ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第85話:栄誉の昂り

 バトレアスの一撃を食らい、興奮したように高笑いを上げ、さらなる楽しさを求めたクルヌギアス。

 そんな冥府の神を、クーリアが半ば驚きながら見ていると。

 

『あんなクルヌギアス様、初めて見たかも』

 

 クーリアの傍に現れた妖精体が、興味深そうに告げる。クーリアもそれは同意見だ。今まで何度もクルヌギアスに会ってきたが、あれほどまでに感情を包み隠さない姿は見たことがない。

 それだけ、バトレアスとのデュエルが楽しいということだろう。それは彼と深い関係にあるクーリアとしても嬉しく思える。

 

「これが、悪いことに繋がらないといいのだけれどね……」

 

 しかし、頬に手を当てるミューゼシアの心配も分かった。

 クルヌギアスはさっき、バトレアスへのダイレクトアタックの際、友を傷つけるわけにはいかないという理由で衝撃を抑えた。

 だけど、その時クルヌギアスはまだ冷静だった。だからもし、この先バトレアスへ攻撃する機会があるとして、昂ぶりのあまり力加減を忘れたりはしないだろうか。

 

「……そうなっては、欲しくないです」

 

 小さく、望みをクーリアは零す。

 かつてのクルヌギアスとのデュエルで、バトレアスは一時的に大きな精神的ダメージを負い、デュエル続行が危ぶまれた。そんな事態は二度と起きてほしくない。

 クーリアが両手を強く握り、バトレアスに視線を向ける。心情を察したのか、妖精体がクーリアの手に自分の手を重ねてきた。

 

『彼、大丈夫かしら?』

「信じましょう。今はそれしかできない」

 

 今更デュエルに割って入って中断など、神の前では不敬に当たる。特にクルヌギアスにとって、バトレアスは友。形が何であれ、それを邪魔すれば機嫌を損ねかねない。

 何よりクーリアは、バトレアスの強さを信じてもいた。

 だから今は、デュエルを観るしかない。不安がる妖精体の髪をそっと撫でた。

 

◆ ◇

 

バトレアス LP500 手札1

【モンスターゾーン】

(ヒロイック)(チャンピオン) クサナギ

ATK4000 ランク4 ORU(オーバーレイ・ユニット)2

 

No.(ナンバーズ)54 反骨の闘士ライオンハート

ATK100 ランク1 ORU2

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード1

 

 

クルヌギアス LP300 手札1

【モンスターゾーン】

カオス・アンヘル-混沌の双翼- ATK3500 レベル10

 

【魔法&罠ゾーン】

カード無し

 

 

 

「妾のターン、ドロー!」

 

 クルヌギアスが、楽しそうにカードを引く。

 俺が焚きつけたのは百も承知だが、せめて痛い目を見るような真似はしないでほしい。

 

「魔法カード《闇の誘惑》発動。デッキから2枚ドローし、手札から闇属性モンスター1体を除外する!」

 

 まずは手札交換。あのカードは、手札に闇属性モンスターがいなければ手札を全て墓地へ送るリスクがある。だが、クルヌギアスはカードを2枚引いた後、《ネクロフェイス》を除外した。恐らく最初から手札にあったのだろう。

 

「除外された《ネクロフェイス》の効果発動! お互いにデッキの上から5枚のカードを除外する!」

「一気に5枚か……」

 

 再利用が難しい除外という形で、かなりの枚数を持っていかれる。【ヒロイック】は除外ケアのカードが全くと言っていいほどないから、これはかなり厳しい。せめて致命傷は避けたい、と思いつつカードを除外していく。《和睦の使者》《(ヒロイック)(チャレンジャー) ソード・シールド》《エクシーズ・ユニット》《ヒロイック・リベンジ・ソード》《H・C モーニング・スター》が除外されてしまった。

 一方でクルヌギアスのデッキから除外されたのは、《魂の解放》《サイバー・ウロボロス》《死眼の伝霊-プシュコポンポス》《混沌のヴァルキリア》《混沌変幻(カオス・ファンタズム)》だ。

 

「《サイバー・ウロボロス》と《混沌のヴァルキリア》が、それぞれ除外されたことにより効果発動! ヴァルキリアはの効果でデッキから光または闇属性のモンスター1体を墓地へ送る。光属性の《超電磁タートル》を墓地へ。さらに《サイバー・ウロボロス》の効果で、手札を1枚墓地へ送り、1枚ドローする!」

