ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第86話:理不尽な夢

 「浄化」や「依頼」で別の世界に出たドレミコードのみんなは、遅くても大体18時前に全員帰ってくる。そしてそれより少し早い時間から、俺と休養日の人、さらにプリモアで夕食の準備を始め、夕食は19時過ぎだ。

 それから各々が思い思いに屋敷で時間を過ごし、20時から22時にかけて随時風呂に入って、全員が眠りに就くのは23時頃。学生寮みたく消灯時間が決められたりはしていないが、みんな健康志向が高く、日付を越えてもなお起きているような人はいなかった。

 

 中でも俺は、寝るのが一番遅いと思っている。風呂に入るのは俺が一番最後だし、風呂から上がった後で軽い清掃をするからだ。本格的な掃除は翌日にするので、あくまで簡単な掃除と整理整頓のみ。それでも、ベッドに入る時間は遅くなる。

 だからと言って、それが苦痛と思わない。ドレミコードは、俺にできない「浄化」や「依頼」をこなし、俺なんかとは比べ物にならないほどの負担を抱えているのだ。そんな皆より早くに眠りに就くのは嫌だし、皆のためにできることは少しでも俺がやっておきたかった。

 それに、ドレミ界にはスマートフォンやパソコンと言った端末がなく、それらを寝る前にいじって眼と脳が覚醒してしまうこともないから、入眠速度は前世よりもはるかに改善されている。そのため、今の俺は割かし健康な部類に入ると思う(時折変なところでストレスを溜めてしまうが)。

 

 ともあれ、その日も自分がやるべきことを終えて、眠りに就こうとしたその時だ。

 

「バトレアスさん」

 

 戻ろうとした俺の部屋の前に、プリモアがいた。パステルカラーのパジャマに着替え、しかも枕を抱きかかえている。

 その隣には、ネグリジェを着るクーリア。2人共、寝る準備が整っていたのは目に見えた。それなのに、俺に話しかけてくるということは……

 

「どうかされました?」

「今日は一緒に寝たいです!」

 

 一応聞いてみるが、プリモアは何か期待するような顔で、予想した通りの願いを言ってきた。

 そしてその答えも、決まっている。

 

「すみませんが……ご勘弁ください」

「そんなぁ」

 

 やんわりと断ると、プリモアはしょぼくれてしまう。その表情は罪悪感を掻き立ててきた。

 

 プリモアはその出自もあり、ドレミコードの中でもとりわけ俺とクーリアにかなり懐いている。さらに俺とクーリアの意思を少しずつ宿しているので、俺に対して甘えたがりなところがあった。手をつなぎたい、頭を撫でてほしい、あーんをしてほしい、お風呂に一緒に入りたい、など。

 だが俺は、その手の願いは世間体や倫理的に問題ないものだけ応えるようにしている。さっき挙げたもので言えば、風呂に入るのは断っていた。いくら相手が同じドレミコードの仲間で、俺とクーリアの意思を少しずつ持ち、ほとんど家族みたいな存在でも、血のつながりがない女の子と一緒に風呂に入るなど軽々しくしてはならない。一緒の布団で寝るのも同じだ。

 なので、捨てられそうな仔犬みたいな目を向けられても、屈してはならない。

 

「ね、プリモア。今日は私と寝ましょう?」

「うぅ、分かりました……」

 

 そして、傍に立つクーリアは、プリモアの肩を優しく抱いて言い聞かせる。どうやら、俺がプリモアのお願いを断るのを予想していたようだ。そして、俺に「ごめんね」と言いたげに目を向けてくる。プリモアも駄々をこねたりはしないので、本当にいい子だ。

 俺はそんな2人に軽く手を振り、部屋に戻る。

 

「さて……と」

 

 電気を消して、布団に入る。目覚まし時計の類はないが、決まった時間に起きるように体内時計が調整されているので問題ない。

 明日の朝食当番は俺の他、グレーシアとドリーミアだ。グレーシアはともかく、ドリーミアは俺に対して当たりが若干強いため、料理に手間取ったりミスをしたりはしないようにしなければ。いくつになっても人から怒られるのはつらいものだから。

 

◆ ◇

 

「起きろ」

 

 男の声が頭に響いた。それも不機嫌そうな強さが混じるもの。

 突然のことで、意識が一瞬で覚醒した。

 

「……?」

 

 そして、周りに広がる景色を見て驚く。

 夜空に煌々と輝く満月が浮かぶ草原。ミューゼシアが以前作ってくれた空間に似ているが、海や小屋がない点が違う。俺が寝ていたはずのベッドはなく、着ている服もナイトウェアではない、普段と同じスーツだ。

 そこで理解する。これは夢だろう。

 

「やっとお目覚めか」

 

 それを理解した直後、目の前に男が現れた。

 筋肉質な体に白銀の衣装を着て、真っ白な翼を背中から生やす、いかにも天使という見た目。淡いピンクの髪を女性のように長く伸ばしている。

 そんな彼は、最近見た覚えがあった。

 

