ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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※2025年2月23日、指摘を受けてデュエル構成を変更いたしました。


第9話:洒落

バトレアス LP4000 手札1

【モンスターゾーン】

カード無し

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード4

 

 

アリアス LP4000 手札6

【モンスターゾーン】

カード無し

 

【魔法&罠ゾーン】

カード無し

 

 

 後攻のアリアスのターンが始まる。【ラビュリンス】は、こちらが先攻でも動く事に定評があるが、それはなかった。そこまで恵まれていない手札だったと思いたい。

 そして、こちらは伏せカード4枚と残りの手札1枚で……正真正銘のファンデッキで戦わなければならない。初手で《ハーピィの羽根帚》や《大嵐》を使われたら敗北待った無しだが。

 

「手札の《白銀の城の狂時計(ラビュリンス・クックロック)》を墓地へ捨てて効果を発動。このターン、私の場に『ラビュリンス』が存在する場合、通常罠1枚をセットしたターンに発動できます」

 

 古ぼけた柱時計が魔法陣に消えると、鳩時計のように規則的な、しかし明らかに鳥とは違う鳴き声がフィールドに響き渡る。

 とりあえず、いきなり除去札を使ってこなくてよかった。そしてやはり、あちらのデッキは【ラビュリンス】。ただで展開を許すわけにはいかない。

 

「俺はそれにチェーンして、手札から《増殖するG》を墓地へ送って効果発動! このターン、相手がモンスターを特殊召喚する度にカードを1枚ドローする」

 

 最後の手札は、特殊召喚を多用する時代において重要とされる手札誘発カード。展開を止めはしないが、モンスターを特殊召喚する度に相手にドローを許してしまうという、心理的圧力をかけて行動を躊躇させる副次的効果を持つカードだ。

 だが、そのカードを墓地へ送った直後、フィールドの中央に何か黒いものが、カサカサ音を立てながら蠢き始めた。名前を言ってはいけない、カード名にもなっている「例のアレ」である。俺は思わず身震いし、ドレミコードの皆の方からも「ひっ……」と小さな悲鳴が上がった。

 

「ちょーいちょいちょいちょい! アリアス、アレ何とかしなさい! とんでもない事になるわよ!」

 

 中でも一番狼狽えているのは姫様。やはり姫であっても、コレはかなり堪えるらしい。

 

「ご安心ください、害虫対策は早めが肝心です。《増殖するG》の発動に対し、手札の《灰流うらら》を捨てて効果発動! デッキからカードを手札に加える効果を含む効果の発動を無効にします」

 

 一方のアリアスは冷静に、《増殖するG》と双璧を成す手札誘発モンスターを使った。こちらも、効果でデッキに触れてあれこれするカードが増えた今の時代、刺さるデッキは多い。

 おでこを出した和装の少女が半透明のままフィールドに現れ、俺の周りをおちょくるように笑いながら軽やかに舞う。すると、フィールドで増殖し始めたアレが跡形もなく姿を消した。

 

「ちょっとバトレアス! こっちは食事中なのに、なんてカード使おうとしてるのよ!」

「申し訳ございません。ですが、こうしなければ十分に動けないもので……」

 

 そして、使ったカードについてドリーミアが抗議する。確かに、台所の黒い悪魔などを食事中に目にしたら、食欲も落ちてしまうだろう。使った俺自身、新しいトラウマが生まれそうだったので、むしろアリアスが無効にしてくれて精神的には助かったとさえ思ってしまっている。

 しかしながら、ドローが許されないのはきつい。これで本当に、この伏せカード4枚だけでこのターンをどうにか凌がなければならなくなった。

 

「私は手札の我が身《白銀の城の執事(ラビュリンス・バトラー)アリアス》を墓地へ送り、効果発動。手札から『ラビュリンス』モンスター1体を特殊召喚するか、通常罠カード1枚をセットします。私は手札より《白銀の城の召使い(ラビュリンス・サーバンツ)アリアンナ》を守備表示で特殊召喚!」

 

白銀の城の召使いアリアンナ

DEF2100 レベル4

 

 今も姫様に奉仕している、アリアンナと同じ姿のモンスターがフィールドに現れる。その守備力は地味に2100と、下級モンスターとしてはかなり高い。

 

