ドレミコードの従者は元人間   作:プロッター

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第94話:きっかけ

 カタリナの読み聞かせの後、少年・バートンは教室でひとり自習をしていた。他の子どもたちは、デュエルを見学するとか言って広場に向かったけれど、バートンはそんな気分ではない。

 いや、何をしても気持ちが上に向かないのだ。さっきみたいにカタリナが本を読んでくれても、自分ひとりで本を読んでも、誰かと話をしても、気持ちがどこかで歩みを止めたみたいに。

 みんなは、そんな自分のことを気にかけてくれている。だからちゃんとしなくちゃ、とも思っていた。でも、みんなにそうさせてしまう自分が嫌いで気持ちが重い。

 

「……はぁ」

 

 溜息をつき、鉛筆を適当に転がす。勉強も進まなくなってきた。

 その時だ。

 

『おお~!』

 

 窓の外から、声が聞こえた。

 集中できないからカーテンを閉めていたが、どうやらデュエルが盛り上がっているらしい。

 席を立ち、カーテンを開けてみると、やはりデュエルをしていた。デュエルにはそこまで詳しくないから、よくは分からない。だけど、盛り上がっているのだけは分かる。

 

(……勉強飽きてきたし……。観てみようかな)

 

 ここからだと、何が起きているのかちゃんと分からない。

 だから、外へ出てみることにした。

 

 

バトレアス LP4000 手札4

【モンスターゾーン】

ブンボーグ002(ゼロゼロツー) DEF500 レベル2

裏側守備表示モンスター1

 

【魔法&罠ゾーン】

伏せカード1

 

 

ビブリオ LP4000 手札3

【モンスターゾーン】

妖精伝姫(フェアリーテイル)を紡ぐ者 ATK2850 レベル4

 

【魔法&罠ゾーン】

テールズオブ妖精伝姫

妖精の伝姫(フェアリーテイル)

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 本業が作家と言えど、ビブリオにデュエルの心得は十二分にあると言っていいだろう。さっきのターンでワンキルを防げたのは僥倖だが、同じことをされると今度は防げない気がする。だから、こちらも強く出なければ。

 

「俺はスケール1の《ブンボーグ006(ゼロゼロシックス)》と、スケール10の《ブンボーグ005(ゼロゼロファイブ)》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 最初のターンにサーチしていたペンデュラムカード2枚を発動すると、光の柱が2本現れる。片方の柱には、ステープラーやゴム銃、画鋲で武装した紫色のロボット・006。もう片方には、糊やセロハンテープを装備する青いロボット・005だ。

 

「これで、レベル2から9の『ブンボーグ』が同時に召喚可能!」

 

 幅広いレベルをペンデュラム召喚できるスケールだが、「ブンボーグ」ペンデュラムモンスターには、「ブンボーグ」しかペンデュラム召喚できない無効化不可の共通ペンデュラム効果がある。

 だが、それでも十分心強い。

 

「ペンデュラム召喚! 現れろ、レベル8《ブンボーグ008(ゼロゼロエイト)》! レベル9《ブンボーグ009(ゼロゼロナイン)》!」

 

 空に開いた穴から2体のモンスターが降り立つ。

 008は付箋や単語カードを装備したピンク色のロボットで、デザインに女の子らしさがある。

 そして009は、他の「ブンボーグ」の仲間たちの装備を一通り備えた重厚な仕上がりで、他の機体より一回りほど身体が大きい。

 

ブンボーグ008

ATK500 レベル8

 

ブンボーグ009

ATK500 レベル9

 

「攻撃力500ばっかじゃん! よわそー!」

「そうとも限りませんよ?」

 

 観ている子供のひとりが侮るが、俺はをそれをやんわりと否定する。

 

「墓地の《ブンボーグ001(ゼロゼロワン)》の効果発動! 2体以上の機械族モンスターが同時に特殊召喚された場合、このカードを特殊召喚する!」

「《デストラクション・ジャマー》のコストにしていたか」

 

 ビブリオが納得する前で魔法陣が出現し、鉛筆とシャープペンを装備する水色のロボットが飛び上がった。

 

ブンボーグ001

ATK500 レベル1

 

 これで、俺のフィールドの機械族は4体になった。

 

「002の効果で、他の機械族の攻撃力・守備力は500ポイントアップ。さらに008の攻撃力は、墓地の『ブンボーグ』1枚につき500ポイント、001は俺のフィールドの機械族1体につき500ポイント、それぞれアップする!」

 

 俺の墓地には、前のターンに墓地へ送られた002と003(ゼロゼロスリー)の2体がいる。よって、008自身の効果で上がるの攻撃力は1000だ。

 

ブンボーグ008

ATK500→1000→2000

 

ブンボーグ009

ATK500→1000

 

ブンボーグ001

ATK500→3000

 

「さらに、もう1体の002を反転召喚!」

 

 前のターンに《妖精伝姫-シラユキ》によって裏側守備表示にされていた002を表向きにする。002が増えたことで、他の「ブンボーグ」の攻撃力もさらに上がった。

 

ブンボーグ002

DEF500→ATK500→1000

 

ブンボーグ002

DEF500→1000

 

ブンボーグ001

ATK3000→3500→4000

 

ブンボーグ008

ATK2000→2500

 

ブンボーグ009

ATK1000→1500

 

「わっ、何か攻撃力すごく上がってく!」

 

