ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第89話:共生

 クーリアと一緒に眠って以降、睡眠は改善され、どうにか毎晩眠れるようになった。夢見もあまり悪くなく、ネイロスみたいに誰かが俺を殺そうとしたりすることもない。アポロウーサの通告は、今度はちゃんと伝わったようだ。それとも、知らない間に攻撃をしているが、クーリアのプロテクトが効いているのか。どっちかは分からないが、とりあえず他の天使の善性を信じることにしよう。

 ともあれ、まともな休息が取れるようになったことで、体力が回復し、屋敷での仕事も再開している。

 ただ、みんなは俺がまた死にかけたのを心配し、無理はしないよう言ってくれた。そんなみんなに心配をかけさせないよう、やれる範囲で仕事に取り組む。

 

 

 そして、ネイロス襲撃から5日後、俺は久方ぶりにアロマの庭を訪れていた。

 

「それじゃ、少しリラックスして」

 

 敷地内にある建屋の一室。

 治療用の台で仰向けになり、この庭の主・マグノリアを見上げる。彼女が杖を取り出すと、先端のアロマキャンドルが淡い緑の輝きを宿し、その杖を俺にかざした。

 集中するようにマグノリアが目を閉じると、俺の身体全体が緑色のオーラに覆われる。しかし痒みや怠さなどは全くなく、眠くなったりもしない。それが逆に違和感があったものの、マグノリアが俺に害を与えるはずもないので、大人しく寝転がったままでいる。

 ほどなくしてマグノリアが杖を下げると、俺を覆っていたオーラも消えた。

 

「……うん、安定している。『異物感』もないし、大丈夫よ」

「ありがとうございます」

 

 穏やかな笑顔で告げられて一安心し、体を起こす。

 マグノリアの下へ来たのも、ネイロスの攻撃による悪影響が出ていないかを確認するためだ。「アロマ」というテーマがライフポイントの回復に重きを置いているから、この手の診察もお手の物らしい。

 

「いい機会だし、他にも何か気になるところとかはあるかしら?」

 

 それこそ本当の医者みたく尋ねてくるマグノリア。会社で受けた定期診断を思い出させる。

 それはさておき、俺の身体で気になるところと言えば。

 

「……このカードについてなんですが」

「?」

 

 近くの机に置いていたデュエルディスクから、1枚のカードを差し出す。それは、俺が人間をやめるきっかけになった《グランドレミコード・ファンタジア》だ。

 

「人間でありながら、こちら側の世界の力を手にした結果、このカードを手に入れて……俺は一時命を落としかけました」

「ええ、そうね」

「だとすれば……このカードを使うことで、俺にも悪影響が出るものなのでしょうか」

「というと、何か心当たりが?」

 

 記憶に新しいのは、エニアクラフトとのデュエル。最後のターンで、俺はこのファンタジアを使って勝利した。しかし、このカードを呼び出してから決着がつくまでの間、妙な感覚や痛みが消えなかったのは覚えている。

 足元に何かが纏わりつくような感触、寒気、動悸、さらには強烈な頭痛。

 限りなく現実に近かったあのデュエルでも、それらは確かに現実として起きていた。

 なら、やはりこのカードが何かしら影響を及ぼしたと考えられる。

 

「可能性は、無くもないわね」

 

 そんな経緯を話すと、マグノリアは曖昧な答えを返した。

 

「あなたのようなケースは他に見たことがない。だから絶対にそうとは断言できないわ」

「ですよね……」

 

 転生者、というケースだけで言えば、ラベンダーやテータ、そして今はいないヴァーディクトの例が他にある。

 しかし、人間でありながら精霊の力に手を出したのは、俺以外にいないようだ。データがないために、俺の経験した出来事が「そのせい」と言い切れないのだろう。

 

「でも、さっき診た限りあなたの身体に異常はなかった。それでも不安に思うのなら……そのカードは使わないことを勧めておきましょう」

 

 マグノリアに嘘を言っている感じはない。本当に、俺の身体は問題ないのだろう。

 だが、あのカードを使う度にあんな異常に見舞われるのは、正直よくない。今はまだ何も起きていないだけで、もしかしたら積もりに積もってある日突然異変が生じる、という可能性もある。

 それにあの後、事態を察したプリモアによって「治癒」をされていた。カードを使う度にプリモアに負担がかかるというのであれば、尚更悪い。

 

「……これまで通り、このカードはここぞという場面以外では使わないでおきます」

 

 元々《グランドレミコード・ファンタジア》は、入手した経緯もあって普段使いしないようにしていた。かといって、破棄するのは嫌な予感がするし、デュエリストにあるまじき行為。それに何より、効果自体がかなり強くて手放すのは惜しい。

 だから、使うのはエニアクラフトとのデュエルのような、どうしても負けられない時とした方がいいだろう。

 

「また何か気になることがあれば、いつでも言ってちょうだいね」

 

