ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第69話:予期せぬ切り札

バトレアス LP1900 手札1

【モンスターゾーン】

ナイトエンド・アドミニストレーター ATK2300 レベル6

魔導獣(マジックビースト) ケルベロス ATK1400 レベル4

 

【魔法&罠ゾーン】

魔法族の結界(魔力カウンター:2)

伏せカード1

 

 

マスカレーナ LP3600 手札4

【モンスターゾーン】

カード無し

 

【魔法&罠ゾーン】

Evil★Twin(イビルツイン) イージーゲーム

Live☆Twin(ライブツイン) トラブルサン

伏せカード1

 

 

「私のターン!」

 

 マスカレーナのターンが始まる。何とか厄介な「イビルツイン」の怪盗コンビを墓地送りにしたが、この程度で安心はできない。片割れがまたフィールドに現れたら、破れない布陣で攻め立てられてしまう。

 

「2人を退けたのはいいですが、この程度で私がへこたれるとは思っていませんよね?」

「ああ、勿論だ」

 

 引いたカードを横目に、マスカレーナが好戦的に尋ねてくる。

 あちらは裏世界を駆ける運び屋だ。デュエルでちょっと不利な状況に追い詰められただけで、心神喪失などなるまい。

 

「その『期待』に応えるとしましょう。私は罠カード《Vivid(ビビッド) Tail(テール)》を発動! このカードは、私の場のカード1枚を手札に戻す事ができます。私が手札に戻すのは、トラブルサン!」

 

 バイクを駆るマスカレーナが描かれているその罠カードの効果は、自分のカードのバウンス。使い道は考える必要があるものの、トラブルサンのように発動時に効果を使えるカードの再利用にはもってこいだ。そして、そのトラブルサンがまた発動すれば、アバターのキスキルかリィラが引き寄せられ、最初のターンと同様の展開ができるようになる。

 となれば、伏せてあるカードが意外な形で役に立つだろう。

 

「というわけで、私は――」

「罠カード《マインドクラッシュ》発動! カード名を宣言し、そのカードが相手の手札にあれば全て捨てさせる。《Live☆Twin トラブルサン》を宣言!」

「ふぁ!?」

 

 そのカードが発動すると、白い光線がマスカレーナの手札に向かって放たれる。すると、手札にあった1枚のカードが、ガラスが割れる音と共に粉々に砕け散った。あれがトラブルサンだろう。

 

「よくもまぁそんなカードを入れてましたね……」

「備えあれば患いなし、ってね」

 

 このご時世、特定のカードをサーチするカードは山ほど存在する。ものによっては、それを手札に加えさせたらもう展開を止められなくなるようなカードもある。そんなデッキと相手をする際に備え、《マインドクラッシュ》は入れていたのだ。

 さらに、このカードはアニメで意外な形で使われており、それの影響を受けたのもある。

 

『ちょっとー! なんなのアイツ! 私がアイツらを出し抜いた瞬間を知らしめた記念のカードなのに!』

『サニー様、あまりかっかしすぎると背が伸びませんよ』

 

 どこかからそんなやりとりが聞こえた。さっきのターンに除外した、サニーとルーナのやりとりだろうが、除外されてもなお声が聞こえるとは、あのカードも大概特別製らしい。

 悪かった、と心の片隅で考えつつ、デュエルに意識を向ける。

 

「ならば魔法カード《打ち出の小槌》を発動します。手札を任意の枚数デッキに戻し、その数だけドローします。私は手札を3枚デッキに戻し、3枚ドロー!」

 

 どうやら、マスカレーナは残りの手札でこの状況を挽回できないのか、天に運を任せる事にしたようだ。そうして3枚引いた後、ケルベロスは自身の効果で魔力カウンターが置かれ、さらに攻撃力もアップする。

 

魔導獣 ケルベロス

魔力カウンター:0→1

ATK1400→1900

 

 マスカレーナにとっては大事なカードだが、果たして。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドです」

 

 召喚できるモンスターはいなかったのか、リバースカードを仕掛けただけで終わる。

 こちらの盤面に干渉しないのは嬉しいが、まだ安心はできない。何せ、マスカレーナはまだ勝負を諦めていない顔をしているのだから。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたのは《サイクロン》。これでマスカレーナの盤面を多少崩せる。

