申し訳ございません。
そこはブリッジヘッドの次元転送装置がある部屋だった。
目が覚めたジャスティファイは、起き上がって現在地を理解すると同時に気づく。
「どういう事だ……」
さっきまで、マスカレーナが創った白い空間にいたはずだが、そこからなぜか戻された。当然、ジャスティファイが何かしたわけではない。直前までバトレアスを壁際に追い詰めていたのだから。
そのバトレアスも、首を絞めていたにもかかわらず、ここにはいない。ドレミコードとかいう女性たちも、マスカレーナもいなかった。
近くを見る。テータとプラ=ティナ、ラプスウェルや彼が陣頭に立って連れてきたS-Forceのエージェントたちがいる。各々突然ブリッジヘッドに戻されたせいか、床に倒れこんでいるが。
そして、あの場にいたS-Forceで、小夜丸の姿だけが見当たらなかった。
「長官、何が……?」
転送装置を操作していたオペレーターが、ジャスティファイに慎重に話しかける。彼の仕業でないのもすぐ分かった。
そこで、思考が速度を取り戻す。
「エグザムの発信を追跡するんだ、早く!」
「は、はい!」
指示を受け、オペレーターがすぐさまコンソールを操作する。
エグザムは辺りを見回しても見当たらない。なら、バトレアスが持ったまま行方をくらましたと考えるのが妥当だ。であれば、こちらにある受信機から位置が分かるはず。
だが、コンソールのパネルを係員が叩いたところで、ブザーが鳴り響く。
『接続を確立できません』
メインモニターに表示された無慈悲な一文。さらに、システムがシャットダウンしたのか、モニター類がすべて消灯し、オペレーターがざわめき始める。
助けを求めるように、一人のオペレーターがジャスティファイを見た。
ブリッジヘッドに戻された時点で、こうなるのは何となく分かっていた。
というのも、ブリッジヘッドに戻される直前に聞こえた男の声。S-Forceの名うてのエージェントたちを強制的に帰還させ、さらにアクセスをシャットアウトするとなれば、相応の力を持っている。
そして、その前にジャスティファイに告げられた言葉からして、もうこちらは盤上に上がる資格もないのだろう。
「くそ……」
S-Forceはエグザムを2枚失い、バトレアスもマスカレーナも取り逃がした事になる。
ジャスティファイの小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。
◆
「げほっ、ごほっ! がはっ……、ぐっ……!」
汚らしい咳ばかり出るが取り繕えない。さっきまで、酸欠寸前まで首を絞められていたのだ。転生する前後でも絞殺される直前まで追い詰められた事などないから、未知の感覚に苦しみ悶えるほかない。咳をし過ぎたせいで腹まで痛くなってくる。
「大丈夫? ゆっくり息をして……」
蹲る俺の背中が、優しくさせられる。声からしてクーリアだ。彼女のおかげで、少しだけ呼吸が楽になった。
「けほっ……すみません、落ち着きました……」
「よかった……」
顔を上げて、ようやく今の状況が理解できた。
いるのは、マスカレーナが構築した白い空間とは違う。床と天井には電気回路みたいな模様が描かれ、前後左右に壁はない。まさに無限に広がっているようなその場所は、一昔前のオーソドックスな電脳空間という感じだ。
「皆さんは……!?」
「大丈夫、全員無事よ」
そこで肝心な事を思い出す。ついさっきまで、S-Forceに銃で脅されていたドレミコードの皆はどうなった。
しかし、クーリアが見る先には、確かに9人のドレミコードがいる。エンジェリアとファンシアは元気そうに手を振ったり親指を立てて、グレーシアとエリーティアも頷いている。ただ、キューティアとプリモア、ドリーミアはさっきの事がまだショックだったのか、地面にお尻をつけて深呼吸を繰り返している。ビューティアとミューゼシアがその介抱をしていた。
「な、何です、ここは……?」
「……?」
さらにすぐ近くには、マスカレーナと小夜丸もいた。2人とも、今の状況が掴めていないらしい。マスカレーナも困惑しているあたり、この事態は彼女の仕業ではないようだ。
「久しぶりだな、バトレアス」
男の声が響く、後ろを振り返る。
いつの間にかそこに、白いコートに銀髪の男がいる。
ウィズダムだった。
「お前は……!」
「っ……」
その姿に、ファンシアが怒りを見せ、プリモアが身体を震わせる。初対面の状況を思えば、そうなるのも無理はない。
他の皆は、ウィズダムを怪訝な顔で見ている。その反応で、ウィズダムはお辞儀をした。
「自己紹介がまだだった人もいるな。私はウィズダム、エグザムの『創造主』の使者だ」
「……あなたが」
俺の傍にいるクーリアの言葉に、わずかな怒りが混じったのは聞いて分かる。混沌を引き起こした張本人のような彼を見て気が荒ぶるのは分かるが、宥めるようにその左手を握り、俺はウィズダムに視線を戻した。
「……ここはどこだ?」
「私が構築した空間だ。ここなら邪魔も入らない。あの状況では、話も落ち着いてできないと思ってな」
「……そうか」
「それに君は、エグザムを交えたデュエルに間違いなく勝利した。エグザムを創り出した我々からすれば、これはアフターサービスのようなものだ」
ウィズダムはエグザムの創造主の使者。であれば、このような別空間に俺やドレミコードたちを一瞬で移動させるなど、造作もないのかもしれない。そして、さっきみたいなS-Forceが雪崩れ込んできた状況では、じっくり話などできるわけもなかった。
そしてジャスティファイは、テータがデュエルに負けてもエグザムを渡そうとしなかった。最初から明確な約束をしていなかった俺も悪いが、ウィズダムからすればデュエルの結果が全てらしい。
ともあれ。
「……ひとまず、礼を言うよ。皆を助けてくれて、ありがとう」
さっき俺は、ジャスティファイに押さえつけられていたために何もできなかった。ドレミコードの皆がS-Forceに銃で脅されても、助けに入れなかった。本来なら俺の役目だったはずなのに。俺のせいでああなったも同然なのに。