 今度は、さっきフィールドに現れたカグヤを「可愛い」と言っていた女の子が、こちらのモンスターを見て驚いている。馬鹿にしていた男の子も表情が輝いていた。

 

「009の効果発動! このカードの攻撃力を相手ターン終了時まで、俺のフィールドの他の『ブンボーグ』の攻撃力の合計分アップする! ただしこのターン、他のモンスターは攻撃できない!」

「!」

 

 今度はビブリオも目を見開く。

 そして009は、左手に持っている鋏を高々と掲げた。

 

ブンボーグ009

ATK1500→2500→3500→7500→10000

 

「攻撃力1万だって!?」

「すっげー!」

 

 子供たちが前のめりになり、カタリナは口元を押さえ、クーリアも口を小さく開き、妖精体の表情はぱっと明るくなった。特に子供は、こういう単純ながら非常に多い数値、高い攻撃力を好むらしい。俺としても、こんな攻撃力を出せる機会はそうそうないため普通に嬉しかった。

 

 子供たちが言うように、「ブンボーグ」はいずれも素の攻撃力と守備力が500で、それだけ見れば確かに弱い。

 しかし、仲間が沢山いれば攻撃力が上がり、今の009のように戦闘破壊できないモンスターはほぼいないほどにまで強くなれる。

 1体1体の能力はそこまで高くなくても、集まれば強大な力となる。そう言った点が、俺が【ブンボーグ】を組んだ理由だ。それと、昔祖父の家で読んだ漫画に出てきたヒーローをモチーフにしているのもあったからこそ、組んだのもある。

 

 

「バトル! 009で《妖精伝姫を紡ぐ者》に攻撃!」

 

 攻撃宣言を聞き、009が鋏を高く掲げる。刃の部分から光のブレードが伸び、それは人の背丈の二倍を軽く超えた。

 

「009が攻撃する時、相手は魔法・罠・モンスター効果を発動できない!」

「なるほど……!」

 

 攻撃は1回しかできなくなってしまうが、安全に攻撃を通し、かつ大火力で攻撃する。これが【ブンボーグ】のスタンダードな戦い方だ。

 

『いっけー!』

 

 子供たちが一丸となって、009に声援を向ける。そんな子供たちに応じるように、009が鋏を大きく振り、光の刃を《妖精伝姫を紡ぐ者》へ放った。ビブリオと同じ姿なので、攻撃してしまうのは心が痛む。しかし勝つためには仕方がない。

 光の刃が《妖精伝姫を紡ぐ者》に当たり、光が弾けた。

 

「……素晴らしい一撃だ」

 

 しかし、光が収まって姿が再び見えたビブリオは。

 

ビブリオ LP4000

 

「嘘!」

「何でダメージ入ってないの?」

 

 俺が抱いた疑問を、子供たちが聞いてくれた。

 ビブリオは子供たちを見ながら、彼女のフィールドにあるカードを指さす。

 

「《妖精の伝姫》の効果さ。このカードは、私の場に元々の攻撃力が1850の魔法使い族モンスターがいる場合、私が受けるダメージを1ターンに1度だけ0にできる」

「なるほど……」

 

 その説明を聞いて納得する。009は効果の発動を禁止するが、《妖精の伝姫》の効果は永続効果。戦闘ダメージを受ける直前まで《妖精伝姫を紡ぐ者》がいたから、無傷だったのだ。

 そして結果論だが、攻撃力を009に集中させなければ勝てたという事実が悔しい。

 ともあれ、勝てなかったのなら次のターンに備えるまでだ。

 

「メインフェイズ2。レベル9の009に、レベル1の001をチューニング!」

 

 右手を上げると、001が鉛筆削りのような武器を同じように空に掲げる。その姿が緑色のシンクロの環に変わり、それを009がくぐった。

 

「不滅の絆を集わせて、大いなる悪に立ち向かえ! シンクロ召喚! 起動せよ、レベル10!《ブンボーグ・ジェット》!!」

 

 光を割って現れたのは、筆箱のように巨大な直方体。その蓋にあたる部分が開くと、ジェットエンジンが火を吹きながら伸び始め、さらに砲台がいくつも起動した。

 

ブンボーグ・ジェット

ATK500 レベル10

 

「このカードの攻撃力・守備力は、フィールドの『ブンボーグ』カード1枚につき500アップする。今、フィールドの『ブンボーグ』は自身を含め6枚。2体の002の効果と合わせて、攻撃力は4000ポイントアップ!」

 

ブンボーグ・ジェット

ATK500→3500→4500

 

「《ブンボーグ・ジェット》の効果発動! 1ターンに1度、自分フィールドの『ブンボーグ』カード1枚と、フィールドの表側表示カード1枚を破壊する。俺は005と《妖精の伝姫》を破壊!」

 

 対象を指定すると、《ブンボーグ・ジェット》の2つの砲台がそれぞれ指定したカードに向けられる。それらは同時に発射され、弾が命中した2枚のカードは破壊された。《妖精の伝姫》を残しておくと、次のターン以降の勝利に支障が出てしまう。やれるうちに破壊しておきたい。

 

ブンボーグ・ジェット

ATK4500→4000

 

「この瞬間、ペンデュラムゾーンで破壊された005の効果発動! 墓地の『ブンボーグ』1体を特殊召喚できる。甦れ、002!」

 

ブンボーグ002

DEF500→1500 レベル2

 