 だが、その前に。

 

「俺はスケール2の《サーヴァント・オブ・エンディミオン》をペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 右側のペンデュラムゾーンに置くのは、さっきのターンに《黒き森のウィッチ》でサーチしておいたカード。光の柱が現れると、緑をベースにした法衣に身を包んだ金髪の女性がその中に浮かぶ。

 

魔導獣 ケルベロス

魔力カウンター∶1→2

ATK1900→2400

 

 言うまでもなく、ペンデュラムゾーンに発動するペンデュラムカードも魔法カード扱い。かなり前向きに捉えれば、魔力カウンターを置きつつ展開がやりやすくなるペンデュラムカードは、このデッキとの相性がかなりいい。

 そうして魔力カウンターを置けるカードを仕掛けてから、さっきドローした《サイクロン》を使う事にする。

 

「速攻魔法《サイクロン》! 俺は右の伏せカードを破壊する!」

「それはちょっときついので、罠カード《Evil★Twin チャレンジ》を発動! 墓地の『キスキル』または『リィラ』を特殊召喚します。《Evil★Twin キスキル》を特殊召喚!」

 

 破壊しようとしたカードを使われた。案の定、このまま片が付くなんて事はなかった。

 その罠カードを発動すると、フィールドに魔法陣が現れ、人間体のキスキルがVサインと共に現れた。カード名に「チャレンジ」と付いているから、それが成功したという事だろう。

 

□□□ Evil★Twin キスキル

□◆■ ATK1100

□■□ リンク2

 

 そして《サイクロン》は、発動し終えた《Evil★Twin チャレンジ》を破壊する。あまり意味はなくなってしまったが、魔法カードが発動したという事実だけでも十分だ。

 

「魔法カードが発動した事で、ケルベロスと、《サーヴァント・オブ・エンディミオン》に魔力カウンターがそれぞれ1つ置かれる!」

 

魔導獣 ケルベロス

魔力カウンター:2→3

ATK2400→2900

 

サーヴァント・オブ・エンディミオン

魔力カウンター:0→1

 

 これでまた、ケルベロスの攻撃力は申し分ない数値になった。

 とはいえ、キスキルを蘇生したとなれば、タイミングを見計らってリィラを蘇生させ、破壊効果を使うはず。どこで使ってくるか――

 

「罠カード《サイバネット・リグレッション》発動! 私がリンクモンスターを特殊召喚した時、フィールドのカード1枚を破壊して、1枚ドローします。私が破壊するのはケルベロス!」

「そう来たか……」

 

 発動した罠カードの光を浴び、フィールドで待機していたケルベロスを溶かしてしまう。攻撃力が3000を超えるのを無視できなくなったから、先に除去したわけか。

 さらにマスカレーナは手札も増やしている。破壊とアドバンテージの両方を得られる、中々いいカードを引き寄せていたわけだ。特に、リンクモンスターを特殊召喚する機会には困らない【イビルツイン】なら、腐る事は全くと言っていいほどないだろう。

 けれど、魔法使い族が破壊された事で《魔法族の結界》に魔力カウンターが更に1つ置かれる。

 

魔法族の結界

魔力カウンター:2→3

 

 そろそろ潮時だろう。

 

「《魔法族の結界》は、魔力カウンターが置かれたこのカードと、魔法使い族を俺のフィールドから墓地へ送る事で効果を発動でき、置かれていた魔力カウンターの数だけドローする!」

「あー、そっちを先に破壊すべきでしたか……」

「俺は《ナイトエンド・アドミニストレーター》を墓地へ送って効果を発動し、カードを3枚ドローする」

 

 シンクロモンスターをコストに使うのは中々贅沢だ。それでも、そうしなければ次の手立てがないし、3枚もドローできるのならディスアドバンテージとは言い切れないだろう。

 色々な意味で罪悪感を抱きつつ、3枚のカードを引く。2枚はこのターンには使えないが、残りの1枚はこのデッキのキーとも言えた。

 

「魔法カード《魔力掌握》発動。このカードは、フィールドのカード1枚に魔力カウンターを置く。俺は《サーヴァント・オブ・エンディミオン》に魔力カウンターを1つ置く。さらに魔法カードの発動と合わせ、置かれる魔力カウンターは2つ!」