「特殊召喚したアリアンナ、そして墓地のクックロックの効果を発動。クックロックが墓地にあり、私が『ラビュリンス』の効果または通常罠を発動するために手札を墓地へ送った場合、このカードを手札に加えるか特殊召喚できます。さらに、アリアンナの効果でデッキから自身以外の『ラビュリンス』カード1枚を手札に加えます」

 

 【ラビュリンス】とはマスターデュエルで何度も戦っている。だから、クックロックはともかくアリアンナの効果を通すのはまずいと判断した。

 

「永続罠《澱神アポピス》発動!」

「私の『ラビュリンス』の効果発動にチェーンしてあなたが効果を発動した事により、墓地の私アリアスの効果が発動します」

「まだだ、さらに永続罠《宮廷のしきたり》発動!」

「?」

 

 アリアスのチェーン発動には構わずカードを発動する。

 このタイミングで永続罠、しかもそれが2枚という事に疑問を抱いているらしいアリアス。だが俺からすれば、この2枚はこのデッキにおける肝だ。

 これでチェーンは5。これ以上アリアスは使えるカードがないらしく、逆順処理でまずはこちらの《宮廷のしきたり》から効果が発動・適用される。

 

「《宮廷のしきたり》がある限り、フィールドの他の永続罠カードは戦闘及び効果では破壊されない」

「戦闘? 永続罠なのに?」

 

 アリアーヌは、その効果の内容に疑問を抱いているようだ。

 だが、次はアリアスのカード効果が処理される。

 

「墓地の我が身アリアスの効果により、このカードを墓地から特殊召喚!」

 

 アリアスと同じ姿のモンスターがフィールドに現れた。

 

白銀の城の執事アリアス

ATK1500 レベル6

 

 攻撃力は下級モンスター程度だが、攻撃表示。恐らくはこのターンで勝負に出るつもりだ。

 

「《澱神アポピス》は発動後、通常モンスターとしてフィールドに特殊召喚される!」

 

 今度はこちらの番だ。

 発動したカードが姿を変え、おどろおどろしい鎧を纏う上半身と、蛇の如き細長い下肢を持つ異形のモンスターとして現れる。

 

澱神アポピス

DEF2200 レベル6

 

「その後、自分フィールドの他の永続罠カードの数まで相手フィールドのカードを選び、その効果をターンの終わりまで無効とする。俺はアリアンナの効果を無効にする!」

「なるほど……」

 

 アポピスが剣を横に力強く薙ぐと、斬撃の余波を受けたアリアンナがしょぼくれた表情になり、全てが灰色に染まる。これで優秀なサーチ効果は封じる事ができた。そして、最初に効果を発動したクックロックはアリアスの手に戻る。

 あちらの手札がどうかは知らないが、アリアンナの効果でサーチするものといえば、大体《白銀の迷宮城(ラビュリンス・ラビリンス)》か《迷宮城の白銀姫(レディ・オブ・ザ・ラビュリンス)》のどっちかだ。いずれも使われるのは厄介なので、それらをフィールドに出させないのがこのデッキで勝つための必須条件だ。

 観戦する姫様がぐぬぬとする一方、アリアスはそれを見て顎に指をやる。思うようにサーチできなかったため、一手を迷っているらしい。やがて方針が決まったらしく、手札のカード1枚を手にする。

 

「私はカードを1枚セット。そしてクックロックの効果で、今伏せた《ビッグウェルカム・ラビュリンス》を発動。手札・デッキ・墓地から『ラビュリンス』モンスターを1体特殊召喚します!」

 

 《ビッグウェルカム・ラビュリンス》のカードが光る。その光の中に、見覚えのあるシルエットが浮かび上がった。

 だがその前に、出てくるモンスターの効果を考えて残りのカードも発動すべきだと思った。

 

「永続罠《深淵のスタングレイ》発動! このカードは発動後、効果モンスターとなってフィールドに特殊召喚される。そしてこのスタングレイは、戦闘では破壊されない!」

「また罠モンスター……?」

 

 またしても発動したカードが姿を変える。奇妙な模様が表面に浮かぶ、電気をまとったエイだ。こちらの使うカードが妙な特性ばかりなのが不思議なのか、エリーティアが小首を傾げている。

 

深淵のスタングレイ

DEF0 レベル5

 

 最後に残った伏せカードも既に発動できるが、ギリギリまで発動するタイミングを見極めるため、やめておく。

 こちらが動きを止めたのを見て、アリアスはモンスターを呼び出した。

 