だけどウィズダムは、俺と話をするという理由があっても、あの状況から皆を助けてくれた。敵か味方かで言えばウィズダムは敵だが、それでもその事実には感謝したい。
「礼には及ばない。事のついでだ」
「それでも、結果として皆は無事だ」
「あのー」
そこで声を挟んできたのは、マスカレーナだった。彼女は、なぜかミューゼシアの背に隠れるようにしながらウィズダムを見ている。そんな人見知りをするようなキャラではないはずだが。
「ここにひとり、S-Forceがまだいるんですが……」
ちょいちょい、とマスカレーナが指さしたそこにいるのは小夜丸。テータやジャスティファイなど、他のS-Forceの連中は締め出したはずだが、小夜丸だけはここにいる。それは確かに俺も少し疑問だった。
肩身が狭そうにしている小夜丸を見て、ウィズダムは「ああ」と言ってから。
「彼女からは、君たちに対する敵意を感じなかった」
「え……?」
思わず俺も小夜丸を見る。彼女は視線を逸らしたが、ウィズダムの言葉は本当らしい。それは、俺たちと短い時間接した事で、多少の情みたいなものを抱き始めたからだろうか。
「それにS-Forceはエグザムの力を利用した。その行く末を知る機会ぐらいは与えてもいいだろう……と思ったまでだ。君も彼らと敵対しているわけではないから、一緒に連れてきただけだ。サイバースの運び屋・マスカレーナ」
「なるほど……」
自分の正体を明かされた事で、マスカレーナもウィズダムが只者ではないと理解したのが表情で分かる。
「まぁ、君たち2人の『間柄』については、私の知った事ではないが」
続くウィズダムの言葉に、マスカレーナはミューゼシアの前に出て小夜丸に話しかけた。
「落ち着いて、小夜丸。ここで私をどうこうしても、帰る事ができないから無駄だと思うよ」
「……今はそれどころではないと、私も理解しています。貴女の事は改めて捕まえますよ」
「そりゃありがたい」
ここはウィズダムが作った空間。どんな事が起きるか分からないからこそ、敵対している2人も今は諍いを起こしている場合ではないと理解したようだ。
「では、本題に移ろう」
告げながら、ウィズダムが指を鳴らす。
その直後、俺の目の前に5枚のカードが突然現れた。それらはどれも真っ白で、それぞれが白、オレンジ、緑、紫、赤の淡いオーラを宿している。エグザムだ。
「君は見事、エグザムを5枚全て集めた」
改めて言われ、重大さを遅れて理解する。
情報では、エグザムが1枚あるだけで何でもできる。それが5枚あれば、神にも匹敵するのだそうだ。それが目の前にあるという事実に、全身の筋肉が硬くなる。
しかし俺は、神の力なんかに興味はない。
「……これを5枚集めれば、創造主に会わせてくれるって話だったな」
「ああ。ただ……」
ウィズダムは「ただ」と付け加えた。その接続詞の後に出てくる話は、碌なものだったためしがない。
「少しばかり、確かめたい事ができた」
「何を確かめる?」
「そのために、私とデュエルをしてもらいたい」
言いながらウィズダムは、右腕のデュエルディスクを構えて展開する。溜息を吐いた。
「最初の時と同じか……」
「ああ。それにあのデュエルは、少々中途半端だったからな」
最初に都市の世界でウィズダムと遭遇した際にも、デュエルを吹っ掛けられた。その結果は引き分け、さらにエグザムの力を示すためという、勝利以外を目的としたものだった。中途半端と言ったのはそのためだろう。
「断ったら?」
「今この場においては、エグザムは全て私が自由にできる。それがどういう意味か分かるな?」
5枚のエグザムがウィズダムの手に渡り、それらは一度姿を消す。
脅し文句としては十分だった。
クーリアたちを振り向いてみるが、いい顔はしていなかった。ここはやはり、ドレミコードの力を使ってもドレミ界に帰る事ができないような閉鎖された空間らしい。
そして、今はマスカレーナと小夜丸もいる。小夜丸はともかく、マスカレーナは恩人だ。2人をこれ以上危険に晒すわけにもいかない。
「……分かった」
「ああ。それと私の希望としては、あの時戦ったデッキと戦いたいな」
ウィズダムは、俺を指さす。具体的には腰のあたりを。
「持っているだろう、【ヒロイック】を」
どうやら本当に、あちらはエグザムを通じて情報を集めているらしい。
彼の言う通り、俺はウィズダムとのデュエルで使った【ヒロイック】のデッキを持ち歩いている。それも、クーリアのストックを少しばかり借り受けて、あの時よりは多少の強化をしていた。だから、戦う分には問題ない。
「……俺が勝ったら、皆を解放して、創造主に会わせると約束しろ」
「それは確約する」
S-Forceとの話し合いで、俺の詰めが甘かったせいで皆を危険に晒したのは恥ずべき事、二度とあってはならない。だからそれをしっかりと約束させると、ウィズダムは頷いてくれた。
彼の言う「確かめたい事」が何かは分からない。だが、エグザムを5枚集めたからか、ウィズダムは少なくとも友好的だ。約束も果たすなら、【ヒロイック】での戦いを強いられるとしても、退くわけにはいかない。
「……危険よ」
立ち上がろうとして、クーリアが袖をつかんでくる。
ウィズダムの言葉、所業でそう言いたいのは分かるが、ここは俺がデュエルを受ける以外の選択肢がない。それはクーリアも分かっているはずだ。
だから、俺は黙って視線を返し、心配ないと瞬きで伝える。そして、不承不承ながらもクーリアは袖から指を離し、他の皆の近くへと下がった。この空間には壁と呼べるものがないため、ドレミコードの皆やマスカレーナ、小夜丸は、俺とウィズダムから距離を置いて、デュエルを見守る態勢に入る。
それを横目に、俺はディスクにセットされている【ドレミコード】と、持参していた【ヒロイック】を入れ替えてからディスクを展開する。