 

サーヴァント・オブ・エンディミオン

魔力カウンター:1→3

 

「そして《魔力掌握》の最後の効果で、デッキから同じカード1枚を手札に加える事ができる。ただし、このカードは1ターンに1枚しか発動できない」

 

 1ターンに1度限定とは言え、好きなカードに魔力カウンターを1つ、あるいは2つ置ける上、同名カードをサーチできるのは非常に優秀だ。かといって入れすぎると事故要因になりかねないが、それは全てのカードに言える話だ。

 

「《サーヴァント・オブ・エンディミオン》の効果発動! このカードの魔力カウンターを3つ取り除く事で、攻撃力1000以上で魔力カウンターを置く事ができるモンスター1体と、このカードを特殊召喚、さらにそれらに魔力カウンターを1つずつ置く!」

「ほう……!」

 

サーヴァント・オブ・エンディミオン

魔力カウンター∶3→0

 

 効果を宣言すると、マスカレーナはどこか期待するような声を上げた。どういうつもりかは知らないが、ひとまずこの状況でデッキから呼び寄せるモンスターは決まっている。

 

「俺がデッキから呼び出すのは、《創聖魔導王 エンディミオン》!!」

 

 このデッキのエースモンスターたる魔導王。ベルゲニアとのデュエルで使用した《神聖魔導王 エンディミオン》の強化体であるそのモンスターは、黒の法衣に赤みが増し、さらに背中に備えていた金色のリングを傍らに携え、赤い稲妻を走らせている。

 そしてその脇に、《サーヴァント・オブ・エンディミオン》が嫋やかに降り立った。

 

創聖魔導王 エンディミオン

ATK2800 レベル7

魔力カウンター:0→1

 

サーヴァント・オブ・エンディミオン

ATK900 レベル3

魔力カウンター:0→1

 

「では、ここらで私はキスキルの効果を発動! 墓地の《Evil★Twin リィラ》を特殊召喚!」

 

 フィールドのキスキルが右腕を横に広げると、マジックのようにその手の先にリィラが現れる。こちらもまた人間体で、冷静ながらも自信に満ちた顔をしていた。

 

□□□ Evil★Twin リィラ

■◆□ ATK1100

□■□ リンク2

 

『……マスカレーナ。ちょっと人使い荒すぎ』

『たしかにねえ。これは勝たなかったら割増料金かなー?』

「それは御無体ってやつですよ!」

 

 何度も墓地とフィールドを往復しているキスキルとリィラが抗議する。それが【イビルツイン】の戦い方なのは俺も理解しているが、当人からすればあまりいい気がしないらしい。

 思い起こすのは、《レアメタルフォーゼ・ビスマギア》や《パラメタルフォーゼ・メルキャスター》だ。あの2人も、俺がデュエルで何度も使い回した際、いい表情をしなかった。その時の事を思うと、キスキルとリィラ、そしてその2人を宥めるマスカレーナに同情する。

 

「ええい! リィラが特殊召喚した時、私の場に『キスキル』がいるので、カードを1枚破壊します!」

 

 自棄っぱちみたいに効果を宣言すると、リィラが嫌々ながらも暗器を構える。そしてその狙いは創聖魔導王に定められた。

 しかしこちらも、それを想定している。

 

「魔力カウンターが置かれた創聖魔導王は効果対象にならず、効果でも破壊できない!」

「はぇ!?」

 

 魔法都市を統べる魔導王は進化を遂げ、魔力カウンターが置かれると強力な耐性を得る。単なる打点目的で呼んだつもりはない。

 

「ぐぬー……ならば、《サーヴァント・オブ・エンディミオン》を破壊します!」

 

 マスカレーナの最終的な選択は、モンスターの数を削る事。攻撃力が低くても、こちらが展開できないようにするためにそれを選んだ。

 針状の暗器を投げつけられ、《サーヴァント・オブ・エンディミオン》は小さく呻き破壊される。胸が痛むが、大した支障はない。

 

「モンスターゾーンで破壊された《サーヴァント・オブ・エンディミオン》の効果発動! このカードをペンデュラムゾーンに置き、自身に置かれていた魔力カウンターと同じ数の魔力カウンターを置く!」

