仮面ライダー×仮面ライダー×仮面ライダー W×獄王×カラーズ NOVEL大戦トリニティ   作:アカミツ書庫

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 赤、青、黃、緑
 純白のキャンバスを彩る色
 混ざれば変わる 黒にも白にも
 その筆で塗りつぶすは 
 混沌のその先


第五話 色彩のC/終わりと始まり

 紲星探偵事務所、その奥にあるガレージ。

 きりたんは一人でそこに居た。事件の捜査を行う時は、ここで情報を整理することが日課だった。

 今の時間は早朝であることから、ガレージに居るのはきりたん一人だった。

 

「検索を始めましょう」

 

 そう呟いて、きりたんは両手を広げて目を閉じる。

 すると、きりたんの意識は真っ白な空間へと移動する。その眼前には無数の本棚が現れる。

 これは『地球(ほし)の本棚』と呼ばれる空間である。文字通り地球に存在するありとあらゆる記憶が、本の形になって収められている。きりたんはこの空間に意識をアクセスし、そこに収められた記憶を読むことができる。

 

「キーワードは、桜井カズキ、妖怪、塵塚怪王」

 

 きりたんがそう呟くと、宙に浮かぶ本棚が猛スピードで動き出す。本棚がどこかに消えたり、本が飛び出して別の本棚に移動したりという風に、本が次々に消えていく。

 検索という言葉の通り、きりたんが示したキーワードに当てはまる本が残るようになっている。そうして、きりたんは事件解決に繋がる情報を手に入れるのだ。

 きりたんの前には、何十冊という本が残った。目の前にある本を手に取って見てみるが、そこに書かれている内容は、既知の物しか無かった。

 

「……やはり、このキーワードではまだ足りませんか。事件の詳細までは載っていない」

 

 きりたんは本を閉じると、ため息を吐く。目を閉じて、しばらく無言で考える。

 やがて、目を開くと意を決したように前を向く。

 

「今までは無意識に避けていましたが、仕方ありません。キーワードを追加。――東北外道」

 

 きりたんがそう呟くと、残っていた本棚が全て動き出し、本の数が減っていく。

 そうして残ったのは、一冊の本。その表紙に書かれているタイトルは『東北外道』だった。

 その本は他の本と比べても、かなり分厚い物になっていた。

 

「この大きさ、あの人の悪行が全て載っているとはいえ、相当な物ですね。腐っても只者ではないということですか」

 

 きりたんは冷や汗を掻き、苦笑を浮かべながら本を手に取る。

 そして深呼吸をしてから、本を開いて読み始める。

 その本に書かれていたのは、東北外道の一生における悪行の数々だった。

 病弱な自分を治すために、古代の遺跡や文明を研究していたこと。

 その過程で、東北藍と出会い、その心を射止めてまんまと彼女の家に入り込んだこと。

 妻や子供達、その他にも大勢の人間を利用し、ガイアメモリを生み出し、人体実験で人々を殺してきたこと。

 末っ子の娘、東北記理子を殺し、データ人間として再生した上で、散々に利用してきたことーー

 

「……ッ!!」

 

 そこまで読んだ時点で、きりたんは反射的に本を閉じてしまう。

 息を荒げ、冷や汗をかきながら、きりたんは椅子に座り込む。

 

「きりたん、大丈夫ですか?」

 

 ふと、声が聞こえてきてそちらに振り向く。 

 事務所に繋がる扉を開けて、結月ゆかりがそこに立っていた。

 ゆかりは心配そうに眉を寄せて、きりたんの元に歩み寄ってきた。

 

「随分苦しそうですね、何があったんですか?」

「ゆかりさん……いえ、東北外道の本を読もうとしたんですが、私が殺された部分を読んだ時に、反射的に閉じてしまいました」

「それは……当然のことじゃないですか。誰だって自分の死んだ時のことなんて、まともに読めませんよ」

「だとしても、私は読むべきなんです。あの男の全てを。私がやり残したことですから」

 