ブンボーグ・ジェット

ATK4000→4500→5000

 

「特殊召喚した002の効果発動! デッキから《ブンボーグ007》を手札に加える。そしてこの007をペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 手札に加えたのは黄色い身体に鋏のような武器を持つロボット。それをペンデュラムゾーンに置くと、光の柱の中に007が現れ、さらにそのスケール10が数字として現れる。

 

ブンボーグ・ジェット

ATK5000→5500

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 

 一撃必殺が届かなかったのは悔しいが、002の1体が攻撃表示なのもよくない。その攻撃力は1500といまいち心許なく、狙われると地味にきつかった。

 

「《妖精伝姫-ラチカ》を召喚!」

 

 ビブリオが召喚したのは、またしても動物のような女の子。イタチのような白い毛並み、尻尾には大きなリボン、さらに薄い水色のドレスを着て、お姫様然としている。

 

妖精伝姫-ラチカ

ATK1850 レベル4

 

「召喚したラチカの効果発動。君はライフを500回復する」

「何?」

 

バトレアス LP4000→4500

 

「その後、私のデッキの上から3枚のカードを君は確認し、その中から君が選んだ1枚が私の手札になる」

「ふむ……」

 

 相手のライフを回復させる代わりに、新しくカードを手札に加えられるギブ&テイクの効果だ。決定権がこちらにあるのは中々面白い。

 そして、俺の目の前に3枚のカードがソリッドビジョンで現れる。ビブリオのデッキトップ3枚だろうそれは《死者蘇生》、《無限泡影》、《手札抹殺》。中々の強運を感じさせるラインナップだった。

 

「俺は3枚目のカードを選ぶ」

 

 選んだのは《手札抹殺》。

 《死者蘇生》だと、確実にさっき破壊した《妖精伝姫を紡ぐ者》が戻ってくる。《無限泡影》は次のターンまで使われないが、こっちの詰めを妨げられる可能性が高い。

 一方、《手札抹殺》はよほど手札事故が起きていない限り使う機会はない。それに俺の手札は0のため、使われても大して支障がなかった。

 しかしビブリオは、俺が選んだカードを見て頷く。

 

「丁度よかった。《手札抹殺》を発動し、手札を全て捨ててその枚数分だけドローする!」

 

 言いながら、ビブリオは《救援光》《太陽の書》《マジシャンズ・クロス》を墓地へ送って3枚ドローした。どうやら、ビブリオの停滞した手札を変えるきっかけになってしまったらしい。

 

「墓地のマチリルの効果発動。私の場に攻撃力1850の魔法使い族がいるため、このカードを墓地から特殊召喚!」

 

 魔法陣が広がり、ネズミのようなお姫様が再び現れる。危惧していた通りのことが起きてしまった。

 

妖精伝姫-マチリル

ATK1850 レベル4

 

「そして特殊召喚したマチリルの効果発動。デッキから《妖精伝姫のはじまりはじまり》を手札に」

 

 物語の始まりを彷彿とさせるような名前のカードを手札に加えるビブリオ。しかし、それはすぐに発動せず手札に加えると。

 

「レベル4のラチカとマチリルでオーバーレイ! 2体の魔法使いでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 2人のお姫様が黄色い光となり、広場に出現したエクシーズの渦に吸い込まれる。渦が爆発を起こし、動物のシルエットが光の中に見えた。

 

「時に善き、時に悪しきお伽の世界の魔女。気まぐれに、ひと時の夢を現実に! ランク4、《妖精伝姫-ウィキャット》!!」

 

 明らかになった姿は、これまでの「妖精伝姫」とは違う、黒い毛並みの猫みたいな女の子。帽子やドレスも黒系で統一され、口上通り魔女らしい印象だ。

 

妖精伝姫-ウィキャット

ATK1850 ランク4

 

「ウィキャットの効果発動。オーバーレイ・ユニットを2つまで使うことで、その数だけデッキから『妖精伝姫』カードを墓地へ送る。私は1つ使い、デッキより《妖精伝姫-ターリア》を墓地へ送る」

 

妖精伝姫-ウィキャット

ORU:2→1

 

 ウィキャットが手に持っていた黒い魔導書(らしきもの)を開くと、その背後に1人のお姫様の幻影が現れる。しかしその姿はすぐに消えた。

 

「フィールド魔法《妖精伝姫の舞踏会》発動!」

 

 手札交換で引き寄せたであろうフィールド魔法。発動すると、広場の景色がお城のパーティ会場みたく煌びやかな広間に様変わりする。それこそ、おとぎ話で王子様とお姫様が踊るような場所で、子供たちも楽しそうに辺りを見回した。

 

「このカードは発動時、効果処理としてデッキもしくは除外されている『妖精伝姫』1体を手札に加える。私が手札に加えるのは《妖精伝姫-シンデレラ》!」

 

 さらにサーチをする。これだけサーチを繰り返すとなれば、攻勢に出るつもりだろう。

 

「そして速攻魔法《妖精伝姫のはじまりはじまり》。光属性の『妖精伝姫』を、手札・墓地・除外状態の中からそれぞれ1体まで特殊召喚する!」

「!」

「そしてこれにチェーンし、墓地の《妖精伝姫-シラユキ》の効果発動! 私の手札・フィールド・墓地のカード7枚を除外し、このカードを特殊召喚する!」

 