「うぬぬ……ままならないですね……」

 

 エクストラデッキに行ったカードを即座にペンデュラムゾーンに置く。光の柱と共に現れたそのモンスターを見上げて、マスカレーナは歯ぎしりをしていた。フィールドの状況はほとんど変わっていないのだから無理もない。

 

サーヴァント・オブ・エンディミオン

魔力カウンター:0→1

 

「行くぞ!《創聖魔導王 エンディミオン》でリィラを攻撃!」

 

 創聖魔導王が携えていた金のリングが宙に浮かび、赤い稲妻を蓄え始める。

 攻撃力だけで見れば、キスキルとリィラのどちらを攻撃しても結果は変わらない。しかし、相棒を呼び戻す効果を既に使っているのはキスキルだ。なら、次のターン開始時に2体を並べさせずにいた方が、あちらの戦術も狭まるだろう。だから、リィラには悪いがそちらを狙う。

 そして、金のリングから赤い雷が迸ると。

 

「ダメージステップ開始時に、リィラをリリースして『イージーゲーム』の効果発動! キスキルの攻撃力をリィラの攻撃力分アップさせます!」

 

 再びリィラが姿を消し、キスキルは翼を広げて腰に手をやり、ドヤ顔を見せつけてきた。

 このタイミングで攻撃対象のリィラがいなくなった事で、創聖魔導王の攻撃は取り消されてしまう。戦闘ダメージすらも与えられないのはつらいが、これ以上イージーゲームを残すのも後々面倒だ。

 

「創聖魔導王の効果発動! 1ターンに1度、相手の魔法・罠カードの効果が発動した時、俺のフィールドの魔力カウンターが置かれたカード1枚を手札に戻して、それを無効にし破壊する! さらに、戻したカードに置かれていた魔力カウンターと同じ数の魔力カウンターを自身に置く!」

「ですが、創聖魔導王の攻撃が中止される事には変わりありません!」

 

 1ターンに1度とはいえ、魔法・罠の無力化。効果耐性もそうだが、これは非常に心強い。《サーヴァント・オブ・エンディミオン》を手札戻すと、リィラを狙って放った赤い雷は、イージーゲームのカードを粉砕した。

 

創聖魔導王 エンディミオン

魔力カウンター:1→2

 

 マスカレーナのカードを多少削ったはいいが、状況はいまいち分が悪い。【イビルツイン】の継戦性もさることながら、サイバース界の運び屋は一筋縄ではいかなかった。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

 デュエルはかなり複雑な様相を呈していると、クーリアは観ていて思う。

 マスカレーナの【イビルツイン】は、「キスキル」と「リィラ」のお互いを補い合う効果によって場持ちがいい。さらにそれをサポートする魔法・罠カードを駆使し、バトレアスが攻め入る隙を極力与えない。バトレアスも十分攻めているとクーリアは思うが、マスカレーナは中々のやり手だ。

 そして、イビルツイン体のキスキルとリィラが意思を持っている点。何かとマスカレーナに茶々を入れて雰囲気を和ませてくるが、このデュエルに懸かっているのはエグザム1枚。あまり緊張感を崩されるのも、デュエルに集中できない要因となってしまうので、できれば控えてもらいたかった。

 

「……クーリア」

「はい」

 

 同じくデュエルを観ているミューゼシアが、視線はデュエルフィールドに向けたまま話しかけてくる。真剣なトーンだ。

 

「恐らくマスカレーナさんは、エグザムを手に入れるためだけにデュエルをしているのではない、と私は思うのだけれど」

 

 クーリアは、どういう意味か分からない、とはならない。それは薄々思っていた事だ。

 そもそものデュエルの経緯は、バトレアスがマスカレーナのシャワータイムを不可抗力で見てしまったという、クーリアからすればモヤっとするもの。それで腹を立て、様々な意味で価値のあるエグザムを欲しがる、というのは分かる。

 だけど、それとは別の理由もあるのではないかと、クーリアは考えていた。

 それは恐らく。

 

「……バトレアスを深く知るため。情報を得るため」

 

 クーリアの推測に、ミューゼシアは頷く。同じ考えらしい。

 

