バトレアス LP300 手札4
【モンスターゾーン】
カード無し
【魔法&罠ゾーン】
カード無し
マスカレーナ LP3600 手札2
【モンスターゾーン】
ファイアウォール・ドラゴン ATK2500 リンク4
【魔法&罠ゾーン】
カード無し
《ファイアウォール・ドラゴン》が、赤い雷を纏う突風を放つ。その攻撃は、マスカレーナが今まで使ったどのモンスターとも違う感覚で、使っている自分でも少しばかり恐怖してしまう。触れ込み通り、このカードは普通ではないようだ。
「バトレアス!」
デュエルを見ているクーリアが、バトレアスの名を叫んだ。この攻撃が通れば、バトレアスのライフは尽きてマスカレーナの勝ち。そして、後にエグザムが1枚マスカレーナの手に渡る。
だが、クーリアが心配しているのは、そういう事情ではなく、バトレアスが負ける事。もっと言えば、この《ファイアウォール・ドラゴン》の雰囲気が違うからこそ、攻撃を受けたらただでは済まないと予測し、それを心配しているのだろう。
もしそうなった場合、マスカレーナは最大限の救護処置をするつもりだ。
癒しのシャワータイムを覗かれて気を悪くしたのは確かだが、そのケリはデュエルでつけると決めている。そのデュエルの過程で傷つける事までは本意でないため、アフターケアはするつもりだ。
(勝った……!)
そのデュエルの決着はもう着く。
バトレアスのフィールドにカードはなく、ライフはたった300。この状況なら――
「手札の《クリボー》を捨てて効果発動! 俺が受けるバトルダメージを0にする!」
そこでバトレアスは、手札の1枚を切る。マスカレーナも把握していなかったそれは、《魔法族の結界》で引いていた最後の1枚だ。
カードが墓地へ送られると、小さな毛むくじゃらの悪魔が半透明で現れる。それは何体、何十体と分裂し、バトレアスを守るように展開した。それを見てキスキルは「かわい〜」とときめき、リィラは「1体欲しい」等と他人事みたいに羨んでいる。
そんな《クリボー》を、《ファイアウォール・ドラゴン》が放った突風は1つ残らず吹き飛ばした。その風の威力は、やはりキスキルやリィラの攻撃とは全く違う。感じる熱も、風も、全てが限りなく現実に近い。
バトレアス LP300
けれど、バトレアスのライフは減っていない。仕留め損なった。
『今ので勝てなかったのは痛いよ、マスカレーナ』
『……だね。下手したらやられるかも』
「まぁ、見ててくださいよ」
フィールドのキスキルとリィラから忠告を受けるも、マスカレーナは笑う。
同業者の誼で借り受ける事ができた、キスキルとリィラの特別仕立てのカード。その恩恵で、こうしてデュエル中であっても意思疎通ができる。そんな彼女たちと戦っているのに負けてしまうというのは、不甲斐ないのは理解している。
「私はカードを2枚伏せてターンエンドです!」
手札を全て伏せ、ターンを終える。
今伏せたカードの内1枚は《トランザクション・ロールバック》。半分のライフと引き換えに、相手の墓地の通常罠カードの効果をコピーできる。
バトレアスの墓地には、マスカレーナの2ターン目に発動した《
ただ、もう1枚の伏せカードは《ファイアウォール・ドラゴン》の防御をより強固にできる。
そして《トランザクション・ロールバック》は、墓地から除外して半分のライフを払えば、自分の墓地の通常罠の効果を即座に使える。仮に、ターン開始直後にバトレアスによって破壊されても、必要なタイミングで《
相手は名うてのデュエリストだが、この2枚があれば何とかなるだろう。
《クリボー》に助けられたはいいが、状況はあまりよくない。
マスカレーナの場にはカード効果で破壊できない《ファイアウォール・ドラゴン》、そして攻撃力4400のキスキル・リィラ。さらに伏せカード、油断はできない。
俺のライフは残り300。手札はそこそこだが、何かが狂えば負ける可能性も十分ある。