 俺の方針にケチをつけたりもせず、マグノリアはにっこり笑って手を合わせる。

 そして、今度こそマグノリアの診療は終わり、俺は部屋を出た。

 

「マグノリア様、どうでしたか? バトレアスは……」

「問題ないわ。至って健康よ」

 

 出た先ではクーリアが待っていた。そして結果を診たマグノリアに聞くあたり、俺が誤魔化すのを見越していたらしい。

 答えを聞き、クーリアが安心したように微笑むと、マグノリア「さて」と告げて。

 

「お2人は、皆のところへ行っていいわ。お茶を用意してくれてる」

「マグノリア様は?」

「私はちょっと、サンアバロンの森に用事が。そんなに時間はかからないから、すぐ合流するわね」

 

 そう言うとマグノリアは、再び杖を異空間から取り出して軽く振り、光と共に姿を消した。

 それを見届けてから、俺とクーリアは言われた通りの場所へ向かう。

 

「おう、お帰り」

「いかがでしたか?」

「大丈夫でした」

 

 真っ先に出迎えたのはベルガモットとラベンダー。さらに、お茶の準備をしていたカナンガは目礼をしてくれる。

 

「プリモア様は?」

「あちらで、ローリエとジャスミンの2人と花の王冠を作っているところです。マジョラムさんの手ほどきを受けながら」

 

 カナンガが手で示した花畑には、確かにプリモアを含めた4人の姿が見える。プリモアとジャスミンはきゃっきゃと楽しそうで、ローリエは少し恥ずかしそうに花の王冠を編み、マジョラムはそんな3人を見てニコニコ微笑んでいる。

 そこで、プリモアが俺に気付いたらしく立ち上がると、こちらへ無邪気に駆け寄ってきた。

 

「バトレアスさん!」

 

 プリモアの灰色の髪には、確かに花の王冠が載っている。勢いのままに俺に抱きついてきたことで、それがすぐ目の前で主張された。

 

「どうですか? 似合ってますか?」

「ええ、とてもお似合いです」

「ふふっ、ありがとうございます~」

 

 屈託のない笑顔で尋ねられ、俺も正直な答えを返す。そこへ、後からやってきたジャスミンが俺に目礼しながら口を開いた。

 

「プリモアちゃん、王冠作るのすごく上手なんですよ。初めてだって思えないくらいで、教えた私が何かすごく恥ずかしいです……」

「そ、そんなことはありませんよ? ジャスミンちゃんだってすごい上手です!」

「そうかな……それなら嬉しいかも」

 

 ジャスミンが謙遜するが、プリモアはそんな彼女を励ました。どうやら、見た目が幼い女の子同士、打ち解けられたらしい。

 

「ローリエ君も上手でした! それに、私がちょっと手間取った時、さりげなく助けてくれましたよね? あれ、すごく嬉しかったです」

「あ、ありがと……」

 

 そしてローリエのことも褒めるプリモア。褒められたローリエは照れくさそうで、多感な年ごろのようだ。

 

「それでは、お茶にしましょうか」

 

 カナンガが告げ、アロマの面々とクーリア、プリモアが椅子につこうとする。俺はクーリアとプリモアの後ろに控えようとしたが、カナンガに手で着席を促された。

 

「バトレアスさんもどうぞ」

「ですが……」

「今日はお客様ですし」

 

 笑ってそう言われた上、椅子まで引いてもらってしまった。さらにこちらの緊張や遠慮を少しでも減らすよう、用意されたのはクーリアの左隣。これは辞退もしづらいので、致し方なく着席する。そのカナンガが座るのは、俺の左隣だ。

 

「会うのは久々だな?」

「ですね。ヴァーディクトの件以来かと」

 

 ベルガモットに尋ねられて答え、カナンガがハーブティーを淹れてくれたことに会釈する。

 俺が最後にここへ来たのは、ヴァーディクトとの戦いの後、俺を診てくれたマグノリアに礼を伝えに来た時だ。エグザムの事件の際は迂闊に外に出られなかったし、解決した後もS-Forceに拘留されていたから、ここに来るのも数か月ぶりになる。

 

「改めて見ると……少しやつれました?」

「まぁ、色々ありまして」

 

 ラベンダーに聞かれるが、俺は適当に言葉を濁した。

 初めてここに来てから長いこと経つが、その間に起きた出来事はどれもこれも濃密で、俺の心身に疲労を積み立てている。人から見れば分かるほどに、身体に影響が出るのは避けられないだろう。

 

「マグノリアさんに診てもらったんですよね? 何か異常とかは……」

「ううん、大丈夫。問題ないって」

「そうでしたか。よかったです……」

 

 不安そうなプリモアにクーリアが話す。それを聞いてプリモアは安心するが、この手の話に関しては俺の説得力はないということだろう。俺は確実に、心配させないように誤魔化すと(実際、さっきのラベンダーの質問には有耶無耶な答えを返してしまっている)。

 

「あー……お前が来たらちょっと聞きたいことがあったんだが」

「?」

 