 バトレアスは普段ドレミ界で生活している。たまの休日や個人からの依頼で外へ出る事はあるが、その頻度は他のドレミコードたちが「浄化」で外へ出るよりも圧倒的に少ない。加えて、S-Forceに追われる身となってからは、ドレミ界から外へ出た事が一度もなかった。

 

 ドレミコードは、例え属する天使やドレミ界の情報が誰かに掴まれとしても、決してそれが共有できないように「仕掛け」が施されている。それは「浄化」という特殊な使命の効力が万が一にも効かなくならないよう、周りに知られないためのもの。小夜丸を解放するにあたり、情報が洩れ出るのではなく、場所を逆探知される事を危惧していたのはそういう理由だ。

 バトレアスは元々人間だが、クーリアによってドレミコードの力を注ぎ込まれた結果、イレギュラーな経緯で生まれたとしても、ドレミコードの天使に間違いはない。だから、彼の情報は顔と名前程度しかS-Forceは共有できていないだろうし、小夜丸が例えドレミ界の情報を集めていても、それは口外できないはずだ。

 

 つまり、バトレアスの情報を少しでも集める事は、アドバンテージという意味では非常に有用。マスカレーナは実際に話をするだけでなく、デュエルでのプレイングを直に見てバトレアスを分析している。さらに、意思を持ったキスキルとリィラのカードを使用する事で、彼女たちにもそれを共有しているはずだ。

 だからこそ、このデュエルはかなりリスクが高い。

 それでも、それを教えたところでこのデュエルは止まらないだろう。むしろ、バトレアスは戦いに慎重になってしまうかもしれない。そうして負けたら、エグザムがマスカレーナ、あるいは他の誰かに渡ってしまう。それに、マスカレーナが情報目的でデュエルをしている確証もないから、下手な事は言えなかった。

 

「仮にもし、マスカレーナさんがバトレアスの情報を得る事で、彼に危機が訪れるとしたら――」

「私が守ります。なんとしても」

 

 しかしながら、どうあっても、バトレアスに危機が迫るというのであれば、クーリアがそれから守る。バトレアスが、クーリアたちを守るために戦うと告げたように、自分もまたバトレアスを守るために戦う。それは最早、確定事項だ。

 その答えに、ミューゼシアはふっと笑ってデュエルへと視線を戻した。

 

 

 

「私のターン!」

 

 さっきのターンでもう少し手札に恵まれていれば、キスキルも倒せた。しかしあちらを残した事で、また破壊コンボを使われてしまう。それでも、伏せカードはいいカードだし、創聖魔導王の効果もある。マスカレーナの出方によっては、何とかなるだろうか。

 

「《スワップリースト》を召喚!」

 

 マスカレーナはキスキルの効果を使わず、手札のモンスターを召喚した。暗めのカラーリングで、杖を携えている魔法使いみたいな見た目のモンスターだ。

 

スワップリースト

ATK500 レベル2

 

「開け、世界を出し抜くサーキット! 召喚条件はレベル4以下のサイバース族1体!」

 

 空に開いたリンクサーキットに小さな魔法使いが飛び込むと、光が放たれた。

 

「リンク召喚! リンク1、《リンク・ディサイプル》!」

 

 現れたのは、手足が簡略化されたデザインの小人だ。右手には剣に見える武器を握っている。

 

□□□ リンク・ディサイプル

□◆□ ATK500

□■□ リンク1

 

「リンク素材として墓地へ送られた《スワップリースト》、さらに手札の《パラレルエクシード》の効果を発動!《パラレルエクシード》は、私がリンク召喚したモンスターのリンク先に特殊召喚ができます!」

「それは……」

「ただし、《パラレルエクシード》の効果で特殊召喚されたこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になり、レベルが4になります」

 

 現れたのは、紺と白の身体に4枚の翼を生やす、小さな翼竜。デザインは全体的にサイバーチックで、確かこれもサイバース族だったはずだ。マスターデュエルでも見る機会が多かった。

 

パラレルエクシード

ATK2000→1000 レベル8→4

 

「そして《スワップリースト》の効果で、このカードをリンク素材としたモンスターの攻撃力を500下げ、カードを1枚ドローします」

 

リンク・ディサイプル

ATK500→0

 