 ビブリオのフィールドに大きな魔法陣が広がる。その中から、除外されるらしい6枚のカード――《融合》《手札抹殺》《救援光》《太陽の書》《マジシャンズ・クロス》《妖精伝姫-カグヤ》――がフィールドに現れ、黄色い粒子となる。さらに、発動した《妖精伝姫のはじまりはじまり》もまた黄色い粒子へ変わった。それらの粒子はひとつになり、前のターンにも見たリスのようなお姫様に変わる。

 

妖精伝姫-シラユキ

ATK1850 レベル4

 

「そして《妖精伝姫のはじまりはじまり》の効果! 除外されたカグヤ、墓地のターリア、手札のシンデレラを特殊召喚!」

 

 ビブリオが誇らしげに両腕を広げると、フィールドにさらに3体のお姫様が現れる。しかもウィキャットは、それを焚きつけるかのように無邪気に笑って杖を振るった。

 

妖精伝姫-カグヤ

ATK1850 レベル4

 

妖精伝姫-ターリア

ATK1850 レベル4

 

妖精伝姫-シンデレラ

ATK1850 レベル4

 

「すっげー!」

「あっという間にお姫様が4人も!」

 

 ペンデュラム召喚もびっくりな大量展開に、子供たちの声が弾む。戦っている俺からすれば、あまり好ましいとは言えないのだが。

 

「特殊召喚したシラユキの効果発動。相手フィールドのモンスター1体を裏側守備表示にする!」

「008の効果により、相手は他の『ブンボーグ』を効果対象にできない!」

「ならば008を裏側守備表示にする!」

 

 フィールドに出てきたシラユキが、またリンゴを取り出し投げつけると、ぶつけられた008は裏側守備表示になる。

 これで「ブンボーグ」が減り、《ブンボーグ・ジェット》の攻撃力はわずかながら下がってしまった。

 

ブンボーグ・ジェット

ATK5500→5000

 

「《妖精伝姫のはじまりはじまり》のさらなる効果。このカードは除外された場合、再びフィールドにセットできる!」

「!?」

「尤も、この効果でセットしたこのカードは、私の場に『妖精伝姫』がいなければ発動できないがね」

 

 制約付きだが、強力な展開効果を使い回せるとは。しかも、今ビブリオの場に「妖精伝姫」は5体。発動条件に困ることはなさそうだ。

 

「墓地の《テールズオブ妖精伝姫》の効果発動。このカードが墓地にある時、このカードを私の場の魔法使い族モンスター1体に装備できる。私はシンデレラに装備!」

 

 墓地から現れた装備魔法がシンデレラに装備されると、その身体が白いオーラに覆われた。

 

妖精伝姫-シンデレラ

ATK1850→2850

 

「ちなみに、シンデレラがフィールドにいる限り、お互いに他のモンスターを魔法カードの効果対象にできない」

「む……」

 

 魔法効果の対象を狭めるのは地味に厄介だ。

 例えば、俺が最初のターンに使った《機械複製術》や、装備魔法なども全てシンデレラにしか使えなくなる。デッキによっては、戦術が成り立たなくなるだろう。

 

「バトルだ。《妖精伝姫の舞踏会》の効果により、私の『妖精伝姫』モンスターは全てダイレクトアタックできる!」

「何だって!?」

 

 極めつけに、フィールド魔法はとんでもない効果を持っていた。いちいち計算しなくても、ビブリオが従える「妖精伝姫」の攻撃力の合計が、俺のライフを上回っているのは分かりきっている。

 

「まずはカグヤでダイレクトアタックだ!」

 

 カグヤが手に持っていた扇子を構える。

 伏せカードの1枚を使うのは今しかない。

 

「《ブンボーグ・ジェット》を対象に、罠カード《立ちはだかる強敵》発動! このターン、相手は《ブンボーグ・ジェット》しか攻撃対象にできず、攻撃可能な全てのモンスターで《ブンボーグ・ジェット》を攻撃しなければならない!」

 

 【ブンボーグ】は4000以上の攻撃力をそれなりに用意しやすい。これで、攻撃力の高い「ブンボーグ」に攻撃を強要させ、根こそぎ返り討ちにすれば――

 

「ターリアの効果発動! 相手の通常魔法・通常罠カードが発動した時、私の場の他のモンスター1体をリリースすることで、その効果を書き換える!」

「な、に……!?」

 

 リリースされたのはシラユキ。そして、発動していた《立ちはだかる強敵》の効果テキストが「相手フィールドの表側表示モンスター1体を裏側守備表示にする」に変化した。

 

「だったら、ターリアを裏側守備表示にする!」

 

 効果を書き換えられた《立ちはだかる強敵》のカードが光を放ち、ターリアはそれを浴びる。もう1枚の伏せカードを考えると、シンデレラは攻撃表示のままにすべきだ。なら、コストが要るにしても、効果を書き換えるターリアの効果は残すわけにはいかない。

 だが。

 

「悪いね。ウィキャットの効果で、私の場の光属性の『妖精伝姫』は君が発動した効果を受けない!」

「何!?」

「ウィキャット本人は闇属性だがね」

 

 ターリアは髪をふっとなびかせて、その光を弾く。その側で、ウィキャットが人の悪い笑顔を浮かべた。完全におちょくられている。

 

「バトル続行! カグヤの攻撃だ!」

 