「ふっふっふー。バトレアスさん、敗北も秒読みに近いですね?」
そして、モンスター2体を従えるマスカレーナは、自信満々に問いかけてきた。あの表情からして、やはり伏せカード2枚にも何らかの策があると見える。
「……確かに、次のターン次第ではマスカレーナの勝ちだな」
「おおっ、ではあなたのドローが悪い事を祈るとしましょう!」
『マスカレーナ、他人の不運を祈るのはちょっと……』
キスキルが苦言を呈する。俺も不運を願われるのは勘弁してほしい。
ともあれ、このドローが全てだ。勝つか負けるか、これ1枚次第。
「俺のターン!」
その1枚を引き、視線を落とすと。
「……悪いな、マスカレーナ」
「え?」
「お前の期待には応えられそうにない」
皮肉交じりに告げると、リィラが「あーあ」と肩を竦めた。俺がいいカードを引いたと気付いたらしい。
「《マジカル・コンダクター》を召喚!」
ドローしたモンスターをすぐに召喚する。緑の法衣を着る長い黒髪の女性だ。
マジカル・コンダクター
ATK1700 レベル4
「次に、スケール2の《サーヴァント・オブ・エンディミオン》をペンデュラムゾーンにセッティング!」
続いて、このデッキの要ともいえるペンデュラムカード。光の柱の中に、長い金髪を靡かせる黒い法衣の女性が現れた。
「《マジカル・コンダクター》は、魔法カードが発動する度に、魔力カウンターを2つ置く!」
「今度は一気に2つですか!」
マジカル・コンダクター
魔力カウンター∶0→2
「魔法カード《魔力統轄》発動!『エンディミオン』と名のつくカード1枚をデッキから手札に加える。俺が手札に加えるのは《マギステル・オブ・エンディミオン》だ」
「それは……ペンデュラムカード……!?」
こちらが手札に加えたカードを見て、マスカレーナの表情が苦しくなる。俺がやろうとしている事を理解したらしい。
「さらに《魔力統轄》は、俺のフィールド及び墓地にある《魔力掌握》と《魔力統轄》の数だけ、フィールドのカード1枚に魔力カウンターを置く」
「うわ、そんなカードだったとは……」
「今、俺のフィールドと墓地には《魔力掌握》と《魔力統轄》がそれぞれ1枚ある。よって、《サーヴァント・オブ・エンディミオン》に魔力カウンターを2つ置く。さらに魔法カードの発動により、合計3つの魔力カウンターが置かれる!」
サーヴァント・オブ・エンディミオン
魔力カウンター∶0→3
マジカル・コンダクター
魔力カウンター∶2→4
「罠カード《パラレルポート・アーマー》発動! このカードはサイバース族リンクモンスターの装備カードとなり、装備モンスターは戦闘では破壊されず、効果対象になりません!」
だが、ここでマスカレーナが伏せカードの1枚を発動させた。そのカードから出現した機械のユニットが《ファイアウォール・ドラゴン》に接続される。
これで、《ファイアウォール・ドラゴン》はまさに鉄壁の守りを得たわけだ。《サーヴァント・オブ・エンディミオン》の効果が発動できるようになったのに加え、引き寄せたペンデュラムカードで何をするつもりか気付き、備えたのだ。
それでも、この布陣を破る手はある。
「スケール8の《マギステル・オブ・エンディミオン》をペンデュラムゾーンにセッティング。これで、レベル3から7のモンスターが同時に召喚可能!」
ついさっき手札に加えたカードもペンデュラムゾーンに置く。こちらは深緑の法衣を着る、魔道具を持つ青年だ。
サーヴァント・オブ・エンディミオン
魔力カウンター:3→4
マジカル・コンダクター
魔力カウンター∶4→6
「ペンデュラム召喚! もう一度力を貸してくれ、魔法都市を統べる誇り高き王よ!《創聖魔導王 エンディミオン》!!」
空に開いた穴から紫の光がフィールドに落ち、その中から威厳ある魔法使いが姿を見せる。魔法都市を統べる魔導王の真の姿だ。
創聖魔導王 エンディミオン
ATK2800 レベル7