 攻撃力と引き換えにドローし、マスカレーナは頷く。

 そして、今度は《パラレルエクシード》を指差した。

 

「特殊召喚した《パラレルエクシード》の効果発動! 同名モンスターをデッキから特殊召喚します!」

 

 電子的な鳴き声を上げると、その横にもう1体同じモンスターが現れた。

 

パラレルエクシード

ATK2000→1000 レベル8→4

 

「再び開け、世界を出し抜くサーキット! 召喚条件はリンクモンスター以外のモンスター2体!」

 

 またしても空に現れたリンクサーキットに、2体の《パラレルエクシード》が吸い込まれ、光が一瞬場を支配する。その光の中からぴょんと跳んで出てきたモンスターは。

 

「あらゆるデータはこの手の中に! 華麗に世界を駆ける電脳界の申し子!《I:P マスカレーナ》!」

 

 お腹を出した大胆なデザインの服、ツインテール、そして人を小ばかにするような笑顔。まさしく、今デュエルをしているマスカレーナと同じ姿だった。

 

□□□ I:P マスカレーナ

□◆□ ATK800

■□■ リンク2

 

『マスカレーナ……いくら自分だからって口上ちょっと気合入れ過ぎじゃない?』

「そこにツッコむのは野暮天ですよ!」

 

 自分でつけた自分の召喚口上についてケチをつけられるのは、見ているとかなり気の毒に思うし、当事者なら尚更だろう。俺もクルヌギアスからそれらについて突かれた時を思い出し、何だか心が痛くなる。

 

「バトレアスさん! 何他人事みたいにぼんやり眺めているんですか!」

「いや、そんな事は……」

 

 むしろ同情していたのだが。

 

「これから私の切り札の出番なんですから、瞬き厳禁ですよ!」

「何……?」

 

 宣言した上での「切り札」。何を出すつもりだろうか。

 

「さらに開け、世界を出し抜くサーキット!」

 

 マスカレーナが手を前に突き出すと、今度は地面にリンクサーキットが出現した。

 

「召喚条件はモンスター2体以上! リンク2の、私自身とキスキルをリンクマーカーにセット!」

 

 瞬間、キスキルとマスカレーナの姿がそれぞれ二重になり、地面に出現したリンクサーキットに飛び込む。

 マスカレーナの効果は、自身を素材としたリンクモンスターに効果破壊耐性を持たせる。だから、これから出てくるモンスターは、基本的に戦闘か除外で対処するしかない。

 そして、その2人を飲み込んだサーキットから、青と紫、白の寒色が入り混じる嵐が発生した。

 

「この感じは……?」

「エグザムとは少し違う、けれど……!」

 

 突如吹き荒れ始めた嵐に、デュエルを見ていたミューゼシアとクーリアが驚く。今までこんな演出はなかったし、しかもこの風の勢いはソリッドビジョンだけではない。

 そして、この色合いの嵐は俺も見覚えがある。

 

「疾風迅雷! 無限に逆巻く儚き風を裂き、開かれた空へ舞い上がれ!」

 

 マスカレーナが両腕を広げると、寒色の渦が弾け、その中からモンスターが姿を見せた。

 全体像は、ドラゴン。白と黒のツートンカラーだが、身体や翼の黒い部分には青いラインが走り、頭部には天使の光輪みたいな円形の部位がある。

 

「リンク4!《ファイアウォール・ドラゴン》!!」

 

 まさしく、俺も見た事があるその白いドラゴンは咆哮を上げた。

 

□■□ ファイアウォール・ドラゴン

■◆■ ATK2500

□■□ リンク4

 

 鉄壁の守護竜。それが翼を勢いよく広げると、縦横無尽に風が吹く。これもまたソリッドビジョンではなく、限りなく現実に近い感触。だが、エグザム特有の感覚とは少し違った。

 

「おおう、私も初めて召喚しましたが……中々のものですね……」

「……?」

 

 吹き荒れる風を腕で凌ぐマスカレーナ。そんな彼女が告げた言葉に首を傾げる。あちらもそんな俺を見て、にっと笑った。

 

「このモンスター、あなたと戦うにあたって、私の伝手をちょっと使ってどうにか手にする事ができたんです。ただ、如何せん強大な力を持ってるって事で、扱いには気を付けるよう言われてたんですよ。まさか、こんな感じとは……」

