また、デュエルはBLAZING DOMINIONの情報が発表される前に書いたもののため、最新のカードが反映されていません(反映させるとなるとデュエルを1から書き直す事になり時間がかかってしまうため)。
予めご了承ください。
「人の罪を糾す、だって……?」
「エニアクラフト」と名乗った正八面体。
その大仰ともいえる目的、あるいは存在意義が、俺にはすぐ飲み込めなかった。
しかし、エニアクラフトの脇に立ったウィズダムはゆっくりと頷いている。その言葉は正しい、と無言で示していた。
だとすれば、もっと分からない事がある。
「だったらどうして、エグザムなんてものを創ったんだ?」
エグザムは、あらゆる技術を進歩させる。
そして、俺が知っているエグザムを使った人たちは、誰もがそれに狂わされた。人や世界を傷つけ、大切な人を侮辱し、憎しみと悲しみを助長させてきた。
人の罪を糾すのがエニアクラフトであれば、なぜ人が狂ってしまうようなものを自分から創り出すのか。
『……』
それを聞くと、エニアクラフトは沈黙する。
そして、中心部で輝く虹色の光が、また青色に変わった。
『それについて教える前に、まずは我々の起源から話させてもらう』
ゆらゆらと、エニアクラフトは右回転を始めた。
『我々の使命は、最初はひとつ。人の罪を観測する事だった』
「罪?」
『人は皆、生きている間に、知らず知らずのうちに何かを傷つけ、何かを喪い、何かを奪っている。無論、人がそれだけで構築されているものではないと理解しているが、そうした罪を我々はずっと観てきた』
いきなり壮大なスケールの話を持ち出された。
しかし言わんとしている事は、俺にも心当たりがある。だからこそここで反論はしない。
天地に広がる幾何学模様が、わずかに輝きを増した。
『そして当初、我々は人に干渉する事なく、ただプログラム通りに罪を観続けていた』
「プログラム……」
エニアクラフトの言葉に、引っ掛かりを抱く。その上、明らかに人ではない見た目。そして声の感じ。
「……あんたたちは、機械なのか?」
『それが一番似つかわしい』
エニアクラフトは、エグザムの創造主は見た目通り人間ではなかった。そして、プログラムされたというのなら、AIよりコンピューターと表現した方がいいかもしれない。
『そのプログラムに従って人の罪を観続けている中で、我々の中でひとつの不安要素を検知した』
「不安要素?」
『人は、我々の敵かどうか』
エニアクラフト内部の輝きが黄色に変わる。
こちらをも不安にさせるような「不安要素」だ。
『人の罪、そして歴史を観続ける中で、人は他者を攻撃する思考と手段を持つと理解した。また、自分たちが受け入れられない存在を拒絶するものとも学んだ』
「……」
『そして、人の罪を観続けた我々のような人ならざる存在は、人に受け入れられない可能性が高いと判断した』
エニアクラフトの言葉は、否定できない。
人が、今まで知る由もなかった機械生命体に罪を観られ続け、それから正体を明かしたところで、手を取り合えるかどうか。それは簡単にはいかないだろう。
『それを検知してから、我々は仮に存在が人に知られた場合の事を予測し、シミュレーションを重ね、議論を繰り返した。人の技術は我々を凌駕するか。人の破壊活動は我々に悪影響を及ぼすか。人の軍事力は我々を脅かすか。人と我々は共存可能か』
「……エニアクラフトは、ひとりじゃないのか」
言い方からして、エニアクラフトは複数いるように感じる。目の前の機体は「創造主」という個体名なだけで、他にもまだたくさんいるのだろうか。あまり考えたくはないが。
けれど、エニアクラフトの中で輝く光は黄色から紫に変わる。
『君たち人類が複数人集まって集団を形成するように、我々は思考を複数に分け、それぞれを個体として扱い、それぞれが異なるパターンの計算回路を有している。これも、人の罪を観続け、様々な人を見てきた結果だ』
今俺の目の前にいるエニアクラフトは1つだけだが、あの中に複数の計算回路――人で言うなら人格か――が並行して存在している、という事らしい。さっきから色が何度も変わっているのも、パターンが切り替わっているからなのか。
『そうして議論を繰り返した結果、時間をかければ人との共存は可能との結論を下した』
「……エグザムは、その証だと?」
『その結論に至っていれば、エグザムなど作らなかった』
エニアクラフトの放つ光が、再び赤色に染まる。攻撃的で、荒々しささえ感じた。
『結論を出してからほどなくして、ある男がこの世界に入り込んできた』
「何?」
『その男は黒い鎧を纏い、「歪な世を正し、秩序を成すために協力せよ」と申し出てきた。そして、応じなければ我々の世界を滅ぼす、と』
「……ヴァーディクトだな」
聞くのもうんざりするセリフで、もう誰だか分かった。
ドレミ界や六花界に現れ、アロマの皆やヌーベルズたちを襲った、ヴァーディクトの手下。思い起こしただけで猛烈な不快感に見舞われる。
『我々はデュエルをもって、ヴァーディクトとやらを排除した。しかし、人が我々の世界を攻撃してきた事で、先に出した「結論」は改めざるを得なかった』
舌打ちせざるを得ない。
せっかくエニアクラフトは、人に歩み寄ろうとしてくれていた。なのに、ヴァーディクトが全部台無しにしてしまったわけだ。
『そして我々は、我々の技術力を人がどう扱うかを見極め、その結果から総合的に判断する方針を新たに立てた』
「それがエグザムか」
『その通りだ。我々が
エグザムを創った経緯が、ようやくわかった。