満足気にウィズダムは笑い、ディスクを構えた。
「「デュエル!」」
バトレアス LP4000
VS
ウィズダム LP4000
「私の先攻。私は《サイバー・ドラゴン・ドライ》を召喚」
先をとったウィズダムが召喚したのは、シャープなデザインの白い機械竜。随所に黄色のカラーがちりばめられている。
サイバー・ドラゴン・ドライ
ATK1800 レベル4
「召喚に成功した事により、このドライ、さらに手札の《サイバー・ドラゴン・フィーア》の効果を発動。フィーアは《サイバー・ドラゴン》を召喚した時、手札から特殊召喚できる」
「フィールドのドライも、カード名を《サイバー・ドラゴン》として扱うって事か」
「その通りだ」
ドライの隣に現れたのは、こちらもシャープなデザインの白い機械竜。前のデュエルでも見たそれは、紫のカラーが混じっている。
サイバー・ドラゴン・フィーア
ATK1100 レベル4
「そしてドライの効果で、私の場の《サイバー・ドラゴン》のレベルを全て5に変更する」
サイバー・ドラゴン・ドライ
レベル:4→5
サイバー・ドラゴン・フィーア
レベル:4→5
「フィーアが場にいる限り、私の場の《サイバー・ドラゴン》の攻撃力は500ポイントずつ上昇する」
サイバー・ドラゴン・ドライ
ATK1800→2300
サイバー・ドラゴン・フィーア
ATK1100→1600
これはまずい。
攻撃力が上がるのより、あちらの場にはレベル5のモンスターが2体。【サイバー・ドラゴン】でこの状況、何が来るのかは予想できた。
「私はレベル5のドライとフィーアでオーバーレイ。2体の機械族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
電脳空間の空に広がるエクシーズの渦に、白い機械竜2体が黄色い光となって吸い込まれる。その光を飲み込んだ渦が爆発を起こすと、さらに巨大な機械の竜が姿を見せた。
「起動せよ、ランク5!《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》!!」
サイバー・ドラゴン・ノヴァ
ATK2100 ランク5
光を割って現れたのは、銀の装甲に身を包んだドラゴン。赤いラインが全身に走り、翼や胴体の一部が黒く、六角形のシールドやレーザー砲を尻尾に備えている。まるで、同胞たちの特徴を少しずつ取り入れているようだ。
そしてこれが出てくるという事は。
「エクストラデッキのこのカードは、私の場の《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の上に重ねてエクシーズ召喚できる。よって、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》1体でオーバーレイ!」
予想通りだ。ウィズダムが宣言すると、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》は赤い光となって天に昇り、出現した光の渦へと吸い込まれる。
「1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。エヴォリューション・エクシーズ・チェンジ!」
光の渦がさらに大きな爆発を起こし、1体のドラゴンがフィールドに降り立つ。それは《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》よりも巨大で、赤い稲妻を全身に帯びている、邪悪な雰囲気の機械竜。
「無限の勝利を渇望する、黒き栄光の機械竜!《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》!!」
銀と黒の身体、胴体の赤いコア、悪魔のような形状の翼を露わにしたそのモンスターは、機械的な咆哮を電脳空間に響かせた。
サイバー・ドラゴン・インフィニティ
ATK2100 ランク6
「なんか、強そうなモンスターですねぇ……」
マスカレーナが暢気に感想を述べるが、このモンスターは個人的に「強い」より「えげつない」の方が相応しいと思う。それぐらい、先攻1ターン目で出されると厳しい。
「このカードの攻撃力は、自身のオーバーレイ・ユニット1つにつき200ポイントアップする」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ
ATK2100→2700
「そしてカードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の恐ろしさは分かっている。どう対処すべきかも理解していた。
そして俺の最初の手札で、突破はできると判断する。
「相手フィールドにだけモンスターが存在する場合、《
《サイバー・ドラゴン》と同様の召喚ルール効果を持つそのモンスターは、紫の鎧の戦士。左手は槍・斧・剣の刃が一体化した特殊な形状をしている。
H・C 強襲のハルベルト
ATK1800 レベル4
「さらに《H・C 夜襲のカンテラ》を召喚!」
続いて召喚するのは、右手に剣、左手にその名の如くカンテラを携えた、灰色の甲冑の戦士だ。
H・C 夜襲のカンテラ
ATK1200 レベル4
「俺は、強襲のハルベルトと夜襲のカンテラでオーバーレイ! 2体の戦士族でオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
前に手を伸ばしてエクシーズ召喚を仕掛ける。今度は地面に出現したエクシーズの渦に、2人の戦士がオレンジの光となって吸い込まれる。やがて爆発した渦から姿を見せたのは、金色をメインに据えた鎧で武装する勇ましい戦士だ。
「金色の剣で闇を切り裂き、輝く勝利をその手に掴め!《
H−Cクレイヴソリッシュ
ATK2500 ランク4
「やった、クレイヴソリッシュだ!」
