ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第87話:本音

バトレアス LP1000 手札2

【モンスターゾーン】

裏側守備表示モンスター2

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード3

 

【ペンデュラムゾーン】

糾罪巧(エニアクラフト)γ´(トゥリト)-「exapatisIA(エクサパティシア)」 スケール0

 

【フィールドゾーン】

糾罪都市-エニアポリス

 

 

ネイロス LP2200 手札3

【モンスターゾーン】

夢魔鏡の天魔-ネイロス DEF3000 レベル10

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード1

 

【フィールドゾーン】

聖光の夢魔鏡

 

 

 

 ネイロスによって、クーリアの声は聞こえなくなってしまった。だけど恐らく、今も現実の俺に呼び掛けてくれているのだろう。そんなクーリアを心配させないために、このデュエルは勝たなければならない。

 まずはネイロスのターンだ。

 

「魔法カード《強欲で金満な壺》を発動。エクストラデッキのカードを3枚、または6枚ランダムに裏側で除外することで、除外したカード3枚につき1枚ドローできる。私は6枚を除外し――」

「セット状態のアラゾニアは、相手がデッキからカードを手札に加える効果を含む効果を発動した時、表側守備表示にして効果を発動する!」

 

 いきなりドローを加速させようとするが、ただで引かせはしない。ネイロスが眉を顰める前で、縦に長い無機質な八面体のアラゾニアが物言わず起動した。

 

糾罪巧β´(デフテロ)-「arazoneIA(アラゾニア)

DEF1000 レベル1

 

「その効果で、俺はデッキから『糾罪巧』カードを手札に加える。《糾罪巧-AtriF.MAR(アトリマール)》を手札に!」

「私は2枚ドローする」

 

 お互いにカードをサーチするが、リバースが行われたことでペンデュラムゾーンのエクサパティシアに糾罪カウンターが置かれた。

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:0→1

 

「そしてリバースしたアラゾニア、さらにエニアポリスの効果発動! エニアポリスは1ターンに1度、リバースした『糾罪巧』ペンデュラムモンスター1体をペンデュラムゾーンに置くか、手札に戻すことができる!」

「させるか。罠カード《夢魔鏡の夢物語》発動。私の場に『夢魔鏡』モンスターが存在する場合、除外されている《聖光の夢魔鏡》と《闇黒の夢魔鏡》を1枚ずつ対象としてデッキに戻し、フィールドのカードを1枚除外する。エニアポリスを除外!」

 

 除外していた2枚のフィールド魔法がデッキに戻ると、近未来的な都市が消失し、光で満ちた街並みに景色が戻った。これでアラゾニアはモンスターゾーンに留まり、エンドフェイズのバーンもできなくなる。

 しかし、この程度はまだ挽回できる。

 

「アラゾニアの効果! 相手の手札をランダムに1枚選び、エンドフェイズまで除外する!」

「小賢しい真似を……」

 

 アラゾニアの中心部から光線が放たれ、ネイロスの手札を1枚黄色く染めて融解させる。これで1ターン、ネイロスの手数がひとつ減った。

 

「私は永続魔法《(ゆめ)(まぼろし)の夢魔鏡》を発動。このカードは発動時、効果処理としてデッキから『夢魔鏡』モンスター1体を手札に加える。私は《夢魔鏡の夢魔-イケロス》を手札に」

 

 《強欲で金満な壺》のデメリットで、ネイロスはこのターンにカード効果でドローできない。だがサーチは別だから、まだネイロスの手札は増えるだろう。

 

「《夢幻の夢魔鏡》の効果により、フィールドゾーンに《聖光の夢魔鏡》が存在する場合、私のモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする」

 

夢魔鏡の天魔-ネイロス

DEF3000→3500

 

「そして《夢魔鏡の夢魔-イケロス》を召喚」

 

 それはたった今サーチしたカード。大鎌を持ち、白に近い紫の髪を靡かせる少女が、黒い装束を纏って現れた。

 

夢魔鏡の夢魔-イケロス

ATK500→1000 レベル1

 

「そして、このイケロスの効果を発動。《聖光の夢魔鏡》が存在する場合、メインフェイズ及びバトルフェイズにこのカードをリリースすることで、デッキから《夢魔鏡の乙女-イケロス》を特殊召喚する!」

 

 特殊召喚する効果を多用するネイロス。これはトロマリアを伏せておくべきだったかもしれない。ライフを失うのを恐れて温存したのが仇となってしまった。

 しかしこれは、こちらのカード効果を発動するチャンスだ。

 

「相手モンスターの効果が発動した時、墓地の《糾罪巧-再巧(リセット)》を除外して効果発動! 俺のペンデュラムゾーンの『糾罪巧』カードの数まで、俺のフィールドの『糾罪巧』モンスターを裏側守備表示にする。アラゾニアをセット状態に戻す!」

「チッ……」

 

 夢魔イケロスが鎌を振って姿を消すのと同時、俺のフィールドで待機していたアラゾニアがセット状態に戻る。

 そして、夢魔イケロスと入れ替わるように現れたのは、薄黄緑色のツインテールを三つ編みにした少女。着ている服は異世界RPGの冒険者のようだった。

 

夢魔鏡の乙女-イケロス

DEF500→1000 レベル1

 

「『夢魔鏡』モンスターの効果で特殊召喚したイケロスの効果発動! デッキから『夢魔鏡』カード1枚を手札に加える」

「アラゾニアを表側守備表示にして効果発動!」

「ならば、天魔ネイロスの効果発動! 1ターンに1度、私の場の他の『夢魔鏡』モンスターがリリースされた場合、フィールドのカード1枚を破壊することができる。右の伏せカードを破壊!」

「フィールドのカードを破壊する効果を相手が発動した時、セット状態のアークテイルを表側守備表示にして効果発動!」

 