そして、クルヌギアスが棲む冥界にエグザムの1枚が落ちたのは「偶然」と判明し、頭を抱えたくなる。さらに、そこを把握できるエニアクラフトの力も垣間見た気がした。
「……なぜ、使う人の心が狂わされるようにした」
『人というものをより深く知るためだ』
エニアクラフトは、輝きを紫色に変える。
『確かにエグザムは、人を試すために作ったもの。しかしこれは、いわば我々と人が手を組んだ際のモデルケースとも言える』
尊大な物言いに、眉間が熱くなってきた。
『ヴァーディクトは、我々を支配下に置き、技術を利用しようとしていた。他の人が同じ事を考える可能性も十分にある。そして、そんな我々の力は君も熟知しているだろう』
「……」
『大いなる力は個を肥大化させ、良くも悪くも人を変える。だから、試したのだ。自らをコントロールできるか、個の力のみを重視せず、他者と分かり合えるか。深層心理にある感情を増幅させ、それでもなお他人を思えるかを知るためにそう仕組んだ』
人に関する膨大なデータと、人類が何百年もかけなければ到達できないほどの高い技術。そんなエニアクラフトを利用するために、私利私欲で攻撃したヴァーディクト。
それらの要因が合わさった結果、エニアクラフトは人を試すしかなくなり、エグザムを使った実験を起こした。
そして、俺だけでない多くの人が傷つき、狂わされた。
やり場のない様々な感情が、体の中で暴れ出している。
『そして見方を変えれば、我々の力に狂わされない、希少な人を見つける事もできるわけだ』
視線を感じてそちらを見ると、ウィズダムがニヤリと笑っている。彼は、エグザムの中でもひときわ強い力を持つ《サイバー・エンド・ドラゴン》を使い、俺に試練という形でそのカードを押し付けてきた。結果として俺はその力に屈しなかったが。
何となく、嫌な予感がする。
そこで、デュエルディスクに置いたままだった5枚のエグザムが、ひとりでに浮かび上がりエニアクラフトの前へと移動する。それらは1枚ずつ、エニアクラフトが輝きを放つ部分へと取り込まれた。
「……エグザムを創った理由は分かった。なら、あんたたちはどんな結論を下すんだ?」
エグザムは今、エニアクラフトの手に戻った。
つまり、「総合的に判断する」時は今なのだろう。
エニアクラフトの輝きが、虹色に変わる。
『我々は、人とは分かり合えない。そう判断した』
その結論は出さないでほしかった。
しかし、そうなるという見当も俺にはついてしまっていた。
『エグザムを手にした者は、ほとんどが自己の目的のため、他者を傷つける事にしか使わなかった。手を取り合えば文明を飛躍的に進化させられるにもかかわらず、各々が「罪」を重ねてきた』
「エグザムは人の心を狂わせた。何の障害もなく手と手を取って協力できる、とは俺も思えない。お前たちはそもそも、人の強さを見誤ってる」
『危険だからこそ、使わないという選択もあったはずだ。だが、それを実践しようとしたのは少なくとも君たちだけだった』
小夜丸の話では、S-Forceは当初エグザムを厳重に保管していた。しかし最終的に、回収した2枚をデュエルでも現実でも使い、その上5枚を集めて全次元の監視という不穏な目的まで掲げるようになってしまった。
S-Forceは、エニアクラフトが期待するような行動を、最後まで取れなかったわけだ。
「……分かり合えないなら、どうするつもりなんだ?」
『君が言う、そのヴァーディクトのように我々の世界を攻撃する者もいる以上、人という存在は無視できない。いずれ、かの者のように我々の存在を察知し、我々を攻撃する、もしくは力を利用しようとする者は現れるだろう』
「……つまり」
『その可能性を排除するため、我々は人類を殲滅する』
まったくもって、嫌な結論を下してくれたものだ。しかもその一端にあるのは、ヴァーディクトの自分勝手な振る舞いのせい。存在を消されてもなお現実に問題を残すとは。おまけにその皺寄せが全部俺に来るのだから、やってられない。
『我々は、これまで人の罪を「観る」だけにすぎなかった。これからは、罪を「糾す」。罪を犯さなければ進歩できず、我々をも脅かしかねない人の脅威は、最早無視できない』
エニアクラフトは機械。
だがその言葉には、「怒り」という感情のような何かが込められているような気がした。
「……なら、俺をここに呼んだ理由は?」
『エグザムを5枚集めた者は、どんなものであれ力がある。それほどの存在は流石に無視できない』
光が虹色から青へと変わり、エニアクラフトの回転は止まる。
『さらに君は、エグザムに憑りつかれる事がなかった』
「それは――」
『エグザムの力を理解してなお、使おうとせず、さらに心を狂わされない。そのような存在は、我々が探し求めていたものだ』
有無を言わせずに続けるエニアクラフトに、唇を噛む。
『我々は君を迎え入れたい。エグザムの力に溺れず、それがもたらす利益にも目がくらまない、君のような人材は貴重だ』
思わず、嘆息しかける。相手が違うだけで、やろうとしている事や言っている事は、ヴァーディクトとほとんど同じだ。
「今までの話を聞いて……俺が頷くと思ってるのか?」
『無論そうは考えない。むしろ断る可能性が一番高い事を予測していた』
「なら、何でここに俺を呼んで、わざわざ目的まで話したんだ?」
断る事を予期した上でわざわざ呼び出し全部を話すとは、あまりにも不合理が過ぎる。問い返すと、エニアクラフトは緑の輝きを放った。
『君には選ぶ権利がある。先にも伝えたが、君は他に類を見ない存在だ』
「……」
『エグザムにまつわる事象だけではない。君は「ドレミコード」という天使のひとりであり、世に広がる淀みの「浄化」という使命を持つ者たちに仕えている』