 

 除外されるカードをも無駄なく利用し、クルヌギアスは墓地肥やしと手札交換をこなす。

 特に《超電磁タートル》が墓地へ落ちたのは少し厄介だ。あのモンスターの効果は知っている。そして、《サイバー・ウロボロス》のコストになったのは《ネクロ・ディフェンダー》という闇属性モンスターだった。

 

「チューナーモンスター《カオス・ミラージュ・ドラゴン》を召喚!」

 

 そしてクルヌギアスは、白をベースにした金の鱗を持つ体の長い竜を呼び出した。

 

カオス・ミラージュ・ドラゴン

ATK1600 レベル4

 

「このモンスターは1ターンに1度、除外されている光・闇属性モンスター1体を、その効果を無効にして特殊召喚できる。戻れ、カオス・ウィッチ!」

 

 《カオス・ミラージュ・ドラゴン》が咆哮を上げると、その脇に黒い渦が現れ、白い髪に黒い服の魔女が優雅に歩み出てきた。

 

カオス・ウィッチ-混沌の魔女-

ATK1500 レベル4

 

「レベル4のカオス・ウィッチに、レベル4の《カオス・ミラージュ・ドラゴン》をチューニング!」

 

 《カオス・ミラージュ・ドラゴン》の身体がとぐろを巻き、4つの緑色の環へと生まれ変わる。それらは絡み合うようにしながら、カオス・ウィッチの身体を包み込んだ。

 

「閃光と漆黒が混ざりし時、混沌なる魔神の怒号が現世を震わす。シンクロ召喚! 来い、レベル8!《カオス・デーモン-混沌の魔神-》!!」

 

 光が弾け、白い鎧を着て黒い剣を威勢よく振り回す、騎士然とした悪魔がフィールドに降り立つ。

 そのモンスターは、以前のクルヌギアスとのデュエルで、俺のモンスターたちを大いに傷つけた存在。能力はフィニッシャーになりうるほど強力だ。

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK2500 レベル8

 

 そして、俺のフィールドの2人の戦士を見るや否や、カオス・デーモンは怒号を上げて空気を震わせた。クルヌギアスの口上そのままのそれは、闘志を刺激されたからだろうか。

 

「カードが除外されたターン、カオス・デーモンの攻撃力は2000ポイントアップする!」

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK2500→4500

 

「そして、シンクロ素材となった《カオス・ミラージュ・ドラゴン》の効果発動! そのシンクロ素材とした、他のモンスターの数までフィールドのカードを対象として除外できる。妾はその伏せカードを除外!」

 

 カオス・デーモンの背後に《カオス・ミラージュ・ドラゴン》の幻影が現れ、口から白い光線を放ってくる。

 不安要素である俺の伏せカードを除去し、できるだけ攻撃を安全に通すつもりだ。何せ俺のライフは残り500。今のカオス・デーモンがクサナギを攻撃すれば、きっかり500のダメージを受けてライフが尽きるから。

 だからこそ、対象となった罠カードを発動させる。

 

「クサナギをリリースして、罠カード《刺し違GUY(ガイ)》発動! フィールド上のカード1枚を破壊して、俺は1枚ドローする!」

「む」

「俺が破壊するのは、カオス・アンヘル!」

 

 現れた魔法陣に姿を消す直前、クサナギが手に持っている剣をカオス・アンヘルへと投げつける。剣はナイスコントロールでカオス・アンヘルの胸の中心に突き刺さって破壊し、それを見てから俺は1枚ドローする。そして《カオス・ミラージュ・ドラゴン》の幻影が放った光線は、《刺し違GUY》のカードを砕いて次元の裂け目へと押し込んだ。

 

「なるほどのう。強大なカオス・アンヘルを退けつつ、自らのライフも守るか」

 

 感心したクルヌギアスに対して、頭を下げる。

 カオス・アンヘルは、光・闇属性モンスターをシンクロ素材にしたため、モンスターによる除去はほぼ不可能。だから罠カードでフィールドからどかし、さらに残るモンスターはライオンハート。戦闘ダメージは回避できる。

 

「妾はこれでターンエンドじゃ」

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK4500→2500

 

 狙い通り、クルヌギアスの攻撃を止められた。

 この隙に攻めなければ、と言いたいところだが、クルヌギアスの墓地には厄介なカードが眠っている。

 