「その美貌は絶世なり。白銀の威光は、暗き世を遍く魅了する大いなる力! いでませ我が主、《白銀の城のラビュリンス》!!」

 

 高笑いと共に現れる迷宮姫。闇属性のはずだが、白銀のドレスが放つ光がまぶしい。そして、今もテーブルでケーキを食べている姫様と違い、巨大な斧を持っている。

 

白銀の城のラビュリンス

ATK2900 レベル8

 

「出ましたか、姫様……」

 

 先ほどから随分と角が取れた面が目立つ姫様だが、デュエルモンスターズにおいてその効果は中々にえげつない。

 

「《ビッグウェルカム・ラビュリンス》の効果で、私はアリアンナを手札に戻します。そしてこの瞬間、姫様の効果を発動。さらに手札の《白銀の城の魔神像(ラビュリンス・デーモン)》の効果を発動!」

 

 立て続けに発動する「ラビュリンス」の効果。そしてこれで、アリアスの初手は全て明かされた。厄介なフィールド魔法も、勝負服の姫様のカードも持っていなかったわけだ。だからアリアンナの効果でどちらかを手札に加えようとしたのだろう。

 そして、姫様の効果は厄介だ。伏せていたカードを破壊させないためにも、発動するなら今しかない。

 これこそが、このデッキを組むに至ったそもそものカードだ。

 

「永続罠《斬リ番》発動!!」

 

 それを発動した瞬間、強い光が部屋の中を満たす。対戦していたアリアスや、今まさに攻撃を仕掛けてきた姫様、そしてデュエルを観戦している皆も、手や腕でその光を少しでも遮ろうとしているのが見えた。俺はカードの陰に立っているため、光に目が眩んだりはしない。

 

「《斬リ番》はカード効果が10回以上発動したターンに発動でき、モンスターとなってフィールドに特殊召喚される。ただし、俺のエンドフェイズにこの《斬リ番》は再びセットされる。そしてその攻撃力は――」

 

 光が収まり、モンスターの姿が露わになる。赤と黒のボサッとした髪に、黄緑のジャンパーを紺のセーラー服の上に羽織った女性だ。刃が黄緑の刀を肩に担ぐそれは、フィールドに出るや否や姫様に対してガンを飛ばす。一昔前のスケバンみたいなモンスターだ。

 

斬リ番

ATK3000 レベル10

 

「ちょ、何そのステータス!?」

 

 デュエルを観ていた姫様が驚きを露わにする。確かに、この攻撃力は罠モンスターの中でも破格だ。カテゴリによっては切り札級だろう。事実、このカードはこのデッキの切り札だ。

 ただし、これ以上の効果はまだ発動しない。なので処理をアリアスに渡す。

 

「《白銀の城の魔神像》は、罠カードが発動した場合に手札から特殊召喚できます」

 

 巨大な剣を構え、翼が生えた騎士の像が現れる。兜から覗くモノアイは、俺のことを強く睨みつけた。

 

白銀の城の魔神像

ATK2000 レベル7

 

「そして姫様の効果で、私の通常罠カードの効果でモンスターがフィールドから離れた場合、相手のフィールドか、ランダムな相手の手札1枚を破壊できます。私は《宮廷のしきたり》を破壊!」

 

 こちらの手札は0枚。そして《宮廷のしきたり》がある限り、モンスターであり永続罠でもある《澱神アポピス》《深淵のスタングレイ》《斬リ番》は破壊できない。そちらを破壊するのは妥当だろう。

 フィールドにいる姫様が力強く斧を振るうと、《宮廷のしきたり》のカードが風に煽られて破壊された。

 

「《白銀の城の魔神像》を特殊召喚した事により、()()()()()。攻撃宣言時に発動できる罠カードをデッキからセットできます」

 

 次のターンのこちらの攻撃にも備えようとしてくる。【ラビュリンス】は連続して発動する効果で、攻めと守りを共に強固なものにする。隙を見つけるのが非常に困難なテーマだ。

 だが、アリアスは効果を発動した。

 思わずにやけてしまう。ただでさえ発動条件が厳しい《斬リ番》をフィールドに出せただけでも嬉しいのに、さらにその真価まで発揮できるなんて。

 