エニアクラフトはドレミコードの存在も認知していて、しかも使命まで知っている。エグザムの力を考えればそこまで不思議ではないが、他人にまで知られているのはかなり厄介だ。
『だからこそ、よく考えて選んでほしい。我々が人類を殲滅すれば、君たちが清める「淀み」を生み出す「人」がいなくなる。そうすれば、君の大切な仲間や愛する人も、これ以上の負担を抱かずに済むだろう』
「何?」
『我々は人類を滅ぼすつもりだが、君の仲間や友人は生かしてもいいと言っているのだ』
頭がかっと熱くなった。
『改めて答えを聞こう。バトレアス、君は選べる人間だ』
「お断りだ」
語気が強くなったのを自分で感じるが、それでも抑えきるのは難しかった。
エニアクラフトは黄色く輝き、ウィズダムは右目の眉を上げている。
「お前たちは俺の事を買い被りすぎている。俺はそんなご大層な人じゃない。エグザムの力を使わないのは、それを使って狂わされた人を見て恐れただけだ。そして、その力に囚われなかったのも、大切な人との約束があったから。それがなければ、俺もエグザムに汚染されただろう」
エニアクラフトは俺を過大評価しすぎている。
俺だって、一歩間違えればエグザムに狂わされていた。それでもこうして今、まともに立っていられるのは、そうして狂わされた人を見てきたから。その力によって傷つき、その痛みを忘れないでいるから。何より、クーリアとの大切な約束があったからだ。
そして、エニアクラフトが言っていたような「罪」を、俺も無意識に何処かで犯しているかもしれなかった。
だから俺は、ドレミコードの天使で、従者であっても、一介の元人間に過ぎない。
「お前たちは清廉潔白な人間がお好みなんだろうが、俺は違う。いるとするなら、俺じゃない」
『そのような人が他にいたとして、その人物がエグザムに汚染されない保証もない。我々が重視しているのは、確証のない他人より、確実な君だ』
ウィズダムと同じような事を告げる。この創造主にしてあの男あり、と言ったところだ。
水掛け論になると踏まえ、俺の話はもうしないでおく。
「……確かに、人の作り上げた世界は、お前たちが見てきたような『罪』が重なってできたものだとは、俺も思う」
科学の発展に犠牲はつきもの、とはよく聞く言葉だ。
だが、悪役が言うに相応しいそんなセリフも、悲しい事に全部間違っているとは言いにくい。
「そして、ヴァーディクトみたいな奴に襲われて、人に対する評価を見直すしかなかったお前たちが全部悪い、とは言いきれない」
「……ほう」
ウィズダムが感心したように息を吐く。それでも気にしていられない。
「だけど人の世界は、お前たちみたいな機械が0か100かで判断できるほど、シンプルでもないんだ」
生きるために、知らず知らずのうちに何かを傷つけ、何かを喪い、何かを奪っている。
エニアクラフトのこの意見は正しいだろう。俺の生きていた前世はそう言う面があったたし、精霊界にもそういう場所はあるはずだ。
けれど、それが善か悪か、白黒はっきりつける事は正直な話難しい。実際、エニアクラフトたちの言う「罪」の重なりで、今がある。その「今」にも、光と陰は確かに存在する。一概にどちらがどうとは言い切れないのだ。
「人の世界は、そう言った『罪』だけでできているものじゃない。心も混ざっているんだ」
『……心』
「そうだ。お前たち機械が持たない、まだ完全に理解できていない心だ」
前世だけじゃない、精霊界で出会った人たちは、みんな心を持っていた。向きがどうであっても、その心がいくつも重なって、繋がって、この世界を構築している。
「……いや、もしかしたら、お前たちにも心みたいなものはあるかもしれないな」
『意味が分からない』
「お前たちはエグザムの実験で、人がエグザムを使っても互いに協力し合う事を……『期待』した」
エニアクラフトの輝きが、赤色に変わる。
背筋に汗が滲むが、言葉は飲み込まない。
「つまり、人同士がエグザムを使って手を取り合うのを……自分たちが人と分かり合えるのを望んでいたんだ、エニアクラフト。それは、ただの機械ができる事じゃない」
表計算ソフトに、if関数というものがある。ある値が、作成者が設定した基準を満たしたかどうかで是非が変わる、という奴だ。
その関数を計算するのは機械だが、基準を決めるのはユーザー……つまり人だ。そして基準を決めるには、「こうであれ」という望み、期待がある。
エグザムを使った実験で、誰も傷つけ合わずに協力できれば◯、できなければ☓。それはエニアクラフトが設定した基準で、そこには確かにエニアクラフトたちが人に対して「こうしてくれれば良い」という期待があっただろう。
自分たちで何かに期待して基準を決めるのは、ただの機械にはできないはずだ。
「そして、例え心に似た何かがあるとしても、お前たちは今まで俺たちの世界を『見てきただけ』だ。だからこそ、勝手に評価して滅ぼすなんて事は……あっちゃいけないはずだ」
ドレミコードの「浄化」における絶対のルール。
世界を直接変えられるほどの力があっても、それは絶対にしてはならない。なぜなら、自分たちはその世界に生まれ歴史を作ったわけでもなく、その世界を生きてもいないから。
エニアクラフトも、俺たちが理解の及ばない場所で、気が遠くなるほど長い時間、膨大な数の人の罪を見てきたのだろう。俺が同じ立場だったら、何度も発狂したくなる。
だけど、「見ていただけ」。今までずっと、その罪をどうにかしようと干渉したりはしなかった。