現れたモンスターを見てファンシアが喜びの声を上げる。クレイヴソリッシュの力は、ドレミ界でのキューティアとのデュエルで知っているからだろう。
初手にハルベルトがいた事で、効果を発動せずにエクシーズ召喚にまでつなげられた。偶然だろうが、それに感謝しつつ手札のカードを手にする。
「速攻魔法《収縮》発動! 対象となったモンスター1体の攻撃力を、ターン終了時まで元々の数値の半分にする! 俺は《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》を――」
「悪いがそうはいかない。《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にし、破壊する!」
自身の周りを漂うオーバーレイ・ユニットのひとつを、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》が噛み砕く。すると全身が赤く発光しだし、その身体から放たれた赤い雷が、発動しかけた《収縮》を黒焦げにして砕いた。
サイバー・ドラゴン・インフィニティ
ORU:3→2
ATK2700→2500
もちろん、そうなる事は予想していた。
そして狙い通りだ。
「バトルだ。クレイヴソリッシュで《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》を攻撃!」
クレイヴソリッシュには、500になるまでライフを払えば自分のモンスター1体の攻撃力をバトル開始時に2倍にする効果がある。それを使って攻撃し、何事もなければこのターンに勝利する事はできる。
だが、相手はエグザムの創造主の使者。全力を出さないわけにはいかないが、伏せカードで何かされたら逆にこっちが不利になる。最悪の場合は負けるかもしれない。だから敢えて、クレイヴソリッシュのその効果は使わないでおく。
「攻撃力は同じ。相討ち狙い……なはずもないか」
「ああ。クレイヴソリッシュの効果発動! 相手モンスターが戦闘する時、オーバーレイ・ユニットを1つ使って、相手モンスター1体の攻撃力をターン終了時まで自分の攻撃力に加える! 力を借りるぞ!」
オーバーレイ・ユニットの1つがクレイヴソリッシュの剣に吸い込まれると、剣が光り輝く。さらにクレイヴソリッシュ本人も、高揚するように雄たけびを上げた。
H-Cクレイヴソリッシュ
ORU:2→1
ATK2500→5000
そしてクレイヴソリッシュは、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》に飛び掛かり、勢いのままに剣を振り下ろす。金色の剣に両断された機械竜は、咆哮を上げて爆散した。
「ぐ……!」
ウィズダム LP4000→1500
「すごい! いきなり大ダメージ!」
プリモアが両手を上げて喜ぶ。
だが、その爆風を浴びたウィズダムは、肩の汚れを手でポンポンと払う。余裕綽々な者にだけできる仕草だ。
「罠カード《時の機械-タイム・マシーン》発動! モンスターがバトルで破壊された時、そのモンスターをコントローラーのフィールドに同じ表示形式で復活させる。戻れ、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》!」
爆炎が収まったウィズダムのフィールドに魔法陣が現れ、その中から電話ボックスのような筐体がせり上がってくる。それの扉が開くと、中からさっき倒したばかりの機械竜が飛翔した。しかもさっきの攻撃が気に食わなかったのか、俺に向けて威嚇するように咆哮を飛ばす。
サイバー・ドラゴン・インフィニティ
ATK2100 ランク6
「せっかく倒したのに……!」
「けど、あいつにはもうオーバーレイ・ユニットがないわ。厄介な無効効果は使えない」
一瞬で復活したのをエリーティアが残念がる。しかしドリーミアは、エクシーズモンスターの大半に言える「エクシーズ素材がなければ性能が落ちる理論」で、脅威度は下がったと判断したようだ。
しかしながら、それは間違いと言わざるを得ない。
そして結果論だが、クレイヴソリッシュの倍増効果を使っていれば、このターンに勝利する事はできた。内心悔しくなる。
「カードを2枚伏せてターンエンドだ」
とりあえず、できる事だけをやってターンを渡す。これなら何とかなるはずだ。
「私のターン、ドロー!」
ウィズダムはカードを引くと、それをそのまま手札に加える。そして、他のカードには手を付けない。恐らくは、こちらのカードを破壊する手段がないようだ。
「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果発動。1ターンに1度、フィールドの攻撃表示モンスター1体を自分のオーバーレイ・ユニットにする!」
「そんな……!?」
「恐ろしい効果を……」
ウィズダムが明かした効果に、キューティアとグレーシアも驚きを露わにする。
俺が冥界で屍迷人とのデュエルで使った《CNo.101
そうして《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》が口を開けると、赤い触手が何本も伸び、クレイヴソリッシュへと迫ってくる。そうやってオーバーレイ・ユニットにするのか、と感心すると同時に、伏せカードを発動する機会はやってきた。
「罠カード《天龍雪獄》発動! 相手の墓地のモンスター1体を、効果を無効にして俺のフィールドに特殊召喚する!」
触手が伸びるその先に魔法陣が現れ、中から黒と銀の装甲に身を包む大柄の機械竜が出現した。
サイバー・ドラゴン・ノヴァ
ATK2100 ランク5
「だが、そのモンスターを呼んだところで、クレイヴソリッシュが対象になった事に変わりはないぞ」
