ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第92話:忘れていたもの

バトレアス LP4000 手札2(《天獄の王》公開)

【モンスターゾーン】

メタモル・クレイ・フォートレス ATK3200 レベル4

 

【魔法&罠ゾーン】

BBS(ビー・バック・サイト) アクセスカウンター:8

賢瑞官カルダーン

伏せカード1

 

 

騎士 LP4000 手札2

【モンスターゾーン】

No.39 希望皇ホープ ATK2500 ランク4 ORU(オーバーレイ・ユニット)1

No.61 ヴォルカザウルス ATK2500 ランク5 ORU2

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード1

 

 

 

 精霊界に来てから今まで、アニメや漫画に出てきたモンスターと戦ったり、自分で使うことは何度もあった。ナンバーズだって、俺も何体か使ったことがある。

 だが、騎士を前にして感じるこの昂ぶりは初めてのものだ。

 その理由はきっと、騎士がZEXALの主人公と同じカードを使うからだろう。中でも彼女が従えている希望皇ホープは、主人公の頼れるエースモンスターとして、全編を通して活躍していた。そして俺個人として、歴代主人公のエースの中で一番好きなビジュアルだから、無邪気にカッコイイと思っていたものだ。そんなモンスターを間近に見ることができて、嬉しくもある。

 

「墓地へ送られた《ガガガリベンジ》の効果発動。装備モンスターがエクシーズ素材となることでこのカードが墓地へ送られた時、私の場の全てのエクシーズモンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

No.39 希望皇ホープ

ATK2500→2800

 

No.61 ヴォルカザウルス

ATK2500→2800

 

「《BBS》の効果発動! カード効果が発動した時、このカードにアクセスカウンターを1つ置く!」

 

BBS

アクセスカウンター:8→9

 

メタモル・クレイ・フォートレス

ATK3200→3300

 

 感傷に浸るのもほどほどにし、デュエルに集中する。

 《メタモル・クレイ・フォートレス》の攻撃力はかなりのものとなった。けれど、ヴォルカザウルスを前にその攻撃力の高さはあまり意味がない。

 

「ヴォルカザウルスの効果発動。オーバーレイ・ユニットを1つ使い、相手モンスター1体を破壊して、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える! マグマックス!!」

 

No.61 ヴォルカザウルス

ORU:2→1

 

 エクシーズ黎明期に登場したヴォルカザウルスだが、その効果は同世代の中でも頭一つ抜きんでている。今でも通用するレベルの効果だし、同じようなの効果の原点なのもあって「マグマックス効果」と称されるほどだ。

 フィールドのヴォルカザウルスがオーバーレイ・ユニットを1つ噛み砕くと、口から炎の奔流を放つ。それを浴びた《メタモル・クレイ・フォートレス》は炎上、やがて爆発してその余波が襲い掛かってきた。

 

「ぐあああああ……っ!」

 

バトレアス LP4000→3000

 

 やはりナンバーズだからか、その効果の勢いは普通ではない。火の粉が飛び散った服の一部が焦げ、庭の至る所に焼け跡を残した。

 ライフ的にも身体的にもダメージは痛いが、こちらの手札のカードが使えるようになる。

 

「《BBS》の効果、さらに手札の《魔晶龍ジルドラス》の効果発動!」

「ん?」

「ジルドラスは、俺のフィールドの魔法・罠カードが相手の効果でフィールドから離れ、墓地へ送られたか除外された場合、手札または墓地から特殊召喚できる!」

 

 意表を突かれた騎士に目にもの見せようと、フィールドに1体のモンスターを呼び寄せる。全身が黒い鱗で覆われ、胴体や関節に色とりどりの結晶が埋め込まれたドラゴンが現れると、咆哮が空気を震わせた。

 

魔晶龍ジルドラス

DEF1200 レベル6

 

 《メタモル・クレイ・フォートレス》は確かにモンスターだったが、同時に罠カードでもあった。だからこの効果は【罠モンスター】で十分使える。

 

「さらにジルドラスの効果で、俺の墓地・除外状態のカードの中から魔法・罠カード1枚をセットする。俺は《メタモル・クレイ・フォートレス》を再びセット!」

「なるほど」

「そして《BBS》にアクセスカウンターが置かれる」

 

BBS

アクセスカウンター:9→10

 

 ついにアクセスカウンターは最大の10個になった。これで、もう一つの効果を発揮できる。

 

「《BBS》の更なる効果発動! このカードのアクセスカウンターが10になった時、このカードを手札に戻し、モンスター扱いで自身を特殊召喚できる永続罠1枚をデッキからセットする。俺がセットするのは《斬リ番》だ!」