「俺のターン、ドロー!」

「さぁ、次はどんな戦術を見せてくれるんじゃ?」

 

 引いたカードを確認したところで、期待を込めた目と言葉をクルヌギアスに向けられる。

 

 あちらの墓地を考慮しなければ、このままライオンハートで攻撃して効果を発動し、反射ダメージで勝てる。考慮するにしても、下手に展開するより、このまま攻撃してクルヌギアスにカードを消費させ、こちらはカードを温存するという手段も取れる。むしろその方が賢明だ。

 だが、こうしてクルヌギアスから期待されてしまうと、そのままの動きをすることに、少しだけ戸惑いが生まれる。期待を裏切ってしまうのではないか、と。

 

「……魔法カード《貪欲な壺》を発動。墓地のスパルタス、エクストラ・ソード、アンブッシュ・ソルジャー、サウザンド・ブレード、クサナギをデッキとエクストラデッキに戻して、2枚ドローする」

 

 兎に角、まずは手札補充とリソース回復だ。どうするにしても、今の手札では攻め手も守り手もいまいち足りない。ダメージを受けると復活するサウザンド・ブレードだが、俺のライフは安心できない数値のため、蘇生効果を狙うのは危険だからデッキに戻す。

 そして、引いてみた2枚のカードは中々悪くない。

 

「魔法カード《増援》発動。デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。俺は《H・C ダブル・ランス》を手札に加えて、召喚!」

 

 このターンのバトルが成立しないのが目に見えているので、次のターン以降にチャンスの幅を広げられるようにする。2本の槍を両手に持つ、白い甲冑の戦士がフィールドに現れた。

 

H・C ダブル・ランス

ATK1700 レベル4

 

「俺のライフが500以下の場合、墓地のモーニング・スターの効果発動! このカードを効果を無効にして特殊召喚!」

 

 ダブル・ランスのすぐ傍に魔法陣が現れ、その中からモーニングスターを振り回す戦士が立ち上がる。

 

「レベル4のダブル・ランスとモーニング・スターでオーバーレイ! 2体の戦士族でオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 クルヌギアスの言葉に乗っかるわけではないが、ライオンハートありきの守りも長くは保たないだろう。そう考えて、戦闘面で頼りになる別のモンスターを呼びよせる。

 

「金色の剣で闇を切り裂き、輝く勝利を掴め! 現れろ、ランク4!《H-C クレイヴソリッシュ》!!」

 

 空で弾けたエクシーズの渦から、黄金の剣を携えた輝く鎧の剣士が力強くフィールドに降り立つ。そして目の前に立ちふさがる魔神を見て、兜の下から覗く眼光が鋭く光った。

 

H-C クレイヴソリッシュ

ATK2500 ランク4

 

「これはまた、勇ましいモンスターじゃのう」

 

 新たに現れた戦士を前に、うきうきとした感情を言葉に乗せるクルヌギアス。目新しいモンスターや戦術を見ると喜ぶその姿勢は、根っからの神というよりデュエリストのようだ。

 

「バトル! 俺はクレイヴソリッシュでカオス・デーモンを攻撃!」

「攻撃力は同じじゃ、相討ち狙いか?」

「いいえ、クレイヴソリッシュの効果発動! 相手モンスターが戦闘する時、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、相手モンスター1体の攻撃力をターン終了時まで、自らの攻撃力に加える!」

 

 クレイヴソリッシュの剣にオーバーレイ・ユニットのひとつが吸い込まれると、カオス・デーモンを黄色いオーラが覆う。それはクレイヴソリッシュの剣へ流れていき、剣の刃が一瞬で何倍にも伸びた。

 

H-C クレイヴソリッシュ

ORU:2→1

ATK2500→5000

 

「なるほどのう。じゃが、妾は墓地の《超電磁タートル》を除外して効果発動! バトルフェイズを強制終了する!」

 

 案の定、墓地に落ちていたカードを使ってきた。

 クレイヴソリッシュの正面に、機械のような見た目のカメが出現し、電磁シールドを展開させる。それによって剣が弾かれ、クレイヴソリッシュは俺のフィールドに戻った。

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK2500→4500

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。クレイヴソリッシュの効果は終了します」

「カオス・デーモンの効果もな」

 

H-C クレイヴソリッシュ

ATK5000→2500

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK4500→2500

 