「俺は《天龍雪獄》の更なる効果で、お互いのフィールドの同じ種族のモンスターを1体ずつ除外する事ができる。よって、機械族の《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》と《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》を除外する!」
「ほう」
クレイヴソリッシュに伸びようとしていた赤い触手は《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》に絡まる。さらに《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》が空に出現した黒い渦へと吸い込まれ、それに引っ張られるように《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》は除外された。
この【ヒロイック】だけでは対処できないような破壊耐性持ちのモンスターなどを除去する際に、この《天龍雪獄》は活きる。さらに頻度は低いが、相手の墓地のモンスターを利用してエクシーズ召喚する事も選択肢のひとつだ。
「なるほどな。
(こいつ……)
だがウィズダムは全く悔しがらない。むしろ、俺の対処が全て計算済みのようだ。
初手でこうして、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》を破れるカードを握れていたのは奇跡に近い。だが【サイバー・ドラゴン】がそれ一辺倒の戦い方をしないのは周知の事実。ここから先は、ウィズダムの出方を注意深く見なければ。
「私はモンスターを守備表示でセットし、ターンエンドだ」
モンスターを伏せるだけでターンを終えるウィズダム。また、不穏な空気がひしひしと伝わってきた。
「俺のターン、ドロー!」
リバースモンスターが気になるが、今俺の手札にはそれを破壊する手立てがなかった。
「《H・C スパルタス》を召喚!」
H・C スパルタス
ATK1600 レベル4
召喚するのは、古代のように盾と槍で武装した甲冑の戦士だ。
「バトル! クレイヴソリッシュで守備モンスターを攻撃!」
スパルタスの攻撃力は1600と、下級モンスターでもまずまずの攻撃力を持っている。しかし、ウィズダムが伏せたモンスターの守備力が1700以上の可能性も否定しきれないため、クレイヴソリッシュに攻撃をさせた。これで、戦闘破壊できないモンスターなどでなければよいのだが。
クレイヴソリッシュが黄金の剣を振り下ろし、裏守備モンスターに攻撃を仕掛ける。そこでリバースし、モンスターの正体が露わになった。
それは、機械の装甲で覆われた壺で、口の部分には巨大な一つ目と歯のようなものが取り付けられている。
サイバーポッド
DEF900 レベル3
「やべ……!」
そのモンスターを見た瞬間、過失を確信した。
「《サイバーポッド》のリバース効果発動! フィールドのモンスターを全て破壊する!」
壺の口にある歯の部分が開くと、掃除機の如くクレイヴソリッシュとスパルタスを吸い込もうとしてくる。2人は耐えるような仕草を取ったものの、抵抗空しくその中へと吸い込まれてしまい、その《サイバーポッド》自身も破壊された。
「そして、お互いにデッキから5枚のカードをめくって確認し、その中のレベル4以下の通常召喚可能なモンスターを、可能な限り攻撃表示か裏守備表示で特殊召喚する」
促され、やむなくカードを確認する。
そして、もっとまずい事が起きた。
「嘘だろ……」
《サイバーポッド》の効果によって、お互いにめくったカードは公開する。ウィズダムにも、引いたカードが全部明かされてしまう。
「おやおや、可哀想に」
心底同情するようなウィズダム。
それもそのはず、俺がめくったのは《H・C ウォー・ハンマー》《エクシーズ・ユニット》《和睦の使者》《
「そんな……!」
小夜丸が悲痛な声を上げる。俺としても、顔を覆いたくなるレベルで悪い引きだ。
一方、ウィズダムがめくったのは《機械複製術》《
そして、めくられたモンスターは通常召喚可能なレベル4以下のモンスター。よってフィールドに即座に召喚される。ケーブルがいくつも繋がれた銀の装甲の竜だ。
プロト・サイバー・ドラゴン
ATK1100 レベル3
「俺は……カードを2枚伏せてターンエンド」
「仕切り直しどころか、これじゃ逆にピンチね……」
デュエルを観ていたビューティアが嘆く。《サイバーポッド》の効果でそれなりのモンスターを引けていれば、攻撃力1100程度のモンスターは倒せたはずなのに。よもや、デッキで1枚しか入れていないウォー・ハンマーを引き当てたうえ、それ以外にモンスターを引けないというのは無念すぎる。悔しいが、《サイバーポッド》はウィズダムに完全に味方した。
「私のターン、ドロー!」
ウィズダムは新たにカードを引くと、そのカードをそのままフィールドに出してきた。
「《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》召喚!」
現れたのは、銀色の装甲に包まれた竜。ただし《プロト・サイバー・ドラゴン》よりもやや大型で、黄緑色のオーラを纏っていた。
サイバー・ドラゴン・ツヴァイ
ATK1500 レベル4
「そして魔法カード《融合》を発動し、《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》と《プロト・サイバー・ドラゴン》を融合!」
フィールドに現れる融合の渦。その中に2体の機械竜が吸い込まれると、紫色の雷が走った。
「融合召喚! 現れろ、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》!!」
声に応えて融合の渦から現れたのは、幾何学的な赤い模様が入った黒いコア。その中から機械竜の首が2本、さらに尻尾が1本伸び、2つの首が濁った鳴き声を上げる。その首の形状は、よくよく見てみれば融合素材となった2体のモンスターに酷似していた。