「それが本当の狙いか」

 

 フィールドにあった《BBS》を手札に戻し、伏せるのはそのカードにも写っていた《斬リ番》。このカードがあれば大分安心できる。

 

「私は魔法カード《希望の記憶》発動。私の場の『ナンバーズ』の種類の数だけドローする」

「永続罠《斬リ番》発動! カード効果が10回以上発動したターンに、モンスター扱いとして特殊召喚する!」

「何?」

「《BBS》の効果でセットしたカードは、そのターンに発動できる!」

 

 騎士がドローを加速する前に、このデッキの切り札たる斬リ番を呼び出す。発動したカードが強い輝きを放ち、その光が収まるとそこには斬リ番が刀を担いだ状態で立っていた。

 

斬リ番

ATK3000 レベル10

 

 《BBS》は、効果が発動する度に同じ数だけ効果を発動し、アクセスカウンターを貯めていく。単純に考えれば効果の発動回数が2倍になるため、《斬リ番》の発動を早めることができるのだ。

 このターン、《BBS》には6個のカウンターが置かれた。つまり、12回の効果が発動したことになる。発動難易度が高い《斬リ番》を出し惜しみするわけにはいかなかった。

 

「私は《希望の記憶》の効果で、2体のナンバーズをコントロールしているため2枚ドローさせてもらう」

 

 ただし、騎士のドロー自体は止められない。

 それにしても、この世界においては特異な存在である「ナンバーズ」が複数体いることを前提とするカードまで持っているとは。それだけ騎士も、「ナンバーズ」を複数持つに相応しい力を持っているということか。

 

「エクストラデッキのこのカードは、私の場のランク5または6のエクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できる。よって、私はランク5の《ヴォルカザウルス》でオーバーレイ。1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築、エクシーズ・チェンジ!」

 

 ヴォルカザウルスが赤い光となり、空に広がるエクシーズの渦に吸い込まれる。そのエクシーズの渦が光の柱を庭に落とし、中から現れたモンスターのシルエットは竜に跨る戦士だ。

 

「勇壮なる竜騎士よ。蒼穹を翔け抜け、鋭き一陣の風となれ! ランク7、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》!!」

 

 露わになったその姿は、赤い鎧を纏う翼竜に跨り、2本の槍を持つ騎士。闘志を露わにするように翼竜が咆哮を上げた。

 

迅雷の騎士ガイアドラグーン

ATK2600 ランク7

 

「……おぉ」

 

 興奮のあまり心臓が震える。

 ヴォルカザウルスは、効果を使ったターンに直接攻撃できないデメリットがある。しかし、今フィールドに現れたガイアドラグーンを重ねてエクシーズ召喚すれば、そのデメリットを打ち消して直接攻撃できる、というルートが昔は流行していたのだ(公式ガイドブックにもあった)。それを今まさに目の前でやられ、懐かしさが湧き上がってくる。

 

「バトルだ。ガイアドラグーンでジルドラスを攻撃!」

 

 騎士の攻撃宣言を受け、ガイアドラグーンが舞い上がり、中空で向きを変えてジルドラスへと槍を構え突っ込んでくる。

 

「ガイアドラグーンは守備モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える!」

「ちょ、マズいよバトレアスさん!」

 

 ガイアドラグーンの効果が明かされると、デュエルを観ていたエンジェリアが声を上げた。ガイアドラグーンとホープの攻撃を通せば俺のライフは切れてしまうが、攻撃は想定の範囲内だ。

 

「速攻魔法《ハーフ・シャット》発動! 対象のモンスター1体はこのターン、攻撃力が半分になり、バトルで破壊されない!」

 

魔晶龍ジルドラス

DEF1200 / ATK2200→1100

 

 相手モンスターの弱体化、あるいは自分のモンスターをバトルから守れるこのカードは、状況に応じて使い道を選べるために入れておいたものだ。

 ガイアドラグーンの槍が達するよりも早く、ジルドラスの目の前に障壁が出現した。

 

「そして、手札の《天獄の王》の効果発動! フィールドにセットされた魔法・罠カードが発動した時、このカードを手札から特殊召喚する!」

 

 さっきのターンから公開していたカードをフィールドに出す。

 その直後、ただでさえ暗かった空が一層暗くなり、雲が雷を帯び始める。そして雷が庭に降り注ぎ、雷鳴と共に巨大なモンスターが姿を現した。それは恐竜あるいは怪獣のように2本の脚で立ち、巨大な尻尾と鋭い爪を備え、さらに漆黒の鱗で覆われている。