 広げた扇をカグヤが振ると、突風が発生する。見かけによらず結構な威力の風を巻き起こしてきたが、何とか踏ん張った。

 

バトレアス LP4500→2650

 

「これで幕引きにしよう! シンデレラでダイレクトアタック! ハッピーエンドだ!」

 

 シンデレラが駆け出してくる。

 だが、負けるわけにはいかなかった。

 

「罠カード《体力増強剤スーパーZ》発動! 2000以上の戦闘ダメージを受ける時、4000のライフを回復する!」

「何っ!」

 

バトレアス LP2650→6650

 

 【ブンボーグ】の弱点は、どれも元々の攻撃力と守備力が低い点。万が一その低い数値を晒して大ダメージを受けてしまう場合に備えて、この罠カードを入れておいてよかった。ダメージステップに発動するから妨害されにくいし、何よりネーミングが「ブンボーグ」同様コミカルだからでもある。

 

「これでダイレクトアタックを受けても……」

 

 クーリアがすぐに計算を終えたようで、そう呟く。

 だが、攻撃自体は止められないので、ダイレクトアタックは受けるほかなかった。

 

『やーっ!』

「ぶべっ!?」

 

 シンデレラの攻撃方法は、普通にビンタだった。クーリアにもぶたれたことないのに!

 

バトレアス LP6650→3800

 

「ターリアでダイレクトアタック!」

 

 続くターリアの攻撃。飛び掛かってくると、右腕に噛みつかれた。甘噛などと生易しくはない強さで。

 

バトレアス LP3800→1950

 

「ウィキャットでダイレクトアタック!」

 

 最後に残ったウィキャットは、黒い魔導書を広げると、デフォルメされた黒猫を何十匹も呼び寄せて、俺にけしかけてきた。どれだけ可愛らしかろうと、黒いものがひしめいて迫ってくるのは恐怖でしかない。

 

「うわああああああっ!?」

 

バトレアス LP1950→100

 

 無傷だったライフが一気に100まで減る。お姫様たちの攻撃がどれも個性豊かなのもあって、かなり肝が冷えた。

 そして、これは唯一攻撃力が2000以上だったシンデレラで攻撃してくれたおかげだ。もし、残りの攻撃力1850の妖精伝姫で2回攻撃を喰らっていたら普通に負けだった。子供たちが見ている手前、何度もダイレクトアタックをするよりも、一撃で倒す方がいいと判断したかも知れない。何にせよ、ビブリオに感謝したいところだ。

 

「仕方がない。私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 勝負がつけられなかったのをあまり悔しがらず、ビブリオは伏せカードを仕掛けてターンを終えた。

 

「そして分かっているな? 私の伏せカードの1枚が何かは」

 

 

 

「あの人の負けだね」

 

 クーリアの傍で、急にそんな暗い声がした。

 見れば、さっきカタリナの読み聞かせを聞いても浮かない顔をしていた少年が、いつの間にかそこにいる。

 今の言葉は、クーリアに話しかけたのか、それとも独り言か。分からないが、放置は少し違うと思い話しかけることにした。

 

「……あなたの名前は?」

「バートン」

「バートンくんね。どうして、そう思うのかしら?」

「だってそうでしょ」

 

 バートンという少年は、バトレアスを指さした。

 

「ライフは100、手札もない。ビブリオさんにはさっきの魔法カードもあるし、あの人に勝ち目なんてないよ」

「だけど、あのお兄さん……バトレアスには5体のモンスターがいるわ。それでもそう思う?」

「うん。ビブリオさんの方が余裕そうだし」

 

 なるほど、観察眼は少しあるらしい。

 バトレアスは、実に5体ものモンスターを従えている。しかし、ウィキャットの効果でビブリオの「妖精伝姫」はバトレアスの発動した効果を受けない。さらにバートンが指摘した通り、《妖精伝姫のはじまりはじまり》もあるから、何とかウィキャットや他の「妖精伝姫」を除去しても、また態勢を立て直される。そして次のターンになれば、舞踏会の効果でダイレクトアタックを受けておしまいだ。

 しかも、ビブリオは他に伏せカードがある。本人は余裕を保っていて、ブラフの可能性かま低く、まだ何か策があると見ていい。

 

「みんなもそう思ってるみたいだし」

 

 バートンは、他にデュエルを観ている子供たちを指さす。確かに、カタリナを含めた誰もがビブリオの方に注目し、誰もバトレアスを応援していない。みんなにとって、ビブリオが知り合いなのもあるだろうが。

 

「……そうね、確かにそう。あなたの言っていることは、間違いじゃないわ」

「なら――」

「でも、少なくとも私はそうは思わない」

「え……?」

 

 不思議そうに見上げるバートンに、クーリアは腰を下ろして視線を合わせる。

 

「私はバトレアスが勝つと信じているわ」

「どうして。こんななのに……」

「見てごらん?」

 

 バトレアスを指さす。促されるように、バートンもそちらを見た。

 バトレアスの目は、まだ力強い光を宿している。

 

「あの人は、まだ勝負を捨ててない」

「だからって、それだけで勝てるなんて思わないよ」

「バトレアスがあの目をする時は、いつだって勝ってきたの」

 

 クーリアは、バトレアスの全てを知っていると言い切れない。騎士の件でそれを理解した。

 けれど、クーリアが見てきた限り、あの強い目と表情をしているバトレアスは、どんな状況であっても挫けずに、最後には勝利を掴んできた。

 だからこそ、クーリアは信じられるのだ。

 