 カオス・デーモンは、容易な条件で攻撃力が2000も上昇する。クルヌギアスの【カオス】であれば、その条件は容易く満たせてしまうから、あのモンスターの前では少しも油断ができない。

 

「そしてこの瞬間、除外されているプシュコポンポスの効果発動!」

「!?」

「このカードは、除外された次のターンのエンドフェイズに特殊召喚できる!」

 

 それは前のターンに《ネクロフェイス》で除外されていたものだ。髑髏をあしらった剣を手にしているモンスターだが、黒いローブで全貌は窺えない。

 

死眼の伝霊-プシュコポンポス

DEF 0 レベル2

 

「そして、特殊召喚したこのモンスターの効果発動。汝の墓地のモンスターの数が、魔法・罠カードより少ない場合、このカードを墓地へ送り、汝は自身の場のモンスター1体を墓地へ送る!」

「っ……」

 

 プシュコポンポスが姿を消し、クレイヴソリッシュとライオンハートが赤いオーラに包まれた。このどちらかを、墓地に送らなければならない。

 《魔砲戦機ダルマ・カルマ》とは少し違うが、俺にモンスターを墓地へ送らせる効果。クルヌギアスは狙ったわけではないだろうが、それでも俺の心のつかえが蘇る。

 

――だけど決して、前へ進むのを止めないこと。一時、悲しみや絶望に打ちのめされても、前へ進み続けること。自分の使命を見失わず、退かないこと

 

 それでも、ミューゼシアから言われたことは忘れていない。

 だから、俺はすぐに前を見ることができた。

 

「……クレイヴソリッシュを墓地へ送る」

 

 クレイヴソリッシュには悪いが、ついさっきセットしたカードやライオンハートの効果を踏まえると、この方がまだ安全だ。大した活躍もさせられずに申し訳ないと思いつつカードを墓地へ送ると、クレイヴソリッシュはサムズアップをして俺に振り向きながら姿を消し、ライオンハートの赤いオーラは消え去った。

 

「妾のターン、ドロー!」

 

 そしてクルヌギアスのターンが始まるが、彼女は引いたカードを見てふっと笑う。嫌な予感がした。

 

「妾は魔法カード《混沌領域(カオス・テリトリー)》を発動。手札から光・闇属性モンスター1体を墓地へ送り、それとは属性が異なり、通常召喚できぬレベル4から8の光・闇属性モンスター1体をデッキから手札に加える」

「!」

「闇属性の《ネクロ・ガードナー》を墓地へ送り、光属性・レベル8の《渾然たる闘牛詩-オルフェブル》を手札に加える」

 

 手札に加えたモンスターは聞き覚えがないが、コストになったモンスターは俺も使ったカード。また次のターンの攻撃は少し考える必要ができてしまった。

 

「そして、今墓地へ送られた《混沌領域》のもうひとつの効果。墓地のこのカードを除外し、通常召喚できぬ除外状態の妾の光・闇属性モンスター1体をデッキに戻し、1枚ドローする。戻すのは《光の精霊 ディアーナ》じゃ」

 

 サーチに使ったカードでさらにドロー。おまけに除外されたカードの再利用までするとは、クルヌギアスも引きの運にはかなり恵まれているようだ。

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK2500→4500

 

 カオス・デーモンの攻撃力が上がったのを横目に、ドローしたカードを見たクルヌギアスは、より笑みを深める。

 

「速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動。除外されている妾の《ネクロ・フェイス》と《混沌のヴァルキリア》を墓地に戻す」

 

 新たに引いたカードもまた、除外されているカードを再利用するものだった。かなりまずい予感がする。

 

「そしてこのモンスターは、手札または墓地から光・闇属性モンスターを2体ずつ除外することでのみ特殊召喚できる。よって、光属性の《カオス・グレファー》と《混沌のヴァルキリア》、闇属性の《カオス・ソーサラー》と《ネクロフェイス》を除外! 来い、《渾然たる闘牛詩-オルフェブル》!!」

 

 フィールドに魔法陣が現れ、4体のモンスターが姿を見せる。だが、すぐにその上部に現れた黒い渦に吸い込まれ、光がフィールドに振り注ぐ。

 新たに現れたのは、すらっとした人間の身体に牛の頭が付いた半人半獣。右手に奇妙な形状の剣、左手に竪琴を持ち、昼と夜をイメージした模様のマントを羽織っている。洗練された出で立ちをしていた。