「天使族裁判以来だな。と言っても、私と君で言葉を交わしたわけではないが」

「……貴方は」

「我が名はネイロス。夢魔鏡の主だ」

 

 夢魔境、という単語は聞いた事がある。デュエルモンスターのシリーズのひとつで、マスターデュエルでもソロモードにストーリーがあった。その名の通り「夢」と「鏡」にまつわる集団だったはず。

 

「最初に言っておくが、ここは君が見ている夢の中。より正確に言えば、君の深層心理をベースにした空間だ」

「何?」

「要するに、これはただの夢ではない。自力で起きるのは不可能と考えたまえ」

 

 自分が夢を見ている、と夢の中で理解できるのは明晰夢だ。そして明晰夢は、基本的に自分で夢の内容をコントロールできると聞く。だが、ネイロスの言い方からしてそれとは違うらしい。現に今、俺は自分に「起きろ」と念じても起きることができない。

 つまり、俺がこの夢から醒めるかどうかは、ネイロスの匙加減というわけか。

 

「……このような状況を作ってまで、どういったご用件でしょうか? ネイロス様」

 

 ひとまずは、ネイロスの話を聞くことにする。ただ、あまり穏やかに事が済まなそうな雰囲気だが。

 

「単純に、君のことを知るためだ」

「……?」

「アポロウーサ様からは、君への接触を禁じられていた。だから、こうして夢の世界に入り込ませてもらったのだよ」

 

 ネイロスの言う通り、天使族裁判の後、アポロウーサは全ての天使に俺への接触を控えるよう告げた。それは、俺を罰することを望んだ天使が、裁判の内容に不服を持って直接攻撃したりするのを避けるためだろう。

 だが、それはあくまで現実世界の話。こうして夢の世界なら問題ない、ということか。何とも屁理屈じみている。

 そして俺は、場所が秘匿されているドレミ界で眠りに就いたはずだ。では、どのようにしてネイロスはそんな俺の夢に介入できたのか。それが少し気になる。

 

「俺を知る、というのであれば……何か話せることでもあれば話しますが」

「いや、それよりもっと効率的な方法がある」

 

 兎に角、できる限り穏便にネイロスにはお引き取り願いたかった。話し合いで済まそうとしたが、ネイロスは俺を指さす。

 

「デュエルは口ほどにものを言う。君のことは資料で大まかに知っているからこそ、デュエルを通して君をより深く理解する」

 

 瞬間、俺の左腕が光り輝く。そこにはデュエルディスクが装着され、スロットに差し込まれていたデッキがシャッフルされた。

 

「……なぜそこまでして、俺のことを知ろうと?」

「君はエニアクラフトとやらを変え、クルヌギアス様のような神にまで認められている。そうさせた君はどういうデュエルをするのか? そして君は、我々天使族に許されるほどの人物なのか? それを、私の中で有耶無耶にしたままではいられなくてね」

 

 言いながらネイロスは左手を掲げて、その腕にデュエルディスクを宿す。カラーリングは澄んだ青色で、盤面は横長の六角形だ。

 ネイロスは、裁判の結果があっても俺を信用していないらしい。むしろ、冥府のクルヌギアスと親しい、純粋な天使ではない俺が天使族全体に悪影響を及ぼすのではないのかと、疑っているようだ。

 

「……応じなければ、俺はこの夢から醒めることもできない、って認識で合っていますか」

「ああ」

「……分かりました」

 

 こうなれば仕方ない。諦めてディスクを展開する。

 精霊界に転生してからも、前世でも、夢の中でデュエルをすることはなかった。不思議な感覚だが、ネイロスに抱かれた悪印象を払うために、このデュエルは真剣にならなければ。

 

「「デュエル!」」

 

バトレアス LP4000

VS

ネイロス LP4000

 

 デュエルディスクが先攻を示す。それを見て、デッキから5枚のカードを引いてみると。

 

「……!」

 

 言葉を失う。

 背筋が一瞬で熱くなった。

 

「どうした、君の先攻だぞ。早くしたまえ」

 

 ネイロスが急かしてきた。なぜこうなってしまったのかは後で考えることにし、手札を左手に持ち変え、最初の一手を考える。

 そして、1枚のカードを手にする。

 

「……俺は、スケール0の《糾罪巧(エニアクラフト)γ´(トゥリト)-「exapatisIA(エクサパティシア)」》をペンデュラムゾーンにセッティング」

 

 夜の草原に光の柱が現れる。その中に浮かび上がったのは、銀色の八面体。機体には幾何学的な模様が刻まれていた。

 

「これは驚いたな」

 

 それを見上げたネイロスが、皮肉交じりに鼻息を吐く。

 

「ここは君の深層心理を基にした世界。故に、ここでデュエルをする以上、君のデッキは【ドレミコード】だと思ったが、そうでもなさそうだ」

 