 ネイロスの効果の発動に、糾罪巧の効果をあるだけ挟み込む。ネイロスの表情は苛立ちどころか嫌悪になりつつあるが、これがこちらの戦い方だ。

 ただ、伏せカードを対象に取られてしまっては、アークテイルの効果を十全に発揮することはできない。それでも、付随する効果はネイロスの戦術に響くだろうから積極的に発動する。今しがた姿を見せた砂色の八面体と、光あふれる異国に似つかわしくない、機械仕掛けの巨大なサソリが出現した。

 

糾罪巧β´-「arazoneIA」

DEF1000 レベル1

 

糾罪巧-Archaη.TAIL(アークテイル)

DEF2500 レベル9

 

「アークテイルの効果で、俺のモンスター及び『糾罪巧』魔法カードはこのターン、相手の効果では破壊されない!」

「だが、その伏せカードは破壊させてもらうぞ!」

 

 フィールドにいるネイロスが右手を掲げると、太陽のように輝く光球が伏せカードへ放たれる。《速攻魔力増幅器(クイック・ブースター)》のカードは燃え尽きた。

 

「アラゾニアの効果で、俺はデッキから《糾罪都市-エニアポリス》を手札に加える」

「私は乙女イケロスの効果で《夢魔鏡の魔獣-パンタス》を手札に加える」

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:1→3

 

「アラゾニアのリバース効果発動! 相手の手札をランダムに1枚エンドフェイズまで除外する!」

「つくづく腹立たしい……」

「さらにフィールドの《速攻魔力増幅器》が相手によって破壊されたことで、俺はデッキから同名カード以外の速攻魔法1枚を手札に加えることができる。俺が加えるのは《サイクロン》だ」

 

 追加で手札1枚を1ターンの間封じたことで、ネイロスはこちらへの怒りを滲ませる。それを見つつ、俺は頼れる除去札をサーチした。

 そこでネイロスが手札を1枚手にする。

 

「魔法カード《テラ・フォーミング》発動! デッキから《闇黒の夢魔鏡》を手札に加え、これを発動!」

 

 またしてもフィールドが反転し、今度は闇に包まれた街へと変わる。光を纏うイケロスと、アークテイルは異様な存在感を放っていた。

 

夢魔鏡の天魔-ネイロス

DEF3500→3000

 

夢魔鏡の乙女-イケロス

DEF1000→500

 

「《夢幻の夢魔鏡》の効果により、フィールドゾーンに《闇黒の夢魔鏡》がある限り、相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は500ポイント下がる!」

 

糾罪巧-Archaη.TAIL

DEF2500→2000

 

糾罪巧β´-「arazoneIA」

DEF1000→500

 

「乙女イケロスの効果発動。《闇黒の夢魔鏡》が発動している時、メインフェイズ及びバトルフェイズにこのカードをリリースすることで、デッキから夢魔イケロスを特殊召喚する!」

 

 乙女のイケロスがフィールドで一回転すると、一瞬でその姿はさっき見た夢魔イケロスへと変わる。やはり鏡をモチーフにしているから、姿は表裏一体ということか。

 

夢魔鏡の夢魔-イケロス

ATK500 レベル1

 

 しかしここで、アークテイルの出番だ。

 

「リバースしたアークテイルがフィールドにいる限り、相手の墓地にモンスターが送られる度に、相手に900ポイントのダメージを与える!」

「く……!」

 

 アークテイルの尻尾の先端から、緑色の雷が放たれる。それは確かに直撃したはずなのに、ネイロスは首を軽く鳴らすだけで全く効いていない。フィードバックの差がひどかった。

 

ネイロス LP2200→1300

 

「まあいい。どのみち、このターンに勝負は決まる」

「え?」

「『夢魔鏡』モンスターの効果で特殊召喚したイケロスの効果発動! 手札より『夢魔鏡』モンスター1体を特殊召喚する。いでよ、魔獣パンタス!」

 

 イケロスの隣に勢いよく飛び出してきたのは、狼に似た赤い体毛の四足獣。背中から角のような鋭いパーツが生え、開いた口から獰猛な牙が覗き、涎を滴らせる凶暴な見た目だ。

 

夢魔鏡の魔獣-パンタス

ATK1900 レベル4

 

「『夢魔鏡』モンスターの効果で特殊召喚したパンタスの効果発動。このターン、このカードはダイレクトアタックができる!」

「何!?」

「さらに、念には念を入れるとしよう。天魔ネイロスを攻撃表示に変更!」

 

夢魔鏡の天魔-ネイロス

DEF3000→ATK3000

 

「バトルだ! パンタスでダイレクトアタック!」

 

 ぐるると唸ったパンタスが、フィールドのアラゾニアやアークテイルの間を駆け、一瞬で俺との距離を詰めてきた。

 その開いた口は、間違いなく俺の命を奪おうとしている。喰らえばライフが尽きるし、俺も死ぬ。

 

「罠カード《レインボー・ライフ》発動! 手札を1枚捨てることで、このターン、俺が戦闘及び効果でダメージ受ける場合、代わりにその分だけライフを回復する!」

「何!?」

 

 コストとして墓地へ送るのは《糾罪巧-裁誕(リバース)》。その直後、目の前に虹色のバリアが出現し、パンタスは盛大に顔をぶつけた。

 

バトレアス LP1000→2900

 

「ふぅ……」

 

 ライフが回復し、崖っぷちから遠ざかったことで心の余裕が生まれた。さらにライフが増えたからか、自然と痛みや苦しみが引いてきたので一息つく。

 

「潔く負けていれば、痛みも苦しみも感じずにいられただろうに。天魔ネイロスでアークテイルを攻撃! ブレス・オブ・ドリーム!!」

 

 天魔ネイロスが翼を広げると、虹色の光を放ち、闇の世界でアークテイルを照らす。それを浴びたアークテイルは、甲高い鳴き声を上げながら消滅してしまった。

 

「私はこれでターンエンド。そしてこのエンドフェイズに《闇黒の夢魔鏡》の効果を発動。このカードを除外し、デッキから《聖光の夢魔鏡》を発動する」

 