 そんな俺たちの様子を見て、ベルガモットが話しかけてくる。そのベルガモットはクッキーをひとつつまみ、俺とプリモアを交互に指さす。

 

「前、その子が来た時に感じたが、その子はお前とクーリアさんの力を少しずつ持っているっぽいな」

「そうですが……そんなことまで分かるんですね」

「伊達にサブリーダーを務めちゃいねぇよ」

 

 俺が最初にこのアロマの庭に来た時も、ベルガモットは俺が転生した人間なのを見抜いていた。やはり、身体の内側にある情報を多少把握する術を持っているらしい。

 

「そもそも、プリモアちゃんがそちらにいらしたのはいつなんですか?」

「あれは、4~5か月ぐらい前ですかね?」

「そうね、その辺りだったはずよ」

 

 俺とクーリアが想いを確かめ合った日。それとほぼ同じタイミングで、ドレミ界にプリモアが現れた。気づけばそれぐらいの月日が流れていて、本当に時間が経つのは早いと感じる。答えると、ローズマリーは納得したようにハーブティーを啜る。

 

「……なるほどなぁ」

 

 するとベルガモットは、何に納得したのかまたビスケットをひとつ摘まむと、俺に視線を固定した。

 

「ざっくばらんな質問をさせてもらうが……」

「?」

 

 ベルガモットが俺に質問を投げかけて、クーリアがハーブティーに口をつけると。

 

「お2人さん……()()の?」

 

 至近距離でクーリアが紅茶を噴き出し、俺は固まった。

 

「……? 寝る、ってお昼寝?」

「一緒にお昼寝ってこと?」

「はーいプリモアちゃんとジャスミンちゃんはちょっとこっち来てね~。後ローリエ君も」

「え、僕は……」

 

 ベルガモットの真意が分からないらしいプリモアとジャスミンは、ローリエを伴ってマジョラムが避難させた。ナイスな判断と言えよう。そしてローズマリーとラベンダーは、顔を赤くしている程度で済んでいる。

 そして4人が離席したのを確認して、カナンガが盛大なため息をついた。

 

「ちょっと、ベルガモットさん。いくら何でもその質問は行きすぎです」

「いや、だって気になるじゃんか」

「時と場所を考えてくださいって言ってんですよ!」

 

 しれっとするベルガモットに、ついにカナンガがツッコミを放った。穏やかな物言いの彼でもここまで動揺するのか、と俺はクーリアの顔についた紅茶の水滴をナプキンで拭きながら考える。

 

「待て待てカナンガ、冷静になれって。俺たちにとっても無関係とは言えないぞ?」

「僕は冷静です! 無関係とは言い切れないっちゃそうかもしれませんが、年端も行かない子がいる前でそういう話題を持ち出すのは無神経ですよ!」

 

 なんで俺とクーリアのそういう事情がアロマの面々に関係あるのか、ものすごい不安で仕方がない。そして気になる。

 なので、カナンガの袖を少しだけ引いて事情を聞くことにした。

 

「あの、何の話をなさってるんです?」

「……ラベンダーさんがどのようにして独自のカードを手にしたか。以前、あなたがここへ来た際、その方法を伺ってましたよね?」

「ええ、それは……」

 

 ラベンダーが俺とのデュエルで使った《導きの風》と《アロマリージ-ストエカス・ラベンダー》。そのカードをどのようにして手にしたのか。俺とビューティアはその方法を確かに聞いていた。

 そしてカナンガは、「おいそれと人には話せない」と言っていたが――

 

「つまりそういうことです」

 

 観念したようにカナンガが目を伏せて席に戻り、落ち着きを取り戻そうとハーブティーを飲む。

 それで俺も、察した。

 

「……あー、そういう?」

「……はい」

 

 俺とて、事細かに全て聞き返すほど野暮じゃない。カナンガは改めて頷き、恥と後悔でいっぱいいっぱいなのか渋い表情を浮かべた。

 

 マグノリアは、人間と精霊が「つながり」を持つことで、新しい力を宿すと言っていた。

 そしてラベンダーはベルガモットと恋仲にあると聞く。

 さらに、さっきのベルガモットの聞き方。

 

 要するに、転生者と精霊界の存在同士が「寝る」ことで、特別な力が発現するというわけだ。

 

 それが分かったことで、驚くほどに今までの疑問が腑に落ちた。

 プリモアが現れたのも、クーリアが《ドレミコード・ソルフェージア》を手にしたのも、()()をした翌日だ。

 ()()が正しい手段なら、それ以前にクーリアが手にした《ドレミコード・クレッシェンド》や、俺の持つバトリア、ファンタジアは正規の方法で手にしたわけじゃない。だから、人間の俺の身体に大きな異変が生じた。

 そして、正規の手順を踏んでいないからこそ、強力なファンタジアを使う度に、俺に負担がかかるということも考えられる。俺がドレミコードになって身体が多少強化されても、それは最早絶対的な制約なのかもしれない。

