ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

8 / 81
第8話:わがままな姫様

 ドレミ界に身を寄せて1週間が経とうとしていた。

 最初のOJTがあまりにもだったので、屋敷での雑用がメインのここ数日が平和に思える。掃除や書類整理など何の苦でもなく、仕事の出来にも問題がない事を確認してもらっているため、この立場のこの仕事にも慣れてきたと言えるだろうか。

 ドレミコードの誰かについて外へ行く、という事は初日以降は無かった。個人からの依頼がないのに加え、天老の時のような事が起こるとも分からないからだろう。それについては仕方ないし、また厄介事に巻き込まれるのも嫌なので、大人しく過ごしている。

 

 そしてその日も、毎日の仕事として、軒先のポストを確認した。新聞をとっているわけではないが(精霊界の新聞というのもあれば興味深いが)、時々手紙が来る事があるのだそうだ。それはやはり、先日の天老から――正確には彼に仕えるドラゴンメイドから――の手紙のように、ドレミコードを認識できる個人から届くのだろう。

 

「……?」

 

 そのポストを覗いてみると、一封の封筒が入っていた。しかし差出人の名前がなく、シーリングスタンプは牛の角のような模様。誰宛かも分からないが、そういう手紙はクーリアに渡すよう言われているので、彼女の下へ向かう事にした。

 

「クーリア様、よろしいですか?」

『どうぞ』

 

 部屋に入る前にノックは大切。うっかりあられもない姿を見てしまっては命に係わる。許可をもらったうえで、クーリアの部屋に上がらせてもらう。

 部屋に入ると、クーリアは机に向かって手紙らしきものを書いていたが、中身について聞くわけにはいかない。そして、クーリアは休養日にも関わらず、外へ出ても恥ずかしくないほどに服が綺麗で整っていた。前世で外に出る予定がない休日には服など適当だった身としては、見習いたいものである。

 

「お手紙が届いておりました。ただ、どなた宛かわからないもので」

「ありがとう、確認するわ。少し待って頂戴」

 

 封筒を差し出すと、クーリアはペーパーナイフで封を切り中の便箋を取り出す。一読すると、困ったような笑みを浮かべて息を小さく吐いた。何となく、気になる反応をする。

 

「……失礼ながら、どなたからかお伺いしても?」

「まぁ、旧い友人というかなんというか……」

 

 差出人とは浅からぬ、話せば長くなる関係らしい。便箋を畳んで封筒に戻したクーリアは、手帳を取り出して何かを書き込んでいく。

 

「3日後に、この手紙を出した人の下へ全員で行くわ」

「全員で……?」

 

 「浄化」もせいぜい二人一組ぐらいなのに、全員とは。初めての事で驚くと共に、後で皆にその事を共有しないとと頭に留めておく。

 

「『浄化』の一環か何かですか?」

「いえ、純粋に私たちの演奏が聞きたいんだって」

「……つまりは、演奏会の依頼?」

 

 要約してみるとクーリアは頷く。

 天下のドレミコードにそんな超個人的な依頼を出す人とは、いったい何者だろうか。もしかしたら、どこかの国を治める偉い人なのかもしれない。

 

「いい機会だし、貴方の事も紹介しましょう。だから、その日は予定を空けておいて頂戴ね」

「……分かりました」

 

 何者かは知らないが、言う通りにその日は動けるようにしておく。

 というか、まだ外部に1人で出られるわけではないので、結果的に空いていてもドレミ界にいるしかないのだが。

 

◆ ◇ ◇

 

 3日後。ミューゼシアを除くドレミコード全員の予定を合わせて、その差出人の下へ向かう事になった。

 普段と明らかに違うのは、全員がそれぞれ楽器を持っている点だ。キューティアはハーモニカ、ファンシアはアコーディオン、グレーシアはサックスといった風に、それぞれの妖精体が持っている楽器と同じものを本人が用意している。大きさはちゃんと人間が使うのと同じサイズだ。

 そして俺の持ち物は、やはりデュエルディスクとデッキだ。また襲撃者と遭遇したり、あらぬ疑いを掛けられるなんて事は二度と起きて欲しくない。だが、備えあれば憂いなし、と用心に越した事はないのだ。

 さらに、空いた両手にはクーリアのバイオリンとグレーシアのサックスが収めてあるケースをそれぞれ持つ。

 

「いいなー、私のも運んでほしいなー」

「今は難しいので、できれば帰りに……」

 

 エンジェリアが羨ましそうに言うが、ケースに収まっていても落としたりしたらどうなるか分からない。無理はできないので、帰りに運ぶのを約束する。クーリアは上司であり、グレーシアに関してはたまたま近くにいたから運ぶのを申し出ただけだ。

 

「行くわよ」

 

 そしてクーリアが率先して、屋敷のホールにゲートを開く。その大きさはこれまでの楕円形とは違い、人が横に並んで2~3人分ぐらいの広さの円形だった。皆がそのゲートをくぐっていき、俺は最後にそこを通る。