マスカレーナは、この創聖魔導王の効果を前のターンに知ったから、ペンデュラム召喚される前に《パラレルポート・アーマー》を発動したのだ。
そんな創聖魔導王を呼んだ事で、こちらも展開に少しだけ安心感を抱ける。気になるのは、マスカレーナの最後の伏せカードだったから。
「《マジカル・コンダクター》の効果発動! 1ターンに1度、このカードの魔力カウンターを任意の数だけ取り除く事で、取り除いた数と同じレベルの魔法使い族モンスター1体を、手札または墓地から特殊召喚する!」
「っ……随分カウンターを貯めていると思ったら……!」
「俺は魔力カウンターを2つ取り除き、レベル2の《ナイトエンド・ソーサラー》を墓地から特殊召喚!」
マジカル・コンダクター
魔力カウンター∶6→4
黒髪の魔女が両手を合わせて祈りを捧げると、魔法陣がフィールドに現れる。その中から、大鎌を構える白い髪の少年が現れた。
ナイトエンド・ソーサラー
DEF400 レベル2
「特殊召喚した《ナイトエンド・ソーサラー》の効果発動。相手の墓地のカードを2枚まで対象として除外する。俺は《Evil★Twinキスキル》と《Evil★Twin リィラ》を除外!」
「あっ!?」
明かされた効果に、マスカレーナが声を上げた。
《ナイトエンド・ソーサラー》の大鎌が妖しく輝くと、マスカレーナの墓地から2体のリンクモンスターが排出され、闇の渦へと飲み込まれる。除外されたキスキルとリィラが、悲しそうな顔を浮かべている姿が見えた。
「墓地にキスキルとリィラがいなくなった事で、キスキル・リィラの攻撃力は元に戻る!」
Evil★Twins キスキル・リィラ
ATK4400→2200
墓地にいる「キスキル」または「リィラ」モンスターは《
『ちょっとバトレアスくーん! いくらなんでもひどいと思いまーす!』
『……ぶーぶー』
「勝負なんで、悪く思わないでください」
そして、フィールドのキスキル・リィラが抗議してくる。意思を持っている2人のカードを除外するのに、罪悪感を覚えなくもない。だが言った通り、これは勝負、しかも負けられないのだ。今さら取り消したりもしない。
「《サーヴァント・オブ・エンディミオン》の効果発動! このカードの魔力カウンターを3つ取り除き、攻撃力1000以上で魔力カウンターを置けるデッキの魔法使い族モンスター1体とこのカードを特殊召喚し、それらに魔力カウンターを1つずつ置く!」
サーヴァント・オブ・エンディミオン
魔力カウンター∶4→1
デュエルディスクが、デッキから呼び出すモンスターの選択を迫ってくる。この効果で特殊召喚するモンスターはもう決めていた。
「現れろ、《エンプレス・オブ・エンディミオン》、《サーヴァント・オブ・エンディミオン》!」
《サーヴァント・オブ・エンディミオン》と共に現れたのは、白いドレスを着る長い薄金色の髪の女性だ。背中には、創聖魔導王と似たような金色の円環が浮かんでいる。
エンプレス・オブ・エンディミオン
ATK1850 レベル7
魔力カウンター:1
サーヴァント・オブ・エンディミオン
DEF1500 レベル3
魔力カウンター:1
「特殊召喚が成功した《エンプレス・オブ・エンディミオン》の効果発動! 相手フィールドのカード1枚と、俺のフィールドの魔力カウンターが置かれたカード1枚を対象とし、その2枚を手札に戻す!」
「!」
俺のフィールドで対象にするカードは決めてある。
マスカレーナのフィールドから除外するカードは、《マジカル・コンダクター》を引いた時から考えていた。
「俺は《サーヴァント・オブ・エンディミオン》と、キスキル・リィラを手札に戻す!」
『『えっ……?』』
《エンプレス・オブ・エンディミオン》が、左手に持つ魔道具を掲げると光を放ち、指定した聖女と、二人組の怪盗コンビを明るく照らす。
キスキル・リィラは案の定戸惑いの表情を見せたが、それでも何かを告げる前に姿が消えた。