 目まぐるしくフィールドの景色が変わる。昼夜の感覚まで麻痺し、目が眩んでしまいそうだ。

 そして《夢幻の夢魔鏡》の効果で、フィールドのモンスターの攻撃力と守備力もまた増減する。

 

夢魔鏡の天魔-ネイロス

ATK3000→3500

 

夢魔鏡の夢魔-イケロス

ATK500→1000

 

夢魔鏡の魔獣-パンタス

ATK1900→2400

 

糾罪巧β´-「arazoneIA」

DEF500→1000

 

「アラゾニアの効果で除外していたカードは、相手の手札に戻る」

 

 さらに、アラゾニアの効果で1ターンのみ封じていたネイロスの手札2枚も戻る。あのカードが、俺のターンに使えるようなものでないことを祈る。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見つつ、ネイロスの動きを予想する。

 さっきのターン、天魔ネイロスを除く「夢魔鏡」モンスターは、メインフェイズとバトルフェイズに自身をリリースして効果を発動する特性を持っているのは確認した。

 であればこのターンも、何か仕掛けてくるに違いない。特に夢魔イケロスの効果で乙女イケロスを特殊召喚すれば、またネイロスはサーチをする。天魔ネイロスの効果と合わせ、俺のフィールドのカードをも破壊するだろう。

 そして俺自身の手札を見て、どうすべきか考える。

 

「手札のアトリマールの効果発動。このカードを相手に見せることで、手札からモンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚する」

 

 ここで特殊召喚するモンスターをネイロスに見せる必要はない。これで相手を撹乱するのも【糾罪巧】の戦術のひとつなのは、俺自身実際に相手にして理解していた。けれど、俺はこのデッキで戦うのが初めてなので、本家本元が使う時と比べればそういう駆け引きは拙いだろう。

 

「エクサパティシアのペンデュラム効果発動! 900ライフポイントを払い、デッキの3枚の『糾罪巧』カードの中から、相手がランダムに選んだ1枚を手札に加える!」

「性懲りもない奴め……」

 

 ネイロスはこちらをバカにするように笑う。

 

バトレアス LP2900→2000

 

「ぐ……!」

 

 心臓が物理的に締め付けられるような息苦しさに、前かがみになる。

 いくらライフが回復し、一時的に落ち着いたとはいえ、ダメージを受けたりライフを払った時に感じる苦痛は和らがない。だけど勝利のために必死に耐える。

 ネイロスに選ばせる3枚は、1枚目が破壊された場合に備えて最後のエニアポリス、さらに《糾罪巧-Astaγ.PIXIA(アスタピクシア)》と《糾罪巧-始導(リリース)》だ。

 

「左のカードを選ぶ」

 

 ネイロスが選んだカードを手札に加える。

 それはエニアポリスではないが、さらにチャンスを広げられるものだ。

 

「魔法カード《糾罪巧-始導》発動。デッキの『糾罪巧』モンスター1体をペンデュラムゾーンに置く。俺は《糾罪巧θ´(エナト)-「oknirIA(オクニリア)」》をペンデュラムゾーンにセット!」

 

 エニアクラフトとのデュエルでも使われた、黄緑色の八面体。内部にピンク色の光を宿すそれが、光の柱と共に現れた。そのスケールは0のため、勿論ペンデュラム召喚はできない。

 

「オクニリアのペンデュラム効果発動。ライフを900払い、デッキの『糾罪巧』カード3枚の中から、相手が選んだランダムな1枚を手札に加える」

「何とも醜い奴だ」

 

バトレアス LP2000→1100

 

 自分の身体から魂ごと力を引っこ抜かれるような感覚で、前のめりになってしまう。肩で息をして、何とか両脚に力を込めて倒れないようにするが、視線に入ったネイロスはゴミを見るような目をしていた。

 それは気にせず、3枚のカードを選んで見せる。選んだのはエニアポリス、アスタピクシア、さらに《糾罪巧-Atilε.SPIA(アティルスパイア)》だ。

 

「チッ……右側のカード!」

 

 選ばれたカードを見て、頷く。

 

「手札の、トロマリアの効果発動……手札から、モンスター1体を、裏守備表示で特殊召喚……。さらにモンスターを、守備表示でセット……」

 

 続けざまにライフを払い、俺の力をも奪われたことで、カードをプレイするのも精一杯だ。ネイロスが貧乏ゆすりをしているのが見えるが、気にしていられない。こっちは命がけなのだから。

 後は、エニアポリスを発動するだけだ。しかしその前に、障害はできる限り排除する。

 

「速攻魔法《サイクロン》発動……!《聖光の夢魔鏡》を破壊!」

 

 まずはネイロスの戦術の核であるフィールド魔法の破壊。竜巻が発生し、フィールド全体を巻き込むような大きさにまで膨れ上がるが。

 

「墓地の《夢魔鏡の夢物語》の効果。私の『夢魔鏡』カードが破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる」

「く……」

 

 一瞬で掻き消える竜巻。光り輝く異世界の街並みは依然としてそこにあった。さっき《サイクロン》を手札に加えた時、少しも動揺していなかったのはこれが理由か。

 そして、この程度ではネイロスの動きを誘えない。

 

「フィールド魔法《糾罪都市-エニアポリス》発動!」

 

 異世界風の街並みを上書きするように、近代的な都市が展開する。空はやはり光に満ちたものだったが、それでも今はこちらのフィールドだ。

 これでこのままターンエンドをすれば、エニアポリスの効果で3つの糾罪カウンターが取り除かれ、2700のダメージをネイロスに与えて俺は勝つ。

 

「俺はこれで、ターンエンド――」

「おっと、その前に。夢魔イケロスの効果発動。このカードをリリースし、デッキから乙女イケロスを特殊召喚する!」

 