 

「うお、眩しっ……」

 

 ゲートの先にあったのは、とびきりの輝きを放つ何かだ。あまりにも明るすぎて目が眩んでしまいそうになり、腕で光を遮る。

 それから、慎重に視界を確保して辺りを確認してみた。

 ドレミ界と打って変わって、空には黒い雲が広がっている。それでも真昼のように明るいのは、目の前に聳える白い建物のせいだ。西洋の城のようなそこは、外壁のほとんどが真っ白で、見上げる塔の瓦は蒼で統一されている。中でも一番高い塔の天辺には、ハートを模したモニュメントが建っていた。全貌はここからでは分からないが、きっと敷地面積は何とかドーム何個分とかで表現するほどだろう。

 ドレミコードの皆は怯まず、まっすぐに伸びる石畳の道を歩いていく。遅れないようについていき、やがて正面玄関と思しき扉の前にやってきた。光沢からして木製ではなさそうだ。

 

「バトレアス」

 

 そこで、クーリアが話しかけてくる。

 

「城の中では、迂闊にモノに触らないようにしてね」

「……分かりました」

 

 子供じゃあるまいし、珍しい調度品など目につくものすべてにベタベタと触るつもりはない。だが、クーリアはおふざけでそんな注意をしてきたわけではないらしく、やけに真剣な目つきだ。粗相などすれば命はないと警告していると思い、素直に頷いておく。

 すると、扉が開いた。

 

「お待ちしておりました、ドレミコードの皆様方」

 

 挨拶と共に姿を見せたのは、青いアクセントカラーが入った執事服を着る、スラリとした銀髪の女性。顔には小さな傷痕があり、モノクルをかけている。スーツの裾は悪魔の翼のような形で広がっていて、腰からは青と黒の2色の尻尾が生えている。

 

「出迎えに感謝するわ、()()()()

「こちらこそ、急な申し出にもかかわらずお越し下さり感謝いたします」

 

 クーリアの告げたその名前に、頭の片隅の記憶がほじくり返された。

 アリアスという名前に、悪魔チックな執事服。この女性は《白銀の城の執事(ラビュリンス・バトラー)アリアス》だ。

 という事は、この城は《白銀の迷宮城(ラビュリンス・ラビリンス)》だろうか。であれば、この城の主も、この間ドレミ界に手紙を出した張本人も誰だか分かった気がする。

 

「場所はいつもの通りかしら?」

「はい。ですがその前に、姫様にご挨拶をしていただければと」

「分かったわ、案内してくれる?」

「承知いたしました」

 

 アリアスと話をするクーリアは、初対面の人物を相手にする感じではない。差出人は旧い友人と言っていたし、ドレミコードの皆も含めここに来た事が何度かあるのだろうか。

 アリアスに促されてドレミコードの皆が玄関をくぐり、俺もそれに続こうとする。

 

「失礼、この方は?」

 

 すっと、アリアスが音もなく目の前に腕を伸ばしてこちらを止めた。見れば、アリアスが疑わしい目をこちらに向けている。ハスキーとは違い全力で疑っている。

 

「彼はバトレアス。つい最近、私たちの下で働き始めたの。大丈夫、『姫君』に手を出すような人間じゃないわ」

 

 クーリアが弁明してくれる。それに頼りきりではダメだと思い、アリアスに向き直って頭を下げる。

 

「自己紹介が遅れて申し訳ありません。ドレミコードの皆様の従者、バトレアスと申します。以後、お見知りおきを」

 

 今度はスムーズに自己紹介ができた。顔を上げると、アリアスの目つきは少しだけ鋭さが抜ける。こちらに対する警戒を少し緩めたと見えた。

 

「私は姫様の執事を務めるアリアスと申します。こちらこそ、どうぞよろしく」

 

 アリアスはそう告げると、少しだけ笑い、城内に入るよう促してくれた。改めてお辞儀をし、城に足を踏み入れる。

 入ってすぐのエントランスは、壁には柱時計やいくつもの絵画がかけられ、甲冑や像などの調度品に()()()()()が並べられてある。それらを横目に、先頭を歩くアリアスの後に続いた。

 

 「姫」がいる場所まで案内される間、緊張感は増すばかりだ。

 ここが《白銀の迷宮城》なら、辺りはトラップだらけのはずだ。壁際に立っている像も、天井から吊るされているシャンデリアも、壁に掛けられた時計も、置物のふりをしているが全部トラップだ。さっきのクーリアの忠告は、下手に触ってトラップを作動させるなという事だろう。

 【ラビュリンス】は、罠カードをメインにした少し特殊なテーマ。設定では、この城の主である「姫様」が、挑んでくる騎士を迎え撃つために様々な罠を仕掛けて迎撃するというもの。タワーディフェンスゲームをモチーフにしている、と聞いた時はなるほどと思ったものだ。