「そして、手札に戻したカードに置かれていた数と同じ魔力カウンターが《エンプレス・オブ・エンディミオン》に置かれる」
エンプレス・オブ・エンディミオン
魔力カウンター:1→3
「今のはプレイングミスじゃないですかねぇ?」
そこでマスカレーナは、にやにやと人を小馬鹿にするような笑顔を浮かべる。
「《ファイアウォール・ドラゴン》は、現状如何なる方法でも破壊できません。手札に戻すなら《パラレルポート・アーマー》にするべきだったはずですが、どうするんですか?」
マスカレーナの言い分はもちろん分かる。
あちらの切り札である《ファイアウォール・ドラゴン》は破壊できず、効果対象にもならない盤石の態勢だ。この状況で攻撃を仕掛けても、マスカレーナに与えられるダメージは300ぽっち。さらに攻撃力1850の《エンプレス・オブ・エンディミオン》を返しのターンに攻撃されれば、俺が負ける。
だからこそ、戦闘破壊できるように《パラレルポート・アーマー》をバウンスすべきなのが最適解だと、あちらは考えている。
だが俺も、《パラレルポート・アーマー》がネックなのは分かっていた。そして、それを除去する方法はひとつではない。
「俺はレベル4の《マジカル・コンダクター》に、レベル2の《ナイトエンド・ソーサラー》をチューニング!」
白髮の少年が危なげなく大鎌を振り回すと、その姿が2つの光の輪に変わる。それらは、祈りを捧げるように手を合わせる《マジカル・コンダクター》を包み込み、光を放った。
「シンクロ召喚! 現れろ、《エクスプローシブ・マジシャン》!!」
光の中から姿を見せたのは、白い法衣を着る魔法使いの男。右手には魔道具を握っている。
エクスプローシブ・マジシャン
ATK2500 レベル6
「《サーヴァント・オブ・エンディミオン》を再びペンデュラムゾーンにセッティング!」
先ほど手札に戻したばかりで申し訳ないが、金髪の聖女を再びフィールドに呼び寄せる。その表情の全ては分からないが、もし何か苦言を呈されたら素直に謝るとしよう。
そして、既にペンデュラムゾーンに置いていた《マギステル・オブ・エンディミオン》もまた、魔法カードが発動する度に魔力カウンターを自らに置く効果を持っていた。
マギステル・オブ・エンディミオン
魔力カウンター∶0→1
「《魔力掌握》発動! 俺は《マギステル・オブ・エンディミオン》に魔力カウンターを1つ置き、さらにデッキから同名カードを手札に加える!」
マギステル・オブ・エンディミオン
魔力カウンター∶1→2→3
サーヴァント・オブ・エンディミオン
魔力カウンター∶0→1
《魔力掌握》そのものが魔法カードのため、2枚のペンデュラムカードには追加で魔力カウンターが置かれる。
これで、勝利に必要な魔力カウンターは揃った。
「《エクスプローシブ・マジシャン》の効果発動! 俺のフィールドから魔力カウンターを2つ取り除き、相手の魔法・罠カード1枚を破壊する! 破壊するのは《パラレルポート・アーマー》だ!」
「そういう事でしたか……!」
マスカレーナが落胆の表情に変わる前で、《エクスプローシブ・マジシャン》が右手の魔道具を掲げる。
マギステル・オブ・エンディミオン
魔力カウンター:3→1
掲げた魔導具が白い光を宿すと、《エクスプローシブ・マジシャン》がそれを振り下ろした。そして放たれた白い斬撃は、《ファイアウォール・ドラゴン》に接続されたユニットに直撃し破壊する。《ファイアウォール・ドラゴン》は悔しいのか、小さく唸った。
だが、これで《ファイアウォール・ドラゴン》の鉄壁の守りは崩れたわけだ。
「バトル! 創聖魔導王で《ファイアウォール・ドラゴン》を攻撃!」
攻撃宣言を行うと、創聖魔導王が携えていた金の円環が頭上に移動する。そこに取り付けられた装飾が紫の輝きを抱き、やがて稲妻を纏わせる巨大なエネルギー弾を生み出して、《ファイアウォール・ドラゴン》へと放った。強大な力を持つネットワーク世界の竜は、それを身体に受けて咆哮と共に爆散する。
