのカード1枚を対象に取らず墓地へ送る効果がある。マスカレーナは、俺がより強力な盤面を敷いた時にそれを使うつもりだったらしい。
【イビルツイン】はそのビジュアルもあり、前世では人気が高いテーマだった。おかげで対戦する機会も多かったので、トラブル・サニーの効果も知っている。だから、再利用しにくい除外という形で先んじて排除させてもらった。
『……不思議だね。あいつらの効果を知ってるなんて』
「え?」
だがそこで、フィールドにいたリィラが静かに疑問を告げる。隣にいるキスキルも「だねぇ」と同調した。
『キミの事はマスカレーナからある程度聞いてるよ。普段はS-Forceでも追えない場所にいて、情報がほとんどヒットしない謎の人物ってね』
『……そしてまた、謎が増えた。全くと言っていいほど出回らないトラブル・サニーの効果を知ってる。つまり、それだけの情報源を持ってる』
リィラもキスキルに続く。
情報源、なんて大層なものではない。それは俺の前世の記憶に基づくものだ。
「じゃあ私が勝ったら、それについても詳しく教えてもらうとしましょうかね」
マスカレーナが笑って期待を膨らませた。
ドレミコードの情報だけは絶対に口外できない。しかし、転生したという事実だけなら言ってもいいのではと思っている。
「ドレミコード」や「ラビュリンス」、「ライトロード」と言ったカテゴリ……集団は、系統的にはオカルト寄りだ。対して、マスカレーナや「イビルツイン」、「S-Force」はどちらかと言えば科学寄りだろう(種族云々の話をするときりがないからここでは考慮しない)。
転生と言う事象は、まず間違いなくオカルトの部類に当たるはずだ。科学寄りのマスカレーナたちがそれを信じる可能性は低いだろうが、言うだけ言っても特に問題ないだろう。現に、S-Forceにはテータと言う転生者がいて、しかも重用しているのだから。
だが、視線を感じてミューゼシアの方を見る。彼女は首を横に振っていた。隣に立つクーリアもいい顔をしてはいない。転生した事は軽々しく言いふらしてはならない、という意味だろう。
であれば、やはりこの情報も守らなければ。気を引き締めて、デュエルに再度臨む。
「バトルだ!」
「おっと、その前に。永続罠《Evil★Twin イージーゲーム》発動!」
やはりというべきか、バトルフェイズに入る前にマスカレーナはアクションを取った。
「このカードは、私の場の『キスキル』か『リィラ』をリリースし、2つの効果から1つの効果を1ターンに1度使用できます。私はリィラをリリースし、キスキルの攻撃力をリィラの攻撃力分アップさせる効果を使います!」
キスキルとアイコンタクトを取ったリィラが、マジックショーのように煙と共に姿を消す。そしてキスキルの身体が、青白いオーラに覆われた。
Evil★Twin キスキル
ATK1100→2200
「そしてキスキルの効果発動! 私の場に『リィラ』がいないため、墓地の《Evil★Twin リィラ》を復活!」
「バトレアスのターンでも効果を使えるのね……」
「イビルツイン」の無駄のないコンボに、クーリアは苦しい表情をする。「ライブツイン」でも「イビルツイン」でも、キスキルとリィラは互いを補う効果を持っている。それが相手のターンにも使えるというのだから、中々この布陣は強固だ。
Evil★Twin リィラ
ATK1100 リンク2
「特殊召喚したリィラの効果で、《ナイトエンド・アドミニストレーター》を破壊しちゃいますよ!」
再びリィラが針状の武器を放つ。《ナイトエンド・アドミニストレーター》の胸にそれが突き刺さると、苦悶の表情を浮かべて姿を消してしまう。俺自身も胸が痛むが、《魔法族の結界》にカウンターが置かれる。その破壊は無駄にしたくない。
魔法族の結界
魔力カウンター:1→2
そして、只で破壊されるわけにもいかなかった。
「《ナイトエンド・アドミニストレーター》が相手によって破壊された事で効果発動! 墓地のレベル4以下の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。甦れ、ケルベロス!」
「おっと、そう来ましたか……」
魔法陣から現れた双頭の犬が力強く吼える。
しかし同時に、厄介なトラブルサンの効果も適用され、お互いのライフ差がさらに広がってしまう。
魔導獣 ケルベロス
ATK1400 レベル4
マスカレーナ LP4600→4800
バトレアス LP2300→2100
デュエルディスクのフェイズ表示を見る。マスカレーナが効果を割り込んで使った事で、まだ俺はバトルフェイズに入っていない。やはり、さっきドローした魔法カードを使う機会はやってきた。
「俺のメインフェイズに相手がモンスター効果を使っているため、魔法カード《三戦の才》を発動! 俺は3つの効果の中から、2枚ドローする効果を選ぶ」