 そう言って、椅子から立ち上がるきりたん。本を手に取り、もう一度地球の本棚に入ろうとする。

 だが、ゆかりがその肩に手を置き、制止する。

 

「きりたん、そんなに思い詰めないでください。東北外道の所業は、彼個人の行いです。あなたが悪いわけじゃない。気に病むなとは言えませんが、一人で苦しむようなことはやめてください」

「ゆかりさん、でもーー」

 

 きりたんは反論しようとするが、すぐに思いとどまり、口をつぐんだ。

 

「ーーいえ、ゆかりさんの言う通りですね。確かに私一人が抱え込むことではありませんでした。ちょっと冷静さを失っていました」

「それも仕方ないでしょう。あの時倒したと思った相手が、今になって蘇ってきたのだから。私だって動揺してますよ」

 

 ゆかりがそう言って笑うと、釣られてきりたんも笑う。

 先程までの重い雰囲気が薄らぎ、普段のきりたんに戻ったようだ。

 ゆかりはきりたんの側まで歩くと、その頭を胸に抱き寄せた。

 

「大丈夫、私もあかりも、ついなさんやリリィもいます。それに他の皆さんもね。何があっても、きりたんを助けてくれる人達は必ずいますから。決して一人で考え込まないでくださいね」

「ーーありがとうございます、ゆかりさん」

 

 きりたんは胸に頭を預けたまま、目を閉じる。

 心が落ち着くまでの間、相棒に身を委ね続けた。

 

 ★

 

 数時間後。

 きりたん達は廃工場の前に集まっていた。

 きりたん、ついな、リリィ、西友、キク、ミリアルの探偵事務所組。

 早苗、文香、ダイヤ、レイの獄王組。

 そして染谷色希がその場に集う。

 彼らの顔には、皆一様に緊張が走っていた。

 

「皆さん、準備はいいですか。東北外道はまだここに居ます。必ずあの男を倒す、そのためにも力を貸してください」

 

 皆の前に立ち、きりたんがそう問いかける。

 それを聞いて、早苗が口を開いた。

 

「それはもちろん。でも、ゆかりは置いてきて良かったの?」

「ゆかりさんはまだ完治してません。無理に戦わせるのは良くないと判断しました。あかりさんが様子を見てくれていますから、大丈夫です」

「それはそうだけど、ゆかり無しで戦えるの?」

「そこもご心配なく。私にも手はありますから」

 

 微笑を浮かべてそう言うきりたん、早苗は何も言えなくなった。

 そのタイミングで、色希が口を開く。

 

「みんな、そろそろ行こう。敵が動きを見せない内に、侵入してしまった方が良い」

「そうですね、では、行きましょう」

 

 きりたんの言葉に合わせて、全員が廃工場に侵入していく。

 その様子を、離れたところから一匹の蟲が覗いていた。

 

 ★

 

 東北外道は夢を見ていた。

 それは過去の記憶。自らが妖怪に成ったあの日のこと。

 仮面ライダーに敗れ、東北至子の肉体から追い出されたことで、力無き霊魂と成り果ててしまった。このままでは簡単に消滅してしまうだろう。

 

「クソッ、クソッ、クソッ! 何故俺がこんな目にあわなければならない! 俺はただ生きたかっただけだと言うのに、それすら許されないのか!」

 

 最早肉体の感覚すら失われても、なんとか生き延びようともがく外道。

 生きたい、死にたくないという衝動のために悪事を働いてきた。その報いを受けてもなお、己が被害者だとわめく姿は、最早滑稽と言えるものであった。

 だが、そんな外道に対し、救いの手を差し伸べる者がいた。

 

「なるほど。人間にしては、上質な魂だな。わざわざこのような辺鄙(へんぴ)な街まで来た甲斐はある」

 