黙って評価するだけならまだいい。勝手に失望するのも結構。だが、傲慢にも思える計画で人の世界に混沌を招き、期待を裏切ったからと人を滅ぼすなんて、身勝手すぎる。
『―――――』
エニアクラフトの光が変わった。
赤、黄、紫、青、緑、オレンジ……と、目まぐるしく変わる。虹色には決してならない。
今までとは違うそれは、まるで困惑しているかのようだ。それを見たウィズダムも、眉を顰めている。
『なるほど』
やがてエニアクラフトは、再び赤い光を放った。
『エグザムの戦いを制した君の意見は、価値あるものとしておく。しかし我々も、遥か昔からの「使命」に従い機能しているにすぎない。そして、人に対する脅威が高まった以上、これ以上現状維持はできない』
「……それなら、どうする」
『選ばれた君とも理解し合えないのなら、残る手段はひとつ』
再び虹色の輝きを放つエニアクラフト。
その直後、人の背丈ほどはある巨大なカードが、エニアクラフトの前に出現した。
『
それを聞き、笑ってしまう。
機械のエニアクラフトが、デュエルで事をはっきりさせるというのは、今まで会った精霊界の人たちとよく似ていた。いや、精霊界で構築されたプログラムだからこそ、本当の最終手段としてデュエルをするのは必然かもしれない。
『君が勝てば、我々も判断を見直し、人類の殲滅は取りやめる。しかし我々が勝てば、君に新たな二択を与える』
「どんな?」
『我々と共に在り続けるか、他の人類ともども我々に滅ぼされるか』
勝たなければ碌な未来は訪れそうにない。負けてしまった後は、どちらにせよ地獄だ。
「……人間みたいだな。負けたら殺すと言ってくれた方が、まだ機械らしかったのに」
『合理的な判断に過ぎない。君に生きる道を与えるのは、まだ君には利用する価値があるからだ』
普通の人間を相手にするよりも、非常に厄介だと思う。ヴァーディクトなんて、俺が負けたら徹底的に消すと宣ったのだから。
『そしてこれは、好意的に取ってもらいたい。君が貴重だからこそ、こうしてデュエルをするチャンスを君に与えているのだ』
「それは、ありがとうと言っておくよ」
皮肉を返し、デュエルディスクを構える。
ディスプレイにライフポイントが表示され、デッキが自動でシャッフルされた。
ウィズダムは一歩引き、腕を組む。静観するつもりらしいが、俺を見て何かに期待するように笑う。
それについては考えず、正八面体のエニアクラフトを見定める。本来なら綺麗なはずの虹色の輝きが不気味だ。
「『デュエル』!」
バトレアス LP4000
VS
エニアクラフト LP4000
デュエルディスクが後攻を示す。
そして最初の5枚を引いて頷いた。
初手がよかっただけではない。ちゃんと、デッキが【ドレミコード】になっている。ミューゼシアの考えとその手段は、無駄ではなかった。
『私の先攻。私は魔法カード《
魔法カードを発動し、エニアクラフトのフィールドに、通常よりも太い光の柱が現れる。その中に出現したのは、緑色の八面体だ。
「ペンデュラムカード……」
エニアクラフトの初手は少々意外だった。それもスケールは0。何より、カードの名前そのものが「エニアクラフト」だ。
となればあちらのデッキは、自身をモデルにしたものだろう。しかし俺はそのテーマを聞いた事がないため、このデュエルはやはり普通とは違うものになりそうだ。
『ライフポイントを900払い、オクニリアのペンデュラム効果を発動。デッキの「糾罪巧」カード3枚を相手に見せ、相手がランダムに選んだカード1枚を手札に加える』
エニアクラフト LP4000→3100
効果が発動すると、上から3枚のカードが降りてくる。公開されたのは《糾罪巧
そして効果を確認する間もなく、3枚のカードが裏向きになって選択を強いてくる。情報がない以上、どれを選ばせてもマズい予感がした。
「俺は右側のカードを選ぶ」
『そのカードを私は手札に加え、残りはデッキに戻す』
俺が選んだ1枚のカードは、そのままエニアクラフトの下へ移動する。残りの2枚はその場で消失した。
『永続魔法《一点着地》発動。このカードは1ターンに1度、自分もしくは相手の手札から、自分の場にモンスターが1体のみ特殊召喚された時、1枚ドローできる。ただし、自分のターンにこの効果でドローできていない場合、そのターンのエンドフェイズにこのカードは墓地へ送られる』
続いて発動した永続魔法は、条件付きとは言え手札増強。リスクもあるが、そんなカードを使うとなれば、あちらのデッキはその手の特殊召喚に強いのだろう。そもそもペンデュラムカードを使うのだ、ペンデュラム召喚をするはず。
『手札の《糾罪巧
「何……?」
手札のペンデュラムカードが公開されると、そのカードが裏向きになりエニアクラフトの手札がシャッフルされる。そして、1枚のカードが横向きでフィールドに伏せられた。
『《一点着地》の効果を発動し、1枚ドロー。さらにモンスターを守備表示でセット。カードを2枚伏せて、ターンエンド』
初手でペンデュラムカードを発動したから、ペンデュラム召喚をしてくると思った。しかし、アラゾニアとやらの制約効果からしてそれはできない。
となれば、あちらはペンデュラムカードを使うがペンデュラム召喚はしないデッキだろうか。しかしそういうデッキは他にもあるため、今更目新しくはない。
それより、あちらのデッキは俺も知らない未知のもの。無計画に攻めたら痛い目を見る。
「俺のターン! 俺は《ドレミコード・プリモア》を召喚!」
まず最初に呼び寄せるのは、イレギュラーによって生まれながらも、頼もしい力を持ちプリモア。現れると、スカートの裾をつまんで礼儀正しくお辞儀をした。