「《斬リ番》の更なる効果発動!」

「え?」

「《斬リ番》がモンスターゾーンに存在し、相手が効果を発動した時、相手フィールドのカードを全て破壊する!」

「な……!?」

 

 アリアスの表情が驚きに染まった。《斬リ番》が刀を両手で持ち、振り上げる。

 

「喰らえ、ディスリガード・ペナルティ!!」

 

 先ほどのアリアスや、以前戦った天老、ミューゼシア、侵略者は、モンスターの召喚口上や攻撃名を口にしていた。

 しかし俺は、まだこちらに転生して間もなく、リアルのデュエルでそれを口にするのは妙な恥ずかしさもあったので、そういった事はほとんど言わなかった。

 だが今回は、この効果を発動できたのが嬉しくて、自分の中で考えたまま仕舞っておいた、自分で決めた効果名を思わず言ってしまった。

 

『オラァ!!』

 

 それに応えたのかどうなのか、《斬リ番》が威勢のいい声と共に刀を振り下ろす。

 瞬間、とてつもない烈風が巻き起こり、アリアスのフィールドのカードを根こそぎ両断していく。セットされたカードはもちろん、モンスターである魔神像やアリアス、そして姫様さえもそうしてしまうのは胸が痛むが、ついにはアリアスのフィールドからカードはなくなった。

 

「この効果を発動した《斬リ番》はフィールドにセットされる」

 

 存分に力を発揮した《斬リ番》のカードをセットしようとする。

 そこで《斬リ番》が俺の方を振り向いた。ニヤリと白い歯を見せて得意げに笑い、親指を立てる。剛毅なその仕草、そしてこちらの劣勢をひっくり返してくれた事に感謝を告げて、《斬リ番》を中央の魔法&罠ゾーンにセットした。

 

「……魔神像の効果を処理。《フェアーウェルカム・ラビュリンス》をセット」

 

 一方のアリアス。一瞬でフィールドを更地にされた事で、ほんの少し勢いが削がれたような感じがする。

 

「そして手札よりアリアンナを召喚」

 

白銀の城の召使いアリアンナ

ATK1600 レベル4

 

 そういえばこのターン、アリアスはまだ通常召喚をしていなかった。

 アリアンナの効果は最初に特殊召喚された際にアポピスによって無効化されているが、発動自体はしている。だから、アリアンナはもうこのターンに効果を使えない。それでも《フェアーウェルカム・ラビュリンス》の発動には悪魔族モンスターの存在が必要だから召喚するしかないのだ。

 とはいえ、フィールドに出たアリアンナは、状況にかなりドン引いているが。

 

「私はこれでターンエンドです」

「俺のターン、ドロー!」

 

 何とか自分のターンが回ってきたが、次のターンになれば恐らくより厄介な事になる。【ラビュリンス】相手にこのデッキで1ターン持ちこたえたのは奇跡だ。だからこのターンで、何とか勝利しなければ。

 アリアスがセットした《フェアーウェルカム・ラビュリンス》は、攻撃時にフィールドのカードを破壊してデッキから別の罠カードをセットできる。《宮廷のしきたり》がないため、このまま攻撃すれば返り討ちに遭うだけだが……。

 

「魔法カード《マジック・プランター》を発動。俺の場の表側表示の永続罠《澱神アポピス》を墓地へ送り、2枚ドローする」

 

 有効な手段がないため、手札を補充する。戦闘破壊耐性があるスタングレイは残しておきたかった。

 そして、ドローした2枚を見て、頷く。

 

「《サンダー・ボルト》発動! 相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」

「っ!」

 

 古き良き、しかし一度は禁止となってしまった全体除去カード。けれど、それ故に効果はとても強力だ。

 発動した《サンダー・ボルト》のカードから稲妻が迸り、アリアンナに直撃して破壊する。人の形をしていて、しかも当人が近くにいるので良心が痛むが、もしも傷ついているようなら後で謝る。

 

「《賢瑞官カルダーン》を召喚!」

 

 そして次に召喚するのは、鳥の仮面をつけた、古代エジプト的な装いの屈強な男だ。

 

賢瑞官カルダーン

ATK1400 レベル4

 

「このカードが召喚した時、墓地または手札から永続罠カードを1枚セットできる。墓地の《澱神アポピス》をセット」

 