 

天獄の王

ATK3000 レベル10

 

 呼び出した俺でさえ、そのあまりの巨大さにほんの少しビビっている。デュエルを観ているドレミコードたちも、空を見上げて言葉を失っているが、迷宮姫はキラキラした目をしていた。

 

「ほう、中々倒し甲斐のありそうなモンスターだな」

 

 そして騎士は、むしろ余裕そうだ。肝の太さも申し分ない。

 

「《天獄の王》の効果を公開状態で発動した場合、さらにデッキから魔法・罠カード1枚をセットできる。ただしそのカードは、次のターンのエンドフェイズに除外される。俺は《サイクロン》をセット!」

 

 《天獄の王》の効果で、このデッキのキーである罠モンスターを伏せると、少々無駄遣いとなってしまう。だから、発動が遅れようとも使い道に困りはしないカードを伏せておくことにした。

 

「バトル続行。ガイアドラグーンでジルドラスを攻撃!」

 

 ガイアドラグーンが、止めていた槍をジルドラスに向けて突き出す。障壁に阻まれてその身体は貫けないが、それでも戦闘の余波が伝わってきた。

 

バトレアス LP3000→1600

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

魔晶龍ジルドラス

DEF1200 / ATK1100→2200

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたのは《聖なるバリア-ミラーフォース-》。これなら次のターンにも備えられる。

 そしてこのターンは攻めていかなくては。

 

「《BBS》を再び発動! そして速攻魔法《サイクロン》発動! 左側に伏せられたカードを破壊!」

 

 さっき手札に戻った永続魔法を再び発動したうえで、《サイクロン》を使う。攻撃を少しでも安全に通すため、破壊するのは1ターン目から伏せられていたカードだ。竜巻が発生し、巻き上げられたそれは、罠カード《ヒーロー・メダル》。

 

「《BBS》の効果発動! このカードにアクセスカウンターを1つ置く。そして俺のモンスターの攻撃力は、アクセスカウンター1つにつき100ポイントアップ!」

「こちらは破壊された《ヒーロー・メダル》の効果発動! セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻し、私は1枚ドローする」

「!」

 

 俺が破壊したのは、破壊されることでこそ効果を発揮するものだった。万全を期すために慎重になった結果、却って自分に不利なことが起きてしまうのは変わらない、と思いつつこちらが動くタイミングは逃さない。

 

「《斬リ番》の効果発動! このカードがモンスターゾーンにいて、相手が効果を発動した時、相手フィールドのカードを全て破壊する! ディスリガード・ペナルティ!!」

 

 俺の宣言を聞き、フィールドの《斬リ番》は改めて刀を振り被ると。

 

『どりゃああああああああッ!!』

 

 掛け声と共に刀を振り下ろし、強烈な烈風を発生させる。それは実体を持ち、騎士のフィールドにいるホープとガイアドラグーンを両断、さらに騎士の場に存在していた最後の伏せカード――《バイバイダメージ》だった――をも叩き斬って破壊する。

 

「その後、《斬リ番》は魔法&罠ゾーンにセットされる」

 

 その直前で、《斬リ番》が俺を振り向いてサムズアップをする。最初と同じその仕草に俺は頷き返し、中央の魔法&罠ゾーンに《斬リ番》のカードをセットさせた。

 最後に、最初に効果を発動した《BBS》にアクセスカウンターが置かれる。

 

BBS

アクセスカウンター∶0→1

 

天獄の王

ATK3000→3100

 

 《斬リ番》の真骨頂である全体除去。その効果を発動できたこと自体は嬉しい。

 しかし、気になることも少しだけあった。けれど、今はそれを深く考えている場合じゃない。

 

「《ヒーロー・メダル》と《斬リ番》の効果が発動したことで、《BBS》の効果を2回発動!」

 

BBS

アクセスカウンター:1→3

 

天獄の王

ATK3100→3300

 

「そしてジルドラスを攻撃表示に変更!」

 

魔晶龍ジルドラス

DEF1200→ATK2200→2500

 

「よし、行けるわ!」

 

 ドリーミアの嬉しそうな声が聞こえた。

 騎士のフィールドはガラ空き。このまま攻撃が通れば勝ちだが、向こうは手札がまだ3枚。何となく、うまく攻撃が通る予感がしない。

 

「バトル! ジルドラスでダイレクトアタック!」

 