 おちょくる言い方だが、俺もこれは疑問だった。

 初手で分かるが、このデッキは【糾罪巧】だ。効果の性質上、【ドレミコード】と【糾罪巧】はペンデュラムモンスター同士であっても混ぜることはできないし、それ以前に俺は混成デッキを組むのが苦手だ。

 それに、俺が最後にディスクにセットしていたのは【ヒロイック】だったはず。【ドレミコード】と【糾罪巧】は、それぞれデッキホルダーに入れていた。

 何故この空間で、デッキが【糾罪巧】になっているのか分からない。

 

「どうやら君は、心の中ではドレミコードの皆をそこまで大切に思ってはいないようだな」

 

 心を引き裂くような言葉だ。

 だけど、俺の深層心理をベースにしたここでのデュエルで、【ドレミコード】にならないということは、俺は――

 

『それは間違いだ』

 

 空間に声が響いた。

 また、俺が聞いたことがある男の声。だけどネイロスのような肉声と違い、機械が合成した感じの声だ。

 そしてフィールドの中央に、太陽のような光が差し込み、砂色の正八面体が現れる。

 異空間で俺が実際に言葉を交わしたことがある、エニアクラフト。その内部の輝きは黄色だ。

 

「これがエニアクラフトか」

『初めまして、ネイロス』

「それで、間違いとは? いや、それ以前になぜこの場に姿を見せることができる?」

 

 見上げるネイロスに対し、エニアクラフトは挨拶を律儀にする。それを適当に聞き流してネイロスは説明を求めてくる。

 俺としても気になった。ここで俺のデッキが【糾罪巧】になるのもそうだが、エニアクラフトがなぜこの場に出てこられたのか。あの戦いから3か月以上、今まで一度もコンタクトはなかったのに。

 

『我々は彼とのデュエルで判断を改め、彼を通じて人の世界を見ることとした。そのためにデッキを託した結果、我々と彼の間には、ごくわずかなつながりが生じた』

「つながりだと?」

『それは限りなく細く長い、蜘蛛の糸のようなものだ。彼の意思や行動に干渉できないし、コンタクトも取れない。彼を操り人の世界に危害を加えることなど不可能だ』

 

 恐らくは、ネイロスに限らず天使全体が気にしているだろうことを明かすエニアクラフト。その内部の輝きは緑色になり、横回転をゆっくりと始める。

 

『そしてここは、君が作り上げた、バトレアスの深層心理を使って生み出した場所。だからこそ、彼の奥深くにわずかに宿っていた我々の力が表層化し、彼のデッキとなったわけだ』

「……」

『こうして我々がこの場に姿を見せることができるのも、同じ理由によるものである』

「……なるほどな」

 

 黙り込むネイロスを余所に、思わずという形で呟くと、エニアクラフトの輝きは青色になって回転が止まる。

 何となく、エニアクラフトが俺を見ているような感覚がした。

 

『君の心には、ドレミコードの仲間が常にいる。それを上書きする形になってしまったのは謝罪するが、君が仲間を大切に思っているのは我々も理解している。君自身が疑う必要はない』

「……ありがとう」

 

 中から俺を見ていた(という認識でいいのか)エニアクラフトが、俺がドレミコードを大切に思っていることを理解してくれているのは、少し嬉しかった。何しろエニアクラフトは、感情を持たない機械だったのだ。俺の心を汲み取りそう言ってくれるとは思わなかったから。

 

『ただ、君がそのデッキを使うにしても、我々は助言できない。それは公平に欠ける』

「ああ、是非ともそうしてくれ」

 

 イレギュラーで【糾罪巧】を使わざるを得ないとしても、アドバイスは受けるべきではない。ネイロスが半ば強引に挑んできたといえ、エニアクラフトの言う通りフェアではないからだ。

 だから頷いて答えると、エニアクラフトは虹色の輝きを内部に蓄えながら静かに姿を消した。

 

「……では、デュエルを再開するがいい」

 

 ネイロスに促されて、俺は手札を見る。

 

 【糾罪巧】で戦うのは初めてだが、時間のある時にデッキを何度も見ていたので、効果はある程度把握している。なので戦うこと自体はさほど問題ない。

 ただ、このデッキを回すのはかなり難易度が高いと思っている。相手の行動に反応して動き出すコンセプトのため、まず相手がどう動くのかを予想してカードを仕掛ける必要があるからだ。

 ネイロスが夢魔鏡の天使な以上、使うデッキは【夢魔鏡】だろう。光属性と闇属性のモンスターを交互に駆使するデッキのはずだが、細かい効果までは覚えていない。だから、そのわずかな情報を頼りに、展開しなければならない。

 

「エクサパティシアのペンデュラム効果を発動。1ターンに1度、900ポイントをライフから払い、デッキから3枚の『糾罪巧』カードを相手に見せ、相手がランダムに選んだ1枚を手札に加える」

 

バトレアス LP4000→3100

 

 しかし、効果を使うためにライフを払った瞬間。

 

「ッ……!?」

 