 

渾然たる闘牛詩-オルフェブル

ATK3000 レベル8

 

「除外された《ネクロフェイス》及び《混沌のヴァルキリア》の効果発動! ヴァルキリアの効果で、デッキより《カオス・ネフティス》を墓地へ送る」

 

 その墓地へ行ったモンスターの効果までは分からなかったが、わざわざ墓地に置くほどのカードだ。何らかの効果を持っていると考えていい。

 

「そして《ネクロフェイス》の効果で、互いのデッキの上から5枚のカードを除外する!」

 

 さらに、地味に厄介なデッキ破壊効果。確実に俺のデッキを蝕んでいく。俺のデッキから除外されたのは《H・C サウザンド・ブレード》《死者蘇生》《H・C 強襲のハルベルト》《ヒロイック・コール》《炸裂装甲(リアクティブ・アーマー)》。クルヌギアスのデッキから除外されたのは《奈落の落とし穴》《終末の騎士》《墓穴の指名者》《ファントム・オブ・カオス》《パラレル・セレクト》だ。

 

「そして、墓地の《ネクロ・ディフェンダー》を除外し効果発動! 次の汝のターンの終わりまで、オルフェブルは戦闘で破壊されず、その戦闘で妾が受けるダメージも0となる」

「?」

 

 オルフェブルが赤紫のオーラを纏う。あれが戦闘破壊とダメージから守られるとなれば、ライオンハートでダメージを反射できない。だが、それをわざわざ使うということは、守りに入るつもりだろうか。

 

「さらにオルフェブルは、特殊召喚のために手札から除外したモンスター1体につき1000ポイント攻撃力を上げ、墓地から除外したモンスターの数だけ一度のバトルフェイズにモンスターへ攻撃できる」

「!?」

「その顔、気づいたな?」

 

 《ネクロ・ディフェンダー》の効果と、オルフェブルの連続攻撃。それでライオンハートのオーバーレイ・ユニットを全て使わせ、ダメージ反射を凌ぐ腹づもりだ。

 ライオンハートは戦闘する時、オーバーレイ・ユニットを使わなければ、俺が受けた戦闘ダメージと同じ数値の効果ダメージを相手に与える。だが、俺のライフはもう500しかないため、効果ダメージを与える前に受ける戦闘ダメージで俺が負けてしまう。その効果をクルヌギアスは把握しているわけではないだろうが、オーバーレイ・ユニットがなければ俺が普通にダメージを受けると予測している。

 

「さあ、バトルじゃ! オルフェブルでライオンハートを攻撃!」

 

 このターンで勝つ。そう確信したかのように笑うクルヌギアスが宣言すると、オルフェブルが剣を構えた。

 しかし幸いにも、伏せカードはこの状況にうってつけだ。

 

「罠発動、《エクシーズ・リベンジ・シャッフル》! 攻撃対象になったライオンハートをエクストラデッキに戻す!」

「何!?」

 

 驚くクルヌギアスの前で、発動した罠カードの輝きをライオンハートが浴びる。自爆特攻しかさせられなかったことを心の中で詫びると、それを汲んだのかライオンハートはガッツポーズで応えてくれた。あるいは、勝利を託すかのようなその仕草を心に留め、俺はライオンハートのカードをエクストラデッキに戻す。

 

「そして、墓地のエクシーズモンスター1体を特殊召喚し、このカードをそのオーバーレイ・ユニットにする。蘇れ、クレイヴソリッシュ!」

 

 魔法陣が広がり、金色と白に輝く鎧の戦士が再び姿を見せる。さらに《エクシーズ・リベンジ・シャッフル》のカードが光へと代わり、クレイヴソリッシュの周りを漂うオーバーレイ・ユニットとなった。

 

H-C クレイヴソリッシュ

ATK2500 ランク4 ORU1

 

「ならば、オルフェブルでクレイヴソリッシュを攻撃! カオス・ラプソディ!!」

 

 しかしクルヌギアスは攻撃を続行した。クレイヴソリッシュの効果を浪費させるために。

 勢い良く、オルフェブルが剣で竪琴の弦を擦ると、雷鳴のような轟音が響き、稲妻がクレイヴソリッシュに襲いかかってきた。

 

「クレイヴソリッシュの効果発動! オーバー・レイユニットを1つ使って、オルフェブルの攻撃力を自身に加える!」

 