 それでも攻撃しないわけには行かず、まずはジルドラスに先鋒を任せると、その口を開けて攻撃する姿勢を取る。

 その時、騎士が手札に手をかけた。

 

「相手モンスターのダイレクトアタック宣言時、手札の《ガガガガードナー》の効果発動! このカードを特殊召喚!」

 

 やはり、騎士にこの程度の攻撃は通じない。そして使ってきたのは、またしても馴染みのあるカードだ。

 「我」という漢字に似た、「ガガガ」シリーズのトレードマークが刻まれた盾を持つ戦士がフィールドに現れる。その戦士は改造した学ランのような装いだ。

 

ガガガガードナー

DEF2000 レベル4

 

「《BBS》の効果発動!」

 

BBS

アクセスカウンター:3→4

 

天獄の王

ATK3300→3400

 

魔晶龍ジルドラス

ATK2500→2600

 

「ジルドラスで《ガガガガードナー》を攻撃!」

「《ガガガガードナー》の効果発動! このカードが攻撃対象になった時、手札を1枚捨てることで、この戦闘での自身の破壊を免れる!」

 

 騎士が手札コストに使ったのは《虹クリボー》。鮮明に覚えているからこそ、厄介なカードを墓地に落とされたと心の中で毒づく。そして《ガガガガードナー》の盾が輝きを放ち、ジルドラスの口から放たれた黒曜石の弾丸を弾く。

 しかし、これでまた《BBS》の効果が発動した。

 

BBS

アクセスカウンター:4→5

 

天獄の王

ATK3400→3500

 

魔晶龍ジルドラス

ATK2600→2700

 

「永続罠《メタモル・クレイ・フォートレス》を、ジルドラスを対象に発動! このカードをモンスター扱いで特殊召喚し、ジルドラスを装備する!」

 

 さっきのターンに戻していたカードを発動させると、土の巨人が地響きとともに現れ、ジルドラスを両腕で包み込む。黒い鱗の龍を取り込んだ巨人は、ゆっくりとモンスターゾーンに移動した。

 

メタモル・クレイ・フォートレス

ATK1000→1500→3700 レベル4

 

「そして《BBS》の効果も発動!」

 

BBS

アクセスカウンター:5→6

 

天獄の王

ATK3500→3600

 

メタモル・クレイ・フォートレス

ATK3700→3800

 

「《メタモル・クレイ・フォートレス》で《ガガガガードナー》を攻撃!」

 

 土の巨人が右腕でパンチを繰り出してくる。騎士の手札はまだ1枚残っているため、《ガガガガードナー》の効果で攻撃を止めてくるのかもしれない。

 しかし騎士は、効果を使わなかった。よって戦闘がそのまま成立し、《メタモル・クレイ・フォートレス》の拳を受けた《ガガガガードナー》は破壊される。

 

「攻撃後、《メタモル・クレイ・フォートレス》は守備表示になる」

 

メタモル・クレイ・フォートレス

ATK3800→DEF3200

 

「《天獄の王》でダイレクトアタック!」

 

 最後に、攻撃を控えていた《天獄の王》に攻撃をさせる。

 その方法は、ただ右手のひらを地面に近づけるだけ。上から叩き潰すだけなのだが、何分その手の大きさが家の屋根以上のため、空気が圧縮されるような風と感覚までこちらに伝わってきた。

 だが、そこで騎士のデュエルディスクの墓地が光り輝く。

 

「墓地の《虹クリボー》の効果発動! 相手のダイレクトアタック宣言時、このカードを墓地から特殊召喚する!」

 

 やはり使ってきた。フィールドを騎士が指さすと、広がる魔法陣から小さなモンスターが姿を見せる。丸っこいフォルムで、虹色の角が生えた可愛らしいデザインの悪魔だ。

 

虹クリボー

DEF100 レベル1

 

「《BBS》の効果発動! そして《天獄の王》で《虹クリボー》に攻撃!」

 

BBS

アクセスカウンター:6→7

 

天獄の王

ATK3600→3700

 

 攻撃対象が出現したことで《天獄の王》は一度手を引き、人差し指で地上にいる《虹クリボー》を軽く突く。それだけでも威力はすさまじく、突風が吹き荒れるとともに《虹クリボー》は消滅した。

 

「自身の効果で蘇生した《虹クリボー》は、フィールドを離れた場合除外される」

 

 騎士の言う通り、あのモンスターでダイレクトアタックを止められるのは1度だけ。だが、その1回に阻まれた結果、騎士を仕留め損ない1ターンの猶予を与えてしまった。これは絶対、悪い方向に働く。