 ただし、《幸せの多重奏(ドレミコード・ハピネス)》も正しい手段で手に入れたものではなかった。しかし、あの時は、既に俺もドレミコードになってしまったから、影響が出なかったのだろうか。

 そして、テータもオリジナルのカードを2枚手にしていた。相手は誰だか知らないが、あちらもそれなりに進んでいたわけか。

 デッキの大半がオリジナルだったヴァーディクトは、性格的にその手の行為に抵抗がなさそうに思える。

 

 それを理解したところで、俺も額を押さえる。なんというか、生命の神秘に触れて賢者になってしまった感じだ。

 

「絶対にそう、とまでは言い切れないのですが……あれらのカードが発現する直前で何があったかをおふたりに確かめたら、それだったんです」

 

 ローズマリーがどこかの司令みたいにテーブルに肘をつき、両手を組んでいる。女性の口からそれを告げるのはなかなかハードルが高いはずだ。

 

「いやしかし、驚いたな。新しいカードならともかく、新しい子までできるってのは……ふたりの子供みたいな感じだ」

「そ、ん……」

 

 そして、当事者のベルガモットは飄々としている。その言葉に反発しようとしたが、途中で自信がなくなった。

 俺とクーリアのすったもんだの結果プリモアが現れて、しかも彼女は俺とクーリアの力を宿している。「力」を「遺伝子」に置き換えれば、そう言うことになってしまうだろう。

 

「あの、ベルガモットさん。それくらいに……」

「クーリアさん顔真っ赤ですよ」

 

 そこへラベンダーとローズマリーの助け舟が出される。そしてローズマリーの発言で横を見れば、クーリアが見たこともないほどに顔を赤くしていた。

 さらに俺は、ベルガモットの後ろを見て背筋が凍る。

 

「でもアレだな。()()で強くなれるんならむしろ推奨――」

「ベルガモット」

 

 ベルガモットの言葉が、その背後から被せられたひと言で断ち切られる。

 そこに立っていたのはマグノリア。サンアバロンの森から帰ってきたらしい。そういえば、そんなに時間はかからないと言っていた。

 いや、それよりも……

 

「……」

 

 マグノリアは、うっすら目を開けて笑っていた。何も言わずに。

 ベルガモットも強烈な怒気を感じ取ったようで、錆びついたボルトを回すように、ぎぎぎと首を回す。

 

「や、やだなあマグノリア様。ジョークですよ、ジョーク。緊張を緩めるため、場を和ませるための俺なりのやり方ですって」

「……」

「……ごめんなさい」

 

 無言の圧力に屈し、ベルガモットは俺とクーリアに向けて平謝り。テーブルに頭をつけるほどに。

 

「ごめんください」

 

 そんなぎくしゃくした場に滑り込む、澄んだ女性の声。

 全員がそちらを見ると、そこには俺も見覚えがある2人の女性が立っていた。

 

「すみません。何度か呼び鈴を鳴らしたのですが、返事がなく……」

「あ、あー、ごめんなさい。ちょっと立て込んでて……」

 

 ぺこりとお辞儀をした女性は、アロマの面々に視線を巡らせる。ローズマリーが女性に申し訳なさそうにするが、来訪者は俺に気付くと。

 

「あら、あなたは……」

「お久しぶりです」

「あ、やっぱり」

 

 覚えてくれていたらしく、改めて挨拶をしてくれた。

 《六花精スノードロップ》と、《六花精ヘレボラス》だ。

 

 

「まさか、驚いたわ。六花の方々ともお知り合いだなんて」

 

 マグノリアの言葉を受け、俺が頭を下げると、スノードロップとヘレボラスが加わったお茶の時間が再開される。

 客が、俺たちドレミコードを認知していない、あるいは知らない人だったらすぐにお暇していた。しかし、「六花」は既にドレミコードに「依頼」をしている。それに俺も会ったことがあるから、出ていく必要もないとのことだった。

 そのマグノリアだが、ベルガモットの横に陣取ってにこやかにティーカップを持っている。肝心のベルガモットは借りてきた猫のように黙りこくっており、冷汗まで垂らしている。隣のカナンガが「後でお仕置きが確定していますので」と補足してくれた。

 

「ドリーミア様と行った依頼で」

「ああ、あの時のね」

 

 俺が六花の面々と知り合いなのを知らないのはクーリアもだったので、説明しておく。ついでに言えば、俺が2人と挨拶をしてからというもの、クーリアはどこか嫉妬じみた目線を俺に向けているので、その弁明もあった。

 

「六花の方々は、アロマの皆さんとも親交が?」

「ええ。住む世界が近いのもありますし」

 

 ヘレボラスが答えてくれる。【アロマ】も【六花】も同じ植物族で、混成デッキも珍しくない。世界が近いとは二次元的な意味ではないだろうが、それなりに友好的な関係を築いているらしい。それが知れたのは嬉しかった。

 