 それを向こうも理解しているからこそ、ネイロスは俺がエンドフェイズに入る前に動いて見せた。加えて、「夢魔鏡」モンスターの効果が使えるのはお互いのメインフェイズ及びバトルフェイズのみ、闇属性の「夢魔鏡」モンスターは《聖光の夢魔鏡》が存在しなければ効果を発動できないのだから。

 

「モンスターを特殊召喚する効果を含む効果を相手が発動した時、セット状態のトロマリアを表にして効果発動……! デッキからアスタピクシアを手札に加える……」

「ご自由に」

 

糾罪巧F´-「tromarIA」

DEF1000 レベル1

 

 再び姿を見せる青い八面体だが、俺のサーチを気にもせず、ネイロスのフィールドで少女は鎌を振り回しながら姿を消す。そして、光を帯びた装束の可憐な少女が再び現れた。

 

夢魔鏡の乙女-イケロス

DEF500→1000 レベル1

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:3→4

 

糾罪巧θ´-「oknirIA」

糾罪カウンター∶0→1

 

「リバースしたトロマリアの効果発動……! 天魔ネイロスの効果をターン終了時まで、無効にする!」

「その前に、私は特殊召喚した乙女イケロス、さらに天魔ネイロスの効果発動! 天魔ネイロスの効果でエニアポリスを破壊する!」

 

 トロマリアの効果は強制だから、先に効果が発動する。そしてやはり、ネイロスはダメージを避けるためにエニアポリスを破壊しにかかってきた。

 だが、これで「チェーンは3」。

 

「チェーン3以降に相手が効果を発動した時、セットされているアティルスパイアを表側守備表示にして効果発動!」

 

 新たにこのデッキに加わっていたモンスターの力が発動する。カードが表になると、エニアポリスの空に金色の小さな八面体が現れ、白い一筋の光を地上に落とす。その光の筋が何かを象るように目まぐるしく折れ曲がり、ついには紺色の巨大な蜘蛛のロボットを出現させた。

 

糾罪巧-Atilε.SPIA

DEF2500 レベル9

 

「アティルスパイアの効果で、発動時に積まれていたチェーン上の、全ての相手の効果の発動を無効にして破壊する!」

「何!?」

 

 宙吊り状態だったアティルスパイアが着地すると、その尾から白く細いレーザー砲を放った。それは乙女イケロスと天魔ネイロスを両断し、爆発させる。

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:4→5

 

糾罪巧θ´-「oknirIA」

糾罪カウンター∶1→2

 

「やってくれる……だが、相手によって破壊された天魔ネイロスの効果発動! 墓地より、他の『夢魔鏡』モンスター1体を特殊召喚する! 蘇れ、魘魔ネイロス!」

 

 ネイロスの場に現れる魔法陣。そこから禍々しい風貌の悪魔が姿を見せた。

 

夢魔鏡の魘魔-ネイロス

ATK3000→3500 レベル10

 

 破壊された時まで効果を発動できるとは。

 しかしこれはチャンスだった。

 

「相手がモンスターを召喚・特殊召喚した時、墓地の《糾罪巧-裁誕》を除外し、効果発動! 俺の場にセットされている『糾罪巧』を表側守備表示にする!」

「何?」

 

 さっきコストで墓地へ送っていた裁誕が黒い渦に吸い込まれる。そして裏側守備表示だったアトリマールが、その姿を露わにした。クジラ、あるいは宇宙戦艦に見える青色の巨大な機体は、その下にいるもの全てを圧倒する。

 

糾罪巧-AtriF.MAR

DEF2500 レベル9

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:5→6

 

糾罪巧θ´-「oknirIA」

糾罪カウンター∶2→3

 

「そして、リバースしたアトリマールの効果発動! 相手フィールドの全てのモンスターを裏側守備表示にする。この効果で裏守備表示になったモンスターは、表示形式を変更できない!」

「貴様……!」

 

 アトリマールは「糾罪巧」の中でも特殊な効果を持つ。アトリマールが青い光線の雨をフィールドに降らせると、ネイロスの場にいた魘魔ネイロスと魔獣パンタスはそれを浴びて裏側守備表示に変わる。ネイロスの怒りのギアが上がったのを感じた。

 

「手札のアスタピクシアを相手に見せて効果発動。手札からモンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚!」

 

 念には念を入れて、さっき手札に加えていた最後の最上級の糾罪巧をセットする。このカードの効果も有用だ。

 だが、もう次のターンなど渡さない。

 

「ターンエンド。そしてこのエンドフェイズに、エニアポリスの効果が発動!」

「《聖光の夢魔鏡》の効果発動! このカードを除外し、デッキから《闇黒の夢魔鏡》を発動!」

 

 入れ替わるフィールド魔法。エニアポリスの空が光から闇へ変わり、重苦しい空気に都市が包まれた。

 

糾罪巧-AtriF.MAR

DEF2500→2000

 

糾罪巧-Atilε.SPIA

DEF2500→2000

 

糾罪巧β´-「arazoneIA」

DEF1000→500

 

糾罪巧F´-「tromarIA」

DEF1000→500

 

 《夢幻の夢魔鏡》の効果でアトリマールの守備力は下げられる。

 だがそれでも、こちらの効果は止まらない。

 

「エニアポリスの効果で、俺のフィールドの糾罪カウンターを全て取り除き、1つにつき900ポイントのダメージを相手に与える!」

「こんなことが……!?」

 

 ネイロスがたじろぐ。

 エニアポリスの暗闇の空に雲が広がり、赤い雷を帯び始める。

 

糾罪巧γ´-「exapatisIA」

糾罪カウンター:6→0

 

糾罪巧θ´-「oknirIA」

糾罪カウンター∶3→0

 

「取り除かれるカウンターは9個! よって8100ポイントのダメージだ!」

「この私が、負けるだと!? そんなバカな……!」

 