「私は何度も彼のデュエルを見て、強さを知っているからこそ、疑わない」

「……」

「そして、勝つか負けるかは観ている人には決められない。全ては、デュエルをしている2人にしか決められないのよ」

 

 

 

 どうやら、件の少年はバートンというらしい。いつの間に観に来たのかは知らないが、心が弱っている彼が観ている以上、半端な結末は見せられない。

 そして、クーリアの言葉も聞こえていた。今の俺に絶対的な信頼を寄せているのであれば、なおのこと負けるわけにはいかない。

 と言っても、状況はビブリオが有利だ。例え従えているモンスターの数が上回っていても、次のターンに勝てなければまたダイレクトアタックを受けて負ける。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 意を決し、カードを引く。

 そしてフィールドの状況を考え、動くことにした。

 

「《ブンボーグ・ジェット》の効果発動! 俺の場の002と、《妖精伝姫の舞踏会》を破壊する!」

 

 まず、このターンに勝負を決められなかった場合に備えて、厄介なフィールド魔法を破壊しにかかる。

 

「永続罠《デモンズ・チェーン》! 対象となった相手モンスター1体の攻撃、効果を封じる!」

 

 だが、それさえも防がれた。

 発動したカードから伸びる鎖が《ブンボーグ・ジェット》の機体を縛り、地面に叩き落してしまう。

 

ブンボーグ・ジェット

ATK5000→2000

 

 しかし、これでビブリオの手の内がひとつ知れた。そして手札のカードがあれば、この状況はまだ何とかなる。

 

「現れろ、正義を貫くサーキット! 召喚条件はリンクモンスターを除くモンスター3体。《ブンボーグ・ジェット》と、2体の002をリンクマーカーにセット!」

 

 まずはフィールドを整えるために、リンクサーキットを開く。サーキットを指さすと、《ブンボーグ・ジェット》は自身を縛っていた鎖を引き千切り、さらにフィールドにいた2体の002と共にサーキットへ飛び込む。モンスターたちを飲み込んだサーキットは、光と稲妻を走らせた。

 

「リンク召喚! 現れろ、堅牢なる正義の執行者! リンク3、《粛星の鋼機》!!」

 

 サーキットから姿を見せたのは、黄緑の光り輝くラインが刻まれた鋼鉄の巨人。だが、人間でいう下半身が存在せず、両腕は本体と分離し、両手には黄緑の稲妻を宿している。

 

■□□ 粛星の鋼機

□◆□ ATK1000

■□■ リンク3

 

ブンボーグ002

DEF1500→500

 

「《粛清の鋼機》の攻撃力は、リンク素材としたモンスターのレベル・ランクの合計×100ポイントアップする。《ブンボーグ・ジェット》と2体の002のレベルの合計は14。残った002の効果と合わせて攻撃力は1900アップだ!」

 

粛星の鋼機

ATK1000→2400→2900

 

「ならば私は、《粛星の鋼機》を対象にカグヤの効果発動! ここで君は、デッキもしくはエクストラデッキの同名モンスター1体を墓地へ送ればこの効果を無効にできるが、そうしなければそのモンスターとカグヤ自身を手札に戻す!」

 

 リンク3を呼び出したことで、何かしてくると思ったらしくカグヤの効果を使われた。

 カグヤのモチーフは、恐らく「かぐや姫」。求婚に来た帝たちに無理難題を吹っ掛けて退けた、というエピソードからきている効果だろう。

 そして、このデッキに《粛星の鋼機》は1枚しかない。モンスターの破壊効果を持つこのカードは、対戦闘破壊耐性モンスターを相手にした際に備え入れていたが、複数枚使うまでもないと思っていたからだ。よってカグヤの効果には応じられず、エクストラデッキに戻すしかない。

 

「ダメじゃん! せっかくのリンク3だったのに!」

「もうビブリオさんの勝ちだ!」

 

 それを見て、子供たちが落胆の声を上げた。そして勝負は決まったと、ビブリオを見て笑っている。

 だが、まだ勝負はついていない。

 

「セッティング済みのスケールは1と10。よって、レベル2から9の『ブンボーグ』が同時に召喚可能!」

 

 光の柱の中にいる2体の「ブンボーグ」を見上げる。彼らは俺と視線が合うと、こくりと頷いた。

 

「大いなる悪に立ち向かう英雄たちよ。今この場所に集い、正義を全うせよ! ペンデュラム召喚! 来てくれ、《ブンボーグ005》!」

 

 空に開いた穴から降りてくる、青いカラーリングの戦士。テープや糊のような武器を構えて、ビブリオのフィールドのお姫様を見据えた。

 

ブンボーグ005

DEF500→1000 レベル5

 

「特殊召喚した005の効果発動! その伏せカードを破壊する!」

「速攻魔法《妖精伝姫のはじまりはじまり》! 墓地のシラユキと、手札のカグヤを特殊召喚!」

 

 破壊しようとしたカードをビブリオが使う。光と共に2人のお姫様が再び現れ、これでビブリオのフィールドにまた5人のお姫様が集結した。そして、005が糊のような銃で白い光線を撃ち、《妖精伝姫のはじまりはじまり》を破壊する。

 

妖精伝姫-シラユキ

DEF1000 レベル4

 