 カルダーンが手を前に出すと、魔法陣が現れてその中からアポピスのカードが現れてフィールドにセットされる。

 アリアスはまだ動じていない。今こちらのフィールドのモンスターの攻撃力の合計は3300。ダイレクトアタックを受けてもまだライフは700残るから。

 だが、それはこのアポピスが発動しなければの話だ。

 

「カルダーンの効果でセットしたカードはこのターンに発動できる!」

「!?」

「よって《澱神アポピス》を発動し、特殊召喚!」

 

 異形の兵士が再び現れる。今度は攻撃表示だ。

 

澱神アポピス

ATK2000 レベル6

 

「さらに、スタングレイを攻撃表示に変更!」

 

深淵のスタングレイ

DEF0→ATK1900

 

 フィールドに並んだ3体のモンスターを見て、アリアスが諦めたように笑う。どうやら、勝負は決したようだ。

 

「バトルだ」

 

 まず最初に、カルダーンが両手を構え、紫色に光る弾を放つ。アリアスに当てないようにと念じたところ、それはアリアスの足元に着弾した。

 

アリアス LP4000→2600

 

 続いて攻撃するのはアポピス。剣を振ると、斬撃がアリアスの頭上を掠めていく。衝撃が実体化しないかと不安だったが、特に壁が傷ついたりはしていない。

 

アリアス LP2600→600

 

 そしてスタングレイが体中から放った電撃が、アリアスの周囲に降り注いだ。

 

アリアス LP600→0

 

「お見事でした、バトレアスさん」

 

 勝敗が決し、ブザー音が鳴るとともに、アリアスが拍手を贈ってくれる。同様に、ドレミコードの皆もぱちぱちと拍手をしてくれたので、そちらを見てお辞儀を返した。姫様に限っては、アリアスが負けたのが悔しいのか頭を抱えているが。

 その姫様をちらと見た後、アリアスが歩み寄り、握手を求めてくる。俺はデュエルディスクを収納して、それに応え握手を交わす。それからアリアスは、こちらのデュエルディスクに視線を落とした。

 

「中々興味深いデッキでした。良ければ、拝見しても?」

「え」

「大丈夫です。何も奪ったりはしませんから」

 

 いきなり頼まれたのには驚くが、とりあえずはその言葉を信じてデッキを差し出す。アリアスは俺のデッキを確認すると小さく笑った。

 

「……やはり、【罠モンスター】でしたか」

「ええ」

「我々【ラビュリンス】に対してこのデッキで挑むとは、洒落がきいていると言いますか」

「あはは……」

 

 このデッキは自分の意思で持ってきたわけではないと聞けば、どんな反応をするだろうか。面倒な事になるので言わないでおく。

 アリアスの言う通り、このデッキは大半が罠モンスターで構成された【罠モンスター】だ。今回は披露しなかったが、《苦紋様の土偶》や《碑像の天使(エンジェル・スタチュー)-アズルーン》、《量子猫》なども入れている。逆にモンスターカードは10枚もなく、有用な手札誘発や、カルダーンのような罠カードを回収・サポートするモンスターを使う。後は《サンダー・ボルト》のような汎用性のあるカードで固めていた。

 このデッキを組むに至った理由だが、やはり《斬リ番》というカードの存在である。そのカードを初めて見た時、奇妙な発動条件と豪快な効果、そして罠モンスターという珍しい点から、何とかこのカードを使いたいと思い立ったのだ。そして、どうせならデッキのカードをほとんど罠モンスターにするのは面白くないか、という明らかな趣味でこのデッキを作ったのである。

 

「あ、このカード!」

 

 すると、いつの間にかアリアスの後ろからデッキを覗き見ていた姫様が、1枚のカードを指さす。それこそ、大番狂わせを起こした《斬リ番》だ。

 《斬リ番》は効果そのものは突飛で強力だが、発動する機会はほとんど訪れない。今の環境なら1ターンで10回効果が発動する事はざらにあるのでは、と思うだろう。けれど、《斬リ番》に限らずほとんどの罠モンスターは、自分のターンに一度セットする手間が生じる。そして相手のターンに移れば、10回効果が発動する前に除去されるか、10回に届かないうちに展開を終える事がほとんどだ。

 だからこそ、先攻の初手にこのカードを引けたのは奇跡に近く、非常に嬉しい。

 

「これって、上手い事私たちの城のトラップに使えないかしら?」

「そうですね……」

 