 

「あんなに攻撃してもダメージが通らないなんて……」

「それが騎士様の強さってわけよ」

 

 キューティアが残念がる一方、迷宮姫が得意げに笑う。

 キューティアの言う通り、俺は3回もの攻撃をしたにもかかわらず、騎士のライフを削れなかった。流石はラビュリンスを何度も攻略する騎士、打たれ強い。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 最後にミラーフォースを伏せる。

 騎士の手札は1枚だが、《ガガガガードナー》で温存することを選んだカードだ。何か特別なものと見て間違いない。

 一方、《BBS》のカウンターは7個。つまり、後3回効果が発動すれば、また新たな罠モンスターをデッキからセットできる。その場合、最有力候補はカードの効果を無効にできる《澱神アポピス》か。

 

 そしてターンを終えたことで、さっきの引っかかりを考え直す余裕が生まれる。

 それは、騎士は《斬リ番》の効果を知ってて《ヒーロー・メダル》の効果を発動したのか、という点だ。

 斬リ番は、現実で騎士と何度か戦っているらしい。であれば、デュエルモンスターとしての《斬リ番》の効果も知っているのではないだろうか。

 そうでないなら、手札に《ガガガガードナー》と《虹クリボー》がいたから、自分のカードを破壊されてもライフを保てるから手札補充を選んだのか。

 あの2体のどちらかがいなかったから、モンスターが破壊されるのを承知の上で守りの札を引き寄せたかったのか。

 

 いくら考えても、この引っかかりは消えない。

 なんにせよ、次の騎士のターンが勝負どころだ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 注目の騎士のターン。

 ドローカードに目線を落とした騎士は。

 

「……バトレアス、ちょっと痛いのを覚悟してもらうよ」

 

 そう告げただけで、何か特別なカードを引いたと察せる。

 そして騎士は、別の手札を手にした。《ガガガガードナー》の効果のコストに使わなかったカード。

 

「《死者蘇生》発動! 甦れ、希望皇ホープ!」

 

 フィールドに現れる魔法陣。その中から、腕を組んだ状態でホープが姿を見せた。

 

No.39 希望皇ホープ

ATK2500 ランク4

 

「《BBS》の効果発動!」

 

BBS

アクセスカウンター:7→8

 

天獄の王

ATK3700→3800

 

 これで後2回効果が発動すれば、《BBS》の効果でデッキから罠モンスターをセットできる。ただ、騎士の手札は1枚のみ。すぐに発動するのは難しいか。

 

 その時だ。

 騎士が、最後の手札に指をかけて。

 ぞくりと背中が震える。

 

「姫様たちもよく見ておくといい。私の新しい力を披露しよう」

 

 そう告げて、不敵に笑った騎士がフィールドに出したカードは。

 

 

「《RUM(ランクアップマジック)-ヌメロン・フォース》発動!」

『――ッ!?』

 

 ソリッドビジョンで出現した魔法カード。

 それを知らないわけではない。むしろ、ZEXALを見ていたからこそ知っているカード。

 けれど俺は、そのカードが発するオーラと言うか力の片鱗と言うか、兎に角普通ではないものを感じ取り、身震いした。

 そして、それを感じたのは俺だけではないらしい。ラビュリンスも、ドレミコードも、騎士を除いた全員が目を見開き、前に乗り出している。

 

「このカードは、自分フィールドのエクシーズモンスター1体をカオス化し、ランクアップさせる! 私はランク4のホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築、カオス・エクシーズ・チェンジ!」

 

 眩い光に包まれたホープが、青い軌跡を描きながら空へ舞い上がる。《天獄の王》出現によって、暗い空に広がっていた分厚い雲に光が消えると、騎士の瞳のように澄んだ水色の爆発が起こった。そして、快晴と言うにふさわしいほどの青が空いっぱいに広がっていく。

 しかも、空で発生した水色の爆発の余波は、地上にまで及んだ。俺たちがデュエルをしている中庭どころか、迷宮城の城壁までもが、小さな光がいくつも宿る透き通った水色へと変わっていく。ドレミコードやラビュリンスのみんなが、辺りを見回し困惑していた。

 

「現れろ、CNo.(カオスナンバーズ)39!」

 

 青い光の中、太陽のような輝きを放つホープが、フィールドに下りてくる。その全身に、鎧のようなパーツがどこからともなく次々と現れ装着されていき、全体像がみるみるうちに一回り以上大きくなっていく。

 