「あちゃ、握られてましたか……」
手札誘発が飛び交う今の時代、《三戦の才》は入れておいても損はない。特に【イビルツイン】は、その効果の性質上俺のメインフェイズでも効果を多用する。マスカレーナもそれを使われる覚悟はしていたようだ。
そして魔法カードが発動した事で、ケルベロスにも魔力カウンターが置かれ、攻撃力がアップする。
魔導獣 ケルベロス
魔力カウンター:0→1
ATK1400→1900
まだメインフェイズが続いている以上、やれるだけの事はやっておく事にした。
「魔法カード《死者蘇生》発動! 墓地の《ナイトエンド・アドミニストレーター》を特殊召喚!」
再びフィールドに出現する魔法陣。その中から、全体的に白いイメージの青年が再び姿を見せる。
ナイトエンド・アドミニストレーター
ATK2300 レベル6
魔導獣 ケルベロス
魔力カウンター:1→2
ATK1900→2400
マスカレーナ LP4800→5000
バトレアス LP2100→1900
トラブルサンの効果で、ついにライフが2000を切った。そろそろ、展開も気にするべきだろう。
「《ナイトエンド・アドミニストレーター》の効果で、マスカレーナの墓地の《Live☆Twin キスキル》を除外!」
「地味に厄介な効果ですね……」
再び墓地のカードを除外されて悔し気なマスカレーナ。除外されたキスキルのアバターは、惜しみないあっかんべーを俺にしてきた。
【イビルツイン】相手に有用なのは、墓地に行ったリンクモンスターを除外する事だろう。しかし今はタイミングが合わないため、あちらのコンボに必要なライブツインを除外するだけで妥協する。
「今度こそバトルだ!《ナイトエンド・アドミニストレーター》でキスキルを攻撃!」
さっきは妨害されたが、今度こそちゃんとバトルフェイズに入る。マスカレーナも今はこれ以上できる事がないらしく、おとなしくバトルフェイズを譲ってきた。
まずは《ナイトエンド・アドミニストレーター》の攻撃。白いマフラーを鞭のようにしならせると、それは勢いよく伸びてキスキルを突き飛ばし、光の粒子に変えさせた。
『きゃっ……!』
マスカレーナ LP5000→4900
マスカレーナ本人が受けるダメージは100ポイント程度だが、破壊されたキスキルは意思を持っているため、相応の痛みを感じるらしい。申し訳なさを抱く。
「さらにケルベロスでリィラを攻撃!」
お次はケルベロス。さっき破壊された事への恨みもあるのか、ケルベロスは勢いよくリィラへ飛び掛かり、その細い腕に噛みつく。
『うぐっ……』
こちらも苦痛の表情を浮かべるリィラ。心の中で謝った。
マスカレーナ LP4900→3600
「ケルベロスは戦闘した後、自身の魔力カウンターを全て取り除く」
魔導獣 ケルベロス
魔力カウンター:2→0
ATK2400→1400
ケルベロスは、レベル4でありながらそれなりに簡単に攻撃力を上昇させられる。戦闘後に強制的に魔力カウンターか取り除かれる点がネックだが、このデッキの性質に加え、相手によってはまたすぐに魔力カウンターが補充できるので、さほど支障はない。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
怪盗イビルツインを2人とも墓地送りにした事で、マスカレーナのコンボは今だけは崩れた。
この状況を作るために、トラブルサンによってこちらはそこそこライフを削られ、逆にマスカレーナのライフを回復させてしまっている。
だから、次のターンからはできる限りペースを渡さず、ライフを削らなければ。
《押してダメなら》
サニー『は〜? 私のカードを貸してほしい〜? 嫌よそんなの。なんであんたなんかのために、私がそこまでしなきゃいけないわけ?』
マスカレーナ「……そうですか。仕方ありませんね、今回はキスキルとリィラに全面的に頼るとしましょう」
サニー『え、ちょ、何!? アイツらもいるの!?』
マスカレーナ「ええ。ちょっと強いデュエリストと戦って、ついでに情報もいただこうかなって言ったら、快諾してくれましたよ。いやぁ、流石ナンバーワンのストリーマーですねぇ、誰かと違って話が早かったです」
サニー『なぁっ!?』
マスカレーナ「だからあなたにも協力してもらえたら心強かったのですが……嫌なら仕方ないです。無理強いは――」
サニー『冗談じゃないわ! あいつらに先を越されてたまるかっての! 力を貸してやろうじゃないのよ! そして私のほうがアイツらより強くて頼りがいがあるって証明してやるわ!』
マスカレーナ(チョロい)
ルーナ(チョロかわ)
次のうち、この作品で、デュエル外の登場人物として見てみたいのは?
-
魔術師
-
コード・トーカー
-
ARG☆S
-
ウィッチクラフト
-
閃刀姫
-
霊使い
-
勇者トークン一行
-
推しがいないんですが……
-
全部書いて