 外道の側に現れたのは、藍色のシンプルな和服を着た青年だった。

 腰まで届く白髪を伸ばした顔は、端正に整っている。だが、そこに表情は無く、鋭い冷たさを感じさせた。

 

「お前は、誰だ?」

「我が名は酒呑童子(しゅてんどうじ)。《妖怪》共を束ねる者だ。貴様に話があってここまで来た」

「妖怪、だと? まさか、実在していたのか……!?」

 

 霊魂の状態でありながら、外道は驚きの様子を見せた。

 酒呑童子はそれを無視しながら、懐から一本のアヤカシバレットを取り出した。

 それには、無数の妖怪達が描かれており、禍々しい雰囲気を漂わせていた。

 

「かつて、数多の付喪神(つくもがみ)達が集まり、一体の強力な妖怪に成ろうとした。だが有象無象とはいえ、数百を超える魂が寄り集まるのは無理があったようだ。全ての魂は消滅し、残ったのはただの巨大な力の塊だけだった」

「一体何の話だ!」

 

 落ち着いた口調で語る酒呑童子に対し、苛立ちながら叫ぶ外道。

 

「簡単な話だ、この力を貴様に与えてやる。上手く行けば貴様は妖怪になれる。そうなれば、少なくとも死ぬことはなくなるだろう」

「なんだと!? ならばさっさとそれを寄越せ!」

「必死だな、まあそれも当然か。良いだろう、ただし貴様の人としての意思が残るかどうかは知らぬがな」

 

 そう言うと、酒呑童子はアヤカシバレットのボタンを押し込むと、外道の霊魂へと突き刺した。

 アヤカシバレットが取り込まれると、赤黒い光が霊魂を包み込む。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!? な、なんだこれはぁ!?」

「さて、貴様は妖怪となれるか、ただの屑として終わるのか。見せてもらおうか」

 

 静かに見守る酒呑童子。

 その目前で、外道の様子が変化していく。

 霊魂が空中に浮かび上がると、それを中心に肉体が構成されていく。

 三メートルを超える巨体に、様々な妖怪の意匠が刻まれていく。それはまさしく、数多の付喪神が融合した姿であった。

 

「ぐうっ……ああっ! この姿は……!」

 

 野太くなった声をあげて、外道は自身の姿を見下ろす。

 その様子を見て、酒呑童子は満足げに頷いた。

 

「どうやら適応したようだな。それこそが数多の付喪神の頂点に立つ付喪神の王――『塵塚怪王』だ」

「塵塚……怪王……!」

 

 自身の身体にみなぎる力を実感して、外道――塵塚怪王は喜びの声をあげる。

 人間の頃よりも、ドーパントとなっていた時よりも、全身に力が溢れてくる。もう病気で死ぬことも、誰かに殺されることも無いと確信できる。この力さえあれば、世界すら支配できるだろうと迷うことなく言えた。

 

「ん?」

 

 そんなことを考えていると、この場に近付いてくる者の気配を感じた。妖怪となったことで、感覚も人間を超えているのだ。

 塵塚怪王が振り向くと、バイクに乗った男がこの場に駆けつけた。男はバイクを止めると、ヘルメットを取ってバイクから降りた。

 その男は、黒髪に黒い瞳で、整った顔立ちをしていた。男は塵塚怪王とその足元にいる酒呑童子に目を向けて、険しい表情を浮かべた。

 男の名は、桜井カズキ。水都から程近い街で暮らす青年だった。

 

「酒呑童子……! 一体何をしているんだ!」

「やはり来たか。貴様ならここまで来るだろうと思っていた」

 

 強い敵意を向けられても、酒呑童子は涼しい顔で受け流す。

 その様子を見て、塵塚怪王は酒呑童子に尋ねる。

 

「誰だ、こいつは」

「仮面ライダー獄王。我ら妖怪に仇なす厄介者。要するに敵だ」

 

 その言葉を聞いて、塵塚怪王はニヤリと笑う。

 