 空を見上げて悔しそうにするネイロスに向けて、赤い光が差し込み始めた。

 前世の初期ライフ8000制であってもワンショットキル。オーバーキルもいいところだが、こっちは負けられない、死ねないのだ。悪く思わないでほしい。

 そして、空が血のように赤く輝いて――

 

 

「……とでも、言うと思ったか?」

 

 

 ネイロスは俺を見て、邪悪に笑い、手札を切る。

 

「手札の《ハネワタ》を捨てて効果発動! このターン、私への効果ダメージを0にする!」

 

 カードが墓地へ送られた瞬間、ネイロスを半透明のバリアが覆う。

 そしてエニアポリスの空から降り注がれた赤い雷は、無情にもバリアに弾かれてしまった。

 

「くそ……」

 

 糾罪カウンターを9個も使ったのに仕留められなかった。しかもあれは、アラゾニアで前に1ターン除外していたカードの1枚。肝心な時に使われてしまうなんて。

 

「しかし、気に入らんな」

 

 バリアが消えたところで、ネイロスは俺を見てそんなことを告げる。

 

「……何が、気に入らないのでしょうか」

「何もかもだ。貴様の全てが」

 

 問い返すと、一層尊大な口調でネイロスは返す。

 

「このデュエル、貴様は一切攻勢に出ず、細々と効果ダメージを与えることにばかり拘っている。そして、私の動きを妨害するばかり、何とも卑屈な戦い方をするな?」

「……【糾罪巧】は、そういうデッキです。そして、このデッキを生み出した『エニアクラフト』という存在も同じでした」

 

 俺と直に戦ったエニアクラフト。あのデュエルで、あちらは一切俺に攻撃を仕掛けてこなかった。俺が受けた3900のダメージは、全て「糾罪巧」の効果によるバーンと、反射ダメージだけ。

 そして今使っているこのデッキにも、攻勢に出るようなカードはほとんどない。モンスターは「糾罪巧」をはじめとしたリバースモンスターのみ、他の魔法・罠カードも大体が()()()()()()()()()()ものだ。

 それはやはり、エニアクラフトという存在が罪を「観測」してきたからだろう。俺が止めなければ彼らは人を攻撃していたが、それまでそうしなかった。だからこそ、これは相手を攻撃するデッキではない。

 今そのデッキは俺が持っている。それを自分好みに改造しようという気にはなれなかった。

 

「エニアクラフトが、俺を信じてこのデッキを託したからこそ、俺もその戦い方をしているんです」

「甘い奴め。その甘さも気に入らんな」

 

 だけど、その意見をもネイロスは一蹴する。

 その時、ネイロスの背から生える翼が黒色へと変わり始めた。さらに、纏っていた衣装も黒いオーラに覆われて、徐々に形が変わっていくのが分かる。

 

「何の因果があって、貴様が『こちら側』に転生したのかは知らん。だが、お前は人間として生まれながら、理を越えて天使となった。……純粋な天使でも、人間でもない、形容しがたい何かだ」

 

 やがて光に包まれ、ネイロスの姿は変わる。

 《夢魔鏡の天魔-ネイロス》から、《夢魔鏡の魘魔-ネイロス》へとなっていた。

 

「そんな貴様は、下界で醜態を晒し、我々天使族の存在を貶めた! そんな貴様が、冥府の神に気に入られる? ドレミコードの寵愛を受ける?」

 

 ネイロスがアスファルトを力強く踏む。

 皹が入っていた。

 

「ふざけるな! 人間くずれの天使もどきが!!」

「……」

「ヴァーディクトやエニアクラフトを止めて、世界を危機から遠ざけたからといって調()()()()()()!!」

 

 多分、ネイロスの考えは、ネイロスだけのものではないのだろう。少なくとも、天使族裁判で俺を有罪にすべきとした天使の誰もが、考えているのかもしれない。

 俺が都市の世界で誤った判断をしたのは事実。天使族を貶めたというのも、根っからの天使族から見たらそう見えるのだろう。俺に実感はないが、でなければ天使族裁判なんて行われなかった。

 だけどネイロスの言葉には、1ミリも理解できない場所がある。

 

「……俺が調子に乗ってる?」

「あ?」

「本気でそう思ってるんですか?」

 

 眉を顰めるネイロス。

 まるで、俺がそうだと決めつけている顔。そうでないのを信じられない顔。

 

 クルヌギアスに気に入られている。そうかもしれない。

 ドレミコードの寵愛を受けている。そうかもしれない。

 世界を危機から遠ざけた。そうかもしれない。

 だけど、それでも。

 

 

 俺は今の状況に思い上がったことなんて、一度もなかった。

 

 

 ここは俺が一般人として過ごしていた前世とは全く違う。

 何物よりデュエルが尊ばれ、様々な種が存在し、時に物理法則は失われ、大なり小なりの「破壊」という概念が身近で、「生」と「死」が限りなく間近にある。

 そんな世界に転生して、もう随分経った。

 けど、俺は未だ自分が強いという自信が足りないし、強くなれたとも思えない。今までの俺の選択にはミスがあったから、尚更自分の全てを認めることができない。

 

 どれだけ皆に認められても。

 どれだけ称賛されても。

 どれだけ愛を分け与えられても。

 

 どこまで行っても、俺は他所から来た異端、外法の存在。

 だからこそ、思い上がることができない。

 調子に乗るなんてもってのほかだ。

 

「あんたの言う通り、俺は何故かこの『精霊界』に来た。俺がいた世界とは何もかも違うし、俺は今や人じゃない、純粋な天使でもない。そんな存在を認めたくないお前の気持ちは分かる」

「何だと?」

「そんな俺を認めないのは別にいい。けど……」

 

 ここが夢の中と分かっていても、身体の中で痛みを押しのけ熱が膨れ上がっているのが分かる。

 今の俺自身への情けなさ、理不尽な現状への不満、怒り。

 その熱を少しでも逃がすように、すっと息を吸って、俺はネイロスを指さした。

 