 そして【ラビュリンス】は、マスターデュエルで何度も相手にし、そして何度も負けている。何せ、相手ターンにも普通に動けるラビュリンスは、こちらが先攻をとっても対処が難しい。環境を飾った事さえあるのだから、いちファンデッカーの自分など太刀打ちできないものだ。

 

「こちらです」

 

 胃が押し潰されそうになりながら歩いていると、アリアスが足を止めた。そこにあるのは、正面玄関と大差ない大きさの扉。ハートマークとも、牛の角とも見えるレリーフが施されている。

 この先に、その「姫」がいる。

 アリアスがその扉に手をかけ、まさに開けようとしたところで。

 

『姫様~、本当にその格好でいいの?』

 

 まだ年が幼そうな女性の声が中から聞こえてきた。

 アリアスが扉を開けようとするのを止める。

 

『なーに、アリアーヌ。私の格好に不満でも?』

『不満というかなんというか、威厳にかかわるというかな』

『いいでしょう、別に。迎えるのは旧知の仲だし、この姿を見られた事もまああるからモーマンタイよ』

『……でもさあ』

 

 大人びた女性の声に続き、また別の女性の声――今度は少し暗めだ――が聞こえる。

 

『流石に客人をジャージで出迎えるのはないと思う』

 

 それが聞こえた瞬間。

 

「少々お待ちを」

 

 表情はミリも変えず、しかし明らかに動揺した感じで、アリアスは扉を最低限だけ開けて中に身を滑り込ませる。そして扉を強く閉めた。

 

『あら、アリアス。クーリアたちは?』

『ただいまお待ちいただいております。しかし姫様、ひとつご質問をさせていただきましょう。何です、その格好?』

『見て分かんないの?』

『いえ、分かりますとも。分かるからこそ、意味が分からないのです。何故に貴女様は、これから客人とお会いするのにジャージなのです?』

 

 どうやら姫様はジャージらしい。声が丸聞こえなので、エンジェリアとファンシアは肩をプルプル震わせて笑いを堪えている。グレーシアは呆れたように首を横に振り、エリーティアとキューティアは苦笑していた。

 

『アリアーヌにも言ったけど、別に彼女たちとは何度も会ってるし、もういいかなって。後ドレス着るのがすごくめんどくさい、動きにくいし』

『ついにぶっちゃけましたね。後言っておきますが、今回は少々事情が違います』

『どういう意味?』

『あちらには新入りがいます。それも男です』

『……何ですって?』

 

 扉の向こうの空気が一瞬で変わったのを感じる。この状況で男といえば俺しかいないので、無駄に緊張感が増す。ビューティアは「あらあら」と困ったように頬に手を当てていた。

 

『その新入りが、今の姫様の姿を見たらどう思われるでしょう? 噂に名高い()()()がそんな芋っぽい装いと知れば、さぞ幻滅する事でしょう』

『芋……ッ、あなた言うに事欠いて主の私を「芋」って言ったわね!?』

『はい。しかしながら、本来の姫様のドレス姿であればいかがでしょう。新入りとは言えドレミコードひとりを籠絡すれば、今後あちらに対して何かしら有利に立てるかと』

『アリアスさん、今さらっと姫様を芋呼ばわりしたの認めたね……』

 

 何か話がとんでもなくズレた方向に向かっている気がする。というか、籠絡云々でドリーミアからちょっと厳しめの視線を向けられた。たまらず、逃げるようにクーリアに視線を向けるが、彼女は彼女で中の問答に呆れた様子。そして優しい目で「気にしなくていい」と告げた。彼女たちのやり取りはいつもの事のようだ。

 

『まあ、言っても私はあくまで執事の身。姫様に強制はできません。その姿で良いというのであれば皆様をお呼びしましょう。では――』

『ちょ、待ちなさい! 分かった、着替えるから、着替えるからちょっと待ってー!!』

『ではアリアーヌ、アリアンナ、任せました』

『『了解~』』

 

 そしてアリアスは、入ってきた時と同様に滑らかな動きで出てきた。中を一切見られないように、平然とした態度で。

 

「大変お待たせいたしました、皆さま。姫様はまだ準備ができていないようでしたので、別室でお待ちいただければと思います」

「ああ、うん……分かったわ」

 

 クーリアは全てを知っているだろうに、それを決して指摘せず従う。なんというか、こんなクーリアは初めて見た。

 

◇ ◆ ◇

 

 通された別室は、ドレミコードの屋敷の食堂ぐらいの広さがある部屋だった。中央には長方形のテーブルがあり、優に10人は座って食事が楽しめる広さだ。事実、椅子も10個置かれている。

 アリアスは、「お茶を用意します」といって部屋を出ていった。ドレミコードの皆はどうするのかと思ったが、思い思いに椅子に座り、それぞれ楽器を取り出して軽く試奏を始める。本番前のちょっとした練習のつもりらしい。

 俺も持っていたクーリアのバイオリンとグレーシアのサックスのケースを、2人の下へと持っていく。それからは手持無沙汰になってしまったので、従者らしく扉の傍に立って待機する事にした。椅子に座りたい気持ちはあったが、ここは我慢だ。