キメラテック・ランページ・ドラゴン
ATK2100 レベル5
「融合召喚したこのカードの効果発動! その素材としたモンスターの数まで、相手の魔法・罠カードを対象とし破壊する!」
黒いコアから伸びる2本の首が、それぞれ光線を放ってきた。選ばれたのは、さっき伏せたばかりの2枚のカードだ。
「罠カード《和睦の使者》! このターン、俺が受ける戦闘ダメージを0にする!」
「まあ、そうするほかないな」
唯一の光明とも言えた《和睦の使者》の発動は、向こうも理解していたらしい。効果が適用されるとともに、光線に貫かれたそのカードと、もう1枚の伏せていた《炸裂装甲》が破壊されてしまった。意図的に《和睦の使者》を狙ったのは、より必要になる場面で使わせないようにするためだろう。
「先のデュエル、君はこの効果を恐れていたんじゃないか?」
「……まぁな」
「とはいえ、たらればには意味がない。重要なのは今だ」
ウィズダムに問われ、俺は正直に首肯する。
彼との最初のデュエルでの最後のターンに、この《キメラテック・ランページ・ドラゴン》を呼ばれていたら。俺は防ぐ手立てがなく、引き分けにすら持ち込めなかった。
尤も、あちらの言う通り今重要なのはこのデュエルの方だ。
「私は《キメラテック・ランページ・ドラゴン》のもうひとつの効果を発動。デッキから機械族・光属性モンスターを2体まで墓地へ送り、その数だけこのターンの攻撃を増やすことができる」
「え、ダメージが通らないのに……?」
一見、意味のない行動に見えるそれにファンシアが疑問の声を上げた。
しかし、ウィズダムはそんな無意味な事をするとは思えない。それにこういう時は、墓地へ送るモンスターの方が重要になる事が多々ある。現にウィズダムは、ほくそ笑みながら《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》と《サイバー・ドラゴン・コア》を墓地へ送っていた。
「墓地へ送られた《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》の効果発動。デッキもしくは墓地から、このカード以外の《サイバー・ドラゴン》1体を手札に加える。私は、墓地で《サイバー・ドラゴン》として扱う《サイバー・ドラゴン・コア》を手札に加える」
やはり、無意味ではなかった。特に《サイバー・ドラゴン・コア》は、【サイバー・ドラゴン】でも要と言えるようなモンスターだったはずだ。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ」
戦闘ダメージを受けない以上、これ以上の展開も控えるべきと判断したか、おとなしくターンを終えるウィズダム。その伏せカードの正体は、九割方明かされているも同然だが。
「俺のターン、ドロー!」
今度はいいカードを、と願いつつ引いてみた手札は、願ってもいないものだった。
「《H・C モーニング・スター》を召喚!」
読んで字のごとく、鎖付きの棘付き鉄球を振り回す戦士がフィールドに現れる。心なしか、その鉄球を振り回す勢いが強い気がする。
H・C モーニング・スター
ATK1500 レベル4
「このカードの召喚に成功した時、デッキから『ヒロイック』の魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加える。俺は《ヒロイック・コール》を手札に加えて、発動! 手札または墓地の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。甦れ、ハルベルト!」
魔法陣がフィールドに現れ、その中から特殊な形状の左腕を持つ戦士が姿を見せた。
H・C 強襲のハルベルト
ATK1800 レベル4
「俺はモーニング・スターとハルベルトでオーバーレイ! 2体の戦士族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
エクシーズの渦が再び地面に現れ、オレンジの光となった2人の戦士がその中へ吸い込まれる。
「現れろ、《H-Cクレイヴソリッシュ》!!」
そしてその中から現れるのは、2体目のクレイヴソリッシュ。この【ヒロイック】は元々精霊界のストラクチャーデッキで組んだもののため、エクシーズモンスターはそれぞれ2体ずつ入っている。芸がないと思われるかもしれないが、今はこれが最善なのだ。
H-Cクレイヴソリッシュ
ATK2500 ランク4
さて、あちらの伏せカードが《攻撃の無力化》なら、攻撃力が勝っている今普通に攻撃をしても、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は倒せない。だが、あちらの連続攻撃効果は看過できず、放置は悪手だ。
「速攻魔法《エクシーズ・インポート》を発動。俺のフィールドのエクシーズモンスター、クレイヴソリッシュより低い攻撃力を持つ相手モンスター1体を対象とし、その相手モンスターをクレイヴソリッシュのオーバーレイ・ユニットにする!」
「何?」
クレイヴソリッシュが手を伸ばすと、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》が咆哮を上げながら黄色い小さな光球へと姿を変え、クレイヴソリッシュの下へと向かう。そして他のオーバーレイ・ユニットのように、クレイヴソリッシュの周囲を交差して漂い始めた。
H-Cクレイヴソリッシュ
ORU:2→3
「俺はクレイヴソリッシュでダイレクトアタック!」
「カウンター罠《攻撃の無力化》発動。モンスターの攻撃を無効にし、バトルを終了させる!」
「俺はこれでターンエンド」
案の定の伏せカードだが、これであちらに妨害札を使わせる事ができた。残りの手札は3枚、どうしたものか。
(何を確かめるつもりだ……?)