マスカレーナ LP3600→3300
「《エンプレス・オブ・エンディミオン》で、マスカレーナにダイレクトアタック!」
続いて、魔法都市の女帝が魔道具を構え、閃光弾の如き強烈な光をマスカレーナに浴びせた。
「くっ……!」
マスカレーナ LP3300→1450
「最後だ!《エクスプローシブ・マジシャン》でダイレクトアタック!」
白と金色の法衣を纏う魔術師が、いくつもの光球を生み出す。マスカレーナ本人には当てないように、と願うと、その思いを汲んだのか、流星群のごとく放たれた光球はマスカレーナの周囲に着弾した。
マスカレーナ LP1450→0
「……あちゃあ」
負けてしまったマスカレーナは、存外悔しがる様子もなく、デュエルディスクを収納形態に戻す。
「後もうちょっとだったんですがね……最後のドローで全部持っていかれちゃいました」
「……ああ。と言うわけで、エグザムは諦めるんだな」
「そうします」
俺の勝利により、エグザムは彼女に渡る事がなくなった。諦めを促すと、マスカレーナは大人しく頷く。
そうしてホッとしたのも束の間。
『ちょっといいかな?』
マスカレーナのデュエルディスクから声が聞こえたと思ったら、目の前に2人の女性が現れる。さっきのデュエルで戦ったキスキルとリィラ、それも人間体の方だ。
「!」
そこで、脇でデュエルを観ていたクーリアとミューゼシアが俺の前に一瞬で移動する。キスキルとリィラが何かをしてくるつもりだと思ってのことらしい。
それを見ても、2人は焦る素振りを見せなかった。
『ああ、待って待って。私たちは別に、彼に危害を加えるわけじゃないから』
『……そもそも実体を持ってないから、私たちじゃ現実世界に干渉できない』
クルヌギアスと同様、カード自体に意思が分裂して宿っていても、現実世界の物に触れたりはできないようだ。
その言い分に、クーリアとミューゼシアは、ほんの少しだけ俺と視線を合わせてから、わずかにスペースを開ける。
そして、キスキルが身を乗り出してきた。
『ねえ君、最後のターンの動きについて聞きたいんだけどね?』
「?」
『……私たちをバウンスするのを選んだのは、特に深く考えなかった?』
キスキルとリィラの質問の意図は、俺も分かる。
前のターンに《魔力統轄》をサーチし、最後のターンで《マジカル・コンダクター》を引いた時点で、俺はそのターンに勝利できる事を確信した。
しかし、マスカレーナの墓地にあったリンクモンスターのキスキルとリィラを除外した後、《エクスプローシブ・マジシャン》をシンクロ召喚し、効果で《パラレルポート・アーマー》を破壊、それから《エンプレス・オブ・エンディミオン》を呼んで《ファイアウォール・ドラゴン》をエクストラデッキに戻す。そして、バトルフェイズでキスキル・リィラとマスカレーナ本人に直接攻撃して勝つ、というルートもあった。
《ファイアウォール・ドラゴン》のバウンス効果は、フィールドに存在する限り1度だけ使える。正規の方法でリンク召喚したあのモンスターは、墓地に置いても蘇生でき、そのうえあちらのデッキはリンクマーカー的な意味で《ファイアウォール・ドラゴン》の効果を使いやすい。それなら、エクストラデッキに戻した方が安全だ。
何より、勝敗がつく直前の状況なら、創聖魔導王の効果でマスカレーナの魔法・罠カードの効果の発動も1回は無効にできる。最後の伏せカードが何かは知らないが、それでも対処できた。
つまり、最後のターンの俺の展開には2通りのルートがあって、非合理的な方を俺は選んだ。キスキルとリィラは、それを選んだのが
「……2人のカードには、意思が宿っていたから。破壊するのが忍びなくてね」
『『……』』
「今更と思うだろうけど、破壊せずに済む手段があったから、それを選んだんだよ」
それが理由だ。