 刃物で肉を削ぎ落されるような、強烈な痛みと脱力感。地面に膝をつき、胸を手で押さえる。

 精霊界のデュエルでは、ライフポイントを払うと似たようなことになるのは経験している。だが、900ポイント払っただけでこんなに苦しくなるなんて。

 

「ここは君の深層心理……つまり君の精神の深い部分と密接な位置にある。故に、どれだけ小さなライフロスでも、君自身へのダメージは相応と覚悟した方がいいぞ」

 

 遅すぎるネイロスの警告に、呼吸を整える。何とも非常に厄介なシステムを作ってくれたものだ。

 普通の夢なら、今ぐらいの衝撃を喰らえば現実で目が醒めたはず。それがないとなれば、やはりデュエルで勝たなければ目覚めることはないのだろう。逆に負けたら……ライフがゼロになったらどうなるか。考えるとゾッとする。

 

「バトレアス。私にカードを選ばせるのなら、早く見せてくれないか」

 

 挑発するようなネイロスに、俺は産まれたての小鹿みたく足を震わせながら立ち上がり、デッキのカードを選ぶ。相手の出方よく考えてカードを選ばないといけないのに、さっきの衝撃で思考がうまくまとまらない。

 

(……こんなカード、入ってたか……?)

 

 だけど、デッキのカードを確認する中で、そんな疑問が生まれた。

 最初に出したエクサパティシアもそうだが、最近デッキを見返した中でも見覚えのないカードがある。カードを入れ替えた覚えがなくて、より不気味だ。

 ともかく、最終的に《糾罪都市-エニアポリス》《糾罪巧β´(デフテロ)-「arazoneIA(アラゾニア)」》《糾罪巧(エニアクラフト)Aizaβ.LEON(アイザレオン)》を選ぶ。それらのカードが、巨大なカードとしてソリッドビジョンで現れ、一瞬だけネイロスに示されるとすぐに裏向きになる。

 

「私は右側のカードを選ぶ」

 

 選ばれたのはアイザレオン。悪くない。

 それを手札に加えつつ、どうするかを考えた。

 

「手札の《糾罪巧F´(エクト)-「tromarIA(トロマリア)」》の効果を発動。このカードを相手に見せることで、手札からモンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚する。ただしこのターン、俺は裏側守備表示でしかモンスターを特殊召喚できない」

 

 まずアイザレオンを特殊召喚する。このモンスターは公開する必要がないため、多少は相手を欺けるだろう。

 

「さらにモンスターを守備表示でセット。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー」

 

 守備を固めてターンを明け渡すと、ネイロスはゆったりとした動きでカードを引く。

 そして手札を見て、嗤った。

 

「フィールド魔法《聖光の夢魔鏡》を発動!」

 

 いきなりフィールド魔法が発動する。闇夜の草原が一瞬で光に包まれ、昼のように明るい洋風の街並みに変わった。

 

「このカードは、私の場に光属性の『夢魔鏡』モンスターがいる限り、私の場の『夢魔鏡』モンスターの中でレベルが一番高いモンスター以外の『夢魔鏡』モンスターは、相手の攻撃・効果の対象にならない」

 

 やはり、ネイロスのデッキは【夢魔鏡】。そしてあのデッキは、2種類のフィールド魔法がキーになっているのも思い出した。

 

「《夢魔鏡の逆徒-ネイロイ》を召喚!」

 

 フィールドに現れる、暗い色の服を着た黒い髪の男の子。その背には悪魔のような翼が広がっていた。

 

夢魔鏡の逆徒-ネイロイ

ATK1000 レベル3

 

「このカードを召喚した時、デッキから《夢魔鏡の使徒-ネイロイ》を手札に加える。その後、このカードを光属性にできる」

 

 案の定だが、最初からサーチをしてきた。

 今の時代、サーチをしないデッキはほとんどないため、さっき選択肢に挙げたアラゾニアも刺さると踏んだが、それが選ばれなかったのは残念だ。

 

「そして、手札に加えた使徒ネイロイは、私の場に『夢魔鏡』モンスターが存在することで効果を発動し、自身を特殊召喚する」

 

 けれどそこで、こちらが動く機会が訪れた。

 

「セットされているトロマリアの効果! モンスターを特殊召喚する効果を含む効果を相手が発動した時、このカードを表側守備表示にして効果を発動!」

「何?」

 

 露わになったモンスターは、青色の正八面体。内部に茶色の光が宿り、同じ青色の小さな正八面体のオプションが周囲に浮かんでいる。

 

糾罪巧F´-「tromarIA」

DEF1000 レベル1

 

「その効果で、俺はデッキから『糾罪巧』カードを手札に加える。《糾罪巧-再巧(リセット)》を手札に加える」

「私の動きに割り込むとは無礼な奴め。手札から使徒ネイロイを特殊召喚!」

 

 不機嫌そうにしながらも、ネイロスはモンスターを呼び出す。顔立ちは既にフィールドにいる逆徒ネイロイに似ているが、それとは打って変わって白系の装束を着て、天使のような翼を背中から生やしていた。