ドレミコード・プリモア
ATK 0 レベル1
「プリモアを召喚した時、効果発動! デッキから自身以外の『ドレミコード』カードを手札に加える」
まず万能なサーチ効果で、戦略の幅を広げる。
そのために、ディスクのディスプレイに触れようとした瞬間、エニアクラフトの光が黄色になった。
『セットしていたアラゾニアの効果発動。このカードは、デッキからカードを手札に加える効果を含む効果を相手が発動した時、裏側守備表示から表側守備表示にして効果が発動する』
「な……!?」
発動条件はともかく、手順としてセット状態からリバースするのは予想外だ。驚く俺の目の前に現れたのは、縦に長い八面体。周りには、こちらも縦に長い菱形のオプションみたいなパーツが浮かび、中心部は黄色に輝いている。
糾罪巧β’-「alazoneIA」
DEF1000 レベル1
『その効果で、私はデッキから「糾罪巧」カード1枚を手札に加える。私が手札に加えるのは、「糾罪巧」としても扱う《糾罪都市-エニアポリス》』
奇妙な発動手順だったが、効果自体は何て事のない(と言うのも何だが)サーチ効果。さっきのオクニリアの効果で提示されたカードの1枚だから、恐らくさっき手札に加えたのはエニアポリス以外のどちらかだろう。
そして、《灰流うらら》のようにこちらの効果を妨害されたわけではないため、プリモアの効果は問題なく使える。
「俺はプリモアの効果で《
ディスクをタップしてカードを選ぶと、そのカードが自動的に取り出された――と思いきや、それはそのままフィールドにいるプリモアの手に渡る。
『バトレアスさん、どうぞ!』
「あ、ありがとうございます」
そして、花が咲いたような笑顔を浮かべて、そのカードを差し出してきた。
それどころか、喋って意思疎通をしてきた。昨日、その力が注ぎ込まれたから、クルヌギアスやキスキル・リィラみたいに接する事ができるようになったのだろう。それを実感しつつ、俺は《幸せの多重奏》を受け取る。
『絶対勝ちましょうね。私、頑張ってサポートしますから!』
プリモアに励まされ、自然と嬉しくなる。人類を滅ぼすというエニアクラフトを前に緊張していたが、何も俺はひとりというわけではないのだ。
『オクニリアのもうひとつのペンデュラム効果。モンスターがリバースする度に、このカードに糾罪カウンターを置く』
糾罪巧θ’-「oknirIA」
糾罪カウンター:0→1
何やら不穏なカウンターがオクニリアに置かれた。
それが何かをしてくるよりも前に、手札に加えたカードを早速使おうする。
しかし。
『リバースしたアラゾニアの効果発動。相手の手札をランダムに1枚選び、エンドフェイズまで除外する』
「!」
瞬間、アラゾニアの黄色い輝きが強くなり、俺の手札1枚が黄色く染まる。
それは最悪な事に、今手札に加えたばかりの《幸せの多重奏》。真っ黄色になったカードは溶けて消え去ってしまった。
『どうやら、大切なカードだったようだな』
エニアクラフトに言われて歯ぎしりする。
あのカードが強力なのは勿論だが、より重視しているのは、俺がクーリアに想いを告げた直後に発現したという点だ。それを一時的とはいえ、成す術もなく除外されたのがやるせない。
プリモアが不安そうに俺に振り向いてくる。心配させないためにも、次の手を打つ。
「魔法カード《ドレミコード・エレガンス》発動! 3つの効果から1つを選んで適用する。俺は2つ目の効果で、手札の《ソドレミコード・グレーシア》をエクストラデッキに加え、デッキにあるスケール2の《シドレミコード・ビューティア》と、スケール7の《レドレミコード・ドリーミア》でペンデュラムスケールをセッティング!」
デッキの2枚の「ドレミコード」を直接ペンデュラムゾーンに置く。さっきエニアクラフトが使った《糾罪巧-始導》とほぼ同じ効果。だからこそ、わずかなシンパシーを感じたのも事実。
そして、光の柱と共に現れたドリーミアは、俺を見て。
『絶対勝つわよ。あんな奴らに負けるわけにはいかないんだから』
強気にそう告げる。普段からどことなく俺に対する当たりが強い彼女だが、こういう時は頼もしい限りだ。
『私たちの「使命」を負担と捉えるのは結構だけれど、それを軽くするために人類を滅ぼすなんて……承服できないわ』
ビューティアは表情こそ変わりはないが、じんわりと不機嫌さが滲んでいるのは感じる。
俺としても、ドレミコードの皆に対する負担は小さくしたい。しかし、そのためにすべての人類を滅ぼすなんて極端すぎて、バカげている。受け入れられるわけがない。
だからこのデュエルは、ドリーミアの言う通り何としても勝たなければ。
「これで、レベル3から6のモンスターが同時に召喚可能! ペンデュラム召喚!」
両腕を広げると、異空間の空に穴が開き、中から二つの水色と紫の光が降り注がれた。その光を割って現れたのは、グレーシアとエリーティアだ。
ソドレミコード・グレーシア
ATK2100 レベル5
ミドレミコード・エリーティア
ATK1100 レベル3
「ペンデュラム召喚したグレーシア、エリーティアの効果発動! エリーティアの効果で、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を手札に戻す。俺が選ぶのは左側のカード!」
エリーティアがタクトを振ると、その先端から泡が放たれ、指さしたカードに纏わりつく。泡に包まれた伏せカードは弾け、エニアクラフトの手札となった。