「バトレアスさんには大変お世話になりました。あなたとのデュエルのおかげで立ち直れましたので……」

「ええ。あの日以来、ヘレボラスも六花の仲間を率いるリーダーらしくなりましたよ」

「それは……ヘレボラスさんがご自身で立ち直れたからです。俺はただ、言われた通り戦ったにすぎません」

 

 ヘレボラスがぺこりと頭を下げ、スノードロップにも感謝を示されるが、俺は手を横に振る。確かにあのデュエルで、ヘレボラスは明確に変わった。しかし、その過程で俺はヘレボラスの心を一度挫きかけたし、その上負かしてしまっている。褒められるようなことはできていない。

 けれど、ヘレボラスの雰囲気は前より少し明るくなったように感じる。前は、触れたらすぐに壊れてしまいそうな、儚い印象がしたから。

 

「ところで、お2人はアロマの皆さんにどういったご用事が?」

 

 クーリアが2人に話しかける。下げていた俺の右手を軽く握りながら。自分の存在を忘れないでほしいと言いたげに。

 

「私たちの屋敷で使うアロマをもらいたいのと……」

 

 ヘレボラスはそれだけ告げて、隣に座るスノードロップに視線を移す。それを受け、スノードロップはニコッと笑った。

 

「アロマの皆さんとの絆を、より深く強くするため」

 

 その言葉には、表情と声色以上に大きな感情が含まれているのを感じる。プリモアもそれに気づいたか、持っていたティーカップを怯えるようにテーブルに戻した。

 

「マグノリアさん、よろしいかしら?」

「勿論よ。ただ、そうね……今日はラベンダーにお願いしようかしら。いい?」

「はい。ベルガモット様に鍛えていただきましたから、その成果をお見せするよい機会です」

 

 何か話がトントン拍子に進んでいるが、俺には何が何だかよく分からない。

 分かるのは、スノードロップとラベンダーがそれぞれ左腕にデュエルディスクをつけて、これからデュエルをするつもりということだけだ。

 

「デュエルをなさるんですか?」

「ええ。こうして私たちが会う時はいつも」

 

 クーリアが聞くと、マジョラムは特別でも何でもなさそうに答える。

 その間にスノードロップとラベンダーは、以前俺がデュエルをした、庭の中心にある広いスペースへと移動し始める。

 

「バトレアスさんには馴染みがないかもしれないけれど……デュエルとは、ただ戦うだけのものではない。相手に言葉や気持ちを強く伝えるものであり、相手をより深く知るためのものでもある」

 

 マグノリアが話しかけてくる。

 それは心当たりがないわけでもない。ミューゼシアがそうだったし、ネイロスもそんな感じのことを言っていた(絶対建前だろうが)。それにクルヌギアスは、親睦を深めようとデュエルを挑んできた。

 つまり、精霊界においても、デュエルはコミュニケーションのひとつでもあるらしい。

 

「私たちは六花の皆さんと、良い関係を築いている、と思っている」

 

 そこでマグノリアは、ヘレボラスを見て「どうかしら?」と目で尋ねた。ヘレボラスは笑って頷いている。

 

「実際に顔を合わせて話をして、同じことを経験して、信頼関係を作ることも勿論大切よ。だけど、デュエルにはそれぞれの戦い方や思いが現れやすい。それは実際に戦わなければ知ることができない」

「……」

「そのために、私たちアロマと六花は、定期的に話をして、デュエルをするの」

 

 アロマや六花は、誰彼構わずデュエルを挑むジャンキーなわけではないようだ。それにほっとすると、隣に座るカナンガが新しくお茶を淹れ始める。

 

「……ヴァーディクトは、あなたとのデュエルに負けた後、消滅したと言ってましたよね」

「ええ」

「あのヴァーディクトや、その手下は……デュエルを侵略の手段に使った。それも、こちらの世界の理を越えて力を手にしたうえで、です」

 

 そのカナンガの言葉と目には、憤りのようなものが見えた。彼自身、侵略者とデュエル外で戦ったというのだから気持ちは分かる。

 

「だからかもしれません。デュエルをそういう形で利用し、常軌を逸したから、世界から存在を消された、と」

 

 身震いする。

 もし本当にそうだとすれば、俺やクーリアが手にした新しい力もぞんざいにはできない。ヴァーディクトのような真似をするつもりは微塵もないが、扱い方にはより気をつけなければ。

 それに、ヴァーディクトを消した「存在」も、未知数だ。ミューゼシアは俺が精霊界に来た原理を「神のみぞ知る」と言ったが、クルヌギアスとも違う強大な神がいると思うと、笑えない。

 

「……」

 

 クーリアが黙って俺を見ている。不安もあるだろうが、俺は頷き、今の俺に心配は無用であることを伝える。

 

「まぁ、とは言え。今日のデュエルはそんなに肩肘張ったもんじゃない。バトレアスとラベンダーの時みたいに、親睦を深めるのが目的だ」

 

 ベルガモットが、ようやくマグノリアに対する恐怖から立ち直ったのか、ハーブティーを飲み干す。空いたカップにローズマリーがお代わりを注いだ。

 