 

夢魔鏡の使徒-ネイロイ

ATK1000 レベル3

 

 だが、何かされる前にこちらが動ける。

 

「モンスターがリバースする度に、ペンデュラム効果によってエクサパティシアに糾罪カウンターが置かれる」

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:0→1

 

「そしてトロマリアのリバース効果発動! このカードがリバースした時、相手モンスター1体の効果を無効にする! 俺は使徒ネイロイの効果を――」

「なら、こちらは使徒ネイロイの効果発動。このカードが特殊召喚した時、フィールドに《聖光の夢魔鏡》が存在する場合、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を手札に戻す」

 

 トロマリアのリバース効果は強制効果。そしてネイロイの効果は任意効果らしい。ネイロスのターンで俺のトロマリアの効果が先に発動してしまったのは、チェーン処理の都合だ。

 そしてそれは好都合。

 

「俺の効果にチェーンして相手が効果を発動したことで、セット状態のアイザレオンを表側守備表示にして効果発動!」

「チッ、またか……!」

 

 苛立ちを露わにするネイロスの前に、巨大な機械仕掛けのライオンが姿を見せた。

 

糾罪巧-Aizaβ.LEON

DEF2500 レベル9

 

「その効果で、フィールドのカードを3枚まで手札に戻す。俺は逆徒ネイロイと使徒ネイロイ、《聖光の夢魔鏡》を手札に戻す!」

 

 アイザレオンが吼えると、スピーカーから流れるような鳴き声がフィールドに響き渡る。それを聞いた逆徒ネイロイと使徒ネイロイは、耳を押さえて苦しそうにしながら姿を消し、光に照らされた街並みも消え去る。

 さらにモンスターがリバースしたことで、エクサパティシアに糾罪カウンターが置かれた。

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:1→2

 

「不調法者め。ならば私は再び《聖光の夢魔鏡》を発動!」

 

 明らかに機嫌を悪くしたネイロスが、さっきのフィールド魔法を発動させた。景色はさっき見たばかりの街並みに戻る。

 

「そして速攻魔法《混沌の夢魔鏡》発動! 私の場のモンスターを素材として、『夢魔鏡』融合モンスターの融合召喚を行う。この時、《聖光の夢魔鏡》が存在する場合は手札のモンスターも素材にできる!」

「!」

「よって、手札の闇属性の逆徒ネイロイと、光属性の使徒ネイロイを融合!」

 

 昼のように明るい空に融合の渦が現れ、先ほども見た少年の天使と悪魔が吸い込まれた。

 

「夢幻の世界を彷徨う少年たちよ。今ひとつとなりて、咎める夢の化身と成れ! 融合召喚! 覚醒せよ、レベル10!《夢魔鏡の魘魔-ネイロス》!!」

 

 融合の渦から雷を迸らせてフィールドに舞い降りたのは、今戦っているネイロスによく似たモンスター。けれど上半身に纏っていた服がなくなり、胸の中心に悪魔のような目があって、翼も黒い。邪悪な雰囲気を纏っていた。

 

夢魔鏡の魘魔-ネイロス

ATK3000 レベル10

 

「この魘魔ネイロスは闇属性だが、光属性としても扱われる。そしてバトルだ。ネイロスでアイザレオンを攻撃! ディザスター・ナイトメア!!」

 

 フィールドの魘魔ネイロスが翼をはためかせると、光り輝く街には似つかわしくない紫色の嵐が巻き起こり、アイザレオンに吹き付ける。それに煽られ、アイザレオンはバラバラに砕け散ってしまった。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド。そしてこのエンドフェイズに、《聖光の夢魔鏡》を除外して効果発動。デッキから《闇黒の夢魔鏡》を発動する!」

 

 ターンエンドと同時にフィールドが入れ替わる。先ほどと同じような街だが、よく見たら景色が《聖光の夢魔鏡》と反転している。しかも空が暗く、夜という理由だけではない息苦しさがあった。

 けれど、今は何かあるわけでもなく、ターンがこちらに回ってくる。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 引いたカードを確認しつつ、さっきのターンに加えたカードに視線を落とす。

 

「魔法カード《糾罪巧-再巧》発動。デッキまたは墓地から《糾罪都市-エニアポリス》をフィールドゾーンに表側表示で置く」

「君もフィールド魔法を使うのだな」

 

 ネイロスが感心する前で、景色が中世的な街並みから近代的な都市へと一瞬で変わった。ただし、空はさっきの《闇黒の夢魔鏡》のように暗く、周りに人気がないのも合わさってゴーストタウンのような雰囲気だ。

 

 さて、このエニアポリスを発動しただけではまだ戦えない。だから俺は、ペンデュラムゾーンに浮かんでいるエクサパティシアを見上げる。

 少々厳しいが、やらざるを得ない。

 

「900ライフポイントを払い、エクサパティシアのペンデュラム効果発動……!」

 