そして忘れたわけではないが、ウィズダムがデュエル前に言っていた「確かめたい事」がまだ分からない。今のところ、デュエルをしていて何かを試されているような感じはない。何を狙っているのか、いくら考えても想像できなかった。
「私のターン、ドロー!」
考えている間に、ウィズダムはカードを引いた。
その直後、引いたカードを見たウィズダムは、わずかに俺をちらと見る。どうやら、何かのキーカードを引いたらしい。けれどそれをすぐに使いはせず、別の手札に手をかけた。
「《サイバー・ドラゴン・コア》を召喚」
サイバー・ドラゴン・コア
ATK400 レベル2
「このカードを召喚した時、デッキから『サイバー』もしくは『サイバネティック』と名のつく魔法・罠カード1枚を手札に加える。私が手札に加えるのは《サイバーロード・フュージョン》だ」
前のターンに手札に戻していた、初動に適したサーチ効果。その効果で手札に加えたのは魔法カードだが、ウィズダムは別のカードを手にして。
「魔法カード《機械複製術》を発動。このカードは、私の場の攻撃力500以下の機械族モンスター1体を対象とし、その同名モンスターを手札・デッキから2体まで特殊召喚する!」
「やっぱりそう来たか……」
「《サイバー・ドラゴン・コア》は、フィールドでもカード名を《サイバー・ドラゴン》として扱う。よって私は、デッキから《サイバー・ドラゴン》を2体特殊召喚!」
オリジナルの《サイバー・ドラゴン》が一瞬で2体も現れる。これもまた、【サイバー・ドラゴン】ではざらに目にするコンボだ。《サイバー・ドラゴン》としても扱う効果を上手く活用し、似て非なるモンスターを活用するのはあちらの十八番と言っていい。
サイバー・ドラゴン ×2
ATK2100 レベル5
「魔法カード《融合回収》発動。墓地の《融合》と、融合召喚に使用した融合素材モンスター1体を手札に戻す。私が手札に戻すのは《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》。そして、手札に戻した《融合》を発動! 私の場の《サイバー・ドラゴン》3体を融合!」
呼び出すのは間違いなく、【サイバー・ドラゴン】のエースと言って差し支えないモンスター。ウィズダムの背後に融合の渦が現れ、その中にフィールドの3体の機械竜が吸い込まれる。
「刮目せよ、これぞエグザムの真骨頂!《サイバー・エンド・ドラゴン》!!」
高らかに宣言したウィズダムがそのカードを掲げると、この電脳空間の天地に広がる回路が輝きを増し、さらに空間そのものが雷を帯び始める。さっきのテータとのデュエルで起きたものとは比べ物にならないほど激しく、空気が恐怖するように震え始める。
ドレミコードの皆やマスカレーナ、小夜丸を窺うが、彼女たちも異変を感じたらしい。姿勢を低くして衝撃に備えている。
そしてついに、融合の渦から閃光が迸り、三つ首の巨大な機械龍が姿を見せた。
サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000 レベル10
「出たな……!」
召喚しただけで都市の世界に甚大な被害を与え、俺にもトラウマのような衝撃を与えたモンスター。現れた瞬間に空気が重くなる。
そんなカードを前にして、色々な感情が心の中で綯い交ぜになるが、クレイヴソリッシュの効果があれば返り討ちにする事は容易い。
「ではバトレアス。君に試練を与えよう」
「何?」
だがウィズダムは、意味ありげな言葉と共に1枚の手札をフィールドに出す。
「魔法カード《強制転移》発動。お互いに自身の場に存在するモンスターをそれぞれ1体ずつ選び、そのコントロールを入れ替える」
「!?」
「現状、私たちの場にいるモンスターは1体ずつ。よって、君のクレイヴソリッシュと、私の《サイバー・エンド・ドラゴン》のコントロールが入れ替わる」
発動した魔法カードの効果で、ウィズダムの狙いを即座に察する。
だが、その前に。
「手札の《H・C ソード・シールド》を墓地へ送って効果発動! このターン、俺が受ける戦闘ダメージは0になり、俺の『ヒロイック』モンスターは戦闘では破壊されない!」
「ふむ」
コントロールが入れ替わる前に、手札で温存していたモンスターの効果を使う。
ウィズダムの狙いは、戦闘破壊がほとんど不可能なクレイヴソリッシュのコントロールを得て、逆に戦闘で有利に立つ事。あの効果があれば、俺がやろうとしたように、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力を吸収して破壊し、ダメージを与えられる。さらに攻撃力倍増効果を使えば、俺をこのターンで仕留める事もできる。先んじてそれは潰させてもらう。ソード・シールドの効果は、俺のフィールドに「ヒロイック」モンスターがいなければ使えないのもあったが。