「だからドレミコードの皆さんも……今日はゆっくりデュエルを観てくださいな」

 

 マジョラムに促され、俺たちはデュエルフィールドに目を向けた。丁度、お互いにデュエルディスクを展開したところだ。

 

「「デュエル!」」

 

 

 

ラベンダー LP4000

VS

スノードロップ LP4000

 

 幸先よく先攻をラベンダーは取れた。

 六花の面々のデュエルは何度も見たが、実際に戦うのは今日が初めてだ。

 そして、前に観たスノードロップのデュエルから、あちらはかなり強気に攻めると理解している。だから一切の慢心もならないだろう。

 

「私の先攻。《イービル・ソーン》を召喚!」

 

 まず召喚するのは、ピンク色の花と棘だらけの種子がなっている植物だ。

 

イービル・ソーン

ATK100 レベル1

 

「この《イービル・ソーン》をリリースして効果発動! 相手に300ポイントのダメージを与えます」

 

 カードを墓地へ送ると、棘だらけの種子が爆発し、その棘がスノードロップの足元の地面に刺さった。

 

スノードロップ LP4000→3700

 

「さらに、デッキから《イービル・ソーン》を2体まで攻撃表示で特殊召喚できます。ただし、この効果で特殊召喚したモンスターは効果を発動できません」

 

イービル・ソーン ×2

ATK100 レベル1

 

 同じ植物族モンスターが2体並ぶ。さらにスノードロップのライフを減らしたことで、【アロマ】に有利な条件が整った。

 

「現れよ、香しき癒しのサーキット! 召喚条件は植物族モンスター2体。《イービル・ソーン》2体をリンクマーカーにセット!」

 

 手を伸ばし、リンクサーキットを展開する。フィールドにいる2体の《イービル・ソーン》が紫色のオーラに覆われ、サーキットへと吸い込まれる。そして、光の粒子を纏う風が吹いた。

 

「リンク召喚! リンク2、《アロマセラフィ-ジャスミン》!!」

 

 光の風に乗って現れたのは、白く長い髪を靡かせる少女・ジャスミン。「アロマージ」態と違い、ステンドグラスのような翼を背中から生やしている。

 

□□□ アロマセラフィ-ジャスミン

□◆□ ATK1800

■□■ リンク2

 

「私のライフが相手よりも多い場合、手札の《アロマージ-ローリエ》の効果を発動。このカードを特殊召喚します!」

 

 【アロマ】においては中核となるモンスターが出たことで、より戦術の幅が広げられる。早速手にしたライフアドバンテージを活かし、手札からモンスターを呼ぶ。深緑色の服を着る、短い金髪の少年を召喚するのは、ジャスミンの右斜め下だ。

 

アロマージ-ローリエ

DEF 0 レベル1

 

「ジャスミンの効果発動! リンク先の植物族モンスター1体をリリースすることで、デッキから植物族1体を守備表示で特殊召喚します。《アロマリリス-ロザリーナ》を特殊召喚!」

 

 ローリエが目を閉じて姿を消し、黒いドレスに茶髪の妖精が姿を見せた。

 

アロマリリス-ロザリーナ

DEF 0 レベル1

 

「特殊召喚したロザリーナ、さらに墓地へ送られたローリエの効果発動。ローリエの効果で私は500ポイントのライフを回復します」

 

ラベンダー LP4000→4500

 

「そしてロザリーナの効果で、デッキから『アロマ』モンスター1体を特殊召喚できます。《アロマージ-マジョラム》を特殊召喚!」

 

 ジャスミンのリンク先に、焦げ茶色の髪と黒いドレスの女性が降り立つ。こちらは対峙するスノードロップに対して礼儀正しくお礼をした。

 

アロマージ-マジョラム

DEF1600 レベル5

 

「ライフポイントが回復したことで、ジャスミンの効果発動。デッキから植物族モンスター1体を手札に加えます。私は《アロマセラフィ-アンゼリカ》を手札に」

 

 これで、任意のタイミングでライフを回復し、「アロマ」の効果を使えるようになった。そして仕上げに入る。

 

「レベル5のマジョラムに、レベル1のロザリーナをチューニング!」

 

 ロザリーナが杖を振るいながらくるくる回り、ひとつのシンクロの環へと姿を変える。それをマジョラムがくぐると、光が差し込んだ。

 

「恵み深くも刺激的な風が、淀む空気を一掃する! シンクロ召喚! 光来せよ、《アロマセラフィ-スイート・マジョラム》!!」

 

 光を割って歩み出てくるのは、先ほどもフィールドにいたマジョラム。そのドレスには白い色が差し、さらに「アロマセラフィ」特有の翼を生やしている。

 

アロマセラフィ-スイート・マジョラム

ATK2200 レベル6

 

「シンクロ召喚に成功したスイート・マジョラムの効果発動! デッキから《潤いの風》《渇きの風》《恵みの風》のいずれか1枚を手札に加えます。私は《恵みの風》を手札に。そしてカードを2枚伏せてターンエンドです」