 妖精体が出ず、ドレミコードの本人が楽器を奏でるのは、随分と珍しい気もする。唯一例外なのは、初めてドレミ界に来た夜にクーリアのピアノをすぐそばで聞いたぐらいだ。

 そして今は、あくまで練習中で、それぞれが奏でる音楽もリズムも全く合っていない。にもかかわらず、不快感もなかった。音量をやや抑え気味なのもあるだろうが、やはりプロ(と評していいかはグレーだが)の演奏は練習だけでも一味違う。

 だがその時、部屋の明かりが不意に揺れたのに気づく。

 

「……うわ」

 

 天井を見上げて、思わず呟いた。

 ぶら下がっているシャンデリアは、竜の意匠が施されている。しかも、風が吹いていないのに自然に左右に揺れていて、聴覚も働かせながらよく見るとリズムに乗っているような動きだ。

 【ラビュリンス】と戦った経験がある俺には、あのシャンデリアが《白銀の城の竜飾灯(ラビュリンス・シャンドラ)》と気付いたが、果たして他の皆は気づいているのだろうか。下手な動きを見せたら落っこちてきそうで怖い。

 その時だった。

 

「待たせたわね!」

 

 ノックもなしに扉が勢いよく開き、心臓が止まりかける。ドレミコードの全員が、一斉に練習を止めて姿勢を正した。椅子に座っていたエリーティア、ビューティア、ファンシアは立ち上がり、俺も扉のそばで気を付けの姿勢を保ったまま、部屋に入ってきた者の姿を確認する。

 目を引くのは白銀に輝くドレス。腹部に金属製のコルセットを付け、腰から下にかけては半透明の生地で、細い脚がわずかに見える。腰の後ろからはコウモリのような透明な羽が生えていて、頭には白銀に光る牛の角のようなものが生えていた。

 《白銀の城のラビュリンス》。この城の主に他ならない彼女は、遅れたにも関わらず自信満々な笑顔を浮かべていた。

 

「随分準備に手間取っていたようね、姫様?」

「私の美貌を最大限に引き出すには、相応の時間がいるのよ」

 

 クーリアの質問に、なぜか得意げに笑いながら答える姫様。物は言いよう、という言葉を痛感した。

 そんな姫様はぐるりと室内を見渡し、やがてこちらに視線を映した。

 

「あら、初めて見る顔ね?」

 

 自然と跪く。

 何せ相手は「姫」だ。いかにデュエルモンスターズで馴染みのあるモンスターでも、精霊界での地位は相応だろう。一介の従者が、初対面で視線の高さを合わせて話すのは許されまい。

 

「お初にお目にかかります、姫様。ドレミコードに仕えておりますバトレアスと申します。何卒、よろしくお願いいたします」

「ふうん……一応、礼儀は弁えているようね」

 

 コツコツと足音がこちらに近づいてくる。

 そして次の瞬間には、顎を掴まれて視線を強制的に上に向けられた。前世でもされた事がない顎クイを、まさかこんな場所でやられるとは。しかも迷宮姫に。

 

「何かちょっと頼りなさそーな顔ねぇ。でも、従者はお似合いかしら?」

 

 可愛らしい、というより愉しそうな笑顔を浮かべる姫。銀の瞳、そして美人と評して差し支えない顔を向けられ、直視するのが気恥ずかしい。それでも、不敬と捉えられかねないので目を離す事ができない。後、下に向けると強調される胸の谷間が目に入ってしまうからそれも困る。

 

「……あまり、私の大事な部下を揶揄わないでもらえるかしら」

「あら、冗談の分からない人ねぇ」

 

 するとクーリアが、珍しく割と強めの口調で注意してきた。そのおかげで、迷宮姫の指から解放される。

 少し不思議なのは、クーリアと迷宮姫が随分と気心知れた仲同士で接しているところだ。アリアスとの時もそうだったが、それだけここへ来る機会も多いのだろうか。

 そういえば、【ドレミコード】も【ラビュリンス】も、「デッキビルドパック」と呼ばれるブースターパック出身のテーマだ。毎回3種類のコンセプトが異なる新テーマが収録され、そのパックの中身だけで最低限のデッキを作る事ができる(欲しいカードを全て入手できたらの話だが)、という触れ込みのものである。

 もしかしたら、2人の仲がそこそこよさげのは、その誼なのかもしれない。

 

「申し訳ございません。お茶とお菓子をご用意すべきかと思いましたが、思いのほか姫様のご準備が早く終わりましたので……」

「大丈夫、こちらも準備はできているわ」

 

 アリアスの謝罪に対し、率先してクーリアが答えた。大丈夫と言ったが、他の皆は果たして十分に練習できているのだろうか。そう思って周りを見るが、不安そうな顔をしている人は、誰一人としていない。

 

「では、行きましょう」

 

 姫様はそう言ってドレスを翻し、部屋の外へ向かう。ドレミコードの皆も楽器をケースに戻してその後に続く。どこでどうするのか俺には皆目分からないため、皆の後をついていくしかなかった。