「なるほど、仮面ライダーか。ならば俺の力を試す実験体になってもらおうか」

 

 そう言って前に踏み出す塵塚怪王。対するカズキは、懐から赤黒いバックル――ゴクオードライバーを取り出した。

 

「ふざけるな……! ここでお前達を倒す!」

 

 カズキはドライバーを装着し、アヤカシバレットを装填し、獄王へと変身する。

 ヘルソードを抜いて構えると、塵塚怪王へと向かって走り出した。

 

「この塵塚怪王の力、試させてもらうぞ!」

 

 塵塚怪王がそう叫ぶと、右腕が激しくうごめきだす。

 右腕を構成していた付喪神の姿が変わり、巨大な爪が生まれる。塵塚怪王はその爪を大きく振りかぶり、獄王に向かって振り下ろした。

 

「死ねぇ!」

「うおっ!?」

 

 獄王は足を止めて、その場から大きくジャンプする。爪はつま先をかすめながら、地面に突き刺さる。

 だが、塵塚怪王はニヤリと笑うと、左腕を獄王に向かって突き出す。

 すると、左腕が大きな砲門のように変形し、そこからビームが放たれた。

 空中で身動きが取れない獄王は、そのビームに飲み込まれて吹き飛ばされる。

 

「ぐわぁ!!」

 

 壁に叩きつけられて、地面に倒れる獄王。全身がダメージを受けて、火花を散らしている。

 塵塚怪王は自らの身体を見ると、その力に満足げに頷く。

 

「フハハハ! 素晴らしい力だ! ガイアメモリの、ナインテイルの比ではない!」

「当然だ。人間の作った玩具などと一緒にされては困る」

「感謝するぞ、酒呑童子。おかげで俺は無敵の存在になれた!」

 

 高らかに笑い、そう叫ぶ塵塚怪王。その様子を酒呑は変わらず冷めた目で見ていた。

 そんな彼らの前で、刀を支えに獄王が立ち上がる。

 

「……とんでもない力だな。でも、お前の好きなようにはさせない……!」

 

 決意をみなぎらせながら、獄王は塵塚怪王に向かって走ろうとする。

 だが、その前に背後から飛んできた攻撃が、獄王の身体を撃ち抜いた。それは、三色の色鮮やかなエネルギーだった。

 

「ガハッ……!?」

 

 流石に背後からの攻撃にはなす術なく、獄王は再び地面に倒れる。更に変身も解除されて、生身に戻ってしまった。

 塵塚怪王と酒呑童子は、攻撃の飛んできた方向に目を向ける。そこに立っていたのは、見知らぬ三人組だった。

 

「これは失礼、我々も話に入れさせてもらいたくてね。邪魔者を攻撃してしまった」

「ですがこれで、私達が敵ではないということは分かっていただけましたわよね?」

「そういうわけだから……よろしく」

 

 そう言う三人組は、非常に特徴的な恰好をしていた。

 一人目は、不死鳥と黄金騎士を混ぜたような姿をした黄金の怪人。

 二人目は、龍と白銀の姫騎士が混ざり合った姿をした銀色の怪人。

 三人目は、神狼と茶銅色の女戦士が混ぜこぜになった姿をした銅色のような怪人。

 三人は横並びの形になると、それぞれがポーズを取った。

 

「《煌めきの金》フェニックス・ゴールディー!」

「《輝きの銀》ドラゴン・シルエス、ですわ」

「《眩き銅》フェンリル・ロズヴィー……」

『我ら、歪色衆(ネガラーズ)!』

 

 名乗りとポーズを決める三人の怪人。

 その様に塵塚怪王と酒呑童子は、呆気に取られていた。

 

「……なんだコイツらは。訳が分からんぞ」

「さあな、道化の集まりと言ったところか」

 

 呆れて呟く二人を前にして、黄金の怪人――ゴールディーが一歩前に踏み出し、口を開く。

 