バトレアス LP3100→2200

 

 効果を使った瞬間に、命が削り取られるような感覚に襲われる。手札を強く掴み、腕を押さえて、どうにか身体を立たせる。ネイロスがふっと笑ったのが苛立たしい。

 それでもどうにかして、カードを選び取る。選んだのはアラゾニアに加え、《糾罪巧α´(プロト)-「orgIA(オルギア)」》、《糾罪巧-Astaγ.PIXIEA(アスタピクシア)》だ。

 

「左側のカードを選ぼう」

 

 選ばれたのはアラゾニア。まずは狙った通りのカードを引き寄せられた。

 しかし、ネイロスの場には攻撃力3000の魘魔ネイロス。万が一、あちらが破壊効果などを使ってこちらのモンスターを一掃すれば、俺のライフは尽きてしまう。

 だとすれば、まだ足りない。

 

「俺はスケール0のアラゾニアをペンデュラムゾーンにセッティング……」

 

 エクサパティシアの反対側に光の柱が現れ、その中に砂色で細長い八面体が出現する。その下部に示されたペンデュラムスケールは0だ。

 狙いは勿論ペンデュラム効果によるサーチ。

 しかし、既に2回サーチ効果を使用し、ライフは2200。次に使えば1300にまで減るし、何よりも身体へのダメージが大きすぎる。

 だが、それに怯えて何もしないでいれば、負けを早めるだけ。そして俺の深層心理を基にしたこの空間で負け……ライフが0になると、俺の命は無事で済まないはずだ。

 それを避けるためにも、目先のリスクを恐れるより、勝つためのカードを引き寄せなければならないだろう。

 

「……900ライフを払って、アラゾニアのペンデュラム効果発動! デッキから3枚の『糾罪巧』カードを相手に見せて、ランダムに選ばれた1枚を手札に加える!」

「エクサパティシアと同じか。だが……」

 

 アラゾニアの効果を聞き、ネイロスはわずかに嗤った。

 その理由は。

 

バトレアス LP2200→1300

 

「うあああああああああ……っ!!」

 

 ライフが失われるごとに、精神力もどんどん奪われる。片膝をつき、背中に重石が乗せられるのを錯覚するが、それでもデュエルは止まらない。さっき見せたアスタピクシアのほかに、《糾罪巧-Archaη.TAIL(アークテイル)》《糾罪巧-Atilε.SPIA(アティルスパイア)》を見せた。

 

「中央のカードを手札に加えるがいい」

 

 さらに選ばれたのはアークテイル。狙い通りのものだった。それに安心し、多少の痛みが解れるのを感じる。

 

「エニアポリスの効果発動……。俺のフィールドの『糾罪巧』ペンデュラムモンスターカードを、任意の数だけ対象とし、手札に戻す……。トロマリアと、アラゾニアを手札に戻す……」

 

 だが、気持ちが軽くなっただけで、身体にかかる負担は消えない。小刻みに震える手で、どうにかディスクに置いていた2枚のカードを手札に加えた。

 

「そして、手札のトロマリアの効果発動……」

「そうはいかない。魘魔ネイロスの効果発動! フィールドゾーンに《闇黒の夢魔鏡》が存在する場合、1ターンに1度、相手モンスターの効果の発動を無効にする!」

 

 魘魔ネイロスの黒い翼が広がり、さらに胸にある目が力強く光る。それを見た瞬間、手札のトロマリアが黒いオーラに覆われてしまった。効果が封じられたからだろう。

 しかし、破壊されないのならまだ十分だ。

 

「トロマリアの効果は……1ターンに何度でも使えるんですよ」

「何?」

「よって、トロマリアの効果をもう一度発動……! モンスター1体を、裏守備表示で特殊召喚……!」

 

 アークテイルを裏守備表示で特殊召喚する。

 だが、ネイロスは白い歯を見せて笑った。

 

「《闇黒の夢魔鏡》の効果により、私の場に闇属性の『夢魔鏡』モンスターがいる限り、相手がモンスターを特殊召喚する度に300ポイントのダメージを与える!」

「!?」

 

 真っ暗な空から、黄色い稲妻が降り注いだ。

 一瞬で俺が場に伏せたカードが脳裏に過る。だが、この程度のダメージには使えない。

 

「がああああああああッ!!」

 

バトレアス LP1300→1000

 

 叫び、地面に倒れ伏す。ソリッドビジョンだが、そこにあるアスファルトは冷たかった。

 

「見事だ。多少の痛みを覚悟してでも勝利を目指すその姿勢、中々に意思の強さを感じるよ」

 

 聞こえてくるネイロスの言葉に、倒れながら拳を握り、全身に力を込めて立ち上がる。

 

「モンスターを守備表示でセット……。カードを1枚伏せて、ターンエンド……!」

 

 まだ手札に「糾罪巧」は残っている。だが、次に特殊召喚すれば《闇黒の夢魔鏡》の効果で300ダメージを受け、残りライフは700になり、もう「糾罪巧」のペンデュラム効果でサーチができなくなる。折角手札に加えたが、仕方なく温存するしかなかった。