 やはり白銀の迷宮城はとても広く、さっきまでいた別室から歩き始めてかれこれ5分以上は経過している。水が滾々と湧く泉のある庭を横目に、高価そうな絵画や陶器が並ぶ廊下を歩き、いくつも部屋が並ぶ一角を抜けて、まだ歩く。ドレミ界の屋敷でも、部屋から部屋への移動でここまで歩く事はない。

 そしてようやくたどり着いたのは、体育館か何かと見間違えるぐらい広い部屋だった。床は板張りで、部屋の奥にはステージのように張り出した場所があり、そこには椅子が8個置かれている。丁度、ドレミコードの人数と同じだ。そしてその舞台の正面、よく見える位置にはソファとサイドテーブル。

 ここへきてようやく、迷宮姫はドレミコードの演奏を独り占めするためにここへ呼んだのだと理解した。何とも、金を持て余したセレブのような所業である。

 

「……俺は、どうしていればよいでしょう?」

「ひとまずは待機していて。もしアリアスたちから頼まれごとがあったら、それに従って大丈夫。ただし、城のものには迂闊に触れないように」

 

 ドレミコードのみが演奏するのであれば、本当にやる事がなくなる。なのでクーリアに指示を仰ぎ、内容を理解してホールの入り口脇に待機した。

 すると、ドレミコードの皆がステージに出てきて、ステージの前に陣取る姫様にお辞儀をする。姫様はぱちぱちと拍手をすると、そばに控えるアリアスが淹れたお茶を飲む。

 そして、ドレミコードたちの演奏が始まった。

 

「カルメンか……」

 

 曲の出だしだけで分かる。多分、音楽に詳しくなくて名前も聞いた事がない人でも、曲は聞いた事だけはあるかもしれない、そんな有名で明るい曲だ。

 フルオーケストラとドレミコードでは、楽器の構成が少し違うため演奏の雰囲気も変わる。それでも姫様はお気に召したのか、頭を左右に振ってリズムに乗っている。かくいう俺自身も、同じように自然と小さくヘッドバンギングをしていた。

 ドレミコード本人たちの演奏を聴くのはこれが初めてだ。妖精体の時みたく、身体に不可思議な作用が働いて力が湧いてくる感覚はない。けれど、まさにプロが奏でる曲という感じで、心打たれる演奏だ。

 

「そこのおにーさん。ちょっといーい?」

 

 集中していたために、横合いから声を掛けられてのけぞった。

 そこにいたのは、灰色の髪をピッグテールでまとめた少女。袖のない一見ゴスロリ風のワンピースを着ているが、メイド服のようにも見える。右脚だけがピンク色のタイツを履いて、腰からはピンクと黒の尻尾が生えていた。そして、牛のような小さな白銀の角が2本。《白銀の城の召使い(ラビュリンス・サーバンツ)アリアーヌ》だ。

 

「何でしょう?」

「これから昼食会の準備しなきゃなんだけど、人手が欲しくってね?」

「手伝ってほしいなって」

 

 アリアーヌの後ろからひょこっと姿を見せたのは、アリアーヌと同じ髪型と角の少女。しかし、服はアリアーヌと対照的に袖が長く、左脚が緑色のタイツを履き、緑と黒の尻尾を生やしている。こちらは《白銀の城の召使い(ラビュリンス・サーバンツ)アリアンナ》だった。

 手伝ってほしい、と言われて、クーリアから何か指示があればそちらを手伝うようにと言われていたのを思い出す。

 

「分かりました。お手伝いします」

「ありがと~!」

「じゃあ、こっちだから」

 

 頷くと、アリアーヌは嬉しそうに手を合わせ、アリアンナは早速と先導する。

 ドレミコードたちの演奏を聞けないのは名残惜しい。だが今の自分は従者だ。仕える人たちのためになる働きをしなければ。

 

◇ ◇ ◆

 

 ほんの一瞬、アリアーヌたちが俺をだまくらかしてトラップ地獄へ嵌めようとしているのでは、と疑ってしまった。だが、普通に昼食会の手伝いとして、食器の準備や食事をする部屋の掃除などを頼まれたので、疑り深くなっている自分を恥じる。

 料理はコース形式ではなく、大皿に料理を盛るタイプ。洋食と中華がメインのそれらは厨房で作っているとの事だったが、誰が作っているのか聞いてみたところ、アリアンナから「世の中に知らないままの方がいいものがある」との事だったので、迷宮入りである。

 そして料理を並べ終えた12時を回ったところで、姫様とドレミコードの皆が食事をする部屋にやってきた。姫様は演奏に満足したのか上機嫌そうだ。ドレミコードの皆も演奏以外では特に何もなかったらしく、やりきった表情をしている。

 そして食事が始まれば、後は従者として脇に控えているだけだ。

 

「キューティア様、お茶のおかわりは如何なさいますか?」

「あ、お願いします」

 