何とか敗北は避けられた、と安心する目の前で、クレイヴソリッシュの姿が消える。代わりに、俺の視界が《サイバー・エンド・ドラゴン》の巨大な鋼鉄の身体で塞がれた。よく見えないが、ウィズダムの場にはクレイヴソリッシュがいるのだろう。
「なるほど、俺の強力なモンスターを奪うのが試練か」
クレイヴソリッシュの強さは俺もよく理解している。そんなカードを奪い、敵として戦わせるのがウィズダムの言う「試練」。俺がどう出るのかを
「君はひとつ、重大な事を見落としてるな」
しかしウィズダムは、こちらが見えるように立ち位置を変える。そして、首を横に振った。
「一体どういう――」
真意を聞こうとした直後。
全身が蝋で固められたように動かなくなる。声が出なくなる。
自分の心臓の鼓動が、一段階強くなった。
(……)
思考さえ止まりかけて、ふと視線を上に向けると。
《サイバー・エンド・ドラゴン》の3つの首が、俺を見下ろしていた。
「……バトレアス?」
ウィズダムの真意を聞こうとしていたバトレアスの動きが、突然止まった。
クーリアは不安になって声を掛ける。だが、返事をしない。
嫌な予感がする、と思った直後。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
足元から紫色の波動が発生すると共に、バトレアスは頭を押さえて発狂した。
「え、何!? どうしたの!?」
「バトレアスさん!」
明らかな異常にエンジェリアやキューティアが呼びかけるも、バトレアスは視線さえ向けず叫び続ける。手札を地面に落とし、頭を両手で押さえ、周りを正しく認識できていない。
そして、その声を聞いているだけで、クーリアは心を引っ掻かれるような、悲しさと痛ましさに苛まれる。
「ちょっと、バトレアスに何したの!?」
ドリーミアが怒りを露わにウィズダムに問いかける。
しかしウィズダムは、冷静に、《サイバー・エンド・ドラゴン》を指さした。
「君らも気づいているだろうが、その《サイバー・エンド・ドラゴン》もエグザムだ。それも、彼が集めた5枚より何倍も強大な力を宿している」
クーリアもそれは感づいていた。
バトレアスからは、都市の世界でのデュエルについて話を聞いている。それに、あのカードが召喚された瞬間に空気が重くなり、この奇妙な空間の天地に広がる電気回路は輝きを増した。それだけ現実への影響力が大きく、またプレッシャーを抱かせるこの感覚は、エグザム由来のものだ。それはクーリアも身に染みて理解している。
「……まさか」
そこでようやく、真意に気づいた。
ウィズダムはそれを待っていたように頷き、バトレアスに視線を向ける。膝をつき、ついには地面に倒れ、なおも頭を押さえて叫んでいる彼に。
「エグザムは使用者にも影響を及ぼす。力の誘惑に負ければ、心は歪み、他者を傷つける事も厭わなくなる。
耳が痛い話に表情が歪む。
実際その通りで、クーリアはエグザムに汚染された結果、愛しているはずのバトレアスを傷つけてしまった。
「そのエグザムでも、ひと際強大な《サイバー・エンド・ドラゴン》は、コントロールするだけでも多大な負荷がかかるものだ」
「……では、あなたが言っていた『確かめたい事』とは……」
グレーシアがウィズダムを睨みつける。そこに怒りが籠められているのは、声と目の力だけで分かった。
しかし、ウィズダムはむしろ平然と笑って、続ける。
「エグザムの力を使わないと宣言したバトレアスが、その力に打ち勝つかどうか。それを確かめる」
ようやっと、ウィズダムの真の狙いが判明した。
だが、それでもクーリアがどうするか、どうなってほしいかなど変わりはしない。
「バトレアス! しっかりして!!」
「エグザムなんかに、負けないでください!!」
クーリアはバトレアスに声を掛ける。プリモアも続く。他のドレミコードたちも同様に応援するが、マスカレーナと小夜丸はどうしていいのか分からない様子だ。
だけど。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
自分たちの声は、届いているのだろうか。
竜巻のように渦巻く紫色の波動の中で、バトレアスはのたうち回っている。
まるで、悪魔にでも取り憑かれたようだ。
次のうち、この作品で、デュエル外の登場人物として見てみたいのは?
-
魔術師
-
コード・トーカー
-
ARG☆S
-
ウィッチクラフト
-
閃刀姫
-
霊使い
-
勇者トークン一行
-
推しがいないんですが……
-
全部書いて