H-C クレイヴソリッシュ

ORU∶1→0

ATK2500→5500

 

 クレイヴソリッシュの剣にオーバーレイ・ユニットが吸い込まれると、こちらも金色の輝きを放ち、迫りくる稲妻を剣で全て弾いた。

 

「《ネクロ・ディフェンダー》の効果で、妾が受けるダメージは0、オルフェブルも破壊されん!」

 

 跳ね返された稲妻はクルヌギアスを避け、そこかしこに落ちる。

 しかもそれは実体を持っているのか、稲妻が当たった柱や床、壁に傷や凹みを残している。さっきまでとは違い、クルヌギアスも加減を忘れてしまっているようだ。

 

「クーリア様、ミューゼシア様!」

「私たちは大丈夫よ」

 

 デュエルを観戦していた2人の方を見る。幸い、さっきの稲妻はそちらには向かわなかったらしく、2人の周囲にはその痕跡もない。クーリアが俺を安心させるように微笑み、ミューゼシアは頷いていた。

 

『ナイスガッツよ、バトレアス!』

 

 そして、いつの間に姿を見せていたのか、クーリアの妖精体は俺を応援するように右腕を上げている。みんな無事なのと、その妖精体のポーズに俺は安心感を覚え、笑うことができた。

 

「これだけ手間暇かけても仕留められんとは、筋金入りのしぶとさじゃな」

「いえ……クルヌギアス様も、十二分にお強いですよ」

「まだまだ余裕そうじゃな。が、この程度の小手先の守りが続くと思うなよ? ターンエンドじゃ」

 

カオス・デーモン−混沌の魔神−

ATK4500→2500

 

H-C クレイヴソリッシュ

ATK5500→2500

 

 忠告した上でクルヌギアスがターンを終える。

 このターンを凌げたはいいが、クルヌギアスのフィールドには依然として強力なモンスターが2体いる。俺のフィールドのクレイヴソリッシュは、オーバーレイ・ユニットがもう無いため、その効果はほとんど発揮できない。

 次のドローに、全てが懸かっている。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを確認し、頷く。

 これなら、さっきのターンに引いていたカードと合わせて勝てるはずだ。

 

「俺は、ダブル・ランスを召喚!」

 

 先のターンにも召喚していた、2本の槍を持つ白い鎧の戦士がフィールドに現れる。それは、目の前に立ちはだかる2体の強敵を前にしてもたじろぐ姿勢を見せない。

 

H・C ダブル・ランス

ATK1700 レベル4

 

「このカードの召喚に成功した時、手札または墓地からもう1体のダブル・ランスを守備表示で特殊召喚できる!」

 

 魔法陣が広がり、中から同じダブル・ランスが姿を見せた。こちらは片膝をついている。

 

H・C ダブル・ランス

DEF900 レベル4

 

「レベル4のダブル・ランス2体でオーバーレイ! 2体の戦士族でオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 2人の戦士がオレンジの光となり、天井に広がる光の渦へと吸い込まれる。その光を飲み込んだ渦から、光の柱が降り注いだ。

 

「猛き英雄よ。その聖剣に全身全霊を注ぎ、勝利の頂に立て! 現れろ、ランク4!《H-C エクスカリバー》!!」

 

 現れたのは、鋭利なデザインの赤い鎧を輝かせる剣士。その剣の柄は鳥を模し、刃は煌めきを放っている。

 

H-C エクスカリバー

ATK2000 ランク4

 

 ウィズダムとのデュエルでは、フィニッシャーとなってくれた頼もしい剣士。

 その役目を、今回も彼に託すことにした。

 

「エクスカリバーの効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを2つ取り除くことで、次の相手ターン終了時まで、攻撃力を元々の数値の2倍にする!」

 

 エクスカリバーの剣に、その周りを漂う2つのオーバーレイ・ユニットが吸い込まれる。瞬間、太陽のように剣が光り輝いた。

 

H-C エクスカリバー

ORU:2→0

ATK2000→4000

 

「バトルだ! エクスカリバーで、カオス・デーモンを攻撃!」

「甘い! 墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外して効果発動! 相手モンスター1体の攻撃を無効にする!」

 

 エクスカリバーが剣を振り上げて飛び掛かろうとするも、すぐ目の前に《ネクロ・ガードナー》の幻影が立ち塞がる。エクスカリバーは一旦俺のフィールドに戻った。

 