 ただ、食事をしている間、壁際に突っ立って何もしないわけではない。従者らしく、それぞれのカップの残量に目を配ってお茶を注いだり。

 

「あとと……」

「アリアスさん、替えのフォークはどちらにありますか?」

「こちらに」

 

 ファンシアが落としたフォークを率先して取り替えたり、とやる事は意外に多い。ファミレスの店員がどれだけ大変なのかをちょっとだけ理解した。

 ただ、俺はドレミコードの従者である以上、彼女たちをまず第一に優先している。姫様の方はアリアスが見ていたが、曲がりなりにもさすがは姫、食事のマナーはちゃんとしているように見えた。

 

「そっちはそれなりに仕事はできるみたいね」

「ええ、とても」

 

 長方形のテーブルの短辺の席――いわゆるお誕生日席――の姫様が、紅茶を一口飲んで話しかける。クーリアは頷いて、パンを千切って食べた。

 

「腕は立つのかしら?」

「ちょっとやそっとではない、とだけ。何せ、ミューゼシア様にも勝利するぐらいだもの」

 

 何の腕かと思ったが、クーリアの言い方からして多分デュエルだ。

 持っているデッキがファンデッキばかりなので、自分が強いかどうかを聞かれたら未だに首を傾げざるを得ない。とはいえ、これまでも侵略者やミューゼシア、天老に勝っているから、クーリアの言う通り「ちょっとやそっと」ではない、と信じたい。

 

「それに、以前ドレミ界が襲われた時も守ってくれたし」

「襲われた? 貴方たちの本拠地が?」

 

 ドレミコードという、通常の存在には認知されない存在。当然、そんな彼女たちが住む世界も秘匿扱いと思ったが、姫様はドレミコードを知っているから教えても問題ないと思ったのだろう。そして、姫様はドレミ界が襲われたことに驚きを隠せないでいる。

 

「どこの誰かしら、そんな酔狂な人」

「さあ……とにかく、私たちの世界だけでなく、会えばあなたたちにも害を及ぼす存在でしょう。いきなり神聖な世界に土足で上がり込んで、戦いを挑むなんて」

「ま、気を付けておくわ。情報ありがとう」

 

 厳しい意見を告げるクーリアだが、俺としても同意見だ。ドレミ界で会った時も、天老を自分勝手な理由で襲った挙句見逃したのも、とてもまともとは言えない。目的も無茶苦茶だし、きっと「ラビュリンス」にとっても敵となりうるだろう。

 

「それであなたは、そこの彼がその侵略者を追い返すぐらいには強いって自慢したいのかしら」

「そうは言ってないでしょう」

 

 揶揄うように笑う姫様。対するクーリアは、嘆息してお茶を飲む。丁度切れたところだったので、素早くクーリアのカップにお茶を注ぐ。「ありがとう」と微笑んでくれた。

 

「でも、ウチのアリアスほどじゃないでしょう?」

 

 ぴくっ、と姫様の傍にいたアリアスの眉が動いたのに気づいた。

 それに対してクーリアは。

 

「……どうかしら。実際に戦ってみない事には分からないし」

 

 そういった直後、姫様は指をパチンと鳴らした。しかも「その時、ふと閃いた!」という具合の表情で。

 

「だったら、ここでデュエルして決めればいいじゃない」

「「「はぁ……?」」」

 

 そしてその提案には、俺とクーリアだけでなく、アリアスまでもがぽかんとしていた。他のドレミコードたちも、急な姫様の提案にざわついている。

 

「どっちが強いか分からないなら、今ここで決めればいいわ。丁度余興にもなるし」

「いや、そこのところは別にはっきりしなくても……」

「なぁに? 私の提案を断るっていうわけ?」

 

 思わず反論してしまうが、すぐさま姫様はぶすっとした表情に変わる。忘れるところだったが、立場は向こうの方が上だ。

 そして姫様は、俺を指さして。

 

「命じるわ。今ここで、アリアスとデュエルなさい」

 

 命令され、ぐっと言葉に詰まる。

 クーリアの意向も確認しようとそちらを見た。少しだけ視線が合ったが、やがてクーリアは観念したように肩を竦めて。

 

「まったく偉そうに……」

「偉いもん!」

 

 首を横に振る。どうする事もできない、という感じなので、やむなく俺もそれに従うしかなかった。

 ただ、これまでのデュエルとは違って、自分の進退やいち世界の命運をかけたものではない。ただの余興程度なら気が楽である。

 

「アリアスさんは、よろしいんですか?」

「姫様はこうなると聞きませんし。むしろ、バトレアスさんは大丈夫なんですか?」

「自分はまあ……どうこう言える立場じゃないですから」

 

 念のため、アリアスにも聞いてみた。もしアリアスが嫌がっているようだったら、立場なんぞ知るかの精神で断っていたが、向こうもまた諦めている。姫様の無茶ぶりには慣れっこのようだ。

 今いる部屋は、おあつらえ向きというべきか、テーブルと椅子が壁際に寄っていて、窓側はスペースが取られている。天老とデュエルをした庭ほどじゃないが、デュエルをする分にはさほど問題がない間取りだ。

 アリアスは姫様の側に立ち、俺はその反対側。そして、腰に提げていたデュエルディスクを左腕につけて展開させた。アリアスも、コウモリの翼のようなデュエルディスクを展開する。

 

「では、参りましょう」

「はい」

「「デュエル!!」」

 

バトレアス LP4000

VS

アリアス LP4000

 

 デュエルディスクが先攻を示す。最初の5枚をドローし、そういえばこの世界に来てからデッキをまだ見てなかったと今更思い出してから、手札を見ると。

 

(これか……っ!?)