六花界でヘレボラスとデュエルをした時と同じ。どのモンスターを攻撃しても勝利できた状況で、六花たちのモンスターに攻撃する……ありていに言えば傷つける事を避け、俺はせめてものという思いで、コントロールを奪われた《
気にしても意味がないし、無駄と言われても文句はない。
だけどやはり、人間だった俺としては、意思が宿っているモンスターを痛めつけてしまう事には罪悪感が伴う。その結果が、あのプレイングだ。
『……優しいんだね』
俺の答えを聞いて、キスキルはにっこりと笑う。それが本音か皮肉かは、判断できなかった。しかし、キスキルはぱちりとウィンクをして、マスカレーナに振り向く。
『それじゃ、マスカレーナ。私たちはそろそろ行くね。そのカードはちゃんと返してよ?』
それだけ言って、キスキルは姿を消す。
そしてリィラは。
『……会えたら、また会おうね』
そう告げて、同じように姿が消えた。
「なるほど。あなたはどうやらとんだお人好しみたいですね」
「悪いか」
「ま、ラーメン屋で見ず知らずだった私の分を奢ってくれた時点で分かってましたが」
わずかな時間、静寂を挟んだ後でマスカレーナが切り出す。言葉自体は俺をからかうようだが、表情と声の感じはむしろ優しい感じがした。
そしてマスカレーナは、右の拳を向けてくる。
「悪くないデュエルでした」
その仕草で思い出すのは、マスカレーナのバイクに乗ったままS-Forceとデュエルをした後の事。あの時もマスカレーナは同じように拳を向けてきたが、俺は自分のしでかした事に対する罪悪感で、それに応えられなかった。
だけど今は、マスカレーナと同じ気持ちだ。
「……こちらこそ。ありがとう」
だから今度は、俺もマスカレーナと拳を合わせる事ができた。
◆
マスカレーナとの決着がついたため、S-Forceにコンタクトを取るという本題に移る。その話を詰めるのは場所を移して、との事で、マスカレーナの案内で別の空間へ通された。
そこは一見、タワーマンションの一室のような場所。インテリアは黒系で揃えられ、広いリビングにはローテーブルと3~4人掛けのソファ、テレビは十何万クラスのサイズで、窓の外に広がるのは夜景。しかしよく見てみれば、見える景色は本物ではなく映像。とすれば、ここは地上か地下かも分からない。
「女の子の部屋をじろじろ見まわすのはいただけませんよ?」
「……すまない」
マスカレーナに咎められ、縮こまる。確かにあまり褒められた行為ではなかった。
ソファに座るよう促され、ミューゼシアとクーリアが先に座る。俺は立っているべきか迷ったが、マスカレーナとクーリアに手で示されたので、クーリアの隣に座る事にした。
「インスタントですみませんね。炭酸飲料とかエナドリとかは場違いですし」
「わざわざお気遣いありがとう」
マスカレーナは、俺たち3人の前にコーヒーの入ったマグカップをひとつずつ置く。
俺が先に飲み、毒や薬の類がない事を確認したうえで、ミューゼシアが一口飲む。そしてマスカレーナにお礼を告げると、彼女はノートパソコンを持って、俺たちの正面に座る。
「ごめんなさいね、飲み物まで」
「これからする話は、飲み物なしだとすぐに喉が渇いてしまいそうですしね」
言いながら、マスカレーナは自分のグラスに炭酸飲料を注ぎ、一口飲んでからキーボードを叩き始める。
「確認なんですが……バトレアスさん、と言うよりあなた方は、S-Forceと直接お話がしたいという事でしたよね?」
「ああ、それで合ってる」
「厳密に言えば交渉だけれどね」
クーリアが付け足すが、マスカレーナの認識で概ね正しい。
こちらの目的は、S-Forceとエグザムのカードを渡してもらえないか交渉する事だ。
「俺たちが普段いる場所には、なるべく外の人を招きたくはない。かといって、都市の世界に姿を見せるのも危険すぎる。だから、別空間で話を直接したいんだ」
「それは、さっきデュエルをした場所のように、ですかね」