「何だってそこまでして……」

 

 《ファイアウォール・ドラゴン》の出自は俺も覚えている。ここは厳密にはアニメの世界と違うから、全てその通りとは言い切れない。しかし、アニメ同様このモンスターは強大な力を持っているらしい。

 だが、俺と戦うためにそんなカードをわざわざ用意した理由は分からない。

 

「決まってるじゃないですか。あなたがそれだけのデュエリストだと、判断したからです」

 

 顔を上げる。マスカレーナは、嘘や皮肉を言っているわけではなく、俺の事を真剣にそう思っているようだ。

 

「あなたの情報は、得られる限り全て集めたつもりです。この目でも実際に見ましたからね。その上で、私はあなたを強いと思った……であれば、そんなあなたを相手にするのに、強力なカードを使わない理由がありますか?」

 

 確実に、マスカレーナは俺の事を「強い」と評価した。それ自体に悪い気はしないものの、だからと言ってより強大なモンスターを当てられるのは複雑な気持ちだ。

 

「罠カード《サイバネット・カスケード》発動! 私がリンク召喚した時、その素材としたモンスター1体を墓地から特殊召喚します。キスキルを特殊召喚!」

 

 《ファイアウォール・ドラゴン》の左隣にキスキルが現れるが、彼女はマスカレーナに一言物申したそうな顔つきだ。過労死、という言葉が頭を過ぎる。

 

Evil★Twin キスキル

ATK1100 リンク2

 

「そして、キスキルの効果発動! 墓地の《Evil★Twin リィラ》を復活!」

 

 キスキルが指を鳴らすと、今度は《ファイアウォール・ドラゴン》の右隣に、人間体のリィラが現れた。

Evil★Twin リィラ

ATK1100 リンク2

 

 フィールドを見て、冷汗を垂らす。

 《ファイアウォール・ドラゴン》は、メインモンスターゾーンのキスキルとリィラの間にいる。つまり、イビルツイン2体と相互リンク状態だ。

 

「特殊召喚したリィラの効果発動! あなたの場にセットされているそのカードを破壊します!」

 

 魔力カウンターが置かれた創聖魔導王は効果対象にならないから、伏せてある魔法・罠カードを狙ってきた。リィラが針状の武器を投げつけて、伏せていた《マジシャンズ・プロテクション》が破壊されてしまう。

 この罠カードは、魔法使い族がいる限り、自分への全てのダメージを半減させるありがたい効果を持っていた。しかしながら、破壊されても発動する効果がある。

 

「《マジシャンズ・プロテクション》が破壊された事で、効果発動! 墓地の魔法使い族モンスターを特殊召喚する!」

 

 蘇らせる第一候補は、破壊されても後続に繋げる《ナイトエンド・アドミニストレーター》だ。

 けれど、この効果が通用しない事は半分覚悟している。

 

「俺は墓地の《ナイトエンド・アドミニストレーター》を――」

「《ファイアウォール・ドラゴン》の効果発動! このカードがフィールドに存在する限り1度だけ、このカードと相互リンク状態のモンスターの数まで、お互いのフィールド及び墓地のモンスターを手札に戻します!」

「やっぱ使ってきたか!」

「対象に選ぶのは、あなたの墓地の《ナイトエンド・アドミニストレーター》と、私の場の《リンク・ディサイプル》です!」

 

 《ファイアウォール・ドラゴン》の翼や身体の黒い部分が青く発光し始める。それに照らされて、俺の墓地にいた《ナイトエンド・アドミニストレーター》は、苦しそうな顔を浮かべてエクストラデッキに戻る。

 また、《ファイアウォール・ドラゴン》をメインモンスターゾーンへ呼ぶために、エクストラモンスターゾーンに残っていた《リンク・ディサイプル》も姿を消した。あちらは攻撃力が0だから残すのは危険と判断したらしい。

 

 《ファイアウォール・ドラゴン》はVRAINS主人公の切り札とされていたカードだ。しかしOCGにおいては、登場当初はデッキを選ばない有用な効果と、強力なバウンス効果が悪用され、アニメ放送中にもかかわらず禁止カードにされてしまったという数奇なモンスター。後にエラッタされて釈放されたが、その存在感は今なお健在だ。