妖精伝姫-カグヤ

DEF1000 レベル4

 

「特殊召喚したシラユキの効果発動! 002を裏側守備表示にする!」

 

 再び蘇ったシラユキがりんごを投げつけ、ぶつけられた002は横向きの伏せカード状態になる。これで最後に残っていた打点強化も消えた。

 

ブンボーグ005

DEF1000→500

 

 しかし、今の《妖精伝姫のはじまりはじまり》の発動タイミングは、ビブリオが最初から狙ったものではないだろう。この内に攻め立てる。

 

「俺は008を反転召喚!」

 

 シラユキの手にかかっていた008を再び表側にする。002の効果はないが、墓地のブンボーグは6体に増えたため、その攻撃力は依然として高い。

 

ブンボーグ008

DEF500→ATK500→3500

 

「さらに、《ブンボーグ003(ゼロゼロスリー)》を召喚!」

 

 1ターン目ぶりとなる、定規を模した武器を装備する、オレンジ色のロボット。スカウターが何らかの数値を計算している。

 

ブンボーグ003

ATK500 レベル3

 

「その効果発動! デッキから《ブンボーグ004(ゼロゼロフォー)》を特殊召喚!」

 

 003が腕を伸ばし、絵具の銃やカラーペンを束ねた剣を構える、赤いロボットがその脇に現れた。

 

ブンボーグ004

ATK500 レベル4

 

「008を対象に003の効果発動! その攻撃力・守備力はこのターン、俺のフィールドの『ブンボーグ』カード1枚につき500ポイントアップする。俺のフィールドの『ブンボーグ』カードは6枚、よって3000ポイントアップ!」

「そんな効果だったとはね……」

 

ブンボーグ008

ATK3500→6500

 

「バトルだ! 008でウィキャットを攻撃!」

 

 攻撃させる。008はそれを聞くと頷いて、攻撃すべきウィキャット目がけて突撃を仕掛けた。

 

「カグヤの効果発動! 君はもう1枚の008をデッキから墓地へ送らなければ、カグヤと共にそれを手札に戻す!」

 

 大きなダメージを前に、再びカグヤの効果をビブリオが使った。これで008を手札に戻してしまえば、完全に俺は手詰まりとなる。

 

「俺はデッキからもう1体の008を墓地へ送る!」

「流石に二度も上手くはいかないか……!」

「さらに、墓地に『ブンボーグ』が増えたことで、008の攻撃力が500ポイントアップ!」

 

 だが、同じ手は二度喰らわない。メインデッキの「ブンボーグ」はエースモンスターの009を除き、全て2枚以上投入済みだ。カードを墓地へ送ると、効果を無効にされたフィールドのカグヤはむすっとした。

 

ブンボーグ008

ATK6500→7000

 

「ならば、永続罠《マジシャンズ・プロテクション》発動! 私の場に魔法使い族がいる限り、私への全てのダメージを半分にする!」

 

 最後の伏せカードはダメージ半減のカード。それが発動すると、ビブリオのお姫様たちの服に虹色のグラデーションがかかった。

 しかし008は、ウィキャットの前に奮然と立って、

 

『好き放題する悪い魔法使いめ! 成敗してやりますわ!』

 

 喋ったー!?

 

『喋ったー!?』

 

 子供たちも驚く。

 その目の前で、008はウィキャットの手を取り、「成敗する」と言っておきながら何故かダンスを始めた。

 

『やーっ!』

 

 かと思えば、008は威勢のいい掛け声と共にウィキャットを背負い空へと投げ飛ばした。殴ったり蹴ったり武器で傷つけたりせず、こんな形で破壊するとは。

 

ビブリオ LP4000→1425

 

 だが、今のは正式な攻撃だったらしく、ビブリオのライフは削れた。

 

「ああっ、あとちょっとだったのに!」

 

 そしてダメージが半減されたため、一撃で仕留められなかった。男の子が頭を両手で押さえ、我がことのように悔しがっている。

 そんな彼を元気づけるように、俺は008を指さして。

 

「まだだ! 008は、1度のバトルフェイズで2回までモンスターに攻撃ができる!」

『!!』

「よって、今度はシンデレラを攻撃!」

 

 ウィキャットを投げ飛ばした008が、今度はシンデレラに駆け寄る。シンデレラは半泣き状態だが、何分擬人化された動物なのでギャグっぽい。

 

『さあさあお姫様、楽しいダンスパーティーはおしまいですのよ!』

 

 言いながら、008はシンデレラの両手を掴むと高速回転を始めて文字通りシンデレラを振り回し、ついには空へと放り投げて。

 

『やな感じ~!!』

 

 どこかで聞いたようなセリフと共に、シンデレラは空の彼方へ飛んで行ってしまった。

 

ビブリオ LP1425→0

 

「うおー勝ったー!」

「すごい! あんなにライフ離されてたのに!」

 

 勝敗が決するとともに、子供たちが歓声を上げる。それを聞き、俺は少しだけ笑って手を振ると、フィールドのモンスターたちが姿を消す。

 

「いやはや、中々面白いデュエルになったよ」

 

 そしてビブリオは、ぱちぱちと手を叩きながら俺の下へ歩いてくる。さらに子供たちに目を向けると。

 

「みんなも楽しんでくれたし、魅せてくれるじゃないか」

「……いえ。正直必死でした」

 