「そしてカードが除外されたことにより、カオス・デーモンの攻撃力はこのターン2000ポイントアップする!」

 

カオス・デーモン-混沌の魔神-

ATK2500→4500

 

「汝ともあろう男が、最後の最後で気を抜いたな!」

 

 エクスカリバーの攻撃を止め、さらにカオス・デーモンが圧倒的な攻撃力を取り戻したことで、クルヌギアスが力強く俺を指さす。優位に立ったと思っているらしい。

 

「……果たしてそうでしょうか」

「何?」

 

 だが、俺だって《ネクロ・ガードナー》の存在を忘れたわけではない。

 むしろ、攻撃を無効にされることが俺の狙いだった。

 

「速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》発動! モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターはこのバトルフェイズ中、もう一度攻撃できる! さらにそのモンスターはダメージステップの間、攻撃力が2倍になる!」

「……なるほどのう!」

 

 まさにこの状況でお誂え向きと言うべき魔法カード。そして明かされた俺の手を見て、クルヌギアスは驚きよりも喜びの笑顔を浮かべた。

 

H-C エクスカリバー

ATK4000→8000

 

「エクスカリバーで、再びカオス・デーモンを攻撃! 一刀両断・必殺真剣!!」

 

 輝く剣をエクスカリバーが再び振り上げる。

 これは親睦を深めるためのデュエルだ。それに、さっきのクルヌギアスの連続攻撃で衝撃が実体化しつつあるのも気になった。

 だからこれまでのように、エクスカリバーには攻撃の威力を加減するよう心の中で伝える。それを汲み取ったらしく、エクスカリバーは剣をその場で振り下ろし、風の弾をクルヌギアス目掛けて放った。それを浴びたカオス・デーモンは無数の粒子へと分裂して消滅し、クルヌギアスは満足そうに笑って風を真正面から受け止めた。

 

クルヌギアス LP300→0

 

 決着がついたことで、ソリッドビジョンは消え、デュエルディスクが収納形態に戻る。

 だが、前のクルヌギアスのターンの攻撃で、広間の床には大きな亀裂が入り、柱や壁にも傷が入っていた。親睦を深めるデュエルとは言え、現実にもこれだけの影響が残るあたり、クルヌギアスも力を抑えられなかったというわけか。

 

「……バトレアス、近う寄れ」

「は」

 

 そのクルヌギアスが、手招きをしてきた。

 俺は変に逆らわずそれに従い、クルヌギアスの下へと足を進める。距離を置いてデュエルを観ていたクーリアとミューゼシアもまた、席を立ってこちらへ歩み寄ってくるのが視界の端で見えた。多分だが、クルヌギアスが妙な動きを見せた際にすぐ対処するためだろう。

 クルヌギアスは、真正面に来た俺の右手に視線を落とす。

 

「手を貸せ」

 

 単に握手をするつもりでもなさそうで、どういうつもりか分からない。妙に緊張するが、見ればクルヌギアスの表情は柔らかかった。何かひどいことをするつもりには見えなかったので、ひとまず右手を差し出す。

 その右手首を、クルヌギアスは右手で掴み、流れるように自らの左胸に引き寄せた。

 

「!」

「な……」

「え……?」

 

 突然のそれにクーリアが息を呑み、ミューゼシアが言葉を失って、俺は空気が口から洩れた。

 

「汝にも分かるか? この鼓動が」

 

 そしてクルヌギアスは、目を閉じて噛みしめるように言葉をつなぐ。

 俺の手が触れているのは、人間で言う心臓に当たる位置。そして確かに、強い心臓の鼓動がこの手に伝わってくる。

 それだけで、クルヌギアスのような神様にも、人間と同じで心臓があるのだと分かった。何より、高鳴るその心臓は、昂っているようだ。

 

「これほどまでに、デュエルで心の臓が強く激しく脈打つことは、ほとんどなかった。神として永い時を生きる中、感情が揺さぶられるなど、とんとなかったからのう」

「……」

「しかし汝は、この通り妾に昂ぶりというものを抱かせた。それも二度」

 

 目を開けて俺を見るクルヌギアス。暗い赤色の瞳は、俺を捉えて離さなかった。

 

「汝はこれまでに多くのことに悩み、迷い、苦しんできたことだろう。そしてこれから先、まだまだ汝は多くの困難と決断に迫られるやもしれん」

 