 

「そして、エンドフェイズに……エニアポリスの効果が発動する……!」

「ならば私は、《闇黒の夢魔鏡》の効果を発動! このカードを除外し、デッキから《聖光の夢魔鏡》を発動する!」

 

 またしてもフィールド魔法が張り替えられる。エニアポリスの上空に広がっていた闇は消え、代わりに光が満ち溢れた。

 

「エニアポリスの効果で……俺の場の糾罪カウンターを全て取り除き……その数×900ポイントのダメージを、相手に与える……!」

「何だと?」

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:2→0

 

 その空の光を割って、今度は赤い雷がネイロスに降り注がれた。

 

「くっ……!」

 

ネイロス LP4000→2200

 

 だが、雷を喰らったネイロスは大してつらそうにしていない。相手が強大な天使だからか、それとも俺の夢の中だから、ライフロスで強い痛みを感じるのは俺だけで、この空間を作り上げたネイロスにはさほどフィードバックがないらしい。「理不尽」という言葉が頭を過る。

 

「おのれ……私は魘魔ネイロスの更なる効果を発動!《聖光の夢魔鏡》が存在する場合、このカードをリリースすることで、エクストラデッキより《夢魔鏡の天魔-ネイロス》を守備表示で特殊召喚する!」

 

 しかしダメージが気に障ったのか、ネイロスは怒りを滲ませてカードをプレイする。フィールドにいた魘魔ネイロスが翼を閉ざして姿を消すと、入れ替わるように今度は光り輝く天使が出現する。それこそ、今デュエルをしているネイロスと同じ姿のモンスターだ。

 

夢魔鏡の天魔-ネイロス

DEF3000 レベル10

 

 だが、フィールドに現れたネイロスは、強い怒りが表情に出ているのが分かった。

 

 

 

 バトレアスの深い場所で、わずかながらつながりを持ったエニアクラフト。

 普段は彼に干渉を一切しないが、ネイロスが深層心理を利用したことで、エニアクラフトはバトレアスとコンタクトを取ることができた。

 そして今も、その2人のデュエルをはっきりと見ることができる。

 

 バトレアスには、エニアクラフトが使ったデッキを渡した。しかし、このデュエルにおいてはその中身が最初と少し変わっている。

 というのも、バトレアスの中から「外」の世界を見ることで、エニアクラフトたちは「人」を学習しているのだ。だから、エニアクラフトが学習した結果がデッキに反映され、新たなカードも加わっていた。バトレアスは、恐らくそれに気づいているだろう。

 

 そしてこのデュエルもまた、エニアクラフトが人を学習する機会だ。

 

『位の高い天使も人間臭いのだな』

 

 ネイロスがこのような行動に出た()()を知ったエニアクラフトは、それを認識し、内部で評価を続ける。

 さらに言えば、天使族裁判もバトレアスを通してずっと見ていた。

 あの場にいた天使のほとんどは、エニアクラフト自身が起こした騒動、さらにはヴァーディクトがもたらした混乱に関与せず、バトレアスに対し疑いの目を向けていた。

 ヴァーディクトが天使族の領域に足を踏み入れた頻度はそう多くはなかったし、エグザムもごく限られた勢力の間での奪い合いとなっていたから、その問題に関わる機会自体がなかった、というところはある。それを考慮してもなお、このネイロスも含め後から色々言うだけというのは、「罪」の観測と並行しながらも、機械ながらバトレアスに同情せざるを得なかった。

 そのバトレアスのこの先も気になる。彼は、エニアクラフトが託したデッキを使い戦っている。それを上手く扱い、エニアクラフトが下した結論を決して裏切らないかどうかを見極める。

 このデュエルは、静観させてもらうことにした。

 例え、エニアクラフトが人に対する評価を再び改めることになろうとも、口は挟まない。

 

◇ ◆

 

 バトレアスと2人で、マドルチェの国でカロリーを気にせずケーキバイキングを楽しむ夢。

 その光景が突然歪み、全身が燃えるような熱さに襲われる。その熱から逃れるように目を瞑り、ぱっと目を開けた。

 目を空けた先にあったのは自分の部屋。

 あらゆる意味で素敵な夢から醒めてしまったことを残念に思うと同時、異変に気づく。

 布団の中が猛烈に暑い。

 

「……プリモア?」

 

 自分の体調がおかしくなった感じはない。となれば、一緒に寝ているプリモアが原因だろう。

 布団を捲り、寝る直前に身体に抱きついていたプリモアを確認すると。

 

「はぁ……はぁ……」

「プリモア、大丈夫!?」

 

 額に汗の玉をいくつも浮かべ、うなされているのか息が荒かった。こんなことは一度もなかったので、すぐさま声を掛ける。弾かれたようにプリモアは目を開けた。

 

「クーリア、さん……?」

「どうしたの? どこか調子が悪いとか……?」

 