 本当に綱渡りの闘いだった。最後のターンなど、《ブンボーグ・ジェット》の効果を封じられた際には、敗北も視野にあったし、お姫様4人のダイレクトアタックを受けた時も厳しかったものだ。

 

「……あの」

 

 そこで話しかけられる。

 振り返れば、バートンが俺を見上げていた。

 

「聞いても、いい?」

「何でしょう?」

 

 問いかけてきた。他の子どもたちやカタリナは気づいていないが、ビブリオ、そしてすぐそばにやってきたクーリアだけが、その声を聞ける。

 

「どうして、勝てたの?」

「……どうして、ですか」

 

 何とも根本的な質問をされてしまった。

 答えに困るが、決して意地悪でそんな質問をしたのではないと、流石に分かる。

 となれば、考えて真剣に答えたい。

 しかし、明確にこれと言った答えは出ず。

 

「……まぁ、運がよかったって言うのが一番ですかね」

「運?」

「ええ。最後のドローで、あの003を引くまでは、かなり微妙でした」

 

 ビブリオの最後のターンの状況を思い出す。

 仮に通常魔法を引いていた場合、ターリアによってどんな効果も書き換えられた。通常魔法でなくても、フィールドのカードを対象に取る魔法カードならシンデレラにしか使えなかった。しかもウィキャットがいたから、俺が発動した効果を「妖精伝姫」は受けなかった。

 つまり、あの状況で逆転勝ちができるカードは、デッキの中でもかなり限られていただろう。

 

「後はまぁ……勝たないとって言う気持ちがありました」

 

 そもそもこのデュエルは、このバートンに向けてクーリアたちが「浄化の旋律」を奏でられるよう、ビブリオに憑く妖精たちの許しを得るためのものだ。それができなければ、自分たちドレミコードは与えられた使命を果たせない。それがあってはならないから、勝たないといけなかった。

 

「……強くなるには、そういう気持ちと運が大事?」

「まぁ、そうかもしれませんが……」

 

 俺は膝を曲げて、少年と視線の高さを合わせる。

 

「個人としては、まずデュエルを楽しむ気持ちもあるといいかなと」

「……それがあれば、お兄さんみたいに強くなれる?」

「俺が強いかどうかはともかくとして……その気持ちは大切だと思いますよ」

 

 やはり俺は、自分が強いとは思えない。この間だって騎士相手に敗北を喫したのだ。だけど、その騎士とのデュエルで、俺はデュエルをする上で大切なことを思い出せた。

 そんな俺のデュエルを見て、バートンは何か思うところがあったらしい。だから、それを伝えたうえで、聞いてみる。

 

「君はさっきのデュエルを見て、どう思いましたか?」

「……すごかった。最初はお兄さんが負けちゃうんじゃないかって思ったけど、でも、ひっくり返った」

 

 バートンは、少しだけ顔が輝いて見えた。さっきまでとはちがう。

 ただ、やはり子供の目に見ても、俺の敗色は濃厚だったようだ。余計、それを1ターンで巻き返せたのが自分でも幸運と言える。

 

「……僕も、お兄さんみたいなデュエルがしてみたい。そう思った」

「……そうですか」

 

 今のデュエルを見てそう思ってくれたのなら、俺としてもこれ以上に嬉しいことはない。

 

「でしたら、その気持ちは大切に、デュエルに挑戦してみるといい。勿論、無理強いはしませんがね」

「……うん!」

 

 バートンは、最後に笑って頷いた。

 そこへ先生がやってきて、校舎に戻るよう子供たちに言う。デュエルを見ていた他の子たちは、俺とビブリオに向けて手を振り、さらにはバートンもその子たちに交じって校舎へ戻っていった。

 

『……ねぇ、あの子』

 

 そこで、再びビブリオの傍に妖精が現れる。さっきのデュエルで、その正体がカグヤなのは分かった。

 

「ああ。少し、変わったな」

 

 そして、カグヤの言いたいことを汲んだらしいビブリオは、顎に指をあてて頷く。

 そこでクーリアの妖精体もまた出現し、クーリアと視線を合わせて。

 

『あの子の心、ちょっとだけ変われたみたい』

「え?」

 

 妖精体の言葉に、俺は素っ頓狂な声を上げた。

 しかしクーリアは、俺を見て微笑む。

 

「あなたが、あの子の心を変えるきっかけを作ったってことよ」

「……」

「それこそ、私たちの『浄化』のようにね」

 

 胸の中で、熱が渦が巻く。

 俺のデュエルで、ドレミコードの使命のようなことができた。

 

「……ビブリオさんは、最初からこれを狙って?」

「まさか、単なる偶然だよ」

 

 念のために聞いてみるが、ビブリオは肩を竦め、傍にいたカタリナも首を横に振るが、にっこり笑っていた。

 2人もまた、バートンの心に根付いている病が、ほんの少しでも払われたのを察知したらしい。カグヤはまだ不満らしいのか視線を逸らしていたが。

 

「……では、これでクーリア様たちの演奏はお許しいただけますね?」

「ああ、勿論だ。決めたことだからな」

 

 だけど、それだけでは不安だ。やはり予定通り、クーリアたちに依頼をこなしてもらった方がいい。

 それを伝えると、ビブリオは笑って頷く。さらに、カグヤ以外の「妖精伝姫」のお姫様たちも現れると。

 

『は~い……』

 

 少し残念そうに、口をそろえてそう言った。

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