 すると、アリアスと姫様は俺のデッキを持ったまま何事かを思案し始めていた。蚊帳の外になってしまったので、一歩後ろに下がる。

 けれどすぐ、アリアスがこちらに視線を戻した。

 

「バトレアスさん。もしよろしければですが、このデッキの罠を使わせてもらってもよろしいですか?」

「え?」

 

 それは、そのデッキを没収するという事だろうか。それは困る。だってそのデッキは、この世界に来る前は【ドレミコード】だったのだ。それに、デュエリストの魂であるデッキを簡単に渡すわけにはいかない。

 だが、そんな懸念は杞憂だとばかりに、アリアスは微笑む。

 

「何も、このデッキをいただくというわけではありません。このデッキの罠モンスターたちの情報を譲っていただければ、後はこちらで罠を作成できますので」

 

 何とも非科学的な話だが、そもそもこの精霊界の存在自体が非科学的だった。

 一度上司のクーリアを見るが、頷いている。大丈夫という事だろう。こちらとしても、デッキは奪われなければいいし、そのレシピも門外不出のままにしたいわけでもない。

 

「分かりました、構いませんよ」

「よーっし、これでまた騎士様へのおもてなしが捗るわー!」

 

 満面の笑みを浮かべる姫様。

 とりあえず、姫様からの評価は悪くないようで安心した。

 

◆ ◇

 

 昼食会の後、俺のデッキから情報を得た姫様が早速罠を仕掛けると宣言したため、音楽会はお開きとなった。

 その帰り際に、アリアスはクーリアに謝礼と思しき封筒(それなりに分厚い)を差し出し、そしてこちらを見る。

 

「バトレアスさんも、罠を提供してくださりありがとうございます」

「いえ。良い結果が出る事を、心よりお祈りいたします」

 

 罠が良い結果を出すという事は、姫様が騎士に勝つという事になる。OCGの設定的にどうなるかは不明だが、役立つのを願った。

 そうして迷宮城を後にして帰路に就く。城の外に出るまでドレミ界へのゲートは開けないとの事だったので、石畳を皆の後に続いて歩く。手に持っているのはクーリアのバイオリンが収まるケースと、行きで約束した通りエンジェリアのトランペットが入ったケースだ。

 

「お疲れ様、バトレアス」

 

 そこで、クーリアが声をかけてくれた。多分デュエルについての労いだろうと思い、頷きを返す。

 

「クーリア様も、演奏お疲れ様です」

「ありがとう。と言っても、メインはあなたとアリアスのデュエルみたいになっちゃったけどね」

 

 本来、演奏会は午後まで続く予定だったので、それがなくなったのはどうなんだろうか。ウィンクをするクーリアに対し、主の割を食ってしまったようで申し訳なくなる。

 それに、少し気になるところもあった。

 

「勝ってよかったんですかね、あのデュエル」

「どうして?」

「言うならここは姫様のホームですし、アリアスさんに花を持たせた方がよかったのかも、と」

「大丈夫よ。あの姫様はそれで悔しがっても根に持ったりする人じゃないし、結果として上機嫌になったんだから」

 

 気にしなくていい、と肩を軽く叩かれる。姫様とはそれなりに付き合いがあるらしいクーリアがそう言うのなら、ひとまずは大丈夫としておこう。

 

「でも、あなたのデッキは不思議ね。ドレミ界では私たちのカードを使っていたのに、カードが変わるなんて」

「あっ、そういえば。グレーシアも言ってたね、こないだは【メタルフォーゼ】……だっけ? それだったって」

 

 クーリアが興味深そうに、さらに近くにいたエンジェリアも話に入ってきた。

 だが、これについては仮説のようなものができている。

 

「……皆さんの姿も浄化の音色も普通の人は気づかない、ってグレーシア様から聞いていまして」

「ええ、その通りよ」

 

 クーリアが肯定し、エンジェリアもこくこく頷く。

 

「それでもしかしたら、ドレミ界の外で皆さんのカードを使う事で、皆さんの存在を知られないようにするためにデッキが変わっているのかな、と」

「えっ、そういう理屈だったの?」

「あくまで仮説です」

 

 エンジェリアが聞き返すが、自信はない。クーリアも考えているのか、腕を組んでいる。

 