 そう語るクルヌギアスは、間違いなく俺のことをずっと見てきた風だ。

 俺は彼女の力が宿ったカードを持っている。それに天使族裁判でも、俺がこの精霊界でどんなことをしてきたかを聞いていた。

 だから、この世界でクルヌギアスと一緒にいた時間は、ドレミコードのみんなの次ぐらいに長いのかもしれない。

 

「じゃが忘れるな。神たる妾に、これほどの昂ぶりを与えてくれたことは、遠慮も謙遜も驕りもなく誇ってよい。胸を張って構わん。栄誉あることだ」

 

 俺の手を離したクルヌギアスは、軽く握った右の拳で俺の胸を軽く叩く。

 それこそ、友達が励ましてくれるような、そんな気軽な行動。

 

「その誇りを胸に、これからも励め。そして汝は汝らしく、バカが付くほど真面目であるがよい」

 

 叩かれた胸の奥で、俺自身の心臓が震える。

 天使族裁判で緊張に晒された時とは全く違う。あるのは、クルヌギアスに認められた嬉しさだ。

 

「……はい」

「まあ、汝に本当に必要な励ましは、クーリアやミューゼシアが既に言ったかもしれんがの」

 

 そうしてクルヌギアスは、ニヤリと笑って視線を横に流す。俺もそちらを見ると、クーリアが釈然としない表情で視線を左右に揺らしていた。具体的には、俺の手と、クルヌギアスの胸を往復している。ミューゼシアは、眉を下げて笑っている。

 

 そこで今頃になって、理解した。

 クルヌギアスは、随分と大胆な真似をして見せたのだと。よりにもよって、クーリアの目の前で。

 正直な話、俺としてはクルヌギアスの鼓動にばかり気を取られ、感触がどうだったとかは全く考えていない。だが、客観的に見れば、あの状況はどう考えてもアウトである。

 

「さあて、デュエルも終わったことじゃ。茶でも飲もうではないか、良き友たちよ」

 

 そして肝心のクルヌギアスは、空気を微妙にして満足したのかくるりと踵を返し、別室へと先導してくれる。

 俺は痛い視線を背中に感じながら、クルヌギアスの後に続くしかなかった。

 

「話の種は、そうさな……まずはバトレアスとクーリアが()()()()()()()()改めて聞かせてもらおうか」

 

 しかもクルヌギアスは恋バナまで所望してきた。いよいよもって、俺の逃げ場がなくなっている。

 

「汝を知ってから、妾も楽しみが増えた。まさか色恋の話まで聞けるとは思わなかったからの」

 

 振り向くクルヌギアスは、笑っている。尊大な性格であることも、神性存在であることも感じさせないような、穏やかなものだ。

 

「本当に、感謝しておる。そのついでに、年寄りのささやかな楽しみも頼むぞ?」

 

 そこまで言われてくると、恥も薄れる。いつの間にか隣を歩いていたクーリアも、仕方ないと言う風に笑って息を吐き、ミューゼシアも肩を竦めている。

 ここは、クルヌギアスの「ささやかな楽しみ」に応えるしかなさそうだ。

 

 

 デュエルの波動を検知して、「それ」は冥界を移動する。

 その先にあったのは、暗闇が大半を占めるこの空間でひときわ目立つ巨大な御殿。この世界の頂点に位置する神・クルヌギアスが住まう場所だ。

 そこへ入ることは、そのクルヌギアスに認められた者しか許されない。

 しかしながら「それ」は、自分の力を使い、中に誰がいるのかをある程度認識することができる。

 

「……なるほど」

 

 クルヌギアスと誰かが、デュエルをしていた。

 その「誰か」は、自分も目にしたことがある。どうやら本当に、クルヌギアスとは気心知れた間柄であるようだ。

 

「……」

 

 状況を大まかに確認して、「それ」は御殿を離れる。

 苛立ちを抱きながら。

 


 

《上書き》

 

クーリア「……触る?」

バトレアス「用もないのに触れるのはいかがなものかと」

クーリア「でも、クルヌギアス様のは触ったし……」

バトレアス「不可抗力です。というか、感じたのはあの方の鼓動の強さだけですし……」

クーリア「だったら、私のも感じてほしい」

バトレアス「……うーん」

 

キューティア「お2人は何の話をしていらっしゃるんですか?」

ミューゼシア「ノーコメント」

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