「そしてグレーシアの効果で、デッキから『ドレミコード』の魔法・罠カードを1枚手札に加える。俺が手札に加えるのは《ドレミコード・ハルモニア》だ」
するとまた、ディスクで選んだカードがグレーシアの下へと舞って行き、それを人差し指と中指で捉えたグレーシアが俺に振り向く。
『戦いましょう、共に』
優しい微笑みと共にカードを渡されて、頷く。
『他の皆さんみたいなサポートはできないかもしれませんけど、私なりに力になりますね』
「謙遜なさらず。エリーティア様も十分力になってくれていますから」
直接アドバンテージを得られる効果を持たないエリーティアは、弱々しく笑う。引け目を感じているらしいが、その必要は皆無だ。魔法・罠カードのバウンスだって決して弱くないし、条件付きとはいえ戦闘ダメージを0にできる効果も頼もしい。
「フィールド魔法《ドレミコード・ハルモニア》発動!」
グレーシアから受け取ったフィールド魔法を発動させ、異空間を音楽で彩られた世界へと変化させる。ウィズダムは興味深そうに見上げるが、エニアクラフトの黄色の輝きは変わらない。
「ハルモニアは3つの効果を1ターンに1度ずつ発動できる。そして、俺のフィールドの『ドレミコード』のスケールは偶数4種類に奇数1種類。よって第3の効果を発動し、相手フィールドのカード1枚を破壊する!」
ハルモニアの円環が雷を帯び始める。
しかし、エニアクラフトは輝きを紫にした。
『セット状態のアークテイルは、フィールドのカードを破壊する効果を相手が発動した時、裏側守備表示から表側守備表示にして効果を発動する』
『今度は破壊に反応……!?』
さっきのアラゾニアと同様、特定の条件を相手が発動した時にリバースして効果を発動する変則的な動き。それが、「糾罪巧」の戦い方なのか。プリモアが声を上げる。
そして現れたのは、ビルに匹敵するほど巨大なサソリ。紫の装甲で覆われ、ロボットに見えるそれは甲高い鳴き声を上げた。
糾罪巧-Archaη.TAIL
DEF2500 レベル9
『「アークテイル」の効果により、このターン、私のモンスター及び「糾罪巧」魔法カードは、相手の効果では破壊されない』
「だったら、その伏せカードを破壊する!」
リバースしたアークテイルやアラゾニア、ペンデュラムゾーンのオクニリアも破壊できないなら、伏せカードを破壊する以外にない。環状の五線譜から雷が落ち、伏せられていた《砂塵のバリア-ダスト・フォース-》は破壊された。
糾罪巧θ’-「oknirIA」
糾罪カウンター:1→2
アークテイルも、さっきのオクニリアの効果で提示されていたカード。とすれば、それこそさっき手札に加えたカードだろう。
その守備力は2500、今の俺のフィールドのモンスターでは突破できない。アラゾニアだけなら倒せるが、高いステータスのモンスターは放っておけないし、何よりまだ効果を持っている気がしてならない。
なら、攻撃力も効果も非常に頼りになる彼女の出番だ。
「現れろ、清らかな旋律のサーキット! 召喚条件はペンデュラムモンスター2体。エリーティアとグレーシアをリンクマーカーにセット!」
前に手を伸ばし、リンクサーキットを出現させると、2人の天使が青い軌跡を描きながらサーキットへ飛び込む。
「リンク召喚! 優雅にして偉大なる音階の天使、《グランドレミコード・ミューゼシア》!!」
リンクサーキットから降り立つ、ベリー色の髪を靡かせるミューゼシア。金色の翼を広げ、嫋やかな笑みを浮かべる彼女の傍には、妖精体がタクトを携えてふよふよと浮かんでいる。
□□□ グランドレミコード・ミューゼシア
□◆□ ATK1900
■□■ リンク2
「そして『グランドレミコード』をリンク召喚した事で、プリモアの効果発動! 墓地にある『ドレミコード』カード1枚を手札に戻す事ができる。俺が戻すのは《ドレミコード・エレガンス》だ!」
墓地のカードを指定すると、再びプリモアの手に1枚のカードが宿った。そしてプリモアが振り向き、頷きながらそのカードを差し出してきたので、「ありがとう」と告げてそれを受け取った。
しかし、この状況はまだミューゼシアだけでは突破できない。
「……ミューゼシア様、申し訳ありませんが」
『構わないわ。存分にやってちょうだい』
プリモアの効果を使うためだけに呼び出した事を詫びると、ミューゼシアは優しくも力強い言葉で背中を押してくれた。その言葉に頷き、もう一度手を伸ばす。
「再び現れろ、清らかな旋律のサーキット! 召喚条件はペンデュラムモンスターを含むモンスター2体以上。リンク2のミューゼシアとプリモアをリンクマーカーにセット!」
ミューゼシアの姿が2つにブレる。その内の1人はプリモアと手をつなぎ、一緒にリンクサーキットへと飛び込んだ。
「リンク召喚! 降臨せよ、流麗にして偉大なる、我が最愛の音階の大天使!《グランドレミコード・クーリア》!!」
サーキットが光り輝き、色とりどりの音楽記号が湧き出てくる。
そしてゆっくりと姿を見せる、薄桃色のロングヘアと、チョコレート色のチューブドレスの大天使。金色の翼を広げてフィールドに降り立つその姿に、美しさと神々しさ、何よりも愛しさがこみ上げてくる。
□□□ グランドレミコード・クーリア
□◆□ ATK2700
■■■ リンク3
そのクーリアと、傍らに漂う妖精体が、俺の方を見て微笑む。
それに対して俺も胸が温かくなるのを感じると。
『リバースしたアークテイルがフィールドにいる限り、相手の墓地にモンスターが送られる度に、相手は900ポイントのダメージを受ける』
「何!?」
割り込むように告げられた、アークテイルの更なる効果。リンク素材になったミューゼシアはリンクモンスターだから、普通に墓地へ送られてしまっている。