 

 思わず頭を抱えたくなった。

 まず、こちらの世界へ来る前は、やはりデュエルディスクに【ドレミコード】のデッキをセットしていた。なのに、このデッキはそれじゃない。そして天老とのデュエルで使った【メタルフォーゼ】でもない。

 このデッキは、マスターデュエルで組んでいたデッキだ。それも、とある1枚のカードを活躍させたい一心で組んだもので、勝利ではなくそのカードを使う事を目的としている。対人戦での戦績は勝率1割にも満たないほどの、紛う事なきファンデッキだ。

 

「あら、見て頂戴アリアス。彼すごい顔してるわよ。きっと手札事故だわ!」

 

 俺はポーカーフェイスが苦手らしい。姫様が実に愉しそうな声と表情をしていた。方やアリアスは、表情ひとつ変えていない。落ち着いたものだ。

 ただ、もうデュエルは始まっている。引き直しなんてできるはずもないので、ターンを進めるしかない。

 

「俺のターン。俺は……」

 

 この手札でできる事はひとつだけだ。

 

「……カードを4枚伏せて、ターンエンド」

『え?』

 

 5枚の内1枚はモンスターカードだが、場に出すべきカードではない。だからこうするしかなかった。

 ずらりと並ぶリバースカードに、その場にいた俺以外の全員が驚き、そして困惑している。

 

「これは、どっちなのかしらねぇ?」

 

 そして、一番早くに立ち直ったのは姫様。最初の表情から手札事故と疑っていたが、この一手でそれが本当かは分からなくなったのだろう。なにせ、自分たちは罠カードをギミックに据えるデッキなのだから。

 ただ、手札事故が起きていたわけではない。実戦向きのデッキではないだけで、悪くない手札だった。それも次のアリアスの出方次第だが。

 何より、このデュエルはあくまで姫様たちの余興。だから、こんな感じのデッキを使った方が場は盛り上がるだろう。

 

「さーて、それじゃあ罰ゲームはどうしようかしらね?」

 

 だが、姫様がそんな言葉を楽しそうに告げた瞬間、そんな余裕は消し飛んだ。

 

「あ、やっぱりデュエルしてる!」

 

 そこで、朗らかな声と共に部屋に入ってきたのは、アリアーヌとアリアンナ。アリアンナの方はスイーツが載ったカートを押している。それより、まだデュエルを始めたばかりなのに、どうやってデュエルをしていると分かったのだろうか。

 

「外のみんながね、教えてくれた」

 

 そんな疑問を見透かしたように、アリアンナがドアを指さす。みんな、とは城中に仕掛けられた罠の事だろう。そういえば、この部屋にも暖炉――つまり《白銀の城の火吹炉(ラビュリンス・ストービー)》――がある。教えたのは恐らくアレだ。

 

「で、今どういう状況なの?」

「あっちのターンが終わったところよ」

 

 アリアーヌが尋ねると、姫様はアリアンナが運んできたショートケーキを取りつつ俺を指さす。

 

「あれ、カードを伏せただけ?」

「ええ。何かの戦略かブラフかは分からないけれど――あ、そうだわ」

 

 姫様はフォークを置いて、手を合わせる。

 

「負けたら罰ゲームでもしてもらおうかと思うのだけれど、何かいい案はないかしら?」

「「罰ゲーム?」」

 

 アリアーヌたちが声をそろえて聞き返す。

 クーリアたちドレミコードはじろっと姫様を見るが、彼女は逆にふふんと得意げな顔を返すだけだ。

 

「何も賭けなかったら面白くないじゃない。負けた方にはペナルティ、よくある話でしょう?」

 

 あくまで余興だと思っていたから、負けてもいいかと思っていた自分がちょっと恨めしい。

 

「あ! じゃあさ~」

 

 すると、アリアーヌが何かを思いついたのかにぱっと笑う。

 

「こないだ作った、騎士様向けの新しいトラップ。あれ試してもらうのはどう?」

「それいいわね、採用!」

 

 アリアーヌの意見を即座に受け入れる姫様。

 騎士様、というのは他でもない、この迷宮城に度々やってくる騎士だ。その腕はすさまじいもので、仕掛けられたトラップを易々と突破し、彼女たち「ラビュリンス・サーバンツ」のおもてなし、そして姫様さえも軽々といなしてしまう実力の持ち主。『ラビュリンス』カードのイラストを見ても、身体能力はズバ抜けている。

 そんなRTA勢もびっくりな騎士を陥れるためのトラップを、試させる?