「でも、こうしてドレミコードの皆さんに依頼している方々の前でも変わるのを考えると、違うのかなって」

「まあ、私たちの場合は依頼を受ける代わりに私たちの事を口外しないのを絶対条件にしているわ。だから、デュエルを通して第三者に知られる可能性を、っていうあなたの仮説もあながち外れていないかもしれない」

 

 自分の仮説に肯定的な姿勢を見せるクーリア。

 詳しい理屈は誰にも分からないが、このデッキは本当に扱いが難しいのだと改めて理解する。

 そして迷宮城の外に出ると、クーリアがゲートを開き、全員でドレミ界へと戻った。

 

◇ ◆

 

 それから2日後。

 毎朝の仕事としてポストを覗くと、小包が入っていた。誰宛かと思ったが、宛名に『バトレアス様へ』とまさしく自分の名前が書いてあったので驚く。誰からだと思ったが、封蝋は先日の音楽会の依頼状と同じものが使われている。ラビュリンスの誰かからだ。

 他に手紙はなかったので、自室に持ち帰る。小包に手紙が添えられてあったので、先にそちらを読むことにした。

 

『先日は急な申し出にもかかわらずお越し下さり、ありがとうございました。

 また、デッキの情報を提供してくださった事に感謝いたします』

 

 綺麗な文字だが、誰からかは手紙の先頭には書かれていない。

 

『あの翌日、騎士様が城に参りました。その際に普段我々が仕掛けたトラップに加え、貴方様に提供いただいた罠モンスターをけしかけたところ、普段よりも与えたダメージが少し増えたような感じがしました』

 

 どれぐらいの頻度で騎士が来ているかは知らないが、「普段」という言葉が出てくるあたり、月に2~3回ぐらいかもしれない。

 そして、罠モンスターだと与えるダメージが増えたという事は、騎士にとっては仕掛けられた単純な罠より、自立行動をする罠の方が相手をするのが苦しいのか。

 

『なお、バージェストマを敷き詰めた部屋ですが、難なく突破されてしまいました』

 

 SAN値を削られるバージェストマをものともしないとは、騎士の胆力も相当だ。

 

『最終的に騎士様には罠の突破を許してしまいましたが、「普段とは罠の構成が変わっており少々苦戦した」とのコメントを騎士様よりいただきました』

「お」

『姫様もその言葉を聞き、次は負けないと奮起して、今も新たなおもてなしを熟考しております』

 

 どうやら、自分が提供したデッキは決して無駄にならなかったらしい。あの騎士に「苦戦した」と言わしめられ、姫様の力にもなれたのなら十分だ。

 

『重ねて感謝申し上げます。

 またお会いできる日を楽しみにしております

  アリアス』

 

 その一文を読み、自然と頭を下げる。電話越しに「ありがとう」と言われて頭を下げてしまうのと同じだ。文体から何となく察していたが、送り主はアリアスだった。

 そして、また会いましょうと言ってくれるのは、社交辞令であったとしても受け取っておく。

 

『追伸』

「ん?」

 

 だが、その下には文章が続いていた。

 

『騎士様が罠を突破された事への褒美として、件の姫様の写真集をお渡ししようとしましたが、「そういうの興味ないんで」と一蹴されました』

 

 言い方ァ!

 

『なのでバトレアスさんにお渡しします。どうぞお楽しみください』

「『なので』!?」

 

 嫌な予感がして、小包の方を開ける。

 中に入っていたのは、雑誌ぐらいの薄さのA4判の本。表紙に描かれているのは、《白銀の城のラビュリンス》のイラストと同じ構図でポーズを取っている姫様だ。

 

「うそでしょ……」

 

 中身を開ける勇気がないので、包みに戻しベッドの下に仕舞っておく。捨てるなり送り返すなりすればよいのだが、捨てるのは少々可哀想な気がしなくもない。送り返すとしてもこの世界でその方法が分からないし、誰かに聞いたところでまた一悶着起こりそうだ。

 だから結果的に、隠すしか方法がない。

 これが誰にも見つからないことをただただ願う。

 


 

《大体こんな感じ》

 

姫様「待っていましたわよォ――!! 騎士様ァァァ!!」

騎士「あなたは後!!」

姫様「……」

騎士「まずはトラップを止める!」

姫様「……相変わらずなお人ですこと。やはりあの方とは噛み合わないものね」

騎士「だってこっち走って来てるし……」

斬リ番「往生しやがれェェェェェ!!」

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