 

 

 

「気合入ってんな、ラベンダー」

 

 ラベンダーの1ターン目をベルガモットが評する。

 ライフポイントが相手を上回っていることで、スイート・マジョラムの効果でラベンダーの植物族は相手の効果対象にならない。さらにジャスミンの効果で、自身とそのリンク先の植物族モンスターは戦闘で破壊されない。《恵みの風》は当然伏せたはずだし、ちょっとやそっとであの布陣は突破できないだろう。

 

「そういえば、ラベンダーさんはあの2枚のカードを……」

「大丈夫だ」

 

 ローズマリーが何かをベルガモットに確認するが、彼は懐から2枚のカードを取り出して見せた。それは、俺とのデュエルで使われた《導きの風》と《アロマリージ-ストエカス・ラベンダー》。ラベンダーだけが持つカードだ。

 

「バトレアスの時みたいなことはしねぇよ」

 

 よほど、俺とのデュエルでそれを使ったことを悔やんでいるらしい。だが、あれはこちらも承知の上だったから、あまり気にしないでほしい。

 

「今のラベンダーの素の実力を確かめるにはいい機会だな」

「……ですが、スノードロップ様もお強いですよ」

 

 ベルガモットが笑うと、ヘレボラスもにこやかに、けれど確かな信頼を抱きつつビスケットをひとつ手に取る。目に見えない雷がバチバチとぶつかり合っているのが見えた。

 

「バトレアスはどう見る?」

 

 そこでクーリアが、デュエルフィールドを指さして意見を求めてくる。その隣に座るプリモアも、俺を見ていた。

 

「……まだ、スノードロップさんのターンが回っていないので何とも言えませんが……【六花】であれば何とかなるかと」

 

 モンスターを戦闘で破壊できず、効果の対象にできないのは中々厳しい。だが、【六花】はリリースを戦術のひとつにしている。それをトリガーにした除去もあるし、悲観するには早いはずだ。何より、まだスノードロップはカードを引いてすらいない。

 ドローしてから、勝負が動き出すだろう。

 

「私のターン、ドロー」

 

 スノードロップも、状況はやや厳しいのは理解しているはず。だが彼女は、冷静にカードを引いて手札に視線を落とし、一手を考えている。

 

「《六花のひとひら》を召喚!」

 

 まずは【六花】の初動と言える1枚。白い花がフィールドに咲き、薄水色の髪を揺らす小さな女の子の妖精がその中から現れた。

 

六花のひとひら

ATK 0 レベル1

 

「私は手札の《アロマセラフィ-アンゼリカ》を捨てて、効果発動! 墓地の『アロマ』モンスター1体の攻撃力分のライフを回復します。私が対象に選ぶのは、攻撃力2000のマジョラム!」

 

ラベンダー LP4500→6500

 

 ひとひらを見て、早速ライフ回復を選んだラベンダー。どうやら、あのモンスターの効果やデッキの特性を見て危険と判断したようだ。

 

「ライフが回復したことで、ジャスミンとスイート・マジョラムの効果が発動! スイート・マジョラムの効果で、ひとひらを破壊します!」

 

 スイート・マジョラムが杖を振ると、金色の粒子が混ざる風を起こし、ひとひらを吹き飛ばそうとする。小さな雪の妖精は目を窄めるが。

 

「手札の《六花精ヘレボラス》の効果。私の場に『六花』モンスターが存在し、私の場のモンスターを対象とするモンスター効果を相手が発動した時、手札・フィールドのこのカードをリリースすることで、その効果を無効にする!」

「っ!」

 

 スノードロップが手札を切ると、こちらでお茶を嗜んでいるヘレボラスと同じ姿の幻影がフィールドに現れた。そして傘を悠然と振ると、スイート・マジョラムが起こした風が自然に止む。ひとひらは安心したように息を吐いていた。

 

「私はジャスミンの効果で、デッキより《アロマージ-ジャスミン》を手札に加えます」

 

 【六花】の初動は止められなかったが、カードをサーチしてラベンダーは次のターンに備えた。

 

「少し焦ったな」

 

 ベルガモットが残念そうに零す。

 《六花のひとひら》がいかに優秀かは俺もよく知っているし、先んじて効果を使わせず除去するのは、決して悪いことではない。

 だが、【六花】にはまだまだ厄介なカードが多くある。

 

「ひとひらの効果を発動。デッキから他の『六花』モンスター1体を選び、手札に加えるか墓地へ送る。私は《六花精スノードロップ》を手札に加える」

 

 やはり、手札に加えたのはエクシーズの基礎となる、スノードロップ。とすれば、手札には他の「六花」あるいは植物族が既にいると見ていい。

 

「そしてこのカードは、私の場の植物族モンスター1体をリリースすることで、他の植物族1体と共に手札から特殊召喚できる。ひとひらをリリースし、我が分身スノードロップと《六花精ボタン》を特殊召喚!」