「未来に輝く勝利への執念が、新たな希望の光を覚醒させる!《希望皇ホープレイ・ヴィクトリー》!!」

 

 そんな中でも、騎士は狼狽えずに口上を告げ、力強くその名を呼ぶ。

 フィールドに降り立ったホープは、白に加えて赤と金の装飾が施された鎧で武装した姿となり、両腕を広げて雄たけびを上げた。

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー

ATK2800 ランク5 ORU1

 

 腕を下ろし、笑うしかなかった。

 このモンスターがどんな力を持っているかを、全部知っているから。

 

「騎士様、そんなカードをいつの間に……?」

 

 騎士は「新しい力」と言っていたが、迷宮姫は本当にヌメロン・フォースを知らなかったらしい。恐れおののく様に尋ねる。

 

「つい最近だよ」

 

 しかし騎士は、あっけらかんと、特別な事は何もないとばかりに答えた。

 

「邪教集団鎮圧の任に就いた時、戦果を挙げた褒章としてね。彼らが隠し持っていたものを貰い受けていたのさ」

 

 よく考えればおかしくもないが、騎士はどこかの国に属しているらしい。迷宮城の攻略(半分腕試しみたいになってしまっているが)だけでなく、本来仕える国の命を受けることもあるようだ。

 

「だけど、この影響力ってかなりヤバくない?」

「ね。何か変な感じ……」

「心配しなくていい。確かにこのカードは特別な力を宿しているが、使っただけで危険なものではない」

 

 アリアーヌとアリアンナは、フィールドの変わりようを単なるソリッドビジョンではないと気づいたらしい。しかし、やはり騎士は軽快に説明する。

 そして、俺に視線を戻す騎士。デュエルを続行するようだ。

 

「ヌメロン・フォースの発動により、フィールドで表側表示の他のカード全ての効果は無効となる!」

 

 指差され、俺のフィールドの《BBS》は色を失った。《メタモル・クレイ・フォートレス》は泥のように崩れ落ち、モノクロのカードへと姿が戻って魔法&罠ゾーンに置かれ、装備されていたジルドラスも破壊されてしまう。《天獄の王》も効果が無効になったが、フィールドで適用される効果がないため影響は少ない。しかし、他と同様に色を失ったことで、その迫力も弱まった気がする。

 

BBS

アクセスカウンター:8→0

 

天獄の王

ATK3800→3000

 

 清々しいほどに、状況をひっくり返されてしまった。

 

「行くぞ! ホープレイ・ヴィクトリーで《天獄の王》を攻撃!」

 

 《天獄の王》を討ち果たさんと、ホープレイ・ヴィクトリーが跳躍する。

 

「このカードが攻撃する時、君は魔法・罠カードを発動できない!」

 

 俺の伏せカードは《斬リ番》とミラーフォース。どちらも完全に潰された。

 

「そして、ホープレイ・ヴィクトリーが相手モンスターに攻撃する時、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、その効果発動!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー

ORU∶1→0

 

 周りを漂うオーバーレイ・ユニットが、ホープレイ・ヴィクトリーの胸の中心に光るコアに吸い込まれる。すると、その身体が青白い輝きを帯び始めた。

 

「ターンの終わりまで、その相手モンスターの効果を無効とし、さらにその攻撃力を自分の攻撃力に加える! ヴィクトリー・チャージ!!」

 

 ホープレイ・ヴィクトリーの両胸の下から小さな腕が出現し、両腰に提げていた剣を鞘から引き抜く。さらに元々あった両腕で、背中に差していた2本の剣を抜き構え、合計4本の剣で戦意を露わにした。

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー

ATK2800→5800

 

「5800……」

「行け、ホープレイ・ヴィクトリー!」

 

 まったくもって、数奇としか言いようがない攻撃力を前に、口から勝手に声が出た。

 しかし騎士は気にせず、攻撃を命じる。

 4本の剣を振り被った、正しき混沌の力を宿す光の使者は、《天獄の王》の胴体目掛けて。

 

「ホープ剣・ダブルヴィクトリー・スラッシュ!!」

 

 剣を振り下ろし、「V」の字が2つ重なるような軌跡の斬撃を放つ。

 《天獄の王》は、その斬撃を身体に刻み込まれると、嵐のような叫び声を上げて大爆発を起こす。

 そして俺は、どこか心地よさを感じながら、その爆風に吹き飛ばされた。

 

バトレアス LP1600→0

 

 

 

 クーリアは、ホープレイ・ヴィクトリーの斬撃が《天獄の王》を切り刻んだのを見たと同時に、バルコニーから駆け出した。

 行き先は、バトレアスのいる中庭に他ならない。

 