「これは失礼、我々にとって大切な儀式のようなものでね」

「そうか、目障りだな。ここで死ぬか?」

 

 塵塚怪王が右腕を突き出して、エネルギーを溜めようとする。

 それを片手で制したのは、酒呑童子だった。

 

「待て、貴様らの目的は何だ? 我らの味方のつもりか?」

「その通りだとも。君達に協力するために来たのさ、酒呑童子、東北外道」

 

 ゴールディーがそう言うと、シルエスとロズヴィーが前に進み出る。

 そして、地面に倒れていたカズキの両腕を掴むと、むりやり上半身を立たせてゴールディーの方へと向けた。

 

「ぐうっ……!? 何をするつもりだ……!」

 

 身体を動かせない状態でも、相手のことを睨みつけるカズキ。

 その顔を見ながら、ゴールディーは不敵な笑みを浮かべる。

 

「その表情、実に良いな。我々の求める良い芸術が生まれそうだ」

 

 そう言うと、ゴールディーは一本のペン型のアイテムを取り出した。

 無数の黒い飛蝗(バッタ)が描かれた黒いペン――リライントペン。ゴールディーはそれのスイッチを押して、起動させる。

 

Locust(ローカスト)!》

 

「君にはこのペンが似合いそうだ。新たなネガラーが生まれるのか、それとも――。早速試してみるとしよう」

「くっ、やめろ!」

 

 必死に抵抗しようとするも、傷だらけの身体で怪人の力に抗うことはできない。そのままカズキの胸に、ローカストリライントペンが突き立てられる。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 カズキの全身が、どす黒いエネルギーに包まれる。それはカズキの身体を一分の隙もなく、埋め尽くしていく。

 苦しみもがくカズキを見ながら、ゴールディー達は満足そうにしていた。

 

「これは良い、素晴らしい芸術が生まれるぞ!」

「ええ、実に見応えがありそうですわ」

「凄い勢い……」

 

 やがて、力の奔流が収まり、カズキの動きが止まる。

 ゆっくりと立ち上がると、その場で無言で立ち尽くす。その瞳には漆黒の色が宿り、正気ではないことが伺えた。

 その様を見たゴールディーは、両腕を広げて歓喜の声をあげる。

 

「素晴らしい! ネガラーになるのではなく、人のまま闇に染まる! こんなことは珍しい、貴重な芸術だ。これも仮面ライダーであることが関係しているのかな? いやはや、実に素晴らしい。良いものを見せてもらったよ!」

 

 ひとしきり一人で盛り上がるゴールディー。

 やがて、酒呑童子と塵塚怪王の方へ視線を向けると、彼らに語りかける。

 

「彼のことは君達にプレゼントしよう。我々のお近付きの印としてね。これで我々が敵ではないということが分かってくれただろう?」

「――なるほど、獄王の魂を闇に染め上げたか。これでそいつは、貴様らや我らの言いなりの人形、ということか」

「理解が早くて助かるよ。正義の権化のような戦士が、悪へと染め上げられる。これほど美しい芸術もそう無いだろう。ぜひ有効活用してくれたまえ」

 

 そう言うと、ゴールディーはカズキを二人の前に差し出した。

 その様を見て、塵塚怪王は大きな声で笑い出した。

 

「ククッ、フハハハッ! これは良い! 俺を苦しめた仮面ライダー、その同族がこうして俺のモノになった! こんなに都合の良い話があるとはな!」

 

 人ならざる巨体から発せられる笑い声は、空気を震わせ地面を揺らす。その場にいる者達はそれを受けても平然としている。

 

「ここからだ、俺の復讐はここから始まる! 待っていろ、仮面ライダー!」

 

 塵塚怪王は己の内から溢れる憎しみに身を任せ、そう叫ぶのだった。

 

 ★

 