 

「……ちなみに、そのトラップとはどんなもので?」

「無限バージェストマ地獄」

 

 こちらの質問に答えるのはアリアンナ。聞いただけで絶対にろくでもないものだと理解した。

 「バージェストマ」とは、デュエルモンスターズにおける罠モンスター群。有用な効果が多く、除去札もあるため【ラビュリンス】に混ぜる人も少なくない。しかも墓地からモンスターとして呼び出せるおまけつきだ。

 ただ、それらのデザインは古代生物をモチーフとしている。ダイオウグソクムシをキモカワいいと言えない俺からすれば、かなりアレな見た目だ。

 そんなバージェストマがうじゃうじゃといる、地獄と評す空間を体験させるなど、想像しただけで寒気が走る。今朝食べた、エンジェリア謹製のフレンチトーストが食道を遡ってくるのを必死に堪えた。

 

「姫様、よろしいかしら?」

 

 きゃっきゃとはしゃぐ姫様に対して、声を上げたのはビューティアだった。

 

「アリアスさんが負けたら、どんな罰ゲームにするのかしら?」

「へ?」

「負けたら罰ゲーム、という点は一理あるけれど、バトレアスさんにだけっていうのは不公平じゃないかしら〜?」

「確かにそうね。アリアスも負けたら何かしらの罰を受けるのが筋ってものよ」

 

 ビューティアに続き、クーリアも加勢する。他のドレミコードたちも、アリアーヌが運んだケーキを食べながら頷いていた。

 すると、ぽんと手を叩いたのはアリアンナだ。

 

「じゃあ、あれでいいんじゃない? 姫様の写真集」

「あっ、いいねそれ!」

「え、なにそれ」

 

 アリアンナの提案にアリアーヌは賛成したようだが、姫様本人は何の事か分からない様子。そこでアリアーヌが「えーっとね」と説明を始めた。

 

「いつか騎士様にプレゼントしようかなって、姫様の私生活のあんなところやこんなところをこっそり写真に撮っててね。それを集めたやつ」

「主に無許可でいつの間になんて事してんのよ!?」

「だから、アリアスさんが負けたらそれをあの人にプレゼントって事でいいかな」

「いいわけないでしょうが!」

 

 流石の姫様も焦っている様子。アリアンナが冷静に話をまとめようとしたところに嚙みついてきた。またしてもファンシアとエンジェリアが顔を隠して笑っている。

 

「っていうか、それってアリアスじゃなくて私が罰ゲーム受けてるみたいじゃない!」

「……何をおっしゃいますか、姫様。主の尊厳を守れないなど、私にとってはこれ以上とない罰。無限バージェストマ地獄に落ちるか、それ以上の苦痛が私には伴います。まさに一生業を背負うようなもの……」

「アリアス、あなた――違う! 結局あなたの罰に私を巻き込んでるんじゃない! 真面目に言うから騙されるところだったわよ! っていうか、その写真集とやらの中身は私の尊厳にかかわるものなの!?」

 

 アリアスの意見に一瞬絆されかける姫様。主君と従者という立場のわりに、随分とアットホームな雰囲気だ。それより、無限バージェストマ地獄の苦痛レベルに姫様の尊厳が傷つけられる写真とは、どういうものなのか。

 

「おにーさんだってほしいよね? 姫様の写真集」

 

 アリアーヌがにやにやと笑いながら尋ねてくる。

 何となく、ドレミコードたちからやや強めの視線が向けられたのを肌で感じ取ったが、答えは決まっている。

 

「いいえ、まったく」

「え」

 

 即答すると、場の空気が凍り付いた感じがした。けれど、ちゃんと理由は話しておく。

 

「姫様のお写真がどのようなものかは少々気になりますが、無許可との事でしょう? あまり人様にご迷惑をかけたうえで作られたものは、受け取れないと言いますか」

「ふ、ふーん……」

 

 遊戯王の関連書籍には、モンスターの日常とか、隠された設定とかが記載されているものもある。その類のものと考えれば、姫様の日常の一部にも興味は多少あった。

 しかし、プライベートを隠し撮りされたのを聞いた姫様は、機嫌を損ねている。その手のものは、興味があっても受け取りたくはなかった。

 

「……あの、罰ゲーム云々は置いといて、デュエルを進めてよろしいですか?」

「え、ええそうね。アリアス、あの男を無限バージェストマ地獄に叩き落してやりなさい!」

 

 アリアスがやや気まずそうに断りを入れると、姫様は調子を取り戻したらしく、アリアスに気丈に命令する。

 この一悶着で罰ゲームの話がなかった事になればよかったが、それも叶わなかったので心の中で舌打ちをする。

 

「私のターン、ドロー!」




白銀の城の迷宮姫、新イラストすごくいいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。