 騎士が使ったヌメロン・フォース。あのカードは、見た瞬間にただのカードでないと分かった。しかも、発動したことによって周りの景色や空気までもが変わり、まるですべてがあるべき姿へと戻ったような感覚すらも抱いた。

 思い出すのはエグザム。あれも使っただけでデュエル内外に大きな影響を及ぼし、デュエリストに多大な負荷をかけるものだった。しかし、アレとはまた別の系統だと、クーリアは考えている。

 騎士は、あのカードは使っただけですぐに危険なものではないと言っていた。しかし、ナンバーズが絡むとなれば話は別。あんなカードを、ただでさえ特殊な存在のナンバーズに使った場合、どれほど危険かは分からなかった。

 そんなカードを使われた挙句、バトレアスは負けてしまったのだ。無事であることをひたすら願う。

 

 階段を降り、迂闊に物を踏んだり触ったりしないように駆ける。ヌメロン・フォースの影響なのか、城の中は薄暗く、おまけに色も妙に透き通っている。やはり影響はあるらしい。

 そしてついに、中庭へ出ると。

 

「バトレアス!」

 

 デュエルの影響で植木は薙ぎ倒され、噴水のモニュメントも砕けてしまっている。デュエル前に騎士が言っていた通り、彼女のデュエルは激しかった。

 そして肝心のバトレアスは、倒れていたのか、花壇から上体を起こしたところだった。

 

「大丈夫……? 怪我とかない?」

「……大丈夫、です」

 

 すぐさま駆け寄り容態を確かめる。衣服は少し汚れているが、受け答えができるあたり、大怪我などは免れたようだ。

 けれど、バトレアスは俯いたままだ。そして、肩がわずかに震えている。

 

「……」

 

 その肩に、クーリアは何も言わず手を添える。

 怖い思いをしたかもしれない。何せ騎士が使ったのは、特殊な力を持つ未知のカードだ。現実への影響力も強かったから、目の当たりにして平静を保つのは難しいだろう。

 悔しい思いもしたはずだ。バトレアスは、騎士に一切ダメージを与えられず敗北した。元々望まなかった闘いだし、彼が最近最後に経験したのは、命を賭けたネイロスとのデュエル。ただでさえデュエルに慎重な姿勢だったのに、こんな負け方をして戦意を挫かれてもおかしくない。

 

「バトレアスさん……」

「大丈夫?」

「どこか痛むとかは……」

 

 遅れて駆けつけたドレミコードのみんなも、心配そうにバトレアスに声を掛けてくる。ラビュリンスの面々も、不安そうだ。

 すると。

 

「……はは」

「え……?」

 

 聞き間違いだろうか。

 バトレアスは、微かに笑った気がした。その真意を確かめるために、クーリアは顔を近づける。

 だけど、バトレアスは肩を震わせ、静かに自分の顔を右手で押さえると。

 

「ははは……ははははははははは! あっははははははははははは!!」

 

 声を上げて、笑いだした。

 未だかつて聞いたことがない、笑い声。だけど、普通じゃない力を持つカードの影響を受け、デュエルに負けたこの状況。何が可笑しいのか、クーリアには全く分からなかった。振り返れば、ドレミコードたちも困惑している。

 

「……バトレアス、気でも触れた?」

 

 迷宮姫が暢気に尋ねる。不用意だと言いたげに、アリアスがその脇を肘で突いた。

 だけど、迷宮姫の予想は違うとクーリアは分かる。

 バトレアスは狂ったわけではない。

 

「……すまない。まさか心を壊してしまうとは思わなかった」

 

 そこへ騎士が歩んでくる。

 そこでクーリアは文句のひとつも言いたくなるが、騎士は心底反省しているような顔だった。その顔を見て、糾弾する言葉も消える。

 そして、バトレアスにも騎士の声が聞こえたのか、次第に笑い声が引いていく。

 

「……いいや、違うよ騎士様。俺は大丈夫だ」

 

 そう答えて、バトレアスは顔を上げた。

 何か憑き物が落ちたかのような、晴れやかな顔。そしてその言葉遣いは、デュエル以外で聞くことがほとんどない、格式張っていない素の喋り方。

 クーリアの胸が、ほんの少しだけ高鳴った。

 

「では、さっきの笑いはなんだ?」

「純粋に、楽しかったからだよ」

 