「俺が今までどれだけ傷ついて、苦労したと思っていやがる! 何度も痛みを思い出して、自分の弱くて情けないところを思い知らされて! 打ちのめされて! それでもどうにか立ち直って死に物狂いで戦ったら、今度は罪だなんだと好き勝手言われて! そんな俺が、調子に乗れるわけないだろうが!!」

「それがこの世界の道理だ! そんなに嫌なら、さっさと去るなり自決なりすればいい!」

「ふざけんな!!」

 

 拳を固く握る。エニアポリスに自分の声が木霊した。

 脳裏に浮かぶ。クーリアが声を上げて俺のすぐそばで泣いたこと。そして、俺なんかには勿体ないほどの想いを告げたこと。

 

「今の俺の命は、俺の一番大切な人がつないでくれた命だ! それを他でもない俺が、自分で捨てていいわけあるか!!」

 

 自分の胸を、拳で叩く。

 今俺の心臓が動いているのは、クーリアのおかげだ。

 そしてクーリアが力を注いでくれたからこそ、俺はこの世界でドレミコードとして生き続けることになった。

 そんな俺の使命は。

 

「そして俺は、ドレミ界の皆を守る。それが、こんな俺を受け入れてくれた皆にできる恩返しで、俺がこの世界で唯一できること! そのために俺は、戦い続けてるんだよ!」

「それが調子に乗っていると言うのが何故分からんのだ、この若造が!!」

 

 ネイロスの胸についている眼球が赤く染まる。

 まさに、ネイロスの怒りをそのまま表しているようだ。

 

「まったく鬱陶しい! 貴様のデュエルも、言葉も、存在も、何もかもが!」

「……」

「貴様のような異端児など、私自らが葬ってやる!!」

 

 その言葉でようやく理解できた。

 デュエルをするのが俺を知るためなんて、建前でしかない。

 本音は、「鬱陶しい」から。

 夢の世界で俺を倒し、現実世界の俺を殺すためだ。

 

「私のターン!」

 

 デュエルに戻り、ネイロスは手札を補充した。

 こちらは守備表示の「糾罪巧」が4体と、裏守備表示のアスタピクシア。

 アスタピクシアはフィールド・墓地のカードを対象とする相手の効果を無効にし、相手の手札をランダムに1枚裏側で除外する。さらにフィールドにいる限り、相手はフィールドと墓地のカードを対象にできなくなる。

 そしてリバースしたアティルスパイアがいる限り、ネイロスは自分の効果にチェーンして効果を発動できない。

 どこまで行けるか分からないが、易々と突破することはできないはず。

 だけど、ネイロスは手札にあるカード1枚を見て、下卑た笑みを浮かべると。

 

「このカードは、相手フィールドのモンスター2体をリリースすることで、相手の場に特殊召喚される!」

「!?」

「貴様のアティルスパイアと裏守備モンスターをリリース! 来い、《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》!!」

 

 俺のフィールドにいた機械仕掛けの蜘蛛と、裏守備表示のモンスターが消え去る。

 その直後、俺は突然現れた鉄檻に閉じ込められ、一瞬で周囲の空気が熱くなる。さらに檻の外に大量の溶岩が出現し、背後から呻き声のようなものが響き渡った。後ろを見れば、溶岩の巨人が両腕をキョンシーのように前に出している。

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム

ATK3000→2500 レベル8

 

 マスターデュエルでは捲り札、あるいは後攻ワンキルを成立させるためによく利用されるカード。そして今回は、ネイロスからすれば未知のアスタピクシアとアティルスパイアの除去に使われてしまった。

 そして、このラヴァ・ゴーレムが放つ熱気は、猛暑なんてレベルではない。溶岩の上、鉄檻の中は尋常じゃない暑さだ。陽炎で全てが揺らめき、意識が持っていかれそうになる。

 

「さらに、《強欲で貪欲な壺》発動! デッキの上から10枚のカードを裏側で除外し、さらに2枚ドロー!」

「く……」

「そして《死者蘇生》! 墓地より逆徒ネイロイを特殊召喚!」

 

 ドローを加速させたうえ、蘇生札まで引き寄せられた。魔法陣から蘇ったのは、最初のターンぶりとなる少年の姿をした悪魔だ。

 

夢魔鏡の逆徒-ネイロイ

ATK1000 レベル3

 

「特殊召喚した逆徒ネイロイの効果発動! デッキより使徒ネイロイを手札に加える。そしてこの使徒ネイロイは、私の場に『夢魔鏡』モンスターが存在する場合に効果を発動し、手札から特殊召喚できる!」

 

 フィールドにいる悪魔と瓜二つの少年。しかし、白い装束を着ているのと、白い翼を生やしているのが違っていた。

 

夢魔鏡の使徒-ネイロイ

ATK1000 レベル3

 

「特殊召喚した使徒ネイロイの効果発動!《闇黒の夢魔鏡》が発動しているため、デッキから1枚ドローし、手札を1枚デッキに戻す」

 

 ここで手札交換をさらに行うネイロス。その引いたカードを見た瞬間に、獰猛な笑みを浮かべた。しかし、それはすぐに使わず、手札を1枚デッキに戻すと。

 

「逆徒ネイロイの効果発動! 私の場の他の『夢魔鏡』モンスター1体をリリースし、それとはレベルが異なる『夢魔鏡』モンスター1体をデッキから選択。そのモンスターにカード名が記されている《聖光の夢魔鏡》か《闇黒の夢魔鏡》をデッキから手札に加え、選んだモンスターを特殊召喚する!」

「……」

「私が選ぶのは《夢魔鏡の白騎士-ルペウス》。よって、そこに記されている《聖光の夢魔鏡》を手札に加え、この白騎士ルペウスを特殊召喚!」

 

夢魔鏡の白騎士-ルペウス

ATK1000 レベル8

 

 使徒ネイロイが光と共に消失し、新たに現れたのは白銀の甲冑を着る騎士。背中からは天使のような白い翼を生やしていた。しかしその攻撃力は、レベル8にしては低い。それでも、俺のフィールドのモンスターを倒せる数値だ。