 廃工場の中、その一室で東北外道は目を覚ます。

 妖怪となった身であっても、睡眠は必要であった。むしろ人間としての部分が多く残っている以上、どうしても人間の特性に引っ張られるらしい。

 だが、外道にとってはそれも喜びであった。人である時は眠っている内に死ぬのではないかと怯えたこともあった。今ではそんなふざけた恐怖を味わうこともない。これが喜びでなくてなんだと言うのか。

 そんな風に考えていると、部屋に入ってくる者がいた。

 それは顔面に大きな傷痕が残る、酷薄な雰囲気を纏った大柄の男だった。

 男は外道の元まで近付くと、その荒々しい口を開いた。

 

「東北の旦那、どうやら侵入者が来たみたいだぜ」

「ほう、来たか」

 

 男の言葉を聞くと、外道は空中に手をかざす。

 すると、空間が歪み映像が流れ出す。使い魔の虫を通じて、離れた場所の映像を映しているのだ。

 その中では、きりたん達が廃工場の中に入る姿が映されていた。

 

「ふん、やはり予想通りだったな。仲間を助けるためなら、罠の中でも飛び込む。実にくだらん博愛精神だ」

「で? あいつらを殺れば良いんだな?」

 

 ほくそ笑む外道の隣で、男が好戦的な笑みを浮かべる。

 

「ああ、まずは奴らを分断する。その後は半分をお前に任せる。好きなように暴れろ、ヴィクトール・メジャー」

 

 そう言われて男――ヴィクトール・メジャーは拳を鳴らして答えた。

 

「任せとけ、全員ぶっ殺してやるからよ」

 

 ★

 

 一方その頃、きりたん達は廃工場の中に侵入していた。以前来た時と変わらず、寂れた内部には誰もいなかった。

 

「東北外道はいませんね。おそらく奥の方でしょうか」

 

 きりたんがそう呟くと、ついなとリリィも答える。

 

「せやろな、さっさと引きずりだして」

「今度こそ地獄に送ってやるとするか」

 

 その言葉を聞いて、ダイヤも反応する。

 

「おっ、良いね。それくらいはしてやらないと気が済まねえってもんだ。なあ?」

 

 そう言ってダイヤが視線を向けると、色希も言葉を返す。

 

「そこまで過激にするつもりはないけど、できることはやるつもりだよ」

 

 そうして話し合いながら、きりたん達は奥へと進んでいく。

 中央まで進んだ瞬間、異変が起こる。

 きりたん達が歩いている地面、そこに突如巨大な鏡が現れた。

 

『ッ!?』

 

 突然のことに全員が一瞬困惑する。

 だがすぐに動ける者が動き出す。

 

「レイ!」

「はい!」

 

 ダイヤとレイは、咄嗟に近くにいた早苗と文香を突き飛ばし、鏡の外へと押し出した。

 

「くっ!」

「おわっ!?」

 

 色希もすぐに隣にいたきりたんを抱えて、鏡の外へと飛び出す。

 他の者も対処しようとするが、それより先に鏡から触手のようなものが現れる。

 それはダイヤ達の足に絡みつき、鏡の中へと引きずりこむ。

 

「くそっ!」

「きゃあ!?」

「マジか!」

「うおっ!」

 

 ダイヤ、レイ、ついな、リリィが鏡の中に飲み込まれる。更に続いて触手はミリアル達にも襲いかかる。

 

「うっ!?」

「なんですかこれ!?」

「リリィ様!」

 

 ミリアル、キク、西友も触手に連れ去られ、鏡の中へと消えてしまう。

 

「ダイヤ!」

「レイちゃん!」

「みなさん!」

 

 早苗達の叫びも届かぬまま、鏡は現れた時と同じように消えてしまう。

 突然のことに驚きながらも、きりたんは冷静に状況を分析しようとする。

 

「さっきの鏡、まさか塵塚怪王の――」

「その通りだ」

 