「ええ。外部から特定されないようにできれば、なおいいのだけれど」
「それでしたら、すぐにできますよ」
俺とマスカレーナだけで話を進めず、クーリアとミューゼシアも交えて、どのような場を用意するか詰める。
マスカレーナとデュエルをしたあの空間は、彼女が独自に作り上げた空間。遮断性に優れ、外部から発見される事もないのだそうだ。彼女が今までS-Forceの追跡を振り切ってきた理由が、何となく分かる気がした。
「大人しくS-Forceのブリッジヘッドに行けたらいいんだけど……状況が状況なだけにな」
「ええ。今はS-Forceも警戒を強めてます。バトレアスさんが表に出たら、2分と持ちません。話し合いなんてもってのほかでしょうし……」
一度ノートパソコンをどかしたマスカレーナが苦笑する。ミューゼシアがコーヒーを一口飲んだ。
「前に話した通り、今のS-Forceはとりわけバトレアスさんに対して神経過敏です。未だに三流どころはあなたの名前を使ってS-Forceにちょっかいを出してますし……もれなく逆探されて捕まってますけど」
冗談交じりにマスカレーナが言うと、クーリアは鼻息を吐いた。大方、俺の名前を騙って悪事を働く連中が許せないのと同時、そいつらが捕まってせいせいしているのだろう。ミューゼシアも、そんなクーリアを責めたりはせず、黙って話を聞いている。
「S-Forceはここ最近、ネットワークのセキュリティが強化されています。それがあなたの言う、エグザムの力によるものかもしれないと?」
「あっちが強力なシステムを短期間で構築できる技術を持っている可能性はもちろんある。だけど、飛躍的に増したって言うんなら……エグザムの可能性が高い」
情報では、エグザムのカードはITにも転用できる。S-Forceは最先端技術を駆使する組織だから、エグザムの力……この場合は演算力や処理能力を利用すれば、まさに鉄壁のセキュリティを構築する事も可能だろう。
「でしたら、ここで改めて言わせてもらいたいのは……」
注がれていた炭酸飲料を飲み干して、マスカレーナは話しかける。
「このタイミングでS-Forceとの交渉に持っていける確率は、極めて低いと覚悟してください」
俺やクーリア、ミューゼシアは、その言葉に頷かず、問い返しもしない。現状唯一頼れるマスカレーナの意見に、耳を傾ける。
「コンタクトを取る方法はメールしかありません。しかしメールも、不審な内容だったら即ゴミ箱行きが常です。下手な内容のものを送っても、発信源を辿られてしまいますから。その上、今のS-Forceに何の対策もなくメールを送りつけたら、1分も経たずにこっちが捕まります」
ネットリテラシーの基礎だが、身に覚えのない怪しいメールは開かないのが常だ。S-Forceがその辺りを忘れているとは決して思えないので、送るにしたって怪しまれないものにしなければならない。
しかし今は、そのメールを送る事すらリスキーなのだ。
「確実性は低いですが……それでもいいんですね?」
それは俺だって理解しているし、クーリアとミューゼシアも同じだろう。
それでも現状、マスカレーナ以外に頼れる人は、思いつかないのだ。
「……どうか、頼む」
俺は深々と頭を下げる。テーブルに額がつきそうになるぐらいまで、頼み込む。
頭上から、小さく息を吐く音が聞こえた。
「……いいでしょう」
顔を上げると、マスカレーナは自分の唇をぺろっと舐める。そして再びキーボードを叩き始めた。今度はかなり軽快な調子だ。
「S-Forceも、正式に連携している外部組織が多くいます。彼らを装ってメールを送る事にしましょう。ただし、発信源は簡単に特定できないよう、様々な場所を経由して、ありったけのプロテクトと逆探防止のトラップを仕掛けて送信します」
隣に座るクーリアとミューゼシアが、顔を合わせて小首を傾げているのが見えた。ドレミ界にはこの手の機器類がないから、マスカレーナが何をやっているのかほとんど分からないのだろう。俺は前世でパソコンを使っていたため、ある程度ついていけるが。