 

「バトル! 白騎士ルペウスでアラゾニアを攻撃!」

 

 白騎士ルペウスが跳躍し、フィールドで待機しているアラゾニアへ切りかかる。縦に両断されたアラゾニアは、稲妻を迸らせながら爆散した。

 

「逆徒ネイロイでトロマリアを攻撃!」

 

 続く攻撃は逆徒ネイロイ。高笑いを上げながら悪魔の翼を広げると、紫色の雷を放つ。それを真正面から浴びたトロマリアは、ショートするように火花を散らして破壊されてしまった。

 

「白騎士ルペウスの効果発動!《闇黒の夢魔鏡》発動中、メインフェイズ及びバトルフェイズにリリースすることで、デッキから《夢魔鏡の黒騎士-ルペウス》を特殊召喚する!」

 

 白騎士ルペウスが剣をアスファルトに突き刺すと、裂け目から光が漏れ出してルペウスを飲み込む。その光が収まると、そこにいたのは黒い鎧と赤黒い剣の騎士。さらにそれを装備しているのは、黒い肌と髪の禍々しい雰囲気の男だった。

 

夢魔鏡の黒騎士-ルペウス

ATK2800 レベル8

 

「黒騎士ルペウスの効果発動!『夢魔鏡』モンスターの効果で特殊召喚した時、フィールドのカードを1枚破壊する! エニアポリスを破壊!」

 

 ルペウスが剣を虚空に向けて振るうと、赤い斬撃が発生し、エニアポリスの街の至る場所で爆発が巻き起こる。やがて景色は、暗闇に包まれた異国の街へとなってしまった。

 

「黒騎士ルペウスでアトリマールを攻撃!」

 

 黒い鎧の騎士が跳躍し、アトリマールへと迫る。赤黒い剣が振るわれると、今度は悪魔のようなシルエットの斬撃が放たれ、アトリマールへ襲い掛かる。それに包まれたアトリマールは、青い炎を上げて崩壊した。

 これで俺のフィールドのモンスターはラヴァ・ゴーレムだけ。1ターンで「糾罪巧」が全滅してしまうとは。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド。そして《闇黒の夢魔鏡》の効果で、このカードを除外し、手札の《聖光の夢魔鏡》を発動!」

 

 最後の手札を伏せる。あれこそ、ネイロスが引き当てた何らかのカードだ。

 そしてフィールドが光あふれる異国に戻り、ターンが渡る。

 

夢魔鏡の逆徒-ネイロイ

ATK1000→1500

 

夢魔鏡の黒騎士-ルペウス

ATK2800→3300

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム

ATK2500→3000

 

「俺の、ターン……!」

 

 だが俺は、恐れながらカードを引く。

 ここまで状況を一転させられるとは思わなくて、逆転の手立てが見当たらないから、だけではない。

 

「スタンバイフェイズ! ラヴァ・ゴーレムの効果で、貴様は1000ポイントのダメージを受ける!」

 

 ネイロスが宣言する。

 瞬間、鉄檻の外で、溶岩が噴水の如く湧き上がり、鉄檻を包み込んだ。

 

「ぐあああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

バトレアス LP1100→100

 

 地獄としか言いようがない。

 熱に侵され、服どころか皮膚が焼け爛れているのが分かる。

 視界がオレンジだけになり、カードが燃えないのが奇跡と言っていい。

 

「はははははははははは! いい叫びだ! 貴様のような男にはお似合いだな!!」

「……ッ!」

 

 その中でも、頭に響くネイロスの声。

 だけどどうでもいい。

 一刻も早く、デュエルを終わらせなければ。

 

「魔法カード《痛み分け》……! ラヴァ・ゴーレムをリリース!」

 

 そのカードを発動した瞬間、鉄檻と溶岩が消え去り、俺は異国の地に倒れ伏す。

 

「くっ……!」

 

 火傷の影響か、地面に触れただけで激痛が走る。スーツ越しでも痛みが直に伝わってきた。

 

「《痛み分け》の、効果で……お前は、モンスター1体をリリース、する……!」

「貴様と痛みを分けるなど虫唾が走る。罠発動、《停戦協定》! フィールドのモンスターを全て表にする!」

 

 リリースを強要しようとしたところで、罠が発動された。それは、どこか懐かしい罠カード。そしてアトリマールの効果で裏側状態になっていたネイロスのモンスターが、再び姿を見せた。

 

夢魔鏡の魘魔-ネイロス

DEF3000→3500 レベル10

 

夢魔鏡の魔獣-パンタス

DEF900→1400 レベル4

 

「さらに! フィールドの効果モンスター1体につき500ポイントのダメージを貴様に与える!」 

「……あ」

 

 《停戦協定》のカードが赤く輝き始めた。

 そしてネイロスは両腕を広げ、夢魔鏡の光の空を見上げながら高々と笑うと。

 

「では達者でな、バトレアス! 無限の苦痛にもがき苦しんで地獄へ堕ちろ!!」

 

 《停戦協定》のカードが赤い炎を放つ。

 フィールドの効果モンスターは4体。発生するダメージは2000ポイント。俺のライフを余裕で上回っている。

 

 そしてその数値は、ネイロスのライフも超えていた。

 

 

「罠カード《リフレクト・ネイチャー》発動……! このターン、相手の効果で俺が受けるダメージを……相手に跳ね返す!」

「………………………………は?」

 

 間抜けな声を上げるネイロス。

 俺の目の前に巨大なモノリスが出現し、赤い炎はそれに跳ね返された。

 そして、その炎の行き場所はネイロス以外になくて。

 

ネイロス LP1300→0

 

 唖然とした表情のまま、ネイロスのライフが尽きた。

 そしてフィールドが元の景色に戻り、さらに月の夜空に皹が入り始める。ガラスが割れるような音までするが、不思議と心地よい。

 どうやらデュエルが終わったことで、ネイロスの力も効かなくなり、この空間が終わる……つまり、夢から覚めるということだろう。

 