 その声がして振り返ると、そこには東北外道が立っていた。

 目論見が上手くいったことを喜ぶように、底意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「雲外鏡という付喪神には、空間を繋げる力があってね。それのちょっとした応用だ。全員をまとめて相手するのは面倒なんでな。分断させてもらった」

「分断、ですか。私達の力を恐れているということですか、東北外道?」

「なんだ記理子、もうお父さんとは呼ばないのか?」

「――ッ!」

 

 前に出ようとするきりたん、それを片手で制したのは色希だった。

 色希は冷静な口調で、外道へと対峙する。

 

「貴方の目的は彼女達への復讐と聞いたよ。自らの行いを顧みず、逆恨みで悪行を重ねていくのは、あまり美しいとは言えないね」

「ふん、知ったことか。俺はただ俺の欲求のために生きている。そのために他の奴らが苦しもうが、のたれ死のうがどうでもいいことだ」

「そうかい、ならば貴方はボクが倒すべき存在だ」

 

 そう言って、色希はペンスタンドに似た形をしたバックル――カラーズドライバーを取り出し、腰に装着する。

 それを見たきりたんも、上着を脱ぎ捨ててその腰に巻かれたダブルドライバーを顕にする。

 対して外道は、邪悪な笑みを浮かべたままで。

 

「ふん、俺と戦う前に、こいつの相手をしてもらわないとな?」

 

 外道がそう言うと、操られた状態のカズキが姿を現す。

 カズキはゴクオードライバーを装着すると、静かに呟く。

 

「――変身」

 

《ゴクオー・アッキラセツ!》

 

 獄王・悪鬼羅刹バレットに変身したカズキ。

 その姿に早苗は再び心を痛める。

 

「カズキ……」

「早苗ちゃん……気をしっかり保って」

 

 早苗と文香のやり取りを背に受けて、きりたんと色希は真剣な表情で獄王へと向き直る。

 

「行きますよ、ゆかりさん」

『ええ、いつでも行けます!』

「来なさい、ファング!」

 

 きりたんが叫ぶと、白銀のボディを持った小さな恐竜型メカがどこからともなく現れる。

 それは地面を全速力で駆け巡ると、きりたんの手のひらの上に収まる。

 これこそがダブル第七のメモリにして、牙の記憶を宿した【ファングメモリ】である。

 きりたんはファングメモリを変形させ、メモリ部分を露出、ボタンを押した。

 

《ファング!》

《ジョーカー!》

 

 それと同時に、探偵事務所にいるゆかりがジョーカーメモリを起動する。

 一方の色希も、懐から取り出したペン型のアイテム――ホワイトリライントペンを起動する。

 

《WHITE!》

 

「始まり。全てはここから……万能の白」

 

《CHOICE the COLOR?》

 

 左手に握るそれを、ドライバーの左スロットに装填、待機音声が鳴り響く中、左手を右斜め前に突き出し、Cの文字を描くようにゆっくりと回して、ドライバーに添える。

 

「「「変身!」」」

 

《ファングジョーカー!》

《CHANGE! COLORS of WHITE!》

 

 三人が同時に叫ぶ、ゆかりが装填したジョーカーメモリがきりたんの元に届くと、続いてファングメモリが装填、ドライバーを開くと同時にさらにメモリを倒す。

 きりたんの身体が風に包まれると、その姿が白と黒のツートンに彩られたダブルへと姿が変わる。

 これこそがきりたんの身体で変身する、ダブルのもう一つの姿、ファングジョーカーである。

 その隣で色希もリライントペンのボタンを押し込む。

 カラーズドライバーの液晶が白い光を灯し、何処からともなく現れたペンキブラシめいた物体と筆ペンめいた物体が、白いインク状のエネルギーを色希の全身へ塗りたくる様に動き、虹色に輝くインク状のエネルギーでラインを引いていく。

 やがて、純白のアンダースーツと装甲・装飾、全身を余す事無く走る虹色のライン、絵具筆の筆先を模した先端が虹色に染まった頭部、同じく絵具筆の筆先を模した虹色に輝く複眼が現れる。