 

 ひとひらが青い光に包まれると姿を消し、2体のモンスターが現れる。デュエルをしているスノードロップと同じ姿のモンスターと、中華風の服を着たお団子頭のボタンだ。

 

六花精スノードロップ

DEF2600 レベル8

 

六花精ボタン

DEF2400 レベル6

 

「特殊召喚したボタンの効果発動! デッキから『六花』と名のつく魔法・罠カード1枚を手札に加える。私は《六花来々》を手札に加えて、このフィールド魔法を発動!」

 

 淀みなく、手札に加えたフィールド魔法を即座に発動する。瞬く間に雲が青空に広がって、雪が静かに降り始めた。これこそ、先んじて破壊するべきだったカード。そして、スノードロップが流れを掴み始めている。

 

「《六花来々》の効果発動。私の場に『六花』モンスターがいる時、デッキから『六花』の魔法・罠カード1枚をセットできる。私がセットするのは《六花絢爛》」

「く……」

「そして、場のスノードロップの効果発動。自分の植物族のレベルを、対象の植物族1体のレベルに揃えることができる。私が対象に選ぶのは、レベル8のスノードロップ自身!」

 

六花精ボタン

レベル∶6→8

 

「レベル8の私自身とボタンでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 フィールドのスノードロップとボタンが水色の光に変わり、曇天に出現したエクシーズの渦へ吸い込まれる。そして光を飲み込んだ渦は爆発を起こし、水色の光でフィールドを満たした。

 

「白雪に滴る涙一粒。慈悲深き青女へと結実せよ! ランク8、《六花聖ティアドロップ》!!」

 

 光の中から歩み出てくる女性。雪のように白く長い髪に、青や紫などの寒色で統一されたドレス、頭にヴェールという花嫁のようなモンスターは「六花」の最大戦力だ。

 

六花聖ティアドロップ

ATK2800 ランク8

 

「そして《六花来々》の効果により、1ターンに1度だけ、『六花』カードの効果を発動する際に必要なリリースを、相手フィールドから利用できる」

「……っ」

「セットされている《六花絢爛》を、あなたのスイート・マジョラムをリリースして発動! デッキから『六花』モンスター1体、《六花のしらひめ》を手札に加える。さらにモンスターをリリースしたため、しらひめと同じレベル4の《六花精シクラン》を手札に加える!」

 

 手札に加わったのは、【六花】でも優秀な誘発効果を持つモンスター。堅実にスノードロップは防御もこなす。

 

「この瞬間、ティアドロップの効果発動。モンスターがリリースされた時、そのモンスター1体につき200ポイント、ターン終了時まで自分の攻撃力をアップさせる!」

 

六花聖ティアドロップ

ATK2800→3000

 

「ティアドロップの効果発動! オーバーレイ・ユニットをひとつ使い、フィールドのモンスター1体をリリースする。私はジャスミンをリリース!」

 

六花聖ティアドロップ

ORU∶2→1

 

 ティアドロップの持つブーケにオーバーレイ・ユニットが吸い込まれると、淡い水色の輝きを放ち始める。それをティアドロップが天へ放ち、無数の花びらがジャスミンに襲いかかった。花びらの雨を浴びたジャスミンは凍りつき、儚くも砕け散ってしまう。

 

「ティアドロップの効果発動。さらに攻撃力をアップする!」

 

六花聖ティアドロップ

ATK3000→3200

 

「これで、ラベンダーさんのフィールドはがら空きに……」

 

 プリモアが不安そうに呟く。このままでは、いきなり攻撃力3200のダイレクトアタック。ライフ差も縮まるどころか逆転だ。

 だが、ラベンダーに視線を移せば、まだまだ勝負は始まったばかりだと言わんばかりに力強い目をしているのが分かった。

 


 

《新しい友人》

 

カナンガ「ベルガモットさんって大概デリカシーがないんで苦労するんです……。しかも僕以外でまともにツッコめるのはマグノリア様ぐらいで……」

バトレアス「あー、それはしんどいですね……。こういう限られたコミュニティだと余計……」

カナンガ「……もしかしてドレミ界にもそういう方がいらっしゃる?」

バトレアス「いえ。以前俺がいた場所(前世)で、同じような軽いノリで口が回る人がいましてね。その雰囲気に乗れないと、逆にこっちが空気読めてない、みたいな感じで居心地が悪くなるんです……」

カナンガ「うわ、つらい……」

バトレアス「ええ。しかも、ここみたいに少人数だったものですから、他の人からの印象も悪くなってしまって負の連鎖が……あぁ……」

カナンガ「……大変、だったんですね……ひとまずお茶のお代わり、いかがです?」

バトレアス「かたじけない……でもカナンガさんも、お疲れ様です……」

 

 

ベルガモット「生真面目コンビが意気投合してら」

ローズマリー「誰のせいだと……」

ローリエ「カナンガさん、さらっとベルガモットさんをディスってたね」

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