 騎士が手を差し出すが、それには及ばないとバトレアスは手で制し、自力で立ち上がる。それだけで、本当にバトレアスの身体には問題がないことをクーリアも確認できた。

 

「流石騎士様だ。話に聞いた通り、やっぱり強い。単純なフィジカルだけじゃなくて、デュエルも強いだなんて……羨ましくて仕方ないよ」

「それは皮肉かな?」

「とんでもない。心からそう思ってる」

 

 ふぅ、とバトレアスは息を吐く。

 まるで興奮を収めるかのように。

 

「あー……悔しかった。まさか、あんなカードを使われるなんて思わなかった」

「……すまないな」

「謝らなくていい。おかげで、大切なことが思い出せた」

「大切なこと? それはなんだ?」

 

 聞かれて、バトレアスは笑う。

 まるで、純粋な子供のように。

 

 

「デュエルは楽しいんだ、って」

 

 

 その言葉は、聞いたところでどこもおかしくない。

 だけど、それを聞いたクーリアは、胸が少しだけ苦しくなる。

 

「ありがとう。最初は気が進まなかったし、それでこんなことを言うのも何だが……あなたとデュエルができて、良かった」

 

 そんなクーリアの気持ちに気付かないバトレアスは、騎士に右手を差し出した。

 騎士はあっけにとられたように目を見開き、口をわずかに開ける。

 だが、すぐに目を閉じ、小さく笑って。

 

「……こちらこそ。楽しかった」

 

 その右手を握り返した。

 そんな2人の様子を、誰もが安心したように、あるいは嬉しそうに見ている。最初はぎくしゃくした状態で始まったが、終わってみればお互い後腐れなくデュエルを楽しむことができたのだ。気持ちもいいことだろう。

 

「ところで、気になったんだが《斬リ番》の効果は知っていたのか?」

「ああ、あれか。デュエルで斬リ番と戦うのは初めてだったからね。どんな感じに効果を発動するのかを知りたかったのさ」

「……なるほど。聞きしに勝る武人だ」

 

 そして、さっきよりずっと緊張が解けたように騎士と接するバトレアス。デュエルがきっかけで、遺恨を残さず打ち解けられるようなら、クーリアも何よりだと思う。

 

「さて、それじゃあ食事に戻りましょうか。まだ料理が残っているもの」

 

 そこで迷宮姫が仕切ると、騎士やドレミコードのみんなは城へと戻っていく。食べ物を粗末にするのが勿体ないというのは同意見だ。

 そしてバトレアスは、満ち足りた表情で後に続こうとしたが、すぐにクーリアを見る。

 

「クーリア様、どうされましたか?」

「……ううん、何でもない」

 

 少し、気持ちが若干止まっていた。

 けれどバトレアスに声を掛けられたことで、思考を取り戻してみんなの後に続く。

 心なしか、バトレアスとの距離を少しだけ詰めながら。

 

 

 その日の夕方、ミューゼシアはクーリアから「相談がある」と言われた。

 ミューゼシアは不思議な気持ちになりながらも、それに応じ、自分の部屋にクーリアを招き入れる。こうして、クーリアから面と向かって相談をされることは、今までなかったと思う。何か重大な問題でも起きたのだろうか。

 

「急な申し出をしてしまい、すみません」

「大丈夫よ。それより……あなたがこうするということは、何かあったと見ていいかしら?」

 

 今日、ドレミコードのみんなはラビュリンスの下へ演奏会をしに行った。その後で頼みごととなれば、何かしらの問題が起きた可能性が高い。

 ミューゼシアが聞くと、クーリアは少しだけ目を閉じ、気持ちを落ち着かせるように息を吐く。

 

「……ミューゼシア様」

 

 そして意を決して、クーリアは目を開けて、ミューゼシアを見据えると。

 

「バトレアスとデートがしたいです」

 

 


 

《語弊》

 

アリアーヌ「姫様大変! お城のトラップが全部使えなくなっちゃった!」

迷宮姫「な、なんですってー!?」

アリアンナ「さっき騎士様が使ったヌメロン・フォースのせいっぽいね」

迷宮姫「ちょっと騎士様ぁ! あのカードは危険じゃないって話はどうしたのよぉ!?」

騎士「あぁ……確かに危険じゃないとは言ったが、使う私に害がないだけであって、敵にとっては普通に危険な代物だったわけか」

斬リ番「悪びれもしねェその根性見上げたモンだぶっ飛ばしてやらぁ!」

騎士「お、やるかね?」

 

 

クーリア「……早めにお暇した方がいいのかしら」

アリアス「……そうしていただけると幸いです」

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