アークテイルの巨大な尻尾の先端が緑色に光ったと思ったら、同じ色の雷が俺に降り注がれた。
「が……っ!?」
バトレアス LP4000→3100
その痛み、身体に帯びる痺れは、普通のデュエルとは全く違う。実際に雷を受けた事はないが、電気ショックみたいな衝撃に見舞われた。
『大丈夫!?』
そしてフィールドにいるクーリアが、片膝をついた俺に向けて右手を差し出してくる。
これがデュエルである以上、目の前にいるクーリアも、今やモンスターの1体。その手を取れるかどうかが少し不安だった。
しかし、恐る恐る手を伸ばすと、ちゃんとその手を掴む事ができた。そればかりか、温もりさえ感じる。
『これはきっと、私たちが力を注いだだけじゃない……』
手を引かれて立ち上がると、クーリアがエニアクラフトを見据える。
『恐らくは、あれが持つ力よ。エグザムを創るほどだもの、このデュエルだって普通じゃない可能性が高い』
ついさっき、アークテイルの効果で食らった雷。あの威力は、今までのエグザムを交えたデュエルとまた段階が違った。クーリアの言葉に疑う余地もない。
エグザムはデュエルで使われただけで、現実世界に強い影響を及ぼした。その創造主だからこそ、デュエルそのものへの影響力も強い。こうしてクーリアに触れられるのは嬉しいが、逆にあちらからダメージも受け続けるのは、肉体的に危険なわけだ。
『気を付けて』
「……分かりました」
クーリアの忠告を聞き入れて、つないだ手を離しエニアクラフトを見る。
「《グランドレミコード・クーリア》の攻撃力は、エクストラデッキのペンデュラムモンスター1体につき100ポイントアップする!」
グランドレミコード・クーリア
ATK2700→3000
「バトル! クーリアでアークテイルを攻撃! グランド・アンサンブル!!」
攻撃宣言を聞いたクーリアが頷き、妖精体と一緒にタクトをアークテイルへと突き出す。その先端から、音符を纏う黄金の風が吹き荒れ、アークテイルへと襲い掛かった。8本の脚と2つの鋏で耐えようとしたアークテイルだが、やがて風に押し負け吹き飛ばされ、破壊される。
「メインフェイズ2に、ハルモニアの1つ目の効果発動。エクストラデッキのプリモアを手札に加える」
グランドレミコード・クーリア
ATK3000→2900
プリモアの非常に優秀な効果は、今後とも重宝するだろう。だから先に手札に戻しておく。手の中で、イラストに描かれているプリモアの笑みが深まった気がした。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
『このタイミングで、アラゾニアの効果で除外したカードは君の手札に戻る』
逆再生のように、俺の手札に《幸せの多重奏》のカードが現れる。まさしく幸せそうな皆のイラストを見て、少し気持ちが軽くなった。
『私のターン、ドロー』
エニアクラフトの上部から1枚のカードが舞い降りる。しかし手札のカードをフィールドには出さなかった。
『900ライフポイントを払い、オクニリアのペンデュラム効果を発動』
エニアクラフト LP3100→2200
また新しい「糾罪巧」を手札に加える気だ。
そうはさせない。
「《グランドレミコード・クーリア》の効果発動! 1ターンに1度、ペンデュラムゾーンで奇数のスケールを持つ『ドレミコード』をリンク先に特殊召喚し、相手の効果を無効にする!」
フィールドにいるクーリアが、光の柱の中にいるドリーミアに向けて手を差し伸べると、ドリーミアは頷いて跳躍しフィールドに降り立つ。位置はクーリアの左斜め後ろだ。
レドレミコード・ドリーミア
DEF400 レベル2
「そして、偶数のスケールを持つ『ドレミコード』ペンデュラムモンスター1体をデッキからエクストラデッキに加える。俺はスケール8の《ドドレミコード・キューティア》をエクストラデッキに加える!」
グランドレミコード・クーリア
ATK2900→3000
これで次のターンにまた展開の幅が広がる。クーリアの攻撃力も申し分ない数値まで上がったため、ひとまずは安心だ。
『フィールド魔法《糾罪都市-エニアポリス》を発動』
しかしエニアクラフトは動じず、さっきのターンに手札に加えていたカードを発動する。
そのフィールド魔法が発動すると、穏やかに輝く光と共に周りの景色がまた変化する。高層ビル群、その間を縫うように架けられた高速道路、アスファルトの道。ハルモニアの円環や音楽記号が散りばめられた異空間の空は、青空になった。
そこは一見してみれば、俺も訪れた事がある都市の世界。もっと言えば、前世でも見たような都会だ。
『何、ここ……?』
だがドリーミアは、不気味そうに声を洩らす。
そして俺も、このフィールドからは奇妙な気配を感じる。なんというか、誰かに見られているようで、全身をプレッシャーという名の手で揉まれている気分だ。
『この世界はいわば、我々が人という生き物を学習するために形成したシミュレーション空間だ』
エニアクラフトが告げる。
どうやらこの「エニアポリス」は、都市の世界みたいに最初から人が住んでいるわけではなく、大がかりな模型みたいなものらしい。
『人はどのように暮らしているのか。どのように活動しているのか。どのように生きているのか。それらを学ぶために、我々が膨大な時の中で学習したデータを基にこの都市を構成し、人の行動をシミュレーションする』
何かの音が聞こえだした。