「偽装するのはガワだけ。中身は特殊な暗号にして、普通のメールではない事を一目でわかるようにします。ただ、あちらのセキュリティにスパムと判別されない程度に、それでいて人の目で素人の作と判断できないものにします」
しかし、言っている意味がある程度分かるとしても、やっている事の難易度自体は高いはずだ。俺には到底出来そうにもない。
「……そんな事ができるのか?」
「ま、S-Forceやポリスメンに捕まるような二流以下の凡人には無理でしょう」
そう告げて、マスカレーナは得意げにEnterキー(だと思う)を軽やかに叩き、ノートパソコンの画面をこちらに向ける。
「私は、一流ですけどね」
ドヤ顔をするマスカレーナ。
画面には、今マスカレーナが作ったであろうメールが表示されていた。その中身は、俺が以前貰った連絡用の《I:P マスカレーナ》のテキストみたいに、何もかもがコードで書かれている。素人目では、何が書いてあるのかさっぱり分からない。
まさにさっき話したようなメールを、この短時間で作成したわけだ。
思わず、笑ってしまう。クーリアとミューゼシアは、ただそのメールを見て感嘆の息を吐いた。
「流石、頼もしい」
「ふふん、もっと褒めてくれていいですよ?」
胸を張るマスカレーナだが、すぐに「あ」と何かを思い出したように告げる。
「ここまでやっておいてなんですが、メールの件名はどうしますか?」
「件名か……」
「さっきも言いましたが、S-Forceにはバトレアスさん名義で『いやがらせ』が発生してます。だから、普通にあなたの名前を書いたところで、結局は手の込んだいたずらとみなされてしまうかもしれません。だから、本物のあなたである事が一目で分かるようなものが好ましいです」
「本物ね……」
この世界で俺は転生者だ。それを言うのは俺としては構わないのだが、ミューゼシアたちの反応からそれはよくない。ドレミコードの名前を使うなど論外だ。
であれば、俺が俺であるという唯一無二のアイデンティティにも似た、何かをメールに記す必要がある。
腕を組み、唸って記憶を掘り返してみる。
そして、ある事を思い出した。
「マスカレーナ、ひとつ聞くが……」
試しに俺は、ある単語について知っているかをマスカレーナに聞いてみる。
そして、彼女は首を横に振った。
つまりこれは、俺とS-Forceでしか知らない単語とみなせる。
「じゃあ、それを書いてくれ」
「分かりました」
俺が頼むと、マスカレーナは言った通りの単語をメールの件名に入れてくれた。もちろんこれも暗号化して。
最初にマスカレーナと出会った鬼火家で、正体に気づかなかったにしてもラーメンを奢ってよかったかもしれない。
今こうして、必要なタイミングで、依頼と言う事でも、頼もしい協力者となってくれたのだから。
《衝動買い》
キスキル「何これ」
リィラ「……クリボーのぬいぐるみ、XLサイズ」
キスキル「まさか、こないだのデュエルのアレで?」
リィラ「……買っちった」
キスキル「まぁ、別にいいけど……って、何この触感。すごい人をダメにする感じ」
リィラ「……極小ビーズが詰まってて、クッションにしてもいいみたい」
キスキル「へぇ~、寝心地良さそう……こんな感じ?」
―5分後―
キスキル「全体的にデカい球体だから、普通の枕にも抱き枕にもしにくいし、寄りかかるのにもバランス要るねこれ。それに部屋を圧迫するし、すごいプレッシャーも感じるし」
リィラ「……こういうのは、あるだけで嬉しい」
キスキル「だったらなんでそんな遠い目してるの……」
次のうち、この作品で、デュエル外の登場人物として見てみたいのは?
-
魔術師
-
コード・トーカー
-
ARG☆S
-
ウィッチクラフト
-
閃刀姫
-
霊使い
-
勇者トークン一行
-
推しがいないんですが……
-
全部書いて