 そんな《ファイアウォール・ドラゴン》を【イビルツイン】で使われるとは思っていなかった。こうして実際に目にすると、リンクマーカーの向き的に相互リンクがしやすいという相乗効果もあると気付かされる。

 

 そしてマスカレーナは、《ファイアウォール・ドラゴン》を呼び出して終わりではないらしい。さらに1枚の手札を手にし、不敵に笑っている。

 

「そしてこのカードは、私の場のリンクモンスター2体をリリースする事で、手札または墓地から特殊召喚できます!」

 

 マスカレーナがカードを掲げると、《ファイアウォール・ドラゴン》の両脇にいる2人のイビルツインが姿を消した。そして、フィールドに「☆」のマークがいくつも出現し、それらはやがて人の形へと変わっていく。

 

「神出鬼没! 勝利を綺羅星で飾る、華麗で可憐な2人の怪盗!《Evil★Twins(イビルツインズ) キスキル・リィラ》!!」

 

 一瞬の閃きと共に露わになったそのモンスターは、キスキルとリィラの2人だ。《Evil★Twin キスキル》と《Evil★Twin リィラ》と同じ人間の姿で、服装も変わらない。だが、これは2体のモンスターが1つになった状態。俺の【ドレミコード】の《グランドレミコード・ファンタジア》と同じ原理だ。

 

Evil★Twins キスキル・リィラ

ATK2200 レベル8

 

『さーて、そろそろ幕引きってところかな!』

『……ん。人使いの荒い誰かさんのせいで疲れてきちゃったし』

「いや、ホントそれは……」

 

 意気揚々と翼を広げるキスキルに対し、リィラは腕を上へと伸ばしてコリをほぐしていた。その言葉がジョークかどうかは分からないが、マスカレーナもいたたまれない顔をしている。

 

「しかし、フィナーレという点は同意ですね。このキスキル・リィラの攻撃力は、私の墓地に『キスキル』モンスターと『リィラ』モンスターの両方がいる限り、2200ポイントアップします!」

 

Evil★Twins キスキル・リィラ

ATK2200→4400

 

「攻撃力4400……!」

「こんなところで……」

 

 ミューゼシアとクーリアが、その高い攻撃力に戦慄する。

 これこそ、マスカレーナの……というより【イビルツイン】の切り札だ。高い攻撃力のキスキル・リィラ、さらに効果破壊耐性を持つファイアウォール。これを突破するのは容易ではない。

 

「さあバトルです! まずはキスキル・リィラで創聖魔導王を攻撃! コメット・スタンプ!!」

 

 マスカレーナの宣言を聞き、キスキルとリィラが頷き合って跳び上がると、星空に見える空に浮かぶ。そして創聖魔導王を見下ろし、2人そろって両手を前に突き出す。次の瞬間、巨大な「★」マークが現れて彗星の如く迫ってきた。

 

『……ッ!』

 

 創聖魔導王は、どうにか金のリングでそれに耐えようとするも、質量故か耐えきれずに潰されてしまった。

 

「ぐう……っ!」

 

バトレアス LP1900→300

 

「魔力カウンターが置かれた創聖魔導王がバトルで破壊された事により、俺はデッキから通常魔法1枚を手札に加える事ができる!《魔力統轄》を手札に!」

「それは次にあなたのターンが来なければ使えませんよね? というわけで、《ファイアウォール・ドラゴン》でダイレクトアタック!」

 

 そう、俺のフィールドにはもうカードがない。

 マスカレーナがそれで勝利を確信したように、俺に人差し指を向けながら攻撃宣言した。

 

「これで終わりです! テンペスト・アタック!!」

 

 《ファイアウォール・ドラゴン》の翼が変形し、さらに青いラインが赤色に変わると、雷を蓄え始める。

 

「バトレアス!」

 

 クーリアの叫び声が響いた。

次のうち、この作品で、デュエル外の登場人物として見てみたいのは?

  • 魔術師
  • コード・トーカー
  • ARG☆S
  • ウィッチクラフト
  • 閃刀姫
  • 霊使い
  • 勇者トークン一行
  • 推しがいないんですが……
  • 全部書いて
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