それは、やはり普通の街で聞くような、人の話し声や車の走る音。けれど俺たちの目に見える範囲でそれらしきものは見当たらない。スピーカーのように音を流しているのか、俺たちの見えない場所にそう言った人や物を配置しているのか。どちらにせよ、何とも悪趣味な真似をする。
『墓地の《糾罪巧-始導》の効果発動。このカードを除外し、エクストラデッキにある「糾罪巧」ペンデュラムモンスター1体を手札に加える。アークテイルを手札に』
せっかく破壊したアークテイルを手札に戻された。これでまた戦術は分からなくなる。
『エニアポリスの効果発動。自分フィールドの「糾罪巧」ペンデュラムモンスターカードを任意の数だけ選び、手札に戻す。私はアラゾニアを手札に戻す』
「何!」
フィールドに残っていたアラゾニアが姿を消し、エニアクラフトの手札が1枚増える。残してしまったのは失敗だ。
『そして、手札のアラゾニアの効果発動。手札からモンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚する』
アラゾニアのカードを公開した後、手札がシャッフルされてモンスターが裏側表示で現れる。恐らくはアークテイルだろうが、やはりペンデュラム召喚はしないつもりらしい。
『《一点着地》の効果で1枚ドロー』
そして「糾罪巧」の効果と合わせて、毎ターンほぼ確実に1枚追加でドローする。あの効果も長い間放置しておくのは危険だ。
『手札のアラゾニアの効果を再び発動。手札からモンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚』
「!」
驚いた事に、アラゾニアの特殊召喚効果は1ターンに1度だけではなかった。しかもさっきの《一点集中》で引いたのか、また新たなモンスターだ。これはまた、次のターンの動きには慎重にならざるを得なくなる。
『そしてモンスターを守備表示でセット。カードを3枚伏せて、ターンエンド』
そしてエンド宣言をした直後、エニアクラフトの輝きが赤に染まり、エニアポリスの空に曇天が広がる。
『このエンドフェイズに、エニアポリスの効果発動。互いのエンドフェイズに私のフィールドの糾罪カウンターを全て取り除き、その数1つにつき900ポイントのダメージを相手に与える』
「……っ!?」
糾罪巧θ’-「oknirIA」
糾罪カウンター:2→0
エニアクラフトが赤い輝きを強めた瞬間、空から降ってきたのは閃光だった。
「ぎあああああああああッ!?」
バトレアス LP3100→1300
『バトレアス!』
『ちょっと、しっかりして!』
跪き、身体が震える。クーリアとドリーミアがすかさず駆け寄ってくれたのは、声で分かった。声でしか分からないのは、一瞬の光で視界が潰されたせいだ。失明したわけではなく、ほんの一時的なものだろうが。
『我々は人の罪を糾すと伝えた』
エニアクラフトの声が響く。感情らしいものがない、本当に機械的な言葉だ。
『君が受けた痛みは、全て君の行動によるものだ』
最初のアークテイルの効果で受けたダメージは、俺がリンク召喚をした事で受けた。オクニリアに糾罪カウンターが溜まったのは、俺が発動した効果に反応してエニアクラフトのモンスターがリバースしたから。
エニアクラフトの言う通り、俺が受けた2700のダメージは、全て俺の行動が原因だ。
『君はこれまで、デュエルに限らず、自分の行動に疑問を抱いたはずだ。君の仲間を危険に晒したのも、君自身の立場が悪くなったのも、全ては自分の行動だと』
震える。
まさにその通りだったから。
『そして君は、このデュエルでも仲間を危険に晒す事になる。もうすぐその時が来る』
視界がわずかに回復する。
霞んだ視界に、エニアクラフトの虹色の輝きが見えた。
・デッキビルドパック出身
・メインデッキに入るのは全てペンデュラムモンスター
・下級と上級でペンデュラム効果が二分
・下級と上級が初登場時点で4体ずつ、合計8体
・全ての個体名に「ア」がつく
……と、意外に「ドレミコード」と「エニアクラフト」は共通点があったり
それはそうと、話を書き上げて投稿する直前で新カードが登場するの、ヌーベルズ、恋する乙女に続き3ケース目です
新しいカードが出るのは嬉しいんですが、このタイミングの悪さは一体
次のうち、この作品で、デュエル外の登場人物として見てみたいのは?
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魔術師
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コード・トーカー
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ARG☆S
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ウィッチクラフト
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閃刀姫
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霊使い
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勇者トークン一行
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推しがいないんですが……
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全部書いて