「勝った……」

 

 ようやく安心し、草原に腰を下ろす。

 勝ち方はいまいち後味が悪いが、命がかかっていたし、あれが最後のチャンスだったから贅沢は無しだ。

 そして、ここで俺は結構なダメージを受けた。こうしてデュエルが終わっても、達成感より疲労感が勝るほどに。現実では無傷であることをただ祈りたいが、そう甘くは――

 

 

「こンの無礼者がアァァァァァァァ!!」

 

 

 思考をぶった切る怒声。

 視線を戻せば、鬼のような形相のネイロスが、俺に向けて腕を突き出し。

 空が崩れるのと同時に、ネイロスの悪魔のような翼が俺の全身を刺し貫いた。

 

 

 

 

「うあああああああああああああっ!!」

 

 突然だった。

 何をしても起きなかったバトレアスが、叫びながら体を起こしたのは。

 

「バトレアス!」

「大丈夫ですか!?」

 

 すぐそばにいたクーリアとプリモアが、いの一番に声を掛ける。クーリアはバトレアスをすぐに抱きしめ、プリモアは安心したらしく笑顔を取り戻す。すぐ脇でバトレアスの精神状態を診ていたグレーシアも、息を深く吐いて安心していて、最大の危険は去ったのだとドリーミアは悟った。

 けれど。

 

「はあっ! はあっ! はあっ!」

 

 そんなドレミコードたちを気にもせず、バトレアスは浅く荒い呼吸を繰り返し始めた。

 

「……バトレアスさん?」

 

 エリーティアが不安になって声を掛けたが、答えない。何かに憑りつかれたように、何度も何度も呼吸を繰り返していた。

 虚空を見上げるその目の焦点は、定まっていない。

 

「はあっ! ぜえっ! はあっ!」

「バトレアス、しっかりして! 落ち着いて!」

「呼吸をゆっくりしなさい!」

「聞こえないの!? 返事して!」

 

 腕を離し、肩を掴んでクーリアは必死に呼びかける。グレーシアも横から声をかけ、ミューゼシアまでもが困惑の声を上げた。

 だけど、バトレアスは落ち着かない。確実に起きているのに、正気を失っている。あまりにも見ているのがつらいのか、プリモアはバトレアスの腕を掴んだまま泣き出した。

 

「……バトレアス」

 

 するとクーリアは、バトレアスの顔を両手で掴み、おでこをこつんとぶつけると。

 

「私を見て。私がここにいる。だから、落ち着いて」

 

 今までとは違う、優しい感じでそう語りかけた。

 ものすごい胆力だ、とドリーミアは感嘆する。

 最初に異変が起きてから今まで、バトレアスは正常ではなかった。そんな彼が心配で、苦しくて仕方がないだろうに、そんな優しい声音で話しかけられるなんて。

 

「はあ……っ、はあ……! はあ……っ」

「大丈夫。大丈夫よ……」

 

 クーリアは、何度も懸命に呼びかける。肩に手を置いて、そっと撫でる。

 そうしていると、徐々にバトレアスの呼吸は落ち着き、目線もクーリアへ向く。

 

「……?」

 

 一度、ゆっくりと瞬きをして、バトレアスは周囲を見た。

 真夜中にもかかわらず、空気が慌ただしくなったのを感じ、ドリーミアは目覚めた。そして部屋を出て、同じように異変に気づいたキューティアと共に、騒ぎの出どころであるバトレアスの部屋に来てみれば、この事態だ。そして気づけば、ドレミコードのみんなが集まっている。

 自分の部屋に、みんなが集合しているのを見て、バトレアスは。

 

「……これは……現実ですか?」

「ええ」

「俺は、生きていますか……?」

「大丈夫。あなたはここにいる」

 

 何かに怯えるような確認に、クーリアは優しく頷いて、もう一度抱きしめる。そして、あやすように背中を軽く叩くと、バトレアスは深く息を吐く。それは、安心から来るものだろう。

 それで今度こそ、ドリーミアだけでない、部屋にいたドレミコードたちは一息つけた。

 

「……何があったの?」

 

 そして落ち着いたのを見て、ミューゼシアがバトレアスに問いかける。

 抱擁を解かれたバトレアスは、戸惑うように視線を左右に揺らしながら、口を開く。

 

「夢を、見たんです」

「夢?」

「……夢魔鏡のネイロス、様と……デュエルを――」

「分かったわ」

 

 ほんのわずかな情報だけで、ミューゼシアは頷いた。何が起きたか理解したのだろう。

 そしてドリーミアにも分かった。あれだけの高熱に冒されても、痙攣を起こしても、血を流しても、()()()()()だったバトレアス。そして本人が、夢を司る大天使ネイロスと夢の中でデュエルをしたとなれば、自ずとどういう状況かは理解できる。

 

「私は少し出るわ。みんなは先に休んで大丈夫よ」

「ミューゼシア様、どちらへ……?」

 

 すぐに踵を返すミューゼシアに、ファンシアが問いかける。

 ミューゼシアは立ち止まり、しかし振り返らず。

 

「アポロウーサ様へ報告する。バトレアスが、ネイロス様に攻撃されたと」

「こんな時間に……? アポロウーサ様もお休みじゃ――」

 

 ドリーミアがごく常識的な話を持ち出すと。

 

「みんなにひとつ言っておく」

 

 そのミューゼシアの発言で、場の空気が重くなり、凍り付く。ドリーミアを含めた誰もが、恐怖を抱いたことだろう。

 

「大切な仲間が理不尽に傷つけられて、のんびり朝を待つほど私はお人よしじゃないの」

 

 振り向かずにそう告げたミューゼシアは、部屋を出ていった。

 そして、残された全員は理解したはずだ。

 ミューゼシアは、激怒していると。

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