 これこそが仮面ライダーカラーズ、歪んだ芸術を打ち破るために戦う、仮面ライダーである。

 

「さて、行きますよ。ゆかりさん、染谷色希」

『ええ、全力で行きましょう』

「もちろん、ボクも精一杯やらせてもらうよ」

 

 ダブルとカラーズが構えると、獄王もヘルソードを引き抜いて構える。

 しばし互いに睨み合うが、やがて両者共に走り出す。

 お互いの攻撃がぶつかり合い、激しい火花が散るのだった。

 

 ★

 

 廃工場の裏側、空中に巨大な鏡が現れると、そこからダイヤ達が叩き落とされる。

 むりやり地面に叩き付けられるも、幸い大きなダメージは受けることがなかった。

 

「くそっ、どこだここ?」

「どうやら廃工場の裏側、しかも外に追い出されたみたいですね」

 

 痛みにうめきながら立ち上がると、ダイヤとレイは周囲を見回す。

 他のメンツも立ち上がり、状況を確認している。

 そうしていると、廃工場の中から一人の男が現れる。

 

「俺の相手はお前らか。さっさとぶっ殺してやるとするかね」

「あん? 誰だテメェ」

「俺はヴィクトール・メジャー。東北の旦那に雇われた元傭兵だ。お前ら全員ぶっ殺せと言われててね。大人しく死んでくれると楽なんだが」

 

 男――ヴィクトールの言い分に、ダイヤ達は軽い怒りを覚える。

 

「随分舐めたことを言う野郎だ、やれるもんならやってみろ」

「貴様、リリィ様に指一本でも触れてみろ、八つ裂きにしてやるぞ!」

 

 リリィと西友がそう言うと、ヴィクトールは余裕の笑みを浮かべる。

 そしてポケットから一本のガイアメモリを取り出した。

 

「俺を舐めるのは辞めた方が良いぞ? 戦場の【猟犬】と呼ばれた男だからな」

 

《ハウンド!》

 

 ヴィクトールはハウンドメモリを起動、両腕を大きく回した後、左手の手のひらにメモリを突き刺す。

 すると、メモリが体内に飲み込まれヴィクトールの姿が変わる。

 黒い毛皮に覆われ、人型の猟犬というべき姿。それはまるで人狼を思わせる姿であった。

 大きく裂けた口を獰猛に歪めて、ヴィクトールが変身したハウンド・ドーパントは雄叫びをあげる。

 

「あれが噂のドーパントってやつか。中々楽しめそうだぜ」

「そうやって調子に乗ってると足元すくわれるで。まあ、さっさと片付けたいのは同感やけどな」

「アイツを倒して早く東北外道をぶん殴りに行くぞ!」

 

 そう言うと、ダイヤ達もそれぞれの変身アイテムを取り出す。

 それぞれのアイテムを操作すると、変身の準備が整っていく。

 

「「「変身!」」」

 

《クルセイド・ウリエル!》

《アクセル!》

《ゴールデンパイレーツ!》

 

 それぞれのライダーに変身すると、各々が武器を構えてハウンドへ突撃する。

 対するハウンドは、姿勢を低くし、四つ足になって構える。

 

「ククク、さあ来い!」

「「「うおおおおおっ!」」」

 

 三人ライダーと猟犬、もう一つの戦いもここで幕を開けるのだった。

 




 どうも、アカミツです。
 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

 前回から半年以上の時間が経ってしまいました。
 いろんな事情があったとはいえ、結局は自分の怠慢が原因だと思います。
 今年はもっと精力的に活動したいと思います。
 
 内容としては、いよいよライダー陣営と外道陣営が本格的に戦うことになります。
 ようやく色々話を動かせそうで、やり甲斐があるかなと思うので、上手いことやっていきたいですね。

 それでは今回はこの辺で。
 次回もお楽しみに。
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