 起き上がったプリモアは、自分の小さな胸に手を当てて、呼吸を繰り返す。そんな彼女に、落ち着かせるよう肩に手を置いて尋ねる。

 

「いえ、これは……」

 

 プリモアは何かを確認するように目を閉じ、ぎゅっとその額に皺が寄ると。

 

「……バトレアスさんが、危険です」

 

 それだけで、クーリアが行動を起こす十分な理由になった。プリモアのこういう感覚は気のせいで済んだことがない。

 プリモアを背負い、部屋を飛び出して1階へと降りる。向かうのは勿論、バトレアスの部屋だ。時計をちらっと見てもまだ深夜帯だが、今だけは時刻を二の次にする。

 

「バトレアス、起きてる? 大丈夫?」

 

 扉をノックし、呼びかける。だが返事はない。

 申し訳ないと思いつつ、返事を待たず扉を開けて部屋の中に入った。

 

「バトレアスさん?」

 

 部屋の明かりは消えていた。

 そして、バトレアスは今なおベッドで眠っている。決してクーリアは、バトレアスを起こさないように静かに部屋に入ったわけではない。ここまでしても、プリモアが呼んでも、返事はない。

 クーリアは余計に気になり、眠っているバトレアスに近づいてみると。

 

「!」

 

 さっきのプリモアと同じように、眠っているバトレアスは汗をかいていた。それも滝のように、真っ青な顔で。

 にもかかわらず、魘されているような声を洩らしたり、身をよじらせたりしていない。穏やかな寝息を立てているのが逆におかしかった。

 布団を捲ってみると、ナイトウェアが汗でぐっしょりと湿っている。体温の熱気と汗の匂いがすごいが、こんなのは異常事態だ。

 

「バトレアス、起きて!」

「バトレアスさん!」

 

 気遣いとかをかなぐり捨てて肩を揺さぶるが、バトレアスは起きない。眉一つ動かさず、唸ったりもせず眠り続けている。プリモアも手を強く握って呼びかけるが、やはり反応がなかった。

 

 思い出すのは、ヴァーディクトとの戦いの後のこと。あの時も、バトレアスは周りの呼びかけに応えることなく眠り続けていた。

 今は汗と熱がすさまじいのが違うが、そこから考えられるのは、彼の内部……精神的な部分の異常だ。

 

「プリモア、グレーシアとエリーティアを呼んで! 後ミューゼシア様も!」

「は、はい!」

 

 精神的な部分に作用するドレミコードの力を持つ2人と、ドレミコードの長を呼ぶよう伝える。今は深夜だが、この際細かいことは気にしていられない。

 しかし、指示を聞いたプリモアが、部屋を飛び出した直後だ。

 

 ガタンという音と共に、バトレアスの身体が激しい痙攣を起こした。

 

「バトレアス!?」

 

 肩を掴んで呼びかけるが、依然としてバトレアスは眠り続け、身体を震わせるだけだ。

 そして震えが収まると。

 

 くぷ、と口の端から血を流した。

 

「起きて!!」

 

 汗で湿るナイトウェアを掴んで、顔を近づけて叫ぶ。

 だけど、バトレアスは反応しない。目も開けず、ただ口の端から血を流すだけだ。

 真夜中の屋敷に、クーリアの悲痛な叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

――バトレアス!

 

 光が降り注ぐ近代的な都市に響く、聞き慣れた、安心する声。

 挫けそうになっていた俺の耳に、それは確かに聞こえた。

 

「もう気付いたのか。どうやら、君は随分と可愛がられているようだな」

 

 同じくそれが聞こえたらしいネイロスが、明らかに皮肉だと言わんばかりの顔と調子で話しかけてきた。

 

――起きて! しっかりして!

 

 クーリアの声。どうやら、現実世界で眠ったままの俺の異変に気付いたらしい。必死に呼びかけてきている。

 

「クーリア様!」

「無駄だ。ここでどれだけ叫ぼうと、あちらには何も伝わらない」

「……っ」

「悔しいのなら私に勝てばいい。逆に負けたら……どうなるだろうな?」

 

 かすかに笑うネイロス。それだけで、このデュエルに負けたら無事で済まないのは確定だ。

 そして、ネイロスは「俺を知る」という理由とは別に、悪意的な意味があって俺をこんな目に遭わせたのも察する。具体的にどういう理由かは知らないが、もうこの時点で俺のネイロスに対する印象は最悪の一言だ。俺をどうこうするだけでなく、クーリアにまで心配を掛けさせるなんて。

 

――お願いだから……起きて!

 

「しかしうるさいな。これでは集中できない」

 

 鬱陶しそうに顔を上げたネイロスは、指を鳴らす。

 それで、クーリアの声は聞こえなくなった。

 

「テメェ……」

「私のターン、ドロー!」

 

 拳を握るが、意にも介さずネイロスはターンを始める。

 さっさとこのデュエルに勝って、クーリアを安心させなければ。

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